2017-03

本年の動向10―売買春に関する議論と行動

2005年12月 流氓燕、流氓燕妓女維権熱綫(権利擁護電話相談。06.1~紅塵熱綫)開始。
2006年1月 周瑞金「両会代表も地下性産業について語ってみたら?」が東方網(ネット)に掲載。
3月 全国人民代表大会で遅夙生弁護士が売買春合法化の提案を試みるも、黒竜江代表団の会議を通らず。
5月 李扁、猥褻物品罪と売買春処罰条項について全人代常務委員会に違憲審査を要求。
6月 流氓燕、サイト「紅塵網」設立。
11月 深圳市警察が売春女性を引き回し→翌月にかけて批判おこる。


 売買春については、従来から李銀河さんなどが非犯罪化を唱えてきました。
 李さんは、多くのセックスワーカーが犯罪の犠牲になっていることを述べ、その背景には、彼女たちは危険な目にあっても警察に助けを求めることができないことがあることを指摘して、セックスワークの非犯罪化を提唱します。
 李さんはまた、売買春は彼女たちに打撃を与えるという方法によってはなくすことはできず、職業訓練や学校こそが必要だとも言います(1)

 今年はとくに、売買春(ないしセックスワーク)に関する議論や活動が多い年だったように思います。
 すでにサイト「China Super City」に、「売春の合法化論争」という題で日本語である程度まとめられていますが、それとの重複をできるだけ避けつつ、私も少し紹介したいと思います。

 まず今年1月、政治ジャーナリストとして有名な周瑞金さんが、「両会(全国人民代表大会と全国政治協商会議)の代表も地下の『性産業』について語ってみたら?」という論文を発表します。
 周さんは、地下の性産業は三つの点(性病の伝染、家庭の破壊、社会的犯罪の増加)で社会に危害を与えているので、性産業の管理規則を作って、政府の公共管理に組み込むことを主張しました。
 周さんは、外国には売春婦の労働組合があることや、セックスワーカーのために活動する人権活動家がいることにも少し触れていますが、全体としては社会防衛的な視点が強い議論と言えます(2)

 周さんの議論に対しては、「歴史を逆行させるものである」「禁止しても蔓延しているからといって、合法化するのはおかしい」という反論も出ます。
 ただ、この反論も、売春している女性の人権という観点よりも、売買春が社会に与える危害の大きさ(公序良俗の破壊、性病、家庭破壊・犯罪の増加)を主張しているという点は同じでした(3)

 3月には、周さんの提案どおり、全国人民代表大会で遅夙生弁護士が売春合法化の提案をしようと試みます。彼女の提案は、黒竜江代表団の会議では採用されなかったので、大会には提出できなかったのですが、社会に反響を呼びます。
 遅さんの提案も、基本的には性病(とくにエイズ)の蔓延を阻止するという観点からのものです。遅さんは、売春している者は、自らが病気であることも知らない場合が多いので、売春を合法化して「性従業者の行為規範」を作って、彼女たちの健康診断をすることなどを主張しています(4)

 それとは別に、2005年12月には流氓燕(葉海燕)さんが、流氓燕妓女維権熱綫(06.1~紅塵熱綫)を始めています。これは、社会の周縁の女性、具体的には売春をしている女性向けの電話相談です。
 流氓燕さんは、この電話相談の趣旨について次のように言います。
 「私たちは旗幟鮮明に女性の売春に反対する。同時に、人権を尊重するという基本原則によって周縁女性を尊重し、周縁女性に関心を寄せるように呼びかける。あらゆる性暴力、または周縁女性を傷つける行為に抗議する。社会の各層が、周縁女性の過去に寛容になり、彼女たちが再び社会に溶け込む機会を与えるように呼びかける」(5)
 流氓燕さんは、2006年6月には、上記と同趣旨のサイト「紅塵網(ネット)」(現在停止中)を設立します。
 流氓燕さんは、この頃には「性産業の合法化」も唱えるようになります。その理由としては、エイズ防止のほか、李銀河さんと同じく、売買春が地下にもぐることによって売春女性の安全が確保できなくなることなどを挙げています(6)

 また5月には若手の性学者の李扁さんが、刑法や治安処罰法にある猥褻物品罪と売買春処罰条項について全人代常務委員会に違憲審査を要求します。
 李さんは、売買春それ自体が醜悪なのではなく、醜悪なのは、売春と関係する抑圧や騙り、強奪、ペテン、暴力なのだと言います。
 その醜悪さとは、具体的には、
 第一に、社会資源の極端な不均衡をはっきりと示していること、とくに中国の膨大な貧困人口の問題。
 第二に、女性が弱者であるために彼女たちに加えられる犯罪、具体的に暴力をふるったり、騙して連れて来てして売春を強制すること。
 第三に、絶対的な権力が絶対的に腐敗することをはっきり示すこと、具体的には警察が職権を利用して、権力者どうしの争いに利用したり、売春女性を虐待したり。
 第四に、公権力を乱用して、罰金を自分の懐に入れることなど。
 李さんは、売買春が違法とされているがゆえに法律執行者の自由裁量権が大きすぎるので、公権力の横暴が起きていることを強調し、売買春の合法化を主張します(7)

 11月には深圳市の警察が売春の取締りの後、「公開処理大会」と称して、検挙した女性の実名や出身地を公表したうえで、市民の前で、いわば「引き回す」という事件が起きました。
 こうした警察の行為に対しては庶民から強い批判が起こりました。『産経新聞』の福島香織記者によると、その背景には、貧しい農村からの出稼ぎに来て、売春せざるをえない彼女たちの境遇への同情があるといいます。また風俗産業の後ろ盾に実は公安当局者がいることへの反発もあるとのことです。上海の姚建国弁護士は、そうした警察の行為を批判する公開の書簡を全国人民代表大会に送りました(8)
 李銀河さんは、この時にも、売春を消滅させるためには、売春の非犯罪化が必要だと述べました。李銀河さんは、(李扁さんも触れていたことですが)売春に対する罰金が関係部門の資金源になっていることも指摘して、やはり売春をなくすには、彼女たちを罰するのではなく、職業教育を受けさせるべきだと主張しています(9)

 売買春をめぐる議論や論争は日本でも数多くあります。私はそれらを十分フォローしていないこともあって、私は中国の議論に関しても、うまく整理ができませんが、とりあえず、中国でもさまざまな議論や行動があることを少し紹介してみました。

(1)「李銀河:応実行売淫非犯罪化 根治対性工作者犯罪」
(2)周瑞金「“両会”代表不妨議議地下“性産業”」
(3)「譲地下“性産業”合法化能実現和諧社会?」
(4)「人大代表提議対性従業者行為規範立法」『法律与生活』2006年4月上半月刊。
(5)流氓燕が設立したサイト「中国民間女権網」(消滅)のトップページより
(6)流氓燕「我再一次旗幟鮮明地支持性産業合法化」(2006年6月4日)。ほかに、流氓燕「我們必須譲妓女合法化」(2006年3月16日)など。
(7)「李扁就“売淫合法化”・“淫穢物品罪”問題提請違憲審査(三) 第二部分 関于“売淫嫖娼”(《治安処罰法》)的違憲審査」(2006年5月22日)。この意見書は、「中国青年性学論壇」の第6期にも、反響を含めて掲載されています。
(8)「売春婦ら100人『市中引き回し』‥庶民反発 中国深圳市」Sankeiweb2006年12月7日「売春女性の引き回しに抗議 弁護士が全人代に書状」(サイト「中国情報局」2006年12月5日)
(9)李銀河「網聊売淫問題」サイト「中国情報局」2006年 12月7日付による日本語訳
関連記事

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://genchi.blog52.fc2.com/tb.php/28-b3f5f374
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

«  | HOME |  »

プロフィール

Author:遠山日出也
 検索から来られた方へ:このブログの記事を分類した一覧である「『中国女性・ジェンダーニュース+』記事総覧」を見ていただくか、下の「カテゴリー」欄を使われると、関連情報がご覧いただきやすいと思います。最近の行動派フェミニストについては、「中国の行動派フェミニスト年表、リンク集」をご覧ください。
 また、「中国女性・ジェンダー関係主要HPリスト」(リンク集)も併せてご覧いただければ幸いです。日本の問題の一部は、「ウィメンズ・アクション・ネットワーク(WAN)の労働争議・まとめ」や「館長雇止め・バックラッシュ裁判」でまとめています。
 恐れ入りますが、スパム対策などのため、コメントは私が拝見した後で表示させていただきます。
 私への連絡はこちらまで

最近の記事

月別アーカイブ

カテゴリー

最近のトラックバック

最近のコメント

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索

リンク

このブログをリンクに追加する

RSSフィード