2017-09

レズビアンのための反DVハンドブック刊行

 2007年9月から始まった「女性同性愛(バイセクシュアル)DV状況調査および反DVハンドブック作成」プロジェクト(本ブログの記事「女性の同性愛者やバイセクシュアルに対するDV調査プロジェクトはじまる」参照)によるハンドブックが、今年7月、刊行されました。

 このたび、そのハンドブックがPDFファイルの形で読めるようになりましたので(同語拉拉反家暴項目手冊編輯小組『家庭暴力知多少 給拉拉的対策建議』)、その一部をご紹介します。

調査結果について

 このハンドブックの序文では、まず、今回の調査結果が簡単に報告されています。北京・上海・鞍山・成都・昆明・南寧・珠海・広州のレズビアン(バイセクシュアルを含む)によるアンケート419部から得られたデータです。

〇父母や親族から暴力をふるわれたことがある……48.2%
 (非常に悪辣な暴力[こん棒で殴られる、尖った筆記用具・刃物で攻撃される、頭を壁や机の角にぶつけられる、首を絞められて窒息させられる、熱湯やタバコの吸殻で火傷させられるなど]の経験がある……12.9%)

〇女の恋人から暴力をふるわれたことがことがある……42.2%
 (非常に悪辣な暴力の経験がある……10%)

〇異性のパートナーまたは夫から暴力をふるわれたことがある……26.99%

刊行の趣旨

 このデータを受けて、序文では、次のように述べられています。

 「実のところ、これらのデータは、調査グループのメンバーの最初の予測をはるかに上回るものだった。私たちは、この調査によって、DVはレズビアンたちが直面する可能性がある非常に重大な問題であることがわかった。そこで私たちは、調査の中で得られた情報とDVの被害者への取材、インターネット上の情報、国外のレズビアンの反DVの資料を結びつけて、このハンドブックを編集・執筆した。このハンドブックは、一方で、DVの概念とレズビアンコミュニティ内外の若干の観念と認識を検討し、もう一方で、レズビアンたちにDVを予防し、DVに対処する参考になる戦術と方法を提供するものである。」

全体の構成

 ハンドブックの構成は以下のとおりです。

序文
1.何がDVか
2.DVが起きる原因
3.DVに関する神話と真実
4.父母や親族による暴力にどう対処するか?
5.親密なパートナーによる暴力にどう対処するか?
6.加害者への話
7.関連する法律・事件例
付録1:私の人身安全計画のメモ
付録2:コミュニティのサポート電話相談の情報
付録3:関係する法律・法規および応用

内容の特色

 このハンドブックには、もちろんDVに関する一般的なハンドブックにも書かれているような内容も書かれていますが、以下のような点では、レズビアンの方々が直面する問題に即したものになっています。

 「1.何がDVか」では、DVの事例として、次の3つが取り上げられていることが特色です。
 一、レズビアンカップルにおける暴力
 二、子どもがレズビアンであることによる、父母による暴力
 三、妻がレズビアンであることによる、夫による暴力

 「2.DVが起きる原因」としては、「1」として、「ある種の権力関係において支配権を奪取するために、DVが発生する」ということを挙げています。この点は一般的なDVの説明と同じあり、レズビアンに対するDVもそうした原因で発生するのだと思います。
 次に、「2」として、このハンドブックも、「伝統的ジェンダー観念が作り上げた二元的な家族において暴力が発生するときの加害者の多数は男性で、被害者は往々にして女性である」ことは認めています。ただ、この点については、「異性愛の規範が主導的な規範である現実の社会環境においては、多くの同性愛者の関係にも、異性愛の規範と文化に対する『潜在意識的』あるいは『無意識的』模倣現象が存在するのかもしれない」というコメントが付けてあります。
 最後に原因の「3」として、「心理的障害、性格的欠陥」も挙げてありますが、この点については「原因の一つにすぎない」というコメントが付してあります。

 「3.DVに関する神話と真実」では、一般的なDV神話のほかに、以下のような同性愛者間のDVについての神話を取り上げて、反論しています。

×「同性愛パートナーのDVは、一般に男女の性の気質が比較的はっきりとしたパートナーに起きる。加害者は一般に比較的男性化していて、強壮で体型が大きく、被害者は一般に比較的女性化していて、柔弱で体型が小さい」
 →パートナーによる暴力は、片方がもう一方に対して権力を行使し、相手を支配・コントロールするためのものである。このようなコントロールの欲望と体格・力との間は絶対的な関連性はない。それゆえレズビアンパートナー間の暴力は「性別の役割」の制限を受けない。

×「異性愛におけるDVと同性愛(バイセクシュアル)の社会集団のDVには何らの違いもない」
 →レズビアンパートナーと異性愛パートナーの暴力的状況の原動力は同じだけれども、同性愛(バイセクシュアル)パートナーのDVは、性的指向に対する差別や社会に普遍的な異性愛主義のために、若干の特殊な要素が加わる。同性愛者は、異性愛者と同じようには公民としての権利を享受できておらず、いささかの社会団体は、同性愛者には援助を提供しないか、非常に友好的でない援助しか提供しない。同性愛者は,援助を求めることによって性的指向を公にされることを恐れているし、警察や反DV団体に不公平な対応をされることも恐れているし、子どもの養育権を失うことも恐れているなどなど。このほか、多くの同性愛者(バイセクシュアル)も、同性愛やバイセクシュアル、トランスジェンダーに嫌悪感や恐怖感を抱く社会認識に同調しており、このことも恥辱感を増加させ、自己保護能力を低下させる。

×「DVは異性関係のほうが同性関係よりもずっと普遍的で、異性愛の女性だけが虐待される」
 →中国や外国の研究によると、同性愛コミュニティのDVの状況は、その頻度においても、重大さにおいても、異性愛コミュニティと明確な差異はなく、若干の数字は、同性愛コミュニティのDVのほうが深刻であることさえ示している。

×「異性愛のDV被害者の女性よりも、レズビアンパートナーのDVの被害者は、加害者から離れたり、助けを求めたりしやすい」
 →異性愛のDV被害者の女性よりも、レズビアンパートナーのDVの被害者は、加害者から離れたり、助けを求めたりするのが難しい。
 中国には非異性愛指向の人に対して援助を与えるリソースは何もなく、現存する反DV団体は同性愛(バイセクシュアル)をテーマにした研修をまだしておらず、有効な援助を与えることができない。多くのレズビアンは、差別されたり、道徳的に批判されたり、信じてもらえなかったり、真に受けてもらえなかったりすることを恐れて、現有の救助団体に助けを求めない。助けを求めることは、彼女たちの性的指向を公にしなければならないことを意味するが、「カミングアウト」はレズビアンにとって人生の大きな決定である。なぜなら、それによって家族や友人、仕事を失うかもしれないからだ。
 また、レズビアンの家族の多くは、彼女たちの性的指向やジェンダーアイデンティティを受け入れることができないため、彼女たちは家族の支援を求めることもできない。

 「4.父母や親族による暴力にどう対処するか?」では、「サポートを提供しうるコミュニティ組織」として、以下の3つの同性愛者の父母の電話相談を紹介していることが特色です。
 (1)大連同性愛父母ホットライン(大連同志父母熱線)……全国初の同性愛者とその父母のための電話相談。「同性愛者の父親」と称される孫徳華さんが大連彩虹工作組の支持の下に開設した(1)。同性愛者の父母がどのように家族関係を処理するかという相談が全体の30%を占める。
 (2)同性愛の親と友人の会ホットライン(同性恋親友会熱線)……全国で初めて公に同性愛者の子供をサポートすることを表明した呉幼堅さんが創設した。この会については、本ブログの記事「『同性愛者の家族と友人の会』がサイト開設」参照。
 (3)広西レズビアンの父母ホットライン(広西拉拉父母熱線)……広西蕾絲聯合社(Guangxi Les Coalition)のMis Sが自分の母親に勧めて開設した。

 「5.親密なパートナーによる暴力にどう対処するか?」では、「付録2」に、「コミュニティのサポート電話相談の情報」として、中国各地の女性同性愛者向けの電話相談15本が掲載されています。

 「6.加害者への話」も書かれていますが、以上の4~6については、一般的なDV被害者(加害者)に対する助言とそれほど変わらないように私には思えました。

 「7.関連する法律・事件例」では、「1.何がDVか」同様に、レズビアンカップルにおける暴力、子どもがレズビアンであることによる父母の暴力、妻がレズビアンであることによる夫の暴力、という三つの事例に即して、その違法性と被害者の対処のしかたが具体的に書いてあります。

付 香港の同性パートナーの暴力行為について調査

 なお、今年6月、香港で、香港中文大学心理学系副教授の麥穎思博士と香港女同盟会(レズビアンをはじめとしたセクシュアル・マイノリティの人権団体)が、同性の親密なパートナーの暴力行為についての研究を発表しました(2)

 この調査は、昨年11月から今年2月にかけて、ネット上のアンケート方式で、かつて同性との間に親密なパートナーシップをきずいていた339人の成人に対しておこなわれました。

 この研究は「アジアで初めての同性の親密なパートナーの暴力的行為の学術研究」と称されていますので、その内容はいずれ学術雑誌に発表されると思いますが、とりあえず、以下の点が発表されています。

 調査対象者は、以下のような被害を受けていた。
 ・身体的虐待:38.9%(鋭利なもので脅された:3.5%、ケガをしたことがある:10.0%)
 ・心理的虐待:74.6%
 ・性的虐待 :23.3%

 被害者が同性愛者であることと関係がある暴力としては、以下のものがあった。
 ・パートナーが、彼女/彼が同性愛者の友人と会うのをじゃました:20.1%
 ・パートナーが、雇い主や家族、その他の人に同性愛者であることを公開すると脅した:4.4%

 ソーシャルワーカーや心理学者などに助けを求めたのは1割未満で、社会福利署・警察・NGOに助けを求めたことがあるのはそれぞれ、0.3%、2.2%、1.6%だけであった。その原因は以下のとおり。
 ・社会には同性の暴力を扱う機構が欠乏している:89.0%
 ・助けを求めても、関係機構は自分の問題に関心を持てないのではないかが心配である:87.7%
 ・問題はそれほど深刻でなく、自分で処理する力がある:85.8%
 ・どの機構が自分を助けてくれるのかわからない:79.2%

 この研究は、2003年に香港政府が香港大学に委託しておこなった配偶者間のDV研究の数値との比較もおこない、「同性の親密なパートナーの暴力の問題は、異性の配偶者と比べて重大だ」という認識を示しています。上述の中国の反DVハンドブックの中に「若干の数字は、同性愛コミュニティのDVのほうが深刻であることさえ示している」というのは、この調査などについて述べているのだと思います。

 ただ、冒頭で挙げた以前の本ブログの記事でも述べた、2006年12月から2007年2月にかけて香港女同盟会がおこなった「同性パートナーDV研究アンケート調査」では、同性パートナーからDVを受けた比率は33%であり(この調査も、精神的虐待もDVに含めており、男性カップルも3割程度含まれています)、かなり数値が異なっています。ですから、配偶者間のDV研究との数値の差は、調査方法などによる差である可能性もあるように思います。

 それはともかく、香港女同盟会は、今回の調査結果をもとに、以下のような要望を出しています。
 1.政府は必ずただちに支出を増やして、同性パートナーのDV被害者に対するシェルターおよび電話相談サービスの支援を拡大し、また、同性愛コミュニティにおいてDV認識のための公衆教育をしなければならない。
 2.第一線のソーシャルワーカー、指導員、警官に、同性愛者にフレンドリィな意識を向上させるさービスを提供し、彼らに同性パートナーのDVの状況をいっそう理解させること。
 3.支出を増やして、第一線の同性愛者団体に試験的な「コミュニティ予防」活動をさせ、DVを早めに予防させること。

 香港女同盟会自身も、DV防止団体である「和諧之家」と協力して、第一線のソーシャルワーカーが早く同性のDVの問題をよりきちんと扱えるように研修などをおこなうそうです。

 私は、中国本土でも、同性愛者・LGBTの団体とDV防止団体や行政との連携が必要なことは同じだと思います。今回のプロジェクトなどがきっかけになって、そうした方向への前進が生まれると良いと思います。

[追記]
 日本にも、レズビアンカップルにおけるDVに関しては、「デルタVプロジェクト」の取り組みがネットに掲載されています。

(1)孫徳華さんは、最初、息子が同性愛者だと知った時は、刀で息子を殺そうとまでしました。けれど、さまざまな人に教えられたり、本を読んだりして、理解を深め、大連彩虹工作組のボランティアを熱心にするようになりました。孫さんは、他の同性愛者の父母とも交流をしたり、父母に援助をしたりし、2005年9月1日には、大連同性愛者父母ホットラインを開設しました(「国内首条同志父母熱線在大連開通」淡藍網2005-9-8)。大連彩虹工作組は、1999年に設立された、エイズ防止のための、ハイリスクグループの健康を目的としたグループですが、差別の解消などにも意を払っています(「中国・大連彩虹工作組簡介」、「大連彩虹工作組大事記1999-2007.05」、「同(2)」、「同(3)」いずれも両性文化網)。
(2)中文大學心理學系公布香港同性親密伴侶暴力行為研究 本港近四成同性伴侶曾受身體虐待」(2009年6月16日)香港中文大学HP、「修訂家庭暴力條例 保障同性同居伴侶(「香港女同盟會及香港中文大學心理學系 香港同性親密伴侶暴力行為研究」など)」(2009年6月17日)香港女同盟会HP、「調查:五成同性戀伴侶受暴力」明報通識網2009年6月17日。
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