2017-04

インターネット上の性科学の情報を統制する規則

 6月23日、中国の衛生部は「インターネット医療保健情報サービス管理規則[互聯網医療保健信息服務管理辨法(衛生部令第66号)]」を公布し、7月1日から施行しました。

 その内容は、簡単に言えば、インターネット上では、「性科学の研究内容を含む医療保健情報サービスは、医療衛生機構しかおこなってはならない」、「医療保健サイトは、性科学の研究内容を専門家以外に公開してはならない」というものです。

国内外での反発

 ウォールストリートジャーナルやロイターは、性情報を統制する措置だとして、すぐさま記事にしました(1)

 中国国内でも、インターネット上で、次のような反発の声が上がりました。

 喬志峰さんは「長い間、性の知識は中国ではひた隠しに隠されてきた。今日に至るまで、一般庶民が性の知識を学ぶルートは非常に限られており、インターネットの出現が多少足りない点を補ったのに、現在なぜこのルートさえ完全に封殺しなければならないのか? とうに21世紀になったというのに、まだ性学(セクソロジー)を洪水や猛獣(危険思想)のように見なして、あらゆる手段を使って性学を普通の民衆と隔離しようとするのは、一種の後退ではないのか?」と述べました(2)

 黄振迪さんは「衛生部はなぜ文化大革命の時期のような禁欲主義の旗印を掲げるのか」と批判しました(3)

 以下では、「管理規則」の条文に即して、『華人性健康報』(世界華人性学家協会など)などに掲載された専門家による批判を見てみます。

性科学は医学だけか?

 第2条:この規則で言う「医療保健情報サービス」とは、医療衛生機構のサイトや予防保健知識のサイト、または総合サイトに予防保健チャンネルを設立することによって、ユーザーに医療保健情報を提供するサービスの活動を指す。

 第5条:インターネットで医療保健情報サービスの提供を申請するには、下記の条件を具備していなければならない。
 (1)主宰単位は、法律にもとづいて設置された医療衛生機構、予防保健業務に従事する企業・事業体の単位、またはその他の社会組織とする。

 (3)(……)性知識の宣伝を提供するには、1名の、副高級以上の衛生専門技術職務に就く資格がある医師がいなければならない。

 第6条:インターネットで性心理・性倫理・性医学・性治療など性科学の研究内容を含む医療保健情報サービスの提供を申請するには、第5条の規定のほかに、下記の条件を備えていなければならない。
 (1)主宰単位は、必ず医療衛生機構でなければならない。


 張敬婕さん(中国メディア大学メディアと女性研究センター)は、上の5条と6条について、第一に、「『管理規則』が規定している資質を有していない機構・個人は、たとえこれまでインターネットで良い医療保健情報を提供してきていても、継続して運営する資格を剥奪される」、第二に、「インターネットで医療保健情報サービスを提供する根本的な趣旨から言うと、その目的は、インターネットのデジタル化やマルチメディア性、リアルタイム性、相互性などの優位性を利用することにある」が、「管理規則」のようなやり方では、「情報の量、種類、階層性などが、みな損なわれるかもしれない」と批判しています(5)

 また、明さん(東西方性学研究所[Institute of Oriental-Western Human Sexuality]所長、世界華人性学家協会副会長)は、こうした条文について、「性学(性科学)を医学の範疇に帰属させる」ものだと批判しています。さんは、「性学研究は、すでに性生理学、性医学、性心理学、性社会学、性人類学、性法学、性教育などの学問分野を形成している。だから、性医学は、性学研究の一部にすぎないのであり、性学は、医学の範疇には属しない」と述べ、「中国の3人の著名な性社会学者である劉達臨・潘綏銘李銀河は、みな医学のバックグラウンドをもっておらず、もちろん医者でもない」と指摘しています(4)

性科学の研究内容は、専門家にしか公開してはならない?

 15条:性科学研究をおこなう医療保健サイトは、関係する臨床および科学研究に従事する専門家にしか公開してはならない。(……)総合サイトの予防保健のたぐいのチャンネルは、性科学の研究内容のサービスを展開してはならない。

 明さんは次のように批判します。「2002年5月、WHOと世界性学会は『セクシュアル・ヘルス促進行動プラン』を採択した。(……)セクシュアル・ヘルスとセクシュアル・ライツが人権であることは世界の共通認識である。もし66号令の要求に従えば、広範な民衆がネット上で性の知識を学び、性保健の常識を増やし、セクシュアル・ヘルスを保護する権利を剥奪してしまうのでははなかろうか。」(6)

 また、李銀河さんは、「関係する臨床および科学研究に従事する専門家は、全国で数千人以上ではない。これは(……)『性科学研究の医療保健サイト』を設立するターゲットグループになる規模では絶対にない」(7)と述べます。

「医療保健サイト」とは?――規定があいまい。実際への影響は?

 この「管理規則」には、定義が曖昧な概念が多いと指摘されています。たとえば「医療保健サイト」とか「性科学研究をおこなう医療保健サイト」という言い方では、あらゆる性学に関するサイトが、その中に入る恐れがあります(8)(もしそうだとすると、一般の人々にとっては、性科学の情報は、インターネット上から姿を消すことにもなりかねません)。

 潘綏銘さん(中国人民大学性社会学研究所所長)は、規定が曖昧であることには、2つの可能勢があると述べています。一つは、「俺様は権力を持っているから、やりたいことは何でもできる」という意味であり、もう一つは、「態度を表明しただけでのことであって、必ずしも真に受ける必要はない」ということだそうです。潘さんは、衛生部は政府の部門としては一番ランクが下なので、後者の可能性のほうが大きいと言います(9)

 7月1日以降、この衛生部の「管理規則」が実際にインターネットにどのような影響を与えたかは、私はよく調べられていませんが、著名なサイトを見るかぎりでは、大きな変化はないように見えます。潘綏銘さんが言うように、必要以上に大げさに考えることはないのかもしれません。

 しかし、前回の記事でも触れたように、今年になってから性情報に対する統制の動きが強まっていることは確かですし、危険な「管理規則」だと思います。

(1)China Tightens Restrictions for Web Sites on Sexual HealthThe Wall Street Journal(2009年6月26日)、「中国ネット規制、性関連の医療情報も閲覧禁止に」(Reuters 2009年6月25日)。
(2)喬志峰「請不要剥奪我上綱学習“性知識”的権利」(2009-06-25)喬志峰的BLOG
(3)黄振迪「衛生部打出“禁欲主義”旗号為哪般」(2009-06-28)天涯社区
(4)明「性学(性科学)不是医学――兼談権威観点」華人性健康報BLOG
(5)張敬婕「片面規範与思維的誤区」(2009-07-04)華人性健康報BLOG
(6)(4)に同じ。
(7)李銀河「衛生部文件錯誤百出」(2009-07-28)李銀河的BLOG
(8)『華人性健康報』記者の指摘(潘綏銘「衛生部也“掃黄”?」(2009-07-03)華人性健康報BLOG)。また、14条には「性知識を宣伝する名目で、性心理・性倫理・性医学・性治療などの性科学の研究の内容を誇張[渲染]してはならない」という条文があるのですが、李銀河さんは、この条文についても、その定義の曖昧さを含めて批判しています。
 「性心理・性倫理・性医学・性治療は、性知識の基本的内容である」と述べ、「何を『誇張』と言い、何を『誇張でない』と言うのか?」と疑問を出し、「性社会学・性心理学・性倫理学・性医学・性治療の科学研究は成果が積み重ねられており、関係する論文は汗牛充棟であるのに、なぜ中国ではそれを広めてはいけないのか? それらの『性科学研究の内容』を広めずに、まさか、科学的でない『内容』を広めたり、非科学的な『内容』に市場を占拠させるのではあるまい」と述べています(李銀河「衛生部文件錯誤百出」(2009-07-28)李銀河的BLOG)。
(9)潘綏銘「衛生部也“掃黄”?」(2009-07-03)華人性健康報BLOG。ただし、潘さんも、『華人性健康報』記者の質問に対して、衛生部の官僚が「普通の人が性学研究のサイトに登録することをなぜ許さないかというと、その原因は、それらの内容は科学者にとっては仕事だが、普通の人にとっては色情だということである」、「ここで『普通の人』と言っているのは、主に未成年者を保護するためである」と答えたとを聞くと、「これは、ネットユーザー全体を性知識を青少年の水準に退化させることを強制している。ここから類推すると、すべての中央の文書は、官僚にとっては仕事だが、普通の人にとっては汚染である」と怒っています。
 なお、未成年者の保護という点に関しても、範囲さん(遼寧省生命科学学会性心理研究所所長)は、「いわゆる低俗の風潮はどの国にもあり、いかにしてコントロールをするかが重要である。(……)わが国には、青少年に性教育をすることに対して、以前から異なった観点があり、一つは、やるべきであり、有益で、早ければ早いほどよいというものであり、もう一つは、副作用が大きいので、話さない方がよいというものである。実際は、各人はみな性の知識を理解する権利があり、遮ろうとしても遮ることができるものではない。教育しなければ、青少年はその他の手段で性を理解することができる」と述べ、衛生部第66号令について、「明らかに遮ることであり、流れを良くすることではないのであって、私はいささか間違っていると思う」と述べています(範囲「不要倒洗澡水時把孩子一同倒掉」『華人性健康報』2009-07-04)。
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