2017-08

同性愛サイトに対する攻撃や規制

 中国でも、セクシュアル・マイノリティの活動や交流にとって、インターネットは大きな役割を果しています。しかし、彼ら(彼女ら)のサイトは必ずしも安泰なものではないようです。昨年から今年にかけての幾つかの出来事は、その点を浮き彫りにしました。

1.ハッカーによる攻撃、それを取り締まらない警察(1)

 昨年8月から10月にかけて、黒龍江・遼寧・北京・河北・天津・山東・江蘇・浙江・重慶などの地で、十数カ所の男性同性愛サイトが相次いでハッカー(クラッカー)によって攻撃されるという事件が起こりました。被害にあったサイトは、サーバーを何度も変えたために多額の支出を余儀なくされたり、膨大なデータを失ったりしました。また、データが盗み取られたために、多くのカミングアウトしていない同性愛者の人々の間には、パニックが起きました。

 今回のハッカーの手口は、データを盗み取って新しいサイトを作り、あわせて「元のサイトは閉鎖された」と告知して(元のサイトについて、当局に「色情で低俗な内容だ」と通報する手口も使う)、ユーザーを新しいサイトに誘導するものでした。それによって、元のサイトが得ていた会費や広告料、エイズ防止のためのプロジェクトの資金をせしめることが目的です。

 多くのサイトが警察に事件を届け出ましたが、一件も受理されませんでした。警察に「なぜ立件しないのか」と尋ねると、「『同性愛』だから」とはっきり言われた例もあります。

 2007年にも、ハッカーがゲイサイト「淡藍網」を攻撃してサーバーをマヒさせ、サイトに対して「金を送ったら、攻撃を停止する」と言ったことがありました。「淡藍網」の責任者も警察に届け出たのですが、警察の返事は、「警察は金も物資も限られているし、ハッカーの攻撃技術は高く、証拠を集めるのは難しいし、法律の適用も難しいので、受理しにくい」というものでした。 

 刑法(286条)や「コンピュータ情報ネットワーク国際インターネット安全保護管理規則(計算機信息網絡国際聯網安全保護管理辨法)などは、ハッカー行為を厳しく罰することを規定しているのですが……。

2.当局の「サイト粛正」による打撃

 中国では、しばしば当局によってインターネットに対する風紀粛正がおこなわれますが、そのたびごとに、同性愛サイトは取り締まられてきました。2002年の「インターネット取り締まり強化」の際には、同性愛サイトは大きな打撃を受け、刑罰を科せられた人さえいました。

 その後、社会の気風が包容的・開放的になって、サイトが閉鎖されることは次第に少なくなりました。しかし、今年初めの「低俗サイト粛正運動」は、全国最大の女性同性愛サイトと称している「拉拉后花園」を閉鎖に追い込みました(2)

 北京弁護士協会情報ネットワーク・電子商務法律事務委員会の事務総長の魏士癝によると、同性愛サイトは「同性愛の恋人たちに交友の場を提供しており、往々にして色情の内容を含んでいるが、わが国の法律の猥褻・色情情報に対する規定は比較的広範なので、それらのサイトの生死は、往々にして現地のインターネット警察の法律執行の尺度の理解によって決められる」とのことです。ある女性同性愛者のサイトの責任者は、プロバイダーから「サイトの内容が低俗な嫌いがあるので、閉鎖しなければならない」と言われたのですが、彼女も、「問題は、誰も、私に、何をすべきで何をすべきでないか、何が合法で何が合法でないのかをはっきり言わないことです」と述べています。

3.フィルタリングソフトによる検閲

 今年6月9日、中国の工業・情報化部(工業和信息化部)[「部」は、日本の「省」に当たる]は、7月1日以後、中国国内で販売するすべてのパソコンに「グリーンダム(緑壩)」[正式名称は、グリーンダム・ユースエスコート(緑壩・花季護航)]というフィルタリングソフトを予めインストールしておくことをメーカーに義務づける通知を出しました(3)。小中学校のパソコンについては、すでに4月1日、教育部などが「グリーンダム」をインストールするよう通知を出していました(4)

 「グリーンダム」は、「成人/色情」「暴力的ゲーム」「不法活動/薬物」に加えて、「同性愛」のサイトもシャットアウトするソフトです。ある人がインストールして試してみると、有名な同性愛サイトである「愛白網」(人権問題を中心にしたお堅いサイトです)も閲覧できず、「この情報は良くないので、フィルタリングしました」という表示が出てきました。「gay」「lesbian」などの言葉もチェックされましたし、図版に肌色が多すぎると、裸と見なされるのかシャットアウトされました(5)

 6月11日、上の工業・情報化部の通知に対して、同性愛者らの人権を守る活動をしている、北京愛知行研究所北京益仁平中心浙江愛心工作組・貴州黔縁工作組天津深藍志願者工作組は共同で抗議声明を出し、「このような、同性愛者たちの名誉を汚し、差別し、攻撃・抑圧する効果を持つ行政の決定に対して、私たちは非常に強い反対を表明する! 同性愛は色情や猥褻と同じではない! 私たちは国家工業・情報化部がただちに同性愛サイトに対する訪問の制限を取り消すように訴える!」と訴えました(6)

 「グリーンダム(緑壩)」が同性愛者差別であるという指摘を報じたメディアはあまりなかったのですが(7)、中国国内では、グリーンダムが強制的な検閲であることから反発が起き、政治的情報の検閲が目的ではないかという批判も高まりました。その他、グリーンダムのさまざまな技術的な問題点も指摘されました。アメリカやEUからも批判が出ました。

 こうした動きに押されたのか、施行日前日の6月30日、突然、国家工業・情報化部は、義務化を無期限で延期すると発表しました。ただし、小中学校やネットカフェなど公共施設のパソコンには、ひきつづきグリーンダムをインストールしていくと表明しました(以上、(8))。

 フィルタリングに関しては、日本でも、2006~7年頃、NTTドコモが、携帯サイトの子ども向けのフィルタリングの際して、「同性愛」カテゴリー(トランスジェンダーなどを含む)のサイトへのアクセスを制限しようとして問題になったことがありました。

 この件については、さまざまな人の努力のかいあって、「同性愛」はフィルタリングの対象から外されることになったようです(9)。ただし、保護者の意識はというと、2008年にIMJモバイルがおこなった、携帯サイトのフィルタリングサービスに関する調査によると、保護者の87.8%は「同性愛に関するサイト」の規制が必要だとしています(「規制が必要である」と「やや必要である」の合計)(10)

 上で触れた中国の今年の「低俗サイト粛正運動」も、「完全に子どものためである」(国務院ニュース事務室ネットワーク局副局長・劉正栄)と称していましたし(11)、「グリーンダム・ユースエスコート」も、文字どおり、「若者の保護」を謳っています。「子どものため」という保護者の(バイアスを含んだ)感情を利用して、同性愛情報のシャットアウトをしようとする動きは常にあると思います。本当は、思春期の子どもにこそ、同性愛などの情報を与えることが重要だと思うのですが……。

(1)以下の1、2については、「遭黒客攻撃救助無門:同性恋網站的灰色生存」『南方周末』2009年2月26日、「数十家同性恋網站被“黒” 法律定位模糊維権困難」法制網2009年3月18日。
(2)「拉拉后花園」はサイトの閉鎖をトップページで告知したのですが(「和諧的 拉拉后花園」拉拉后花園http://www.lessky.com2009年4月6日access)、そのページには、当局によるインターネット粛正活動のニュース(整治互聯網低俗風行動)へのリンクがありました。
 また、上のページに掲載された文には、次のような一節がありました。
 「壁虎天空[ヤモリの大空? ハッカーのペンネームか?]、私はあなたが誰なのか知らない、なぜ私になりすますのか!
 この時期に、このような卑劣な手段で、機に乗じて花園を中傷した」
 上の一節から見ると、「拉拉后花園」に対しても、ハッカーらしき人が「なりすまし」をしたり、「低俗サイト粛正運動」に乗じた中傷をしたようです。
(3)国家工業和信息化部「関于計算機預装緑色上網過濾軟件的通知(2009年5月19日)」(工信部軟[2009]226号)2009年6月9日。
(4)教育部 財政部 工業和信息化部 国務院新聞弁公室「関于做好中小学校園網絡緑色上綱過濾軟件安装使用工作的通知(2009年4月1日)」(教基二函[2009]3号)教育部HP
(5)“緑壩-花季護航”過濾軟件屏蔽同性恋相関網站」『華尓街日報』2009年6月10日、「国内同性恋組織対緑壩限制同志網站表示反対」(2009-06-12)
(6)北京愛知行研究所 北京益仁平中心 浙江愛心工作組 貴州黔縁工作組 天津深藍志願者工作組「呼吁工業和信息化部立即取消通過“緑壩”軟件来限制同性恋網站的做法(2009年6月11日)」中国発展簡報HP
(7)同性恋人群之憂:緑壩軟件威脅同性恋網站」(人民網健康頻道2009年7月30日)、「“緑壩”軟件主動屏蔽同性恋信息被指歧視」馬甲網2009年6月17日(出所は財経網)が取り上げています。また、社会学者の李銀河さんは、自らのブログで、「グリーンダムの三つの罪」として、同性愛者差別という「政治上の誤り」であること、「技術的な不完全さ」(肌色の面積が多ければ、不良な情報として判断するので、毛沢東や小平の大きな肖像もフィルタリングされてしまうようなこと)、「納税者の金を濫費していること」(ソフトの使用権を得るために、納税者の税金を使ったこと)を挙げています(「緑壩的三宗罪」2009-06-29)。
(8)維基百科[wikipedia]の「緑壩-花季護航」の記述、「中国推遅強制安装“緑壩”軟件」『財経網』2009-06-30、「中国、検閲ソフト『グリーン・ダム』の導入を無期限延期」ロイター2009年7月1日、「『グリーンダム』搭載義務化、施行前日に突然の延期」レコードチャイナ(2009-06-30)、「(中国ウェブマーケティング用語)グリーンダム」イーチャイナHP、「ネットの激流に飲まれた官製“検閲ソフト”(前編)」(2009-07-14)「同(後編)」(2009-07-15)日経ビジネスオンライン、渡辺浩平「玉嬌事件、グリーンダム問題から見るネット世論の力」『中国、市場とメディア』10号(2009.7.7)、「『グリーンダム』搭載義務延期を巡って」極東ブログ2009.07.04、「李毅中談"緑壩":問題拡大政治化不符事実」中国新聞網2009年8月13日。
(9)携帯サイトフィルタリング問題解決へ! 『同性愛』がOKに!」Gay Life Japan2008年8月26日。
(10)フィルタリングの必要性、同性愛サイトやプロフなどで親子に意識差」INTERNET Watch 2008/02/18
(11)国新辨網絡局副局長談網絡低俗判定標準」中国網2009年2月25日。
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