2017-03

インターネットのフェミニズム組織の試み

 前回の記事でも述べたように、今年3月28日と29日、「女性/ジェンダー学学科発展ネットワーク」の第1回学術研究討論会が武漢で開催されました。

 この会で発表された論文について、蔡虹さん(華中科学技術大学ジェンダー研究センター)は、「学科建設研究」、「人文科学研究」(歴史学、文学など)、「現実問題研究」(婚姻家族問題、産育問題、農村問題、就業問題)、「文化研究」の4つに分けて、その概要を報告しています(1)

 蔡虹さんの分類では「学科建設研究」に分類されていますが、陳亜亜さん(上海社会科学院文学研究所、写真ブログ)の報告は、フェミニズムのインターネット活用を取り上げた異色のものでした。

 その報告は、「インターネットのフェミニズム組織の発展の潜在力と障害──『女権在線[フェミニズム・オンラインの意]』サイトを例にして」(2)というもので、陳さんらが創設した「女権在線」サイトについて述べたものです。当日のパワーポイントもアップされていますので(網絡女性主義組織発展潜力和阻害以──“女権在線”網站為例)、その内容をかいつまんで見てみます。

 まず、陳さんは、「女権在線」サイトを創設した背景として、以下の2点を挙げています。

 国内外のフェミニズムの発展状況
 ・ベル・フックス:「20世紀の70年代末に比較的大きな転換があり、女性研究は次第に大学の学問分野として受け入れられるようになった(……)女性研究の教室が、何の拘束もないコンシャスネス・レイジンググループの活動に取って代わった。(……)フェミニズム運動は大衆的基礎の潜在能力を失った。」(3)
 ・中国でも「20世紀の90年代以来、女性研究の学術化の趨勢が相対的に明確になってきた。このほかに若干の関連のNGO組織がある。」

 インターネット空間の中のフェミニズム
 「現在のネット上のフェミニズムに関する討論は、大部分はハラバラで、こまごましており、マイナスの情報が少なくない。」(現在の中国のフェミニズムサイトについては、陳さんはすでに昨年の論文で詳細に検討し、さまざまな問題点を指摘しています(4))。

 以上のような情況に対して、「女性意識の向上を目的とし、一定の組織的構造を持ち、主にインターネットを通じて活動をする民間のフェミニズム組織」として、「女権在線」サイトや「中国民間女権網」(中国民間女権工作室)が登場したというわけです。

 陳さんは、「女権在線」(2006年2月創設。前身の「女権中国」は2005年1月創設)について、以下のように述べています。

サイトの趣旨と内容
 ・趣旨
 「フェミニズム関連の学術資料と情報を収集・整理・発表し、(……)学者・活動家・関心がある人に、交流の場と資源情報サービスを提供し、同時に弱者集団の権益を擁護し勝ち取る行動に力を入れて、フェミニズムの学術的成果を実践に導入する」
 ・現在のコーナー
 学術園地(学術研究)、天南地北(ニュース)、信息交流(会議やフォーラムのお知らせ)、専題行動(サイトが参加している活動)、学人専欄(個人のコーナー)、lesbian、酷児文化(クィア文化)、観点争鳴(論争)、極速心霊(心理的な問題)、辺縁話題(弱者集団[農村女性、セックスワーカーなど])、漫歩人生(生活雑感)。

サイトの2つの特徴
 1.独立・自由・開放
 いかなる組織の資金援助も受けたことがない。ユーザー参加の面で、サイトは制限を設けず、ユーザーは評論や投稿、フォーラムでの発言、メールなどの各種の方式で討論ができ[ただし、掲示板への書き込みなどを除いて、一般のユーザーによる文章は、管理者が審査した後にサイトに掲載するようです(5)]、個人コーナーの開設も申請できる。
 2.弱者集団に重きを置く
 主流のフェミニズム組織が軽視している性の弱者集団、たとえば同性愛(とくに女性同性愛)に多くの関心を払っており、そのために、サイトに「lesbian」「クィア文化」の2つのコーナーを置いている。

多元的な、対話型の方式
 ・Email:メーリングリストを設置する予定である。
 ・チャットグループ:2008年にサイトにmsn群とqq群[注:私はよく知らないのですが、両者とも、参加者を限定したソーシャル・ネットワーキング・サービスだと思います]を設置した。
 ・フォーラム:2008年にフォーラム[公開の掲示板]を増設した。
 ・オフラインのサロン:2009年1月、公開のサロンを開催した(討論のテーマは、「女性の感情と財産管理」)。

ネットの社会的集団の主な特徴
 1.メンバーの所在区域が分散しているので、組織構造がバーチャル化する。→長所:空間的な制限を受けずに、どのレベルのユーザーでも、直接、中心的な管理者と交流できる。
 2.メンバーの流動性が大きいので、組織構造が弾力的になる。→弊害:たとえば、管理者の任命が慌ただしすぎて、いくらかの協力関係が了解不十分なままに不用意に進行して、組織の発展にマイナスの効果をもたらす可能性がある。

ネット上のフェミニズム組織の発展の見通し
 ・「筆者が考えるに、中国のフェミニズム運動は、国外とは逆に、『学術を行動に転化する』という路線を歩むべきである。この過程は、大量の普通の民衆の参与が必要であり、それゆえ公衆の意識を高めなければならない。」
 ・「女権在線は、フェミニズムの理論と観点を宣伝し、ユーザーに交流の場を提供するなどの方式をつうじて、中産階層のフェミニズム意識をだんだんと引き上げることに努力する。それによって、学界の精鋭の理念と観点を広げて、公衆に対して影響を与えることができるかもしれない」

女権在線の発展計画
 1.テーマを決めた討論を強化する
 2.オフラインのサロンの活動を強化する
 3.関連するメディアとの連係を強化する
 4.関連する組織との協力を強化する

現在の発展の障害
 1.中核的凝集力が欠乏していて、関心がある点が分散している
 ネットユーザーの差異が大きく、みんなが関心を持つ話題を見つけるのが容易でない(6)。→取ろうとしている方法:一つか二つの話題に焦点を当てる。
 2.資金と資源のサポートが欠乏している
 組織をまだ登録せず、また、広告を設置せず、経営プロジェクトもやっていないために、資金の出所と活動の展開の上で、一定の困難が存在しており、現在は、サイトの基本的運営を維持することしかできない。→考慮している方向:身分を合法化し、プロジェクトを申請することによって資金援助を獲得しなければならないか? あるいは公告を設置するなどの方式で、一定の活動経費を集めるか?

 陳さんの報告は以上のような内容です。

 私は、まず、現在、以下のような点が課題になっているということは、日本(や欧米?)とも共通しているように思います。
 ・学問研究と社会や運動との結びつきが課題になっていること。インターネットの世界ではフェミニズムが弱いので、フェミニズムの発信力を高める必要があること。
 ・ネット上での双方向的な対話・交流。
 ・女性の中の弱者集団、たとえばセクシュアル・マイノリティやセックスワーカーと既成のフェミニズム組織(サイト)との連係(日本の方がいくらかは状況は良いように思いますが)。

 もちろん、中国の場合、日本や欧米よりずっと困難な問題もあると思います。 
 ・中国では社会的な運動することが政治的に難しい。そのため、中国では「まず学問の世界で女性研究に市民権を得させる」ことに力が入れられたのであろうし、現在も、フェミニズムは研究者以外への広がりが(日本に比べても)乏しいようだ。さらに、陳さんが、「公衆(中産階級)の意識を高める」とか、「学界のエリートの関連する理念と観点を広げて、公衆に対して影響を与える」と述べるなど、公衆への啓蒙のようなことを重視しているのも、公衆レベルでの自律的な社会運動が困難であることと関係しているのかもしれない。
 ・中国ではネットが日本や欧米ほどには普及していない。陳さんが、性的な意味での弱者集団は重視しつつも、階層的には「中産階級」に的を絞っているのは、そうしたネットの現状とも関係があろう。

 いずれにせよ、「女権在線」の試みはユニークであり、実際、興味深い文が比較的多いので、私もぼ毎日チェックしています。日本にも、こうした特徴を持ったサイトはないように思います。ただし、陳さんが目指すところがどれほど達成されているのかは、もう少し詳しく見てみないとわかりませんが……。

 それから、陳さんの報告を読んで、私自身のブログやサイトでの発信の仕方も、もっと工夫した方がいいかもしれないと思いました。

(1)彙聚 対話 成長――婦女/社会性別学科発展網絡全国第一届学術研討会会議綜述(ワードファイル)」(2009/6/27)(婦女社会性別学学科発展網絡HP、『婦女研究論叢』2009年第3期にも収録)。
(2)「網絡女性主義」は「サイバーフェミニズム」と訳すべきかもしれませんが、一般的な用語ではないので、「ネット上のフェミニズム」と訳しました。
(3)胡克斯(沈睿訳)『激情的政治:人人都能読懂的女権主義』(金城出版社、2008年)より。原著は、bell hooks, Feminism is for Everybody: Passionate Politics(2000)。日本語訳は、ベル・フックス(堀田碧訳)『フェミニズムはみんなのもの―情熱の政治学』(新水社 2003年)(未読です)。
(4)陳亜亜さんは、論文「インターネットの力:フェミニストの境界を越えた協力の新しいルート(網絡的力量:女性主義者跨界合作的新途径)」(2008-9-8 麓山楓HP)の中で、現在のインターネット上でのフェミニストの活動の障害・不十分点として、おおむね以下のような5つの点を指摘しています。
1.数字上のギャップが依然として存在している
 女性がネットを利用する技術は、かなり大きな地域的差異が存在しており、国内の貧困地区のネット利用は、まだ普及にはほど遠い。
 フェミニズム関係のサイトの半数以上は北京にあり、その他も各大都市に分散していて、西部にはほとんどない。
 「女性/ジェンダー学学科発展ネットワーク」のネットワーク会員には、河北・内蒙古・遼寧・山東・海南・四川・貴州・チベット・甘粛・青海・寧夏などの人はいない。
2.領域の分割が露呈している
 早期に注目を集めたフェミニストは、文学・史学出身の人が多く、のちに社会学が主流になった。「女性/ジェンダー学学科発展ネットワーク」の個人会員も、専門が社会学の人が28.57%を占めており、自然科学のメンバーはほとんどいない。フェミニズムのサイトも、自然科学関係のものはほとんどない。
3.学者と大衆との溝
 フェミニズムサイトの建設・参与者の多くは都市で生活する知識女性であり、中産階級の知識女性の権益に関心を持っている。そのことの現れは、次のような点である。・参与者の多くは学生・学者か、それと関係する安定した仕事についている女性である。・討論の内容は、研究に偏重していて、実践を軽視している。・権利保護関係のサイトは、権利の保護を必要としている主体が欠けている。
 ネット上での具体的な現れは、これらのサイトの大多数はweb1.0状態(情報の送り手と受け手が固定されている状態)にとどまっていて、フォーラムを設置していないか、フォーラムがほとんど使われていないことにある。少数の普通のネットワーカーが建設した民間のサイトは、多くの人を引き付けるためにフォーラムを重視しているけれども、研究機構が設置したサイトは、多くの場合、参与者が同じ世界の人間だけで、大衆の中ではほとんど影響がない。
4.周縁と主流との遊離
 国内の主流フェミニストの視野の中では、周縁の女性集団は一貫して軽視されてきた。ここで言う周縁女性とは、主にセックスワーカーと女性同性愛者、トランスジェンダーである。一部のサイトにはセックスワーカーの情報はあるが、現在、セックスワーカーが主体になったネットワークの場はまだ出現していない。
 女性同性愛のサイトは若干状況が良く、北京の「レズビアンサロン(拉拉沙龍)」と上海の「花開く場(花開的地方)」(2005年閉鎖)などは、学界や関連機構とも繋がりがあるが、フェミニストの彼女たちに対する関心は高くない。トランスジェンダーのサイトはさらに少なく、比較的有名な「ミス夏世蓮の宿(夏世蓮小姐客棧)」は、主に性転換した姉妹のために交流の場を提供しているが、このサイトとフェミニストのサイトとの繋がりは基本的になく、同性愛者のサイトとも相対的に疎遠で、異性装者のサイトとの交流が相対的に多い。
 この2つの種類のサイトの多くはフォーラム形式が主で、情感の交流に重きを置き、あわせて情報の伝達・発表をしている。現実における彼女たちの地位の低さのために、サイトの大半は少数化する傾向を持っており、厳格な認証がなければ入れないものもあって、開放度が明らかに不足しており、分散し、互いに孤立した状態にある。
5.男性の参与の明らかな不足
 フェミニストが構築したネットワークには、男性の参与度が非常に低い。「女性/ジェンダー学学科発展ネットワーク」の個人会員の94.56%は女性で、男性よりはるかに多い。
 現在、フェミニズムと関連する男性のフォーラムは、2005年に方剛が開設した「男性解放」サロンだけであり、女性の参加者も少なくないが、現在、ほとんどほったらかしになっている。
(5)向本站提交您撰写的文章」女権在線HP
(6)陳さんは、後日にも、「[サイトに]吸引されてくる人の関心が分散しているので、実践的なプロジェクトをしようとするとき、凝集力が欠けている」(陳亜亜「武漢会議之后」2009-04-26 女権在線HP)と述べています。
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