2017-03

「第1回セックスワーカーデー」、中国民間女権工作室、セックスワーカーの互助団体の萌芽

「第1回セックスワーカーデー(妓女デー)」

 武漢市の「中国民間女権工作室」(葉海燕ら)は、8月3日を「セックスワーカーデー」に定め、今年、「第1回セックスワーカーデー(妓女デー)」の行事をおこないました(1)。8月3日をセックスワーカーデーにしたのは、国際女性デーである3月8日と対称になる日付だからです。

 葉海燕さんは次のように述べています。
 「3・8の国際女性デーは、中国では、これまでセックスワーカーの祝日ではなかった。なぜなら彼女たちは取り締まられる個人であって、社会的な配慮を享受することはなかったからだ。」
 「国際女性デーを享受している、いわゆる良家の女性、あるいは体裁が良い仕事をしている女性と小姐(セックスワーカー)とはまったく相容れない。彼女たちは、小姐である女性を軽視している。だから、3・8と対称である8・3を選んで、セックスワーカーの記念日にしたが、実際はみんな女なのだ。
 けれど、女性の権利を象徴する3・8の前では、8・3は、女性の権利が極限まで低下したグループのようである。3・8はなんとも意気盛んな熱情の記念日であるのに、私たちの8・3デーは、いささか消沈しているかもしれない。私たちは発言権を失い、私たちの生命権、健康権、私たちの人身の自由は、みな保護されていない。まさに、そうだからこそ、私たちはいっそう自分を大切にする必要があるのだ。」(2)

 今年のセックスワーカーデーのテーマは「私たちの健康を大切にしよう!」でした。当日は、中国民間女権工作室の活動家が自己紹介の形式をとってセックスワーカーのさまざまな境遇を表現したり、劇によってセックスワーカーにコンドームや婦人病・HIVの検査の重要性をアピールしたりしました(写真:第一届性工作者日活動視頻截図)。

 写真を見ると、参加者は顔の上半分を蔽うお面を付けていますから、セックスワーカー自身が演じているように見えますが、そうではないようです。葉海燕さんは「道理から言えば、セックスワーカーデーはセックスワーカーの記念日であるべきで、セックスワーカー自身が参加しなければならない」が、「法律の面のタブー」や彼女たちの心情から、「私たちが彼女たちに扮するしかなかった」と述べています(3)

中国民間女権工作室、湖北省女性健康センター

 「中国民間女権工作室」は、葉海燕さんらが設立したごく小さな団体で、固定した工作人員(活動家)は葉海燕さんともうお1人(陳海燕さん)だけ、固定的なボランティアも他にお2人いるだけですが(4)、セックスワーカーからの相談やセックスワーカーに対するエイズ防止宣伝に力を入れています。

 「中国民間女権工作室」は、最近、「湖北省女性健康センター」を設立しました(同センターのリーフレット:「PPT還在制作中,但宣伝折頁出来了」)。同センターは「民間の女性に、無料で健康の知識の研修、および無料の健康診断とHIV相談・検査サービスをする」とのことです(5)(この種のセンターの場合、公にはセックスワーカー向けであることをあまり謳っていません)。同センターは、第6次グローバルファンド・エイズプロジェクト(第六輪全球基金艾滋病項目)の資金援助を受けたプロジェクトだということです。

 葉海燕さんは、「流氓燕」として知られている人ですが(「互動百科」の記述)、2005年12月からセックスワーカー向けの電話相談に取り組み(中国民間女権工作室の設立が2005年12月になっているのは(6)、この時を起点にしているのかもしれません)、2006年6月には、セックスワークをテーマにしたサイト「紅塵網」も開設しました。

 中国では、セックスワーカーに対する公的な働きかけは「エイズ防止」の文脈に位置づけられることがほとんどですが、葉海燕さん自身は、それだけでなく、「差別をなくすことこそが、性病・エイズ防止の根本である」と考えていますし(7)、「買春をする客の最も基本的な行為準則」も提唱しています(8)。また、セックスワーカーについての葉海燕さんのブログ「荼蘼花尽」には、「中国"小姐"労働組合ネットワーク事務室 健康・感情・法律援助」という副題が付いていますので、彼女たちの労働組合を組織するという問題意識もあるのでしょう。

 上でも触れた、中国民間女権工作室とセックスワーカー自身の関わりについては私はまだ調べることができていません。ただ、以下のような事例を見ると、少なくとも将来的は、「湖北省女性健康センター」が、セックスワーカーの互助的な場としてある程度、機能する可能性はあるように思います。

昆明市の「健康亭」――セックスワーカーの互助団体の萌芽?

 2年ほど前の『鳳凰週刊』に、昆明市の「健康亭」のルポが掲載されていますので(9)、その内容のごく一部をおおまかに紹介します(見出しも私が付けたものです)。

ピア・エデュケーション

 「健康亭」とは、2003年7月に、「中英性病・エイズ防止協力プロジェクト(中英性病艾滋病防治合作項目)」が昆明市の官渡区疾病予防制圧センター(官渡区疾病預防控制中心)と協力して、セックスワーカーが集中している地域に設けた小さなセンターです。このセンターの目的は、セックスワーカーに性病・エイズ防止の知識を与え、コンドームを使うようにすることです。
 
 上のプロジェクトでは、セックスワーカー自身が教員になって、他のセックスワーカーに性病・エイズ防止の知識を宣伝する「ピア・エデュケーション(同伴教育)」をおこなっています(最初は大学生のボランティアがセックスワーカーに対応しようとしたのですが、うまくいきませんでした)。彼女たち教員は、セックスワーカーが集まっている場所に出かけて行って、セックスワーカーに働きかけます。彼女たちには、若干の賃金も出ています。

政府(警察や衛生部門)の矛盾した立場

 教員であるセックスワーカーも、その多くはセックスワークもしているので、警察の取り締まりの対象になります。ただし、ふつうは拘留15日のところを、1~2日で釈放されたり、ふつうは800~1000元の罰金を支払わなければならないところを、200元にしてもらったりしています。警察は、セックスワーカーがコンドームを支給することには理解を示し、センターと一定の了解をしつつも、法律で禁止されている売春を公然とは認められないので、そのようにしているのです。

 また、ダンスホールなどにいるセックスワーカーと違って、街頭に立っているセックスワーカーは、散在していて、働きかけが難しいのですが、せっかく苦労して教員が彼女たちに宣伝や教育ができるようになったとたん、警察が「掃黄(売春取締り)」活動を開始して、彼女たちが捕まってしまい、教員が警察の手引きをしたのではないかと疑われるという悔しいこともありました。

 また、中国の法律では、NGOは主管部門を定めなければ、民政部門に登録できません。しかし、「セックスワーカー」という言葉がデリケートであるため、官渡区疾病予防制圧センターはピア・エデュケーションをする教員に工作カードを支給しているにもかかわらず、「健康亭」の主管部門になってくれません。そのため、「健康亭」はNGOになれず、資金を集めることも難しいのです。

互助団体のひな型?

 潘綏銘さんは、「理想を言えば、セックスワーカーの互助団体を設立するべきだが、『健康亭』は事実上、そうした団体のひな形だ」と言います。

 セックスワーカーたちは、「衛生防疫部門の役人は、セックスワーカーがエイズに感染しているか否かにしか関心がなく、私たちが取り締まられるか否かや、食う飯があるか否かにはあまり関心がないように見える」と言って、彼女たち自身の互助団体を求めています。

 ふだんから、セックスワーカーたちは「健康亭」にやってきて、マージャンなどをしながら、お互いに悩みを語り合っています。また、「健康亭」が組織して、みんなで登山をしたり公園に行ったりもします。そうした交流がおこなわています。性病や婦人病の検査や相談もしています。

 ただし、セックスワーカーが警察に捕まった時に、どうにかするような活動はできません。香港のセックスワーカー援助団体「紫藤」が「健康亭」に見学に来た時、「紫藤」の人は、プロジェクトから独立してセックスワーカー自身の組織を作ることの重要性を指摘しました。けれど、中国では売春が非合法なので(香港では、売春自体は違法ではない)、プロジェクトの名の下で組織を発展させるしかなく、「現在は萌芽状態にある」(潘綏銘)ということです。

 この『鳳凰週刊』記事で述べてあることは、以前の本ブログの記事、「セックスワーカーのためのセンターの機関紙」で挙げたセンターに関しても、当てはまるのではないかと思います(10)

(1)中国民間女権工作室成功挙辨第一届性工作者節」中国民間女権工作室(2009年8月15日)または「中国民間女権工作室成功挙辨第一届性工作者節」中国発展簡報(2009年8月5日)
(2)離8.3妓女節還有13天! 請期待性工作者的節日!」荼蘼花尽(2009年7月24日)
(3)写在第一届性工作者節之后」荼蘼花尽(2009年8月7日)
(4)我和我的中国民間女権工作室」荼蘼花尽(2009年7月24日)←葉海燕さんと工作室の写真が出ています。
(5)湖北省婦女健康中心簡介」(2009年7月10日)
(6)中国民間女権工作室介紹」志願者社区
(7)消除歧視才是防治的根本」荼蘼花尽(2009年4月4日)
(8)我們提倡嫖客最基本行為准則」荼蘼花尽(2009年6月15日)
(9)小姐問題 内地性工作者初見互助団体」『鳳凰週刊』2007-4-18。
(10)また、「我們的工作」(Constella Futurtesサイト)には、昆明の健康亭(写真も出ています)のほか、雲南省の保山市隆陽区の健康亭などについて簡単に紹介しています。同区の健康亭のピア・エデュケーションについては、「西南的防艾新探索:"小姐同伴教育"進行中」(『南方周末』2004年7月15日)に詳しく述べられています。
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