2017-04

台湾のジェンダー平等教育法公布5周年目に民間団体が現状を検証

 2004年の6月23日、台湾で「ジェンダー平等教育法(性別平等教育法その英訳立法説明[いずれもワードファイル])」(1)が公布されました。その5周年に当たる今年の6月24日、同法の制定に尽力した台湾性別平等教育協会台湾女性学学会(女学会)台湾同志諮詢熱綫協会婦女新知基金会台北市女性権益促進会の5団体が、共同で記者会見をおこない、同法の施行状況を点検した結果を発表しました。その大まかな内容を紹介します(正確には原文をご覧ください(2))。

 上の5団体も、ジェンダー平等教育法ができたことによって、妊娠した学生の権益保護、セクハラの訴えや調査、大学のジェンダー課程の増加などの面で成果があったことは喜んでいます。けれども、同法の理念と台湾の教育の現状との間にはまだ大きな落差があることを示すために、以下のような統計を示しました。

○校長の女性比率
・小学校 教員68.51%→校長27.20%
・中学校 教員67.76%→校長28.38%
・高校  教員60.01%→校長19.31%
・職業高 教員51.05%→校長10.90%
・大学  教員34.34%→学長 8.64%(大学・学院・専科の3つを含む)
 (日本とは学制が違うので[Wikipedia「台湾の教育」]、一概に比較できませんが、日本よりは、教員・校長ともに、女性比率は高いです……日本:「本務教員総数に占める女性の割合(初等中等教育,高等教育)」『男女共同参画白書(平成20年版)』)

○高級職業学校(職業高校)の学生の男女比
・農業……男:47.4%、女:52.6%
・工業……男:84.7%、女:12.6%
・商業……男:38.1%、女:61.9%
・家事……男:10.0%、女:90.0%

○高校の教科書の文の中では、多元的性別(同性愛者、トランスジェンダー、多元的家庭)は、ごく少ない比率しか占めておらず、教科書によってはまったく言及していない。

 次に、以下の9つのテーマについて報告がなされました。

①制服
 昨年10月、教育部は、女子学生に対する(特に夏季の)スカートの強制は、ジェンダー平等教育法の精神の合致しないと述べて、改めるように指示した(本ブログの記事参照)。しかし、ここ数カ月、すでに夏季になったが、民間団体には、多くの学生から「スカート以外の選択肢がない」という訴えが寄せられている。

②ジェンダーによるいじめ(性別覇凌)
 ジェンダーによるいじめ(女っぽくて繊細な男性、男っぽくて勇ましい女性、トランスジェンダーの学生などに対するいじめ)は、ジェンダー平等教育法によっても変わっていない(例:「学生被譏『娘炮』欲軽生,師冷漠」『蘋果日報』2009年4月29日)。(3)
 生物学的性別によって規定された制服(男が青で、女がピンク)、教師が教育の場で伝達するジェンダーステロタイプ(女子は女らしく、男子は泣いてはいけない)、誰もが異性愛者であるというジェンダーブラインドネスが、多元的な性別の展開を妨げ続けている。その最大の被害者は、男女の二分法を越えた学生である。大多数の学生たちは、ジェンダーの多元性を尊重することを学ぶ機会がないので、彼らに言語的・身体的な暴力をふるっている。

③セクシュアルハラスメント
 ジェンダー平等教育法は、学校はセクハラ防止の準則を制定しなければならないこと(20条)や学校でセクハラ事件があった場合、通報したり、設置したジェンダー平等教育委員会によって調査・処理したりすべきこと(21条)を規定している。
 しかし、学校の中では、インターネットの利用が広がるにつれ、加害者がネット上で、被害者に対して「公用車、いつでも(公車、随便)」「乱れた女(爛女人)」などの悪口を言うといったセクハラも広がっている。けれど、調査や処分をしていない学校がある。
 また、学校は教育が本質であり、ジェンダー平等教育法25条は、学校は、加害者に対して、被害者にお詫びさせる、8時間のジェンダー平等関係の課程を受けさせるなどの処置をすることを規定している。しかし、ある学校は、セクシュアルハラスメントの処罰は必ず「過失として記録する(過記)」という処分でなければならないと誤解しており、教育的な意義を弱めているだけでなく、通報・調査などに消極的になっている。

④性教育
 性教育の専門的訓練を受けていない教師が担当したり、教材や教案などが見当たらないために、女子学生が身体の自主権を保護できない情況を招いている。

⑤同性愛
 性的指向にかかわらず、少なくとも30%の人は小学生のときに初恋をする。しかし、小学校では同性愛情報がまったく封殺されているために、同性愛者の生徒にとってはモデルがなく、社会のあらゆるところで同性愛は汚名を着せられている中で、彼らは成長に困惑する。

⑥大学のジェンダー課程
 全体的には各大学のジェンダー関連の課程は増加しているが、その分布にはかなり不均衡がある。若干の国立大学では15─20にも達してしているが、一般の大学、私立大学、技術系では、ふつう1─2しかない。

⑦高等教育
 ジェンダー研究に関しては、修士クラスはあるが、博士クラスはまだない。過去数年、多くの大学が設置を申請したが、まだ通過していない。ジェンダー研究は新興の領域であり、教育部が具体的な特別措置をとって発展を援助するべきである。

⑧移民女性の多元的文化(この項目は発言稿が詳しいので、長くなりました)
 台湾には、2008年2月の時点で、外国籍の配偶者(大陸の配偶者を含む)が計40万1623人おり,その大多数の女性である。こうした新移民(4)について、大部分の教材は、新移民とその子どもを教育することにだけ焦点を当てていて、国際結婚の家庭は「補導」し「助力」すべき多くの「問題」に満ちているという先入観を持っており、台湾の民衆がいかにしてステロタイプなイメージを打破すべきなのかについては、少ししか言及していない。要するに「新移民には問題があるから、教育が必要だ」ということにとどまってる。けれど、実際は、彼女たちも大多数は母国で教育を受けており、彼女たちに必要なのは、中国語を学んで、現地の生活に適応することだけだということを認識すべきである。

 教材には、新移民の家庭について、「父親は結婚相手を見つけられないから、外国籍の配偶者を求め、母親は経済のために嫁いできた」というふうに書かれている。しかし、国際結婚で生まれた子どもが、このような父母を辱めている教材で学習することは耐えがたいだろう。

 新移民の女性は、社会的な注目を集めて以来、「助力される者」として見られてきた。教材にもそのように書かれている。しかし、教科書の教育対象はすべての未来の台湾公民なのだから、政府が新移民に対して配慮していることや新移民が台湾の風土や民情を学ぶことだけでなく、台湾が、新移民やその母国に対する理解を深めることも強調しなければ、多元的とは言えない。

 まして新移民の女性は、台湾に来て以後、子どもを産み育て、一家の衣食住のケアをしており、しばしば夫家の家業を担うなどして一家の経済も支えてきた。新移民の女性は、台湾の多くの家族の「無償労働者」である。政府の福利制度が貧弱なために、下層の家庭は、やむなく結婚によって嫁を労働力にしている。

 真の社会問題は、政府がケアの仕事を私領域化して、女性に担わせていることである。社会構造におけるこうしたジェンダー抑圧や民族差別こそを正視すべきである。私たちは、「国際結婚」自体は個人と家族の選択として尊重しなければならず、彼らを社会問題の根源であるかのように言ってはいけない。

⑨スポーツ
 学生のスポーツ参加、選手のリソース、試合の機会、スポーツのモデル(教師、コーチなど)の各面で重大な性別の偏りが見られ、その結果、男女の運動能力についてのステロタイプなイメージが強化されるという悪循環が生じている。
 ・小学校から大学に至るまで、学校のチーム(校隊)の男女比は、男性が女性よりも30%以上多い(女性が占める比率は、小学校で39%、中学校で34%、高校で32%、大学で34%)。
 ・そのため、国光賞金(5)も、男子学生が57%を獲得し、女子学生は43%しか獲得していない。とくにコーチに関しては、男性コーチが83%の賞金を獲得している。
 ・専任の体育教師は、小学校を除いて、男性が女性より30~50%多い(女性の体育教師の比率は、小学校53.42%、中学校36.18%、高校33.07%、大学27.74%)。
 ・学校のスポーツのコーチの男女比は、小学校から大学まで、男性が女性よりも50%以上多い(女性コーチの比率は、小学校23.18%、中学校26.85%、高校23.85%、大学23.14%)。

(1)台湾女性史入門編纂委員会編『台湾女性史入門』(人文書院 2008年)のⅡ-7「ジェンダー・イクォリティ教育法」も参照してください。
(2)性別教育戳戳不樂!?──性別平等教育法五週年總體檢」婦女新知基金會部落格(2009年6月25日)←各項目の発言稿も添付されています、「性別教育戳戳不樂!?──性別平等教育法五週年總體檢」台湾性別平等教育協会HPなど。
(3)『台湾女性史入門』の「ジェンダー・イクォリティ教育法」についての説明(邱淑芬著、横山政子訳)にも、同法の制定のときに、「屏東県の高樹国民中学の生徒でもある葉永君が学校のトイレで死亡するという事件が発生した。彼は女性的な一面を持つ男子生徒で、長期間にわたって他の生徒からいじめを受けていた。事件の真相がどこにあったかはさておき、彼の死は性同一障害の生徒を尊重し、その学習環境を保障しなければならないことを研究計画グループに知らしめた。これにより法律の名称も『両性(両性)』を改め『性別(ジェンダー)』へと変更されることになったのである」(52-53頁)と書かれています。
(4)2007年に台湾に帰化した外国人の比率は、ベトナム女性76.4%、インドネシア12%、カンボジア7.7%とのことです。詳しくは、台湾女性史入門編纂委員会編『台湾女性史入門』(人文書院 2008年)のⅠ-8「国際結婚と新移民女性」、Ⅱ-8「新移民女性と教育」の項目など参照。
(5)國光體育獎章及獎助學金頒發辦法」という法規により、各種のスポーツ大会での優勝者や成績優秀者に支給されるもののようです。
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