2017-10

台湾:売買春の「専区」を設置する方針と人権・女性団体

売買春を非処罰にする「専区」を設置する方針

 台湾の社会秩序維持法(社會秩序維護法)の第80条第1項は、売春を罰することを定めています(買春は罰しない)。近年、人権団体から、売春の非処罰化を求める動きが高まり、この条項を廃止するか否かが問題になってきました。

 6月12日、台湾の内政部は、この問題を話し合うために同月下旬に開催される「行政院人権保障推進小組会議」を前にして、「性の取引は禁絶することはできないので、『専区』を設置して、『専区』内では、売春・買春・業者いずれも処罰しない(『専区』の外ではいずれも処罰する)」という方向の報告を提出しました。(1)

 この報告に対する女性団体・人権団体の対応は、2つに分かれました。

「セックスワーク労働権保障連盟」――まず社会秩序維持法を改正せよ

 日日春関懐互助協会[日日春](Collective Of Sex Workers And Supporters[COSWAS])台湾性別人権協会(Gender/Sexuality Rights Association Taiwan)台湾同志諮詢熱綫協会工作傷害受害人協会愛滋感染者権益促進会国立中央大学性/別研究室風信子精神障礙者権益促進協会、基隆市失業労工保護協会、柳春春劇社劇団角落関懐協会台北県慈芳関懐中心人民火大行動聯盟の12団体は、「セックスワーク労働権保障連盟(保障性工作勞動權聯盟)」を結成しました。

 6月12日、上記の内政部の報告が出されると、「セックスワーク労働権保障連盟」は、「セックスワーカーの運動の10年の奮戦によって、ついに今日、内政部は性取引政策について原則的な態度を表明した」と述べて、いちおうは歓迎の意を表明しました。

 ただし、1997年9月に陳水扁台北市長が「廃娼政策」を打ち出して以降、台湾当局が日日春などのセックスワーカーの運動に対してなかなか応えてこなかったという歴史がありますので、「セックスワーク労働権保障連盟」は、だいたい以下のような要求や疑問を出しました。

 一、2年以内に、社会秩序維持法の改正と関連する計画を完成させることを要求する。
 二、「専区内では売買春を罰せず、専区の外では売春・買春ともに罰する」というのは、セックスワーカーにとっては、最も理想的な政策だとは言えない。専区で仕事をする条件がない者は、「非法だ」ということで取り締まるのか?
 三、内政部は「売春を助ける行為」の取り締まりは強化するとしているが、多くの疑問がある。セックスワーカーが働くためには、他の仕事も必要である。もし性取引における搾取を心配しているのであれば、セックスワーカーの自己決定権こそが重要である。(2)

 「セックスワーク労働権保障連盟」は、スローガンとしては「法改正の時間表を示せ」、「まず社会秩序維持法を改正せよ」といったことを掲げました。

「反性搾取連盟」――業者は厳罰に。買春を罰し、売春は罰するな

 一方、勵馨社会福利福利事業基金会台北市婦女救援社会福利事業基金会(婦援会)台湾終止童妓協会(ECPAT Taiwan)台湾女人連線基督教門諾会花蓮善牧中心中華民国基督教女青年会協会台北市晩晴婦女協会台北市女性権益促進会、中華恩加楽国際善工協会、愛慈基金会台湾少年権益与福利促進聯盟基督教台湾信義会基督教愛盟家庭文教基金会の14団体は、「反性搾取連盟(反性剥削聯盟)」を結成しました。

 「反性搾取連盟」は、「紅灯区の設置に反対する」、「搾取者を厳罰にせよ。買春を罰し、売春は罰するな」というスローガンを掲げました。

 彼女たちの考えは以下のようなものです。
 ・セックス産業の従事者の大多数は女性であり、稼いだ金の大部分は、人身売買の商人やポン引き、業者の手中に入るのだから、女性に対する搾取である。全面的な合法化は、搾取をいっそう拡大する。
 ・人身売買は、セックス産業と切り離せない問題である。もしセックスワークの第三者を処罰しないならば、今年6月に施行されたトラフィッキング防止法(人口販運防制法)の立法の精神にも反する。
 ・オランダはセックスワークを合法化したが、セックスワーカーの奴隷的境遇は変わっておらず、人身売買の温床になっている。そのため、オランダもセックス産業の専区を縮小しはじめた。一方、スウェーデンでは、売春を処罰せずに、買春を処罰し、業者を厳罰にする規定を設けたことにより、性取引に従事する人は減り、トラフィッキングの被害者の女性も減った。

 「反性搾取連盟」は、具体的には以下の点を主張しています。
 一、私たちは、性取引が職業であること、ましてセックス「産業」であることには反対である。
 二、私たちは、政府に、性取引関係のあらゆる公然とした客引きの情報と行為を厳禁するように要求する。
 三、私たちは、性取引の中から利を得る第三者は処罰されなけばならず、そうしてこそ、いかなる形態の性搾取行為も途絶できると主張する。
 四、私たちは、性を売る者の多くは経済的窮乏のために性取引に従事していることを理解しているので、性を売る者は処罰しないことを主張する。
 五、私たちは、買春客に補導課程を受けさせて罰金を払わせ、課程の関係費用は買春客に支払わせること、課程を受けることを拒否する者は罰金の金額を増やすべきことを主張する。
 六、政府は、女性のための福祉および就業政策を出して、女性が窮乏状況の下で性取引に従事することを選択しないようにさせなければならない。
 七、政府はジェンダー平等教育と人権教育の現在の成果を再検討し、具体的な改善措置を提出しなければならない。(3)

「売春を罰しない」か否かを焦点に

 以上のとおり、「セックスワーク労働権保障連盟」と「反性搾取連盟」とでは、その主張に大きな違いがあります(4)。けれど、両者の間には、売春を処罰しないという共通点もあります。実際、ここ2年間に内政部が招集した会議でも、民間の女性団体などは「売春を処罰しない」という点では一致してきました。

 ですから、「セックスワーク労働権保障連盟」は、「民間では売春婦を処罰しないという意見は既にコンセンサスになっている」ことを強調し、それにもかかわず、内政部が社会秩序維持法第80条を維持したままに、「専区」という特例を作るやり方をしていることを批判しました。

 具体的には、「セックスワーク労働権保障連盟」は、以下のような要求をしました。
 一、社会秩序維持法第80条を廃止するか否かを明確にせよ。
 ニ、営業地点や場所などの問題に関しては、まず社会秩序維持法で売春を罰しないという立場を明確にした上で、具体的な規則を作ること。

 また、「売春を処罰しない」という1点で、「反性搾取連盟」にも共闘を呼びかけました。(5)

行政院院長の裁定――セックスワークの非犯罪化・非処罰化の方向は示す

 6月24日、行政院の人権保障推進小組は会議を開いて、院長の劉玄兆は次のような裁定を示しました(一部省略)。
 1.原則的に、セックスワークは非犯罪化・非処罰化の方向である。
 2.内政部は6カ月を目標に、できるだけ速やかにセックスワーク関連の管理法令と関係措置を提出し、セックスワーカーの意見を組み入れて、再度社会秩序維持法第80条第1項第1款を研修(?)する。
 3.内政部は、法改正以前に可能なことを推進する(セックスワーカーの職業訓練や転職の配慮、「警察は社会秩序維持法第80条第1項違反事件の取締りは、成績の点数に入れない」という原則を堅持する、性取引の助長行為や人身売買の取り締まりを強化するなど)(6)

 この裁定に対して、セックスワーク労働権保障連盟は、だいたい次のような表明をしました。
 一、劉院長は「セックスワークの非処罰化」の方向を示したが、社会秩序維持法第80条に賛成か否かを明確にしていない。もしも社会秩序維持法第80条を維持したまま、特に許可するという制度にするならば、真に非処罰化はできない。
 ニ、私たちは、セックスワーク非犯罪化の方向の下に、関連する管理法令と関係措置を立案し、セックスワーカーの声を重視することには賛成である。さまざまな規模の都市の、さまざまな形態のセックスワーカーの意見を尊重すべきである。
 三、「警察は社会秩序維持法第80条第1項違反事件の取締りは、成績の点数に入れない」という政策は1月1日からおこなわれているが、一部の地方では守られていない。もしセックスワーカーに対して付近の住民から意見があれば、地方の政府は、セックスワーカーと地域の住民との対話や交流の場を作り、お互いに協調できるようにすべきである。(7)

 「反性搾取連盟」に結集したような女性団体は、やはり「専区」を設けることには反対です。

 また、婦女新知基金会は、6月30日、声明を発表し、売春・買春ともに罰するべきできないこと、セックスワーカーの労働権益こそが問題の核心であって、政府がセックスワーカーの権益を守る措置を取るとともに、セックスワーカー自身に労働合作社を組織させて、自主経営をさせ、利益を分配させることを提案しました(8)

 なお、一般の人々の意識は、『中国時報』の調査では、以下のようでした。
 ・セックスワークの非犯罪化について――賛成42%、反対39%(男性は賛成50%、反対32%。女性は賛成35%、反対46%)。
 ・「専区」の設置について――賛成57%、反対32%(男性は賛成61%、反対28%。女性は賛成52%、反対35%)。
 ・自分の県や市に「専区」を設けることについて――賛成39%、反対52%(男性は賛成48%、反対42%。女性は賛成29%、反対61%)。
 また、県・市長の大多数は、セックスワークの「専区」を設けることに反対です。(9)

 この問題に関しては報道が大変多く、また、これまでの論争の歴史もあるので、以上のまとめでは大変不十分ですが、今回の議論は、だいたいのところはこんな感じです。

(1)メディアの報道は、「政府擬設紅燈區 娼嫖都不罰」(2009/06/12)として、台湾性別人権協会のHPに収録されています。「社會秩序維護法第80條第1項第1款是否廢除 行政院人權保障推動小組第15次會議將討論」(中央社2009/06/13)も参照。
(2)抗議内政部新聞稿」(2009/6/12)日日春關懷互助協会HP
(3)反性剥削聯盟:厳懲剥削者! 罰嫖不罰娼!」(2009/6/15)台湾女人連線HP、「反性剥削聯盟 拒政府設紅燈區」『立報』2009年6月14日、研発部「我們反對性產業」勵馨社会福利福利事業基金会HPなど。
(4)6月15日には、両者が行政院の前でデモンストレーションをおこない、トラブルが起きたりしました(「公娼跪嗆婦團:妳們算什麼 婦團掉頭離去」『蘋果日報』2009年6月16日、「反性剝削聯盟 訴求:反對紅燈區」『台灣醒報』2009年6月16日←写真、ビデオあり)。
(5)不罰娼已是共識! 請官方先表明是否支持『不罰娼』? 再談性交易配套!」(2009/6/15)移民工資料庫、「民間十年有共識,娼妓不罰用人權!」(2009/06/15)移民工資料庫、「各界代表共同抗議内政部用専區説掩蓋『継続罰娼』!」(2009/6/18)移民工資料庫。メディアの報道は、「日日春赴内政部陳情 要求不罰娼」(2009/06/19)として、台湾性別人権協会のHPに収録されています。
(6)行政院研究發展考核委員會新聞稿:台灣人權大歩歩接軌國際」行政院研究發展考核委員會98年[←中華民国暦です]6月24日。
(7)保障性工作勞動權聯盟 第二波新聞稿」(2009.6.24)移民工資料庫。
(8)婦女新知基金會針對『性工作議題』聲明稿 我們主張娼嫖皆不罰 性產業應以勞動權益為核心」(2009年6月30日)[婦女新知基金會 部落格──【婦女新知】後花園]
(9)「五成賛成色情専区 但別在我家」『中国時報』2009-06-24(この記事を含めて同日の報道については、「性工作者擬除罪化 日日春:應具體廢罰則」として、台湾性別人権協会のHPに収録)

*この問題に関する歴史的経緯については、黄齡萱「台湾女性運動の軌跡――売春児童保護運動から『妓権』労働運動へ――」(PDFファイル)『技術マネジメント研究』6号(2007年)9-20頁、黄齡萱「現代台湾における女性運動の動向――『性権派』と『婦権派』の対立を中心に――」『ジェンダー史学』4号(2007年)87-93頁を参照してください。
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