2017-10

女児に対する性侵害事件と法律問題

 2007年10月~2008年8月、貴州省遵義市習水県で、無職の女性(袁莉、37歳)が、中学を中退した少年(15歳)・少女(14歳)の2人と共謀して、多くの女子生徒(主に中学生)を脅迫して売春させていました。被害にあった女子生徒の11人は、みな18歳未満で、そのうち3名は14歳未満でした。

 女子生徒たちは脅迫されたり、騙されたりして辺鄙な所に連れて行かれて、麻薬を注射されたり、裸の写真を撮られたり、殴られるなどして脅迫され、売春を強要されていました。もらっていたお金も、20元、50元という小銭にすぎませんでした(1)

 今年4月から、この事件の裁判が始まりました。

公務員の腐敗

 今回とくに問題になったのは、起訴された21名のうち、5名は幹部クラスの公務員(県人事労働・社会保障局幹部、移民事務所主任、土地管理所所長、鎮の司法所幹部、職業高級中学教師、県の人民代表)であったことです。袁莉被告人は以前、旅館をやっており、その時にこうした公務員とも知り合ったため、買春をあっせんしたようです。

 また、現地の警察は事件を摘発せず、被害にあった子どもの保護者が事件を届け出ても、放置していました。事件を処理する際にも、「一般の売買春事件」として処理しようとしました(2)。その背景に、癒着や贈収賄がなかったかという疑問も出ています(3)

「幼女買春(嫖宿幼女)罪」と「強姦罪」

 検察は、幼女を買春した者たちを、「強姦罪」ではなく、「幼女買春(嫖宿幼女)罪」(4)で起訴しました。この点にも批判が出ています。

 中華人民共和国刑法の第236条(強姦罪)は、「相手が14歳未満の幼女と姦淫する者は、強姦と見なし、重く罰する」としています。強姦は「3年以上10年以下の懲役」で、「情状が劣悪」な場合は「10年以上の懲役・無期懲役・死刑」です。

 その一方、刑法は、第360条2項(幼女買春罪)では、「14歳未満の幼女を買春する者は、5年以上の有期懲役に処し、あわせて罰金を課す」としています。「有期懲役」は期限が「15年以下」に決まっていますから(刑法第45条)、「幼女買春罪」は、最低刑は強姦よりも重いけれども、「情状が劣悪」な場合でも、「強姦罪」ほどは重く罰せらません。

 また、中華人民共和国刑法では、「強姦罪」は「公民の人身の権利、民主的権利を侵犯する罪」に属するのに対して、「幼女買春罪」は、「社会の管理と秩序を妨害する罪」に属しています。これは、幼女が自分で売春したので、幼女にも問題があったとされているからです。しかし、今回の場合は、そもそも事件の経緯から見ても、女子生徒たちは、まぎれもない性侵犯の犠牲者でした(以上は、(5))。

 世論の批判があったためか、検察はいったん訴訟を取り下げ、「審理の過程で新しい事実と証拠を発見した」として、「補充捜査」をおこない、その上で改めて起訴をしました。しかし、検察は、袁莉被告人の罪名を「強制売春罪」に改めたものの、その他の被告人の罪名は、「幼女買春罪」のままでした(6)

 北京青少年法律援助・研究センター主任で、中華全国弁護士協会未成年者保護専門委員会主任の佟麗華さんは、そもそも「幼女買春罪」というものは廃止して、14歳以下の幼女との性行為は、すべて強姦罪にすべきだと主張しています。なぜなら、「幼女買春罪は、行為者が、相手が14歳未満の幼女であることを知っているか、そうかもしれないと知っていて、なお性関係を発生させるものであり、幼女姦淫の犯罪の構成に符合している」からです(7)

 昨年の全国政治協商会議でも、劉白駒委員が「刑法を改正し、『幼女買春』を強姦罪として処罰する提案」を出しています。劉委員は、「『幼女買春罪』は、幼女に『売春』する行為能力があることを認めているけれども、刑法236条の規定にもとづけば、性関係に対する幼女の同意は、彼女と性交した人の強姦罪の刑事責任を免除する根拠にはなりえない」と主張し、さらに「現実から見て、大多数の幼女の『売春』は強制されたものである」と指摘しています(8)

未成年に対する性侵害をめぐる他の法律的問題

 佟麗華さんは、他にも、未成年に対する性侵害に関する法律上の問題点を指摘しています。また、最近、北京青少年法律援助・研究センターは「性侵犯事件未成年被害者シンポジウム」を開催しましたが、そこでもさまざまな問題が指摘されました(9)。それらは、以下のようなものです。

 ・捜査段階で、未成年の被害者が被害の状況を繰り返し質問されることによって、二次被害・三次被害を被っている。被害者に対する質問は、できるだけ一回にとどめるとともに、質問のやり方を考慮したり、専門家の補助を得たりするべきである。「公安機関が未成年者の違法犯罪事件を処理する規定(公安機関辨理未成年人違法犯罪案件的規定)」を改正して、被害者の権利を保護するようにすべきだ。

 ・未成年者の性被害は、被害者の年齢が小さく、隠蔽されていることが多くて、しばしば未成年の被害者の陳述だけが証拠なので、立件が難しいという状況がある。現在は、立件の基準が厳しすぎ、一部の立証責任を被害者に転嫁している。立件の基準を調整し、少なくともまず捜査した後に、起訴するか否かを決めるべきである。

 ・被害者が精神的損害賠償を獲得する上で最大の障害は、最高人民法院が次のように規定していることである:「刑事事件の被害者が、被告人の犯罪行為によって受けた精神的損失のために起こした付帯民事訴訟、あるいは被害者が別に起こした精神的損害賠償の民事訴訟は、人民法院は受理しない」。精神的損害賠償に関して、法律で規定すべきである。

 ・未成年者の性被害は隠蔽されているので、医者や教師など、未成年者と接触が多い人に通報の義務を課すべきではないか。

 ・刑事訴訟法の規定では、被害者は、開廷の時刻や場所について知るとか、法廷での尋問で事件の内容を述べるとか、裁判長の許可を得て被告人や証人に質問できるなど、さまざまな権利が保障されている。しかし、未成年の被害者のそうした権利はしばしば無視されている(10)。とくに若干の基層や辺鄙な地区では、被害者が訴訟の進展状況や判決さえ知らないこともある。未成年の被害者が代理の弁護士を必ず指定できるよう、法律の中で指定代理制度を確立すべきである。

(1)貴州習水県多名公職人員渉嫖宿年幼女生(図)」『中国青年報』2009年4月3日。この事件に関しては、特集を組んでいるサイトもあり(「貴州嫖宿事件」鳳凰網、「貴州習水部分官員渉嫌“嫖幼案”」騰訊新聞)、日本のネットでも、「公務員宿舎で中学生11人に…! 衝撃の児童売買春、公判始まる─貴州省」(レコードチャイナ2009-04-12)という記事が出ています。
(2)公職人員嫖宿幼女法不容」大河網2009年4月8日。
(3)李英鋒「習水案:理応像“鉱難”一様問責」『中国婦女報』2009年4月18日。
(4)「幼女買春罪」とは、14歳未満の幼女を買春する罪。幼女が主体的に自ら望む、またはある種の原因で売春活動に従事している状況の下で、売春している者が幼女であることを知りながら買春の行為をおこなうこと。
(5)劉昌松「“強奸”変“嫖幼”,厳打還是放縦」『新京報』2009年4月7日、張栄麗「准確定是伸張正義的前提」『中国婦女報』2009年4月16日、李英鋒「掲穿“定罪嫖宿更厳癘”的謊言」『揚子晩報』2009年4月6日、【地方官僚VS人民】“犯した罪より面子が重い?”売春事件の刑事罰」サーチナ2009/04/08。ただし、法律をそのまま適用すれば、やはり「幼女買春罪」であるという指摘もあります(「習水侵害幼女案適用法律剣指何方」新華報業網2009-5-4)。
(6)貴州習水嫖宿幼女案発現新事実和証据 検方撤訴」『法制晩報』2009年4月22日、「習水嫖宿幼女案改由遵義市検察院提起公訴」新華網2009-5-17(『中国婦女報』2009年5月18日)、「順義検察院有関負責人就習水嫖宿幼女案基礎答問」法制日報2009年5月18日。
(7)専家建議取消嫖宿幼女案 均按強奸罪厳懲」『中国青年報』2009年4月13日。包蹇「習水案:誰選択了“明擺着的漏洞”?」(人民網2009年5月18日)も、強姦罪と幼女買春罪の境界が曖昧で、法律の抜け穴になっていると指摘しています。
(8)政協委員呼吁嫖宿幼女罪納入強奸罪 厳癘打撃犯罪」中国新聞網2009年4月20日。李克傑「从習水案看嫖宿幼女罪立法欠陥」(『燕超都市報』2009年4月11日)も、「刑法は、強姦(幼女)罪を規定するときは、あらかじめ、幼女(の)……性交の意思の表明は無効であるという基本的前提を置いている。その一方で、幼女買春罪を規定するときは、この前提を全面的に否定して、金銭または財産と取引する性交の意思を有効と認定し、そのために行為者に対する処罰を軽減しており、矛盾していると言うべきである」と述べています。
(9)法律存缺陥 未成年被害人很受傷」『法制日報』2009年5月9日。
(10)習水県の事件では、被害者の父親にも、開廷の日時を知らせておらず、入廷しようとしても許可されなかった事例がありました(「“習水嫖宿幼女案”受害者家属至今不知案件詳情」『広州日報』2009年4月14日)。
関連記事

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://genchi.blog52.fc2.com/tb.php/246-668533c3
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

«  | HOME |  »

プロフィール

遠山日出也

Author:遠山日出也
 検索から来られた方へ:このブログの記事を分類した一覧である「『中国女性・ジェンダーニュース+』記事総覧」を見ていただくか、下の「カテゴリー」欄を使われると、関連情報がご覧いただきやすいと思います。最近の行動派フェミニストについては、「中国の行動派フェミニスト年表、リンク集」をご覧ください。
 また、「中国女性・ジェンダー関係リンク集」(リンク集)も併せてご覧いただければ幸いです。
 恐れ入りますが、スパム対策などのため、コメントは私が拝見した後で表示させていただきます。
 私への連絡はtooyama9011あっとまーくyahoo.co.jpまで。

最近の記事

月別アーカイブ

カテゴリー

最近のトラックバック

最近のコメント

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索

リンク

このブログをリンクに追加する

RSSフィード