2017-03

HIV女性感染者のネットワーク

 中国では、HIV感染者の中で女性が占める比率が、ここ10年間で7.1%から35%に急増しました(1)

 エイズの感染、治療・サポートは、女性の地位の問題と深く関わっています(性的自律性、女性の性に対する偏見、経済力、暴力、医療・教育の保障、妊娠・出産、病人の介護などの面で)。ですから、中国でも、以下のようなHIVの女性感染者のネットワークが活動を始めています。

1.タンポポ女性感染者ネットワーク

 2007年3月8日、「タンポポ女性感染者ネットワーク(のちに「タンポポ中国女性ネットワーク」などとも称する。蒲公英中国女性網絡、Dandelion:Association of Chinese Women PLWHA、Dandelion Chinese Women's Network)」が設立されました。女性感染者を中心に、男女のボランティアも含めて100人あまりが加入しています。「タンポポ」という言葉は、生命力の強さを象徴しています。

 このネットワークの目標は、インターネットを通じて女性の力を合わせて、女性感染者と家族のエイズ治療に関する知識や自己看護能力を高め、女性感染者の生存・学習・就労・婚姻・出産の機会・環境を勝ち取り、改善し、治療環境も改善して、生存の質を高め、最終的には「エイズの平等な治療、エイズの平等な生存」を実現することです(2)

 それまでにも、地域に女性感染者の小さなグループはあったようですが、全国的な組織は、「タンポポ女性感染者ネットワーク」が初めてです(3)。べつに男性感染者と対立する組織ではなく、女性には、治療、就労、結婚・育児、家庭看護、心理的な訴えなどの点で男性とは異なる問題があるので結成されました(4)

 このネットワークは、活動内容として、以下のことを掲げています。
 (1)電話相談やQQ群(グループ内で話し合えるネット上のコミュニティ)、ホームページ(今は不通)、フォーラムなどをとおして、女性感染者のために、交流や訴え、相談の場を作る。
 (2)女性のニーズ調査をする。
 (3)独身の感染者に友人・結婚相手募集の場を提供する。
 (4)女性・子どもの個別のケースの整理、および権益の主張。
 (5)不平等な待遇にあった女性や子どものために法律的援助を求める。
 (6)貧困な女性・子どものために資金援助を求める。
 (7)より多く、より高い効果のあるウイルスに対抗する薬、および高い質の治療サービスを求める(5)

 設立したのは、感染者の何田田さんらです。「何田田」というのは、「江南可採蓮,蓮葉何田田」という詩句から採ったペンネームで、彼女は、同名のブログも持っており、書いた文章は、「何田田治療手記」という形でも、まとめられています。何さんは「HIV感染者及関注者圏」というブログサークルも主宰しています。

 上の(2)~(7)の活動がどこまでなされているかは具体的には確認できませんでしたが、少なくとも、(1)の交流や相談は、活発になされています。たとえばQQ群では、感染者の出産や育児の問題(期待と危険性、楽しみと負担の両面がある)がよく話し合われているそうです(6)

 また、昨年から今年にかけて、「タンポポ女性感染者ネットワーク」は、「赤いマフラー(紅囲巾)」行動を起こしました。この活動は、女性感染者が少しずつマフラーを編んで、次々にリレーし、長いマフラーを編んでいく活動です。編んでリレーすることを通じて「生命の意義を次々に伝え、女性感染者がさらに高い質の生活を追求する願いを示し、普遍的に存在している感染者に対する差別と偏見を変える」という主旨だそうです。東部・南部・西部・中部の四つの方面から同時に織り始め、昨年11月、「エイズと芸術展覧および招待会」で披露されました(7)

 また、今年2月には、「ピンク色空間性文化発展センター(粉色空間性文化発展中心)」と共同で、『蒲公英通訊』(PDFファイル)という機関誌も発行しました。

2.「中国女性抗エイズネットワーク」の準備グループ

 今年2月、「中国女性抗エイズネットワーク(中国女性抗艾網絡)」の第1回準備会議がおこなわれ、全国各地から、女性のエイズ感染者だけでなく、多数の専門家の顧問が集まりました。

 このネットワークは、上記の「タンポポ女性~」を基礎にしつつも、「主な目標」として、「女性感染者と女性組織を成長させ、女性の代表性と参与度を高め、女性感染者の地位を向上させ、政策を推進すること」を掲げています(8)

 中国のエイズ対策では、「世界エイズ・結核・マラリア対策基金(世界基金)」(HP日本語による説明)の国内委員会である「国別調整メカニズム(Country Coordinating Mechanism[CCM])」が大きな役割を果たしています。しかし、今年3月の武漢での会議(9)に参加した225名のうち、女性は40名にすぎず、その中で女性と子どもの利益を代表して参加したのは、5名前後だけでした。

 そこで、「中国女性抗エイズネットワーク準備グループ」は、セックスワーカーのために性病防止活動をしている「青島姐妹行健康工作組(10)と共同で、女性の感染者や女性組織がより多く参与できるように、選挙の規則を改善するように4つの提案をおこないました。

 それらの提案うち、2つは採択(2/3の賛成が必要)されましたが、残りの2つは採択されませんでした。採択されたのは、原則的・奨励的な提案(「代表には、一定の比率の女性を確保する」など)であり、採択されなかったのは、具体的に女性枠を「〇人以上」などと決める提案でした。参加者からは、「女性は能力によって競争すべきで、特別待遇を要求すべきでない」といった意見も出されたのですが、それに対して十分な反論が出来なかったとのことで、その点は今後の課題だということです。

 今後、選挙に向けて、「ジェンダーと発展ネットワーク」とも協力して、代表の選出方法を分析したり、女性を動員したり、ハンドブックを作成するなど、さまざまな活動をおこなっていくそうです(11)

[追記(2009.12.29)]
 2009年7月、「女性抗エイズネットワーク・中国」が設立されました(「『女性抗エイズネットワーク・中国』設立」)。

(1)中国のHIV感染者、過去10年で女性比が5倍に」人民網(日本語版)2008年10月21日、「女性のエイズ患者急増、10年間で5倍に―中国」レコードチャイナ2008年10月21日。もっとも、中国のエイズ統計については、感染者を過小に見積もっている疑いが強いと言われます。また、中国の場合、1990年代における河南省を中心とした売血政策による感染者が多いのが特徴ですが(ピエール・アスキ[山本知子訳]『中国の血』[文芸春秋 2006年]など参照)、売血による感染者には、女性も多いと考えられます。
 けれど、いずれにせよ、中国でも、近年、異性間性交渉、売買春による感染の比率が増加しているのは間違いないようです。
(2)"蒲公英”女性感染者組織正式宣布成立」(2007-03-08)何田田新浪博客、「“蒲公英”中国女性網絡聯盟簡介」(2007-10-16)中国紅絲帯網。なお、組織の名称が、後者では、「タンポポ中国女性ネットワーク」と改称されています。これは、恐らく、感染者以外のボランティアや専門家を含めた名称にしたたためではないかと思います。
(3)生命教科書 07十大健康英雄」南都週刊2007年12月4日。
(4)関于女性感染者組織的説明,兼回周筱[斌+貝]版主」(2007-03-19)何田田新浪博客
(5)(2)の「“蒲公英”中国女性網絡聯盟簡介」
(6)何田田「与艾滋戦闘:像蒲公英那様温暖世界」『蒲公英通訊』
(7)“紅囲巾”在行動:一条長囲巾正在女性感染者手中伝逓」(2008-03-08)、「把紅囲巾行動進行到底」(2008-03-26)、「艾滋感染者与芸術社区聯手反歧視」(2008-12-10)。いずれも何田田新浪博客より。
(8)中国女性抗艾網絡「中国女性抗艾網絡第一次籌備会議在北京召開」(2009-03-02)中国発展簡報網站
(9)武漢で、「第2期エイズ・結核・マラリア防止活動NGO会議」と「世界基金中国調整委員会改選選挙コミュニティ会議」の2つが連続して開催された。その2つの会議について言っている。
(10)イギリスのBarry―Martin財団の資金援助の下に、2006年に設立された。娯楽サービスの場で働く女性や流動女性を対象として、性病・婦人病治療などの医療サービスをおこなう。具体的には、青島大学医学院付属病院性健康センターで、HIVと梅毒の無料検査のほか、他の性病・婦人病についても、安価に治療を行っている。青島姐妹行健康工作組のサイトは、セックスワーカーに力点が置かれており、セックスワーカーの人権や互助活動に関する報告も収録されている。
(11)中国女性抗艾網絡籌備組「関于完善選挙規定促進女性参与的建議」(2009-03-02)中国発展簡報網站、「09年04月GAD聚会:从艾滋領域中的婦女参与到促進婦女参与CCM選挙」社会性別与発展在中国HP
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