2017-05

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今年の全人代に提出された女性やジェンダーに関する議案――(3)託児所に関する提案をめぐって

 全国婦連は、今年の全人代に、託児サービスを公共サービスの枠組みに入れるように求める提案も出しました(1)

 全国婦連が北京と上海で調査をしたところ、3歳以下の幼児が幼稚園(託児所)(2)に入っている率は、21%だけでした(3)

 といっても、55.3%(北京)、68.9%(上海)の人は、3歳以下の幼児は、幼稚園(託児所)に入ることが適切だと考えています。けれど、24.8%(北京)と23.9%(上海)の人は、幼稚園(託児所)が見つからなかった経験があり、その人たちは、主に、収入が中程度か、低い人たちでした。つまり、料金の高すぎるのです。

 『中国婦女報』の記事は、保育料が高い背景には、政府が、学齢前の教育に投じる予算が少ないことがあると指摘しています。中国では、教育予算全体に占める学齢前の教育の予算の比重はわずか1.2~1.3%で、この比率は、ブラジルの5.1%やタイの16.4%に比べても低いそうです(4)

 政府のサポートが不足しているために、多くの幼稚園(託児所)では、幼い子どもを預かることに消極的だともいいます。

 また、市場経済化にともなって、国有企業や政府機関が経営する幼稚園(託児所)は減少し、民営(私立)のものが急速に増えています。それでも公営の幼稚園(託児所)の役割は大きいにもかかわらず、一部の国営企業は市場化をおしすすめ、幼児教育の教師を大幅に減らしています。

 そこで、全国婦連は、託児事業の公共サービスの機能を強化するために、政府の各機関が以下のような措置をするように提案しました。
 ・「国家中長期教育計画」において、託児事業の公益性や公営託児所の役割を強調する。
 ・普通の家庭に合った、質が優れた低価格の公共サービスとしての性格を持った託児所・幼稚園を発展させる。
 ・幼稚園の料金を適切に制限して、乳幼児が公平なサービスを受けられるようにする。
 ・労働者に対して託児に関する補助を増額する。幼児のいる家庭に対して所得税の減免をする。

 全国婦連のこの提案は直接触れていませんが、市場経済化は、女性が圧倒的多数を占める幼稚園の教師の待遇にも大きな影響を及ぼしています。民営の場合はまったく補助を受けることができないため、私立の幼稚園は苦境に立たされており、教師の待遇はとくに低いです。

 2006年に『厦門日報』が、公立と私立の幼稚園の教師、200人ずつ(すべて女性)にアンケートをしところ(有効回答は公立112、私立154)、以下のような結果でした。
 1日の労働時間
 ・公立は、「8時間」が60%で、「8─10時間」が40%。
 ・私立は、「8時間」は27%で、「8─10時間」が60%、「10─12時間」も13%。
 1月の賃金
 ・公立は、2000元以上が62%。1500─2000元と1000─1500元が14%ずつ。800─1000元と800元以下が5%ずつ。
 ・私立は、2000元以上は皆無で、1500─2000元も3%だけ。1000─1500元が44%で最も多く、800─1000元が38%、800元以下が15%。
 賃金水準の満足度
 ・公立でも、「満足」は2%だけで、「わりあい満足」が34%、「不満足」が57%、「非常に不満足」が7%。
 ・私立では、「満足」は皆無、「わりあい満足」が31%、「不満足」が37%、「非常に不満足」が32%(5)

 公立の場合でも、教師の待遇は十分ではないようですが、とくに私立は待遇が低いと言えます。

 とくに出稼ぎ労働者が多い都市では、彼らの子どものための私立幼稚園が非常に多いのですが、保護者に経済力がないため、経営は苦しいです。たとえば広東省海口市では、急増した私立の中小の幼稚園は設備が粗末で、子どもたちが遊ぶ場所もほとんどないそうです。教師は、みな一日10時間以上働くのに、一般に月収は500元に達しておらず、社会保障もありません。海口市の最低賃金基準は450元ですが、これは社会保障がある状況の下での金額なので、私立幼稚園の教師の賃金は、実質的には最低賃金にも達していません(6)

 農村部の幼稚園の教師の待遇はさらに劣悪で、幼稚園教師の資格を持っていても、身分は農民であり、月収は2、300元程度で、社会保障もないということです(7)

 また、公立・私立を問わず、近年増加している臨時や契約制の保育員は待遇が低いという問題もあります(8)

 全国婦連が全人代に上述ような提案を出したのは、上でも言及があるように、現在、教育部が、今後12年間の教育についてのプランである「中長期教育改革と発展計画要綱[国家中長期教育改革和発展規画綱要]」に対して意見を求めていることと関係があると思います。「中国学前(「学齢期以前」の意)教育研究会」も、このプランに対してさまざまな意見を出していますし、その中には教師の待遇の問題に触れたものもあります(9)。けれど、婦連や『中国婦女報』は、従来から幼稚園の教師の待遇については、ほとんど取り上げていません。

 しかし、ある幼稚園の教師は、自分のブログで次のように述べています。
 「いま、私たち幼児教師の地位は、社会のほとんど最底辺に落ちようとしているのに、まだ指導的階層に重視されていない。その原因はどこにあるのか? 私たちがみな女だからである」
 「国家はずっとマクロな経済をコントロールして都市と農村の収入の格差を縮める努力をしているけれど、いつになったら私たち幼児教師と小中学校の教師、大学教師との格差を考える時間を取ってくれるのだろうか? 同じように高等教育を受け、同じように困難な頭脳的肉体的労働に従事し……」(10)

 やはり婦連も、女性の地位の問題として、幼稚園の教師の待遇の向上に取り組むべきではないかと思うのです。

(1)全国婦聯建議:将托幼服務納入公共服務框架」『中国婦女報』2009年3月10日。
(2)ネットで読める一見真理子「中国の幼児教育──ここ十年の変化と今後──」(『教育と医学』第51巻2号[2003年2月])によると、「託児所は0~3歳の子どもを預かる衛生部門主管の機関であるが、近年は幼稚園に改組され、合併吸収される傾向にある」、「『幼稚園教育指導要綱』(2001年)によれば、近い将来中国の幼稚園は、0~6歳を対象とし得る乳幼児のための保育・教育の総合的な機関に変わる見込みである」とのことです。なお、一見さんには「教育政策と市場経済のはざまで─中国における早期教育事情─」(『内外教育』2005年11月29日)という報告もあります。
(3)お茶の水女子大学COEプログラム「ジェンダー研究のフロンティア」の中国パネル調査の2004年度における北京の中心8区での調査によると、第1子の主な保育者が「託児所」であるのは、「満1歳まで」では6%であり、「1~3歳」では31%となっています。この数値は全国婦連の調査と整合性があるように思います。
 また、この調査は、若い世代ほど託児所の利用が減少し、かわりに親族および母親の関与が増えていることも明らかにしており、その背景について、以下のように推察しています。
 「改革開放政策と国有企業改革の中で健康な40、50歳代の女親の多くが引退している。逆に経済発展によって若い世代は収入が増え、また今後も増える見通しが高まっている。その一方、市場経済化の中で国有企業が株式会社化され、また小規模の民間経営の企業も増えた。国有企業が所有している託児所は閉鎖されたものもあり、また託児所の経営方式がかわる中で費用負担も上昇している」
 以上については、お茶の水女子大学21世紀COEプログラム「ジェンダー研究のフロンティア」(F-GENS)プロジェクトB編『家族・仕事・家計に関する国際比較研究:中国パネル調査第1年度報告書』(2005年)第6章「家族と保育」(永瀬伸子・長町理恵子執筆)を参照してください。
(4)中国学前(「学齢期以前」の意)教育研究会理事長で北京師範大学教授の馮曉霞さんも「長い間、数字は教育経費の1.3%前後である。国際的平均水準は3.8%であり……このような状況の下では、市場は公平性の問題を解決することはできない」(「我国教育経費僅1.3%投入幼教 遠低于国際平均値」人民網2009-4-12)と述べています。
(5)「当個幼児教師容易嗎?」『厦門日報』2006年11月19日。馮曉霞・蔡迎旗「我国幼児園教師隊伍現状分析与政策建議」(『人民教育』2007年11期)も、地位・待遇の低さ(職掌、定員削減、報酬の面で)、仕事の重さ、農村の幼稚園の教師の身分の問題などを指摘しています。
(6)関注幼児教師的生存状況」人教論壇2007-4-5(もとの記事は、海南新聞網2006年10月23日付より)、「幼教工作:不同崗位不同圧力」『珠海特区報』2008年5月12日など。
(7)注(5)の馮曉霞・蔡迎旗「我国幼児園教師隊伍現状分析与政策建議」にも書かれていますし、山東省臨[月+句]県では「全県の10%の農村幼児教師の一月の賃金は200元に足らず、70%の人は一月の賃金は300元前後であり、20%前後の人が50元以上の賃金を得られるといい(陳強「農村幼児教師待遇亟待提高」[2004-12-27]全国人民政治協商会議全国委員会辨公庁HP)、河北省石家荘市霊寿県では、200元だといいます(「幼児教師待遇太低 河北省石家荘市霊寿県全体農村幼児教師致新聞媒体的一封信」2007年2月23日中国幼児教育網)。
(8)十個保育員370元月薪拿三年 交社保后難糊」『楚天都市報』2007年3月16日、「幼児園保育員臨時工毎個月只有400元工資」中顧網など。
(9)重要専題:積極為幼教事業建言献策!」中国学前教育研究会HP
(10)呂楽「社会対于我們幼児教師来説公平嗎」『緑旋』(幼児教師博客)。幼稚園の教師のうち、高等教育(大学、専科)を受けた人の割合は、2001年には30.5%だったのが、2005年には49.2%に達しているだけに(注(5)の馮曉霞・蔡迎旗「我国幼児園教師隊伍現状分析与政策建議」)、こうした矛盾は大きくなっていると思います。

※なお、西山佐代子「社会主義市場経済政策下中国の幼稚園行政に関する研究」(その1)~(その3)『北海学園大学経済論集』第53巻第1号~第3号(2005年)が、市場経済化に伴う幼稚園(託児所)行政について、きわめて詳細に論じています。(その3)では、北京と瀋陽の幼稚園の園長への聞き取りもおこなわれ、現場の試みがわかるとともに、幼稚園の格差拡大、利用者負担の増大、教師の待遇の低下を含めた、さまざまな問題も明らかにされています。西山氏には、この論文以前に、「社会主義市場経済下中国の都市保育行政の動向」『北海学園大学経済論集』第51巻第1号(2003年)、「中国の幼稚園経営体制改革」第51巻第2号(2003年)などの論文もあります。
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