2017-05

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

今年の全人代に提出された女性やジェンダーに関する議案(2)――DVに関する提案

 2回では書ききれなくなりましのたで、当初の予定を変更して、3回に分けて紹介させていただきます。今回は、DVに関する3つの議案を見てみます。

1.「DV防止法」を全国人民代表大会常務委員会の立法活動計画の中に入れる提案(1)

 昨年7月、このブログでもお伝えしたとおり、中共中央宣伝部、最高検察院、公安部、民生部、司法部、衛生部、全国婦連という7つの部門が合同で「DV防止のための意見」を公布しました。しかし、「意見」というのは、政策的な意味は持っていますが、法律ではありません。また、この「意見」は、内容的にも一定の原則を示したにとどまっている面があります。

 ですから、今年は、全人代の常務委員会に「DV防止法」を制定することを求める提案が出されました(1)。ただし、同様の提案は、昨年も出されています(昨年の本ブログの記事参照)。

 むしろ今年の特徴は、以下ののような、より具体的な提案が出されたことのようです。

2.公安機関(警察)のDVの予防・制止の規範を制定する提案

 この提案は、陝西師範大学教授の屈雅君さん(全国人民代表)がおこなったもので、警官がDVの通報を受け対処する際の職責と行為基準を詳しく規定するように求めたものです。

 具体的には、・通報を受けたら直ちに現場に行くこと、・暴力の制止、・質問の調書の作成、・証拠の保全、・負傷の程度の鑑定、・報告書の作成などを定めるよう提案しています。

3.「人民法院がDVに関係する事件を審理し、人身保護裁定を適用することに関する若干の問題の規定」を制定する提案

 これは、尚紹華さん(全国政治協商会議委員)がおこなった提案です。この提案の背景には、昨年3月、最高人民法院の中国応用法学研究所が、裁判官の参考に供するために「DVに関わる婚姻事件の審理の指南(渉及家庭暴力婚姻案件審理指南)」(2)を出したことがあります。

 この「指南」は全81条の詳細なものですが、第3章で「人身安全保護措置」を定めています。「人身安全保護措置」とは、法院(裁判所)が、被害者の申請にもとづいて、以下のような内容の人身安全保護裁定を出すことができるというものです(第27条)。
 1.被申請者(通常は加害者、以下「加害者」と称す)は、申請者(以下、「被害者」と称す)やその親、友人を殴打したり、脅迫してはならない。
 2.加害者は、被害者にハラスメントをしたり、つきまとったり、被害者やその未成年の子どもに歓迎されない接触をしてはならない。
 3.人身安全保護裁定が有効な期間は、夫婦の一方が勝手に、価値の比較的大きい夫婦の共有財産を処理してはならない。
 4.必要性があり、かつ条件がある場合は、被害者をしばらく双方の共同の住まいから引っ越すように命令を下すことができる。
 5.被害者の住まい、学校、職場、その他のいつも出入りする場所から200m以内において、加害者が活動することを禁止する。
 6.必要なときは、被害者に自費で心理的な治療を受けるように命ずることができる。
 7.被害者およびその特定の親族の人身の安全のためのその他の措置

 この人身保護裁定には緊急保護裁定と長期保護裁定があります。緊急保護裁定の有効期間は15日、長期保護裁定は3~6カ月、たしかに必要な場合は12カ月まで延長できるとされています(第29条)。

 疑問を感じる規定もありますが、ある程度、欧米や台湾、日本の保護命令に近いものを規定しているようです。

 ほかにも、この「指南」には、多数のこれまでにない内容を含んでいます。とくに以下の点は注目されます。
 ・DVの定義に、身体的暴力だけでなく、性的暴力、精神的暴力、経済的支配を含めたこと(第2条)。
 ・関係する事件を審理する裁判官は、毎年、12時間以上のジェンダー意識研修と18時間以上のDVの知識の研修を受けるべきこと(第20条)
 ・DV事件については、一定の状況の下では立証責任の転換をすべきだとしていること(第40条)、DVの専門家の意見を法廷で聴くように勧めていること(第44条)。
 ・財産分与の際、DVの被害者は共有財産の70%以上を獲得させるべきこと(第58条)。原則的には、未成年の子どもの養育はDVの加害者がおこなうべきではないとしていること(第63条)
 ・調停に際しては、「被害者は悪くない」という原則を貫くべきとし、被害者を責めたり、殴らないことの交換条件として被害者の行為を改めるように要求したりする(3)ことを禁じていること(第70条)。また、裁判官は調停の過程で、被害者に対する加害者の不当な影響を減らし、被害者が自分の権利を主張する能力を高めるべきだとしていること(第71条)。

 この「指南」は、全国の9ヵ所の基層(末端)の法院で試験的に使われています。昨年8月、その1ヵ所である江蘇省無錫市の法院が初の人身安全保護裁定を出したことは、本ブログの記事でもお伝えしたとおりです。この裁定は、中国初の「反DV保護命令」であるとも報道されました。

 しかし、その人身安全保護裁定の内容は「殴打・脅迫を禁止する。本裁定は今から3カ月間有効で、この裁定の送達後、ただちに執行する」というものにすぎませんでした(4)。つまり、「指南」の第27条の1の、現行法でも既に禁止されていることを命じただけであって、内容的には「保護命令」とは言い難いものであり、この点に対しては法学者からも批判が出ています(5)

 四川省重慶市の渝中区の法院も「指南」を活用して幾つかの人身安全保護裁定を出していると報じられていますが、まだ本格的な「保護命令」のようなものは出てないようです(6)。「指南」の他の部分に関しても、なかなか実施が困難な部分があると思われます。

 いずれにせよ、「指南」は、あくまで「参考に供する」のためのもので、ごく一部の法院で試験的に使われているにすぎません。

 今回、尚紹華さんは、どの裁判所も人身安全保護裁定を下せるように、最高人民法院が「司法解釈」(最高人民法院が決めた法律の解釈)を出すように上記の提案をしたわけです。

 先日の『中国婦女報』の記事は、「DV防止法」と警察の行動規範、裁判所の人身安全保護裁定が合わされば、DV反対のための力になることは間違いないと述べています(7)。 

(1)針対家庭暴力,法律框架期待成型」『中国婦女報』2009年3月10日。以下のの提案についても、この記事で述べられています。
(2)最高人民法院中国応用法学研究所「渉及家庭暴力婚姻案件審理指南」(2008年3月)中国公益律師協作網HP、陳敏「《渉及家庭暴力婚姻案件審理指南》出台背景及其対案件審理的影響」(『通訊』35期[PDFファイル]16-19頁)は、中国応用法学研究所の陳敏さんが、この「指南」の意義を述べた記事です。なお、この記事の「編者按」には、「この指南は、厳密な意味での法律ではなく、裁判官がDV事件の特徴と法則にとづいてこうした事件を処理するように指導する『裁判官のハンドブック』だれども、最高人民法院の指導部が批准したものであり、最高人民法院のDVに反対する意志と決心をやはり代表している」とあります。
(3)こうしたやり方が、中国の新聞ではむしろ肯定的に報じられている場合もあることを、私は、拙稿「中国のDVシェルターの歴史と現状」(『中国女性史研究』16号)の54-55頁で言及しました。なお、DVに対する中国の政策や運動については、拙稿「中国におけるドメスティック・バイオレンスに対する取り組み」(『中国21』27号[2007年3月]、229-246頁)に簡単にまとめてあります。
(4)無錫法院初試“反家暴保護令”」『民主与法制時報』2008年9月7日。
(5)王琳「誰来保護“反家庭暴力保護令”」『広州日報』2008年9月10日。王琳さんは、男性の法学者で、ブログ(王琳的博客)も持っています。
(6)再打老婆就拘留你! 重慶発出首批人身保護令」『重慶時報』2008年10月23日。この記事で挙げられている人身保護命令の内容は、①夫に勝手な財産の処分を禁じたもの、②「無視」という精神的暴力をふるう夫に対して、7日以内に意思疎通を命じたもの、③夫に6ヵ月の観察期間を設け、もしそれを破ったら離婚させるとしたもの、④暴力を禁じるとともに、妻の出廷を免除したものです。
(7)(1)に同じ。
関連記事

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://genchi.blog52.fc2.com/tb.php/239-f48392b2
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

«  | HOME |  »

プロフィール

遠山日出也

Author:遠山日出也
 検索から来られた方へ:このブログの記事を分類した一覧である「『中国女性・ジェンダーニュース+』記事総覧」を見ていただくか、下の「カテゴリー」欄を使われると、関連情報がご覧いただきやすいと思います。最近の行動派フェミニストについては、「中国の行動派フェミニスト年表、リンク集」をご覧ください。
 また、「中国女性・ジェンダー関係主要HPリスト」(リンク集)も併せてご覧いただければ幸いです。日本の問題の一部は、「ウィメンズ・アクション・ネットワーク(WAN)の労働争議・まとめ」や「館長雇止め・バックラッシュ裁判」でまとめています。
 恐れ入りますが、スパム対策などのため、コメントは私が拝見した後で表示させていただきます。
 私への連絡はこちらまで

最近の記事

月別アーカイブ

カテゴリー

最近のトラックバック

最近のコメント

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索

リンク

このブログをリンクに追加する

RSSフィード

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。