2017-11

今年の全人代などに提出された女性やジェンダーに関する議案(1)

 先月開催されていた、今年の全国人民代表大会(全人代)や全国政治協商会議(全国政協)にも、代表や委員から、女性やジェンダー問題に関する議案がたくさん提出されました。一般の代表や委員が提出した議案は、国務院や全人代の常務委員会(全人代の常設機関)が提出した議案と違って、すぐに成立する見込みはまったくありません。しかし、それなりに時代の動きを反映している面があると思いますので、その中のいくつかを、2回に分けてご紹介します。

 今年は、全国婦連の要人による提案が目立ったように思います。

1.「婦女権益保障法」を、全国人民代表大会の常務委員会の法律執行の点検計画の中に入れる議案(1)

 「婦女権益保障法」は女性の権益についての基本法です。1992年に制定され、2005年に改正されました。けれども、あまり守られていません。

 そこで、今年、全国婦連副主席・書記処書記の陳秀榕さんが主提案者になって、全国人民代表大会の常務委員会が2009年と2010年に法律の執行状況を検査する際に、「婦女権益保障法」についても検査するように提案しました。

 とくに、下の4つの領域を重点的に検査することを提案しています。
 ①雇用における女性の権利……国際金融危機の下で脅かされている。
 ②農村女性の土地権……下の参照。
 ③出産[生育]保険と出産救助……出産保険は、他の社会保険と比べてカバーしている範囲が少ない(2008年11月末時点で、入っている労働者は8995万人)。また、農村では、貧困のために病院で出産できない女性がいる。
 ④女性の政治参加……全国人民代表大会の代表のうち、女性は21.33%で、「22%」という要求に達していない(本ブログの記事「全人代の女性代表比率を『22%以上』と規定へ」[2007-3-10]、「全人代の女性代表の比率、21.3%にとどまる」[2008-3-1]」参照)。

2.農村女性の土地権益を保障する問題に関する提案(2)

 この提案は、全国婦連副主席・書記処書記の甄硯さんが主提案者になって提出しました。全国婦連の統計によると、ここ数年、婦連に対して女性が集団で訴えて来る問題で、最も多いのは、農村女性の土地権益の問題だそうです。

 中国の農村では、「村民委員会の決定」や「村民大会の決議」という形を取って、勝手に、嫁に出た女性や離婚した女性、夫を失った女性、あるいは婿入りした男性には土地請負権を与えないことが少なくないと言われます(この件については、本ブログでも、以前「農村女性の土地経営請負権をめぐる裁判」を紹介しました)。

 改革開放後、都市化・工業化による農地の収用に伴って、農民が農地を失う場合が増えているのですが(3)、そうした際、女性の農民に対しても、その補償金や再就職・職業訓練・生活保障などが問題になっています。上述のように土地請負権が実質的には(個人ではなく)家族単位で与えられていて、また、女性の就職が厳しい状況では、土地の収用の際、女性の権益はとくに侵害されがちです。

 そこで、甄硯さんらは、以下のような提案をしています。
 ・「村民委員会組織法」や「農村土地請負法」の改正や運用を通じて、地方政府に農民女性の土地権を守らせる。
 ・土地の収用後の補償や再就職の状況について、男女別に把握をする。弱者層のための保障の基金を設立する。
 ・最高人民法院は、土地を失った女性の農民の権益をめぐる事件を研究する。

3.社会保険法(草案)の修正に関する建議

 「社会保険法」は、中国の社会保険制度の基本的な枠組みを定める法律です。2007年12月に全国人民代表大会常務委員会で審議が開始され(4)、昨年末には草案の全文が広く国民に公表されました(5)

 それに対して、全国婦連組織部長の張黎明さんらは、「社会保険法(草案)の修正に関する建議」を提出し、以下のような点を要望しました(6)
 ・総則で「公平公正の原則」を謳うべきである。具体的な制度設計において、性別、職業、戸籍、都市と農村などによる差別が出現しないようにするべきだ。
 ・近年、臨時工や派遣労働者、露店商人、パートタイマーなどの非正規就労者が増え、都市の在職者の40%前後を占めるようになった。その過半数は女性である。社会保険法の調整の範囲と対象を広げ、そうした非正規就労者もカバーするべきである。また、低収入の者の保険料は、政策的に補填するべきである。
 ・婦連や共青団(共産主義青年団)などの社会組織に、立法や法の執行情況を監督する職能を賦与するべきである。
 ・性による平等を促進するべきである。女性は有償労働をしている人数や時間が男性より少ないため、高齢女性は年金がないか、少なく、貧困である。納付比率や納付年限、受益水準を測定する際に、男女両性の違いに注意せよ。条件があるところでは、高齢寡婦手当を支給すべきだ。
 ・財政面において、政府の責任を強化すべきである。
 ・出産[生育]保険は、女性が担う人類の再生産の社会的価値の補償であり、普遍的なものであるべきだ。出産保険がカバーする範囲を拡大し、労働者の出産保険だけでなく、都市住民の出産保険、農村の新型合作医療出産保険を包括することを明確に規定すべきである。

 その他、社会保険法に関しては、以下のような記事も出ています。
 ・社会保険法に遺族保険制度を入れることによって、高齢女性の貧困を減らし、家族の負担を減らすべきである。夫婦2人とも年金がある高齢者には必要ないので、さほどの財政支出にはならないはずである(7)
 ・男女の定年差別をなく(したうえで社会保険法の規定を作成)すべきである(8)

(1)《婦女法》応列入人大執法検査計劃」『中国婦女報』2009年3月10日。
(2)甄硯等委員提交建議 切実保障農村失地婦女土地権益」『中国婦女報』2009年3月9日。
(3)土地を失った農民(失地農民)の問題については、ネット上では、矢吹晋「失地農民」『21世紀中国総研』第24号(2006.7.6)、「工業化の犠牲、土地失った農民が1億人へ」(exciteニュース2009年3月15日)など参照。
(4)中国、社会保険法の制定に着手」中国国際放送局HP(日本語)2007年12月23日、「社会保険法等法律案将首次審議」『中国婦女報』2007年12月18日。
(5)中華人民共和国社会保険法(草案)」新華網2008年12月28日。
(6)社会保険立法応充分考慮性別平等」『中国婦女報』2009年3月10日。
(7)全国政協委員建議 社会保険法中増加遺属保険」『中国婦女報』2009年3月13日。
(8)劉明輝「対《社会保険法》(草案)的幾点意見」(2009-2-16)婦女観察HP
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