2017-04

職場におけるセクハラの調査とセクハラ防止法の提案

 2月26日、「職場のセクシュアルハラスメント立法の調査研究」課題グループが、セクハラについての調査結果を報告する会を開催しました。また、この会では、同グループが起草した「職場のセクハラ防止法」についても、社会の各界からの意見を聞きました。この草案は、修正された後、全国人民代表大会に提案されます(1)

 中国の婦女権益保障法には、「女性に対するセクハラを禁止する」という規定があるのですが、このような簡単な規定だけでは不十分なので、今回のような調査や提案がなされたのです。

 上の課題グループは民間のものであり、王行娟(北京紅楓女性心理相談サービスセンター理事長)、王金玲(浙江社会科学院社会学研究所所長)、魯英(中山大学女性・ジェンダー研究センター元主任)の各氏らによって構成されています。

 民間からの提案なので、全人代に提出してもすぐ立法化されるわけではけっしてありません。しかし、今回ほどまとまった調査やきちんとした立法の提案は、従来なかったと思います(2)

 以下、そのごく一部を紹介してみます。

職場におけるセクハラの調査研究報告

 《工作場所性騒擾調査研究》報告(ワードファイル)

 2007年3月から2008年12月までの間に、北京・杭州・広州の3都市で、1500人に対してアンケート調査をおこないました。対象者の性別は、女性が61%、男性が39%でした。年齢は、35歳以下が67.29%でした。座談会や個別のインタビューもおこないました。その結果、たとえば、以下のような点が明らかになりました。

 ・3年以内にセクハラをされたことがある人が82.88%である(王行娟さんによると、比率が高いのは、調査対象者の中に、セクハラが多い職業[サービス業や娯楽産業]で働いている人が多いからだとのことである)。性別で見ると、女性は80.87%、男性は86.01%に経験があり、セクハラを「男性の女性に対する行為」としてのみ理解するのは間違っている。ただし、加害者は主に男性である。すなわち、女性が被害者の場合は、加害者は男性が88.7%であり、男性が被害者の場合でも、加害者は70%前後が男性である。

 ・セクハラの形式としては、猥褻なジョーク[黄色笑話](72.62%)、猥褻なショートメッセージ[黄色短信](12.30%)が多い。

 ・不快さや健康・仕事・生活への影響は、女性の方が深刻である。たとえば、心理的健康に対して影響があった人は、男性は39.85%だったのに対し、女性は57.62%であり、仕事に対して影響があった人は、男性は44.9%だったのに対し、女性は63.31%であった。

 ・セクハラの被害にあう比率が最も高かったのは、よその農村から来た人(91.32%)で、次いで当地の農村から来た人(87.75%)である。それらの人々に比べると、当地の市街地区の人(79.0%)、当地の町[鎮]の人(81.9%)は少ない。これは、都市と農村の差別の結果である。

 ・セクハラの発生と収入・学歴・婚姻状況とは目立った関連はない。セクハラは、比較的普遍的な現象である。

 ・セクハラに対して、女性の34.07%と男性の38.68%は反抗的な行動をしない。女性が行動しない理由は、「針小棒大に言っていると思われるのが怖い」(52.20%)、「むしろ自分のほうが積極的だったと思われるのが怖い」(8.4%)、「軽蔑されるのが怖い」(7.00%)、「行動しても無駄だ」(6.60%)である。

 ・女性の91%と男性の79%が、反セクハラのために立法が必要だと考えている。

 ・婦女権益保障法の中にセクハラを禁止する条項があることを、女性の39.40%と男性の35.84%が知らなかった。

 男性に対するセクハラが広範にあるという結果は興味深いです。ただ、「電話で下品な話をされた」は、女性38人、男性10人で、「無理やりキスまたは抱擁された」は、女性4人、男性1人であり、「いつも体を触られる」は、女性8人、男性4人であり、こうしたセクハラはやはり女性の方が多いです(対象者の総数が女性は男性の1.5倍なので、その分を割り引かなければなりませんが)。ただし、男性もこうしたセクハラをされる場合があることは見ておかなければなりません。

 また、都市と農村の差別の問題は中国特有でしょう。

職場のセクハラ防止法(建議稿)

 工作場所性騒擾防治法(建議稿)(ワードファイル)
 関于《工作場所性騒擾防治法(建議稿)的説明(ワードファイル)

 第1章「総則」では、セクハラの定義や、「予防に重点を置く」「すぐに制止する」「女性の被害者には特別な保護をするが、男性も保護する」「二次被害を防止する」などの基本原則が示されています。また、職場でのセクハラ防止のための専門機構を「人力資源と社会保障部(日本で言う厚労省)」に設立するという「政府の責任」にも触れています。

 第2章「人を雇う組織[単位]と雇い主の義務」では、セクハラ防止の制度の確立、従業員への研修、即時の処理、証拠の保全、訴えた者に対する差別禁止、被害者のサポートなどの義務を定めています。

 第3章「救助の措置」では、被害者は、警察・職場への訴え、調停の申請、訴訟の提起ができることのほか、被害者が職場の非協力などにより証拠を集められないときは、裁判所自らが証拠を集めるべきことも規定してあります。立証責任を被害者だけに負わせないことや、被害者へのカウンセリングや治療についても定めています。

 第4章「法律上の責任」では、加害者の民事責任と刑事責任のほか、使用者の民事賠償責任や国家の関係機関の職員の不作為責任も規定してあります。

 私はセクハラに関する法律問題は詳しくないのですが、行き届いたもののように思えます。

(1)向全国人大提交《工作場所性騒擾防治法》(建議稿)議案──工作場所性騒擾立法調研成果分享与研討会在京召開」北京紅楓婦女心理諮詢服務中心HP
(2)セクハラについての司法解釈(最高人民法院が出す、法律の解釈)については、すでに昨年、建議稿が、中国法学会DV反対ネットワークと中国社会科学院法学研究所ジェンダー・法律研究センターによって作成され、全人代にも提案されました。この建議稿には、セクハラの定義、賠償責任、人を雇う組織[単位]の責任、審理と執行の手続き、証拠などに関する詳細な規定があり、今回の立法の提案とも重なる部分があります(「性騒擾訴訟“立案難”、“取証難”、“賠償難”  代表委員呼吁出台性騒擾司法解釈」『中国婦女報』2008年3月25日、「《人民法院審理性騒擾案件若干規定》専家建議稿的説明」中国法学会反対家庭暴力網絡HP2009-2-6)。この建議稿に対して、昨年、最高人民法院は、「機が熟したときに、司法解釈を出す」という趣旨の返答をしています(「将性騒擾防治内容納入侵権法中」『中国婦女報』2009年2月27日←この記事の末尾に書いてあります)。
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