2017-08

学校内の性暴力――四川からの2つの訴えより

 昨年11月頃から、「四川の留守少女(父母が出稼ぎに行って農村に残された少女)の涙の訴え(一個四川留守女孩的哭訴)」という手紙が、あちこちのサイトの掲示板に掲載されています。

 その手紙は、父母が深圳に出稼ぎに行っている、四川省の中学2年の女子学生からのものです。彼女は、2006年10月以来、クラス担任にたびたび強姦されており、そのことを誰にも言えませんでした。しかし、そのことを書き付けていたメモ帳を親戚に見つかって、ことが発覚しました。他にも多くの被害者がいることがわかり、犯人の教師は裁判にかけられて、一審で2年、二審で1年半の判決を受けました。しかし、なぜかその刑は執行されていません。それは、犯人の教師やその家族が地方の有力者であることを利用して、罪を逃れようとしているからだとということです。

 その女子学生の一家は、深圳にある「春風ネットワーク(中国性侵害[犯]予防ネットワーク)(春風網(中国性侵害[犯]預防網))」に連絡を取って、助けを求めました。春風ネットのボランティアは彼女に会いに行くとともに、そのサイトの中に「留守女童不能承受的生命之痛」という特集ページを作成しました。

 春風ネットワークについては、以前、このブログでも取り上げたことがあります(深圳で強姦被害者への救援活動性侵害の被害者援助サイト「春風ネット」)。春風ネットは、最近は香港の「関注婦女性暴力協会」とも交流をおこなっていますが(1)、中国国内でもこうした組織が活動しているのは希望です。

 といっても、その女子学生は、今は父母が仕事をしている深圳にいるのですが、2年間、学校に行っていません。ボランティアが面会に行ったときも、何も語らず、心の傷は深い様子だったとのことです。

 この事件の場合は、地方における権力の問題も絡んでいるようですが、一般に留守女児(留守女童)はとくに性被害に遭いやすいことは広く指摘されています。その原因として指摘されているのは、以下の3点です。
 (1)とくに農村では、家庭でも学校でも、性に関する教育が立ち遅れている。そのため、女児が性に関する知識がなくて被害にあいやすいし、被害にあってもどうしていいかわからない。
 (2)保護者である父や母が、子どもを守る役割を果たせない。
 (3)農村、とくに辺鄙な山村は、犯罪者が隠れやすい。また、農村の留守女児は、野外で1人で労働(草刈り、牛・羊の放牧など)をしなければならないことが多い(2)

 上のケースは、もちろん教師による性暴力の問題でもあります。中国では、小中学校の教師による生徒の強姦事件がしばしば起きており、2003年には、『中国婦女報』も、学校での性侵犯に関する特集を組みました。その特集の中では、問題の背景として、以下のような点がが指摘されています
 ・性教育の立ち遅れによる学生の自己保護力の弱さ
 ・中国の「師を尊ぶ」伝統
 ・教師に対する評価が成績の向上だけになっていること
 ・教員採用のルーズさ
 ・学校が臭いものにふたをすること
 ・被害者に偏見の目が向けられてその学校に通いにくくなること
 ・学校にこうした問題を扱う制度がないこと(3)

 同じ2003年には、教育部・公安部・司法部も、教師の学生に対する性犯罪について通達を出しました。この通達は、学生に対する教師の性犯罪は、校長や教育行政部門に指導責任があること、学校の性犯罪の報告制度を設けるべきことなどを述べています。しかし、それ以上のことは具体的には書かれていないようです(4)

 また、最近、「徳盟ネット―中華全国反校内暴力と少女権益保護教育救助全国社団組織(徳盟網―中華全国校園反暴力与少女権益保護教育救助全国社団組織)」というHPが開設されました。そのHPには、2008年12月8日に「中華全国反校内暴力および女子学生権益保護教育救助ボランティア社団」が設立されたと書かれています(「中華全国校園反暴力及女生権益保護教育救助志願者社団宣布成立」)。これは、主に校内暴力(学生による暴力も含む)による女子学生の被害を扱うHPであり、社団のようです。

 この社団の実態はよくわかりませんが、上のHPには、同じ12月8日付けで、やはり四川省の被災地の大学生の「雪山飛狐」という人が書いた「敬愛する胡錦濤総書記、敬愛する温家宝総理、教育部および全国の各メディアへの公開状(「致敬愛的胡錦濤総書記温家宝総理教育部及全国各媒体一封公開信」)が掲載されています。

 その公開状は、最近、全国の学校で暴力事件や女子学生の権益が侵害される事件が増えていることや、そうした事件を婦連や規律監察部門に訴えても、それらの機構の職能などの関係で助けが得られないことを述べています。だから、党や政府に、校内暴力や女子学生の権益侵害を管轄する専門機構を設立してほしいと訴えています。それと同時に、汶川地震(四川省大地震)の時のように、ボランティア組織が社会の基層に入っていくことも重要なので、徳盟網は、それをおこないたいと述べています。

 このHPは、様々なひどい暴力や性暴力、腐敗があることを示しています。

 しかし、おおむね雑多な記事を寄せ集めているだけのようで、この組織の社会的実践を示す文はほとんど掲載されていません。掲げている理念も、「人権」や「性暴力反対」ではなく、「正しい価値観、愛情婚姻観、人生事業観」などであり(5)、今のところ、それほど意味のある動きのようには思えません。このHPには春風ネットからもリンクされているところを見ると、べつに怪しげな団体ではないとは思いますが、今後、様子を見ていきたいと思います。

(1)周湘「我們用愛関注──深港関注性暴力団体交流活動側記」(2008-5-4)春風網
(2)伍慧玲 陸福興「関注農村留守女童的性安全問題」(2007-8-25)湖南社会学HP
(3)2003年5月29日付けの『中国婦女報』が「本期主題:譲校園遠離性侵犯」という特集を組んでいます。特集の中の記事を見ると、編者「給児童一個安全的環境」は、学校の管理者や管理機構自身の責任が問われていないことを問題にしています。于懐清「他們為什麼選択沈黙-訪青少年法律援助与研究中心主任 麗華」という記事の中では、麗華さんは、未成年者に対する二次被害を防ぐ法的規定がないことや、刑事事件に付帯する民事訴訟では、精神的損失に対する民事賠償が認められていないこと、司法実践において児童の証言が重視されていないことを批判しています。また、梁洪波・于懐清「観念滞后 自我保護弱 反映了――教育的缺位」という記事は、性教育の立ち遅れによる学生の自己保護の弱さ、中国の「師を尊ぶ」伝統、教師に対する評価が成績の向上だ担っていること、教員採用の際のルーズさ、学校が臭いものにふたをして密かにけりをつけることを指摘しています。さらに、金正「用制度做保障」は、台湾では、学校にセクハラ・性侵犯処理委員会を設けるように規定していることなどを紹介して、そうした制度的な保障が必要であると主張します。舟子「她們需要平等接納」は、事件が発覚した後、被害者にとって学校生活が重荷になって、家族とともに引っ越さざるを得なくなる状況があることを指摘し、被害者を平等に受け入れるべきことを述べています。
 春風網にも、「校園性侵犯的深層思考」(2006-9-17)、「女生為何頻遭教師性侵犯」(2008-12-15)などの文がありますが、『中国婦女報』の特集をあまり超えていないように思います。
(4)「針対多起教師強奸学生悪性案件,教育部等三部門提出 教師性犯罪校長要負責」『中国婦女報』2003年8月6日。
(5)上の「公開状」や徳盟網の「私たちについて(関于我們)」のページには、「徳盟網は、民族の自強してやまない精神を発揚し、党の改革開放政策を堅持し、社会主義の新しい時代の正しい価値観、愛情婚姻観、人生事業観を宣伝し、啓発・教育と戒め・懲罰の両方の手段に基づいて、校内の学生集団の生気はつらつさと潮流の色合い(?)をきわだたせ、実在の人間と実際にあった出来事を戒めとし、歴史を鑑とし、事の道理によって人を啓発し、インターネットを宣伝教育の場とし、社会に向かって進み、農村と末端に向けて進む」と書かれています。
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