2017-10

中国の求人広告などの差別の研究

 昨年9月、周偉『反歧視法研究 立法、理論与案例(反差別法研究 立法・理論・判例)』(法律出版社 2008年)(ネット書店「書虫」データベースの中のこの本のデータ)という本が出版されました。

 著者の周偉さんは、四川大学法学院と上海交通大学の教授で、憲法や行政法、反差別法がご専門です。周さんは、また、さまざまな差別訴訟などの代理人もつとめてきました。

 周さんは、すでに雇用差別に関する著作として、共著である『中国的労動就業歧視:法律与現実(中国の雇用差別:法律と現実)』(法律出版社 2006年)(ネット書店「書虫」データベースの中のこの本のデータ(1)という本を出版しておられますが、今回のものは単著です。

 この本の「第一編」は、1995年~2005年に上海市と成都市の企業などが新聞に出した求人広告に見られる、年齢・性別・容姿・身長に関する差別についての実証的な調査研究です。調査した新聞は、上海では『人材市場報』と『中国貿易報』、成都では『成都商報』と『華西都市報』で、約30万件もの求人広告が分析されています。ただし、新聞の求人広告なので、農民工や臨時工の求人は含まれていません。

 その結果、求人広告の中には、以下のように年齢や性、容貌、身長による深刻な差別があったことが明らかになりました。
 ます、年齢差別については、求人広告の職位の総数のうち、25~30歳以下の年齢を要求するものが、51.7%(上海の場合)でした。35歳以下の年齢を要求するものまで含めると、83.3%(〃)にまでなります。
 性差別については、30%(〃)が「男性のみ」で、特に技術関係の職位は、39.6%(〃)が「男性のみ」でした。
 容貌による差別については、6.7%(上海)、19.7%(成都)が容貌を条件にしていました。具体的には「顔立ちが整っている[五官端正]」、「姿形が良い[形象好]」、「気質が良い[気質佳]」などを条件にしていました。そうした条件を求める広告はサービス業に多く、職業としては、秘書、接客、販売などでした。性別としては、やはり女性に対して多く要求されていました(容姿に条件を付けた求人広告のうち、「男子のみ」が4.5%、「女性のみ」が40.0%、「男女不問」が55.5%)。
 身長差別については、3.4%(上海)、11.6%(成都)が身長を条件にしていました。それらの広告のうち、男性に対して身長を条件にしていたものが、両地とも30%程度だったのに対し、女性に対してのものが両地とも50%台だったことが述べられています。つまり、容貌ほどではないにせよ、身長も、女性に対して要求される場合が多いようです。業種としては、やはりサービス業に多く、具体的には、女性の場合は「身長160cm以上」、男性の場合は「170cm以上」が最も多かったと述べられています。

 著者は、いずれの差別に対しても理論的に批判するとともに、差別を規制する法律がないか、不十分であることを指摘しています。また、公務員の採用にもさまざまな差別が見られるという点からも、国家の責任が重いことを述べています。
 まず、年齢差別については、中国では、年齢による差別は禁止されていません。2007年に成立した「就労促進法」でも、草案には「年齢差別の禁止」が入っていましたが、成立した法案では削除されました。国家公務員の採用に関しても、「国家公務員採用暫定規定」で「35歳以下」と規定されており、それぞれの業務では、さらに厳しい条件が課されています。
 性差別に関しても、採用の段階では差別が見られます。とくに警察や裁判所、検察では差別が深刻で、応募すると「男性を(優先して)採用する」などと言われたりするようです。
 容貌による差別についても、2005年以前は、国家公務員の採用条件にも容貌が考慮されていました。たとえば、税関は「顔立ちが整っている」ことを要求していました。また、18の省・自治区・直轄市のうち、13の省・自治区・直轄市の「身体測定規則」は、容貌の特徴(アザ、白なまず、わきがなど)による制限を設けています。また、若干の地方政府は、教員採用の際、顔に大きな傷痕やアザなどがある者を不合格にする基準を設けています。
 身長差別についても、公務員採用のときに、多くの省で「男性は160cm以上、女性は150cm以上」という制限を設けており、警官、裁判官・検察官となると、さらに厳しい条件が課される場合もあるようです。

 「第二編」には、周偉さんが作成した「中華人民共和国反差別法(草案)学術建議稿」とその「説明」が収録されています。この建議稿では、雇用や教育、公共サービスの平等について、国務院に平等機会委員会を設けて責任を持たせるよう提案しています。少数民族や女性などに対する暫定的特別措置も規定しています。また、立証責任に関しても、訴える人の立証責任を軽減するように定めてあります。

 「第三編」には、他の国や他の地域の法律が掲載されています。ILO110号条約および、アメリカ・ドイツ・EU・カナダ・日本・台湾・香港の差別禁止立法が掲載されています。

 「第四編」には、周偉さんが代理人をつとめた12の差別事件に関する裁判所の判例が掲載されています。

 さらに、「付録」として、「第一編」で述べた求人広告の差別の調査の元になったデータが100ページ余りにわたって掲載されています。

 以上、この本の内容を紹介させていただきましたが、貴重な内容であることがおわかりいただけると思います。「第三編」は中国の国内向けの資料ですが、「第一編」と「付録」に収録された求人広告に関する差別の調査は、今までになかった大規模で総合的なもので、以上で紹介しきれなかった部分が非常に多いです(2)。また、今回はまったく紹介しませんでしたが、さまざまな差別に対する理論的な批判も詳細であり、「第二編」の建議稿やその説明も、15ページ程度のものながら、変革に向けての試みとして重要なものだと思います。「第四編」に関しても、中国の裁判所の判決文はなかなか目にすることができないので(少なくとも私などには)、これも貴重なものです。

 また、本書では、公務員採用における差別など、国家の責任を非常に強調しています。中国の公務員採用における差別は中国の一般の人にもかなり認識されているようで、中国政法大学憲政研究所が北京・広州など中国の10の大都市で調査したところ、65.9%の被調査者が公務員の採用に差別があると答え、その差別のうちでは、性別によるものを第一に挙げる人が多かったということです(づついて、戸籍、身長、容貌、政治的条件の順)(3)。また、西南政法大学の2005年の卒業生に対して、「どのような職場が性別の制限をしていますか」と尋ねたところ、70%の被調査者が第一に「政府機関・事業単位」を挙げたといいます(4)

 2007年2月に、ある女性が容貌による差別事件で労働仲裁を申請し、和解によって差別を是正させたことは、このブログでも取り上げました(「23歳の女性、容貌による差別事件で和解勝ち取る」)。このように差別是正の動きももあるのですが、その女性のケースは、先天性脳水腫で一般の人より頭が大きかったために、教員になることを拒否されたというものであり、こうした事件が起きるのは、教員採用の際に容姿を条件にしているような政府の責任も大きいだろうと思います。

 中国ではこのように公務員採用も含めてかなり明確な差別があることや、求人広告の段階でも性差別や容貌差別があることに問題の深刻さを感じます。といっても、日本でも、ついこの間まで、男女別の求人広告はありふれていましたし、少し以前までは、「容姿端麗」を条件とするような求人広告もありました。また、日本の公務員採用も必ずしも男女平等ではないと言われているので(5)、そういったことは必ずしも中国独特の問題ではないでしょう。

 ただ、身長差別に関しては、かなり中国独特のもののように思えます。また、女性に比べれば少ないですが、男性に対しても容姿に条件を付ける求人が見られることも中国の特色かもしれません。こうしたことの歴史的社会的背景についても知りたいと思いました。この本では、「容貌を、ある職場に選抜する条件にすることは、中国の前近代の官員の選抜制度に遡ることができる」という説明もなされており、外交部幹部局局長の呉懇氏が、外交官は「国家のイメージ」と関係するから、「五官端正」であることが望ましいと述べたことが紹介されていたりする(71、73頁)のですが……。あざや白なまず、身長を気にするという点から見ると、障害者差別とも関係しているような感じがしますが……。

(1)同書の構成は以下のとおりであり、今回出版された本と併読することが必要な本のように思います。
第一篇 中国の雇用[労動就業]差別の現状
 第一章 国家公務員採用の資格条件
 第二章 国家公務員採用の身体検査基準
 第三章 雇用の年齢条件
 第四章 雇用の容貌条件
 第五章 雇用の身長条件
 第六章 成都市の障害者の雇用状況
 第七章 国務院国資委[国有資産監督管理委員会]直属企業の雇い入れ条件
第二篇 中国の雇用差別の法律問題
 第一章 国家の雇用立法の差別問題研究
 第二章 中国の地方の雇用立法の事例の合法性の研究
 第三章 雇用差別の法律的救済  
第三篇 雇用差別の法律的判例
 第一章 雇用の反差別の法律的事件の背景
 第二章 B型肝炎差別事件の法律的文書
(2)ただし、国家公務員の採用条件に見られる差別に関しては、注(1)の著作の第一章と第二章のほうが詳しいです。また、(1)の著作の第三章以下にも、上記のとおり年齢・容貌・身長などに関する求人の差別についての調査研究も収録されており、それぞれ興味深いものです。
 たとえば、第四章「雇用の容貌条件」(李程)は、使った資料は、2002年7-12月と2003年1-3,6-12月の『成都商報』と『華西都市報』の求人広告だけで、やや少ないのですが、以下のようなことを明らかにしており、このように細かな分析は、今回の周偉氏の著作にもありません。
 ・飲食サービス、ホテルのサービス員、経営・販売業務従事者、管理者と文書の立案・秘書業務従事者が、容貌の条件を設けることが最も多い四種類の職業である。このほか受付人員も、容貌や気質の要求を設けられることが比較的多い(109-110頁)
 ・容貌の要求と性別の要求が同時にあることが多い職位の四種類は、接待・受付/フロントの応対人員、飲食サービス員、管理者と秘書業務従事者、販売人員である。通常の要求は「女性に限る、顔立ちが整っている[五官端正]・姿形や気質が良い[形象気質佳]」という各項目の条件を同時に具備している(111-112頁)。
 また、徐敏・康嵐・何春睴「論女性就業機会的量与質――対20世紀90年代報紙招聘広告的性別解読」李秋芳主編『中国婦女就業:現状与対策』(中国婦女出版社 2003年)(ネット書店「書虫」データベースの中のこの本のデータ)は、1990年から1998年までの『杭州日報』の求人広告について、性差別の観点から分析しています。
 ただし、今回出版された、周偉『反歧視立法研究 立法、理論与案例』ほど大量の求人広告をさまざまな視点から分析したものは初めてであると思います。
(3)昨年の5月28日付で『中国青年報』が報じましたが、「遭遇就業歧視不応無可奈何」(『中国婦女報』2007年5月29日)にも簡単に報じられています。
(4)張艶「女大学生就業問題調査報告」『西南政法大学学報』2007年2期。この調査結果については、「女大学生求職仍遭“隠形歧視” 在歧視情況排名中,政府機関居于首位」(『中国婦女報』2008年4月23日)にも簡単に報じられています。
(5)たとえば、つい最近も、沖縄で、「教員採用試験、合格点に男女差」(『琉球新報』2007年11月2日)ということが報じられました。
関連記事

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://genchi.blog52.fc2.com/tb.php/227-3a2cd1bd
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

«  | HOME |  »

プロフィール

遠山日出也

Author:遠山日出也
 検索から来られた方へ:このブログの記事を分類した一覧である「『中国女性・ジェンダーニュース+』記事総覧」を見ていただくか、下の「カテゴリー」欄を使われると、関連情報がご覧いただきやすいと思います。最近の行動派フェミニストについては、「中国の行動派フェミニスト年表、リンク集」をご覧ください。
 また、「中国女性・ジェンダー関係リンク集」(リンク集)も併せてご覧いただければ幸いです。
 恐れ入りますが、スパム対策などのため、コメントは私が拝見した後で表示させていただきます。
 私への連絡はtooyama9011あっとまーくyahoo.co.jpまで。

最近の記事

月別アーカイブ

カテゴリー

最近のトラックバック

最近のコメント

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索

リンク

このブログをリンクに追加する

RSSフィード