2023-09

農村女性についてのルポが評判に

 呉治平さんの『中国郷村婦女生活調査』(長江文芸出版社 2008年)というルポルタージュが評判になっています。

 呉治平さんは、以前は中国共産党の湖北省随州市委員会の宣伝部副部長でしたが、2005年に退職した後、農村女性問題の研究を始めました。4年あまりにわたる農村での調査や取材をつうじて、呉治平さんは農村女性の苦難を痛感し、多くの女性の相談も受けてきました。

 昨年の11月から、呉さんは「首個郷村婦女生活調査」というブログで、農村女性調査の報告を始めたところ、わずか3日間で150万あまりの訪問数を記録しました(現在では、訪問数は400万近くにまでなっています)。とくに「打工潮下的“臨時夫妻”(出稼ぎの波の下の「臨時の夫婦」)」という記事は100万以上の人が読みました。この記事は、多くの夫が出稼ぎに行って夫婦が別居するために、夫(または妻)が別の異性と「臨時の夫婦」になってしまう現象を取り上げて、夫婦が同居できる方策を考えたものです。

 他にも、たとえば以下のような文章があります(タイトルは、のちに単行本化したときの題名です)。

 ・「紅櫻桃与女性禁忌(赤いさくらんぼと女性のタブー)」……女性を差別するさまざまな風習について。月経中の女性は不浄だから、新婚夫婦の前に立ったり、子どもを産んだばかりの女性の家に入ったりしてはならないとか、亡くなった人の位牌を持てるのは息子や男の子孫だけで、娘は持てないなど。

 ・「生兒子光栄(男の子を産むのは光栄である)」……「養児防老(子どもを育てて老後に備える)」「伝宗接代(代々血統を継ぐ)」という思想によって、男の子を生むことが絶対視されているため、男の子を生めない女性が差別され、離婚さえされていることなど。

 ・「媽媽,你在哪里?(お母さん、どこにいるの?)」……父や母が出稼ぎに行ったために農村に残された女児の性被害について。家に一人でいるときに誘い出されたり、辺鄙な村では、野外に仕事に出かけたときに被害にあったり。継父からの被害や他の土地に仕事に行った時の被害などさまざまだが、告訴が難しいので、被害が表に出るのはごく一部である。

 ・「私房話(ひそひそ話)」……農村女性と結婚や性について対話した記録。彼女たちは「婚姻内強姦」の語がわからないし、夫に対して自分からは性の要求をほとんど出せない。しかし、たくさんの人が集まっている場所で愛や性について語るなど、彼女たちの性についての観念も変わりつつあることなど。

 ・「血殤(血による若死)()」……貧困による売血からエイズに感染した農婦たちが自らの受けた差別について語ったり、売血によって夫が感染して死亡し、自らも感染しつつも、一家を支えて頑張っている女性が自らの状況を語ったり。また、疾病予防センターの医者は、貧困で教育もないために都市で売春をする農村出身のセックスワーカーの感染を防ぐことは難しいと話す。

 ・「婦聯主任怒斥情人論(婦連の主任が「愛人論」を叱責する)」……「婦連の主任はみんな党の書記の愛人だ」というデマが流布されている問題から、女性の政治参加の困難さが浮き彫りになる。

 ・「男婦聯主任的尶尬事(男の婦連の主任のばつの悪さ)」……政治は男の領分だとされているために、計画出産の工作をする婦連の主任まで男性がつとめている村が少なくない情況について。

 こんなふうに簡単に紹介してただけではあまり伝わりませんが、すべて、生々しい実態が語られています。全体として、農村女性の困難な状況を述べたものが多いですが、一つ一つの話に読みごたえがあります。

 呉さんは、昨年12月には、最初に述べたように、調査結果を『中国郷村婦女生活調査』という1冊の本にまとめて出版しました(ネット書店「書虫」データベースのこの本のデータ)。以下のような構成のもと、計48編の報告が収められています(そのうちブログに出ているのは1/3ほどです)。

 第1章 市場は涙を信じない(市場経済下の女性労働について書かれた章です)
 第2章 田舎の習俗
 第3章 「準ホワイトカラー」の気分(都市文明の流入が農村女性に与えた影響についての章です)
 第4章 結婚と恋愛の倫理
 第5章 母の愛はかぎりがない(母と子の関係についての章です)
 第6章 ゆるゆるとした参政の道
 終章にあらず すべては変わりつつある
 付録1 農村女性問題アンケート
 付録2 国連「ジェンダー意識を村の政治の主流に入れる」基本調査アンケート

 「終章にあらず」では、ある村でのUNIFEM(United Nations Development Fund for Women) の「ジェンダー意識を村の政治の主流に入れる」プロジェクトの試みが報告されています。

 この本の裏表紙には、全国婦連女性研究所の劉伯紅さんの以下のような推薦の言葉も掲載されています。
 「ある意味で、中国の農村がわからなければ、中国はわからない。本書は、湖北の随州の農村女性の生活のパノラマ的な真実の記録を通して、中国社会の急激な転換の中における農村女性の困惑と奮闘を明らかにし、農村女性の発展と農村改革の深化に対して建設的意見を提出した、率直で誠意のある、深く問題を探究した、非常に見識のある作品である」

[参考]
只要有人的地方,我就要為女性説話──訪《中国郷村婦女生活調査》作者呉治平」『中国婦女報』2008年12月13日。
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