2017-10

裁判をいっそう身近に感じさせる「人格権」の主張──浅倉意見書

 バックラッシュ勢力に屈した豊中市によって、男女共同参画推進センターの館長(非常勤)を雇止めされた三井マリ子さんが起こした「館長雇止め・バックラッシュ裁判」(裁判の詳しい内容)の今年9月の控訴審第3回口頭弁論では、以下の書面が提出されました。
 ・第3準備書面
 ・求釈明の申立書(第3準備書面と関連したものです)
 ・浅倉むつ子意見書
 ・支援者からの陳述書

 「第三準備書面」と「求釈明の申立書」については、私による紹介と要約をご覧ください。

 浅倉むつ子意見書についても、私が要旨を書きましたので、よろしければご覧ください。以下、浅倉意見書の内容を紹介しつつ、その感想を述べます。

 浅倉意見書は、「使用者には、労働者の『人格権』が尊重されるような『職場環境保持義務』がある」という観点から、この事件を分析したものです。

 そのことを通じて、三井さんを「すてっぷ」から排除する以前におこなった、豊中市や財団の三井さんに対する対応それ自体が、以下の(1)(2)の点において、不法であり、精神的な損害賠償に値することが説得的に書かれています。

 (1)バックラッシュ勢力から攻撃に対して、市や財団が三井さんを支援するための対応をせず、三井さんを終始矢面に立たせたのは、使用者が負うべき「職場環境保持義務」の履行を怠った行為であること。

 (2)三井排除にいたる一連の過程の中で、以下の①~⑤のさまざまな人格権侵害がおこなわれたこと。
 ①非常勤館長職から常勤館長職への切り替えに関する情報を当初から三井さんに秘匿したこと。
 ②「三井さんは常勤館長職を望んでいない」という虚偽の未確認情報を、意図的に、第三者や館長候補者に流したこと。
 ③その虚偽情報を流しながら、他の人々に館長就任要請をおこなって就任を応諾する人が出るまで、さらに三井さんに情報を秘匿したこと。
 ④常勤館長選考試験も、すでに決まっていた候補者を合格させるためだけの試験であり、このことによって三井さんを欺いたこと。
 ⑤最終的には、正当な理由もなしに、三井さんを財団から排除したこと。

 これらの行為によって、三井さんは、自らの人間としての尊厳を傷つけられ、精神的苦痛をこうむり、人格的利益を侵害された。実際、三井さんは首を切られるかもしれない恐怖感、情報から隔絶されて、自分のまったく知らないところで自分の身分に関わることが決められている恐怖などによって、著しい身体的苦痛を被った。

 私は、浅倉意見書が以上の点を指摘した意義は、非常に大きいと思いました。

 なぜなら、なにより、職場環境保持義務の不履行や人格権の侵害は、さまざまな職場や組織で起こっていることだからです。外部からの攻撃に対して労働者を矢面に立たせること、ある人を排除するために、当人には知らせずに裏でさまざまな策謀をめぐらすこと、虚偽の未確認情報を流すこと、公正であると信じた試験が形だけものだったこと、それらのために心身に大変な苦痛を感じること──これらのことは、いずれも、私がごく身近に経験したことです。もちろん①~⑤が一連のものとしてなされたことに、この事件のひどさもあるのですが、日本はほんとうに「人格権の侵害」にあふれた社会だと思います。その意味で、私は、浅倉意見書によって、この裁判の意義をいっそう身近に感じることができました。

 また、「人格権」の主張自体は第一準備書面で既におこなわれているのですが、その際、私は、ある大学の教授から、賛同のメールをいただきました。その方は「自由主義」の立場に立つとおっしゃる方で、この裁判についても、雇止めの違法性を争うことなどには疑問を呈しておられました。しかし、今回、その方からは、「人格権には納得です」「こういう理由が説得力を持つ社会であってほしいと思います」「今回の裁判戦略の成功を祈ります」と励ましをいただきました。このように、「人格権」の主張は、今までとは異なった方の共感も呼ぶものだと思います。このことは、当然、裁判に勝利するうえでも役立つでしょう。

 「人格権」や「職場環境保持義務」の主張に加えて、私は、次の二つの点にも浅倉意見書の意義があると感じました。

 第一に、この裁判の内容が非常にわかりやすく書かれていることです。弁護団の書面は、事実の一つ一つについて、証拠を克明に示して書かれているぶん、読むには苦労もありました。量も膨大でした。しかし、この浅倉意見書は、従来の書面のエッセンスをつかんだうえで、わかりやすく書かれているように思いました。弁護士さんから「この意見書は、冊子にまとめるといいですよ」というご助言があり、実際、そうなったのも、もっともだと思いました。

 第二に、浅倉意見書には、従来の弁護団の書面にはなかった、新たな主張も相当書かれていることです。前回の法廷では、裁判長も浅倉意見書をもう読んでいたようで、「ここに書かれている主張は、あとで準備書面でもまとめられるのですか?」と発言したほどです。

 私も、たとえば浅倉意見書が、ファックス事件に関する判決の論理をいくつもの点から批判している箇所(12頁)は、非常に鋭いと思います。その他、浅倉意見書が、11月8日になってはじめて三井さんに曖昧な説明をしたことについて、「もし三井さんが十分に自体を理解して……自らの[常任館長への]就任希望をいち早く明らかにしていたら……市にとって、常勤館長職を引き受ける三井さん以外の人材を探し出すことの困難性は、著しく増大したであろう」(18頁)と説明している箇所や、「三井さんは、常勤館長候補者(この場合は桂)が明確に決まるまで、本件に関する情報を市から故意に秘匿されてきた」(20頁)ことを説明している箇所も、明快であるように思いました。

 あえてひとつ不満を言わせていただくとすれば、「2 バックラッシュ勢力の横暴で執拗な言動について」の箇所で、地方自治体の対応について具体的な事例をもう少し多く書いていただいた方がよいように思えました。もっとも、文中にある、「極度の緊張」とか「精神的うつ状態」などの文言から見ると、浅倉さんご自身は、具体的な事例をご存じであるように見えます。あくまで私の想像ですが、そうした事例を具体的にお書きになれないご事情が浅倉さんにはある(けれども、記述には生かされている)ということなのかな? と思いました。しかし、弁護士さんの解説によると、ファイトバックの会の会員の多くの陳述書が具体的な事実を提示することによって、浅倉意見書のこの節の記述を補強しているとのことです。このことから、私は、訴訟には、原告や弁護士だけでなく、支援者の役割も重要であることを改めて感じました。

 浅倉意見書は、カンパ300円(以上)で販売中です(送料込み)。詳しくは、こちらをご覧ください。

 前回の交流会で、宮地光子弁護士は「浅倉さんは多忙で、住友裁判でも意見書を書いていただけなかった。しかし、以前浅倉さんからいただいた葉書の中に『この事件は、ハラスメントだと思います』と書かれていたので、書いてもらえるかと思った」という発言をなさいました。

 浅倉意見書は、このようにすばらしいものです。しかし、支援団体である「ファイトバックの会」が、証人の桂さんに対して、バックラッシュ勢力が三井さんに対してやったのと同様に、「誹謗する噂」を流したのに、その後の謝罪が不十分なままに終わったことや、会の世話人の多くの方々が、謝罪を推進した人々を「排除」するために秘密裏にさまざまな画策をしたこと、それらのことのために、桂さんを含めた多くの人たちの心身が傷つけられたことは、この意見書の趣旨とあまりにも反しています。こられの点は是正されなければなりません(詳しくは、ファイトバックの会 謝罪問題まとめ@wikiを参照してください)。

 次回の裁判は、明日、
 2008年12月11日(木)午後1時30分~
 大阪高裁74号法廷
 法廷後は弁護士解説付交流会 午後2時ごろ~ 弁護士会館へ
 詳しくはこちらを参照してください。
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