2017-06

中国の児童労働(2)──「中国労工通訊」の調査報告

 香港の「中国労工通訊」が2006年9月に発表した「中国の児童労働者現象に関する実地視察報告」(1)は、中国の児童労働に関する詳細な調査です。この調査は、とくに教育制度の問題に焦点を当てています。以下、その内容の一部を紹介します。


 「中国労工通訊」は、2005年の5-8月、河北省石家荘市・保定市(の管轄区域の順平県・淶水県・易県・高碑店市)・邢台市(の隆堯県)、河南省駐馬店市(の逐平県)、広西壮族自治区北海市(の合浦県)で児童労働の問題を調査した。

中国の児童労働者の基本的状況(この箇所は、一般に言われていることの紹介です)

 ・児童労働者は、経済的に立ち遅れた中西部の出身で、経済的に発展した東南の沿海地区に移動して働く。したがって、児童労働者は、広東・浙江・福建などに多い。

 ・女性の比率が高い。1996年の『中国婦女報』の広東・山東・遼寧・湖北の一部の県での調査によると、女性が73.5%を占めている。今回の我々の調査でも、女性の児童労働者の方が男性よりも多かった。しかし、我々の調査では、男性と女性の中途退学率には大差はなかった。女性の児童労働者が多いのは、児童労働市場の女性に対するニーズが、男性よりも大きいからだというのが一つの解釈として可能である。この点は、下記の児童労働者の職業分布から証明される。

 ・児童労働者の職業分布は、比較的階層が低いサービス業と労働集約型産業に集中している(紡織業、被服加工業、製靴業、バッグ製造業、玩具製造業、飲食業など)。雇い主は、零細工場主や小型の私営企業主が多い。

政府の対策

 国務院は1991年に「児童労働者使用禁止規定」を公布し、2002年には新しい「児童労働者使用禁止規定」を公布して、16歳未満の未成年者を雇うことを罰則付きで禁止した。ただし、教育的実践労働や職業技能訓練のための労働は許されるとしており、それらに関する明確な規定がないこと(2)や「児童労働者」の定義に曖昧さがあることは問題である。

 政府の労働行政部門は、児童労働問題に対する監察をして、工場に対する取り締まりをおこなっている。それは、ある程度児童労働者を抑制したが、労働行政部門の監察は、長期的に見ると、児童労働者を雇っている工場を閉鎖的にさせて、監察に対する障害を作り出した。また、労働監察部門は人員や財政の制約のために、人手不足なので、雇い主の厳重な警備と閉鎖的管理の前に、「民が通報しなければ、官は追及しない」というやり方になっている。

 また、取り締まりによって児童労働者を解放して、帰郷させても、故郷には仕事がない。そのため、児童労働者は、賃金や労働条件が労働法に違反していても、当局に通報せずにがまんする。また、帰郷後、仕事がないために犯罪に走る者もいる。

労働力市場の児童労働者に対するニーズ

 児童労働者に対するニーズは、「価格が安い」ことによる。農民労働者の月収は500~800元だが、児童労働者は400~600元である。労働時間も自由に延長できるし、違法なので、社会保険の費用も不要である。子どもであるから、管理や支配も容易である。

 子どもたちは、反復性が高く時間はかかるが、労働強度は高くない職種にたずさわっている(たとえば、服に飾りの玉を付ける、電子部品を取り付けるなど)。

 最近、中国の東南の沿海都市では、労働者の賃金が低すぎるために労働力不足が起きており、賃上げのための労働者たちの集団的抗争もますます激しくなっている。そのため、工場主は、賃金や労働条件に対する要求を出せない児童労働者を「代替労働力」にしている。

 児童労働者の労働条件は、成人の労働者よりも悪い。児童労働者には基本的な法律的知識や権利意識がなく、「法定労働時間」や「最低賃金」という観念もないため、雇い主の言いなりになる。河北省で調査したところ、児童労働者の賃金は300―400元であり、同省の当時の最低賃金である520元よりも低い。労働時間も、法定労働時間よりも長く、長い場合は14時間も働かされているのに、時間外の割増賃金もない。

 雇い主は、児童労働者を「食事・住まい付き」で雇う。少数の貧困地区から来た子どもは現在の生活条件に比較的満足しているが、大部分はそうではない。多人数が一部屋に押し込められて、長時間働かされている。暴力をふるわれることもある。父母から引き離されたことによって、心理的にも傷ついている。

児童労働者の供給

 児童労働をなくすには、そのニーズの面からだけでなく、その供給の面からも、原因を探らなければならない。

 中国では、9年間の義務教育(小学6年、初級中学3年)があるが、児童労働者の多くは、初級中学の2年か3年に進級する時に中途退学している。その時の年齢は14歳か15歳で、13歳の場合さえある。生徒の中退は、ふつう家長が、(子どもの成績が悪い場合に)子どもが学業を継続するコストと、中退して出稼ぎに行く収益とを比較して決めている。子どもが学校を中退して児童労働者になりうる状態になるのは、13─15歳、学年で言えば初級中学の2年生に集中している。

 中国の教育部の発表によると、初級中学の中退率は、2.49%である。しかし、その数字はかなりの「水増し」があり、実際の中退率は、それよりはるかに高い(3)

 児童労働の潜在的な原因は、農村の貧困にある。しかし、経済的に比較的豊かな農村の家庭でも中退は少なくなく、貧困が唯一の原因であるとは言えない。

教育制度の欠陥が、児童労働者の供給を作り出す根本原因である

 最近20年あまり、中国経済は急速に成長している。しかし、国家の財政の教育経費は、GNPの2.79%にすぎない。これは、1978年と比べても0.55%しか増えていない。中国では基礎教育の経費は、主に県や鎮の政府が担うことになっているが、貧困な県では、教師の賃金を支払うのが精一杯である。学校の運営に必要な日常の支出は、学生から徴収する「雑費」でまかなうしかない。「雑費」は、学校が買い入れた設備の償還、校舎の建設の借金の返済などにも使われる。

 「義務教育法」では、義務教育では「学費」を免除すると規定している。しかし、「義務教育法実施細則」では、「雑費」は徴収することができると規定している。「学費」と「雑費」に関しては明確な規定がなく、民間ではずっと両者を合わせて「学雑費」と呼んでいる。こうして、無償であるはずの義務教育は、実質的には「有料」になっており、我々が調査したところでは、教育部門や中学校の責任者は、「雑費」が学校の主な収入源だと述べている。父母が支払わなければならない経費は、農民の家庭にとって大きな負担である。河北省邢台市隆堯県では、初級中学の3年間で家庭が4000~5000元も支払わなければならない。

 また、中国では、初級中学の教育目標が高級中学や大学への進学に置かれており、教学の内容や課程の設置において、義務教育の基本的な要求が軽視されていて、進学を目指さない学生と保護者の意向が無視されている。たとえば、教学において、専門技術教育と農村職業技術教育の比重が低すぎる。課程も、都市と農村との区別や相互の接続が十分考慮されていない。そうしたことも、中退する学生を増加させている。また、一部の学校では、進学率の目標を達成するために、成績が悪くて高級中学の入試に合格するのが難しい生徒を中退するよう仕向けている。

 中国では義務教育が無償ではないので、教育への投資が回収できるか否かが重要である。高級中学や大学に進学させるには莫大な費用がかかるが、近年では、子どもを大学にやっても、大学生は就職難なので、教育への投資を回収するのは難しい。


 以上、この「中国労工通訊」による調査報告は、とくに、中国政府が経済成長を優先して、教育の予算を軽視していることを批判しているといえるでしょう。こうした問題自体は、大きく言えば、市場経済至上主義のもたらしたものであり、アジアや世界の他の国々も無縁ではないように思います(もちろん、都市の農村との間に制度的な格差があることなどは、かなり中国独自の問題だと思いますが)。

 この報告が、近年の農村からの労働者の不足が、児童労働の増加をもたらしたことを指摘している点も興味深く思いました。先日のエントリー「中国の児童労働(1)」で取り上げた、凉山彝族自治州から東莞市への子どもの誘拐・かどわかしに関しても、4、5年前から増加したことが報道されています(4)

 児童労働とジェンダーの関係も、さらに解明すべき点でしょう(たとえば、児童労働者の場合は、男女の賃金の格差はどうなっているのか、など)。

 もちろん中国の児童労働問題で論ずべき点はまだまだあります。たとえば多国籍企業や先進国との関連などです。最近評判の映画、《女工哀歌(エレジー)》(CHINA BLUE)の中にも、16歳未満の女性労働者が登場しており、この映画は、そうした問題に焦点を当てているようです。そうした問題は、後日、また論じたいと思います(続く)。

(1)中国労工通訊「関于中国童工現象的実地考察報告」(PDFファイル)(2006年9月)
(2)たとえば、2007年6月には、東莞市の工場で、四川省の中学生数百名が、「実習」の名の下に、1日14時間の労働を、月収わずか500元でさせられていたことが明るみに出ています(「四川中学生東莞做童工」『北京晩報』2007年6月19日「労働権をめぐる中国の現状に関するニュース」2008/03/20(国際労働運動香港連絡事務所))。教育部も、そうしたことがないように通知を出したほどです(「教育部強調加強中職学生実習管理 堅決途絶以実習之名使用童工」『法制日報』2007年10月26日)。
(3)「中国労工通訊」の調査報告は、この箇所では、「教育警鐘敲響:農村初二学生輟学率超過40%」(『中国青年報』2004年6月14日)と「河北某初中輟学率近90%,新“読書無用論”抬頭」(新華網河北頻道2005年11月9日)の2つの記事と、取材した中学校の教師や責任者の発言が引用してあります。
(4)「走出大山 大批被“拐”珠三角」『南方都市報』2008年4月28日
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