2017-08

西北工業大学女性発展・権益研究センターの活動

 西北工業大学女性発展・権益研究センター(西北工業大学婦女発展与権益研究中心)は、2000年に設立されました(前身は、1993年に設立された「西北工業大学女性[婦女]問題研究室」)。メンバーは、西安の各大学の研究者のほか、弁護士や婦女連合会・労働組合の人々で、センターの現在の主任は、郭慧敏さんです。

研究テーマは「女性の労働権益」

 このセンターの現在の主な研究テーマは「女性の労働権益」であり、「ジェンダーと労働権益(社会性別与労動権益)」というサイトも運営しています。また、2004年10月にセンターがおこなった「ジェンダーと労働権益」シンポジウムの記録は、1冊の本にまとめられています(郭慧敏主編『社会性別与労動権益』西北工業大学出版社 2005年[ネット書店「書虫」データベースのこの本のデータ])。

家事労働者(家政婦)の権益

 このセンターの特色は、研究だけでなく、さまざまな実践もおこなって、研究と実践とを結び付けていることです(以上、「西北工業大学婦女発展与権益研究中心」より)。その一つの試みが、家事労働者(いわゆる家政婦)の権益に関する研究と実践です。

 西安市は内陸の工業都市であり、国有企業が多く、市場経済化によって多くの中高年の女性労働者がリストラされました。そうした女性たちの中には、生活のために家事労働者に転職した人が少なくありません。西安市の家事労働者の90%以上はリストラされた労働者で、その平均年齢は40歳以上です。彼女たちの収入は低く、仕事は不安定です。

 そこで、センターは、香港の楽施会(オックスファム)の資金援助を受けて、西安市の労働組合や婦女連合会と協力して「周縁的労働者のサポートネットワークプロジェクト」を開始しました。そのプロジェクトでは、まず、「家事労働者サポート草の根グループ(家政工支持草根小組)」を組織しました。家事労働者たちは、その中で、政策や法律を学んだり、家族や子どもの問題を語り合ったり、一緒にピクニックに行ったりしました。

 このサポートグループを基盤にして、2004年9月、西安市家事労働者労働組合(西安市家政工工会)が設立されました。この組合が設立されたことによって、家事労働者たちは、お互いに交流をしたり、政策や法律を学んだりするだけでなく、雇い主とトラブルが発生した時に組合の援助を受けることができるようになったと報じられています(以上は、(1))。

 さらに、2006年5月、センターは「西安家政規則[規制]シンポジウム」を開催し、労働者に加えて、雇い主や仲介組織の人も招いて、家事労働者に関する立法を研究しました(「西安家政規制調研論証会」)。同年10月には、センターが主催し、西安市家事労働者労働組合と西安家事サービス業協会が共催して、「西安家政立法促進シンポジウム」をおこない、センターが作成した「西安家政サービス条例(建議稿)」について、家事労働者や雇い主、仲介組織の人々が議論をしました(2)

 また、西安の家事労働者の中には、離婚したシングルマザーも多いです。ですから、センターは、西安市婦連と共同で、シングルマザーが自らの結婚や離婚について話し合う会も組織しました。この会をきっかけに、彼女たちの互助グループも組織されたようです(3)

立法への女性の参与の探求

 センターは、2004年から、国連女性基金(UNIFEM)の「女性が立法に参与する能力の建設の本土化のモデル」プロジェクトという、女性が立法に関与する能力を高めるプロジェクトもおこなっています。

 その一環として、2005年12月、センターは、陝西省婦連権益部や陝西省女性法律業務従事者協会(陝西省女法律工作者協会)と共同で、「女性の立法参与能力建設ワークショップ」を開催しました。このワークショップでは、大学教授らが立法学の理論と実務や、ジェンダーと立法について講義をしただけでなく、当時改正されたばかりの婦女権益保障法の問題点や女性の立法への参与についてのグループ討論もおこないました(楊雲霞「婦女立法参与能力建設工作坊」)。

 次いで、2007年11月には、センターは「ジェンダー主流化と立法シンポジウム」を開催しました。このシンポでは、現在の法律に関してジェンダーの視点から検討したり、各地で法改正を推進した経験などを語りあったりしました。このシンポの最後に、センターの主任の郭慧敏さんは、女性の立法への参与の問題は、ジェンダー主流化の中の最も重要な問題であることや、ジェンダー主流化のプロセスは、中国の法治化と立法の民主化の過程に位置づけて考えなければならないことを指摘しました(郭慧敏・段燕華「性別主流化与立法研討会」)。

 センター自身も、「陝西省婦女権益保障法施行意見」の改正に参与し、国際法の内容に沿った形で「性差別」の定義や「セクハラ」の定義を書き込ませるなどの成果を収めているようです(私は、施行意見の文言は未確認ですが)(4)

女性労働者の権利に関する記事や論文をサイトに掲載

 センターのサイトである「ジェンダーと労働権益」に掲載されている記事や論文の多くは、他のサイトからの転載です。ただし、女性労働者の立場に立った記事や論文を重点的に収録しているようですので、どのような記事や論文があるかを知るうえでは多少は役に立つと思います。

 たとえば、西安交通大学で起きた臨時工の定年退職の際の待遇に関する最近の裁判の記事が、いくつかこのサイトに収録されています。その記事が伝えている事件は、以下のようなものです。

 楊桂君さんは、1983年から23年間、西安交通大学で、臨時工として、清掃や学生アパートの管理の仕事をしてきました。ところが、2006年5月、楊さんは突然やめさせられ、退職金などもまったく出ませんでした。そこで、楊さんが労働仲裁委員会に訴えたところ、楊さんが勝訴しました(5)。しかし、西安交通大学はその判決を不服として従わなかったため、楊さんは裁判に訴え、一審(2008年1月判決)でも、二審(同年7月判決)でも勝訴し、楊さんは退職金などを獲得しました(6)

 中国では、法律上は一応、臨時工も正規の労働者と同等に扱わなければならないとならないとされており(契約期間の点を除いて)、臨時工も、退職年齢になったときは、その人が勤続年数を満たしていれば、退職金などを正規労働者と同等に支払われなければならないことになっているようです。しかし、実際には退職金が支払われなかったり、医療保険を打ち切られたりするなどの差別が多く、いくつか裁判にもなっています(7)

(1)「家政工有了自己的“家” 全国首家家政工工会在西安成立」『中国婦女報』2004年10月23日、「从草根起歩──一個家政工工会的成長体験」『中国婦女報』2005年3月15日
(2)「関注家政工群体 促進家政服務業立法」西北工業大学新聞網(2006-11-10)
(3)西安市婦聯「陝西省西安市婦聯与有関単位聯合培訓家政単親母親効果顕著」中国婦女網2004-03-16。なお、以上の家事労働者に関するセンターの取り組みについての総合的な計画や総括が書かれた文献には、「法律援助、家政工会、単親之家項目 西北工業大学婦女発展与研究中心行動計劃」「西安家政網絡項目研究与行動支持模式総結」(ともに「社会性別与発展在中国」HPに収録)があります。
(4)「“社会性別主流化与立法研討会”在陝西挙行 婦女参与立法是婦女参政的重要形式」『中国婦女報』2007年11月20日
(5)「臨時工告西安交大労動仲裁勝訴」『華商報』2007年3月31日
(6)「23年“臨時工”耗時両年討到退休権」『陝西工人報』2008年7月28日
(7)「聚焦:“臨時工”退休待遇」『法制日報』2008年10月7日など
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