2017-06

香港のDV条例改正とその後

 この6月、香港の家庭内暴力条例(家庭暴力條例)が改正され、8月から施行されました(従来の家庭暴力絛例改正点←法案そのものなので、非常にわかりにくい書き方です)。改正されたのは、主に以下のような点です。
 ・従来は条例の適用範囲が、配偶者や異性の同居者だけだったのが、元の配偶者や元の異性の同居者、直系親族にまで広げた。
 ・裁判所が強制命令(日本の保護命令に近いもの)を出すときに、社会福利署が立てた反暴力計画に加害者を参加させ(て、彼の暴力的な態度と行為を改めさせ)ることができるようになった。
 ・裁判所が強制命令の有効期間を2年まで延長できるようになった(従来は3カ月が原則で、もう3カ月延長できただけ)。(1)

 しかし、女性団体が共同して出していた要求(詳しくは「平等機会婦女聯席就家庭暴力法改革立場書」(2007年9月28日)」参照)のうち、次のようなものは実現していません。
 ・「家庭内暴力」の定義を明確にし、精神的暴力なども含まれることをはっきりさせるべきである。
 ・同性の同居者の暴力も、条例の対象にするべきである。
 ・「強制命令」を「保護命令」に改称する(その理由は、「強制命令」という言葉は加害者を挑発しがちで、被害者に対する報復を引き起こすからだそうです)とともに、被害者に対する保護を強化するべきである。
 ・家庭内暴力専門の法廷を設けて、民事と刑事を同時に審理できるようにすべきである。

 ただし、同性の同居者の暴力については、香港政府は、法案の審議の中で、女性やLGBTの団体の要求(2)を入れて、来年、条例の対象に入れることを承諾しました。

 しかし、そうした政府の動きに対して、キリスト教保守派の「明光社」などは、9月の立法会(香港の議会)の選挙に向けて、7月から、「婚姻は一人の男と一人の女の結合であり、人類社会の基礎である」ことなどをうたった「家庭保護宣言」に対する署名を開始しました。さらに、8月6日付の『明報』に、2面にわたるその署名の全面広告(←クリックすると2段階で拡大します。2回目は文書の右下をクリックしてください)を出して、同性関係を家庭内暴力条例の適用範囲に入れることに反対を表明しました。当然、多くのLGBTの団体は、この全面広告に対して抗議しました(3)

 民主党(「親中派」に対する「民主派」の最大会派といわれる)も、法案審議の際には、政府が家庭暴力条例の対象から「同居している同性」を除外していることについて、「性的指向による差別だ」と主張していました。しかし、明光社が選挙前におこなったアンケートに対しては、民主党の各議員は「政府は現状を維持すべきだ」という回答を一致しておこないました。この事態に対して、「民主党は得票のために、同性愛者を犠牲にした」という批判がおこりしまた(4)

 民主党もさすがにまずいと思ったのか、9月3日、ほとんどの議員は回答を変更し、「家庭内暴力の定義を広げて、同一の住居に住んでいれば、婚姻状況や性的指向に関係なく、暴力を受けないようにすべきだ」という回答をしました(2008年立法會選舉家庭價値議題投票參考(9月3日修訂版))。しかし、この回答は、「同性の同居者を家庭内暴力条例がカバーする範囲に組み込む」という明快な回答(そうした選択肢も設けられています)とは、若干、異なります。この点は、民主党が、香港の法律が同性婚を認めていないという前提に配慮したとも考えられますが、「同性の同居者を家庭内暴力条例に組み込むことは、同性婚の承認につながる」という保守派の憂慮に配慮したとも言えます(明光社も、同居している同性愛者に対する暴力そのものには一応反対の立場であり、「家庭内暴力条例」を「家居暴力条例」に変更することによって同性婚否定の立場を貫こうとしている)。

 9月7日の選挙結果と上記の各候補者の明光社への回答と照らし合わせてみると、明確に「現状維持」という回答をした当選者は、全60議席中の5名程度であり(ただし、「回答拒否」や「連絡がつかない」人の占める比率が高い)、今後おそらく、「同居している同性」を何らかの形で家庭暴力条例の対象にする方向への前進があるものと思います。しかし、逆に「同性の同居者を家庭内暴力条例がカバーする範囲に組み込む」という明確な選択肢を選んだ当選者もほとんどいないので、結局のところ、異性婚を前提にした改正にとどまるものと思われます。

(1)「新聞公報《2008年家庭暴力(修訂)絛例》八月一日生効」(香港特別行政区政府労工及福利局HP)
(2)上で述べた「平等機会婦女聯席」の要求にも入っているが、より詳しくは、香港十分之一会・香港女同盟会・香港彩虹・姉妹同志・啓動服務者「請支持修訂家暴絛例,保障同志伴侶」新婦女協進会「呼籲將同性同居者納入家暴條例」など参照。
(3)「香港特区立法会選挙前,明光社辧『家庭価値議題調査』惹争議」。批判としては、杜振豪(新婦女協進会・資源発展幹事)「維護家庭 維護什麼」など。女同学舎による抗議行動の写真は、「雷霆掃明光」に収録。
(4)「香港特区立法会選挙前,明光社辧『家庭価値議題調査』惹争議」
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