2017-03

中国の男女賃金格差や性別職業分離に関する実証研究

 最近、中国の男女賃金格差や性別職業分離に関する研究が日本でも続々と発表されています。馬欣欣氏や石塚浩美氏によるもので、いずれも実証的なものです。手法としては、近代経済学の手法を使っています。また、日中比較に重点が置かれたものが目立ちます。

 以下、メモしたことを簡単にご紹介します(2007年以降の論文にかぎる)。

1.馬欣欣「日中における男女間賃金格差の差異に関する要因分解」『日本労働研究雑誌』560号(2007年)

 この論文は、男女間賃金格差に、以下の2つがいかに影響しているかに注目している。
 (1)人的資本……学歴および勤続年数、経験年数。
 (2)賃金決定制度……「マクロレベルの賃金決定制度」(法規制、国家の介入、労働組合の団体交渉)と「企業における個別レベルの賃金決定制度」のどちらが優位か?→集権型か分権型か

 データは、中国については1999年中国家計調査の個票、日本については2004年慶応大学家計パネル調査の個票を利用している。

 計量分析の結果、以下の点が明らかされている。
 第一に、中国より、日本のほうが男女間賃金格差が大きい。
 第二に、人的資本と賃金決定制度の両方が、男女賃金格差の日中の差異に寄与している。
 第三に、賃金決定制度に比べて、人的資本のほうが日中の男女賃金格差の差異に与える影響が大きい。具体的に言えば、男女間の勤続年数の相違(←結婚出産の際に退職する女性が多いか否か)が、日中の差異の最も主要な要因である。
 第四に、低労働所得層に比べ、高労働所得層のほうが日中の差異が大きい。

 以上の結果から、以下のことが提示されている。
 第一に、日本では、出産育児期の就労継続を促進することが重要な課題である。
 第二に、中国でも、経済改革によって賃金決定制度が集権型から分権型に変化したことによって男女間賃金格差が拡大した。それゆえ、男女平等の労働政策や労働組合の機能向上が必要である。

2.馬欣欣「性別職業分離と男女間賃金格差の日中比較──日本と中国の家計調査のミクロデータを用いた実証分析──」『中国経済研究』4巻1/2号(2007年9月)

 この論文は、職業性別分離が日本と中国の男女間賃金格差にそれぞれどのような影響を与えているかについて、数量的に明らかにしたものであり、以下の特徴を持つ。
 ・男女間格差を職業内格差と職業間格差に分けた。
 ・職業分類については、国際基準における職業の大分類にしたがって分類した。
 ・年齢変数および勤続年数変数を設定し、両者の効果を考察した。
(データは、上の2の論文と同じ。)

 研究の結果、以下の結論を得ている。
 第一に、両国とも、男女間の職業分布の相違が存在し、これが男女間賃金格差に寄与している。
 第二に、日中とも、職業内格差が男女間賃金格差全体に占める割合は、職業間格差よりも大きい。この問題は中国よりも日本において深刻である。

 その他、以下のような知見も示されている。
 ・中国では勤続年数が男女の賃金に有意な影響を与えないのに対して、日本では、勤続年数が長いほど賃金が高い(製造職の男性、事務職の女性)。その理由は、中国と違って、日本では企業内職業訓練が重視されていることにある。
 ・家族構成の影響については、既婚であることは中国における男女の賃金に有意な影響を与えない。しかし、日本の場合は、技術職とサービス職において既婚であることは女性の賃金にマイナスの影響を与える。

3.馬欣欣「中国における雇用調整と再就職後の賃金の男女格差──2002年中国都市家計調査を利用した実証分析」『日本労働研究雑誌』571号(2008年)

 この論文は、2002年中国都市家計調査の個票を利用し、中国都市部における雇用調整と再就職後の賃金の男女格差に関する実証分析をおこなっている。

 その結果、以下の点を明らかにしている。
 第一に、男女とも、教育水準が低いほど、失業者になる可能性が大きくなるが、人的資本を含む他の条件が同じでも、失業者になる確率は、女性のほうが男性より高くなる。
 第二に、男女とも、年齢の上昇とともに、失業期間が高くなるが、人的資本を含む他の条件が一定であれば、失業期間は、女性の方が男性より長い。また、政府・企業の斡旋を通じた再就職の場合、失業期間が短くなる。
 第三に、人的資本が大きいほど、再就職後の賃金が高くなる。しかし、人的資本を含む他の条件が同じでも、再就職後の賃金は、女性の方が男性より低くなり、つまり、再就職後の賃金の男女格差が存在する。

4.石塚浩美「中国における男女間職業分離仮説の実証分析──お茶の水女子大学F-GENS中国(北京)パネル調査2004の小分類職種データを用いて──」『F-GENS Journal』No.9(2007年)

 石塚氏には、すでに「中国・北京の男女間賃金格差とジェンダー──F-GENS中国(北京)調査を用いた要因分解分析」(『F-GENS Journal』No.5[2006年])という論文がある。

 今回の論文は、F-GENS中国(北京)パネル調査2004の回答を丁寧に整理することによって利用可能になった、中分類職種データや小分類職種データを使っている点に特徴がある(たとえば看護師は、大分類では「専門的・技術的職業従事者」、中分類では「衛生技術者」であり、小分類ではじめて「看護師」と分類される)。

 分析の結果、以下の知見を得ている(abstractより)。
 ・中国全体の性別職業分離の特徴は、「生産・運輸設備操作作業者」に女性就業者比率が高い職種が多いことが特徴である。ただし、軽工業が中心である。
 ・北京市中央8区の中分類職種における男女の職業分離は、統計的有意に認められた。
 ・北京市中央8区の小分類職種における男女差を評価し実証分析したところ、女性多数の3つの職種のうち、「公共の社会サービス従事者」を除いて、「会計・事務」および「ホテルの接客従業員」のいずれも、女性は男性に比べて有意に賃金が低い。限定的ながら、中国男女間における同一職種内の職業分離仮説が認められた。

5.石塚浩美「なぜ中国で女性の管理職が少ないのか」お茶の水女子大学21世紀COEプログラム「ジェンダー研究のフロンティア」(F-GENS)プロジェクトB編『家族・仕事・家計に関する国際比較研究:中国パネル調査第3年度報告書』(2007年)

 この論文は、F-GENS中国(北京)パネル調査2006にもとづくものであり、以下の点を明らかにしている。

 ・管理職比率は女性24.6%、男性32.0%であり、日本と比べて女性管理職が多い(日本は女性9.1%、男性22.5%[課長補佐・係長相当以上])。ただし、上級の管理職には女性は少ない。
 ・女性が「職位なし」である比率が高いのは、非国有企業、国有企業、党・政府機関の順である。すなわち市場経済化の影響が強い企業ほど、企業管理職の割合が男性優位になっている。ただし、女性の上級の管理職は、党・政府機関や国有企業にはいない一方で、非国有企業には、人数は少ないが、女性の上級の管理職がいる。
 ・正規従業員のうち、男女とも7割程度が、女性の管理職は男性に比べて少ないと考えている。
 ・女性に管理職が少ない理由を尋ねると、全体としては、男女ともに「男性は責任ある仕事をするチャンスを与えられるから」「人事決定権のあるポストに男性が多いから」という回答が多い。順位は下がるが、「男性には妊娠・出産がない」「男性には家事・育児介護の負担がない」という回答は、女性の方が男性より多い。順位は下位だが、「女性は男性よりも能力が劣るから」という回答に同意した人も、男性で44.6%(女性で35.3%)いた。

6.石塚浩美「北京・ソウル・日本における労働市場の変化とジェンダー」篠塚英子・永瀬伸子編著『少子化とエコノミー』(作品社 2008年)

 この論文は、F-GENSの北京とソウルのパネル調査のデータに、日本に家計経済研究所のデータなども加えて、北京・ソウル・日本の比較をおこなっている。

 その結果、以下の点を明らかにしている。
 ・政府統計を見ると、女性の就業中断傾向は、韓国や日本と違って、中国では認められない。しかし、中国では労働力率は40代後半から急落しており、韓国や日本と比べて早く退職している。
 ・パネル調査のデータで見ると、ソウルや日本に比べて、北京は就業状態の男女差が、さまざまな面で少ない。しかし、女性のほうが就業率が低く、第三次産業従事者が多く、臨時社員の割合が高く、上位の管理職が少ないなどの点自体は、ソウルや日本とも共通である。
 ・2004年から2006年までの変化を見ると、北京の労働市場はソウルや日本よりも流動しており、非国有セクターの正規社員や臨時社員が増えている。
 ・なぜ女性の管理職が少ないかを尋ねると、日本やソウルでは「男性には妊娠・出産がない」「男性には家事・育児介護の負担がない」ということを挙げる人が多い。しかし、北京では「男性は責任ある仕事をするチャンスを与えられるから」「人事決定権のあるポストに男性が多いから」ということを挙げる人が多い(ソウルでも、女性はそう答える傾向がある)。

 いずれの研究も、べつにあっと驚くような結果が示されているわけではありません。しかし、地道な基礎的データにもとづくもので、貴重な研究だと思います。とくに、日中(韓)の性別分業のあり方の相違を明らかにしている点は興味深いです。

 [追記]石塚浩美氏は、その後、『中国労働市場のジェンダー分析』という本を出版なさいました。私は、この本の書評を書きましたので、よろしければご覧ください([書評]石塚浩美『中国労働市場のジェンダー分析』)。
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