2017-03

方剛『男性研究と男性運動』出版

 中国の男性学研究者である方剛さんが、この4月、『男性研究と男性運動(男性研究与男性運動)』(山東人民出版社 2008年)を出版なさいました(ネット書店「書虫」データベースの中のこの本のデータ)。The Study on Masculinities and Men's Movementという英文名も付いています。

 方剛さんについては、すでにこのブログでも、一昨年に方剛・胡曉紅主編『男性要解放』(山東人民出版社 2006年)を出版なさったことや(その時の記事)、大浜慶子さんの訳で「中国の男性解放運動と男性学」という論文を『ジェンダー史学』第2号(2006年11月)(ジェンダー史学会発行)にお書きになったことを紹介しました。

 方剛『男性研究と男性運動』の構成は、以下のとおりです。
自序
西洋の男性性研究と男性運動
 男性性の性役割理論
 男性性の多様性の理論
 西洋の男性運動およびその流派
中国の男性性研究
 中国における男性性の研究および出版
 男性性の実践の多様な趨勢の分析
 陽剛(男らしい勇ましさ)と陰柔(女らしいやさしさ)の間──ある男性コンテストにおける男性性の実践についての分析
 両岸の男子大学生のジェンダー役割と内包の対比研究──北京と台北を例に
 中国内地の職場のセクシュアルハラスメントと立法から見た男性研究と配慮の欠落
 賈宝玉:階級とジェンダー役割に対する二重の反逆者
 エコロジカルフェミニズムに対する男性研究の視角からの回答
セックスと男性性の研究
 男性性の視点から見た男のセックス
 男性セックスワーカーと彼らの男性性
 精力剤の広告における男性像の分析
 「ベッドの上の平等」の背後──高収入の男性の性生活の叙述における男性性の分析
 中国のセクシュアリティ研究に男性研究を導入する展望
中国内地の男性運動
 中国内地の男性運動の萌芽
 男性の自覚とフェミニズム:反家父長制文化の同盟者
 「男性の自覚/解放」釈義
 支配的な男性性の改造から男性の参与の促進へ
 中国内地の男性運動備忘録
 中国の内地の男性研究/運動を推進する当面の構想
香港・台湾の男性運動
 香港の男性運動:観察と思考
 台湾の男性グループ
 台湾の学者と男性運動を討論
 「男性フェミニスト」王雅各の印象

 本書の「中国における男性性の研究および出版」「中国内地の男性運動の萌芽」「中国内地の男性運動備忘録」などの節では、中国の男性研究と男性運動の歴史がわかります。

 ただし、「男性運動」のほうは、グループとしては、2005年3月に方剛さんらが北京林業大学人文学院心理学系で発足させた「男性解放学術文化サロン」くらいしかないようです。他に、1998年に『からだ・私たち自身(我們的身体、我們自己)』が翻訳された際に「北京男性健康促進グループ」が結成されたり、2002年にDV反対のホワイトリボン運動の一環として、「女性に対する暴力に反対し、ジェンダー平等を促進する」男性ボランティアグループが結成されたりしたことはありましたが、それらは男性自身の要求に基づくものというよりも、フェミニズム主導のものであったことなどの理由で、長続きしていません。

 方剛さん自身も、中国の男性運動の困難として、以下の点を挙げています(「中国内地の男性運動の萌芽」)。
 ・西洋に比べて男性研究や男性運動の基礎になるフェミニズムが普及していない。
 ・男性自身が家父長制文化に抑圧されていることを意識していない。同性愛者はサブカルチャーにおいて家父長制に挑戦しているが、西洋に比べて、主流の文化に対する同性愛サブカルチャーの影響も弱い。
 ・フェミニズムも男性研究・運動に対して懐疑と警戒の念があり、男性研究・運動の中にもさまざまな争いがある。

 上のような点は、日本も程度の差こそあれ同じだと思いますが、方剛さんは今後の男性研究・男性運動の構想として、以下のようなことを考えているそうです(「中国の内地の男性研究/運動を推進する当面の構想」)。
 ・大学に男性研究の課程を開設したり、関心のある人向けの講座をする。
 ・男性研究のプロジェクトをおこなって、その成果をもとに社会の改良するための提案をする。また、その提案を実際におこなってみる。テーマとしては、男性の家事分担、男性によるDV、性産業における男性の顧客の態度など。
 ・ホワイトリボン運動や演劇をおこなう。たとえば『陰道独白(ヴァギナ・モノローグ)』のように、『陰茎道白』を制作して男性性を問いなおす。
 ・男性向けの電話相談をする。男性が直面するジェンダー問題に即した「男性成長グループ」を組織する。

 なお、方剛さんの基本的な視点はこれまでと同じであり、以下の「男性の自覚の二重性」ということを述べています。
 1.男性は、家父長制的な文化と体制が女性を傷つけていることを自覚し、女性が平等と自由の生存空間を獲得するのを支持し、助けなければならない。
2.男性は、家父長制的な文化と体制が男性を傷つけていることを自覚し、行動して反抗しなければならない。

 ただし、今回の本では、1の点に関して、「女性」だけでなく「セクシュアルマイノリティ」も傷つけていることを自覚しなければならないということを付け加えています。また、方剛さんは、「『男性解放』は、こうした『男性の自覚』の目標ではあるが、まだ多くの人が『男性の自覚』を持っていない今日の段階では、単純に『男性解放』という言葉を使うのは、若干先に進みすぎている」という趣旨のことを述べておられ、私にはその点も興味深かったです(「『男性の自覚/解放』釈義」)。

 もっと具体的に、ひとつ、「中国内地の職場のセクシュアルハラスメントと立法から見た男性研究と配慮の欠落」という論文を読んでみました。

 中国では、2005年8月に婦女権益保障法が改正された際に「女性に対するセクハラを禁止する」という条項が入りました。その際、「男性に対するセクハラが問題にされないのはおかしい」という意見と「現実には女性に対するセクハラのほうがはるかに多い」という意見が対立しました。

 方剛さんは、後者の意見に対しては、「少数だからといって法律が取り上げないのはおかしい」という立場です。方剛さんは、女性上司からセクハラを受けた2人の男性にインタビューしています。方剛さんはそのインタビューから、男性に対するセクハラも権力者がおこなうものであること、セクハラ被害を受けた男性も、女性同様、自尊の感情が損なわれ、抑鬱や倦怠、異性に対する態度の変化などが起きることを発見します。また、男性の被害者は、「男性の尊厳」(実際は支配者としての男性性)が損なわれるので、男性は被害を訴える勇気がないという状況――すなちわ男性性は、男性が女性にセクハラをする背景であるとともに、男性自身をも傷つけていると述べています。

 方剛さんは、多くの国のセクハラ禁止規定は男女両性に同等の権利を保障しており、また労働法などの中に置かれていて、職場の問題が重視されているのに対して、中国では、婦女権益保障法という強制性がない法律にセクハラ禁止条項が入っていることを問題として指摘し、以下のようなことを述べます。
 ・中国の政策決定をおこなう者たち――その多くは男性である――には、ジェンダー意識が乏しい。
 ・女性の人権意識が高まったからこそセクハラ禁止条項が婦女権益保障法に入ったのだけれども、男性研究や男性への配慮の推進も必要である。
 ・職場の中では多くの場合、男性が権力者であるから、男性の自己反省が必要であることを強調せねばならない。
 だからこそ方剛さんは、男性研究や男性運動が必要だと訴えるわけです。

 方剛さんは欧米の研究にも通暁しておられ、誠実かつ精力的にさまざまな問題を研究しておられます。また、個人の生活から考えることの重要性も指摘しておられますが、もう少し方剛さんご自身の経験なども書かれたらいっそう説得力が増すのではないかという気もしました。
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