2017-08

中国の女性セックスワーカーに対する暴力の調査

 先月、中国版ニューズウイーク(中国新聞週刊)が、中国の女性セックスワーカーに対する暴力の問題を取り上げました(「暴力猛于艾滋病──女性性工作者生命安全被厳重威脅!!」)。

 この記事は、中国の女性セックスワーカーの生存状況を描写した潘綏銘さん(彼女のブログ)の言葉――「第一に生存、第二に殺されたり奪われたりしないこと、第三に性病・エイズからの防備」から始まっています。中国版ニューズウイークの記者が数十名の最底辺のセックスワーカー(小姐)を取材したところ、ほとんどすべての人が強盗にあったり、強姦されたりした経験があったそうです。

 この記事は、趙軍さん(1969年生まれ)という、「女性セックスワーカーの被害問題」を研究テーマにしている女性のインタビューも掲載しています。趙軍さんは潘綏銘さんの弟子で、この10年近くセックスワーカーの中に入って、調査をしてきたそうです。以下、趙軍さんのお話の一部をおおまかに紹介します。

 なぜセックスワーカーは暴力的な侵犯のターゲットになりやすいか? (1)女性は生理的・身体能力的に弱者である。(2)セックスワーカーは、接近しやすく、商売の対象が流動的で、不特定であるという特徴がある。(3)彼女や彼女の雇い主は、ふつうの出稼ぎの若い男性よりも金を持っている。(4)一人で活動することが比較的多い。(5)警察に事件を届け出ることが少ない。

 犯罪の動機について言えば、強盗はもちろん金目当てだが、殺害に関しては、さまざまな動機がある。客にサディズム的傾向があり、セックスワーカーが承諾しなかったために殺された場合もある。もっとよく見られるのは価格の問題で、セックスワーカーは価格には敏感なので、話がまとまらなくて、セックスワーカーが騒いだために、客が静かにさせようとして殺害する結果になる。もちろん金を奪うためにセックスワーカーを殺害した事件もある。

 なぜ警察に事件を届けないかといえば、現在の法律の体制では、警察は彼女たちの敵だからである。法律の規定によると、売春する者は、軽くて10~15日間の拘留、5000元以下の罰金、重ければ6カ月~2年間の労働矯正処分となる。

 経営者(老板)も、警察に介入されるのをいやがる。刑法359条では、他人を誘惑・収容・紹介して売春させたものは、5年以下の有期懲役・拘留(*)・管制(**)に処すとされており、情状の重いものは、5年以上の刑もある。重大な組織的売春は、死刑さえある。したがって、被害者が警察に事件を届けることは、経営者にとってさらに危険かもしれない。
 (*)短期間の自由刑
 (**)一定期間、一定の自由(表現活動や移動・面会など)を制限して、公安機関の監督下で社会生活を送らせる刑罰

 セックスワーカーの権利は周縁化されている。その原因は、彼女たちの「仕事」が周縁化・地下化されていることである。

 警察は、被害を届け出たセックスワーカーや経営者はあまり処罰しないようにすべきである(しかし、警察は往々にして公然と「我々は被害を届け出た者を処罰しない」と言えない)。

 また、警察は、摘発した事件をもとにして、セックスワーカーにどうしたら自分の権利を守れるかを宣伝すべきである。生命権は、疑いなく「社会の教化」より重要である。権利の主体は、身分のいかんを問わない。この点から出発すれば、警察がいかに自分の生命や財産を保護するかを教育することは完全に合法的である。

 趙軍さんは昨年4月、『懲罰の辺境:売春刑事政策実証研究(懲罰的辺界:売淫刑事政策実証研究)』(中国法制出版社 2007年)という本も出版しました。私はまだ読んでいませんが、以下のような構成の本です(詳しい紹介)。
 第1章 序論
 第1節 研究視角
 第2節 研究方法
 第2章 法益あるいは権利の侵害に関して
 第1節 「家庭破壊説」の疑問点
 第2節 「性病・エイズ伝播説」の欠陥
 第3節 「違法犯罪誘発説」への疑問
 第4節 売春とそれと関係する行為の侵害
 第3章 規範あるいは道徳の違反に関して
 第1節 売買春が徳行にもとることの考察
 第2節 売春を紹介することが徳行にもとることの考察
 第3節 売春を組織することが徳行にもとることの考察
 第4章 法律のコストと効果に関して
 第1節 経済的コストの分析
 第2節 社会的コストの分析
 第3節 法律的効果の分析
 結語
 参考文献
 附録

 目次を見ると、売買春の取締りについて、非常に根本的なところから問題にしている本のようです。また、抽象的な思弁ではなく、セックスワーカーに対するアンケートなど、実際の調査をもとしして論じられているようです。

 全体で429ページありますが、そのうち200ページ近くが、「附録」という形で、警察や経営者、セックスワーカー、顧客などに対する調査、ケーススタディに充てられており、この箇所だけでも貴重な本のように思われます。

 私はさっそくこの本をネット書店「書虫」に注文しましたので、もし入手可能なら、2週間ほどしたら、書虫の目録に掲載されると思います(書虫は、予め目録に掲載されている本以外の本を注文すると、その注文が通った時点で目録に掲載されるシステムです)。→掲載されました(趙軍『懲罰的辺界:売淫刑事政策実証研究』)
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