2017-04

「看護師条例」公布

 1月23日、国務院の常務会議で「看護師条例(護士条例)」が採択され、同月31日に公布されました。5月12日から施行されます。

 この条例は、以下の6つの章からなっており、全部で35条です(1)
 第一章 総則
 第二章 業務登録
 第三章 権利と義務
 第四章 医療衛生機構の職責
 第五章 法律上の責任
 第六章 附則

深刻な中国の看護師問題

 この条例が制定された背景には、いまの中国の看護師が抱えている深刻な状況があるようです。国務院法制弁公室の責任者は、この条例を制定した理由として、以下の3つの点を挙げています(ゴシックは遠山による)(2)

 一、看護師の合法的権益の法律的保障が不足している。看護職には充分な魅力がなく、看護師の隊伍は人民大衆の看護サービスに対するニーズを満たすことができていない。現在、人事制度の改革の中で新旧の体制が併存している情況の下で、一部の医療機構には正式の編制人員と編制外で招聘した契約制人員との複線的管理が存在しており、看護師の人的コストを減らすために、正式の編制の看護師を大きく減らし、編制外で招聘した契約制看護師を増やしている。一部の医療機構が招聘した契約制看護師は、継続的教育に参加したり職称が昇進したりする権利がなく、国家が規定した祝日・休日の待遇がなされていない。これらの問題は看護師の労働上の権益を侵犯しているだけでなく、看護師の隊伍の安定を大きく損なっており、看護の専門業務の発展に不利で、患者に優れた質の看護サービスを提供するうえで不利である。

 二、一部の看護師は全面的・厳格に看護の職責を履行することできず、基礎的な看護業務を軽視し、主体的にサービスする意識が強くないために、患者との関係が緊張し、医療の質を損ない、医療事故さえ起こしている。少数の看護師は完全には「患者を中心にする」というサービスの理念によって行動せず、患者に対する態度が温かくない。若干の病院は看護業務を単純化し、看護師は医者の指示をを執行して、注射をやりとげ、薬を出すことだけを重んじ、主体的に患者の病状の変化を観察することや病室を見回ることや基礎的な看護業務を軽んじて、患者に対する生活の世話や心理的な看護、リハビリの指導を軽視し、患者との気持ちを通わせ、交流することを軽視している。

 三、一部の医療衛生機構は医療を重んじて、看護を軽んじ、ほしいままに看護職の数を減らして、医者と看護師との比率のバランスを大きく崩している。とくに一部の病院は、看護師は病院にあまり大きな経済的効果をもたらさないと考えているため、看護師の隊伍の建設と看護業務の発展を、病院の全体的な発展計画の中に組み込んでいない。病室の看護師が少ないために、患者が必要な生活面の世話が十分できず、基礎的看護業務が水準に達していない。病院は、患者に金を払わせてヘルパー[護工]を雇わせるので、患者の生活の世話のニーズは満たせても、重体の患者に対する看護については、隠れた災禍をもたらしている。とくにヘルパーが一部の治療的性格をもった看護業務をすることは、看護師がおこなうべき患者の病状の変化を観察する職務を形ばかりのものにするので、医療の安全に多大の隠れた災禍をもたらしている。

 したがって、この条例の狙いとしても、次の3つの点が挙げられています。
 一、看護師の合法的権益を充分に保障すること
 二、看護師の業務執行行為を厳格に規範化すること
 三、医療衛生機構の責務を強化すること

この条例では、看護師自身の権益はあまり重視されていない?

 上の一、の「看護師の合法的権益」に関する条文を見てみると、以下のとおりです。

 第12条 看護師業務は、国家の関係規定にしたがって賃金報酬を得て、福利待遇を享受し、社会保険に参加する権利がある。いかなる単位または個人も、看護師の賃金をピンはねしたり、看護師の福利待遇を取り消したり、低下させてたりしてはならない。

 第13条 看護師業務は、その看護業務に適応した衛生防護、医療保険サービスの権利を持つ。直接有害有毒物質に接触し、伝染病に感染する危険がある仕事をする看護師は、関係する法律・行政法規の規定にもとづいて職業健康監護を受ける権利を持つ。職業病にかかった者は、関係する法律・行政法規の規定にもとづいて、賠償をする権利を持つ。

 第14条 看護師は、国家の関係規定と本人の業務能力と学術水準に応じた専門的技術職務・職掌を得る権利を持つ。また、専門的訓練に参加し、学術的な研究と交流に従事し、職業協会と専門の学術団体に参加する権利を持つ。

 第15条 看護師は、疾病の診療・看護に関係した情報を得る権利と看護の職責の履行に関するその他の権利を持ち、医療衛生機構と衛生主管部門の工作に意見と提案を出すことができる。

 第12条~第14条については、それぞれについて、ほぼ対応する形で「医療衛生機構の職責」も定められており(第22条~第24条)、法律上の責任も定められています(第29条、第30条)。

 しかし、全体として、一般的なことしか書かれていない感じがします。また、第12条と第13条には、「国家の関係規定にしたがって…」「関係する法律・行政法規の規定もとづいて…」と書かれていますが、それらの点に関しては、言い換えれば、この条例では、従来からある規定で述べられている以上のことは定めていないということになります。医療衛生機構の「法律上の責任」も、この2つの条文に関しては「(守らなければ)関係する法律・行政法規の規定もとづいて」処罰するという書き方なので、新しく罰則を設けたというわけではないです。

 ただし、第14条のうち、看護師の職業訓練に関する規定だけは、少しだけ厳しくなっています。すなわち、第24条で「医療衛生機構は、その機構の看護師の在職訓練計画を制定・実施し、看護師に訓練を受けることを保障しなければならない」と規定されているのですが、この点は、やらなければ地方人民政府から「警告」が下されます(第30条)。この点は直接医療の質にかかわる問題だから、少し厳しくしたのでしょうか?

看護師の配備基準の達成については、やや力点が置かれている?

 比較的重視されていると思うのは、第20条の「医療衛生機構の看護師の配備数は、国務院の衛生主管部門が規定した看護師の配備基準を下回ってはならない」という規定です。

 この条項も、「国務院の衛生主管部門が規定した配備基準」を確認しているだけですが、この条項に関しては、「法律上の責任」が、「地方人民政府が期限までに改めるように警告する」→「改めなければ診療科目の削減or6ヶ月以上1年以下の営業停止」(第28条)というふうにやや厳しくなっています。また、経過措置として、「この条例が施行される前にまだ看護師の配備基準を達成していない医療衛生機構は、国務院の衛生主管部門が規定した施行の段取りに従って、この条例が施行された日から3年以内に看護師の配備基準に到達しなければならない」(第34条)ということも定めているので、ある程度本気で現状を改めようとしている感じがします。

 看護師の配備基準の達成がわりあい重視されている背景には、この問題がとりわけ深刻だということがあるように思います。たとえば、2006年の看護管理工作会議において、衛生部医政局看護部長の郭燕紅さんは「衛生部統計センターの統計データによると、1952年のわが国の医者と看護師の比率は1:2.28だったのが、2001年には1:1.09に下降し、2003年には1:0.68になった。全国400ヶ所あまりの病院に対する衛生部の調査によると、医療機構の病室の看護師とベッドの比率の平均は0.33:1であり、最低は0.26:1しかなく、まだ衛生部が1978年に出した要求である0.4:1に達していない。95%以上の病院では入院患者の生活看護の仕事は、家族かヘルパーが請け負っている。」「1978年から現在までにもう30年が経とうとしており、医学技術は飛躍的に前進し、人民大衆の健康のニーズは高まっているのに、看護師のベッド比率は高まっていないだけでなく、下降している」(3)と述べています。

 看護師の配備基準を達成するか否かは、もちろん看護師の労働条件にも関わってきます。今後、この条例によって、現状がどれほど変わるかに注目したいと思います。

 その他の条文に関しても、最初に述べた一~三の点を解消する上で果たしてどれほど有効かを検討してみたいと思います。

(1)「中華人民共和国国務院令第517号 護士条例」(中華人民共和国中央人民政府サイトより)。中国の看護師が抱えている深刻な状況については、文中にも挙げた中華首席医学ネットの特集ページ「天使之憂」をご覧ください。
(2)「国務院法制辨負責人就《護士条例》答記者問」(中国法制信息網より)
(3)余運西「失衡的護士床位比」『健康報』2006年3月22日。なお、国際比較については、中国語ですが、胡雁「護理学専業的現状与前景」中国護士網2005-9-20参照。
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