2017-07

信陽市の「女性は試験で2点プラス」という決定についての議論

 2007年10月1日に河南省信陽市で、中国共産党市委員会と市政府は「信陽市女性思いやり実施意見(信陽市関愛女性実施意見)」(1)を公布しました。

 この意見(「意見」という名称ですが、地方的法規です)は40条からなっていますが、数値を明確に規定している条項がある点が注目されています。たとえば――
 第1条 計画出産政策に合致して女児を産んだ農民の家庭は、分娩費用を20%減免する。その費用は計画出産事業費から支出し、市と県から50%ずつ出す。
 第4条 女の子ども2人の夫婦の養老保険の費用は、市・県・郷が2:4:4の比率で計画出産事業費から支出する。
 第33条 農村の満60歳になった、女の子ども1人だけの家庭と女の子ども2人だけの家庭の父母は、毎月1人50元の奨励扶助費を出す。
 という条項があります。これらは、中国の農村では女児よりも男児が生まれることを望む状況(女児が生まれても、男児が生まれるまで出産を続ける状況)があることを是正するための方策でしょう。

 ただ、今回とくに議論になっているのは、次の2つの条項です。
 第12条 本市の各種類の高級中学(=日本の高校にあたる)、市が管轄する各種類の中等専門学校と職業技術学校の入試では、女子にはみな2点を加える。
 第20条 指導的幹部を公募する時は、女性幹部は、筆記試験の成績に満点の2%を加える。
 実際、信陽市の副局長クラスの幹部の公開選抜のとき、筆記試験の際に2%加点されたことによって面接試験にすすむことができた女性もいたようです(2)

 以上のような規定に対して、現在、中国ではさまざまな意見が出されています。 

 ・数量化したことは、具体的で実効性のあるやり方である(佟吉清)(3)

 ・いささかコストはかかるけれども、何年かあとには、社会の進歩と調和といういっそうの収穫が得られるだろう(張伝発。この意見は、主に第1条や33条について言っているのでしょう)(4)

 ・女子生徒の入試の点数にプラスするのは、男性に対する逆差別である(馬碧)(5)
 ・入試や指導的幹部の公募の点数で女性を優遇するのは、社会の公平原則に違反しているのはもちろん、女性に対する「施し」か差別である疑いもある(賈如軍)(6)

 ・中学の時の学校の成績は、全体的に女子生徒の方が良いのだから、女子生徒に加点することは教育の公平を破壊する。行政権力は、「点数の前には人はみな平等である」という教育の自律的機能を尊重せずに、点数を、自分の手中にある、分配したり褒美を与えるための資源と見なしている(曹林)(4)

 ・女性が弱者であるのは、生理的な特徴によるものではなく、社会の体制や習俗によるものである。だから、社会の体制や習俗こそを変えるべきであって、「点数を加算する」というのは怠惰で、後遺症を生じるやり方である(馬碧)(5)
 ・女性はさまざまな社会的差別に直面しているので、女性への思いやりを数量化して政府の責任にするやり方には、敬服するし、感激する。しかし、真に男女不平等を引き起こしている根源は、女性に対する採用や評価・審査の偏りや誤りである。だから、入試や幹部登用の際の加点は、実質的な問題を解決しない(十年一刀)(4)

 ・男女でスタートラインが違うのだから、現在の不平等な状況を補うためには、女性に偏った配慮をすることは必要である(趙艶紅)(3)
 ・形式的平等ではなく、実質的平等を実現するためには必要である(佟吉清)(3)
 ・女性差別撤廃条約は「暫定的特別措置」を規定している。「点数の前に人はみな平等である」は神話にすぎない。手続き上の平等ではなく、実質的平等が必要である(呂頻)(7)

 ・報道によると、試験の際の点数の加点について、男子学生や男性幹部は「気にしない」と言っているし、女子学生は「興味がない」と言っている。2点くらいでは恩恵を受ける女性は少ないのだろうし、また、大学入試や就職の方が大きな問題なのだろう。宣伝効果の方が、実際の効果よりもはるかに大きい。実質的な平等のための措置としては、最も初歩的で、ごく知れたものである(呂頻)(7)

 ・具体的に執行するに当たっては、「2点をプラスする」という規定について、科学的評価をすることを提案する。たとえば、「高級中学への女性の進学率を一定の比率にするためには、何点プラスする必要がある」などとというふうに。また、一部の地方では男尊女卑が女性の進学を妨げてる現状があるのだから、女子学生への奨学金を男子学生よりも高くするなどの措置も必要ではないか(趙艶紅)(3)

 ・「思いやり(関愛)」という名称は誠意を疑わせる(呂頻。コメント欄で)(8)
 ・「思いやり」では、真の差別の解消はできない(呂頻ブログのコメント欄)(8)
 
 私は、一般論として言えば、どの意見についても「そうした面もあるだろう」と思います。けれど、私には現地の具体的状況がわかりませんので、軽率にあれこれ言うことはできません。ただ、一つ一つの条項を区別して考えなければならないことは確かだと思います。入試の点数の加点と指導的幹部への女性の優先的登用についても、その二つを区別して考えることが必要でしょう。
 そのうえで、たとえば入試の点数の加点の問題について言えば、具体的に信用市の高級中学進学率の男女差やその原因について具体的に調査した上で、その是非を検討する必要があると思います。

 また、私は、どのような経過でこうした規定が出されたのかについても興味を引かれます(入試の点数の加点を女性団体が要求したという話は聞きません)。上記のように、「思いやり」という名称の問題点を指摘している人がいますが、果たして信陽市が「暫定的特別措置」という位置づけでそうした規定を設けたのでしょうか? 大きな流れのなかに位置づければそう言えるのかもしれませんが。
 『中国婦女報』の蘇建軍記者は、中共信陽市委員会の王鉄書記の個人的な役割を重視した記事を書いていますが(9)、王鉄書記の講話を読むかぎりでは、確かに王鉄書記は女性の役割を重視しているのですが、語っている内容はわりあい一般論であるのように思います(10)

(1)「信陽市関愛女性実施意見」『中国婦女報』2008年1月12日。
(2)「12条規定把関愛女性量化為政府責任」『中国婦女報』2007年10月17日。
(3)「給女性加分,是在製造不平等嗎 河南省信陽市関愛女性実施意見的探討」『中国婦女報』2008年2月5日。
(4)「関愛女性能否不以傷害公平為代価」『西安晩報』2008年1月29日。
(5)「女性考試加分:矯枉過正的歧視」紅網2008年1月29日。
(6)「関愛女性不是対女性“施捨”」人民網河南視窓2008年1月31日。
(7)「从実質平等看給女性加分」BLOG「朝陽路上」(呂頻さんのブログ)2008年2月1日。『中国婦女報』2008年2月2日にも掲載
(8)同上コメント欄
(9)「関愛女性──譲女性常沐明媚春光」『中国婦女報』2008年1月12日。
(10)「信陽市委書記王鉄在女幹部座談会上的講話摘要」『中国婦女報』2008年1月12日。
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