2017-08

高齢女性(2)──高齢者権益保障法の改正とジェンダー

 前回の記事:高齢女性(1)──高齢女性のかかえる問題

 今年、2007年は、中国の「高齢者(老年人)権益保障法(「老人権益保障法」と訳されることもある)」(1996年制定)の改正作業が始まった年です。この改正にジェンダーの視点を入れるために、今年、2つの会が開かれました。

一、老齢女性権益保障専門シンポジウム[専題研討会](2007年3月)(1)

 まず、今年3月、中国人民大学老年学研究所や同大学の女性学研究センターなどが、「老齢女性権益保障専門シンポジウム」を開催しました。

 このシンポジウムでは、まず、高齢者権益保障法改正の専門家メンバーで、全国老齢工作委員会弁公室権益部主任の王さんが、「わが国の高齢者権益保障の法律には、性別の差異の状況に対する考慮がたしかに不足していた。新しく改正する高齢者権益保障法は、ジェンダーの専門家の意見を十分に吸収して、高齢女性の権益をより確実に保障できるようにしなければいけない」と述べました。

 また、中国人民大学老年学研究所の杜鵬教授は、2002年の第2回世界高齢者大会の「マドリード国際高齢者問題行動計画」では高齢女性の問題がかつてなく注目されているのに、中国国内での研究や政策実践は始まったばかりであることを指摘しました。

 さらに、社会科学院の董之鷹研究員は、高齢女性は寿命が長く、配偶者を失なう率も高く、自らの経済的蓄積も少ないので、彼女たちの社会的な養老保障に対するニーズは男性よりも大きいこと、しかるに、中国の現行の社会的養老制度は、高齢女性の特殊な要求を考慮しておらず、その点に配慮した扶助政策がないことを指摘しました。

 この会では、農村の高齢女性の深刻な状況も議論されました。中国青年政治学院副教授の劉暢さんと全国婦連女性研究所補佐研究員の賈雲竹さんは、次の問題を指摘しました。
 ・農村の青壮年労働力が大量に都会に流出しているため、農村の高齢女性にますます生産と生活の圧力がかかってきており、彼女たちの生活のケアと精神的慰籍が非常に欠乏している。
 ・家族の小規模化や青年世代の女性の独立した自我意識の高まりのために、農村の伝統的な家庭の養老能力が弱まり、世代間の矛盾と衝突が激しくなって、姑と嫁の間の矛盾がしばしば家族の贍養[せんよう。子の親に対する扶養]紛争の導火線になっている。贍養紛争では、高齢女性がもっとも被害をこうむる。
 賈雲竹さんは、それゆえ、農村の社会的養老保障制度では、男女の生産と生活における異なった経歴と境遇に注意して、男女が真に平等に社会発展の成果を享受できるようにすべきだと述べました。

二、「高齢者権益保障法」改正専門家討論会(2007年8月)(2)

 8月31日には、全国婦連権利保護工作指導グループ[維権工作領導小組]、全国婦連老齢工作委員会、全国婦連女性研究所の共催で、「高齢女性の権益を保障し、平等で調和した社会を構築しよう──『高齢者権益保障法』改正専門家討論会」が開かれました。
 この会も、高齢者権益保障法にジェンダーの視点を入れ、高齢者女性の権益を守る目的で開催されました。

 会議は全国婦連書記処書記の王乃公が主宰し、副主席の莫文秀も出席しました。
 参加者は、法改正にジェンダーの視点を入れる必要性や、その基本的な考え方と原則、具体的な条項の改正について討論しました。 

 この討論会では、高齢者権益保障法をどう改正するかについて、以下のような意見が出ました(末尾にその意見を出した人の名前を書いています。ただし、個々の条項の改正すべき点については、「条項の具体的な改正提案」として一括して書かれているので、ある程度この会の総意なのかもしれません)。

家庭による養老モデルを変え、政府の責任と社会保障を強調を
 この点は「参加した専門家が一致した」と書かれています。たとえば、「家庭養老の観念は変えるべきであり、社会保障と政府の責任を強化し、多くの手段によって在宅養老サービス体系を打ちたてて、共同で高齢者の贍養責任を担わなければならない」(中華女子学院教授・夏吟蘭)などと述べられています。
 より具体的には――
 ・現行法では、第2章「家庭贍養と扶養」、第3章「社会保障」……となっているが、第2章「人身と財産の権利保障」、第3章「社会保障」、第4章「贍養と扶養」……にするべきである(全国婦連女性研究所・譚琳)
 ・現行法の第10条に「高齢者の養老は主に家庭による」とあるが、こうした伝統的な養老観念は変え、政府の責任と社会保障を強調する必要がある」(中華女子学院教授・李明舜)
 ・単純な家庭養老はダメだが、完全な社会化は時期尚早だ。コミュニティによる養老が比較的良い方法だ(李明舜、国務院法制弁公室・曹穎、全国人民代表大会内務司法委員会・黄怡捷など)――こうした点については、参加者によってニュアンスに差があるようです。

社会保障に対する政府の責任を明確に
 この点については、現行の条文に以下のような批判がなされました。
 ・現行法の第23条に「労働能力がなく、生活の源がなく、扶養する人がいない」老人に対しては、現地の政府などが救済するとある。つまり法律の重点は、完全に能力がなくて、生活がきわめて貧困な集団に置かれている。しかし、これは、現状と適応していない。
 ・第26条には「本人と扶養人がたしかに医療費用を支払う力がない者」に対して政府や社会が扶助するとある。しかし、それだけを強調するのでは、政府が負うべき責任を弱めている。すべての高齢者に対する健康・医療保険を打ち立てた後に、特殊な集団に対する医療救助を強調するべきだ。
 ・第33条に「国家は、社会組織あるいは個人が高齢者[老年]福利院・敬老院・高齢者アパート・高齢者リハビリセンター・高齢者文化体育活動の場所と施設を設立・運営するのを励まし、援助する」とあるが、具体的な方法(税の減免など)を明記すべきだ。

死別・再婚・同棲の際の財産権の保護
 ・高齢女性の婚姻の自由は法律で保障されているが、現実にはしばしば障害がある。そのため、同棲(同居)という関係が多いので、同棲関係や同棲の過程で生ずる問題について適切な規定をするべきである。それとともに、再婚の自由と再婚時の権益の侵害に関する条項を充実させるべきだ(夏吟蘭)。
 ・再婚した女性が配偶者を失った際の相続権の問題は深刻である。また、女性が同棲したとき、元の婚姻関係の中の財産権が保護されないとか、同棲している女性が配偶者を失ったとき、相続権が保障されないという問題もある。法律は、こうした面について重視し、規定すべきだ(北京大学法学院女性法律研究・サービスセンター・李瑩)。
 ・とくに再婚・離婚時の住宅の権利を保護する必要があり、小額の金銭保障で済ませてはならない。高齢者が死亡したとき、その配偶者は、住居に対する終身の権利を享受すべきことを提案する(海淀法院裁判官・肖菲、李超)

人身の権利、(家庭内)暴力
 ・高齢者に対する暴力の禁止規定を置くべきである(農村では、家族のメンバー以外からの暴力もある)。現行の第4条に「高齢者に対する差別視・侮辱・虐待・遺棄を禁止する」とあるが、「高齢者に対する暴力を禁止する」にして、「いかなる言語・行為およびその他の方法で高齢者を差別視・侮辱・虐待・無視(軽視)、遺棄することもみな高齢者に対する家庭内暴力と見なす」とするべきである。
 ・家庭内暴力に関して、婚姻法では離婚の時に被害者が家庭内暴力について訴訟を起こせると規定しているが、子どもの高齢者に対する家庭内暴力についても訴訟を起こせるかどうかも検討に値する。
 ・第15条に「扶養者は高齢者の力ではできない(力不能及)労働を要求してはならない」とあるが、「力不能及」という言葉は、司法上、使いにくいし、また、家事労働はしばしば正式の労働とみなされないことがある。だから、「扶養者は高齢者に生産労働と家事労働を強要してはならない」という条文にすべきだ(譚琳)。

法律の実効性。法律上の責任や救済措置に関する規定の強化
 ・現在の司法実践では「高齢者権益保障法」は裁判所の判決の根拠としては使いようがない。当事者もこの法律によって訴訟をおこすことも少なく、調停で少し引用できるだけだ(中国人民大学教授・杜鵬)。
 ・この法律の実用性と可操作性を強めるべきで、そうでなければ、宣言的・唱道的な法律にしかならない(曹穎、黄怡捷、肖菲)
 ・第5章「法律上の責任」は「法律上の責任と救済措置」に改め、救済措置も規定するべきである(譚琳)
 ・第5章「法律上の責任」では、法律の規定がないか、不明確である内容について、補充をするべきである。たとえば、家庭内暴力に関して……(先述)。
 ・第3章第39条に「弁護士費用を支払う力がない人は、法律扶助を得ることができる」とあるが、「できる」は、「すべき」に改めるべきである。

高齢者権益保障法の対象と定年差別の関係をめぐる議論
 ・「高齢者権益保障法の対象(「高齢者(老年人)」の定義)は60歳以上だが、女性の定年は55歳かそれ以前だから、法の対象を広げるべきだ」(杜鵬、徐勤)。
 ・この意見に対し、「定年差別こそを克服すべきであり、高齢者権益保障法の対象を広げることは、将来差別是正の妨げになる。60歳未満の人の問題は社会保険法などで対応すべきだ」(譚琳)という意見も。

その他、ジェンダー視点
 ・高齢者の中でも、とくに貧困な人々や三無(労働能力がない、生活費の出所がない、贍養・扶養する人がない)の人々、とくに年齢の高い人(高齢老年人)には女性が多い。だから、そうした人々の保護をとくに重視する規定を置けば、多くの女性高齢者が保護されることになる(全国婦連女性研究所・劉伯紅ほか)。

 その他にも、いろいろ提案や議論がされましたが、書ききれません。

全国婦連副主席の莫文秀の総括講話
 会の最後に全国婦連副主席の莫文秀さんが、高齢者権益保障法の修正に対する婦連の取り組みについて、以下のような意見を述べました。
 1.婦連の組織は高齢者権益保障法の改正の過程で、「人間本位(以人為本)」という発展観(=経済発展一本やりでないということ)を堅持しなければならない。
 2.法改正に参与する過程で、ジェンダーの視角を体現しなければならない。
 3.婦連の組織は調査研究を強めて、高齢女性の権益を保障しなければならない。
 4.高齢者権益保障の主体は政府であり、婦連の組織は有効な職能作用を発揮しなければならない。
 5.「高齢者権益保障法」の基本法としての地位を十分に体現しなければならない。すなわち、単に他の法律と合致させるだけではなく、現実の問題を解決しなければならない。

(1)「将性別視角納入老年婦女権益保障体系」『中国婦女報』2007年3月29日
(2)全国婦聯婦女研究所編『研究信息簡報』2007年第13期(2007年11月20日)(附件にPDFファイル「保障老年婦女権益 構建平等和諧社会――《老年人権益保障法》修改専家討論会綜述」があります)。なお、この会については、「以性別的視角関注老年人権益」(『中国婦女報』2007年9月4日)にも簡単に報じられています。

※なお、現在の中国の高齢者扶養システムについては、湯山トミ子「撫養と贍養 中国における扶養システムと親子観」富田武・李静和編『家族の変容とジェンダー――少子高齢化とグローバル化のなかで』(日本評論社 2006年)などがあります。
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