2017-04

「中国女性発展要綱」の中期評価報告

 今年5月、国務院女性児童工作委員会は、「『中国女性発展要綱(2001─2010年)』実施情況中期評価報告」を発表しました(「《中国女性発展綱要》(2001─2010年)実施情況中期評估報告」←ここからPDFファイルが取り出せます。英文もあります)。[→追記:リンク切れなのでこちらから]。

 「中国女性発展要綱」というのは、女性の発展の全体的な目標、優先する領域、主要な目標、そのための措置を定めたものです。北京で世界女性会議がおこなわれた1995年、国務院女性児童工作委員会が、はじめて1995年から2000年までの「要綱」を作成しました。今回評価の対象になったのは、その次に作成された2001年から2010年までの「要綱」です(「《中国女性発展綱要》(2001─2010年)」)→[追記:リンク切れなのでこちらを]。

 しかし、この評価をしたのも国務院女性児童工作委員会だからなのでしょうか、やはり、以下に見るように甘い評価になっています。

目標の達成状況
 この報告は、目標の達成状況については、数量化できる指標として以下のものを挙げて、評価しています。
 以下のカッコ内は(2000年の数値→2005年の数値:2010年の目標)の順です。また、単位が書いていない数字の単位は「%」です。

1.期限前に目標に到達した指標(28項目)
 ・社会全体において女性の就業人員が占める比率(46→45.4:40以上)
 ・養老・医療・失業・労災保険に参加している人数(それぞれ、10448万人→17487万人、2863万人→13783万人、10408万人→10648万人、4350万人→8478万人:平等な権利と機会を保障する)
 ・農村の貧困人口(3209万人→2365万人:減少させる)
 ・都市の最低生活保障人数(403万人→2234万人:増やす)
 ・農村の最低生活保障人数(300万人→825万人:増やす)
 ・全国人民代表大会常務委員会の女性比率(12.7→13.2:向上させる)
 ・全国政治協商会議常務委員会の女性比率(10→11.4:向上させる)
 ・全国政治協商会議の女性比率(15.5→16.8:向上させる)
 ・省(部)クラスの女性幹部比率(7.8→10.3:向上させる)
 ・地(級)クラスの女性幹部比率(11→12.9:向上させる)
 ・県(処)クラスの女性幹部比率(15.8→17.2:向上させる)
 ・女性幹部比率(36.2→38.5:向上させる)
 ・居民委員会の女性委員比率(59.1→53.1:一定の比率を占める)
 ・小学適齢女子児童の純入学率(99.07→99.14:99)
 ・小学女子児童の5年強固率(94.48→98.5:95)…1年生が退学せずに5年生になれた比率
 ・初級中学への女子児童の粗入学率(88→94.5:95)
 ・女性の平均寿命(73.3歳→74.1歳:向上させる)
 ・妊婦の産前の医学検査率(89.4→89.8:向上させる)
 ・農村の妊産婦の病院出産率(65.2→81.0:65) 
 ・計画出産の知識の普及率(60→80:80以上)
 ・法律援助機構の数(1582ヶ所→2600ヶ所:女性に法律的援助を提供する)
 ・法律援助を得た女性の数(41107人→76257人:女性に法律的援助を提供)
 ・農村の飲料水の安全の普及率(59.2→66.9:向上させる)
 ・農村の衛生便所の普及率(44.80→55.31:向上させる)
 ・都市の汚水処理率(34.25→51.95:45)
 ・大気環境の目標を達成した地クラス以上の都市の比率(41.8→54.1:向上させる)
 ・水環境の目標を達成した地クラス以上の都市の比率(42.2→52.3:向上させる)

2.達成が望める指標(3項目)
 ・都市の労働者の生育保険のカバー率(26→46.1:90以上)
 ・成人女性の識字率(86.53→83.85:85以上)
 ・女性の青壮年の識字率(96.11→94.7:95)
 (識字率に関する2項目は、2000年と2005年とでは基準が異なります)

3.まだ目標に到達していない指標(10項目)
 ・女性労働者の特殊な労働保護規定を執行している企業の比率
  四期の労働保護の規定を執行している企業(95→34.9:保障する)
  女性労働者が従事してはいけない労働の規定を執行している企業(85→29.7:保障する)
 ・全国人民代表大会の女性比率(21.8→20.2:向上させる)
 ・省政府の指導グループへの女性幹部配備率(64.5→87.1:100)
 ・市(地)政府の指導グループへの女性幹部配備率(65.1→82.6:100)
 ・村民委員会のメンバーの女性比率(15.7→16.7:一定の比率を占める)
 ・婚前医学検査率(64.55→2.93:都市80、農村50)
 ・妊産婦死亡率(53.0人→47.7人:39.75人)(10万人中)
 ・全国でその年に報告された女性のエイズウイルス感染人数(1008人→9861人)
 ・その年の性病の報告例数(35.8万→32.5万)

4.データがない指標(4項目)
 ・高級中学段階の女性の粗入学率(?:75)
 ・高等教育の女性の粗入学率(?:15)
 ・都市のゴミの無害化処理率(?:向上させる)
 ・女性が自分で支配する時間(?:増加させる)

 上記からは、たしかに様々な面で中国女性の状況は改善されていることがわかります。こうした面はきちんと見なければならないでしょう。
 しかし、ご覧になればわかるように、この評価には次のような問題があると思います。

 第一に、もともとの数値目標が非常に甘いということです。
 まず、「向上させる」としか目標が書かれていない項目が多い。「目標を達成した」とされている指標の多くは、そうした項目です。
 また、2000年の時点ですでに達成されている数値が目標として掲げられている項目もあります。たとえば「社会全体において女性の就業人員が占める比率」という項目は、「40%以上」という目標が掲げているのですが、2000年の時点で、女性の就業人員はすでに46%を占めていました。2005年は45.4%であり、むしろ僅かながら低下しているのですから、これで「目標達成」とするのは、もともと女性の就労を重視していない現われでしかないように思えます。そうした項目は他にいくつもあります。
 この報告も、「要綱を制定したときに設定した個々の目標は、指標を実際の状況にもとづいて適当に調整しなければならない」ということは述べているのですが……。

 第二に、指標が適切かどうかということです。
 まず、重要な指標がたくさん抜けています。たとえば男女賃金格差は、男女差別を考える際、誰もが思い浮かべる最重要の指標だと思うのですが、入っていません。その直接の原因は、全国的な公的統計がないということだと思うのですが(婦連による調査や研究者による調査はもちろんある)、そのこと自体、この問題が政策的に重視されていないことの現われだと思います。
 逆に、女性の地位向上を示す指標として適切かどうか疑わしいものが少なくありません。まして「婚前医学検査」ともなると、政策的にも2003年には義務ではなくなり、実際、検査を受けている人の比率も大幅に低下しているのですが、この報告は、なお、「出生の欠陥発生率を低める」ために受診率を向上させるべきことを唱えています。
 どうも全体として、中国政府の言う「女性の発展」というのは、「男女差別をなくす」ということとは、かなりズレがあるようです。この点は、中国が発展途上国だということとも関わるでしょうし、日本と同じ基準で判断してはならないのはもちろんですが……。

領域ごとの進展状況
 この評価報告は、領域ごとの進展状況については、以下のような見出しを掲げて説明しています。
(一)女性と経済
1.女性の就業人数が増加し、就業構造に変化が起きた。
2.女性は男性と平等な労働と社会保障の権利を享有している。
3.農村の貧困な女性は減少し、都市と農村で最低生活保障を得ている人数は大幅に増加した。
(二)女性の政策決定と管理への参与
1.全国の女性の人民代表の比率はやや減り、女性の政治協商会議の委員の比率は増えた。
2.各クラスの女性幹部の比率は高まり、省・市・県クラスの党と政府の指導グループへの女性幹部の配備率は上昇した。
3.女性が基層のコミュニティの管理に参与する比率は上がったり下がったりで、農村女性の参政比率は依然として低すぎる。
(三)女性と教育
1.9年制義務教育がカバーしている面はさらに拡大した。
2.高等教育を受ける女性の人数と比率は、増え続けている。
3.女性の識字率は着実に向上し、男女の教育を受ける平均年数の差は縮小した。
(四)女性と健康
1.妊産婦死亡率は下降し、女性の平均寿命が上がった。
2.女性が計画出産の権利はさらに保障された。
3.エイズウイルスの感染人数が急速に増大し、女性の感染比率が上昇した。
(五)女性と法律
1.男女平等を促進する法律法規がさらに整った。
2.女性労働者の権益を保護する工作が不断に強まっている。
3.女性の人身の安全がさらに保障された。
4.女性のための法律援助サービスがさらに強まった。
(六)女性と環境
1.女性の生活環境がいくらか改善された。
2.女性の発展の社会的世論の環境がさらに整った。

 たしかに、上のような面もあるのですが……。
 その他、この報告は、このかんの政策の前進面や問題点などにも触れていますが、やはり肯定的な側面に大きく偏った記述になっています。

報告が指摘する問題点
 ただ、この報告は、上の数値や見出しにも示されているように、問題もいくつか指摘しています。 
 ・全国人民代表大会の女性代表の比率がやや低下した(21.8%→20.2%)。
 ・女性が基層のコミュニティの管理に参与する比率の問題。全国の居民委員会の女性委員の比率はやや低下した(59.1%→53.1%)。また、全国の村民委員会の女性委員の比率は16.7%であり、2000年より1%上昇したが、男性よりはるかに低い。また、都市よりもはるかに低く、農村人口の性別構造と合致していない(男性は都市に出稼ぎに行く人が多いので、農村人口は女性の方が多い)。
 ・妊産婦死亡率は、2000年には10万人中53人だったのが、2005年には47.7人に低下したが、このままでは、2000年の1/4にするという目標の達成は難しい。
 ・衛生部門の統計によると、女性のエイズウイルス感染者が2005年に、3万9838人に達した。これは、感染者全体の27.6%であり、このパーセンテージは、2000年に比べて11.3%増えている。

 2011年には「中国女性発展要綱(2001─2010年)」の「終期監測評価報告」も出されることと思います。
 この前の「中国女性発展要綱(1995─2000年)」の「終期監測評価報告」はかなり詳しいもので、女性の「労働権益」と「女性の健康水準の向上」の点では、「目標は未達成」という評価を下しました(「《中国女性発展綱要》(1995─2000年)終期監側評估報告」)[→追記:リンク切れなのでこちらへ]。農村の土地請負権のジェンダーによる不平等や女性の労働保護の弱まり、妊産婦死亡率の高さなどが問題になったのです。
 今回はどうなるでしょうか?
関連記事

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://genchi.blog52.fc2.com/tb.php/129-3dc7af64
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

«  | HOME |  »

プロフィール

遠山日出也

Author:遠山日出也
 検索から来られた方へ:このブログの記事を分類した一覧である「『中国女性・ジェンダーニュース+』記事総覧」を見ていただくか、下の「カテゴリー」欄を使われると、関連情報がご覧いただきやすいと思います。最近の行動派フェミニストについては、「中国の行動派フェミニスト年表、リンク集」をご覧ください。
 また、「中国女性・ジェンダー関係主要HPリスト」(リンク集)も併せてご覧いただければ幸いです。日本の問題の一部は、「ウィメンズ・アクション・ネットワーク(WAN)の労働争議・まとめ」や「館長雇止め・バックラッシュ裁判」でまとめています。
 恐れ入りますが、スパム対策などのため、コメントは私が拝見した後で表示させていただきます。
 私への連絡はこちらまで

最近の記事

月別アーカイブ

カテゴリー

最近のトラックバック

最近のコメント

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索

リンク

このブログをリンクに追加する

RSSフィード