2017-07

リプロダクティブ・ヘルスに対する取り組みを述べた書

 中国といえば「一人っ子政策」。「リプロダクティブ・ライツ/ヘルス」の理念とは相容れないイメージがあります。
 実際、中国の女性問題研究者らが著した『中国女性発展報告[中国婦女発展報告] No.1(´95+10)』(王金玲主編)も、「リプロダクティブ・ヘルス」概念について、次のように述べています。
 「この概念の内包は、女性と男性の生殖の権利を著しく強調しており、出産をするか否かや、いつ出産するかを自由に決定してよく、子どもの数を自由に決定してよいということを含んでいる。リプロダクティブヘルスの内容は、人口のコントロールを厳格に実行している中国に対して、間違いなく厳しい挑戦である」(肖揚)(1)
 同書の第3章「女性と健康」では、中国の現状の数々の問題点とともに、そうした挑戦を受けた中国の政府や婦女連合会、研究者、NGOの取り組みがかなり詳しく書かれています。この章を読むと、計画出産ひとつとっても、単純な行政的方法だけでなく、サービスや女性の地位向上を重視する方向へ変わりつつある面もいくらかはあるようです(もちろん政府の対応などは、かなり形式的なものにとどまっていて、深刻な事件も起きていますが……)。

 さて、中国の婦女連合会などの、そうした「リプロダクティブ・ヘルス」に対する取り組みを述べた単行本が、次の書物です。

 朱明若主編『中国女性のリプロダクティブヘルスの促進――ニーズの評価から政策の発展へ[中国婦女生育健康促進――従需求評估到政策発展]』(中国社会出版社 2005年)(ネット書店「書虫」データベースの中のこの本のデータ)

第1章 序論(朱明若)
リプロダクティブ・ヘルス篇
第2章 グローバル化の趨勢と女性のリプロダクティブ・ヘルスの促進(朱明若・李佳)
第3章 グローバル化の中国女性の健康に対する影響(劉伯紅)
第4章 ジェンダーとリプロダクティブ・ヘルス政策の促進(杜潔)
健康促進篇
第5章 健康の基本概念と健康の決定要素(朱明若・顔茹)
第6章 公衆衛生の趨勢と発展(朱明若)
第7章 公衆衛生における住民参加(朱明若)
方法篇
第8章 ニーズ評価の意義と方法(朱明若・馬冬玲)
第9章 プロジェクトの発展と評価(朱明若・張永英)
政策篇
第10章 リプロダクティブ・ヘルス政策:理論と国際的趨勢(朱明若・呉昭原)
第11章 「中国女性リプロダクティブ・ヘルス政策提案(草案)」の形成(呉菁)
実践篇
第12章 「中国女性リプロダクティブ・ヘルスプロジェクト(第三期)」実践総報告(杜潔・呉菁・馬冬玲) 
反響篇
第13章 リプロダクティブ・ヘルスと私たち
参考文献
附録 中国女性リプロダクティブ・ヘルス資源索引

 この本によると、中華全国婦女連合会女性研究所は、1992年から、フォード財団の援助を受けてリプロダクティブ・ヘルスについての研究を開始しました。それは、次の3期に分かれるということです。
 第一期(1992年2月~1993年末):注意の喚起と問題の発見
 第二期(1994年2月~1997年9月):人材の育成と研究の実践
 第三期(2001年~2004年):普及と政策の発展

 この本は、第三期の成果について述べたものです。
 第三期は、女性研究所副所長の劉伯紅さんが責任者として指導をし、イギリス留学から帰ってきた国際室主任の杜潔さんがプロジェクトを管理し、呉菁さんが協力したそうです。
 オーストラリアのグリフィス大学の教授で、同大学の環境と人口研究センター主任の朱明若(Cordia Chu)さんも大きな役割を果たしており、この著作でも、かなりの部分も執筆しています。

 この本は600ページ余りある大部な書物であり、私はまだ少しめくってみただけですが、パッと見て私が興味深く思ったのは、以下の箇所です。

 第4章の第2節で、杜潔さんは「中国のリプロダクティブ・ヘルス政策・策略に対するジェンダー分析」をしています。
 杜さんは、母子保健に関しては、中国は1950年代から母子保健や避妊技術指導を重視しており、当時は世界でも比較的先進的だったと言います。けれど、1980年代の国家の経済改革によって、母子衛生への投資が削減されたことを指摘します。また、優生優育によって知力や身体の資質を発展をはかるにとどまったという限界も述べます。
 また、計画出産に関しては、女性の全面的発展を軽視したために、批判に遭ったと述べます。

 1994年のカイロ会議の「リプロダクティブ・ヘルス」の提起を受けて、中国でも「女性のエンパワメント」や「女性を中心にしたリプロダクティブ・ヘルス」という理念が唱えられ、法律的にも、たとえば「人口と計画出産法」では、「人口と計画出産工作をおこなうには、女性が教育を受ける機会や就業する機会を増やし、女性の健康を増進し、女性の地位を向上させることと結び付けなければならない」という規定が盛り込まれたりしたという変化を指摘しています。

 けれども、杜さんによると、現在の中国の法律や政策の規定には、以下の限界があるとのことです。
 (1)女性のリプロダクティブ・ヘルスに関する条項や措置の大多数は、婚姻・家族や母子保健の大枠の中に置かれている。
 (2)現行の女性のリプロダクティブ・ヘルスに関する条項の多くは、出産・育児期段階の女性に対するものに限られている。
 (3)現行の多くの条項は、みな女性を保護するという角度から出発していて、女性を弱者と仮定しており、女性の人権を保障するという地点にまで到達していない。
 (4)現行の女性に向けられた政策、たとえば「中国女性発展要綱」の中で規定されている女性の健康の措置と指標は、まだ国家のマクロな社会・経済政策の主流に入っていない。

 また、第11章では、「中国女性リプロダクティブ・ヘルス政策提案(草案)」について述べられています。
 これは、2002年、全国婦連の「中国女性リプロダクティブ・ヘルス」プロジェクトチームが起草したもので、同年12月の「中国女性のリプロダクティブヘルスの促進:政策と措置フォーラム」での討議などを経て、2003年7月に完成しました。
 この「提案」は、中国女性の健康にとって横たわる問題として、出稼ぎの女性やリストラされた女性の貧困、「計画出産」的なやり方では女性のインフォームド・チョイスが困難であること、男性の参与の不足、心理的健康や女性に対する暴力の軽視、セックスワーカーや性病・エイズの女性の問題などを挙げています。

 政策の提案としては、「ジェンダー平等」「女性のニーズとの合致」「男性の責任と参与」などを原則として、以下の9点にわたっておこなわれています。
 1.出生児の性別比率を低下させる
 2.青少年のリプロダクティブヘルス教育を強める
 3.妊娠中絶率を低下させる
 4.妊産婦保健の利用率と質を向上させる
 5.貧困層の医療救助を保障する
 6.エイズウイルスとエイズの感染率を低下させる
 7.女性の自殺率を低下させる
 8.女性に対する暴力を防止し、減少させる
 9.老年女性の健康
 たとえば、「1.出生児の性別比率を低下させる」という点に関しては、「女の嬰児や児童の死亡率が高い問題を『中国女性発展要綱』『中国児童発展要綱』の重点的なテーマにし、具体的な工作目標を明確にし、実効性のある措置を制定する」、「女の嬰児・児童の生存状況の社会的な監視と保護のネットワークを構築する」「男女が同等に利益を受ける農村の養老保障制度を一歩一歩構築し、完成させる」とか、「『人口と計画出産法』の『医学的な必要のない胎児の性別鑑定や性別を選択した中絶を禁止する』という条項の宣伝を強める」「ジェンダー意識教育を広範におこなって、女性や子どもの権益を宣伝する」などの提案をしています。

 第12章は、以下のいくつかのプロジェクトの実践報告を収録しています。
 「貧困地区の女性の妊娠出産期保健サービスの利用の向上報告」(陝西省リプロダクティブヘルスと政策促進課題グループ)
 「済南市小学校高学年の少女の青春期健康促進研究報告」(山東省婦連女性リプロダクティブヘルス課題グループ)
 「四川農村女性膣炎防止治療行動研究」(四川省婦連女性リプロダクティブヘルス課題グループ)
 「農村妊産婦保健サービス改善行動研究」(北京市女性保健所女性リプロダクティブヘルス課題グループ)

 たとえば、一番最初の「貧困地区の女性の妊産期保健サービスの利用の向上報告」では、以下のような経験が述べられています。
 ・貧困な山区では、すべてを病院出産にする条件がないので、医者や母子保健員が村に行って出産の世話をした。これは、貧困な山区の女性のニーズに符合した妊産期の保健サービスのあり方のモデルになる。
 (ただし、この報告は、「今回、村に行って出産の世話をできたのは、このプロジェクトが補助金を出したからであり、今後は県の財政支出によって、母子保健員の待遇を改善しなければならない」ということも指摘しています。)
 ・村民や村の幹部に保健知識を宣伝することによって、妊産期保健サービスに対する支持を強めた。村民に対しては村民大会で説明したり、ハンドブックを配布したりした。村の政府や衛生、計画出産、母子、婦連などの責任者には、陝西省女性理論婚姻家庭研究会のメンバーが、ジェンダー概念やリプロダクティブ・ヘルスについても説明した。
 ・夫や舅・姑を対象にした妊産期の保健知識の学習班を開催したことにより、彼(彼女)らの考えも変わりはじめ、家庭のサポート環境も改善しつつある。

 ごく一部しか紹介できませんでしたが、この本は巻末に40ページにわたる文献目録も収録しており、手元に置いておくと便利な一冊かな、と思います。

(1)王金玲主編『中国婦女発展報告 No.1(´95+10)』(婦女発展藍皮書)(社会科学文献出版社 2006年)139-140頁。
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