2017-03

中国でも注目されつつある同一価値労働同一賃金原則

 先日来、新聞で、同一価値労働同一賃金原則がたびたび取り上げられています(「同一価値労働に同一賃金を」『朝日新聞』10月24日大阪本社版、「男と女 賃金格差大国 日本」『朝日新聞』10月26日全国版、「パートや事務職は低賃金でも当たり前?」『毎日新聞』10月29日東京本社版)。
 また、2000年に日本で初めて同一価値労働同一賃金原則を認めた判決を勝ちとった屋嘉比ふみ子さんの『なめたらあかんで! 女の労働』(←会社の中で二十年以上もの間、さまざまな困難に屈せず、ほぼ一人で闘い続けた方のすばらしい記録です。明石書店 2007年)も、最近出版されました。

 近年は、中国の女性問題研究者たちも、従来の同一労働同一賃金(中国語では、同工同酬)原則だけでは解決できない、女性の多い職種の低賃金問題を解決するために、同一価値労働同一賃金(中国語では、等値同酬)原則を提唱しはじめています。

 この原則は、カナダ国際開発庁が資金を提供して1998年から始められた「中国-カナダ婦女法プロジェクト」(婦女権益保障法など、中国の女性の権利を保障する法律の施行の推進を目的とする)をきっかけに、中国でも語られるようになりました(1)
 2002年に出版されたこのプロジェクトの報告集では、中国側の各論者が同一価値労働同一賃金原則に言及していますが、とくに重視しているのは、蒋永萍さん(現在、全国婦連婦女研究所政策研究室主任)です。蒋さんは、この報告集で、同一価値労働同一賃金原則の内容について、労働の「価値」を、技能、強度、責任、労働条件の四つの要素を性的に中立な基準(女性に仕事に対するバイアスを排除した基準)で測定するものであることを紹介して、この原則を法律化したカナダのオンタリオ州やマニトバ州のペイ・エクイティ法についても詳しく述べています。
 蒋さんは、中国でも職業が性によって分割されていて、女性の仕事に対しては低い評価しかされていないことに注意を促します。すなわち蒋さんは、中国でも、看護師や小学校・幼稚園の教師、商業における販売員、家事サービス員、紡織・アパレル・電子電器の組み立てラインの労働者などは、女性の比率が70%以上であること、北京・珠海・無錫の三都市の調査では、教育や職業の等級、単位の類型などの要素を差し引いても、女性は一時間当たりの賃金が、男性よりも10-15%低いことを指摘して、今後は、法律の規範の重点を、「同一労働同一賃金」から「同一価値労働同一賃金」に移行すべきだと主張しました(2)

 蒋さんは、翌年の論文でも、2000年に行われた「中国女性の社会的地位調査」の結果を統計的に分析して、女性の賃金が低い重要な原因は、女性が多い職業の賃金の低さであること明らかにすることによって、同一価値労働同一賃金原則の重要性を強調しています(3)

 2005年に婦女権益保障法が改正された際には、改正内容を提案する「建議稿」を作成したグループが民間でいくつか現れましたが、中華女子学院(婦連傘下の大学だが、近年、フェミニズムが一定の力を持っている)の研究者グループの建議稿は、従来の「同一労働同一賃金」原則にかえて「同一価値労働同一賃金」原則を提案しました(4)
 同年に中華女子学院の教員が集団で執筆した書籍も同一価値労働同一賃金原則を採用しており(5)、中華女子学院法律系経済法教研室主任の劉明輝さんも、同一価値労働同一賃金原則をめぐる論争を紹介して、「どのようにして職業を越えた異なった職種の同一価値基準を設定するかについては、まだ深い研究が必要である」と述べつつも、ILO100号条約やカナダのペイエクイティ法に加えて、ノルウェーやフランス、イギリス、アメリカの法規定を紹介しすることによって、「『同一労働同一賃金』制度を『同一価値労働同一賃金』制度に拡充することは、大勢の赴くところである」と指摘しました(6)

 しかし、2005年の婦女権益保障法の改正では、「同一価値労働同一賃金」原則は採用されませんでした。
 それに対して、劉明輝さんは、国際的に「立ち遅れている」と述べて批判しました(7)

 中国では、「同一価値労働同一賃金」原則は、欧米や日本と異なって、まだ一部の女性労働問題研究者が提唱しているだけの段階だと言えます。しかし、近年は中国も国際基準を意識するようになってきていることは、こうした動きの追い風になりうると思います。

(1)そうした関係で、中国で同一価値労働同一賃金原則が比較的メジャーな形で最初にメディアに掲載されたのは、私の見るかぎり、「中国-カナダ婦女法プロジェクト」のシンポジウムにおいて、カナダの実践について同国のウイニペグ(マニトバ州)人権委員会の委員長が発言したことが、2001年に『中国婦女報』で報道されたのが最初のようです(加拿大魁北克人権委員会主席 米謝楽・瑞范特「同工同酬与就業平等不応只是画餅」『中国婦女報』2001年2月22日)。
(2)丁娟「中国-加拿大男女平等就業権相関問題比較及其対我国法治改革的建議」67-68頁、牛麗華「対健全婦女平等就業法律与機制的思考――中国-加拿大促進婦女平等就業比較研究」101頁、蒋永萍「中国-加拿大両性工資平等立法的比較研究」(いずれも、劉伯紅主編『女性権利-聚焦《労動法》和《婚姻法》』当代中国出版社 2002年)
(3)蒋永萍「中国城鎮男女両性的収入差距及其原因分析」蒋永萍主編『世紀之交的中国婦女社会地位』(当代中国出版社 2003年)55-58頁
(4)「昨天,衆多専家雲集中華女子学院,就《婦女権益保障法》修改立法建議達共識 応強化立法実施機制」『中国婦女報』2005年2月21日。
(5)李明舜・林建軍主編『婦女人権的理論与実践』(吉林人民出版社 2005年)194-197頁。
(6)劉明輝『女性労働和社会保険権利研究』(中国労動社会保障出版社 2005年)118-122頁。李明舜
(7)「婦女労働権益保護,還有多少難題待解?」『中国労働保障報』2005年9月13日。
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