2017-10

「体制外従業員」と同一労働同一賃金問題

 劉明輝さん(中華女子学院教授)の論文「雇用の性差別の問題に関する立法の思考」の中にこういう一節があります。
 「長い間、わが国は計画経済の下での労働力の分類基準、すなわち『人事編制』を踏襲してきた。同じ持ち場で仕事をしている人が、編制が異なるために、長い間、待遇がまったく異なってきた。[1995年に]『労働法』が施行された後は、あらゆる使用者と労働者は、労働契約制度を全面的に実行し、職場の各種の労働者が享受する権利は同じになたった。このため、以前の意味での、正式労働者に対する臨時労働者はもう存在しなくなった。……しかし、現実には依然として編制外の臨時労働者が存在しており、待遇は一般に正式労働者の1/3であり、その中には女性が多い」(1)

 実際、2000年におこなわれた第2回中国女性の社会的地位調査によると、女性は正規就業の中では全就業者の39.8%を占めるにすぎませんが、非正規就業の中では47.1%を占めています(2)。詳しくは調べていませんが、おそらく、ほぼ「正式労働者」=「正規就業」だと思います。
 日本ほど男女の比率がかけ離れていないのは、中国では、農村からの出稼ぎの労働者にとくに非正規就業が多く、かつ出稼ぎの労働者は男性が多いからです。
 ただし、以前も述べたように、同じ出稼ぎの中で比べると、男性の場合は、非正規就業が男性全体の約40%なのに、女性の場合は、非正規就業が女性全体の約50%であり、ここにも男女差があります。

 さて、中国の体制(編制)外の従業員には二種類あって、一つは、行政や国有企業の中の「体制(編制)」外の従業員であり、もう一つは、外資企業や民営企業の従業員です(3)
 後者の場合は、一部には能力を発揮して高い賃金を得ている人々もいます(ただし彼らも、生活の安定や社会保障の点では「体制内」の労働者ほど恵まれていません。また、多数の農村からの出稼ぎの労働者は、ひどい差別を受けていますが)。
 けれど、前者の場合は、差別が、一つの企業の中での「体制(編制)の内と外との差別」という形ではっきりと目に見える形で現れます。

 前者の場合、すなわち行政や国有企業における体制外の従業員の情況をリアルに記述した記事が、今年8月7日付けの『中国青年報』に掲載されていました。「体制外従業員:同一労働で同一報酬でないのは雇用差別である。同じ職場で同じ仕事をしても、収入は10対1」という記事です(4)
 この記事も、最初に、中国の「政府機構・事業単位、国有企業のなかでは、『編制』『正式労働者』などの名詞がまだ使われており、多くの企業・事業単位は、工員を『正式労働者』と『臨時労働者』に分けて」いること、それによって「同一労働非同一賃金」という現象が引き起こされていることを指摘しています。

 この記事は、さまざまな体制(編制)外従業員と体制内の正式労働者との大きな賃金格差を、次のように明らかにしています。
○あるテレビ局
 ・体制外(臨時工):映画チャンネルのプロデューサーなのに、月収2500元で、三険一金(養老保険・医療保険・失業保険、住宅公積金)がない。
 ・体制内:月収5~6000元で、三険一金のほか、住宅も分配される。
○安慶市のある中学校
 ・体制外(聘任制):毎月48時限の授業をして、一時限あたり12元で、576元だけが月収。
 ・体制内:一時限あたりの賃金だけでなく、「基本賃金」と「国家補助」があり、初級教師でも月収1000元余り、高級教師ならば3000元余り。そのほか、年末のボーナスが1~2000元など。
○あるタバコ会社
 ・体制外(聘用工):月収1000元。ボーナスは1000元。
 ・体制内:月収3000~4000元。年末にボーナス10000元余り。
○広東省恵州市電供(電気供給)局のある兄弟
 ・弟=体制外(外聘):月収10000元余り
 ・兄=体制内:月収1000元 

 体制外従業員は、けっして「臨時」の「お手伝い」の仕事をしているわけではないのです。
 むしろ、あるテレビ局の臨時労働者は「本当に番組を制作している人は、みな編制外だ」と言います。彼らのチャンネルの中核的な制作者は、みな臨時労働者であり、編制内の労働者は、事務室の行政人員だけだそうです。その人は、「彼ら[=正式労働者]は10人で1つの仕事をする。我々は1人で10の仕事をする」と言います。
 ある中学校の臨時教師は、「面倒なことはみんな私たちにやらせるのだ」と言います。たとえば、臨時教師には、腹がすく3,4時限目の授業や、学生たちが居眠りをする午後の1時間目の授業が割り当てられるとのことです。
 また、電供局では、体制外従業員は、どんなに技術が優れていても、中核的な技術的仕事はやらせてもらえないそうです。
 彼らは、昇進の見込みもなく、いつ辞めさせられるのかびくびくしているということです。

 中国人民大学労働学院副院長の劉爾鋒教授は、「改革開放の前夜、体制内の従業員は8~9割を占めていました。けれど、現在、国有の大企業や事業単位では、体制内従業員は約4割を占めるにすぎません」と言います。つまり、体制外従業員の問題は、以前からあった問題ではあるけれども、大きく広がったのは、改革開放後なのです。
 中国人民大学法学院教授で、労働・社会保障法研究所の所長の林嘉さんは、「同一労働非同一賃金も、一種の雇用差別です。最低賃金は法律で決められていますが、国家は最低基準を規定しているだけで、その他の面は規制していません」と指摘しています。

 この記事によると、労働・社会保障部の賃金局局長の邱小平さんは、同局では関係部門と一緒に賃金立法の起草を研究しており、すでに同一労働同一賃金問題をその重点的内容にしているとのことですが、前途は険しそうです。

 また、中国労働関係学院教授の林燕玲さんは、体制外の臨時労働者の中に農民戸籍を持った人が多いことに注目して、論文「農民労働者の就労差別の状況報告──一種の身分に基づく差別」(5)の中で、「臨時労働者は、農民労働者に対する『間接差別』の一形態である」と述べています。

 林さんは言います。「同じ職場で、同様の技術的水準の、同様の強度の労働をしても、正式労働者と臨時労働者の区別があるために、正式労働者は、臨時労働者の2倍、はなはだしきは何倍も賃金を得る。汚い仕事、疲れる仕事、苦しい仕事、危険な仕事はみな臨時労働者がする。正式労働者は、指導者のように、臨時労働者に対して上に立って命令を出し、指図することさえできる」。
 林さんは、臨時/正式の労働者の月収の違いについて、ある職場の次のような例を挙げています。
 ・臨時労働者:一日あたりの賃金の基準37元×22日+医療補助10元=824元
 ・正式労働者:賃金1899元+手当1720元+交通費補助520元+一回性のボーナス(一次性奨金)115.5元+双節(中秋節と国慶節)手当41.67元+年末のボーナス(年奨金)16.67元+防暑費20元+住宅公積金=4586.84元

 林さんによると、「こうしたケースは、国家機関・事業単位、社会団体の中ではわりあい普遍的な現象である。臨時労働者の大部分は農業戸籍であり、一部は、よその土地の非農業戸籍や当地の非農業戸籍である。(……)若干の人々は、機関や事業単位に入った時にすでに良い労働者としての資質を持っているが、臨時労働者であるということだけのために、いくらよく働いても正式の人員と同じ賃金と福利の待遇を受けられない。ある人は、正式労働者になるために、ごちそうをしたり物を贈ったり、賄賂さえ贈るが、いったん目的を達すると、『金持ちになると、態度が変わって』正式労働者の資質は、ますます悪くなる」とのことです。

 農村から出稼ぎに出てきた農民労働者([農]民工)の場合は、建築の仕事や家政婦、外資系(の下請け)の生産ラインの仕事をやっていることが多く、都市の人とは別の職場、別の職種で仕事をしているケースも多いです(6)
 しかし、上で挙げられた具体例は、同じ職場で働きながら差別されている事例です。
 また、農村出身者ばかりではなく、林さんも言っているように、都市の人の場合もあるようです。臨時教師の事例などは、たまたま大学を卒業した時が「よい時期」でなかったために、臨時教師になったとのことであり、日本にも同じような話があると思います。

(1)「関于就業性別歧視問題立法思考」北京大学法学院婦女法律研究与服務中心編『中国婦女労動権益保護理論与実践──从法律援助和公益訴訟的視角』(北京人民公安大学出版社 2006年。同書の紹介)234-235頁。
(2)全国婦聯婦女研究所課題組『社会転型中的中国婦女社会地位』(中国婦女出版社 2006年。同書の紹介)139頁。
(3)「体制内外待遇有別 体制外員工是二等公民嗎?」人民論壇2007年5月19日
(4)「体制外員工:同工不同酬是就業歧視 在同一単位做同様工作,収入却是10:1」『中国青年報』2007年8月28日
(5)林燕玲「農民工就業歧視状況報告――一種身份性歧視」蔡定剣主編『中国就業歧視現状及反歧視対策』(中国社会科学出版社 2007年)253-255頁。
(6)彼らの状況について日本語で読めるものとしては、最近出た、秦尭禹(田中忠仁・永井麻生子・王蓉美訳)『大地の慟哭 中国民工調査』(PHP 2007年6月)があります。
 もちろん、職場や職種が違う場合でも(すなわち「同一労働」でなくても)、「同一価値労働同一賃金(中国語では「等値同酬」。なお「同一労働同一賃金」は「同工同酬」)」は問題にすることはできます。こちらの問題はまた項目を改めて書きたいと思います。
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