2017-08

就労促進法の成立、雇用差別研究の発展

 8月25日、全国人民代表大会(全人代)常務委員会で「就労促進法」草案の第3回目の審議がおこなわれ、同月30日、同草案は採択され成立しました(施行は2008年8月。「中華人民共和国就業促進法」)。
 (中国で法律の制定をするのは全人代ですが、特に重要な法律でないかぎり、その常務委員会で審議・採択するだけで成立する場合が多いです。)

 この就労促進法については、全人代常務委員会が草案を公表して社会各界から意見を求めたこともあって、このブログでも以前、2回取り上げました(「就労促進法(草案)の差別禁止規定の不十分さに批判あいつぐ」「就労促進法、労働契約法その後」)。
 前回までの審議の結果、「公平な就労」という章が新設されるという修正がすでにおこなわれていますが、今回の常務委員会の審議でも幾つかの修正がなされたようです。
 たとえば男女平等に関しては、常務委員会の楊偉程委員から、採用の際の女性差別の禁止にくわえて「『すでに就労している女性に対して、使用者は出産を理由にして解雇や契約解除、労働契約の終了をすることはできない』という規定を入れるべきだ」という意見が出ました。
 この意見と関係があるかどうかわかりませんが、採択された法案には、「使用者は女性を採用する際、労働契約において女性労働者の結婚・出産を制限する内容の規定をしてはならない」(27条)という規定が入りました。

 しかし、今回の審議で出された意見には、取り入れられなかったものも多かったです。
 たとえば、「公平な就労」の章には、性差別や伝染病差別、障害者差別を禁止する規定があるのですが、王祖訓委員や王学萍委員は「身体や戸籍、地域による差別も禁止すべきだ」という意見を出しました。さらに李明豫委員は「職務能力と関係のない付加条件は、みな就労差別と見なすべきだ」と述べました。
 また、この法律の31条は「農村労働者は、都市に行って就労する際、都市の労働者と平等な労働の権利を有しており、農村労働者の都市での就労に対して差別的な制限を設けてはならない」と規定しています。
 しかし、路明委員は、このような規定は「具体的でなく、不十分だ」と批判し、「同一労働同一賃金」という規定を入れるべきだと主張していました(以上は(1))。
 以上のような意見は取り入れられませんでした。

 もちろん、この就労促進法を評価する意見もあります。
 たとえば、上の「農村労働者の都市での就労に対して差別的な制限を設けてはならない」という規定に関しても、これまでにない規定であるとして評価する意見もあります。
 また、今回の審議では、多くの委員から、「『使用者が差別したらどのようにして、どんな法律的な責任を負わなければならないか』ということを明確にしなければならない」という意見が出ました。
 この点については、法案の修正の過程で、「本法の規定に違反して就労差別をした場合、労働者は人民法院に訴訟を提起できる」(62条)という規定が追加されました。この条項について、「今までは女性が雇用差別されても訴訟を起こすことができなかったけれども(筆者注:たしかに女性の雇用差別訴訟は、裁判所が受理しない場合が多いというふうに言われています)、この条項によって訴訟を起こすことができるようになった」という見解もあります(2)
 ただし、すでに婦女権益保障法の52条にも「女性の合法的権益が侵害されたら‥‥人民法院に訴訟を提起できる」という規定はあるので、この規定とどう効力が異なるのか、私にはよくわかりません。

 いずれにしろ、結局のところ、この法律の評価は今後の実際の運用しだい、という面があるでしょう。

 上でも書いたように、今年3月、全人代常務委員会は、就労促進法の草案に対して社会公衆から意見を求めたのですが、寄せられた意見の2/3は、「公平な就労」に対するものだったとのことです(3)。それが、「公平な就労」の章の新設にもつながったのでしょう。マスコミの報道が最も多いのも「公平な就労」という点です。
 就労の公平さの問題に関しては、研究も急速に盛んになり、昨年、李薇薇・Lisa Stearns主編『就労差別の禁止:国際基準と国内の実践(禁止就業歧視:国際標準和国内実践)』(法律出版社 2006年)出版されたことはすでにこのブログでもお伝えしました(「国際基準を踏まえて中国のさまざまな雇用差別を論じた書」)。
 さらにこの8月末には、蔡定剣主編『中国の就労差別の現状と反差別の対策(中国就業歧視現状及反歧視対策)』(中国社会科学出版社 2007年)ネット書店「書虫」データベースの中のこの本のデータ)という本が、この8月に出版されました。
 この本は、このブログの4月15日付記事でお伝えした中国政法大学憲政研究所とオランダのユトレヒト大学による「反就労差別協力プロジェクト」の成果の報告であり、550ページあまりある分厚い本です。
 中国の雇用差別に関する調査研究としては、おそらく最もまとまったものだと思います。

第一部分 反就労差別の総合的研究報告(蔡定剣)
第二部分 女性就労差別の現状調査報告(王新宇)
第三部分 就労における健康差別の研究報告(劉揚)
第四部分 障害者差別の研究報告(馬玉娥)
第五部分 就労における身分差別の研究報告──戸籍と地域の視点に基づいて(姚国建)
第六部分 農民労働者の就労差別の状況報告──一種の身分に基づく差別(林燕玲)
第七部分 就労の年齢差別の研究報告(薜小建)
第八部分 労働者の就労における若干の差別問題の研究(馮同慶)
第九部分 教育領域の反差別の研究(張呂好)
第十部分 政治領域の反差別の研究報告(焦洪昌)
第十一部分 社会公共領域の差別の研究報告(于明瀟)
第十二部分 就労差別に対する行政法規・規則[規章]の整理[清理]報告(劉辛)
第十三部分 就労差別に対する地方的法規の整理報告(武増)

(1)「就業促進法草案拡大反就業歧視範疇」中国性別与法律網2007-8-28
(2)「《就業促進法》:平等就業的法律保障」中国性別与法律網2007-9-24
(3)「消除就業歧視還是要靠法律来解決」中国性別与法律網2007-9-17
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