2017-08

女性労働者の権益保護の理論と実践の書

北京大学法学院女性法律研究・サービスセンター編『中国女性労働権益保護の理論と実践──法律援助と公益訴訟の視角から(北京大学法学院婦女法律研究与服務中心編『中国婦女労動権益保護理論与実践──从法律援助和公益訴訟的視角』)(北京人民公安大学出版社 2006年)(ネット書店「書虫」データベースの中のこの本のデータ

 北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターは1995年に設立されたNGOで、すでに多くの本を出版しています(センターの出版物)。
 この本は、2005年4月から1年間にわたって、ECの小型人権プロジェクトの資金援助を得ておこなわれた「女性労働権益公益援助プロジェクト」の成果の一つです。

 「実践編」と「理論編」に分かれていますが、「実践編」が本全体の2/3近くを占めており、この本の特色になっています。

 「実践編」の最初の「女性労働権益法律援助プロジェクトに関する総括的報告」(李瑩)では、このプロジェクトでは、以下のようなことをしたと述べられています。
 (1)女性労働権益専門工作組の設置。一つのNGOだけではできることに限界がある。そこで学術界や実務部門、メディアなどの30近い組織やその会員から構成された女性労働権益専門工作組を組織した。この工作組は、プロジェクトの宣伝や立法活動をする際、重要な役割を果たした。
 (2)訴訟の援助。職場の性差別やセクハラなど、15件の訴訟に取り組んだ(和解と勝訴が計8件、敗訴3件、残りの4件は審理中)。
 内容は、職場の性差別が7件(夫の転出による労働契約の解除、妊娠による解雇、妊娠による不当配転、定年退職[定年差別])、職場のセクハラが2件、その他に労災、労務輸出、職業病など。
 (3)法律相談。のべ4600人あまりの女性に相談に応じた。相談に来た女性の多くは、国有企業でリストラ・レイオフにあった女性や、農村からの出稼ぎの労働者だった。相談の内容としては、労働契約や賃金、労災の問題が多かった。
 (4)法律の研修。農家女実用技能訓練学校で、農村からの出稼ぎの女性労働者に労働法やセクハラへの対処について教えた。また、北京市の海淀区の婦女連合会(婦連)では、労働組合や婦連の関係者に研修をおこなった。
 (5)シンポジウムやフォーラムの開催。このうち、論じられることが比較的少ないテーマで開催されたものを以下に挙げてみると──
 配偶権と平等な就業権。夫婦が同じ職場で働いている場合、夫が職場の外に出て行くと、妻の労働契約が解除されることが大学や科学研究機構、大企業でしばしば起こっている。この問題について。
 国外派遣女性労働者。改革開放後、海外への労働力の派遣が拡大した。しかし、2005年、モーリシャス(アフリカ最大の中国の労務派遣国)に派遣された女性労働者から、仲介企業にだまされ、多くの費用を払って行ったのに劣悪な労働条件で、低賃金で、休日もないという訴えがセンターに寄せられた。こうした問題について。
 職員と労働者の身分と定年。定年については男女差別があるが、それだけでなく、職員と労働者との間にも差別がある(男性は60歳だが、女性は、職員の場合は55歳、労働者の場合は50歳)。では、職員と労働者の区別はどうやって決めるのか? この問題と男女の定年差別との関係は?
 (6)ホームページの設置。→「婦女労動権益公益法律援助項目網頁」(現在は消失?)
 (7)女性労働権益保護社区(コミュニティ)の設立。北京市の昌平区と海淀区に、農家女実用技能訓練学校と海淀区婦連の協力を得て設立した。こうした社区を設ける目的は末端の管理者の意識を変えることにあり、この2つの社区では、労働行政部門や裁判所、労働組合などの参加も得て、出稼ぎ労働者や企業、管理者の研修もおこなった。
 (8)立法の提案や違憲審査の提出。婦女権益保障法と労働法に関する提案をおこなったり、男女の定年差別の違憲審査請求をおこなったりした(このことは、昨年の8月、このブログでも取り上げました)。

 次の「女性労働権益保護調査情況」(王竹青・蘇黄菊)が載っていて、その次に、センターが扱った上の訴訟15件すべての報告が一件一件、掲載されています。
 さらに、さまざまな階層と職業、地域の女性労働者へのインタビュー10件も掲載されています。

 「理論編」では、以下の論文が掲載されています。
 「出産女性の平等な労働権の保護および出産保障制度の探求」(葉静漪・張楠茜)
 「雇用の性差別の問題に関する立法の思考」(馮建倉)
 「国際人権条約の視野の下の女性の労働権の問題の研究」(馮建倉)
 「わが国の女性の雇用の法律的保障の探究」(李婉平 石雁)
 「社会保険制度の中の女性に対する差別の解消」(劉明輝)
 「中国の家事サービス業の法律問題の研究」(王竹青)
 「職場の性差別と公益訴訟による救済」(李瑩)
 「ジェンダーと女性の労働権益の保障」(張帥)
 「女性の出産権と労働権の衝突とバランス」(石雁 李婉平)

 以上の中からひとつ、王竹青さんの「中国の家事サービス業の法律問題の研究」の内容をを以下で紹介してみます。

 2001年に労働と社会保障部がおこなった上海・天津・重慶・瀋陽・南京・厦門・南昌・武漢の調査では、9つの都市の家事サービス労働者は合計23.96万人で、そのうち男性は14.9%、女性は85.1%だった。都市の者が56.1%(レイオフされた人が63.7%、定年退職した人が36.3%)、農村からの出稼ぎが43.9%である。

 家事サービス業のシステムには、(1)従業員制(員工制)、(2)会員制、(3)仲介制の3種類がある。(1)の従業員制は、家事サービス員が家事サービス会社の社員になるやり方で、従業員や雇い主に対する会社の責任が比較的はっきりしている。(2)の会員制は、会社は、家事サービス員に訓練はするが、賃金は雇い主から家事サービス員に直接支払われる。(3)の仲介制は、紹介料を取るだけで会社は何の責任も負わない。

 家事サービス員は学歴は低く、初級中学以下が多い(北京67.7%、上海72.4%、合肥81.9%)。賃金は低く、たとえば北京では市民の平均収入は年間15637.8元、消費支出は122000.4元だが、家事サービス員の60%は収入が6000~8400元の間である。住み込みの場合は食・住の費用は雇い主が持つとはいえ、低収入である。労働時間も約50%は10時間前後であり、長時間労働である。また、職業訓練も費用が自己負担である場合が少なくない。

 政府の政策にも以下のような問題がある。
 一、家事サービス員には労働法が適用されない。最高人民法院の「労働争議事件を審理する際の法律の適用に関する若干の問題の解釈」では、家庭または個人と家事サービス員との間の紛争は労働法を適用しないとしており、これでは、(2)の会員制や(3)仲介制の家事サービス員には労働法が適用されないことになる。さらに、(1)の従業員制の家事サービス員も、労働時間の面などで労働法の適用は難しく、労働部の「『中華人民共和国労働法』の貫徹執行に関する若干の意見」で、家事サービス員には労働法を適用しないと規定している。
 二、農村戸籍の家事サービス員は都市の社会保障システムに入れない。住み込みの家事サービス員はみな農民戸籍だが、第一に、まだ農民労働者の社会保険に関する全国的な法規はなく、地方的な法規も不十分なものでしかない。第二に、家事サービス員に関しては、そうした地方的な法規の一つである「北京市農民労働者養老保険暫定規則」でも、適用外とされており、他の市でも同じである。

 家政サービス業に対する需要は増大しているのに、家事サービスの人員は減少しつつある。その主な原因は、家事サービス員に対する法律や社会保障が不十分なことにある。だから、上のような問題を立法によって解決べきである。たとえば、労働時間や休憩時間の労働法の規定が家事サービス員に対して労働法の適用が難しいという問題に関しては、労働法には普遍的な意義があるのだから、労働法の中に一章を設けて家事サービス員の労働時間や休憩時間に関して規定するなどした上で、家事サービス員にも労働法を適用すべきである。
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