2017-04

北京大学法学院女性法律研究・サービスセンター、家政婦の労働保護条例を提案

 中国の都市の豊かな家庭では、しばしば家政婦(家政労働者・家事労働者、メイド。中国語では「保姆」「家政服務員」「家政工」などと言う)が働いています。家政婦は、農村から来た若い出稼ぎの女性(打工妹と言う)であることが多いですが、リストラにあった中高年の女性もいます。通いの場合もありますが、住み込みの場合が多いです。
 彼女たちの低賃金・長時間労働、社会保障がないこと、セクハラなどは大きな問題です。

 こうした問題に対しては、北京のNGO「打工妹の家」が「家政服務員互助小組」なども設けてエンパワメントや権利擁護の活動をおこなっていますが、この7月、同じくNGOの北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターが、家事労働者労働保護条例(家政工労動保護条例)の建議稿を発表しました。

 この建議稿は、家政婦の労働時間や賃金について、以下のように規定しています。
(労働時間)
 ・家政婦の1日の労働時間は10時間を超えてはならない。
 ・残業は、家政婦の同意を得なければならず、1日に2時間を越えてはならず、1週に15時間を越えてはならない。
 ・夜の10時から翌日の6時までは仕事をさせてはならない。もし夜に仕事をさせることが必要ならば、家政婦と相談し、昼に8時間の連続した睡眠時間を保証しなければならない。
 ・毎週1日は休日とする。
 ・働いて満1年で、有給休暇を与えなければならない。
(賃金)
 ・残業時間には、150%の賃金を支払わなければならない。法定休日の場合は、200%支払わなければならない。
 ・最低賃金の保障を定め、それを当地の最低賃金の基準とリンクさせる(1)

 ごくつつましやかな基準です。もちろんその背景には、現在の家政婦の劣悪な労働条件があるのですが、さらにその背景には、都市と農村との格差のほか、いまの中国では、家庭に私的に雇われた家政婦は労働法の適用外になっているということもあります。

 さて、同センターのメンバーは、7月、広州で、国連女性発展基金(United Nations Development Fund for Women)国連ジェンダーテーマグループ(United Nations Theme Group on Gender)の資金援助による「家事労働者労働権益プロジェクト(家政工労動権益項目)」の一環として、300名あまりの女性家事労働者に憲法や労働法、婦女権益保障法、女性差別撤廃条約などについての教育をおこないました。その際に、同センターは、家事労働者自身からも、権益保護についての意見や提案を聞きました。
 同センターは、それだけでなく、雇い主や家政公司とおこなった「家政業法律規制座談会」や関係政府機関との座談会でも、この条例を提示し、それに対する意見を求めました。こうした座談会では、家事労働者の労働時間、研修、保険、紛争解決のメカニズムなどに関して、非常に激しい議論になったようです。
 さらに、広東省の人民代表大会の代表や政治協商会議の委員の一部とも意見交換をして、広東省でこの条例が制定できる可能性やその障害についても議論しました(2)

 この条例には、家政業界の人の一部からも支持があるようです。たとえば、ある人は、この条例について「一部の市民には受け入れ難いかもしれないが、労働法に比べれば大幅に割り引かれている(注:中国の労働法では、1日8時間労働、残業は通常1日1時間まで、特殊な理由がある場合でも3時間まで、1ヶ月36時間までと定めている)。家政労働者の権益をきちんと保護してこそ、高い資質の人を吸収できる」と言います。

 しかし、新聞記者の取材に応じた一般市民の中からは、こんな反発もありました。「家政婦の労働時間は弾力的であるべきだ。家政婦に仕事をしてほしいときに、家政婦が割増賃金を要求したり、休日に雇い主が休息したいときに、家政婦も休みを要求するのでは、家政婦を雇う意義はどこにあるのか? このような規定ができたら、市民は家政婦を雇わなくなって、家政婦の市場が萎縮したり、規制を受けない『ヤミの家政婦』が横行したりするかもしれない。」
 また、広東省婦連の法律サービスセンターの弁護士の陳秋鵬さんは、次のように言います。「この案は、出発点は良い。けれど、職業の数は多いのに、家事労働者だけについて立法をするのは疑問である。また、この案は、家事労働者を『労働関係』と見なしているけれども、現在のわが国ではまだ『雇用(雇い入れる)関係』であって、労働法の調整を受けない。省の人民代表大会がそんなに画期的な立法をすることができるだろうか?」(1)
 やはり、こうした条例を作るには、まださまざまな困難があるようです。

 なお、中国の農村からの出稼ぎの家政婦の状況については、艾美玲(Mei-Ling Ellerman)さんの 「中国外来家政女工的性別与権益研究報告(Gender and Rights Research Report on Chinese Female Migrnt Domestic Workers)」という、50ページほどある大論文(中国語と英語の両方で書かれています)が今年4月に発表され、ダウンロードできるようになっています。

(1)「保姆毎日幹活禁10小時? 一項立法建議惹激辯」『羊城晩報』2007年7月24日「律師質疑公平性 “保姆保護法”熱烈◇醸中」『信息時報』2007年7月24日
(2)「2007年7月22日至26日,中心成員赴広州執行家政工労動権益項目」2007-07-31(写真あり。北京大学法学院婦女法律研究与服務中心HP)
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