2017-08

中国初の「同性愛と法」シンポの記録出版

 このたび、中国本土初の「同性愛と法」についてのシンポジウムの記録が出版されました。
 周丹主編『同性愛と法:「セクシュアリティと政策・法 国際学術シンポジウム」の論文および資料(同性恋与法:“性・政策与法国際学術研討会”論文及資料)』(広西師範大学出版社 2006年)です(ネット書店「書虫」データベースの中のこの本のデータ)。
 〈構成〉
第一章 同性愛:よくある質問への解答(John Balzano and Alfredo B.Silva)……1
第二章 同性愛と家族、社会:アメリカ史の視角から(George Chauncey)……12
第三章 なぜ同性愛者差別に対して法律が関心を持たなければならないか(William N.Eskridge,Jr.)……19
第四章 中国:セクシュアリティ・多様化とエイズ(Michael Kirby)……30
第五章 性と家族革命:東洋と西洋(Judith Stacey)……42
第六章 シンポジウムでの発言から……52
付録:一部の章・節の英語の原文……93

 編者の周丹さんは、同性愛者の権利のために活動している有名な弁護士です。
 このシンポジウムは、2006年1月、復旦大学社会発展・公共政策学院とイェール大学法学院中国法律センターとが共同で、上海で開催したものです。性指向に関する中国初の学術的シンポジウムだそうです。

 けれど、上の目次を見ればわかるように、このシンポジウムで報告をしたのは、イェール大学などの英語圏の研究者です(第一章から第五章までは、すべて英語の原文も付いています)。この点は、まだ中国国内では、同性愛と法律の研究が進んでいないことを示しているのかもしれません。
 けれど、第六章のシンポジウムでは、彭希哲、李銀河、周丹、孫中欣、賈平、栄維毅、徐玢、賀衛方、郭建梅、杜聰、胡志軍、郭雅奇、郭曉飛、夏国美、梁霽といった中国の研究者も自らの見解を語っています。このシンポジウムが40ページあり、本全体の4割程度を占めていますので、中国国内の研究者の見解を知るうえでも有用な本だと思います。

 シンポジウムでの討論は、次の4つのテーマをめぐっておこなわれました。それぞれについて語られたことのごく一部を以下で紹介します(ごく大ざっぱな紹介ですので、正確には原文をご覧ください)。

1.セクシュアリティ政策とセクシュアリティ法学理論
 ・現代の中国の、同性愛に対する法律の規制は、次の4つの大きな筋がある。
 ①1957年、最高人民法院は同性愛を合法だと回答したが、その後、執行されなかった。
 ②1979年の刑法では、同性愛は「流氓(ごろつき、わいせつといった意味)罪」の一つとして処罰された。
 ③1997年に刑法が改正されて「流氓罪」はなくなったが、各種の行政法規や規則の中にその痕跡は残っており、それらは、中国社会でなお重要な役割を果たしている。
 ④2001年に公安部は、同性間の金銭による性行為も売春と見なすよう指示した。これが、現在、同性愛処罰の主な口実となっている(賈平)。
 ・中国では、宗教的な障害がないために、同性愛は認められてきたと考えられている。しかし、こうした見方は、中国の伝統文化における同性愛に対する寛容が、性的指向自体への寛容ではなく、男性の性的権力への寛容であったことを見落としている。
 現在のように、同性愛が独立した問題として提出されると、伝統的なジェンダー文化によって同性愛を理解するために、同性愛は不正常なものと見なされる(栄維毅)。

2.セクシュアリティと非差別
 ・中国では同性愛者は、性病感染者など同様、献血を禁止されている(周丹)。
 ・中国のホモフォビアは、宗教の戒律から来ることは比較的少なく、主に家族から来る。中国の同性愛者は、異性と結婚している場合が多い。その原因は、一部は身分を隠すためであるが、多くの人は、子孫を作って代々血統を継ぎたい(伝宗接代)と心から思っている。中国では同性愛は、とくに父母が認めない(李銀河)。
 ・北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターは、ずっと女性同性愛者の法律的権利についてのシンポを開催しようとしているが、さまざまな圧力があり、なにより自分たちにも矛盾と躊躇があってできなかった。けれど、2004年以降の2年間で20数件の訴えが寄せられている(郭建梅)。

3.セクシュアリティと家族
 ・李銀河教授らが提出した同性婚姻法(昨年のこのブログの記事)が話題になっているが、もしも職場で自分が同性愛者であることが明らかにできなければ、かりに同性婚姻法が成立しても、婚姻登記はできない。また、同性の婚姻を語る場合は、中国の養老制度と中国社会の変革を考慮しなければならない(周丹)。
 ・「同性の婚姻権」を訴えることは、伝統的な婚姻を擁護する点では保守的だとポスモダニズムは批判している。私は、この問題に関して、日和見主義の立場に立つ。私は「男女の結合が天地の道理だ」という観念を批判する際には、ポストモダンの理論を使うが、制度建設をする際には、「善」よりも「権利」を優先する。私は「婚姻がいかに良いか」は語らず、「婚姻権は基本的権利だ」とだけ語るのだ(郭曉飛)。
 ・男性の同性愛者も女性と結婚するので、妻になった女性が苦しんでいる(徐玢)。
 ・私は同性の婚姻を支持する。けっして婚姻制度は同性愛者の権益を全面的には守らないけれども、同性の婚姻は、少なくとも同時に異性愛者の権益を保護するからだ(孫中欣)。

4.セクシュアリティと公衆衛生
 ・大学でのエイズ教育は非常に少ない。感染者が自分で学生に訴えようとしても、大学は許さなかった(周丹)。
 ・女性の同性愛者の健康問題はまだ提起されていない。この点はずっとそうだ。しかし、レズビアンの中では、抑鬱症やその種の心理の問題が非常に重大である(徐玢)。
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