2017-02

大学のホモフォビア教科書の編者・出版社に対する働きかけ

目次
はじめに
一、張将星・曾慶編『大学生心理健康教育』(曁南大学出版社)に対して
 1.西西、秋白の不屈の行動から励まし
 2.副編集長は「私は専門家ではない」と本の編者の責任にし、本の編者は対話を途中で拒否
 3.西西ら、ユーモアある抗議をし、別の副編集長が反省を表明するも、その後、態度急変
 4.副編集長「教材の内容は、現在の法律の条文に照らして判断」
二、高銘暄・馬克昌編『刑法学(第五版)』(高等教育出版社・北京大学出版社)に対して
 1.本の編者、訂正を表明
 2.訂正への賞賛と今後の行動を求めるアクション
 3.編集者、個人として、訂正個所の明示とセクマイ差別の重視の意向を表明
おわりに

はじめに

中国では、同性愛を「障害」や「変態」として記述している大学の教科書が少なくないという問題に関して、前回、本ブログでは、「ホモフォビア教科書を放置する教育部を訴えた裁判の紆余曲折とその敗訴」についてご報告した。

もちろん、ホモフォビア教科書の是正を求める働きかけは、教育部に対してだけでなく、教科書を出版した編者や出版社に対してもおこなわれているので(1)、今回は、それらについてご紹介したい。

一 張将星・曾慶編『大学生心理健康教育』(曁南大学出版社)に対して

張将星・曾慶編『大学生心理健康教育』(2013年 曁南大学出版社)は、「よく見られる性心理障害」の中の一つに「同性愛」を挙げていた。また、「同性愛」について、「性愛の面での紊乱、あるいは性愛の対象の倒錯であると考えられる」とも記していた(2)

1.西西、秋白の不屈の行動から励まし

広州の大学の女子学生の西西さん(仮名)は、同級生たちが「同性愛は病気だ」とか、「ゲイはエイズだ」と言うのを聞き、怒りを感じていた。しかし、それに反論すると、彼らに「同性愛は心理障害だと教科書に書いてある」、「教科書に同性愛はエイズのハイリスクグループだと書いてある」と言われ、西西さんが「教科書が間違っている」と言ってもわかってもらえなかった。西西さんは、教科書の権威の前には、自分が無力であることを感じ、涙をこらえきれないこともあった。

2015年末、広州市の曁南大学のゲイの男子学生が、その性的指向が一因となって自殺したと思われる事件(3)が起きたことも、西西さんに絶望感を与えた。西西さんは、友人の話から、曁南大学の公共選択科目の「大学生心理健康教育」で使用されている教材の『大学生心理健康教育』は、同性愛をスティグマ化する内容に満ちていることを知った。また、この教材の2人の編者は曁南大学の「大学生心理健康教育」の先生であり、「曁南大学心理健康教育センター」のメンバーでもあることも知り、この教材の影響力は非常に大きいと思った。西西さんは、斐然さんもこうした教材を読んだのかもしれないし、こうした教材がもたらした排斥と偏見が、彼を暗くて狭い空間に閉じ込めたのかもしれないと思った。

その後、西西さんは、LGBTの民間団体に加わった。しかし、そこでも、同性愛に汚名を着せる教材によって傷つけられた人々といつも接するようになったことによって、西西さんは、あらためて自分の無力さと絶望を感じるようになった。あるゲイの男性の父母は、大学の教材に「同性愛は矯正することができる」と書いてあったことから、息子を「矯正」しようとしていた。また、彼自身もどこかに助けを求める以前に、助けが得られるという希望自体を持てないという状況を聞き、西西さんは辛かった。

以上のようなさまざまな経験から、西西さんは自らの無力感と絶望を感じた。ギリシャ神話の中で、シジフォスは巨石を山頂近くまで運び上げるが、そのたびに巨石は山から落ちていく。西西さんは、自分がホモフォビア教科書を批判して、自由な空間を広げようとしていることも、シジフォスのしていることと非常に似ているのではないかと感じた。秋白さんにとって、巨石は、運動をする者に対する打撃の象徴だった。

しかし、西西さんは、秋白さんたちが行動によって自分の権利を守ろうとしている姿を見て、励まされた。西西さんは、社会の不公正に直面したとき、黙って受け入れることを選択するのではなく、そうした中でも、同性愛に汚名を着せる教科書の内容について対話を広げ、空間を変えることを求める選択をしているのがシジフォスだと思うようになったのである。

西西さんは、教科書の是正を求める行動を始める決心をした(4)

2.副編集長は「私は専門家ではない」と本の編者の責任にし、本の編者は対話を途中で拒否

6月1日、西西さんは、『大学生心理健康教育』の中にある同性愛に汚名を着せる/誤った内容について、曁南大学出版社と編者の張将星さん・曾慶さんに是正を求める公開書簡を送った(5)

6月4日、西西さんは、曾慶さんに電話をかけた。曾慶さんは、その章は張将星さんや自分が書いた章ではないので、著者に連絡しているところであり、公開の声明を出すと述べた。その声明は西西さんにもメールで送ると述べた。しかし、その後、曾慶さんからは何の連絡もなかった。

6月6日、西西さんは、曁南大学出版社に電話をかけた。翌日、電話は通じたが、相手は、公開書簡は受け取っていないと言った(ところが、西西さんは、郵便会社から、すでに6月2日には、配達および受渡済みの通知を受け取っていたのである)。そこで、西西さんは、電話で自分の訴えを話したが、相手は、すぐに電話を切った。

そこで、6月8日、西西さんと2人の若者は、直接曁南大学出版社に行って、副編集長であり副研究員である晏礼慶さんと1時間あまり話をした。

まず、西西さんらが記述の誤りを指摘すると、晏さんは、「私にどうして『同性愛は心理的障害である』という記述が誤りか否かがわかるだろうか。私に基準をください。これは、もともと、ある観念が正しいか間違っているかの問題だ」と答えた。

それに対して、西西さんらが中華精神医学会の「中国精神障害の分類と診断と基準第3版」が心理学界の科学的基準であり、観念の是非の問題ではないことを指摘すると、晏さんは、「公開書簡を編者に転送する」と言った。

さらに、西西さんらは、出版社と編者、西西さんらの3者が会って話をする場を設けるよう求めた。しかし、晏さんはそれを断り、西西さんらに、直接編者と話をするように言った。

西西さんらは、『大学生心理健康教育』は純粋の出版物ではなく、教材であり、学生に悪い影響を与えていることを指摘した。しかし、晏さんは「まずそれが誤りであることを確定させることが必要だ。私たち編集者がどうして『同性愛は心理的障害である』という記述が誤りか否かを判断できるというのか。私たちは専門家ではない」と答えた。

それに対して、西西さんらは「副編集長としてあなたは、『中国精神障害の分類と診断と基準第3版』を基準にして、その記述の誤りだと判断できないのか?」と追及したが、晏さんは「私は専門家ではない」と繰り返した。

それに対して、西西さんらは「出版社として、出版した内容が社会大衆に悪影響を与えていたら、出版社は本当にどんな責任も負うべきではないのか?」と問うた。

すると、晏さんは「当然、負わなければならない! 出版物は出版前に、本の内容について、以下の面から審査をする。
 第一に、出版物の内容に政治的方向に誤りがないかどうかである。たとえば反党があるのかどうか。
 第二に、出版物の内容に法律法規に反するものがないかどうかである。たとえば憲法に反してはならないし、四つの基本原則(社会主義の道、人民民主主義独裁、中国共産党の指導、マルクス・レーニン主義、毛沢東思想)に反対してはならない。
 第三に、出版物の内容にロジックの上で誤りがないかである。たとえば、前後の文で矛盾したことを言っていないかとか、1+1=3のような常識的な誤りである。
 第四に、編者が剽窃していないかだが、もし剽窃があったとしたら、『文責は自らが負う』と説明する。
 もし、政治的方向やロジックの上で誤りがあったり、法律法規に触れる誤りがあったりしたら、教材について回収処理やお詫びをする。しかし、問題は、現在法律上は規定がない、あなたが言うところの理解の誤りだ。私はもう一度言うが、『同性愛は心理的障害である』という記述は学術的な専門的議論であり、それに対しては編集者には判断する能力がないので、出版社にではなく、編者に連絡すべきである」と答えた。

最後に西西さんらが「もし私たちが最終的に編者と話をして、編者が公開の声明を出して訂正したなら、あなたがたも訂正して、公開の声明を出して回収するのか?」と尋ねると、晏さんは、「それなら問題はない。しかし、私たちにできるのは、まだ市場に出ていない書籍を回収することだけだ。また、私は出版社が公開の声明を出す必要はないと思う。編者が出したいなら、それは彼の問題だ」と答えた。

西西さんらは、以上の晏さんの答えに次のような疑問を感じた。
1.教材の中で同性愛を「性心理障害」にするのは、どのような性質の誤りなのか? 事実の誤りという性質のものではないのか?
2.教材の属性は何か? 教材と一般の学術的専門書とを同じように扱えるのか?
3.出版社の編集者は、出版物の内容に学術的・専門的な誤りがあるか否かを判断する能力がないのか?
4.出版物に政治的方向かロジック上での誤りがなければ、出版物が社会大衆に悪い影響を与えても、出版社には出版物に対して何ら責任がないのか? また、出版社は出版物について処理(回収、お詫び、訂正声明など)する責任はないのか?(6)

6月19日には、西西さんの携帯電話の番号からは編者の曾慶さんにつながらなくなっていたので、学友の携帯電話の番号を使って曾慶さんに電話をかけた。しかし、西西さんが名乗ると、相手は、「間違い電話だ」と言った。その後、その学友の携帯電話の番号を使って曾慶さんに何度も電話をかけたが、ずっと話し中になっていた(7)

3.西西ら、ユーモアある抗議をし、別の副編集長が反省を表明するも、その後、態度急変

西西さんは、曾慶さんに対話を拒絶されて、シジフォスの話に出てくる巨石が落ちていくように感じた。しかし、西西さんは、「こんなときであっても、私は『シジフォス』の(あきめない)態度を忘れなかった」と言う。

このとき、西西さんの頭の中に、『夜と霧』の作者であるヴィクトール・フランクルの次の言葉がひらめいた。「ユーモアも自分を見失わないための魂の武器だ。ユーモアとは、知られているように、ほんの数秒でも、周囲から距離をとり、状況に打ちひしがれないために、人間という存在にそなわっている何かなのだ」。西西さんは、「鴨梨(河北省特産のナシで、甘くさくさくして汁が多く、香が高い)」を教科書の編者や出版社に贈るというアクションを思い立ち、人々から、彼らへのメッセージを募集した(8)

7月8日の午前10時、西西さんと同級生たちは、一カゴの「鴨梨」と「鴨梨は暑さを癒すことができる。教材は毒を取り除かなければならない(鸭梨可解暑,教材要解毒)」「曁南大学出版社よ、学生のために発言してください」というスローガンを書いたプラカードを持って曁南大学出版社の玄関に行った。一つ一つの鴨梨には、人々が曁南大学出版社と教科書の編者へのメッセージを貼りつけておいた。それらのメッセージは、曁南大学の学生、大学でのジェンダー/セクシュアリティ教育に関心を持つ人々、同性愛者の父母らが書いたものだった。西西さんは、こうしたメッセージをパフォーマンスアートの方式で伝えることによって、人々の期待を本当の「鴨梨」に変えたかったのだ。

その後、西西さんと同級生たちは、曁南大学出版社の副編集長の李戦女史の事務室に行って、鴨梨と300人近くが連署した手紙を手渡し、同出版社の無責任な態度に失望を表明した。

それに対して、李戦さんは、教材の中に同性愛に汚名を着せる内容があって、社会に対してマイナスの影響を与えていることを認めた。また、出版社にはこの問題について絶対に責任があるので、出版社のこれまでの消極的な対応についてお詫びの気持ちを持っているとも述べた。

しかし、西西さんが出版社から出て半時間後、李戦さんの態度は大きく変わった。西西さんに李戦さんから電話がかかってきて、「編者こそ第一の責任者なので、同性愛が病気か否かの問題は編者に判断をまかせなければならない」と言われた後、すぐに電話を切られた。

西西さんらは、編者の職場である曁南大学心理健康教育センターにも行って、同じように、鴨梨と連署をした手紙を渡した。編者本人は不在だったが、『大学生心理健康教育』はセンターの共同の編集なので、西西さんはセンターの先生と対話ししようとした。しかし、冷たく「私は聞かない」と言われただけだった(9)

4.副編集長「教材の内容は、現在の法律の条文に照らして判断」

その後1週間たっても、渡した手紙に対して、出版社や編者からは反応がなかったので、西西さんは、最初に会った晏礼慶さんに電話をした。

晏さんは、西西さんが無断で会話を録音して、その内容の一部だけをネットに公開したことに対したことに腹を立てていた。西西さんも、その点は謝った。

また、晏さんは、西西さんらが入口でプラカードを掲げたり、横断幕を広げたり、鴨梨を送る「パフォーマンスアート」をしたり、「毒教材」「心理不健康センター」といった言葉を使ったりしたことについても、「敵意と対立による方式は、問題をますます悪化させる」と批判した。

西西さんが「出版社として『大学生心理健康教育』という本をどうするのか?」と尋ねると、晏さんは、「もし図書に何か問題が起きたら、私たちはすぐに責任を持って処理と訂正をする。実際、あなた方のこの本についての『公開書簡』を受け取ったら、私たちは直ちに執筆者に連絡を取った。なぜなら、同性愛が精神病か否かは、中国と西洋にはさまざまな判断があるからだ。医学の専門家ではない者として、私たちはその判断を執筆者にゆだねる。なぜなら、彼らこそが専門的な学術権威だからだ。作者も、関係資料を受け取ったと言ったし、教材の内容を今の法律の条文と比較対照すると述べた」と答えた。

西西さんが、その比較対照の結果と、いつ訂正するのかについて尋ねると、晏さんは、「私たちはまだ比較対照の結果を知らないし、いつ訂正するかも今はまだ確定できない。しかし、明確に言えるのは、誤りがあれば、その図書は重版か改訂の際に、私たちは作者と相談してまじめに訂正するので、安心していただいていい」と答えた。

最後に西西さんが「『大学生の心理健康教育』の中に、『同性愛は性愛の面の紊乱あるいは性愛の対象の倒錯である』と書いてあることについては、晏さん個人はどのように見ているのか」と尋ねると、晏さんは、「私はこの面の専門家ではない。けれど、私が知るところでは、現在の中国の法律ではまだ同性婚の合法化に関する条文はなく、中国の社会的観念も、まだ同性婚を普遍的に受け入れる段階には発展しておらず、現在も国外にも同性婚がある国とない国があり、区別して扱わなければならない。もちろん、将来、必ず社会は発展して、しだいに多元的で包容的になって、マイノリティの権益と個性の主張も尊重されるようになるだろう。私はこのよう理解している」と述べた。

以上の晏礼慶さんの回答について、西西さんは、以下のように批判している。

・同性愛が精神病であるか否かについては、中国でも世界でも、科学の世界で、「同性愛は性心理障害ではない」という結論が出ている。

・法律の条文(まして同性婚姻法が成立しているか否か)によって、心理学の学術的観点を判断するのは完全に誤っている(10)

西西さんらの指摘にする編者と出版社の態度は、無責任で冷淡だと言えよう。政治的な「誤り」や現行の法律に直接違反する誤りには敏感でも、人権に関わる問題については学問的な誤りであっても鈍感だ。

しかし、ともかく何度か対話を成り立たせたことや、検討を表明させたことには意義があるだろう。

また、次の事例では、編者と出版社から、比較的良い反応が得られた。

二、高銘暄・馬克昌編『刑法学(第五版)』(高等教育出版社・北京大学出版社)に対して

高銘暄・馬克昌編『刑法学(第五版)』(2011年 高等教育出版社・北京大学出版社)は、その第七章「犯罪の主体」の第三節「刑事責任能力に関係する要素」の中の「精神障害」の項目において、「性変態」の一つとして「同性愛」を挙げていた。

1.本の編者、訂正を表明

2016年5月29日、江西師範大学の法学部の学生の「夏天」さん(後述の『南昌晩報』の記事には、3年生の「夏旭」さんとある)は、自らが履修していた「刑法学」の授業で『刑法学(第五版)』が使われていたことから上記の問題点に気付き、高等教育出版社と北京大学出版社にそのことを指摘する手紙を送った(11)。6月5日には、この本と該当の章の編者である北京師範大学の趙秉志教授にも手紙を送った。

夏天さんは、さらに出版社に電話をかけるなどして働きかけた結果、6月12日、北京大学出版社から電話がかかってきて、北京師範大学の趙秉志教授が「当時この教科書を編集した教授や私は比較的高齢で、この問題について細かい検討や考慮をしていなかった。この内容については、次に重版と新版のときに改める」と述べていることが伝えられた(12)

『南昌晩報』は、そのことを、「江西師範大学の3年生の女子学生、『刑法学』のテキストの『訂正』に成功」という見出しで伝えた(13)

2.訂正への賞賛と今後の行動を求めるアクション

ただし、夏天さんは、上の手紙の中で、出版社に対して、以下のことも求めていた。
 1.貴社が出版している図書について、同性愛とセクシュアル・マイノリティについての誤った/汚名を着せる内容が含まれている教材について検査をして、検査報告を作成し、メールと書面で私に回答する。
 2.貴社の出版物の中のこうした誤った内容について、公式サイトあるいは微信などで「内容の訂正の声明」を出して、教材がもたらしたマイナスの影響をなくす。
 3.誤った教材の編者と連絡を取って、次の出版/印刷の際に訂正するとともに、新しく出版/印刷する教材の目録の前に「内容の訂正の声明」を掲載する。
 4.貴社の職員、とくに教材の編集と校正をする職員に対して、同性愛とセクシュアル・マイノリティの科学的常識と専門知識の研修をして、誤りの再発を防ぐ。(14)

また、趙秉志教授に対しては、以下のことを求めていた。
 1.次の版本/刷の際には、現在の科学的基準にもとづいた訂正をお願いする。
 2.訂正する以前は、大学の日常の授業と教学の中で、この部分について訂正する説明をおこなう。
 3.後日の学術会議との交流の中で、学者や教授の皆さんと、この問題について改めて討論する。

以上の点については、その後も回答がないままだった。

夏天さんは、出版社と趙秉志教授に対して、もっと愛と激励が必要かもしれないと思った。そこで、彼らに対して、訂正すると表明したことに対して賞賛を示す赤い花のマーク(日本で言う「はなまる」に当たる意味があるようだ)やレインボーの各色の花のマーク、および上のような要望や自らの経験など書いたものを、多くの人に自分のところに送ってもらい、それらを贈るプランを立てた。

その結果、67人から協力が得られ、夏天さんがそれらをまとめて、北京大学出版社と趙秉志教授に贈った(15)

3.編集者、個人として、訂正個所の明示とセクマイ差別の重視の意向を表明

返事がなかったので、7月11日、北京大学出版社に電話をかけると、同社の法律類出版物編集部の哥さんに電話をつながり、以下のような回答を得た。

・私個人は、この問題だけのために単独の訂正の声明を出すことは、実際の可能性は大きくないと思う。私が個人の権力の範囲内でできることは、編集責任者に、目次の前の「重版の説明」に、たとえば、読者のフィードバックにもとづいて、私たちはどの章の度の節の内容にどのような訂正をしたかを示すように促すことである。

・趙秉志教授本人は、この点を訂正することに非常に同意している。この本は2000年から出版を開始しており、当時の基準では「同性愛は精神病だ」という結論も、完全にデタラメで道理がないとは言えなかった。しかし、私たちはこの領域について不案内で、最近の新しい基準と学界の通説についてよく知らず、すぐに訂正できなかった。出版社として、私たちは自分の責任として、時代とともに歩み、現在の科学の基準に合致しない内容を訂正しなければならない。

・私たちは、これまで、編集者としての仕事において、「敏感」な話題は政治・民族・宗教のようなこと、たとえば民族差別や宗教差別などをしないことであって、同性愛とセクシュアル・マイノリティ差別は敏感な話題ではなかった。しかし、あなたのフィードバックによって、今後は私たちの仕事において、少なくとも私は法律編集部として、必ずこの問題を重視して、私たちの編集責任者と意思疎通をする。

夏天さんは、「訴えがすべて実現したわけではないが、北京大学出版社と北京師範大学の趙秉志教授のフィードバックは、最近の広東の某出版社の某編者に比べれば、本当にすばらしい!」と述べた上で、今後を見守ることを表明した(16)

おわりに

この2例だけでは明確なことは言えないが、教育部などの官庁への働きかけと比べると、編者・出版社への働きかけは、曲がりなりにも対話になりやすく、検討や訂正を表明させるなど、成果も上がっているように思う。

しかし、全体的には、編者・出版社も、セクシュアル・マイノリティの差別・人権問題への対応は弱い。それは、政治的「誤り」に対する対応の敏感さと対照的である。

そうした困難に立ち向かうがゆえに、中国におけるホモフォビア教科書を是正する運動には、一般的には単なる「徒労」しか意味しないシジフォスの話を前向きの話として読み替えるような粘り強さがあることにも注目したい。

(1)上の裁判を起こした広東省広州市の中山大学の女子学生の秋白さんたちも、2015年3月、広東省教育庁に対して、「教科書の同性愛に対する誤った/汚名を着せる描写の内容に関する公開の通報の手紙」を出したことがあるが、その中で、とくに広東高等教育出版社の教科書の問題点を批判していた。たとえば、同社が出した『心理健康課程』(2003年。2008年再版)は、「よくある精神疾患とその対応」で、「性心理障害の類型」の一つとして「同性愛」を挙げている。また、『諮詢心理学』(2013年)は、同性愛を障害とみなしているのみならず、どのように同性愛を治療するかとして、電気的刺激などの方法で同姓愛の行為に嫌悪感を覚えさせて性的指向を変えることなどまで書いてある。
 広東省教育庁は、この手紙を広東高等教育出版社に転送したため、4月、秋白さんは、広東高等教育出版社から書面での回答を受け取った。しかし、その回答は、教材の中になぜ同性愛を入れたということと、入れた章・節の内容についてであり、秋白さんが批判した問題には触れていなかった。さらに、回答の中には、「同性愛の青少年は、思春期に感情・性などについて心理的な苦慮、憂鬱などを感じるので、『同性愛患者』という用語は合理的だ」とも書いてあった(以上は、本ブログの記事「大学教科書のホモフォビアの是正を求める運動」参照)。
(2)六一行动︱面对恐同教材,祖国的花朵Say No!」2016-06-01 西西 推石头的西西弗斯
(3)2015年12月30日、その男子学生は、微博で遺書を公表し、自分がうつ病であることのほか、父母に対して「私はあなた方に、実は自分が同性愛者で、男の子が好きだということを告白できませんでした」「私は自分が同性愛者であることを恥ずかしいと思ったことはありませんが、後継ぎを作ってほしいというあなた方の願いを実現できなくて申し訳ないと思っています。申し訳ありません」とも書かれていた(-小斐然「对不起,再见」2015-12-30 20:29:40)。この遺書には2016年1月1日時点で、120万アクセスがあるなど、大きな反響を呼んだ(「暨大同性恋男生抑郁跳楼 微博遗书称不敢跟父母坦白」『南方都市报』2016年1月1日)。教科書について裁判を起こした秋白さんは、彼の自殺の原因について勝手に断定はできないと述べつつも、2004年に台湾で葉永鋕さんというトランスジェンダーの学生がいじめにあって自殺した事件が2006年の「ジェンダー平等教育法」の成立に結びついたことを引き合いに出して、「ある生命が消え去ったことで、世界は何か変わるのか」という文を書いた(「一条生命的消逝,世界会因此有所改变吗」)。また、2015年にうつ病患者としての訴えをする「フェミニズム・ウォーク」をおこなった黄葉さんは(本ブログの記事「林鯨らの「性暴力反対・海南島一周自転車ツアー」と黄葉らの「直男癌に抗する、うつ病女性のフェミニズムウォーク」(北京~広州)」参照)は、セクシュアル・マイノリティや女性はうつ病になりやすいことを指摘し、曁南大学に対して、1.ジェンダーと多元的性別の公共選択課程を開設すること、2.すべての教職員に対して、セクシュアリティ/ジェンダー平等の意識研修をおこなうこと、を提案した(「暨大男同自杀 抑郁症女大学生致信呼吁建设友好校园」2015-12-31 黄叶韵子 黄叶假装在徒步)。
(4)以上は、「以“西西弗斯”的姿态面对“恐同”教科书」2016-06-19 西西 和夏天的一天
(5)六一行动︱面对恐同教材,祖国的花朵Say No!」2016-06-01 西西 推石头的西西弗斯。
(6)以上は、「与暨大出版社面谈“恐同教材”,对于我们的争论,你怎么看?(投票ing~) 」2016-06-08 西西 推石头的西西弗斯。
(7)以“西西弗斯”的姿态面对“恐同”教科书」2016-06-19 西西 和夏天的一天。
(8)同上。
(9)以上は、「教材恐同,出版社编者回应不给力,女大学生送“鸭梨”」-推石头的西西弗斯的微博2016年7月9日 22:10:12。「【动态】出版社编者,来!干下这碗鸭梨解毒汤吧!!」同城青少年资源中心的博客2016-07-10 16:47:20。
(10)以上は、「【动态】致暨大出版社:推卸责任哪有改教材好玩」2016-07-19 西西 GLCAC
(11)以上は、「沉默的刑法学 the Silence of the Criminal Law Textbook」2016-05-27 可爱又迷人的 和夏天的一天、「治愈星期天 Self-healing Sunday」2016-05-29 嗯我是 和夏天的一天。
(12) 6•20的小红花 Little Red Flower Campaign 620」2016-06-20 爱 和夏天的一天。
(13)江西师大大三女生 成功“修改”《刑法学》课本」『南昌晩報』2016年7月18日。
(14)以上は、「【新消息】您有新的考试月大礼包,请查收」 2016-06-03 你我都期末狗 和夏天的一天。
(15) 6•20的小红花 Little Red Flower Campaign 620」2016-06-20 爱 和夏天的一天。
(16)以上は、「“我不恐同!”---给不恐同的北京大学出版社&北京师范大学赵秉志教授的小红花」2016-07-11 711不恐同 和夏天的一天。
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遠山日出也

Author:遠山日出也
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