2016-02

北京衆沢女性法律相談サービスセンター(もと北京大学法学院女性法律研究・サービスセンター)、当局の圧力により閉鎖

<目次>
はじめに
一 センターの歴史
二 センターのさまざまな活動――訴訟、情報公開申請、調査研究、シンポジウム、職員・従業員の研修
三 海外でも報道――ヒラリー・クリントンも批判
四 センターの閉鎖をめぐるセンターへ攻撃
五 センター活動上の数々の苦労――低収入で、貧しい女性のために/さまざまな妨害や困難、無理解ともたたかって/海外からの資金援助について
おわりに

はじめに

2016年1月29日の午後、女性のための民間の法律援助機構である「北京衆沢女性法律相談サービスセンター(北京众泽妇女法律咨询服务中心)」のウェブサイトに、「北京衆沢女性法律相談サービスセンター(もと北京大学法学院女性法律研究・サービスセンター)は2016年2月1日から休業する。みなさんの長年の関心と支持に感謝する」という同日付けの通知が掲載された(1)。この「休業」の件については、同日の午前中から情報が流れており、これは「『関係部門』の要求による」ものだという(2)

NGOの「広州ニューメディア女性ネットワーク」が、同センターの代表の郭建梅弁護士に問い合わせたところ、郭弁護士は、「センターは取材を受けることはできないが、現在、今、緊急に会議を開いて、今後どうするかを相談しているところだ。衆沢は何度も『話をされた』(=当局に圧力をかけられたという意)」と述べた(3)。Radio Free Asiaの取材に対しては、郭弁護士は、「しばらくは取材を受けるのは都合が悪い。なぜなら、事情が複雑で、現在は国内の情勢もたしかにあまり良くないので、めんどうなことになるのが怖いからだ。しばらくしたら、取材を受けることを考慮したい」と述べた(4)

一 センターの歴史

1995年、第4回世界女性会議が北京で開催されたとき、郭建梅弁護士は『中国律師(中国の弁護士)』という雑誌社で仕事をしていた。郭弁護士は、この世界女性会議で多くのNGOと接触して感化され、3カ月後には、雑誌社という安定した職場を去って、北京大学の2人の教員と共に、「北京大学法学院女性法律研究・サービスセンター[北京大学法学院妇女法律研究与服务中心]」というNGOを設立した。このセンターは、民間の法律援助組織として、貧しくて弱い立場の女性たちのために、無料で相談に応じ、弁護士を引き受けた。

このセンターには「北京大学」という名前が付いていたが、これは、「北京大学が金を出し、メンバーも大学職員としての身分を保障されている」という意味ではない。中国では、法定のNGOである「社会団体」になるためには、日常の業務の管理監督をおこなう「業務主管単位」が必要なので、北京大学に付属している形をとっていたという意味にすぎない。

北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターは、2004年から、活動の重点を、個別の法律援助だけでなく、公益訴訟(個人の利害だけではなく、社会全体、とくに弱者層全体とって意義のある訴訟)にも置くようになり、訴訟をつうじて女性の権利と法律・制度の変革を促進することに力を入れるようになった(5)

センターは、司法部(日本の法務省に当たる)と法制日報社が主催した2006年度の「十大法制ニュース人物」にも選出された(6)。センターの活動は、当時は政府機関にも評価されていたということであろう。

センターは、2007年1月、「女性権益公益弁護士ネットワーク」を設立した(本ブログの記事「女性権益公益弁護士ネットワークの挑戦」参照。)。このネットワークは、2009年に「公益弁護士ネットワーク(公益律师网络)」と改称するが、弱者の権利を守る訴訟に携わる弁護士の連係や研修、理論研究をめざすものだった。2009年12月まで『月報』も出していた。

2009年9月には、公益弁護士のための弁護士事務所「千千弁護士事務所」を設立した。

2009年には、鄧玉嬌事件という、娯楽施設勤務の女性が強姦されそうになったため抵抗し、加害者を死に至らしめた事件が起きた(本ブログの記事「鄧玉嬌事件をめぐって」参照)。センターは、現地で調査をしたり、警察や裁判所に働きかけたり、声明を発表したりして鄧さんのために力を尽くした。こうしたセンターの活動を含めた、さまざまな運動や世論が実って、判決は、「鄧の正当防衛だ」という弁護側の主張こそ認めなかったが、鄧さんに対する処罰は免除した(「鄧玉嬌事件の判決をめぐって」参照)。

しかし、センターがこうした活動をしたことによって、2009年6、7月に、センターは、北京大学から「今後は、センターは、研究活動はしてもよいが、具体的な事件の訴訟に参与してはならない」と言われた。

そして、2010年3月、北京大学は、法学院女性法律研究・サービスセンターを、大学の所属から外すという公告を出した。センターの主任の郭建梅弁護士によると、北京大学がそうしたのは、教育部(日本で言う文科省)が直接北京大学に通知を出したから」であり、その理由は「センターは国外の資金を受け取って、公益弁護士ネットワークを作っていて、政治的な危険が比較的高い」からだったという(以上は、本ブログの記事「北京大学、女性法律研究・サービスセンターを切り捨て──人権NGOに対する政府の締めつけの一環か?」参照)。

その後一週間もしないうちに、中国法律援助基金会は、郭さんらに対する資金援助をストップし、6月には、公益弁護士ネットワークも停止させられた(7)

郭さんらは、北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターを継承する団体として、「北京衆沢女性法律相談サービスセンター」を設立し、「北京千千法律事務所」とともに登記をおこなった。ただし、この登記は、社会団体としての登記ではなく、商工[中国語では工商]登記である。

「衆沢」とは、多くの人に法律の恩恵を及ぼすという意味である。「千千」のほうは、事務所のビルに「千」という字があったから、そう名付けたのだが、郭さんは、「千家万戸[多くの家々]、千千万万[幾千幾万]、千方百計[あらゆる方法]、大千世界[広大無辺な世界]とも理解できる」と冗談で言ったという(8)

二 センターのさまざまな活動――訴訟、情報公開申請、調査研究、シンポジウム、職員・従業員の研修

北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターと北京衆沢女性法律相談サービスセンターは、1995年~2011年の間に、全国各地から8万件近い相談を受け、3千あまりの事件について無料で弁護士をつとめた。また、その間に、センターのメンバーは合計百本近い論文を執筆した。また、政府の各部門などに法律的意見書や立法建議、報告を70件余り提出した。さまざまな書籍も出版した(9)

以下、個別具体的な活動について、本ブログで取り上げてきたニュースを中心に見てみよう。

職場のセクシュアル・ハラスメント

北京衆沢女性法律相談サービスセンター副主任の呂孝権弁護士が2013年に述べたところでは、2007年以来、全国12省から寄せられた190件のセクハラと性暴力の訴えのうち、50件の事件でセンターの弁護士が代理人になったが、そのうち18件が職場でのセクハラ事件だった(10)

中国でもセクハラ裁判にはさまざまな困難がある。たとえば、2006年には、重慶市の小学校の女性教師が校長をセクハラで訴えた裁判で、北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターの弁護士が代理を務めた。その女性教師は猥褻メールをその証拠として提出した。しかし、裁判所は、女性教師から校長へのメールに「厳しい言葉での拒絶がない」として、訴えを退けた(本ブログの記事「本年の動向3―セクハラ裁判の困難」参照)。

2010年に山木教育グループ総裁・宋山木が女性従業員を強姦する事件が起きた。この事件では、北京衆沢女性法律相談サービスセンター主任の李瑩弁護士が、付帯民事訴訟(*)の原告である被害者の羅雲さん(仮名)の弁護士を務めた。判決は、宋を懲役4年に処すとともに、羅さんに4200元あまりを支払うことを命じた。北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターはシンポジウムを開催して、この事件の判決の不十分点や性暴力の論じられ方・法律のあり方、山木教育グループの企業文化(女性の身体の管理、従業員の奴隷化など)やその背景について検討した(本ブログの記事「山木教育グループ総裁・宋山木の強姦事件をめぐる議論」参照)。

(*)「中華人民共和国刑事訴訟法」第53条に「被害者が被告人の犯罪行為によって物質的損失を被ったときは、刑事訴訟の過程において、付帯民事訴訟を提起する権利を有する」とある。

また、北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターは、企業内のセクハラ防止システムを構築する努力もおこなった。センターは、2007年に国際シンポジウムを開催して、企業が職場のセクハラを防止するための規則の建議稿を発表し、その後、実際にいくつかの企業でセクハラ防止システムを構築したり、研修をしたりした(本ブログの記事「北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターによる企業内のセクハラ防止制度構築の取り組み」参照)。

ドメスティック・バイオレンス

2009年、北京の董珊珊さんが夫に殴り殺される事件が起きた。翌年、董さんの母親が民事訴訟も起こしたが、そのときの代理人が北京衆沢女性法律相談サービスセンターの李瑩弁護士と張偉偉弁護士だった。この事件では、裁判所は夫を懲役6年6カ月に処すとともに、家族に対して81万元余りの支払いを命じた。ただし、夫に対して適用した罪名は「虐待罪」という比較的軽い罪であり、李瑩弁護士らは、「故意傷害」罪の適用を求めた。この事件については、センターを含めたさまざまな団体や人々が、警察や医療機関のDVに対する関与を問い直し、保護命令の必要性も明らかにした(11)

2010年には、長い間夫に暴力をふるわれ続けていた李彦さんが、夫を誤って死なせてしまった事件が起きた(本ブログの記事「DV被害者の夫殺しに対する死刑に反対する中国国内の運動」参照)。このときは、北京衆沢女性法律相談サービスセンターの徐維華弁護士が李彦さんの代理人をつとめた。この事件では、一審でも二審でも李彦さんに死刑判決が下され、死刑について最高人民法院が承認のための審査をするという段階になってから、李彦さんの家族は、他に手段が見つからなくて、北京衆沢女性法律相談サービスセンターに助けを求めた。センターは、ただちに弁護士を四川に派遣して事件の状況を調べ、重要な証拠を集め、他の多くの団体とも協力して、死刑をストップさせることに成功した(12)

地下鉄の痴漢

2012年、地下鉄の痴漢の問題が、「フェミニスト行動派」の運動によってクローズアップされた。このとき、北京衆沢女性法律相談サービスセンターの呂孝権弁護士は、北京地下鉄公司に対して、地下鉄の痴漢対策について情報公開申請をしたり、痴漢防止策について建議を送ったりした(13) (本ブログの記事「各地の弁護士・市民が地下鉄会社に対して痴漢防止策の建議・署名運動」)。

定年の男女差別

中国では、定年が、男性は60歳であるのに対して、女性は、労働者の場合は50歳、幹部の場合は55歳だという差別がある。2006年、北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターは、この規定は、憲法で定められている男女平等に違反しているとして、全国人民代表大会常務委員会に違憲審査を請求した(本ブログの記事「本年の動向1―『定年の男女差別は違憲』と訴え」)。

センターは、女性の定年問題の訴訟にも、2007年~2009年の3年間だけで、21件携わった。それらは、主に、以前「労働者」身分だった女性が、専門技術者になっても、「あなたは『労働者』だから」という理由で、しばしば50歳で定年にされることを訴えた裁判だった。すなわち、「性別の差別と身分の差別」という「二重の差別」(センター副主任・李瑩)を問題にするものだった (本ブログの記事「元「労働者」身分の女性専門技術者の50歳定年――性別と身分の二重の差別」)。

職場での女性の権利についての調査研究

北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターは、自らの活動のために(または活動にもとづいて)、調査研究もおこなった書物を何冊も出版してきた。

たとえば、職場の女性労働者の権利については、2006年に、『中国女性労働権益保護の理論と実践──法律援助と公益訴訟の視角から』(北京人民公安大学出版社 2006年)を出版して、自らの実践や研究について報告をした(本ブログの記事「女性労働者の権益保護の理論と実践の書」参照)。また、2010年には、センターの調査をもとにして、『中国職場性差別調査』(李瑩主編・張帥副主編、中国社会科学出版社)を出版した (本ブログの記事「『中国職場性差別調査』出版」参照)。

農村女性の権利

2007年から、北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターは、農村出身の家事労働者の権利を守るために、家事労働者保護条例を提案したり、家事労働者に対して法律を教える研修をしたりしてきた(本ブログの記事「北京大学法学院女性法律研究・サービスセンター、家政婦の労働保護条例を提案」)。

また、中国の農村では、「出嫁女」という、結婚後も、「婿入り」などの理由で戸籍を生まれた村に置いている女性たちの土地や住宅などの権利が、しばしば村によって侵害されている。

内モンゴル自治区のフフホト市賽罕区西把柵郷沙梁村の「出嫁女」たちは、よその土地の男と結婚したが、戸籍は同村にあり、夫婦一緒に同村に住み続けた。けれども、村は、彼女たちには土地や住宅を分配しなかった。そこで、2006年、28人の出嫁女が村民委員会を相手取って裁判を起こし、勝訴した。村民委員会は判決に従おうとしなかったが、最後は強制執行によって住宅を勝ち取った。この裁判で原告の代理人をつとめたのも、北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターの弁護士だった(本ブログの記事「農村女性の土地請負経営権をめぐる裁判 」参照)。

センターは、2013年までに、128件、こうした農村女性の土地紛争事件で、原告の代理をつとめた。しかし、そのうちの93件(72.6%)は、裁判所が訴えを受理しなかった(14)。次の事件では、そうした困難な状況にぶち当たった。

広東省恵州市の38人の出嫁女は、結婚後も村が分配した土地を耕し、村に税金を納めて生活してしたにもかかわらず、村は、彼女たちの土地を回収し、村が上げた収益(土地が徴用された際の補償金など)も彼女たちには分配しなくなった。2006年、彼女たちは、この問題を市の政府や婦女連合会(婦連)、省の婦連などに訴えたが、問題は解決せず、最後に全国婦連と北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターに訴えた。

センターの2人の弁護士は、『中国婦女報』の記者といっしょに恵州市に行って、法律的に問題を解決しようとしたが、現地の裁判所はこの事件を受理せず、「広東省ではこのような事件はどの裁判所も受理しないことになっている」と言った。センターの2人の弁護士は、そのような規定は違法だが、訴訟で解決するのは困難だと考えて、村が属している行政事務所に働きかけた。しかし、明確な回答は得られなかった。郭建梅主任は、その区の共産党の書記に電話して働きかけた結果、区の政府が、区と行政事務所と村の3者の会議を開いて、「出嫁女」にも平等な権利を保障しようとしたが、村民委員会は拒否した。「出嫁女」たちは、再びセンターに電話で訴えたので、センターは恵州市の市長と市の共産党委員会書記に法律上の問題と責任を記した書簡を出したところ、その半月後に、村が、土地が徴用された際の補償金を出嫁女にも分配し、2007年、問題は解決した(15)

このように、センターは裁判だけに頼るのではなく、当事者の利益のために、さまざまな手を尽くしてきた。「出嫁女」たちは、内モンゴル自治区のフフホト市の事件では、合計9千万元あまりの土地補償金を勝ち取り、広東省恵州市の事件では、一人数十万元の土地補償金を勝ち取っている(16)

李彦さんのケースや、広東省恵州市の出嫁女のケースは、他のさまざまな方法では解決せず、当事者は最後にセンターに訴えきている。この点からもセンターの役割がわかるだろう。

大学入試の男女差別

2012年には、一部の大学の一部専攻が入試で男女別の定員を定めて、男女の合格ラインを差別していることが問題になり、教育部に坊主頭になって抗議したフェミニスト行動派のパフォーマンスアートも話題になった。

北京衆沢女性法律相談サービスセンターは、教育部が「国家の利益を考慮して、一部の特殊な職種あるいはポストに対する特殊な専門の人材の養成は、少数の学校の一部の専攻は適当に男女の学生募集の比率を調整することができる」と述べたことに対して、その「国家の利益」や「少数の学校の一部の専攻」、「一部の特殊な職種あるいはポスト」の具体的内容は何かについて情報公開を申請した。それに対して、教育部は、具体的な専攻を挙げつつも、それらの専攻では定員を男女別にすることを容認する回答をしたので、センターは、それを批判する法律的意見書を教育部に提出した(17) (「教育部、大学入試の男女差別について、外国語専攻などの専攻名を挙げつつ正当化――女性団体はすぐ反論」)。

女性差別撤廃条約

2007年、北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターは、中国女性裁判官協会と河北省婦連と雲南省婦連の協力を得て、「政策制定者と法律執行者に対する『女性差別撤廃条約』および『婦女権益保障法』研修」プロジェクトをおこなった。これは中国が女性差別撤廃条約を批准し、婦女権益保障法を制定したにもかかわらず、立法や行政、司法においてそれらがきちんと踏まえられていないことに対処するためのプロジェクトだった(「女性差別撤廃条約と婦女権益保障法の研修プロジェクト」)。

以上は、主に私がこのブログで取り上げた問題についてのセンターの活動を記したにすぎない。しかし、これだけでも、さまざまな困難な状況があるなかで、センターがさまざまな問題について、さまざまな手段で取り組んできたことが理解できよう。他では問題が解決せずセンターに訴えてきた事例も多い。行動派のパフォーマンスアートが話題になった事件でも、センターが法律面から活動していることもわかる。

三 海外でも報道――ヒラリー・クリントンも批判

『ニューヨークタイムズ』も、衆沢の閉鎖を、中国当局の民間団体に対する弾圧として報じた(18)

上のニューヨークタイムズの報道を引用して、1月31日、いまアメリカ大統領選の民主党の指名候補争いをしているヒラリー・クリントン氏が、彼女のtwitterで、1995年の北京女性会議での彼女のスピーチ「女性の権利は人権である」という言葉も引き合いに出して、「このセンターは存続するべきだ――私は、郭を支持する」と述べた(19)

クリントン氏は、彼女がファーストレディだった1998年の6月29日、北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターを訪問して、郭建梅さんと会見し、同センターについて「ground-breaking(草分けの、開拓者的な)」の活動をしていると賞賛したこともある(20)

また、郭建梅さんは、アメリカ国務省の2011年度の「国際勇気ある女性賞(International Women of Courage Awards)」を受賞している(21)。これは、「中国で法律へのアクセスから排除されている人々のための活動をするために、快適な世界を去った」ことなどが評価されての結果だが、ワシントンで彼女に賞を渡したのは、大統領夫人のミシェル・オバマ氏と当時国務長官だったヒラリー・クリントン氏だった。

今回の事件について、国外の政治家で発言した人物は、クリントン氏くらいしか見当たらないが、クリントン氏のツイートの背景には、女性としての人権問題への関心ということもあろうが、同時に、中国との駆け引きとか、対中姿勢の有権者へのアピールといった、政治的思惑もあるかもしれない。また、アメリカ政府の「人権外交」には、人権についての二重基準があることはたしかだ。

しかし、郭さんは、アメリカの賞だけでなく、2010年には、フランスのジュリア・クリステヴァなどが創設した「女性の自由のためのシモーヌ・ド・ボーヴォワール賞」も受賞している(22)

また、今回の事件については、他の国や地域のメディアも報じている。たとえば、フランスラジオ国際放送局(23)、ドイチェ・ヴェレというドイツの国際放送(24)、日本の共同通信(25)、聯合網(26)など台湾の各メディア、『サウス・チャイナ・モーニングポスト(南華早報)』(27)など香港の各メディアもこの事件を報じている。

『サウス・チャイナ・モーニングポスト』は、下の事件も、衆沢の閉鎖と同様の性格を持っていると見なしたのか、同じ記事で報じている。

1月25日、人権活動家らに法的支援などを提供するアメリカのNGO「チャイニーズ・アージェント・アクション・ワーキング・グループ(チャイナ・アクション)」の活動が「国家の安全に危害を与えている」という理由で、そのメンバーのピーター・ダーリン氏(スウェーデン国籍)が中国から追放された。中国当局は、チャイナ・アクションが外国からこっそり多額の資金を受け取り、中国に関する虚偽の情報が外国機関へ流れるよう仕向けていたと主張した(28)

四 センターの閉鎖をめぐるセンターへ攻撃

中国の『環球時報』は、「欧米のメディアが衆沢の閉鎖事件を大げさに宣伝するのは、野次馬的である」(単仁平)という論説を発表した。この論説は、センターの閉鎖の原因については明確なことを述べていないが、「通常、国外の資金が中国の公共社会の領域に入ることは複雑な影響を生じる。それらは、社会の建設のプラスになるかもしれないし、それらの資金の政治的傾向によって使用が選択されれば、社会に敵対的な緊張を高めるかもしれない」と述べており(29)、センターの閉鎖が国外資金の問題と関係していることを示唆しているように思われる。

実際、微博では、「解散させられたのは、彼女たちがアメリカ人の金でアメリカ人のために仕事をしたからだ。資本主義の走狗が人権擁護の看板を掲げたら、同情が得られるのか?」と言う人もいた(30)。こうした攻撃も、上のようなマスメディアの議論と無関係ではないだろう。

こうした「衆沢はアメリカ帝国主義の走狗だ」という攻撃や「衆沢は国外の反動勢力がわが国を転覆するためのものだ」という攻撃のほか、「衆沢は北京にあるのに、農村の女性のこともやっているのは、公益の旗印を掲げたスパイ機構だからだ」という攻撃なども一部のネットで出たようだ(31)

五 センター活動上の数々の苦労

上のような攻撃について、センターの元職員(@「花香-弥漫」さん)は、衆沢には「半年いただけで、離職して数年になる私でさえ、くやしくて涙をこらえきれない」と述べて、衆沢について理解してもらうために一文を書いた(32)。また、2011年に、「公益弁護士・郭建梅の苦難」という記事が『鳳凰週刊』という雑誌に掲載されたことがある(33)。この2つの記事から、センターの弁護士や職員の苦労をご紹介してみよう。見出しは私が付けた。

【低収入で、貧しい女性のために】

センターは、助けが必要な女性のために、完全に無料でサービスをしていた。弁護士費用も、出張費も取らなかった。センターの弁護士には、北京大学を卒業している人も2人いて、英語が達者で、外国での会議に不自由なく出席できる人も何人もいた。「もし彼らが商業弁護士になったら、年収はかるく十倍、あるいは百倍になるだろう人たちだった」という。李彦さんの事件を引き受けたとき、ある人が憶の値をつけた商業事件を頼んできたが、郭さんはいつもどおり断った。郭さんは、「李彦の事件は、もし自分が引き受けなければ、引き受ける人を見つけるのは難しい。大金が儲かるような事件は、自分がやらなくても、引き受ける人は簡単に見つかる」と述べた。

2009年の南方週末の報道によると、センターには、3人の事務職員を含めて、12人いた。郭建梅さんがセンターの主任だったが、彼女でも月給は6000元、他の弁護士は3500元、事務職員は2000元あまりだった。他には、祝日に2~300元、年末に500元が出るだけだった。郭さんでさえ、北京の人の平均的月収と大差ないと思われるし、弁護士の月収としては非常に低いと言えるだろう。

郭さんに、「商業弁護士をやりながら、その金を使って公益弁護士をすることはできないのか?」と尋ねる人もいた。しかし、それは郭さんにはできなかった。宋山木の事件のとき、宋が強姦したことは検察や警察が認めた証拠から見ても間違いなかったのに、宋の弁護士が、被害者が売春したのだと主張した。郭さんは、その発言に対して法廷で厳重に抗議し、ノートに「永遠に商業弁護士にはならない!」と書いた。郭さんは、「公益弁護士の感情の方向や理念、仕事の方法、事件を扱うテクニックは、商業弁護士とは全く異なり、道が違っている。どうやったら線路に自動車を走らすことができるのか?」と言う。

【さまざまな妨害や困難、無理解ともたたかって】

弱い立場の人や農村の人のための法律援助の仕事は、業界を守ろうとする勢力、地方保護主義、司法の腐敗、警察などの資質の低下、土地のごろつきやブラックな勢力の激しい妨害にあった。

ある省の女性から、夫から長年暴力をふるわれ、離婚後も暴力が続いているため、左目が失明し、鼻の骨も折れ、腰も麻痺しているのに、元の夫の勢力が強大で、現地ではまったく訴えが受理されないという訴えが来た。郭弁護士は、その元の夫の資料を調べてみて怒り心頭に発した。その夫は著名な弁護士だったのだ。このような事例からも、彼女の仕事が、社会の底辺の人々の立場に立って、強権と闘う性格を持っていたことがわかる。

危険な目にもあった。農村女性の土地権を擁護するために、郭さんは、2回も現地の政府に手錠をかけられそうになったことがあり、殴られそうになったこともある。郭さんと副主任の李瑩弁護士が河南の登封に行ったときは、村の男たちが集団で彼女たちが泊っていたホテルに押し掛けて、「家には家のおきてがあり、村には村の規則がある。北京から来た弁護士がなんだ」と大声で怒鳴り、身の危険を感じ、すんでのところでパトカーが到着した、ということもあった。

こうしたさまざまな障害にぶつかったうえ、周囲の人の無理解にも直面した。「なんでそんな事件をやるのか?」という疑問や誤解、ひどい場合には、「精神病だ」「誇大でセンセーショナルな宣伝だ」「有名になろうとしている」といったレッテル貼りもされた。

【海外からの資金援助について】

センターの事務所は簡素なものだったが、家賃はかかる。地方に主張するためには、交通費もかかる。シンポジウムを開ければ、場所代もかかれば、専門家を招く費用もかかる。職員の賃金やウェブサイトの費用などもかかる。翻訳は、多くの方がボランティアでやってくれたが、重要な文書は、専門の翻訳者に頼まなければならない。

しかし、国内の基金からは、長期的な資金援助はなかった。

だからこそ、衆沢は、国連やEC、大使館、国外の財団などのプロジェクトの資金をできるだけ多く申請してきたのだ。そして、衆沢の場合は、コストが低いのに、成果が大きかったからこそ、申請に成功したのである。また、国外の資金援助の資金に対する管理監督は厳格で、一つ一つの出費に対して、非常に詳細な報告が求められる。衆沢に対する悪口に憤っている@「花香-弥漫」さんは、出張のときに何を食べて、その価格はどうだったかも書かなければいけないし、膨大で詳細な中国料理などの名称を翻訳するのに苦労したと述べている。そして、このような地道な作業があったからこそ、援助が継続されたのだと言い、「陰謀論者」に対して、「自分で申請できるものなら、申請してみるようにお願いしたい。衆沢の中の人は、裁判や調査研究、講座、その他のNGOの仕事で多忙を極めていて、スパイをする暇はまったくない」、「衆沢が金のために売国をして走狗になったとか、公益のという羊頭を掲げて××を売っているとかいう者がいるが、私は、これが公益でないのかと言いたい」と述べている。

【「衆沢が休業して、私はがっかりすると同時にほっとしている」】

@「花香-弥漫」さんは、また、「いま衆沢が休業して、私はがっかりすると同時にほっとしている」と言う。「ほっとしているというのは、彼女たちがやっと休息できるからだ。大ボス(郭弁護士)は、とても善良な人で、公益をすることによって、うつ病になり、長年何度もそれを繰り返して、2013年[に私が衆沢にいたときは]、まださまざまな治療をしていたが、現在もよくなっているのか、はっきりしない」と述べている。

おわりに

いまアメリカにいる滕彪弁護士は、「郭建梅の衆沢女性法律センターのようなものは、実際は多くの人は半ば官制の色彩を持っていると考えている。一部の人権団体や人権活動家ほど急進的ではなく、多くの、人権においてデリケートな領域である法輪功とか、強制立ち退きとか、新彊・チベット問題のようなものには関わってこなかった。女性の権利は中国では最もデリケートな領域というわけではないのに、このような機構さえ容認できないのは、中共が社会全体に対する統制を明確に強めていることを示している」(34)と述べている。

滕彪弁護士の指摘は、正しい。ただ、だからといって、衆沢の活動自体が、もっと「デリケート」な領域の活動より価値が低いとか、苦労が少なかったとかいうのでないことは、これまで述べてきたことから明らかだろう。体制が直ちには弾圧しないような領域で、力の限り活動してきたことの意義は巨大である。

代表の郭建梅弁護士は、衆沢の閉鎖直後に、「衆沢は『休業』するが、北京千千弁護士事務所は存在し続ける」と述べた(35)。実際、現在も千千弁護士事務所の微博は今も発信を続けており、今年2月16日に出した新年のあいさつでは、「衆沢は休業したが、千千はまだある。どのようになっても、私たちの公益に関心を持ち支持する心と行動はいつまでも変わらない!」(36)というメッセージを出している。

(1)歇业通知」北京众泽妇女法律咨询服务中心2016年1月29日 15:57
(2)中国第一家妇女法律援助NGO遭强迫解散?」2016年1月29日 NGOCN原创 GiveNGOA5、「中国女权NGO“众泽妇女法律咨询服务中心”遭当局强迫宣告解散」维权网2016年1月29日。
(3)反家暴法通过了,但做反家暴法律援助的机构被关了」新媒体女性的微博20161年1月29日 21:20
(4)中国女权NGO“众泽妇女法律咨询服务中心”遭当局强迫宣告解散」自由亚洲电台(RFA)2016年1月29日。
(5)以上は、「反家暴法通过了,但做反家暴法律援助的机构被关了」新媒体女性的微博20161年1月29日 21:20
(6)2006年度法制新闻人物十大法制新闻评选揭晓」法制网。
(7)郭建梅的磨难|丈夫刘震云:她顶多是学德兰修女,不是曼德拉」民间 2016年2月3 日(原題名およびソースは、「公益律师郭建梅的“磨难”」『凤凰周刊』2011年14期[2011年5月15日])。
(8)同上。
(9)中心主要成就」北京市千千律师事务所サイト(2016年2月24日確認)。
(10)职场性骚扰:法律如何帮弱者说“不”」『检察日报』2013年7月13日。
(11)董珊珊,不能瞑目的冤魂」法制与新闻 2010年8月9日。
(12)前东家今日歇业,生命暂停在20岁,我是来安利的」花香-弥漫的微博2016年2月1日 03:03
(13)呂孝権弁護士の北京市地下鉄への建議は、「关于在北京轨道交通运营中建立性骚扰防治机制的建议」(北京众泽妇女法律中心的博客2012年9月13日)、その回答は、「北京市地铁公司关于北京轨道交通性骚扰防治信息公开申请的答复」(北京众泽妇女法律中心的博客2012年9月13日)。
(14)频损“农嫁女”土地权 村规民约成法外之地?」『检察日报』2013年12月23日。
(15)以上は、「广东省惠州市38位出嫁女土地征用补偿纠纷案」北京众泽妇女法律咨询服务中心2010年7月19日。
(16)郭建梅「心怀希望 为公益前行」北京众泽妇女法律咨询服务中心2014年12月19日(出所:中华女性网)。
(17)北京衆沢女性法律相談サービスセンター(NGO)の教育部への情報公開申請は「北京众泽妇女法律咨询服务中心申请教育部公开有关男女分性别招生的信息」(北京众泽妇女法律中心的博客2012年8月27日)、教育部からの回答は「2012年10月16日」(北京众泽妇女法律中心的博客2012年10月16日)、教育部に対する意見書は「众泽妇女法律咨询中心致教育部意见书」(网易女人2012年9月2日)。
(18) DIDI KIRSTEN TATLOW“China Is Said to Force Closing of Women’s Legal Aid CenterThe New York Times JAN. 29, 2016(中国語訳:狄雨霏「北京著名妇女法律援助中心被迫关闭」纽约时报中文网2016年2月1日)。
(19)Hillary Clinton“True in Beijing in 1995, true today: Women's rights are human rights. This center should remain—I stand with Guo. http://hrc.io/1JQCWy3 -H ” 7:56 - 2016年1月31日、Emily Rauhala“On eve of Iowa, Hillary Clinton chides China on women’s rights. Here’s why.Washington PostFebruary 1→「希拉里•克林顿抨击中国当局关闭妇女法律援助组织」自由亚洲电台(RFA)2016年2月1日、「希拉里•克林顿批评中国关闭“众泽妇女法律中心”」美国之音2016年2月1日。
(20)CLINTON IN CHINA: WOMEN; First Lady Visits Center For Women And the LawThe New York TimesJune 29, 1998
(21)2011 International Women of Courage Award Winners」U.S. Department of State
(22)同じ年に艾暁明さんも受賞しており、それは、日本の日刊ベリタの記事にもなっている(「四川大地震を描いたドキュメンタリー映画『私たちの子供』 ボーヴォワール賞受賞の艾暁明さんに制作の意図を聞く」日刊ベリタ2010年5月17日)。
(23)古莉「北京一妇女法律援助中心被关闭」Radio France Internationale (RFI) 2016年2月2日。
(24)长平「长平观察:妇女自己的法律中心」德国之声2016年2月2日。
(25)中国の著名NGO活動停止 当局の締め付けか」共同通信2016年1月30日。共同通信の記事は、もちろん他のメディアも掲載している(「中国の著名NGO活動停止 当局の締め付けか」『日本経済新聞』2016年1月30日、「中国の著名NGO活動停止 当局の締め付けか」『東京新聞』2016年1月30日)。
(26)陸女權組織 『眾澤中心』忽歇業」聯合報2016年2月1日。
(27)北京众泽服务中心今起歇业 专营妇女法援维权」《南华早报》中文网2016年2月1日。
(28)中国で拘束のスウェーデン人男性、テレビで『謝罪』」CNN 2016年1月20日。
(29)单仁平「西媒炒作众泽关闭事件是为看热闹」环球时报2016年2月2日。この論説は、衆沢については、「閉鎖の過程から見ると、今までのところ比較的温和で、衆沢も対抗する態度をとっていない」と述べつつ、「法律援助の領域では、以前ごく少数の過激な人権弁護士が法律と対立するようになり、悪い影響を与えたことも言わなければならない」と言う。また、この論説は、「管理機構も、法律文化領域のNGOも、デリケートなことについては抑制と理性を保持するべきである。前者は胸襟を開き続けて、一般的な規則違反や管理における摩擦をデリケートな方向に連想するべきではない」と言いつつ、「後者は管理措置の強化に正しく対処して、関連する変化を政治上の問題として大げさに扱って『政治的弾圧』と見なすべきではない」と言う。すなわち、全体として、衆沢に対して大人しくしているように威圧しつつ、衆沢の閉鎖について穏当なものであるかのように述べて、欧米の世論は「野次馬見物をして、調子に乗って火に油を注いでいる」と言って欧米のメディアを非難している。反論として、查建国「众泽关闭,国人有知情权(与环球时报争鸣之291)」(博讯新闻网2016年2月7日)がある。
(30)我是你认识的王小能的微博2016年1月30日 11:51
(31)前东家今日歇业,生命暂停在20岁,我是来安利的」花香-弥漫的微博2016年2月1日 03:03
(32)同上。
(33)郭建梅的磨难|丈夫刘震云:她顶多是学德兰修女,不是曼德拉」民间 2016年2月3 日(原題名およびソースは、「公益律师郭建梅的“磨难”」『凤凰周刊』2011年14期[2011年5月15日])。
(34)神州之大 连"众泽"都容不下」自由亚洲电台(RFA)2016年2月5日。
(35)反家暴法通过了,但做反家暴法律援助的机构被关了」新媒体女性的微博20161年1月29日 19:21:20
(36)众泽妇女法律中心――千千律师所的微博2016年2月16日 09:38
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DV防止法をめぐる議論と運動――2015年を中心に――

<目次>

一 2014年11月の草案をめぐる議論と運動
 1.同居・恋愛関係・同性愛なども法の対象に入れるよう求める活動 2. DV被害者の加害者に対する犯罪への処罰軽減を規定することを求める建議 3.人身安全保護裁定の執行機関を警察にすること、および民事訴訟の過程や直前でなくとも、また本人でなくとも申請が可能にするよう求めるDV被害者による建議 4.障害者の視点からの意見と建議 5.家庭内での性暴力が隠蔽されていることを訴えるパフォーマンスアート

二 2015年7月の草案をめぐる議論と運動
 A 「反DV民間唱導グループ」による検討と建議など
 B さまざまなアクション
 1.ネット上のアンケート調査 2. BCome小組、2015年も北京の地下鉄の車内で《女の歌》を歌い、チラシをまいて、女性に対する暴力反対を訴える 3.養育権が妻にある子どもを奪った中国中央テレビのキャスターを批判し、精神的暴力や元の配偶者からの暴力、職場の責任を法に入れることを訴えるパフォーマンスアートなど 4. 中華女子学院のWoMen小組、少数民族の衣装や赤ずきんをまとった被害女性の扮装で反DVを宣伝 5. 女性に対する暴力反対をテーマにした展覧会、中止させられる
 C 27人の弁護士の連名の建議の書簡

三 2015年12月の草案と成立した法律をめぐって
 A 前進面の指摘
 B 問題点の指摘
 C 当初から基本的に変わらなかった根本的問題点
 1.各部門のDV防止の責任についての規定の不備 2.目的における「家庭の調和、社会の安定の促進」

2015年12月27日、中国のDV防止法――正式名称は、中華人民共和国反家庭内暴力法(中华人民共和国反家庭暴力法)なので、以下、反DV法と略す――が成立した(施行は2016年3月1日)。

このエントリでは、主に2015年の中国での同法をめぐる議論と運動を見ていきたい。法律や草案の文言自体については、別エントリで、成立した法律と2014年11月・2015年7月の草案とを全文翻訳して対照させたので、そちらをご参照いただきたい(中華人民共和国反家庭内暴力法――草案を含めた全訳、草案との対照)。

一 2014年11月の草案をめぐる議論と運動

2014年11月25日、国務院法制事務局が草案(意見募集稿)を発表し、12月20日までの間、広く社会から意見を求めた。パブリックコメントである。その後一週間ほどの運動についてはすでに一昨年、ご紹介しているので(「家庭内暴力防止法の草案発表、草案に対するさまざまな意見と活動」 2014年12月2日)、今回はそれ以後の動きをご紹介する。

一昨年ご紹介したとおり、2014年11月の草案については、以下のような意義と問題点が指摘されていた。
<意義>
・「人身安全保護裁定」(諸外国の「保護命令」に似たもの)が導入された。
・関係機関に対してDVに関する研修・統計を義務付けた。
・社会福祉機構や医療機関にDVについての報告を義務付けた。
・シェルターの設置を義務付けた。
<問題点>
・家庭内暴力の定義が狭く、法律上の家族成員間の暴力に限定されている。
・人身安全保護裁定について警察が何をするのかが書かれていない。
・シェルターが、その役割を果たせるだけの質を持ちうるかについて保証されてない。
・貧困者に対する法律扶助の規定がない。
・DV教育についての規定になぜか「小中学校」しか書かれていない。
・多くの機関の協力についての規定がなく、専門の反家庭内暴力機構(家庭内暴力防止委員会のような)が設置されない。
・民間団体の役割についても明確に規定されていない。

この草案に対しては、以下のような運動がおこなわれた。

1.同居・恋愛関係・同性愛なども法の対象に入れるよう求める運動

まず、一昨年も触れたが、2014年12月初め、レズビアングループ「同語」やネットマガジン「酷拉時報(Queer Lala Times)」が、反DV法が同居・恋愛・パートナーなどの親密な関係も対象にするよう署名を開始した(1)

また、12月4日は、中国の憲法記念日(2014年に定められた)であるとともに、法制宣伝日(2001年に定められた)でもある。この日、7都市(北京・広州・深圳・武漢・長沙・泉州・杭州)の女性たちが、それぞれの都市の婦女連合会(婦連)と公安局とに対して、2013年に「非婚の同居関係の暴力によって助けを何度求められたか? そのうちの異性愛の暴力と同性愛の暴力はそれぞれいくらか?」という点について情報公開を申請した。

この活動を呼びかけた韋洋さんは、「自分の身の回りにも、恋愛関係や同居の期間にパートナーから脅されたり、殴られたりした事例は多いので、反DV法が出来ると聞いたときは、非常に感激した。しかし、まさか意見稿には同居・恋愛中の暴力を扱っていないとは。私は非常にがっかりしたし、理解できない」と述べた(2)

さらに、12月24日には、北京の街頭で、2人のサンタクロースの扮装をした人がこづき合い、どなり合うパフォーマンスアートをした。2人の傍らでは、別の2人が「同性愛はどこにでもあるのに、立法部門の目には入らない」、「反DVには、あなたと私とta[他(彼)と她(彼女)の共通の音]の区別はない、DV被害に遭うことに性的指向の区別はない」というプラカードを掲げて、反DV法が同性間の暴力を視野に入れるよう訴えた(3)

2.DV被害者の加害者に対する犯罪への処罰軽減を規定することを求める建議

12月12日、全国12省の女性弁護士30人が、DVの被害者が加害者を死傷させた場合にDV被害を情状に入れることを求める建議を出した。具体的には、以下の2点を求めた。
 1.DV被害を刑事裁判の法定の量刑の情状に入れること。
 2.長期にわたる持続的なDVの被害女性が「暴力によって暴力を制して」加害者を死亡させたような事件には原則として死刑を適用しないこと(4)

3.人身安全保護裁定の執行機関を警察にすること、および民事訴訟の過程や直前でなくとも、また本人でなくとも申請が可能にするよう求めるDV被害者による建議

12月17日には、DV被害者60名が「人身保護安全裁定の適用範囲を拡大し、執行機関を明確することについての建議の手紙」を国務院法制事務局と公安部に送った。

発起人の陸蔓蔓さん(のちに李麦子さんと同性婚をした人である)によると、この建議は、四川省でDV被害者の李彦が夫を殺した事件がきっかけになった。李彦さんは、警察や婦女連合会に何度も助けを求めたが、助けを得られず、夫と争っているときに、過失によって夫を殺した。陸さんは、「もし李彦さんが暴力をふるわれていたときに人身保護命令制度があったら、夫を殺す惨劇は起きなかったかもしれない」と思ったが、意見募集稿には不十分な点があった。

陸さんは、12月15日、意見募集稿の「人身保護命令」について連署した建議の手紙を出すことを呼びかけたところ、2日間で60名の被害者の署名が集まった。

この建議では、以下の4点を求めた。

1. 人身保護裁定を執行する行政機関は、公安部門(警察)であることを明確にすること。
 意見募集稿では、裁判所を、人身保護裁定を出す権力を持つとともに、その裁定を執行する責任を持つと規定している。しかし、裁判所はあくまで裁判をする機関であって、財産ではないものの保護命令については、執行する警察力を持っていない。

2. 人身保護裁定の適用範囲を拡大すること。
 意見募集稿では、裁判所が人身保護手裁定を出すことができる範囲は、「離婚・扶養・養育・相続などの民事事件の過程中」と「訴訟を起こす前」だけである。すなわち訴訟を前提としており、かつ、訴訟が可能な主体は家庭内暴力の被害者だけである。しかし、被害者は、感情・家庭・経済などの原因により、そうした訴訟を起こせない場合も多い。だから、被害者が訴訟を起こしていなかったり、あるいは他の問題についての訴訟を起こしている過程であったりしても、裁判所に人身保護裁定を申請できるようにすること。

3. 人身保護裁定の有効期間を延長すること。
 クレイジーイングリッシュ(英語学習法の一つ)の創始者の李陽が妻のKimに対して暴力をふるった事件では、裁判所の人身安全保護裁定の有効期間は3カ月だったが、3カ月経ったら、Kimはすぐに李陽の悪意のハラスメントを始め、いかなる賠償金の支払いも拒絶した。このように裁定の有効期間が短すぎると、加害者に対する威嚇にならないし、有効期間が過ぎたら、加害者が言葉で脅すだけだと再度裁定を申請することも難しい。

4.強制的な司法関与制度を確立して、人身安全保護裁定の申請者の範囲を公安部門にも拡大すること。
 DV被害者は長期にわたる恐怖と脅しによって、自ら人身保護裁定を申請できないこともあるので、通報を受けた公安機関が被害者の代わりに申請できるようにすること(5)

4.障害者の視点からの意見と建議

12月24日には、多くの障害者団体や女性団体などが、障害者の視点から、意見と建議を出した。その建議は、主に以下の4つの点についてのものだった。
 1.家庭内暴力の定義を広げて、性暴力や経済・財産の剥奪・支配にも広げること。また、別れたパートナー、離婚した配偶者、後見人と被後見人、生活を共にしている非親族、関係が密接な介護者による侵害も家庭内暴力行為と見なすこと。
 2.家庭内暴力の予防・関与における障害者連合会の役割と責任を明確にすること。
 3.家庭内暴力の予防と処罰、被害者の人権保障など面で、障害者に対して合理的で便利な特別措置をとること。具体的には、「委託代理人」による訴えなどの手続きの主体を増やすことや、障害者に質問するときはソーシャルワークなどの専門の人々のサポートを提供するなど。
 4.人身安全保護裁定の申請は、訴訟手続きに付属したものでなくすこと。公安機関がその執行機構になるべきこと(6)

また、12月10日、深圳の東門歩行街で、1人のソーシャルワーカーが「傷ついた新婦」の扮装をして、DV防止立法への関心を持つよう訴えた。このパフォーマンスアートを呼びかけたのは深圳安瀾ソーシャルワークサービス社の黄さんだが、傍らで宣伝物を撒いたのは、障害者で、長年夫に暴力をふるわれてきた朱さんだった(7)。このように、障害者の被害者がこの問題についての活動において登場したことも特徴だろう。

5.家庭内の性暴力が隠蔽されていることを訴えるパフォーマンスアート

12月15日には、「赤ずきん」の扮装をした2人の若い女性(小猫さんと児玉さん[いずれも仮名])が、北京の後海の銀錠橋のそばで、「家族が円満ならば、何事もうまくいく(家和万事興)」と書かれた大きな扁額を背中に背負って、石畳に水で字を書くパフォーマンスアートをおこなった。水で字を書いても、時間が経つにつれて消えていく。そのことによって、彼女たちは、子どもが家庭内で性暴力に遭っても隠蔽される現状を示したのである。

中国でも、未成年者の性暴力被害の多くが家族によるものであることが明らかになっている。たとえば、北京青少年法律援助・研究センターの報告では、2006年~2008年にメディアで報道された未成年の性暴力被害は、知っている人によるものが68%であり、父親(実の父親だけではないが)によるものが61パーセントだった(この点については(8))。

小猫さんと児玉さんは、ネット上で知り合った人と議論していたとき、多くの人が未成年のときに親族による性暴力被害に遭った話をした。その中の多くは、家族や隣人に助けを求めても、拒否されたり、信じてもらえなかったりしたという(9)

2人のパフォーマンスアートは、とくに反DV法に向けてのものではないようだが、このアクションを報じた女声網の記事では、医者や教師など、未成年者と日常的に接触している人間の通報義務などにも触れており、反DV法とも関係するものだった。

二 2015年7月の草案をめぐる議論と運動

2015年7月28日、国務院常務会議が反DV法の草案を採択した。

8月24日には、この草案は全国人民代表大会常務委員会に提出され、同月27日におこなわれた全人代常務委員会での初の審議では、さまざまな委員から、精神的暴力や性暴力、同居の関係についても反DV法に入れるべきだという意見が出た(10)

9月8日には、中国人民代表大会ネットが、この草案を広く公表し、再び広く社会から意見(パブリックコメント)を求めた(反家庭暴力法(草案)全文中国人大网)。

A 「反DV民間唱導グループ」による検討と建議など

9月20日、「反家庭内暴力民間唱導グループ(反家暴立法民间倡导小组)」(広州ニューメディア女性ネットワーク、北京源衆ジェンダー発展センター[北京源众性别发展中心]、同語、北京為平、雲南明心ソーシャルワークサービスセンターなど)は中国社会科学院法学研究所公益研究センターと共同でこの草案についての研究討論会を開催した。

北京源衆ジェンダー発展センター主任の李瑩弁護士は、今回の草案が前年の草案と比べて進歩した点として、以下の3点を挙げた。

(1)最大の進歩は、人身安全保護命令が、独立した保護手続きとして出現し、他の何の訴訟の手続きに付属したものでなくなったことである。

2014年11月草案:
 第27条「人民法院が離婚・扶養・養育・他人の子の養育・相続などの民事事件を審理する過程において、家庭内暴力の被害者は人民法院に人身保護裁定を申請することができる。家庭内暴力の被害者は、訴訟を起こす前でも、人民法院に人身保護裁定を申請することができる。」
 ↓
2015年7月草案:
 第27条「当事者が家庭内暴力に遭う、または家庭内暴力に遭う現実の危険に直面したために、人民法院に人身安全保護命令を申請した場合は、人民法院は受理しなければならない。」

(2)「社会組織」を規定に入れたこと。

2015年7月草案:
 第3条「政府の関係部門、司法機関、人民団体、社会組織、都市・農村の基層の大衆的自治組織、企業・事業単位は、本法と関係する法律の規定にもとづいて、反家庭内暴力の活動をしなければならない」
 第9条「各レベルの人民政府は、社会組織が心理健康相談、家族関係の指導、家庭内暴力防護知識教育などのサービスをするのを支持しなければならない」
 なお、第6条にも「国家は社会の力が反家庭暴力の宣伝活動をするのを奨励しなければならない」とある。)

(3)告誡制度がきちんとした詳細なものになったこと。

2014年11月草案:
 第19条「家庭内暴力が治安管理行為違反や犯罪にまではならないとき、公安機関は加害者に二度と暴力をふるわないよう書面で告誡し、告誡書の副本を被害者の住所あるいはふだんの居住地の基層の大衆的自治組織・婦女連合会に送ることができる。」
 ↓
2015年7月草案:
 第16条「家庭内暴力の情状が比較的軽く、法によって治安管理処罰をしないときは、公安機関は加害者に対して批判教育、あるいは告誡書を出す。
 告誡書は、加害者の身分情報、家庭内暴力の事実の陳述、加害者が家庭内暴力をすることを禁止するなどの内容を含めなければならない。」、
 第17条「公安機関は告誡書を加害者、被害者、現地の都市・農村の基層の大衆的自治組織に渡さなければならない。
 都市・農村の基層の大衆的自治組織の工作人員あるいは社区(地域コミュニティ組織)の警官は、告誡書を受け取った加害者・被害者のところに行って調べ、加害者にもう暴力をふるわないよう促さなければならない。」

ただし、中華女子学院副教授の張栄麗さんは、告誡書の詳細な規定がなされたことは非常に良いと述べつつも、草案には告誡書に違反した場合の規定がないことを批判した。

その他にも、以下の点で進歩があったことが指摘されている。

(4)人身安全保護裁定違反に対する罰則が明確に記された。

2014年11月草案:
 第39条「加害者が人身安全保護裁定に違反した場合は、人民法院は民事訴訟法111条、115条、116条の規定によって処罰する。犯罪を構成する場合は、法によって刑事責任を追究する」
 ↓
2015年7月草案:
 第32条「被申請人が人身安全保護命令に違反した場合は、人民法院は訓戒をしなければならず、情状の軽重にもとづいて、1000元以下の罰金、15日以下の拘留に処す」

しかし、その一方で、この草案は、意見募集稿と比べてかえって退歩した点もあることも指摘されている。

(1)この草案は、DVの定義が身体的暴力だけで、精神的暴力・性暴力が含まれていない。2014年11月草案には精神的暴力は含まれていた。また、対象が「家庭構成員の間」に限られており。恋愛・同棲・元配偶者の間の暴力行為は対象にしていないが、2015年7月草案には里子の関係は含まれていた(李瑩弁護士の指摘)。

2014年11月草案:
 第2条「家庭内暴力とは、家族の成員の間で身体・精神などの面の侵害をすることを指す。
 本法で言う家族の構成員とは、配偶者・父母・子どもおよびその他の生活を共にしている近親族である。
 家族の里子の関係の人の間の暴力行為は、家庭内暴力と見なす。」
 ↓
2015年7月草案:
 第2条「本法で言う家庭内暴力とは、殴る、縄で縛る、傷つける、強制的に人身の自由を制限する、家庭の構成員に対しておこなう侵害行為である。」

(2)意見募集稿では、警察が通報を受けた後、どのように家庭内暴力を処置するかについての詳細な規定があったが、この草案では削除されている(ある基層の裁判所の院長の指摘) (11)

2014年11月草案:
 第15条「公安機関は家庭内暴力の通報を受けた後は、ただちに現場に出動し、状況にもとづいて、以下の相応の措置をとらなければならない
 (一)いま現在発生している家庭内暴力を制止する。
 (二)ただちに被害者・加害者・証人に質問して、録音・録画・撮影などの方法で関連する証拠を固めるとともに、書面の記録を作成する。
 (三)被害者がただちに医者にかかる必要がある場合は、医療機関と連絡をして処置や治療に協力し、必要に応じて傷の程度の鑑定をしなければならない。被害者が未成年の場合は、ただちに傷の程度の鑑定をし、きちんと処置をしなければならない。」
 ↓
2015年7月草案:
 第15条「公安機関は家庭内暴力の通報を受けた後は、ただちに現場に出動し、家庭内暴力を制止し、関係規定にもとづいて調査して証拠を集め、医者にかかるのを助け、傷の程度の鑑定しなければならない」

(3) 2014年11月草案稿にはあった、未成年者に対してどのように質問するかについて詳細な規定や、業務研修や統計を義務づける規定、監獄・留置所・拘置所などでの加害者に対する教育の規定が削除されている(馮媛さんによる指摘(12))。

すなわち、2014年11月草案にあった以下の規定が削除されている。
 第16条「公安機関は質問をするとき、被害者と加害者を別々にして質問しなければならない。 
 公安機関は未成年者に質問するときは、未成年者の心身の特徴を考慮し、さらなる傷害を与えることを防がなければならない。
 未成年の被害者を公安機関に連れて行って質問するときは、法的代理人に通知して現場に来させなければならない。通知できず、法的代理人が来られない、来ることを拒絶する、あるいは法定代理人が加害者である場合は、未成年の被害者の成人の近い親族に通知してもよく、学校あるいは基層の大衆的自治組織の代表に通知してもよく、その状況の記録を残さなければならない。」
 第9条「人民法院・人民検察院・公安機関・民政部門・婦女連合会は反家庭内暴力活動をその系統の業務研修と統計の中に入れなければならない。」
 第12条「監獄・留置所・拘置所などの場所は、刑罰を科せられている、あるいは法によって拘留・逮捕されている加害者に対して法にもとづいて法制教育・心理カウンセリング・行為矯正をおこなわなければならない」

このように、以前の草案に比べても大幅な削除がおこなわれたため、王曦影さん(北京師範大学社会発展と公共政策学院副教授)は、次のように言っている。
 「[2014年11月の草案は]あるネット上の友人の論評によると、『非常に粗末な草案』だった。けれども、全国のフェミニズムの研究者と活動家たちは気落ちせずに、いっそう頑張って立法部門に対して大量の意見を出した。(……)しかし、今年8月に出た反家庭内暴力法の新しい草案には驚くべきものだった。民間の大量の意見と建議を取り入れてないだけでなく、さらに粗末で、1/3を縮めた内容だったからである。その修正の方法は、削れるところは削り、簡単にできるところは簡単にするという、『立法は大雑把なのがよく、細かいのはよくない』という原則に従ったかのようだった。」

王曦影さんは、とくに「加害者の男性に対する強制的矯正に口をつぐんでいる」ことを問題視した(13)

さらに、さまざまな不十分点も指摘された。

たとえば、馮媛さん(女性の権益とジェンダー平等のための民間組織「北京為平」の共同発起人で、元DV反対ネットワーク/北京帆葆理事会主席)は、上で述べたような問題を指摘するとともに、以下の(1)(2)の点で、草案の規定を原則的なものにとどめず、もっと具体的で、実効性があるものにすべきであることを指摘した。

(1)第7条に「医療機構は家庭内暴力の被害者の診療記録をきちんとつけ、反家庭内暴力を業務研修に入れなければならない」とあるが、日本の「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」は、「医師その他の医療関係者は、その業務を行うに当たり、配偶者からの暴力によって負傷し又は疾病にかかったと認められる者を発見したときは、その者に対し、配偶者暴力相談支援センター等の利用について、その有する情報を提供するよう努めなければならない」(第6条2)としており、このようにすれば、もっと予防のために役に立つ。

(2)第6条に「小中学校は、反家庭内暴力教育をしなければならない」とあるが、ベトナムの「家庭内暴力予防・制圧法」は、「教育・訓練省は、家庭内暴力の予防・制圧について、レベル別の教育機構の課程の要求、課程の設置に合わせて、指導する措置を提示しなければならない。国家教育システムの中の学校とその他の教育機構は、家庭内暴力防止・制圧の知識をその課程の中に取り入れる義務を負う」と規定していることが参考にできる。

また、馮媛さんは、以下の点において、社会をエンパワメントし、女性をエンパワメントする規定にすべきことを指摘している。

(3)第22条に「都市の農村の基層の大衆的自治組織、労働組合、共産主義青年団、婦女連合会などの単位は、家庭内暴力の加害者に対して法制教育と心理補導をおこなわなければならない」とあるが、法律執行機関と司法機関だけが、加害者に関連する措置を受けさせる権力がある。(14)

「反家庭内暴力民間唱導グループ」は、以上の議論を踏まえて、以下のような内容の全国人民代表大会に建議を提出した。そのポイントは、以下のようにまとめられる。

1.家庭内暴力の定義を完全にものにせよ
 精神的暴力と性暴力、恋愛・同居・元の配偶関係、養子関係の人の間の暴力も入れよ。

2.多くの機構が協力して家庭内暴力に関与せよ
 国家機関・司法部門・社会団体・企事業単位・基層の大衆的自治組織、婦女連合会・労働組合・共産主義青年団・障害者連合会・社会組織の役割と責任を明確にするとともに、力を持った反家庭内暴力の牽引機構を設立せよ。反家庭内暴力は、一つの系統・一つの部門だけでできるものではなく、警察への通報、助けを求める、医者にかかる、傷の程度の鑑定、庇護(シェルターなど)、人身安全保護、法律援助などの面で、多くの部門の統一的案配・調整・協力が必要である。

10月5日までの期間、同意する人々の署名もネットで集めたうえで、上の建議は提出された(15)

B さまざまなアクション

学者・専門家以外の人々も、さまざまな行動をした。

1.ネット上のアンケート調査

たとえば、草案では家庭内暴力の定義が法定の家族成員間の暴力だけに限定されているので、レズビアン団体「同語」は、9月11日から、「親密な関係に関する調査」を開始し、性的指向、親密な関係の状況、パートナーに対する暴力などについて尋ねるアンケートをおこなった(16)

とくに女性に対する暴力をなくす国際デーである11月25日前後には、以下の2~5のようなアクションがおこなわれた。

2. BCome小組、2015年も北京の地下鉄の車内で《女の歌》を歌い、チラシをまいて、女性に対する暴力反対を訴える

BCome小組(《ヴァギナ・モノローグス》の中国語版を上演しているフェミニストの劇団)は、2012年から毎年、11月24日か25日に、北京の地下鉄内で女性に対する暴力反対を訴える活動をおこなってきた。2012年は、ヴァギナ・モノローグスの中から「ミニスカートは誘惑じゃない」という一節を演じ、2013年と2014年は、《あなたは女が歌っているのが聞こえるか?(女の歌)》(レ・ミゼラブルの劇中歌《民衆の歌》の替歌)を歌いつつ、チラシをまいて女性に対する暴力反対を訴えてきた。

BCome小組は、2015年も、11月25日に、7人ほどで、北京の地下鉄の車内で《あなたは女が歌っているのが聞こえるか?(女の歌)》を歌いつつ、ピンクのチラシをまいて女性に対する暴力反対を訴える活動をおこなった(17)。2015年は、国際女性デー前日の3月7日にバスの中で痴漢防止措置を訴えるための宣伝活動をする計画をしたことにより、5人のフェミニスト女性が刑事拘留された事件があったので、「今年はやるのは無理ではないか?」と私は思ったのだが、彼女たちは敢行した。ただし、この活動は、BCome小組の微博が掲載しただけで、前年までに比べて、活動の宣伝はずっと少ないようだ。

3.養育権が妻にある子どもを奪った中国中央テレビのキャスターを批判し、精神的暴力や元の配偶者からの暴力、職場の責任を法に入れることを訴えるパフォーマンスアートなど

中国中央テレビの柴華北キャスターは、妻に対して暴力をふるってきた。2012年、それに対して、妻の葉果さん(仮名)が離婚訴訟を起こした。2013年8月、北京市朝陽区人民法院は、柴キャスターのDVを認定し、離婚を認めるとともに、子どもの養育権を葉果さんに与えた。柴キャスターは控訴したが、2013年11月、北京市中級人民法院は、柴キャスターの控訴を棄却した。

けれども、その後19カ月経っても、柴キャスターは子どもを葉果さんに渡さなかった。

(1) 「人を雇う単位の反DVへの参与」シンポジウム

11月23日、「北京為平」などのNGOが、「人を雇う単位の反DVへの参与」というシンポジウムを開催した。このシンポジウムで、葉果さんのケースが討論の焦点になった。

「北京為平」の発起人の馮媛さんは、家庭内暴力の定義に、別れた後の関係や精神的暴力(子どもを利用した相手に対するコントロールやいじめを含む)を入れるべきことを主張した。

また、北京衆沢女性法律相談サービスセンターの林麗華弁護士は、DV事件において、離婚後の養育権について裁判所の判決の執行が困難なことはよくあり、中国では単位を通じて介入することが有効な手段になると述べた。林弁護士だけでなく、多くの女性の権利についての専門家が、人を雇う単位の反DVの責任を法律の条文の中に入れるべきことを主張した(18)

(2)裁判所前での「血染めのウェディングドレス」や署名によるパフォーマンスアート

12月24日は、子どもの養育権の問題について、北京市朝陽区法院が、柴華北キャスターとその前妻との調停を通知した日だった。

当日、裁判所の入り口で、2人の若い女性が、血で染まったかのように見えるウェデングドレスを着て、「婚姻は終わったのに、DVは終わらない 元の配偶者によるDVを速やかに法に入れよ」「子どもを奪うことは法を犯すこと 精神的暴力を法に入れるべき」と書いたプラカードを持って、柴キャスターに抗議した。2人は、百人近い母親の名前を連ねた「柴華北に子どもの養育権を返すように訴える」と書いた大きな紙(布?)も広げた。

活動に参加した2人は、柴華北キャスターのDVや子どもを渡さないことを批判するとともに、精神的暴力や元の配偶者からの暴力の問題の重要さを訴え、反DV法が、それらも対象にするよう主張した(19)

(3)職場である中国中央テレビ(CCTV)の前でのパフォーマンスアート

翌11月25日には、2人の若い女性が、中国中央テレビ(CCTV)の前で、「DVはゼロトレランス、中国中央テレビは手本を示せ」、「中国中央テレビの人気キャスター柴華北よ、あなたの子どもは母親を恋しがっている」というプラカードを掲げ、中国中央テレビが職員である柴華北キャスターに対する管理・監督をおこなうように訴えた。

馮媛さんは、「反DVについての職場の使用者の責任は、国際的にはすでに共通認識になっており、多くの国外の法律では、明確に職場の使用者の責任が規定されている。国内の多くの地方法規でも、職場の使用者の責任は強調されている。『反家庭内暴力法』の草案も、職場の使用者が職員に対して家庭内暴力反対の宣伝教育活動をしなければならないと述べているが、職場の使用者の責任は、明確で具体的なものにはなっていない。従業員のニーズに積極的に応えて援助をするだけでなく、加害者に対して批判・教育し、事情を斟酌しつつ処分をしなければならない」と述べた(20)

(4)馬戸さんら、中国中央テレビに数十名の母親が連署した建議の手紙

12月9日には、馬戸さん(北京郵政に女性であるために宅配便配達員採用を拒否されたことを裁判に訴えている女性)が、中国中央テレビ局の局長と同局の監察室に宛てて、従業員の柴華北さんに子どもの養育権を返させるよう、職場として責任を持って命じることを求める数十名の母親が連署した建議の手紙を送った(21)

4.中華女子学院のWoMen小組、少数民族の衣装や赤ずきんをまとった被害女性の扮装で反DVを宣伝

11月25日には、中華女子学院のWoMen小組の9人(写真に写っている人数)も、少数民族の衣装や赤ずきんをまとった被害女性の扮装でDV反対を宣伝した(22)

これは法律的な要求とは直接関係ないように見えるし、学院やその周辺での活動にとどまっているようだが、2015年5月に微博を開始した新しいグループの活動であり、パフォーマンスアートの新たな広がりを示すものとしてご紹介した。

5.女性に対する暴力反対をテーマにした展覧会、中止させられる

11月25日には、「姦:ジェンダー暴力の傷害の文化的符牒――2015中国当代芸術招待展」も北京の今格芸術クラブで開催される予定だった。この展覧会の趣旨は、「女性を支え、暴力傷害に反対する」というもので、芸術家60人余りが参加することになっていた。

ところが、前日の24日の午後、政府当局側の人間が展覧の段取りをしている現場に現れ、中止を命じた。主催者は、展覧会のテーマと背景はけっして不適切なものはなく、そのことは、さまざまなメディアが報道していることによっても証されていると説明した。しかし、政府当局側の人間の回答は、「参与している人数が多く、手続きを経た許可を得ていないので、展覧会をすることは許可しない」というものだった。

25日の午後、芸術家たちが展覧の段取りをしてようとして今格芸術クラブに現れたときは、クラブの正門にはかたく鍵がかけられていた。

それにもめげず、肖魯、慶慶などの芸術家は、建物の外で自らの作品を使ってアピールをした。

この展覧会に出展する予定だった64人の芸術家の作品は、女性に対するDVをテーマにしたものだった。64人は男女半々だったということだが、これほどの人数が集まって、これほどの規模で行われることは、これまであまりなかった。(23)

実際、従来、女性に対する暴力やDVというテーマの作品展がこれほどの人数と規模でおこなわれたことはなかったように思う。だからこそ、当局は「参与している人数が多い」ことに、体制にとって不穏なものを感じたかもしれない。

C 27人の弁護士の連名の建議の書簡

12月21日、第12期全人代常務委員会第18回会議が開催されて、反DV法草案の二回目の審議がおこなわれたのだが、その前日の20日、全国10余りの都市の27人の弁護士が全人代法制工作委員会に対して連名の建議の書簡を出した(24)

この書簡は、12月16日、女性の権利に関心を持つ弁護士たちに対して連署が呼びかけられたもので、以下の点を要求するものだった(25)

1.立法の目的において、被害者に対する保護をはっきりと浮かび上がらせること。

2.家庭内暴力の定義を完全なものすること:身体的暴力だけでなく、精神的暴力と性暴力を家庭内暴力の類型に入れること。家庭内暴力の行為の説明は例示式のものと概括式のものを結びつけて、法律をより活用しやすくすること。恋愛、同居、里子の関係の人々の間の暴力も家庭内暴力と見なすこと。

3.総則の中で、「多くの機構が協力して家庭内暴力に関与する」原則と具体的な規定を明確にし、もっと有力な反家庭内暴力を牽引する機構を設立するべきである。

4.国務院法制事務局の「反家庭暴力法(意見募集稿)」[=2014年11月の草案]の関連原則を復活させること。すなわち、家庭内暴力事件を処理する際には、被害者の安全とプライバシーを保護し、被害者の意思を尊重しなければならないという原則や、家庭内暴力にあった未成年・高齢者・障害者・重病患者に対しては特別な保護をしなければならないという原則を復活させる。

5.未成年者・高齢者などの弱者の人々の特別な保護については、詳細で完全な規定をしなければならない。すなわち、総則でそうした弱者に対する保護を明確にする、家庭内暴力の定義の中に、「幼い、老いた、知的障害の、病気にかかっているなど、独立して生活する能力がない家族の構成員を遺棄またはネグレクトする」、「未成年者を十分世話していない、後見をきちんとしていない、暴力的なしつけをしている」などを具体的行為として列記する、被害に遭った児童に対して国家の後見制度を増やす、強制的通報の属地管理を増やす、貧しくて弱い被害者、たとえば高齢者・障害者・未成年者の緊急の生活と医療救助制度を増やす、家庭内暴力を目の当たりにした児童に対する保護を増やすなど。

6.小中学校だけでなく、大学でも反家庭内暴力の教育をし、政治・法律の学院・大学やソーシャルワーク専攻の正式なカリキュラムの中にも入れなければならない。

7.家庭内暴力の処置の体制を完全なものにすること、具体的に言えば、家庭内暴力の処置として、首問負責制(最初の担当者が最後まで責任を持って対応する)を増やし、家庭内暴力についての危険性評価、加害者に対する心理的関与、地域コミュニティ矯正などの内容を増やすこと、強制通報制度と庇護措置を結び付けること、国務院法制事務局の「反家庭内暴力法(意見募集稿)」の強制通報の責任者についての関連規定を復活させ、救助管理機構、社会福利機構、大衆的自治組織、小中学教育の研修機構を強制通報の責任者として加えること、国務院法制事務局の「反家庭内暴力法(意見募集稿)」第15条の公安機関が通報を受けた後に現場へ出動した際の措置を復活させること、国務院法制事務局の「反家庭内暴力法(意見募集稿)」第16条の未成年の被害者の具体的質問についての措置を復活させること。

8.家庭内暴力の被害者に対する庇護制度を明確に打ち立てること。すなわち、庇護をする義務を持つ人を明確にし、関連原則などについて詳細に規定すること、社会組織・単位・企業などがシェルターを設立することを奨励することを明確にすること。

9.家庭内暴力の特色に配慮して、証明責任や証拠の基準について詳細な規定をする。その中には、一定の条件の下では挙証責任の転換をおこなうことや未成年者の証言の効力を明確にすることなどを含む。

10.人身安全保護命令の制度について、もっと詳細で完全な規定をする:緊急保護命令と通常保護命令など、人身安全保護命令の類型を増やす。申請人の範囲を拡大して、基層の大衆自治組織、婦連、救助管理機構、人を雇う単位も申請人になれるようにする。裁定の内容をもっと詳細で完全なものにし、共有財産の処理の制限、被害者に対する経済的補償・救助などの内容を含めなければならない。保護命令の期限を1年に延長し、また、延期を申請できることを明確にする。また、保護命令の執行機関を明確にする。たとえば公安機関にする。

11.法律上の責任をもっと詳細にする:各機構・各部門の責任と義務は、一つ一つ対応していなければならない(?)。告誡令違反の法律的責任を増やす。保護命令違反の懲戒を強化する。暴力によって暴力を制した被告の罪の決定と量刑の原則を増やす。具体的には、長期にわたって家庭内暴力に遭ってきた被害者が加害者に対して損害を与えて、犯罪になった場合は、処罰を免除、軽減、あるいは処罰を軽くする(25)

以上の1~11は、草案に対するそれまでの様々な要求を包括していると言えるだろう。

署名した弁護士は、梁晨、林麗霞、陳静、苟占芳、呂孝権、李桂梅、単薇、楊彦萍、秦懋雲、金剣南、趙麗娜、潘海帆、蒙瑞蓉、陳素芳、李小非、余華坤、余華押、唐為、黄溢智、辛鈞輝、彭勃、田咚、王慧、周清和、方鵬飛、塔拉、宋琳の各氏だった(26)


三 2015年12月の第2回審議稿と成立した法律をめぐって

12月21日の全人代常務委員会の第2回目の審議に際に、新たな草案が提出された。この第2審議稿は同月27日に採択され、成立した(「中华人民共和国反家庭暴力法」新华社2015年12月27日)。ほぼ原案のまま可決されたようだ。

A 前進面の指摘

成立した法律には、以下の点で前進があったことが指摘されている。

(1)家庭内暴力の定義に精神的暴力が入った。

2015年7月草案:
第2条「本法で言う家庭内暴力とは、殴る、縄で縛る、傷つける、強制的に人身の自由を制限する、家庭の構成員に対しておこなう侵害行為である」
 ↓
成立した法律:
 第2条「家庭内暴力とは、家庭の構成員間で、殴る、縄で縛る、傷つける、強制的に人身の自由を制限する、日常的に侮り罵る、脅迫するなどの方法で身体や精神などに対する侵害行為をおこなうことを指す」

(2)同居している人の間の暴力も入った。

具体的に言えば、成立した法律では、「附則」の第37条に「家庭の構成員以外に、生活を共にする人の間の暴力行為も、本法を参照して執行する」という規定が入った。

(3)人身安全保護命令を代わって申請する人を、親族から、公安機関、婦連、救助管理機構などに広げた。

2015年7月草案:
 第23条「当事者が強制・威嚇を受けているなどの原因で人身安全保護命令を申請できないときは、その近い親族が代わって申請することができる」
 ↓
成立した法律:
 第23条「当事者が民事行為能力のない人や民事行為能力が制限されている人、あるいは強制・威嚇を受けているなどの原因で人身安全保護命令を申請できないときは、その近い親族、公安機関、婦女連合会、居民委員会、村民委員会、救助管理機構が代わって申請することができる」

(4)強制報告義務が拡大した。

2015年7月草案:
第14条「小中学校、幼稚園、医療機構とその職員は、仕事中に、民事行為能力がない人、民事行為能力を制限されている人で、家庭内暴力に遭っているか、遭っている疑いがある人を見つけたら、直ちに公安機関に通報しなければならない」
 ↓
成立した法律:
 第14条「学校、幼稚園、医療機構、居民委員会、村民委員会、ソーシャルワークサービス機構、救助管理機構、福利機構とその職員は、仕事中に、民事行為能力がない人、民事行為能力を制限されている人で、家庭内暴力に遭っているか、遭っている疑いがある人を見つけたら、直ちに公安機関に通報しなければならない」

(5)小中学校という限定が外れた。

2015年7月草案:
 第7条「小中学校の反家庭内暴力教育をおこなわなければならない。」
 ↓
成立した法律:
 第6条「学校・幼稚園は、家庭の美徳と反家庭内暴力の教育をしなければならない」

(7)総則に国家の責任が明記された。

2015年7月草案:
 第3条「反家庭内暴力は全社会と一つ一つの家庭の共同責任である」
 ↓
成立した法律:
 第3条「反家庭内暴力は国家・社会・一つ一つの家庭の共同責任である」

(8)緊急時の公安機関の役割が拡大した。

2015年7月草案:
 第15条「公安機関は家庭内暴力の通報を受けた後は、ただちに現場に出動し、家庭内暴力を制止し、関係規定にもとづいて調査して証拠を集め、医者にかかるのを助け、傷の程度の鑑定をしなければならない。
 民事行為能力のない人、民事行為能力が制限されている人が家庭内暴力によって身体に重大な傷害を受ける、人身の安全が脅かされている、あるいは誰も世話をしないために危険な状態になっているときは、公安機関は臨時の庇護場所か救助管理機構、福利機構に落ち着かせるよう民政部門に通知・協力しなければならない」
 ↓
成立した法律:
 第15条「民事行為能力のない人、民事行為能力が制限されている人が家庭内暴力によって身体に重大な傷害を受ける、人身の安全が脅かされている、あるいは誰も世話をしないために危険な状態になっているときは、公安機関は臨時の庇護場所か救助管理機構、福利機構に落ち着かせるよう民政部門に通知・協力しなければならない」

(9)草案でいったん削除されていた箇所の一部が復活した。

2014年11月草案:
 第6条「家庭内暴力事件の処理は、当事者の安全とプライバシーを保護し、被害者の意思を尊重しなければならない。
 家庭内暴力に遭った未成年者・高齢者・障害者、重病患者には、特別な保護をしなければならない。」
 ↓
2015年7月草案:
 (なし)
 ↓
成立した法律:
 第5条「家庭内暴力工作は被害者の本当の意思を尊重し、当事者のプライバシーを保護しなければならない。
 未成年者・高齢者・障害者・妊娠期・哺乳期の女性、重病患者が家庭内暴力に遭った場合は、特別な保護をしなければならない。」(27)


全人代常務委員会の刊行物『全国人大』の公式微信によると、意見募集の期間に8792人が4万通あまり意見を出した。この数字は、食品安全法や環境保護法より多く、そのうち多くの意見が反家庭内暴力法の細部を完全にするよう求めるもので、家庭内暴力の定義に精神的暴力が入っていないこと、恋愛や同居、元の配偶者など家族の構成員でない者の間の暴力行為の発生率の高さを無視していること、通報制度の責任の区分がはっきりしないこと、人身安全保護命令の執行主体の規定が不明であることなどだった。そのため第二審議稿は、修正をおこなったという(28)

B 問題点の指摘

その一方、以下のような問題点があることが多くの人に指摘された。

(1)家庭内暴力の定義に性暴力(婚姻内強姦を含め)と経済的支配は入らなかった。

この点については、陳敏さん(中国応用法学研究所研究員)が、「性暴力は身体的暴力と精神的暴力に簡単に分けられない。精神的暴力はいかなる形態の暴力にも付随する結果であり、性暴力はまして身体的暴力と同一視はできない」と批判している(29)

(2)恋愛中、別れた後、離婚後などの暴力は入らなかった。

(3)第37条の「家族成員以外の生活を共にする人がおこなった暴力」という条文についても、不十分さが指摘されている。

この規定についても、夏吟蘭さん(中国政法大学教授)は、「元の配偶者が含まれない点が不十分である。元の配偶者との間に起きる家庭内暴力と同居している関係の間の暴力は性質的に同じであり、家庭内暴力特有の隠蔽性・頻発性・周期性という特徴を持っている」と批判した。また、「生活を共にしている」という限定があるために、「直系の姻戚関係の間の暴力行為も家庭内暴力に含まれなくなる」ことも批判した(30)

(4)「生活を共にする人」には、同性愛者どうしには適用されないという解釈が、法案成立当日、全人代常務委員会法制工作委員会社会法室主任によってなされた。

すなわち、AP通信の記者が、第37条に関して、「この定義には、同性愛の居住者が含まれるのかどうか?」と質問したところ、全人代常務委員会法制工作委員会社会法室主任の郭林茂氏は、「37条の意味は、第一に、家族の構成員以外、第二に、共同生活、第三に、本法を参照して執行するであり、本法を適用する、ではない。先ほど述べたように、家族の構成員以外の生活を共にする人には、後見、養子、同居生活が含まれるけれども、同性愛については現在のわれわれの法律には規定がなく、そういうこともない」と答えた(31)

ペンネーム「性愛大権」さんは、この回答について、「彼の『そういうこともない』という言葉には、とても驚いた。中国で同性愛・バイセクシュアル・トランスジェンダーなどの人々が広範に存在していることをまったく無視している」、「『反家庭内暴力法』はまだ異性愛覇権法だ」と述べた(32)

「北京為平」の共同発起人で、元DV反対ネットワーク/北京帆葆理事会主席の馮媛さんのこの法律に対する評価も見てみよう。

馮媛さんは、「反家庭内暴力法は、中国の歴史上初めて女性が提出し、女性NGOが初めて唱え、女性たちが協力して促進した法律である」とその意義を述べつつも、「しかし、この法律は強さが足りず、周到さが足りず、いささかの保護すべき人を排除している」として、中国中央テレビの柴華北キャスターのような、離婚後の子どもを不当に渡さないケースが、精神的暴力に当たるかどうかはっきりしないことや、生活を共にしておらず、家族の構成員でもない人からのストーカー的行為を挙げている。

馮媛さんは、さらに以下のような問題点を列挙している(33)。上で挙げた4点に続けて列挙しておこう。

(5)多くの機構の協力の規定が欠けている。「関係部門を組織・調整・指導・督促して反家庭暴力工作」をするのは、事務局が婦連に置かれた政府の女性児童工作委員会であるが、この機構には、この重い任務を担うために必要な権威・メカニズム・人力が欠けている。多くの機構の協力の枠組みがなければ、各自がそれぞれやるだけであり、多くの部門や側面と関係する家庭内暴力問題に統一的に取り組むことができない。

(6)家庭内暴力の被害者に必要な、いささかのカギになるサポートとサービスが欠けている。たとえば臨時の生活援助以外の、被害者の住宅・就業・子どもの就学などの面の差し迫ったニーズは、この法律の中には書かれていない。証拠の面では、採択された文面は、その前の国務院法制事務局の意見募集稿[=2004年11月の草案]の中の挙証責任の合理的分配という内容と、法廷が代わりに調べて明らかにする職責とを削除した。被害者が多くの面で弱い立場であるために証拠を提供できないとき、協力や援助が得られるか否か問題である。

挙証責任の点ついては、夏吟蘭さんも、家庭内暴力は隠蔽性が強いので、一般の民事事件のように「主張するものが立証する」という原則では、被害者の主張はとおりにくいから、「人民法院は、家庭内暴力に関わる民事事件を審理する際は、挙証責任を合理的に分配しなければならない。被害者が客観的原因により自ら証拠の収集をおこなえないときは、人民法院が調査・収集しなければならない」という規定を加えるべきだと述べている(34)。この点は、すでに20日に27人の弁護士が主張していた、「一定の条件の下では挙証責任の転換をおこなう」ということである。

(7)カギになる機構であるのに、反家庭内暴力のための役割が与えられていないものがある。たとえば、検察機関・司法行政部門の職責が抜けており、郷・鎮政府は明文では予防の任務しか規定されていない。人を雇う単位(企業・事業単位)の役割は、批判と教育だけであり、明らかに不十分である。ほんとうは、人を雇う単位には、単位内の家庭内暴力の被害者に対して必要な便宜と援助を提供し、加害者に対しては処罰・処分をする義務と必要がある。

(8)草案の中の医療機構の業務研修の内容を落としている。多くの場合、医療業務従事者が家庭内暴力の被害者の最初の、悪い場合は接触する唯一の第三者なのでで、医療機構は必ず報告をしなければならない法律的責任がある。しかし、もし業務研修がなければ、多くの医療業務従事者には、家庭内暴力の被害者や被害者である疑いがある人を識別できない。研修をしていなければ、たとえば、頻繁に妊娠中絶をする女性に対して、それが家庭内暴力の結果であり、女性の性・身体・精神の各面の自主権が脅かされ、コントロールされ、侵害されている可能性があることに気づく医療関係者は少ないだろう。

(9)比較的曖昧な個所がある。たとえば、公安機関は保護命令の「執行に協力する」とある。公安機関が登場した点は、この条文はその前の草案よりも進歩している。しかし、執行に協力するという言い方は、不作為や責任逃れの理由になるかもしれず、裁判所が出した保護命令の影響力を損ない、保護命令制度の家庭内暴力を予防・抑制する実際の効力を損なって、被害者の権利の保障を難しくするかもしれない。

その他、以下のような箇所にも不十分さが指摘されている。

(10)第35条「学校、幼稚園、医療機構、都市・農村の基層の大衆的自治組織[成立した法律では、「居民委員会・村民委員会」となっている]、ソーシャルワークサービス機構、救助管理機構、福利機構とその職員は、本法第14条の規定にもとづいて公安機関に通報せず、重大な結果を引き起こした場合は、上級主管部門あるいはその単位によって、直接責任を負う主管人と他の直接責任を持つ人を法によって処分する」というのは、「明確さが欠けているので、明確にし、法律的責任を細分化すべきだ」と張雪梅さん(北京青少年法律援助・研究センター執行主任)は指摘する。なぜなら「反家庭暴力法草案は、強制的報告義務を規定した最初の法律であり、他の法律には規定がないので、『法によって処分する』という規定は、実践では使えない。だから、批判、教育、警告、過失として記録、除名、一定期間の職業活動停止、関連の職業資格剥奪などの処分をするべきだ。そうしないと報告義務が強制的なものにならない」からである(35)

他にも、27人の弁護士が主張していた点で、成立した法律には取り入れられていない事項は多い。

C 当初から基本的に変わらなかった根本的問題点

1.各部門のDV防止の責任についての規定の不備

呂頻さんは、すでに2014年12月、その前月に出た草案(意見募集稿)に対して、「責任がDV法の最大の問題である」を発表している。

呂頻さんは、「反DV法が解答すべき問題は、第一が、何がDVであるかで、第二が、各部門のDV防止の責任であるが、第一の意義は、第二によって決まる」という。「なぜなら、もし強力な防止規範がなければ、性暴力やパートナー間の暴力がDVの範囲に入るかどうかは、どうでもいいことになる」からだ。呂頻さんは、「第二の問題は、さらに3つの問題に分けられる」とし、「第一に、ある問題にはどの部門が責任を持つべきか、第二に、その部門がどのように責任を持つか、第三に、どのようにしてその部門が本当に責任を持つことを保証するか」ということだと述べた。

呂頻さんは、第一の「ある問題にはどの部門が責任を持つべきか」という点から見て、第4条の「県レベル以上の人民政府は、女性・児童工作の機構に責任を持ち、関係部門がきちんと反家庭内暴力活動をするよう組織し、協調させ、指導し、督促しなければならない」という規定について、こう述べる。

「女性・児童工作の機構」とは女性児童工作委員会を指しているが、同委員会は「議事を調整する機構」にすぎず、人力・財力も乏しい。女性児童工作委員会に対しては、国連の女性差別撤廃委員会も「政策を遂行するための権限または財源がない単なる調整機関であり、法律や政策のジェンダー評価をする権限を持っていない」と批判している(この点については、本ブログの記事「国連女性差別撤廃委員会の中国政府第7次、第8次合併レポート審議・総括所見とNGO」の「三、女性差別撤廃委員会の総括所見」の「女性の地位向上のための機構とデータ収集」参照。厳密には、「持っていないというレポートがあることに懸念を有する」という言い方であるが)。

また、呂頻さんは、第二の「その部門がどのように責任を持つか」という観点からシェルターについての規定を問題した。呂頻さんは、現在の中国のシェルターは「救助ステーション」にもう一つの看板を付けただけにすぎない場合が少なくないが、「救助ステーション」は流浪して住まいがない人のために短期的な生活救助をする施設であり、DVシェルターの機能やニーズとはほど遠いものであることを指摘している。被害者とその子どもは、緊急の避難所だけでなく、リハビリやサポートが必要なのだが、看板だけのシェルターは、婦連の紹介状が必要だったり、その土地に新関がいない場合でないと受け入れなかったり、長くて7日しか居られなかったりするので、シェルターの利用者は少ないという。だから、救助ステーションをシェルターに指定すれば、量的指標は容易に達成できるが、質的指標こそがボトルネックなのであり、そうでなければ、紙の上に書いたことは絵に描いた餅になるが、遺憾なことに、意見募集稿には質的指標についての規定が全くないと指摘している。

呂頻さんは、実際は、民政部門が直接シェルターを設置・運営する必要はなく、政府が政策とリソースを出して、民間団体にシェルターを運営させて、政府が評価・監督すればよいと述べている。実際、中国のシェルターは、初期には民間によって設立されたが、サポートや政策がなかったために夭折したので、政府が政策を出し、リソースを供給すれば、きちんとした評価と監督があれば、シェルターのボトルネックは突破できると呂頻さんは言う。

さらに、呂頻さんは、第三に「どのようにしてその部門が本当に責任を持つことを保証するか」という観点から、第33条の「人民法院は(……)被害者と加害者の住所あるいは通常の居住地の公安機関・基層の大衆的自治組織・婦女連合会に人身安全保護裁定の副本を送らなければならない」という規定を取り上げた。

呂頻さんは、「『副本を送る』という言葉は、気がかりだ。なぜなら、『副本を送った』後の話がないからである。すなわち、副本を送った後、もし加害者が人身安全保護裁定に違反したら、誰が最初の肝心のときに現場に行って制止するのか? 裁判官・地域コミュニティ組織・婦連は24時間当番をしているわけではなく、強制力もなく、それが可能なのは警察だけである。しかし、意見募集稿は公安機関が人身保護裁定の執行に責任を持つとは明記していない」と述べた。

呂頻さんは「権力部門には、責任の受け持ちを減らそうとする傾向がどうしてもある。家庭内暴力防止に対する大きな抵抗力の一つは、権力部門がそれを自分の職責だと見なさず、受け持とうとしないことである。『公正な裁判官でも、家庭内部のもめごとは裁きにくい』という類の言い方は、実際は関わりたくない口実である。」と指摘している(36)

呂頻さんが上の3つの点から問題にした各条文は、成立した法律でもほとんど変化しなかった。むしろ第二の点、つまりシェルターに関しては、「設置または指定(……)しなければならない」が、成立した法律では、「できる」となっており、後退している。第三の人身安全保護裁定(人身安全保護命令)の点に関しては、成立した法律では、公安機関は保護命令の「執行に協力する」と記され、若干の進歩があったが、「協力する」という言い方では「不作為や責任逃れの理由になる」ことは、馮媛さんが指摘しているとおりである。

呂頻さんが指摘した、それぞれの点に関する条文の変遷は、以下のとおりである。

<第一の点>
2014年11月草案:
 第4条「県レベル以上の人民政府は、女性児童工作の機構に責任を負い、関係部門を組織・調整・指導・督促して反家庭暴力工作をおこなわせる責任を負う。」
 ↓
2015年7月草案:
 第4条「県レベル以上の人民政府は、女性児童工作の機構に責任を負い、関係部門を組織・調整・指導・督促して反家庭暴力工作をおこなわせる責任を負う。」
 ↓
成立した法律:
 第4条「県レベル以上の人民政府は、女性児童工作の機構に責任を負い、関係部門を組織・調整・指導・督促して反家庭暴力工作をおこなわせる責任を負う。」

<第二の点>
2014年11月草案:
 第18条「県レベルあるいは区を設けている市レベルの人民政府は、シェルターを設立あるいは指定して、家庭内暴力のためにしばらく家に帰れない被害者に緊急の庇護と短期の生活救助をしなければならない。」
 ↓
2015年7月草案:
 第18条「県レベルあるいは区を設けている市レベルの人民政府は、単独あるいは救助管理機構に委託して臨時の住まいを設立して、家庭内暴力の被害者のために援助をすることができる。」
 ↓
成立した法律:
 第18条「県レベルあるいは区を設けている市レベルの人民政府は、単独あるいは救助管理機構に委託して臨時のシェルターを設立して、家庭内暴力の被害者のために臨時の生活の援助を提供することができる。」

<第三の点>
2014年11月草案:
 第33条「人民法院は人身安全保護裁定を出した24時間以内に、申請人、被害者、加害者に送達し、あわせて人身安全保護裁定の副本を被害者と加害者の住所あるいは平常の居住地の公安機関と基層の大衆的自治組織と婦女連合会に送らなればならない。」
 ↓
2015年7月草案:
 (規定なし)
 ↓
成立した法律:
 第32条「人民法院は人身安全保護命令を出した後、申請人、被申請人、公安機関、居民委員会、村民委員会などの関係組織に送達しなればならない。人身安全保護命令は、人民法院が執行し、公安機関、居民委員会、村民委員会などが執行に協力しなければならない」

2.法の目的における「家庭の調和、社会の安定の促進」

@千千和風さんは、「反DV立法は、暴力を引き起こす根本的な場としての『家庭』という存在を回避している」が、「こうした婚姻と親密な関係の制度は、当事者(ジェンダーと性的指向にかかわらず)が自分たちで相談して、お互いに自らが望む生活の方法を作り出す可能性を排除し、人々の生活の唯一の方法にする」、「反DV法は婚姻家庭の正統性を擁護しているが、それ自身が暴力である」と述べている(37)

千千和風さんのような観点から見て、ひとつ問題になるのは、立法の目的自体に「家庭の調和、社会の安定の促進」が入っていることだろう。

この点と関連して、2015年12月、27人の弁護士が、建議の「1」として、「立法の目的において、被害者に対する保護をはっきりと浮かび上がらせること」を求めていた。そのためか、成立した法律では、「家庭の構成員の合法的権益を保護する」ことが、最初に書かれるようになった。

しかし、以下の条文の変遷を見てもわかるように、立法の目的に書かれている内容自体は、ずっと変化していない。

2014年11月草案:
 第1条「家庭内暴力を予防・制止し、家庭の構成員の合法的権益を保護し、平等で、むつまじい、文明的な家族関係を守り、家庭と社会の安定を促進するために、憲法にもとづいて、本法を制定する。」
 ↓
 第1条「平等で、むつまじい、文明的な家族関係を守り、家庭の調和、社会の安定を促進し、家庭内暴力を予防・制止し、被害者の合法的権益を保護するために、本法を制定する。」
 ↓
成立した法律:
 第1条「家庭内暴力を予防・制止し、家庭の構成員の合法的権益を保護し、平等で、仲睦まじい、文明的な家庭関係を守り、家庭の調和、社会の安定を促進するために、本法を制定する」

以上、長々とご紹介してきたが、中国の反DV法には、さまざまな民間の議論や運動の成果が反映しているし、草案に対する要求もいくつかの点で実現した重要であろう。ここまで述べてきたように、家庭内暴力の中に(法律な家族ではない)同居者からの暴力も入ったこと、人身安全保護命令を裁判中でなくても申請できるようになったこと、公安部門なども人身安全保護命令の申請者になることができるようになったこと、「小中学校」という限定が外れて「学校」になったことなどである。

また、2015年7月の草案は、前年11月のものよりむしろ後退した点が多かったが、成立した法律では、かなり回復したことも重要だと思う。2015年7月に後退した原因は不明だが、3~4月のフェミニスト5女性の刑事拘留のような流れとも関係があるのかもしれない。ただ、法律が成立した同年12月も、広東省での女性労働者支援のNGOが弾圧されるなど、政治的締め付けは変わっていないにもかかわらず、一定の変化を実現したことは確かである。

しかし、その一方、上記のような根本的な点での修正がわずかにとどまったという面も見なければならないだろう。

この点はやはり女性運動の大衆的な広がりが作りえなかったことと関係していよう。そのことは、60人ほどの芸術家による展覧会が中止させられるなど、多くの人が集まるような運動に対する抑圧の厳しさと関係していることは間違いない。

また、この2月には、DV事件にも多く取り組んできた北京衆沢女性法律相談サービスセンター(もと北京大学女性法律研究・サービスセンター)が当局の圧力で解散に追い込まれたことなどは(38)、法律を実際に活用する上でも暗い影を落としている。

(1)联署呼吁:《中华人民共和国反家庭暴力法》纳入同居、恋爱、伴侣等亲密关系的保护」、「联名呼吁:中国反家暴法纳入同居恋爱暴力」同语2014年12月1日、「【请关注】改变,从现在开始:中国《反家暴法》意见征集」酷拉时报 Queer Lala Times 2014年12月4日。
(2)以上は、@兔子走丢了「七城公益人法制日”叫板“反家暴法」NGOCN 2014年12月5日。
(3)女权之声的微博【“圣诞老人”当众“互殴”,同性家暴法律管不管?】2014年12月25日 18:20
(4)女律师联名呼吁将“受家暴”纳入法定减刑情节」新浪新闻中心2014年12月15日(来源:法制日报)。
(5)以上は、「反家暴法意见征集:60名家暴受害者呼吁扩大人身保护令适用范围」女声网(ソース:女权之声[原刊时间:2014-12-18 発表時間:2014-12-18])。
(6)@何小婷「残障权利视角下 《反家庭暴力法(草案)》 的意见和建议」NGOCN2014年12月26日。
(7)女子装扮受伤新娘 身着染红婚纱街头反家暴」腾讯新闻(南方都市报 [微博]) 2014年12月11日。
(8)花季泪——来自北京青少年法律援助与研究中心的未成年人遭受性侵害案件分析报告」中青在线(中国青年报    2009年4月13日)。
(9)以上は、小猫,儿玉「她们用清水写下受害者故事,呼吁重视家庭内性侵害」女声网(原刊时间:2014-12-16 发布时间:2014-12-22)。
(10)全国人大常委会委员建议:性暴力、同居关系也应纳入反家暴法」澎湃新闻2015年8月27日(来源:法治中国)。
(11)以上については、「中国首部反家暴法草案有进步有退步」女权之声的微博2015年9月21日 17:40、「中国首部反家暴法草案有进步有退步 精神暴力、恋爱同居关系应入法」新媒体女性的微博2015年9月22日 13:17。
(12)冯媛「反家暴法能否不负众望,给时代一个交代?」NGOCN2015年9月2日。
(13)以上は、王曦影「反家暴法新草案:为何不强制矫治施暴男性?」荷兰在线2015年9月29日。
(14)(12)に同じ。
(15)以上は、反家暴立法民间倡导工作组「最后一天!反家暴立法修改建议需要你的联署」。
(16)关于亲密关系的调查」。この調査の呼びかけは、「关于亲密关系的调查」同語2015年9月11日→「为反家暴出力,填写亲密关系暴力在线调查」新媒体女性的微博2015年9月16日(原文来源:同语)。
(17) BCome小组的微博2015年11月26日 16:41
(18)民间组织呼吁用人单位承担更多反家暴责任」财经网2015年11月25日(出所『财经』)、苏惟楚「女权组织:在反家暴中用人单位应尽责」界面新闻2015年11月25日。
(19)以上は、「 “染血的新娘”拦路喊话央视名嘴柴华北 呼吁前配偶家暴入反家暴法」女权之声的微博2015年12月24日 15:14。
(20)以上は、「女青年行为艺术促CCTV监管“名嘴”家暴行为」女权之声的微博2015年11月25日 17:08。馮媛さんは『中国婦女報』でも、DVがもたらす各方面への経済的損失、DVと職場との関係、各国の企業のDV問題に対する対処について書いている(冯媛「反家暴,公司参与很重要」『中国妇女报』2015年12月8日)。
(21)妈妈联名撑家暴受暴妇女, 督促用人单位央视行使责任」女权之声的微博2015年12月9日 14:07。
(22) WoMen小组的微博 2015年11月25日 17:12
(23)以上は、「一个女权主义展流产之后,留下了什么?」女权之声的微博2015年12月2日 15:37。
(24)十余城市律师联名致人大,呼吁完善反家暴法草案」公益服务网2015年12月22日。
(25)以上は、「关于完善反家庭暴力法立法的律师联名建议信 」问道网2015年12月16日、「律师喊话人大:我们要一部完善的反家暴法!」女权行动派更好吃的微博2015年12月17日 12:17。
(26)以上は、「律师喊话人大,呼吁完善反家暴法草案」麦子家的博客2015年12月21日 15:57、「律师喊话人大:我们要一部完善的反家暴法!」麦子家的微博2015年12月21日 15:57。
(27)以上については、「反家暴法草案二审增加“精神暴力” 同居也适用 性暴力和前配偶依然未被纳入」新媒体女性的微博2015年12月21日 14:47、「二审都出了,我们要一部什么样的反家暴法?」女权之声的微博2015年12月22日 10:46、「反家暴法草案二审,专家:性暴力不可简单分化为身体和精神暴力」『中国妇女报』2015年12月25日、「反家暴法保护“共同生活的人”成一大亮点 性暴力未入法让人遗憾」新媒体女性的微博2015年12月28日 12:03。
(28)反家暴法草案增加“精神暴力” 同居也适用」『南方都市报』2015年12月21日。
(29)反家暴法草案二审,专家:性暴力不可简单分化为身体和精神暴力」『中国妇女报』2015年12月25日。
(30)同上。
(31)全国人大常委会办公厅12月27日新闻发布会」中国人大网2015年12月27日、「反家暴法中“共同生活人”不包括同性恋」法制晚报 2015年12月27日。
(32)性爱大权「《反家暴法》仍是一部异性恋霸权法吗?」荷兰在线2016年1月5日。
(33)冯媛「反家暴法之思:中国妇女还想要什么?」澎湃新闻2015年12月30日 15:47。
(34)反家暴法草案二审,专家:性暴力不可简单分化为身体和精神暴力」『中国妇女报』2015年12月25日。
(35)同上。
(36)吕频「责任是反家暴法的最大问题」网易女人2014年12月7日、吕频「中国首部反家暴法,草草的“草案”」网易女人 女人写时评vol.142。なお、中国のDVシェルターに関しては、呂頻さんの文章のすぐ後に、栄維毅「关注反家暴法:中国大陆家庭暴力受害妇女庇护现状与分析」(荣维毅的博客2014年12月18日)、李芙蕊「庇护所能成为中国受家暴妇女的港湾吗」(女权之声的微博2014年12月24日 18:50)も発表されている。拙稿「中国のDVシェルターの歴史と現状」『中国女性史研究』第16号(2007年1月)も参照のこと。
(37)千千和风「反家暴法维护婚姻家庭正统制,这本身就是一种暴力」荷兰在线2015年12月30日。
(38)反家暴法通过了,但做反家暴法律援助的机构被关了」新媒体女性的微博20161年1月29日 19:21:20。
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中華人民共和国反家庭内暴力法――草案を含めた全訳、草案との対照

昨年12月、中国でもDV防止法(中華人民共和国反家庭内暴力法)が成立し、今年3月から施行される。同法をめぐる議論や運動については別のエントリで扱うが、その前に、同法の全文を、成立前に2回発表された草案を含めて翻訳し、それぞれの条文の対照をおこなってみた。翻訳して対照したのは、以下の3つである。

 (1) 2014年11月25日、国務院法制事務局が初めて全文を公表し、広く社会から意見を求めた草案。
(「国务院法制办公室关于《中华人民共和国反家庭暴力法(征求意见稿)》公开征求意见的通知」国务院法制办公室2014年11月25日←草案もこのページからダウンロードできる)

 (2) 2015年7月28日、国務院常務会議は新しい草案を採択した。それは、8月24日、全国人民代表大会常務委員会に提出され、27日に審議され、9月8日には、中国人民代表大会網がその全文を公表し、再び意見を募集した。その草案。
(「反家庭暴力法(草案)全文」中国人大网)

 (3) 2015年12月21日、2回目の全国人民代表大会常務委員会での審議のために新しい草案が発表された。その草案は、同月27日に審議した上で、採択されて成立し、公布された(施行は2016年3月1日)。
(「中华人民共和国反家庭暴力法」新华网2015年12月27日)

以上の(1)(2)(3)の条文の対照を、以下でおこなう。

<凡例>
・とくに説明がないものは、上から(1)→(2)→(3)の順に並べてある。(3)は成立した法律なので、ゴシック体にした。
・条文の順番は、成立した法律(3)の条文の順に沿って並べた。条文が分割されたり、移動したりしている場合も、できるだけ(3)の条文を軸にして、(1)と(2)の草案の条文を並べた。
・中国語の「家庭暴力」は「DV」と訳す方法もあろうが、原義を尊重して一応「家庭内暴力」と訳した。

なお、注目される変化や残された問題点などについて、ポイントを先にごく簡単に述べておく。
★家庭内暴力の定義については、1回目の草案では精神的暴力も含まれていたが、2回目の草案で身体的暴力のみになった。しかし、成立した法律で精神的暴力が復活した。また、草案段階では、法律的な家族の構成員間の暴力だけが対象だったが、成立した法律では、生活を共にしている人の間の暴力についても、この法律を参照して執行されることになった。しかし、性暴力については明記されていない。また、恋人や元配偶者からの暴力は入らなかった。同性愛者間については、法案成立当日、全人代常務委員会法制工作委員会の社会法室主任が適用を否定した。
★多くの機構の協力の規定が欠けている。女性児童工作委員会が重要な役割を果たすことになっているが、同委員会は、権限や予算、人員の面で弱い。
★保護命令(1回目の草案では「人身安全保護裁定」、2回目の草案以降は「人身安全保護命令」)については、1回目の草案では、「離婚・扶養・養育・他人の子の養育・相続など」の裁判中か、裁判を起こす30日前以内にしか申請できなかった。しかし、2回目の草案以後は、家庭内暴力の被害にあうか、被害にあう現実の危険があれば、申請できるようになった。
★草案段階では、保護命令の執行機関が不明だったが、成立した法律では、「人民法院が執行し、公安機関(警察)、居民委員会、村民委員会が執行に協力する」と規定された。しかし、最も重要な役割を果たすはずの警察の責任が「執行に協力する」という規定にとどまっていることは、責任逃れの原因になりうることが指摘されている。
★全体として、1回目の草案が最も詳細で、2回目の草案は簡略になり、成立した法律はまた少し詳細になっている傾向がある(条文の数の推移は、全41条→全35条→全38条である)。個別にみると、2回目の草案や成立した法律のほうが、規定が詳細になっている箇所もあるが、1回目の草案にはあった、警察の対応についての詳細な規定やDVについての立証責任の合理的分配に関する規定が、それ以後はなくなっていることは問題として指摘されている。
★シェルターに関しては、規定はあるが、成立した法律では設立が義務付けられておらず、質的な保障をする規定、被害者の就労や子どものケアなどの規定もない。
★立法の目的の一つに「家庭の調和、社会の安定の促進」があることも、限界として考えられよう。

第一章 総則

第1条

 家庭内暴力を予防・制止し、家庭の構成員の合法的権益を保護し、平等で、むつまじい、文明的な家族関係を守り、家庭と社会の安定を促進するために、憲法にもとづいて、本法を制定する。
 ↓
 平等で、むつまじい、文明的な家族関係を守り、家庭の調和、社会の安定を促進し、家庭内暴力を予防・制止し、被害者の合法的権益を保護するために、本法を制定する。
 ↓
 家庭内暴力を予防・制止し、家庭の構成員の合法的権益を保護し、平等で、むつまじい、文明的な家族関係を守り、家庭の調和、社会の安定を促進するために、本法を制定する。

コメント:法律の目的である。ほぼ同じであり、家族の調和や社会の安定が一つの目的として謳われていることに特徴がある。ただし、語順は少し変化している。

第2条
 本法で言う家庭内暴力とは、家族の構成員間で身体・精神などの面の侵害をすることを指す。
 本法で言う家族の構成員とは、配偶者・父母・子どもおよび、その他の共に生活をしている近親族である。
 家族で他人の子を預かっている関係の人の間の暴力行為は、家庭内暴力と見なす。
 ↓
 本法で言う家庭内暴力とは、殴る、縄で縛る、傷つける、強制的に人身の自由を制限する、家庭の構成員に対しておこなう侵害行為である。
 ↓
 本法で言う家庭内暴力とは、家庭の構成員間で、殴る、縄で縛る、傷つける、人身の自由を制限する、日常的に侮り罵る、脅迫するなどの方法でおこなう身体・精神などに対する侵害行為を指す。

コメント:(1)では精神的暴力が入っていたのが、(2)で削除され、(3)で復活した。また、成立した法案(3)には、最後に記すように第六章「附則」の中の第37条として、(1)(2)にはない「家庭の構成員以外の、共に生活している人の間の暴力行為は、本法を参照して執行する」という条文が入った。

第3条(1文目)
 反家庭内暴力は全社会の共同の責任である。
 ↓
第3条(1文目)
 反家庭内暴力は全社会と一つ一つの家庭の共同の責任である。
 ↓
第3条
 家族の構成員は、お互いに助け合い、お互いに思いやり、睦まじくつきあって、家庭の義務を履行しなければならない。
 反家庭内暴力は、国家・社会・一つ一つの家庭の共同の責任である。
 国家はいかなる形態の家庭内暴力も禁止する。


コメント:(3)では国家の役割が比較的強調されている。その一方で、家族道徳を規定した条文も加わっている。

第3条(第2文)
 国家機関・社会団体・企事業単位・基層の大衆的自治組織は、本法と関係する法律の規定にもとづいて、反家庭内暴力工作をしなければならない。
第4条
 各レベルの人民政府は、反家庭暴力工作を強化し、経費を保障しなければならない。
 県レベル以上の人民政府は、女性児童工作の機構に責任を負い、関係部門を組織・調整・指導・督促して反家庭暴力工作をおこなわせる責任を負う。
 県レベル以上の人民政府の関係部門は、各自の職責の範囲内で反家庭内暴力工作をおこなわなければならない。
 ↓
第3条(第2文)
 政府の関係部門、司法機関、人民団体、社会組織、都市・農村の基層の大衆的自治組織、企業・事業単位は、本法および関係する法律の規定にもとづいて、反家庭内暴力工作をしなければならない。
第4条
 県レベル以上の人民政府は、女性児童工作の機構に責任を負い、関係部門を組織・調整・指導・督促して反家庭暴力工作をおこなわせる責任を負う。
 各レベルの人民政府は、反家庭暴力工作について必要な経費を保障しなければならない。
 ↓
第4条
 県レベル以上の人民政府は、女性児童工作の機構に責任を負い、関係部門を組織・調整・指導・督促して反家庭暴力工作をおこなわせる責任を負う。
 県レベル以上の人民政府の関係部門、司法機関、人民団体、社会組織、居民委員会、村民委員会、企業事業単位は、本法と関係する法律の規定にもとづいて、反家庭暴力工作をおこなわなければならない。
 各レベルの人民政府は、反家庭暴力工作について必要な経費を保障しなければならない。


コメント:女性児童工作の機構である女性児童工作委員会の人力・財力・権限などが弱いことは広く指摘されている。

第6条
 反家庭内暴力工作は予防を主とし、教育、懲罰を結びつける原則にしたがう。
 家庭内暴力事件の処理は、当事者の安全とプライバシーを保護し、被害者の意思を尊重しなければならない。
 家庭内暴力に遭った未成年者・高齢者・障害者、重病患者には、特別な保護をしなければならない。
 ↓
第5条
 反家庭内暴力工作は予防を主とし、教育、懲罰と結びつける原則にしたがう。
 ↓
第5条
 反家庭内暴力工作は予防を主とし、教育、強制、懲罰と結びつける原則にしたがう。
 反家庭内暴力工作は被害者の本当の意思を尊重し、当事者のプライバシーを保護しなければならない。
 未成年者・高齢者・障害者・妊娠期・哺乳期の女性、重病患者が家庭内暴力に遭った場合は、特別な保護をしなければならない。


コメント:(2)で削除された箇所が、(3)で復活(し若干強化され)している。この条文に限らず、そうした条文がかなりある。

第二章 家庭内暴力の予防

第5条
 各レベルの婦女連合会、労働組合、共産主義青年団は各自の工作の範囲内で、反家庭内暴力工作をしなければならない。
第7条(第1項、第2項、第4項)
 国家は反家庭内暴力の宣伝活動をおこない、社会組織と公民が公益的な反家庭内暴力の宣伝活動をすることを奨励しなければならない。
 メディアは、反家庭内暴力の世論の宣伝をしなければならない。
 司法行政機関は、反家庭内暴力の法律・法規を法制宣伝教育の内容に入れなければならない。
 婚姻登記機関は、婚姻登記の当事者に対して、反家庭内暴力の知識と関連の法律・法規を宣伝しなければならない。
第8条(第2項)
 小中学校は、反家庭内暴力の知識および関連する法律・法規の教育をしなければならない。
 ↓
第6条
 国家は反家庭内暴力の宣伝活動をおこない、反家庭内暴力の知識を普及し、公民の反家庭内暴力意識を増強する。
 国家は社会の力が反家庭内暴力の宣伝活動をすることを奨励する。
 労働組合、共産主義青年団、婦女連合会、各自の活動の範囲内で、反家庭内暴力の宣伝教育をおこなう。
第7条(第3項)
 小中学校の反家庭内暴力教育をおこなわなければならない。
 ↓
第6条
 国家は家庭美徳宣伝教育をおこない、反家庭内暴力の知識を普及し、公民の反家庭内暴力意識を増強する。
 労働組合、共産主義青年団、婦女連合会、障害者連合会は、各自の活動の範囲内で、家庭美徳と反家庭内暴力の宣伝教育をおこなう。
 ラジオ、テレビ、新聞・雑誌、インターネットなどは、家庭美徳と反家庭内暴力の宣伝教育をおこなわなければならない。
 学校、幼稚園は、家庭の美徳と反家庭内暴力の教育をしなければならない。


コメント:
・婚姻登記機関を明記しているのは(1)だけである。
・(1)に記されていたメディアは、(2)でなくなり、(3)で詳しくなって復活。
・(3)では、「小中学校」に限定せず、「学校、幼稚園」全体に広げた。ただし、「家庭の美徳」という文言が新たに入っている。
・(3)では、障害者連合会についても言及した。

第9条
 人民法院・人民検察院・公安機関・民政部門・婦女連合会は、反家庭内暴力活動をその系統の業務研修と統計の中に入れなければならない。
 医療機構は、職員に対して、家庭内暴力の被害者の診療・処置の要求やよくある心理・行為の問題の識別・紹介などの面の研修と指導をしなければならない。
第17条
 医療機構は、家庭内暴力の被害者をただちに応急処置し、診療の記録を付けなければならない。
 ↓
第7条(第1項、第2項)
 政府の関係部門、司法機関、婦女連合会は反家庭内暴力を業務研修と統計の中に入れなければならない。
 医療機構は家庭内暴力の被害者の診療記録をつけ、反家庭内暴力を業務研修に入れなければならない。
 ↓
第7条
 県レベル以上の人民政府の関係部門、司法機関、婦女連合会は家庭内暴力予防と制止を業務研修と統計工作に入れなければならない。
 医療機構は家庭内暴力の被害者の診療記録をきちんとつけなければならない。


コメント:(3)では、医療機関の研修が消えている。

第10条(前半)
 郷・鎮の人民政府、街道事務所は、基層の大衆的自治組織が反家庭内暴力の予防活動をするよう指導し(‥‥)なければならない。
 ↓
第8条
 郷・鎮の人民政府、街道事務所は、家庭内暴力予防活動をしなければならならず、郷・鎮の基層の大衆的自治組織は、協力し助けなければならない。
 ↓
第8条
 郷・鎮の人民政府、街道事務所は、家庭内暴力予防活動を展開しなければならならず、居民委員会、村民委員会、ソーシャルワークサービス機構は、協力・援助しなければならない。


第10条(後半)
 (郷・鎮の人民政府、街道事務所は)ソーシャルワーク機構などの社会組織が心理的健康、家族関係の指導などのサービスを提供することを組織し、サポートしなければならない。
 ↓
第9条
 各レベルの人民政府は、社会組織が心理健康相談・家族関係の指導・家庭内暴力の防護知識教育などのサービスをするのをサポートしなければならない。
 ↓
第9条
 各レベルの人民政府は、ソーシャルワークサービス機構などの社会組織が心理健康相談・家族関係の指導・家庭内暴力の防護知識教育などのサービスをするのをサポートしなければならない。


第11条
 さまざまな調停組織は適時に家庭内紛争の調停をおこなって、家庭内暴力の発生を予防・減少させなければならない。
 ↓
第10条
 人民調停組織は法により家庭内紛争の調停をおこなって、家庭内暴力の発生を予防・減少させなければならない。
 ↓
第10条
 人民調停組織は法により家庭内紛争の調停をおこなって、家庭内暴力の発生を予防・減少させなければならない。


第7条(第2項)
 人を雇う単位は、その単位の従業員の(?に対して)反家庭内暴力の宣伝教育活動をしなければならない。
 ↓
第11条
 人を雇う単位は、その単位の従業員に対して反家庭内暴力の教育をおこない、その単位の従業員に家庭内暴力がある状況を発見したら、ただちに忠告して止め、批判・教育をし、あわせて従業員の家庭内の矛盾を調停し、取り除かなければならない。
 ↓
第11条
 人を雇う単位は、その単位の従業員に家庭内暴力がある状況を発見したら、ただちに忠告して止め、批判・教育をし、あわせて従業員の家庭内の矛盾を調停し、取り除かなければならない。


第8条(第1項)
 未成年者の後見人は、法によって職責を履行しなければならず、未成年に対して家庭内暴力をおこなってはならない。
 ↓
第12条
 未成年者の後見人は、法によって職責を履行しなければならず、未成年に対して家庭内暴力をおこなってはならない。
 ↓
第12条
 未成年者の後見人は、文明的な方式で家庭教育をし、法にもとづいて後見と教育の職責を履行しなければならず、家庭内暴力をおこなってはならない。


第12条
 監獄・留置所・拘置所などの施設は、刑罰を科せられている、あるいは法によって拘留・逮捕されている加害者に対して、法にもとづいた法制教育・心理カウンセリング・行為矯正をおこなわなければならない。
 ↓
(2)・(3)には、なし。

第三章 家庭内暴力の処罰

第13条
 家庭内暴力の被害者およびその法定代理人、近い親族は、加害者あるいは被害者がいる単位、基層の大衆的自治組織、婦女連合会などの関係組織に訴え出たり、助けを求めたりすることができる。関係する単位・組織は、家庭内暴力の訴えや助けの求めを受けた後は、ただちに忠告して制止したり、調停したり、加害者に対して批判・教育をしなければならない。
 家庭内暴力の被害者およびその法定代理人、近い親族は、公安機関に直接通報することもできる。
 家庭内暴力の行為に対しては、いかなる組織・公民も、忠告して止めさせたり、制止したり、公安機関に通報する権利がある。
 ↓
 家庭内暴力の被害者およびその法定代理人、近い親族は、加害者あるいは被害者がいる単位、都市・農村の基層の大衆的自治組織、婦女連合会などの単位に訴え出たり、意見を言ったり、助けを求めたりすることができる。関係する単位・組織は、家庭内暴力の訴えや意見、助けの求めを受けた後は、援助・処理をしなければならない。
 家庭内暴力の被害者およびその法定代理人、近い親族は、公安機関に直接通報することもできる。
 ↓
 家庭内暴力の被害者およびその法定代理人、近い親族は、加害者あるいは被害者がいる単位、居民委員会、村民委員会、婦女連合会などの単位に訴え出たり、意見を言ったり、助けを求めたりすることができる。関係する単位は、家庭内暴力の訴え、意見、助けの求めを受けた後は、援助・処理をしなければならない。
 家庭内暴力の被害者およびその法定代理人、近い親族は、公安機関に通報する、あるいは人民法院に訴訟を起こすこともできる。
 単位、個人が家庭内暴力の行為がおこなわれていることを発見した場合は、ただちに制止する権利がある。


第14条
 以下の機構は、仕事の中で、民事行為能力がない人、民事行為能力を制限されている人、あるいは年老いている、障害がある、重病などの原因で通報できない人が家庭内暴力に遭っていることを発見したときは、ただちに公安機関に通報しなければならない。
 (一)救助管理機構・社会福利機構
 (二)小中学校、幼稚園
 (三)医療機構
 ↓
 小中学校、幼稚園、医療機構およびその職員は、仕事の中で、民事行為能力がない人、民事行為能力を制限されている人が家庭内暴力に遭っているか、遭っている疑いがあることを発見したときは、直ちに公安機関に通報しなければならない。
 ↓
 学校、幼稚園、医療機構、居民委員会、村民委員会、ソーシャルワークサービス機構、救助管理機構、福利機構とその職員は、仕事の中で、民事行為能力がない人、民事行為能力を制限されている人が家庭内暴力に遭っているか、遭っている疑いがあることを発見したときは、直ちに公安機関に通報しなければならない。公安機関は、事件を通報した人の情報について秘密を守らなければならない。

コメント:成立した法律は、草案段階での「小中学校」が、「学校」全般になっている。

第15条
 公安機関は家庭内暴力の通報を受けた後は、ただちに現場に出動し、情況にもとづいて、以下のふさわしい措置をとらなければならない
 (一)いま現在発生している家庭内暴力を制止する。
 (二)ただちに被害者・加害者・証人に質問して、録音・録画・撮影などの方法で関連する証拠を固めるとともに、書面の記録を作成する。
 (三)被害者がただちに医者にかかる必要がある場合は、医療機関に連絡して応急処置をするのに協力し、必要に応じて傷の程度の鑑定を委託しなければならない。被害者が未成年のときは、ただちに傷の程度の鑑定の手配をし、きちんとした処置をしなければならない。
 ↓
 公安機関は家庭内暴力の通報を受けた後は、ただちに現場に出動し、家庭内暴力を制止し、関係規定にもとづいて調査して証拠を集め、医者にかかるのを助け、傷の程度の鑑定をしなければならない
 ↓
 公安機関は家庭内暴力の通報を受けた後は、ただちに現場に出動し、家庭内暴力を制止し、関係規定にもとづいて調査して証拠を集め、医者にかかるのを助け、傷の程度を鑑定しなければならない。
 民事行為能力のない人、民事行為能力が制限されている人が家庭内暴力によって身体に重大な傷害を受ける、人身の安全が脅かされている、あるいは誰も世話をしないことなどのために危険な状態になっているときは、公安機関は、臨時の庇護場所か救助管理機構、福利機構に落ち着かせるよう民政部門に通知・協力しなければならない。


コメント:証拠の収集について、(1)では直接条文に詳しく書かれていたが、(2)(3)では「関係規定にもとづいて」となっている。
 (3)では、「民事行為能力のない人、民事行為能力が制限されている人」についての規定が増えている。

第16条
 公安機関は質問をするとき、被害者と加害者を別々にして質問しなければならない。
 公安機関は未成年者に質問するときは、未成年者の心身の特徴を考慮し、さらなる傷害を与えることを防がなければならない。
 未成年の被害者を公安機関に連れて行って質問する必要があるときは、その法的代理人に通知して現場に来させなければならない。通知できず、法的代理人が来られないとか、来ることを拒絶するとか、あるいは法定代理人が加害者である場合は、未成年の被害者の成人の近い親族に通知してもよく、所属する学校あるいは基層の大衆的自治組織の代表に通知してもよく、その状況の記録を残さなければならない。
 ↓
(2)(3)には、なし。

第19条
家庭内暴力が治安管理の違反行為や犯罪にまではならないときは、公安機関は、書面で加害者に二度と暴力をふるわないように訓戒を与え、告誡書の副本を被害者の住所あるいはふだんの居住地の基層の大衆的自治組織・婦女連合会に送ることができる。
 ↓
第16条
 家庭内暴力の情状が比較的軽く、法による治安管理処罰をしないときは、公安機関は加害者に対して批判・教育、あるいは告誡書を出す。
 告誡書は、加害者の身分情報、家庭内暴力の事実の陳述、加害者に家庭内暴力を禁止するなどの内容を含めなければならない。
 ↓
第16条
 家庭内暴力の情状が比較的軽く、法による治安管理処罰をしないときは、公安機関は加害者に対して批判・教育、あるいは告誡書を出す。
 告誡書は、加害者の身分情報、家庭内暴力の事実の陳述、加害者に家庭内暴力を禁止するなどの内容を含めなければならない。


コメント:(2)(3)では、やや詳細になっている。

第17条
 (なし)
 ↓
 公安機関は告誡書を加害者、被害者、現地の都市・農村の基層の大衆的自治組織に渡さなければならない。
 都市・農村の基層の大衆的自治組織の工作人員あるいは社区(地域コミュニティ組織)の警官は、告誡書を受け取った加害者・被害者のところに行って調べ、加害者にもう家庭内暴力をおこなわないよう督促しなければならない。
 ↓
 公安機関は告誡書を加害者、被害者に渡し、あわせて居民委員会、村民委員会に通知しなければならない。
 居民委員会、村民委員会、公安派出所は、告誡書を受け取った加害者・被害者のところに行って調べ、加害者にもう家庭内暴力をおこなわないよう監督しなければならない。


コメント:(2)(3)で新設された条文。

第18条
 県レベルあるいは区を設けている市レベルの人民政府は、シェルターを設立あるいは指定して、家庭内暴力のためにしばらく家に帰れない被害者に緊急の庇護と短期の生活救助をしなければならない。
 ↓
 県レベルあるいは区を設けている市レベルの人民政府は、単独あるいは救助管理機構に委託して臨時の住まいを設立して、家庭内暴力の被害者のために援助をすることができる。
 ↓
 県レベルあるいは区を設けている市レベルの人民政府は、単独あるいは救助管理機構に委託して臨時のシェルターを設立して、家庭内暴力の被害者のために臨時の生活の援助を提供することができる。

コメント:(1)では、「しなければならない(応当)」だったが、(2)・(3)では、「できる(可以)」に変わっている。

第21条
 法律援助機構は、条件に合致した家庭内暴力の被害者に法律援助を提供しなければならない。法律サービス機構が、経済的に確かに困難ではあるが、法律援助の条件には達していない被害者に対して法律サービス費用の減免をすることを奨励・サポートする。
 法律援助の条件に合致した委託人が司法鑑定を申請した場合は、司法鑑定機構は関係する規定に照らして司法鑑定の費用を減免しなければならない。
 人民法院は、条件に合致した家庭内暴力の被害者に対して、訴訟費用の減免または猶予をしなければならない。
 ↓
第19条
 法律援助機構は法により家庭内暴力の被害者に法律援助を提供しなければならない。
 人民法院は法により家庭内暴力の被害者に、訴訟費用の猶予または減免をしなければならない。
 ↓
第19条
 法律援助機構は法によって家庭内暴力の被害者に法律的援助を提供しなければならない。
 人民法院は法により家庭内暴力の被害者に、訴訟費用の猶予または減免をしなければならない。


コメント:(2)(3)では、法律サービス機構と司法鑑定機構に関する規定が消えている。

第20条
 自訴によって加害者の家庭内暴力行為の刑事責任を追及することに対しては、公安機関は被害者、その法定代理人、近い親族に、直接人民法院に起訴できると知らせなければならない。
 被害者が民事行為能力のない人、民事行為能力を制限されている人で、その法定代理人、近い親族が代わって告訴しない場合は、人民検察院が告訴できる。
 ↓
(2)(3)には、なし。

第22条 人民法院は家庭内暴力に関わる民事事件と刑事事件を法により速やかに受理し、審理しなければならない。
 ↓
(2)(3)には、なし。

第23条
 人民法院は家庭内暴力に関わる民事事件を審理するときは、挙証責任を合理的に分配しなければならない。
 被害者が客観的な原因によって自ら証拠を収集できないときは、人民法院が調査収集しなければならない。
 ↓
(2)(3)には、なし。

第24条
 家庭内暴力による離婚訴訟では、人民法院は財産分割・子どもの養育・住居などの面で被害者の利益を保護しなければならない。
 ↓
(2)(3)には、なし。

(1)には、なし。
 ↓
第20条
 人民法院は家庭内暴力に関わる事件を審理するときは、公安機関の現場出動記録、告誡書、傷の程度の鑑定意見などの証拠にもとづいて、家庭内暴力の事実を認定できる。
 ↓
 人民法院は家庭内暴力に関わる事件を審理するときは、公安機関の現場出動記録、告誡書、傷の程度の鑑定意見などの証拠にもとづいて、家庭内暴力の事実を認定できる。

第25条
 後見人が家庭内暴力によって被後見人の合法的権益に対する重大な侵害をしたときは、人民法院は、関係者あるいは単位の申請により、その後見人の資格を取り消し、別の後見人を指定することができる。
 法により扶養・養育の義務があるが、後見の資格を取り消された後見人は、継続して相応の扶養・養育の費用を負担しなければならない。
 後見の資格が取消された日から3カ月後から、当事者は人民法院に書面で後見人の資格を回復する申請をすることができる。
 ↓
第21条
 後見人が家庭内暴力によって被後見人の合法的権益に対する重大な侵害をしたときは、人民法院は、関係者あるいは単位の申請により、その後見人の資格を取り消し、別の後見人を指定することができる。
 後見の資格を取り消された加害者は、継続して相応の扶養・養育の費用を負担しなければならない。
 ↓
第21条
 後見人が家庭内暴力によって被後見人の合法的権益に対する重大な侵害をしたときは、人民法院は、被後見人の近い親族、居民委員会、村民委員会、県レベルの人民政府の民政部門などの関係者あるいは単位の申請により、その後見人の資格を取り消し、別の後見人を指定することができる。


コメント:(1)→(2) で第三段の規定を省略し、(2) →(3)で第二段の規定を省略している。

(なし)
 ↓
第22条
 都市・農村の基層の大衆的自治組織、労働組合、共産主義青年団、婦女連合会などの単位は、家庭内暴力の加害者に対して、法制教育と心理指導をしなければならない。
 ↓
第22条
 労働組合、共産主義青年団、婦女連合会、障害者連合会、居民委員会、村民委員会は、家庭内暴力の加害者に対して法治教育をし、必要なときは加害者、被害者に対して心理補導をしなければならない。


コメント:(2)で、具体的に加害者に対する法制教育と心理指導が規定され、(3)で被害者の心理補導も規定。加害者に対する法制教育(法治教育)は義務。

第26条
 人民検察院は法により公安機関と人民法院が家庭内暴力事件を扱う業務に対して法律的監督をおこなう。
 ↓
(2)(3)には、なし。

第四章 人身安全保護裁定
 ↓
第四章 人身安全保護命令
 ↓
第四章 人身安全保護命令

第27条
 人民法院が離婚・扶養・養育・他人の子の養育・相続などの民事事件を審理する過程の中で、家庭内暴力の被害者は、人民法院に人身安全保護裁定を申請することができる。
 家庭内暴力の被害者は、訴訟を起こす前でも、人民法院に人身保護裁定を申請することができる。被害者が人民法院に裁定後30日以内に訴訟を起こさないときは、人民法院は裁定を撤回しなければならない。
 被害者が人民法院に人身安全保護裁定を申請できないときは、その法定代理人や近い親族が人民法院に人身安全保護裁定を申請することができる。
 ↓
第23条
 当事者が家庭内暴力に遭う、または家庭内暴力に遭う現実の危険に直面したために、人民法院に人身安全保護命令を申請したときは、人民法院は受理しなければならない。
 当事者が強制・威嚇を受けているなどの原因で人身安全保護命令を申請できないときは、その近い親族が代わって申請することができる。
 ↓
第23条
 当事者が家庭内暴力に遭う、または家庭内暴力に遭う現実の危険に直面したために、人民法院に人身安全保護命令を申請したときは、人民法院は受理しなければならない。
 当事者が民事行為能力のない人や民事行為能力が制限されている人、あるいは強制・威嚇を受けているなどの原因で人身安全保護命令を申請できない場合は、その近い親族、公安機関、婦女連合会、居民委員会、村民委員会、救助管理機構が代わって申請することができる。


コメント:(1)では「離婚・扶養・養育・他人の子の養育・相続など」の裁判中か、裁判を起こす30日前以内にしか申請できなかったのが、(2)では、そうした条件が外れているという大きな違いがある。また、当事者が申請できない場合、(1)と(2)では、親族しか申請できなかったのが、(3)では、公安機関、婦女連合会、居民委員会、村民委員会、救助管理機構が代わって申請することができるようになった。

第28条
 人身安全保護裁定の申請は、書面によって提出しなければならない。
 ↓
第24条
 人身安全保護命令の申請は、書面によって提出しなければならない。書面の申請がたしかに困難な場合は、口頭で申請し、人民法院によって文書で記録することもできる。
 ↓
第24条
 人身安全保護命令の申請は、書面によって提出しなければならない。書面の申請がたしかに困難な場合は、口頭で申請し、人民法院によって文書で記録することもできる。


コメント:(2)(3)では、口頭による申請も可能になった。

第30条
 被害者が訴訟を起こす前に人身安全保護裁定を申請する場合は、被害者・加害者の住所、平常済んでいる地域、あるいは事件に対する管轄権がある人民法院が管轄する。
 ↓
第25条
 人身安全保護命令事件は、申請人あるいは被申請人の居住地、家庭内暴力の発生地の基層人民法院が管轄する。
 ↓
第25条
 人身安全保護命令事件は、申請人あるいは被申請人の居住地、家庭内暴力の発生地の基層人民法院が管轄する。


(1)(2)にはなし。
 ↓
第26条
 人身安全保護命令は、人民法院によって裁定の形式で出す


第29条
 人身安全保護裁定の申請は、以下の条件に合致していなければならない:
 (一)明確な被申請人がいる。
 (二)具体的な請求がある。
 (三)具体的な事実と理由がある。
 ↓
第26条
 人身安全保護命令を出すには、以下の条件を具備していなければならない:
 (一)明確な被申請人がいる。
 (二)具体的な請求がある。
 (三)家庭内暴力に遭っている、または家庭内暴力に遭う現実の危険に直面している。
 ↓
第27条
 人身安全保護命令を出すには、以下の条件を具備していなければならない:
 (一)明確な被申請人がいる。
 (二)具体的な要求がある。
 (三)家庭内暴力に遭っている、または家庭内暴力に遭う現実の危険に直面している状況がある。


第31条
 人民法院は申請を受けつけた後、48時間以内に人身安全保護命令を出さなければならない。
 第29条の規定に合致しない申請や、申請人が証拠を提出しない場合や、加害者の加害行為を証明するには足りない証拠しか提出しない場合は、人民法院は申請を却下する。
 ↓
第27条
 人民法院は申請を受理した後、48時間以内に人身安全保護命令を出すか、却下しなければならない。
 ↓
第28条
 人民法院は申請を受理した後、72時間以内に人身安全保護命令を出すか、申請を却下しなければならない。状況が緊急である場合は、24時間以内に出さなければならない。


第32条
 人身安全保護裁定は、以下の1つあるいは複数の項目を含む。
 (一)加害者が被害者に再び加害することを禁止する。
 (二)加害者が被害者の住まいから出ていくよう命じる。
 (三)加害者が被害者に接近することを禁止する。
 (四)加害者が被害者の住まいおよび他の共同で所有している不動産を処分することを禁止する。
 ↓
第28条
人身安全保護命令は、以下の措置を含むことができる。
 (一)被申請人が家庭内暴力をすることを禁止する。
 (二)被申請人が申請人にハラスメント、つきまといをすることを禁止する。
 (三)被院生人に申請人の住まいから引っ越すことを命じる。
 (四)申請人の人身の安全を保護するその他の措置。
 ↓
第29条
 人身安全保護命令は、以下の措置を含むことができる。
 (一)被申請人が申請人に家庭内暴力をすることを禁止する。
 (二)被申請人が申請人およびその近い親族にハラスメント、つきまとい、接触をすることを禁止する。
 (三)被院生人に申請人の住まいから引っ越すことを命じる。
 (四)申請人の人身の安全を保護するその他の措置。


コメント:(2)と(3)では、(4)が包括的な規定になり、(3)では、「ハラスメント、尾行、接触」の禁止が「近い親族」にも広がった。

第34条
 人身安全保護裁定は、出した日から効力を生じる。有効期間は1カ月から6カ月である。
 人身安全保護裁定の有効期間内は、申請者、被害者、加害者は人民法院に裁定の撤回を申請できる。
 人身安全保護裁定の期限が来た後は、申請者は人民法院に対して再度の裁定を申請できる。
 ↓
第30条
 人身安全保護命令の有効期間は、6カ月を超えず、出した日から効力を生じる。
 ↓
第30条
 人身安全保護命令の有効期間は、6カ月を超えず、出した日から効力を生じる。人身安全保護命令の失効前に、人民法院は申請人の申請にもとづいて撤回や変更、延長ができる。


第31条
 申請人が申請を却下されたことに不服である、あるいは被申請人が人身安全保護命令に不服である場合は、裁定発効の日から5日以内に、裁定について人民法院に一度再議を申請することができる。人民法院は法により人身保護命令を出した場合は、再議期間は人身安全保護命令の執行を停止しない。


第33条
 人民法院は人身安全保護裁定を出した24時間以内に、申請人、被害者、加害者に送達し、あわせて人身安全保護裁定の副本を被害者と加害者の住所あるいは平常の居住地の公安機関と基層の大衆的自治組織と婦女連合会に送らなればならない。
 申請者、被害者あるいは加害者が人身安全保護裁定に対して不服である場合は、裁定を受け取った日から5日以内に、裁定を出した人民法院に再議を申請することができる。再議期間は裁定の執行を停止しない。
 ↓
第29条
 申請人、被申請人が人身安全保護命令あるいはその却下に不服である場合は、一度再議を申請することができる。再議の期間は人身安全保護命令の執行を停止しない。
 ↓
第32条
 人民法院は人身安全保護命令を出した後、申請人、被申請人、公安機関、居民委員会、村民委員会などの関係組織に送達しなればならない。人身安全保護命令は、人民法院が執行し、公安機関、居民委員会、村民委員会などが執行に協力しなければならない。


コメント:(1)では、人身安全保護裁定の執行機関が不明確であるうえ、「人身安全保護裁定の副本を被害者と加害者の住所あるいは平常の居住地公安機関と基層の大衆的自治組織と婦女連合会に送らなればならない」と述べるだけだった。(3)では「人身安全保護命令は、人民法院が執行し、公安機関と居民委員会、村民委員会などが執行に協力しなければならない」といちおう執行機関が明確になった。しかし、それ以外の機関の関わりについては、「公安機関と居民委員会、村民委員会などが執行に協力しなければならない」という曖昧なものにとどまった。

第35条
 家庭内暴力犯罪をおこなった犯罪の容疑者、被告人に対して公安機関、人民検察院、人民法院が取保候審を決定した場合は、取保候審の決定の中に、第32条の一つまたは多くの項目の内容を増やすことができる。
 ↓
(2)(3)には、なし。

第36条
 家庭内暴力犯罪をおこなったことに対して、執行猶予あるいは管制に処せられた犯罪人に対しては、判決の中に第32条の一つまたは多くの項目の内容を増やすことができる。
 ↓
(2)(3)には、なし。

第五章 法律上の責任

第37条
 家庭内暴力が治安管理の違反行為になる場合は、公安機関が法により治安管理処罰をする。犯罪を構成した場合は、司法機関が法により刑事責任を追究する。
 ↓
第31条
 加害者がおこなった家庭内暴力が、人身の損害や財産の損失を引き起こした場合は、法により民事責任を負う。治安管理に違反する行為を構成した場合は、法により治安管理処罰をする。犯罪を構成した場合は、法により刑事責任を追究する。
 ↓
第33条
 加害者が家庭内暴力をおこない、治安管理に違反する行為をおこなった場合は、治安管理処罰をする。犯罪を構成した場合は、法により刑事責任を追究する。


第38条
 加害者が人身安全保護裁定に違反した場合は、人民法院は民事訴訟法111条、115条、116条の規定によって処罰する。犯罪を構成する場合は、法によって刑事責任を追究する。
 ↓
第32条
 被申請人が人身安全保護命令に違反した場合は、人民法院は訓戒をしなければならず、情状の軽重にもとづいて、1000元以下の罰金、15日以下の拘留に処す。
 ↓
第34条
 被申請人が人身安全保護命令に違反し、犯罪を構成した場合は、法により刑事責任を追及する。犯罪を構成しない場合は、人民法院は訓戒をしなければならず、情状の軽重にもとづいて、1000元以下の罰金、15日以下の拘留に処すことができる。


第39条
 救助管理機構、社会福利機構、小中学校、幼稚園、医療機関が本法第14条の規定にもとづいて公安機関に通報せず、重大な結果を引き起こした場合は、上級主管部門あるいはその単位によって、直接責任を負う主管者と他の直接の責任者を法によって処分する。
 ↓
第33条
 小中学校、幼稚園、医療機関およびその職員が本法第14条の規定にもとづいて公安機関に通報せず、重大な結果を引き起こした場合は、直接責任を負う主管人と他の直接責任を持つ人に対して法によって処分する。
 ↓
第35条
 学校、幼稚園、医療機構、居民委員会、村民委員会、ソーシャルワークサービス機構、救助管理機構、福利機構およびその職員が本法第14条の規定にもとづいて公安機関に通報せず、重大な結果を引き起こした場合は、上級主管部門あるいはその単位によって、直接責任を負う主管人とその他の直接責任を持つ人を法によって処分する。


第40条
 反家庭内暴力の職責を負う国家職員が職務をおろそかにしたり、職権を乱用したり、私情にとらわれ不正を働いたり、プライバシーを漏らしたりした場合は、法によって処分する。犯罪を構成した場合は、法により刑事責任を追究する。
 ↓
第34条
 反家庭内暴力の職責を負う国家の職員が職務をおろそかにしたり、職権を乱用したり、私情にとらわれ不正を働いたりした場合は、法によって処分する。犯罪を構成した場合は、法により刑事責任を追究する。
 ↓
第36条
 反家庭内暴力の職責を負う国家の職員が職務をおろそかにしたり、職権を乱用したり、私情にとらわれ不正を働いたりした場合は、法によって処分する。犯罪を構成した場合は、法により刑事責任を追究する。


第六章 附則

第37条
 家庭の構成員以外の、生活を共にする人の間の暴力行為は、本法を参照して執行する。


コメント: 上記のように、この条文は(3)で新設。

第41条
 本法は、 年 月 日から施行する。
 ↓
第35条
 本法は、 年 月 日から施行する。
 ↓
第38条
 本法は2016年3月1日から施行する。
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遠山日出也

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