2013-09

CAWネット・ジャパン解散、アジア女性労働者交流プログラム開催

今年6月、「CAWネット・ジャパン」から、「CAWネット・ジャパン解散についてのお知らせとお礼」という文書が届いた。

「CAW」とは、1981年に結成されたCommittee for Asian Women(アジア女性労働者委員会)の略称である。当時、韓国や台湾、東南アジア諸国のほとんどが独裁政権下にあり、労働運動は弾圧されていた。それらの国々の政権は、安い労働力を求める日本や欧米の資本を誘致するために外資を優遇する「自由貿易地域(輸出加工区)」を設けた。その中では、農村から出てきた多くの若い女性たちが「女工哀史」のような劣悪な労働条件で働かされていた。こうした状況を改善するためにCAWは結成された。当初はキリスト教団体中心だったが、のちに女性労働者自身の団体になったという。アジアに進出している多国籍企業の送り出し国である日本にも、CAWの活動に協力するために、1983年、塩沢美代子氏らが「アジア女子労働者交流センター」を設立した。

アジア女子労働者交流センターは、2000年に財政上の理由で事務所を閉じ(1)、規模を大幅に縮小しつつも、「CAWネット・ジャパン」としてアジアと日本の女性をつなぐ活動を続けてきた。しかし、今年度で活動の幕を閉じることになったのだという(2)

グローバリゼーションが女性(だけではないが)に与える影響がますます強まっている今日、CAWネット・ジャパンが解散せざるをえなくなったとは、たいへん残念だ。

「CAWネット・ジャパン解散についてのお知らせとお礼」の中は、以下のように書かれている。

[アジア女子労働者]交流センターはCAW(……)の創立メンバーの1つでもあり、アジアの仲間からは、何とか続けてほしいという強い要望も出されておりますが、若い協力者が少ない中でいつまでも活動を続けることは困難であり、団体としての区切りを付けておくべきと考えました。


「若い協力者が少ない」とあるが、社会運動の高齢化の影響がこうしたことにもあらわれているのだろうか?

私には詳しい事情はわからないが、もちろん他の要因も考えられる。

アジアにおけるグローバリゼーションと女性の問題に取り組む上で、今日、非常に大きな比重を占めるのは中国である。韓国や台湾、香港では、1980年代後半以降、労働者の運動が活発になり、賃金が次第に高くなったため、多国籍企業は、より安い労働力を求めて、工場を中国や東南アジアに工場を移していった。それによって、韓国や台湾、香港には失業や雇用の非正規化がもたらされるのだが、それと同時に、当時から始まった中国の改革開放政策もあって、中国の女性労働者が多国籍企業の搾取の対象になった。しかし、CAWは、中国の女性労働者と直接連帯することは難しく、香港のNGOを通じてつながるしかないというお話を以前うかがったことがある。こうした点にも運動の困難があるのかもしれない。

また、2000年にアジア女子労働者交流センターが事務所を閉じた際には、「会費やカンパの減少は、15年間に、アジアの民衆に連帯する多様な活動が生まれ、支援の志をもつ方々のお金が分散しているためでもあり、喜ぶべき現象の結果ともみられます」(3)とも述べられていた。今回もそうした面があるのかもしれない(というか、そういう面があってほしい)。

ニュースレター『アジアの仲間』・『CAWネットニュース』と中国・香港・台湾

「アジア女子労働者交流センター」のニュースレターであった『アジアの仲間』と「CAWネット・ジャパン」のニュースレターである『CAWネットニュース』は、韓国、フィリピン、マレーシア、タイ、インドネシア、パキスタン、バングラデシュ、インド、スリランカ、カンボジア、ネパール、シンガポールなど、さまざまなアジアの国々の女性労働者についての記事を掲載してきた(『アジアの仲間』については、記事の抜粋に解説を加えた、広木道子著、塩沢美代子監修『アジアに生きる女性たち 女性労働者との交流十五年』[ドメス出版 1999年]という本も出版されている)。

『アジアの仲間』と『CAWネットニュース』は、台湾・香港・中国の女性労働者のニュースも数多く掲載している。この点については、私が作成した「『アジアの仲間』と『CAWネットニュース』の中国関係記事一覧」をご覧いただきたいが、最近も、たとえば、「台湾で働くフィリピン人移住労働者 労働者の権利より仕事の機会?」CAWネットニュース第26号(2009年1月)とか、「香港・スーパーマーケットで販売促進の女性を組織化」第36号(2012年6月)といった記事を掲載している。中国本土についても、アジア労働資料センター(AMRC)発行のパンフレット「Voice from Below~China’s Accession to WTO and Chinese Workers」を翻訳した「中国:WTO加盟の影響は? 労働者の声を聞く」を連載している[(1) (2)(3)(4)(5)(6)(7)](2011年4月~2013年2月)。

『アジアの仲間』と『CAWネットニュース』は、日本語情報の少ないアジアの女性労働者の状態と運動についての貴重な情報発信だったと言える。

『アジアの仲間』は合本もあり、私も持っているが、現在は品切れのようだ。『アジアの仲間』や『CAWネットニュース』は、所蔵している図書館も多くない。可能な箇所については、ウィメンズ・アクション・ネットワーク(WAN)でやっているように、PDF化して公開する方法もあるかもしれないと思う(WANのミニコミ電子図書館に収録する手もあろう)。もちろん『アジアの仲間』については、『アジアに生きる女性たち 女性労働者との交流十五年』の著作権の問題もあるし、そのほかプライバシーなどの面で細心の注意が必要であるが……。

「アジア女性労働者交流プログラム~韓国・香港・インド・日本~」

CAWネット・ジャパン最後の取り組みとして、「アジア女性労働者交流プログラム」を開催することになったという。そのチラシは、こちら(PDF)からダウンロードできるが、以下のような催しである。

この秋、韓国、香港、インドと日本の女性労働者が集まり交流プログラムを開催します。

アジア諸国の工業化の先駆けとなった韓国、香港では、工場女性労働者がその最先端で働き、経済発展に大きく貢献してきました。

今、そうした女性たちの多くは非正規雇用化が進むサービス産業で、低賃金と雇用不安という問題を抱えて働いています。今後の成長が期待されているインドでは、その大半がインフォーマルな仕事についている反面、グローバル化の下での産業構造の変化により、特に若い労働者の働き方に変化が起きています。

日本では、労働規制緩和が急速に進む中で、女性たちの雇用はますます不安定なものになり貧困が広がっています。アジアの女性たちと共通の問題を話し合い、経験交流を深め、困難な中でこれまで築き上げてきた運動を未来につなげていきたいと、国内の女性労働者グループが集まり、実行委員会を作ってプログラムに取り組んでいます。

プログラムのテーマ
 アジアの女性労働 現状と課題~今をつなぐ、未来につなげる~


具体的な話し合いのテーマ
 1) 女性非正規雇用の実態と 組織化の実践
 2) 若い女性の雇用問題と運動

10月27日(日)オープン・ミーティング
時間:13:30~17:00
場所:明治大学研究棟2F第9会議室
内容:4か国の参加者から、3分間ビデオの上映と各国の報告、意見交換など
資料代:500円 どなたでも参加できます


主催:アジア女性労働者交流プログラム実行委員会
 参加団体)アジア女性資料センター、均等待遇アクション21事務局、下町ユニオン、女性ユニオン東京、全労協女性委員会、働く女性の全国センター(ACW2)、プレカリアートユニオン、Labor Now、CAWネット・ジャパン

共催:明治大学労働教育メディア研究センター

事務局
〒359-1151所沢市若狭3-2555-15
CAWネット・ジャパン気付
Eメール awwc@japan.email.ne.jp

開催成功のためにカンパをお願いします!
*郵便口座番号 00100-9-186394
 加入者名 CAWネット・ジャパン
*1口1,000円 できれば2口以上お願いします。
*簡単な報告を「CAWネットニュース」No.40として年内に発行します。ご希望の方は払込用紙にその旨ご記入下さい。


「女性ユニオン東京」や「おんな労働組合(関西)」や「女性ユニオン東京」もCAWのメンバーなので、CAWネット・ジャパンの解散によって、日本がCAWと切れてしまうわけではないと思う。今回のシンポジウムを成功させて、これまでCAWネット・ジャパンが果たしてきた役割を継承する展望が開かれればいいと思う。

今回のシンポジウムに対しては、もちろん私もカンパした。催し自体にも行きたいと思うのだが……。

(1)その理由としては、「発足当時はアジア第3世界に関する活動ということで、WCC(世界キリスト教協議会)、CCA(アジアキリスト教協議会)、アメリカのキリスト教団体から、年間予算の半分近くの活動資金の援助がありましたが、円高により激減し、数年前からはすべて打ち切りとなりました。国内のカンパ・会費も大口だった方は退職されたり、亡くなったりで減少しております」「お知らせとお願い」(『アジアの仲間』第79号[1999.4]p.11)ということが述べられていた。
(2)予算規模を見てみると、「アジア女子労働者交流センター」の予算は、1985年度以降ずっと、おおよそ年間900万~1000万円程度だったのが、「CAWネット・ジャパン」は、2000年代半ばで150万円程度、2010年以降は90~100万円程度だった(『アジアの仲間』『CAWネットニュース』の各号より)。
(3)『アジアの仲間』第79号(1999.4)p.11
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求人の男女差別をなくすための女性たちの粘り強い行動(追記あり)

中国の若い女性たち、とくに「ジェンダー平等唱導・アクションネットワーク(ジェンダ平等活動グループ)」(その活動は「年表」とその年表の下のリンク参照)の女性たちは、昨年から就職の男女差別をなくすためにさまざまなアクションをおこなってきた。すなわち、各地で花木蘭の扮装をして就職差別をなくすことを訴えたり、曹菊さんが北京巨人教育グループの「男子のみ」求人を裁判所に訴えたり、求人サイト「智聯招聘網」に性差別的な求人広告を出していた企業267社を各地でいっせいに行政当局に告発したりしてきた。

その後も、彼女たちは、以下のように、次々にさまざまな行動をしている。

1.曹菊さんの裁判所への訴え・その後

上でも触れたが、2012年7月11日、北京在住の女子大学生の曹菊さん(仮名)は、求人の際に性別の制限をしたことを理由に、北京巨人教育グループ(巨人教育集团)を、北京市海淀区法院(裁判所)に訴え、謝罪および精神的損害賠償5万元の支払いを求めた(本ブログの記事「求人(募集)の女性差別に対する初の提訴をめぐって」参照)。

中国の場合、民事訴訟で、原告が裁判所に訴状を提出しても、裁判所が訴えを受理しない(立件しない)ことが少なくない。それでも、中国の民事訴訟法には、「人民法院は訴状あるいは口頭の訴えを受け取り、審査をして、訴えの条件に適合していると認めた時は、7日以内に立件して、当事者に通知しなければならない。訴えの条件に適合しないと認めた時は、7日以内に不受理の裁定をしなければならない」(112条)とあり、7日以内に何らかの決定がなされるはずだった。

しかし、曹菊さんのもとには、期限を過ぎても北京市海淀区法院からは何の連絡もなく、曹菊さんの訴えはたなざらしにされていた。

曹菊さんと弁護士、訴えを裁判所が立件(受理)しないことを告発する手紙を各所に送る

そこで、同年8月16日と9月4日、曹菊さんと黄溢智弁護士は、それぞれ、海淀区法院監察院、北京市一中級人民法院、北京市人民検察院第一分院に、海淀区法院が曹菊さんの訴えを立件(受理)しないことを告発する手紙を送った。その内容は、「海淀区法院が法定の期限を過ぎても訴訟を受理しない行為は、市民が公正な司法救済を得る権利を剥奪し、わが国の司法の権威と法律制度を破壊している。それゆえ、責任を持ってこの訴訟を受理するように命じて、事件を処理する担当者の法律的責任も追及するよう要求する」というものであった。

しかし、どこからも返事はなかった。

今年4月初め、曹菊さんが海淀区法院に再度その後の進展について尋ねると、裁判官は、逆に曹菊さんに対して、「あなたはまだ訴えたいと思っているか?」と尋ねるというありさまだった。

この件に関して、劉小楠さん(中国政法大学教授)は、中国でも、性差別を禁止する規定は、労働法や就業促進法、婦女権益保障法、女性労働者保護特別規定などの法律・法規の中に散見するけれども、問題は「それらには『差別』という言葉について何の明確な定義もないことだ」と言う。劉伯紅さん(中華全国婦女連合会婦女研究所前副所長)は、国連の女性差別撤廃委員会は、中国に対して、女性差別撤廃条約の第1条にもとづいて、女性差別(直接差別と間接差別を含む)の定義を法律で定めるよう勧告しているけれども(遠山注:本ブログの記事「国連の女性差別撤廃委員会、中国政府に最終コメント」でも紹介したように、2006年にも同じことを勧告されている)、中国はまだ立法のレベルでは、何の定義もしていないと述べている(以上は(1))。

鄭楚然さんら114名の女子大学生が、裁判所に立件させるよう北京市と海淀区の人民代表大会に要請する書簡を送る

今年5月25日、広州の中山大学の今年度の卒業生の鄭楚然さんは、曹菊さんの訴えを海淀区人民法院に立件させることを求める書簡を北京市人民代表大会などに送ること、およびその書簡を中国の31省の女子大学生100名の連名にするために、賛同する女性たちに「姓名+省+学校名」を知らせてもらいたいということを自らの微博で訴えた(2)

翌26日、鄭楚然さんは、そうして集まった22省114名の女子大学生らと連名で、北京市人民代表大会と海淀区人民代表大会の内務司法委員会にその書簡を送った(3)

彼女たちが住んでいる省は、広東19、湖北14、内蒙古12、河南省12、北京10、陝西6、山西5、甘粛5、広西4、上海4、浙江4、湖南3、黑龍江2、重慶2、山東2、江蘇2、河北1、香港1、四川1、天津1、遼寧1であった(4)。鄭さんが住んでいる広東がやや多いものの、全国の女性が名を連ねていると言えよう。

7人の女性弁護士が裁判所と婦女連合会に曹菊さんの訴えを立件する(させる)よう要請

曹菊さんが訴えを起こして1年になる前日の今年7月10日には、北京・河南・山東・海南の7人の女性弁護士が、北京市高級人民法院、北京市婦連、海淀区法院、海淀区婦連に対して、以下の2点を要求した。
a)「女性の就職差別事件」を「女性の権利保護合議法廷(妇女维权合议庭)」の重点的審理の範囲に入れること。
b)昨年の曹菊の訴えを女性の平等な就職の権利についての司法保護の典型的な事件として、早く立件し、早く審理すること(5)

2.曹菊さんの海淀区人力資源と社会保障局(人社局)への訴え・その後

昨年7月11日、曹菊さんは、北京巨人教育グループを海淀区法院に訴えただけでなく、海淀区人力資源と社会保障局(人社局)に対しても、同グループを行政的手段で処罰するように求める告発をしていた。

海淀区人社局は、「うっかりミスで、すでに取り消した」という理由から立件せず

10月、曹菊さんは労働監察大隊の調査を受けた。しかし、この事件を担当する監察員は、「たとえ差別の事実が認定されたとしても、どのように処罰するのかを規定している具体的な法律の条文はない」と言った。

そこで、曹菊さんの代理人の黄溢智弁護士は、国家工商行政管理総局が共同で公布した「全国人材市場管理規定(2005年修正)」の第39条に、「使用者がこの規定に違反して、民族・性別・宗教信仰を理由として、採用を拒絶したり、採用の条件を高めたりした場合には(……)県クラス以上の政府の人事行政部門は、責任を持って改めるように命じ、情状が悪い場合は一万元以下の罰金に処すことができる」という規定があることを示した。

しかし、2012年11月30日、海淀労働監察大隊から、曹菊さんに立件を取り消す通知書が来た。通知書には、その理由として、巨人教育学校は「職員がうっかりしていたために、対外的に発表した募集情報の中に、管理助手の職位に性別の制限を設けた」、しかし、「すぐに発見して訂正しており」、曹菊さんが訴えた時は「その性別の制限はすでに削除されており、現在は発表されている募集情報の中には、性差別的情報は存在していない」と書かれていた。

けれど、巨人教育学校は、当時、曹菊さんが応募したとき、返事をせず、問い合わせに対しても、女性だからという理由で断っているのだから、いわゆる「うっかりミス」だったとは考えられない。曹菊さんが裁判を起こしたから、「男性のみ」という条件を削除をしたのであろう。

曹菊さんは、今年1月29日に、北京市人力資源と社会保障局に対して行政再議を申請したが、同局も、3月28日、海淀区人力資源と社会保障局の判断を支持する決定をした(以上は(6))。

曹菊さん、海淀区人社局の不作為について行政訴訟を起こす→受理され、初めて人社局が被告になった裁判へ

そこで、今年4月12日、曹菊さんは、海淀区人力資源と社会保障局の不作為について、海淀区法院に行政訴訟を起こした。

5月7日、この訴訟については、海淀区法院は曹菊の訴えを正式に受理(立件)した。これは、人力資源と社会保障局(人社局)が初めて就職の性差別が原因で裁判で被告になった出来事だった(7)

6月7日、海淀区法院は、この行政訴訟について開廷して審理をしたが(8)、判決はまだのようだ。

3.鄭楚然さんら、全人代の代表(議員)らに法改正を求める訴え→2人の代表が就職の男女差別をなくすための提案を起草

このブログの初めにも触れたように、昨年12月26日、広州・北京・上海・蘭州・鄭州・済南・武漢・南京の8つの都市の20名あまりの女子大学生たちが、鄭楚然さんの呼びかけに応えて、求人仲介機構の「智聯招聘網」に、「男性のみ」などの性差別的な求人広告を出していた267の企業を、いっせいに各地の「人力資源と社会保障局(人社局)」と「工商局」に通報した。

しかし、その結果、「智聯招聘網」からは「男性のみ」求人は消えたものの、処罰されたのは1社だけで、多くの人社局や工商局からは、返事がないなど、まともな対応がなされなかった(本ブログの記事「女子大学生らが全国8都市で『男性のみ』求人の企業267社を当局に通報、その結果は…」参照)。

鄭さんは、当局が自分たちの通報に対してまともな対応をしなかった原因は、法律・法規の中に性差別の定義や具体的な処理方法、労働部門の監督・検査の責任、罰則などが明記されていないことにあると考えた。だから、鄭さんは、2013年3月1日、それらを法律・法規の中に明記することを求めて、全人代の代表や全国政協の委員に対してメールを出そうしていること、また、それを100名の連名の訴えにしたいので、一緒に名を連ねてくれる人はメールか電話で連絡をくれるように自らの微博で訴えた(9)

わずか9時間の間に鄭さん自身を含めて104人の賛同が集まったので、3月2日、鄭さんは、104人の連名で、全人代の代表や全国政協の委員にメールを出した(10)

そのメールの内容(抜粋)は、以下のようなものだった。

就職のジェンダー平等の司法の指導を明細なものにし、女性の平等な就職の権利を保障することに関する提案

私は、女性の就職難の状況は、関係する法律法規の中で募集の性差別の処罰の措置が明確になっていないことによってもたらされていると思う。就職のジェンダー平等の司法の指導を急いで明細なものにし、普及する必要がある。理由は、以下の3点である。

1.女性の就職難の問題は依然として普遍的に存在している

2.現行の関連する法規には募集の性差別についての細かい規定と具体的な処理方法が欠けている。

3.ジェンダー平等はわが国の国策であり、平等な就業の権利は共通認識になっている。

すなわち、法律法規の中で募集の性差別の定義を明細なものにし、かつ具体的な処理の方法を詳しく記して、労働部門の監督検査の責任を規定し、あわせて罰則を明記することが必要である。ゆえに、私は以下の建議を提出する。

1.関係する法律・法規の中で就職の性差別の定義を明確にすること。すなわち「性別を理由として採用を拒否する、あるいは女性に対しては採用基準を上げた場合は、募集の性差別であり、労働部門が監督・処理しなければならない」と規定すること。

2.関係する法律・法規の中で、企業の性差別に対する労働部門の処理のプロセスと処理の細則を規定すること。募集の性差別について、期限を過ぎても改めない単位に対しては、人力資源保障部は3000元以上3万元以下の罰金を課し、あわせて訴えた人の経済的損失を賠償させることができるようにすること。

3.関係する法律・法規の中で、就職の性差別に対する挙証責任を、訴えられた使用者側に課すべきこと


このメールに名を連ねている人の名前や居住地は、鄭さんの微博で公表されている(11)。それを見ると、ジェンダー平等活動グループの活動家が最初に名を連ねているが、全体としては、鄭楚然さんの地元の広州の人が67名(深圳の4名と茂名の1名を加えると、広東省全体で72名)と多くなっており、鄭さんは地元でつながりを作り、それを生かしていることがわかる(他は、北京6名、武漢4名など)。

彼女たちのメールを受け取った全人代の代表のうち、羅和安代表(湘潭大学学長)と馬蘭代表(上海医学薬理センター主任、教育部長)の2人は、それぞれ、全人代に向けて、そのメールに沿った提案を起草した(12)

4.鄭楚然さん、南方人材市場の「男性のみ」求人を追及

鄭楚然さんが去年の10月と今年6月に調査したところ、南方人材市場の350の募集ブースの広告のうち、30以上の広告、すなわち約10%の広告に「男性のみ」「男性優先」と書かれていた。それらのポストは、国家の規定によって女性が従事することを禁止されている重い肉体労働ではなく、「業務員」「運転手」「編集者」などであった(13)

広東省人力資源と社会保障庁の庁長に対して、人材市場を見て回るように求める手紙

そこで、鄭楚然さんは、広東省人力資源と社会保障庁(人社庁)の林応部庁長に手紙を出して、「私と一緒に人材市場を訪問して、女性が就業市場でぶつかっている苦境と差別を知ってください」と訴えた(14)

8月10日、広東省人社庁は、南方人材市場は広東省と広州市の人社庁の求めに応じて調査をして、性差別的な求人告をなくしたと述べた。また、9日付けで広東省人社庁は、日常の巡回を強化し、訴えや通報を受理するルートを整備すること、また人材資源市場での募集活動について集中的な検査をし、性差別などの就職差別を直ちに発見し、是正するように通知を出した(15)

鄭楚然さんと人力資源と社会保障庁(局)との対話

南方人材市場は、8月9日に、鄭さんと会って意見や提案を聞くつもりだったが、鄭さんが広州にいなかったので、両者の対話は、8月14日におこなわれることとなった。

14日、鄭楚然さんが南方人材市場に行くと、広東省の人社局、広州市の人社局、南方人材市場などの機関の6人の関係する責任者が待っていた(16)

鄭さんは、以下のような要望をした。
 [1]企業の募集の掲示に対しては、事前に審査をして、「男性のみ」とか「男性優先」といった性差別的な言葉を書くことを厳しく禁止してほしい。
 [2]隠れた差別をなくしてほしい。若干の企業は女性を採用する際は条件を厳しくし、男性を採用する際は条件を緩くしている。これは隠れた差別が存在するということである。求職者がそうしたことを訴えることができるメカニズムを作ってほしい。
 [3]以前南方人材市場の顧客サービスセンターに電話をして、企業が性差別をしていることを訴えたら、職員に「企業には雇用の自由がある」と言われた。就職の平等に関する法律的知識がないのではないか。

鄭さんに対して、南方人材市場管理事務局の王世華副主任は、企業の募集情報については、審査(とくに性差別の面の審査)を担当している責任者がずっといるけれど、審査のプロセスがわりあい複雑で、管理作業がどうしてもうっかりしがちだったので、今後は誤りの指摘・訂正を強化すると述べた。王副主任は「私たちは企業と意思疎通を強めて、もっと企業に規範を守らせるようにし、参加する企業が性差別的な文言を掲示しないことを保証する」と明言した。

南方人材市場の企画広報部の呂純静副部長は、顧客サービスセンターの職員には法律的知識が乏しいという問題について、「顧客サービスセンターは窓口としての役割をしているだけだから、窓口の職員に高すぎる要求はできない。私たちにはそのための業務機構がある」と答えた(以上は(17))。

また、王世華副主任は、鄭楚然の今回の行動は「パフォーマンス的な行為であり、注目を集めることによって、求人の秩序を乱してさえおり、実際の有効な解決の方法を提供していない」と述べた(18)。別の新聞では、王世華副主任は「これは、私たちの求人の秩序を乱す行為である。庁長に人材市場を歩き回るように要求したことは、私たちは実務部門として反感を持った」「個々の差別の事例が起きたら、立証した後に直接関係部門に言って問題を解決するべきだ」と言ったと報じている(19)。鄭楚然さん自身の微博には「法律の手続きを踏むべきであり、メディアにしょっちゅう訴えるべきではない」と何度も言われたと書かれている(20)

この王副主任の発言については、後日、ある学者(「柳絮」と名乗っている)が、王副主任には「お詫びをして、自分の仕事のうかつさを自己批判する誠意はなくて、逆に鄭楚然のまじめで『等級を飛び越した』訴えに怒る(……)このような言論には本当に驚く」と表明した(21)

また、王副主任は、「就業の平等を促進するには社会のコンセンサスが必要であり、鄭楚然のこのような監督行為は、企業にばつが悪い思いをさせる」と述べ、鄭さんに「いかなる性差別的な語も出現しないようにしたら、問題は解決するのか?」と反問した(22)

鄭さんは、王副主任に対して、「人材市場に定期的に無料の展示ブースを設けてれば、性差別に関する法律の知識を普及させられるし、それは人材市場の関係する責任者の共通認識にもなる」と言った(23)

また、鄭さんは「相手(南方人材市場?)は、あなたは求職者ではないから、監督する権利はないと言うけれども、一人一人の市民に監督する権利がある」と述べた。鄭さんに言わせれば、「パフォーマンスは良いこと」である、「なぜなら、みんなにあるテーマに関心を持ってもらうことができるからだ。ラディカルな行為によって、多くの応募者に法律という手段によって自分の権益を守ることができるということを知ってもらうという私の目的は達成した」ということである(24)

全体として感じること

全体として、以下のようなことが言えるように思う。

[1]彼女たちは、雇用の平等という企業の利害にかかわるような難しい問題に対して、非常に粘り強い運動をしている。この点は、曹菊さんの司法と行政の場への訴えをめぐって、次々にさまざまな行動が起こされたこと、おそらくはその結果として、人社局を被告の座に就かせることまではできたことに端的に示されていると思う。

[2]彼女たちは、雇用の平等のうちでも、とくに求人(募集)の平等に力を入れている。これは、若い女性、とくに女子大学生にとっては、就職の問題が最も切実であり、その第一関門が求人の条件であるからだろう。それと同時に、求人(募集)の性差別(具体的には公然と「男性のみ」とか「男性優先」という条件を掲げること)を規制することは、採用や昇進の平等を実現することに比べれば、より容易で、現実的であるという理由もあるのかもしれない。

[3]彼女たちが具体的に行動を起こした場(北京巨人教育グループ、智聯招聘網、南方人材市場など)に関するかぎりは、いずれも、公然とした性差別的求人をなくすことに成功している。

[4]鄭楚然さんが広東省や広州市の人社局と直接対話したということも、画期的なことのように感じる。以前、3人の女性がDV防止法に関する1万2000筆の署名を渡そうとして、全国人民代表大会法制工作委員会と中華全国婦女連合会に直接手渡そうとしたけれども、たらい回しにされた末、結局は直接応対してもらうことができず、やむなく郵送によって提出するしかなかったことと対比しても、そのように思う(本ブログの記事「DV防止法制定に関する署名1万2000筆に達し、全人代などに提出」参照)。その一方で、そうした状態に追い込まれた当局のメンツをつぶしたと言えるかもしれず、この点はたしかに、前回述べたように当局にジェンダ平等活動グループの夏合宿をつぶそうとさせた(本ブログの記事「ジェンダー平等活動グループの合宿に対する当局の妨害と『herstory maker青年女性行動力育成計画』」参照)要因になった可能性もあろう。

[5]彼女たちの行動も、実効ある規制を可能にするような法律の改正を実現することや性差別的な求人をした企業を処罰することまでは、まだできていない。この点に関しては、より大衆的な運動が必要とされるのだろう。ただし、さまざまな行動によって、法改正の必要性が明確になったことは、一つの成果だとも言えよう。

[2013年9月17日追記]

2013年9月10日、北京市海淀区法院は、ついに曹菊さんの訴えを受理(立件)した。それを伝える記事「“性别歧视第一案”历时一年终获受理」(网易女人2013年9月11日)には、曹菊さんが裁判所前で「立案了,yeah!」と書かれた紙片を持って立っている写真も掲載されています。

(1)杨迪「职场歧视一场悬在半空的诉讼」中国新闻周刊网2013年8月1日。
詳しい経緯については、「遭就业性别歧视 女毕业生诉人社局行政不作为正式立案 人社局首次因性别就业歧视投诉被告上法庭」(社会性别与发展在中国2013年5月9日)も参照のこと
(2)大兔纸啦啦啦的微博2013年5月25日 11:02
(3)女权之声的微博2013年5月27日 10:10、「 22省百余名女大学生联名致信人大,呼吁监督海淀区法院立下性别歧视第一案」社会性别与发展在中国2013年5月27日(来源:郵件)。前者の記事では「111名」と書かれているが、後者の記事では「114名」と書かれている。
(4)21省百余名女大学生联名呼吁监督法院立下性别歧视第一案」性别平等网2013年5月27日。
(5)“性别歧视第一案”诉状递交1年至今未获立案 七名女律师联名建言法院“快立快审”」法制网2013年7月10日。
(6)女大学生就业遭遇性别歧视 法院受理首例人社局被告案」『北京晩報』2013年5月10日。
(7)同上。
(8)杨迪「职场歧视一场悬在半空的诉讼」中国新闻周刊网2013年8月1日。
(9)大兔纸啦啦啦的微博【100人递两会建议】2013年3月1日 17:25
(10)大兔纸啦啦啦的微博【104人一齐呼吁就业反歧视议案上两会】2013年3月2日 02:19
(11)同上。
(12)「青年学生联名信牵动人大代表心 」『光明日报』2013年3月11日→「青年学生联名信牵动人大代表心 」新浪新聞中心2013年3月11日、「马兰代表建议:不得以性别为由提高女生录取门槛」『中国妇女报』2013年3月14日。
(13)招聘广告10%“限男性” 中大毕业生邀厅长访人才市场 省人社厅称稍后回应,或将约谈该毕业生」『南方都市报』2013年8月9日。
(14)同上。
(15)省人社厅: 已清理性别歧视消息」『南方都市报』2013年8月10日。
(16)不满性别歧视语言邀厅长逛人才市场,中大毕业生郑楚然被约谈 不满性别歧视语言邀厅长逛人才市场,中大毕业生郑楚然被约谈 省人社厅保证:人才市场不再出现“限招男性”」『南方都市报』2013年8月15日。
(17)“将杜绝性别歧视招聘语言”」『信息时报』2013年8月15日。
(18)同上。
(19)不满性别歧视语言邀厅长逛人才市场,中大毕业生郑楚然被约谈 不满性别歧视语言邀厅长逛人才市场,中大毕业生郑楚然被约谈 省人社厅保证:人才市场不再出现“限招男性”」『南方都市报』2013年8月15日。
(20)大兔纸啦啦啦的微博8月14日 13:43
(21)柳絮(学者)「邀厅长逛人才市场是作秀吗?」『南方都市报』2013年8月16日。
(22)“将杜绝性别歧视招聘语言”」『信息时报』2013年8月15日。
(23)不满性别歧视语言邀厅长逛人才市场,中大毕业生郑楚然被约谈 不满性别歧视语言邀厅长逛人才市场,中大毕业生郑楚然被约谈 省人社厅保证:人才市场不再出现“限招男性”」『南方都市报』2013年8月15日。
(24)“将杜绝性别歧视招聘语言”」『信息时报』2013年8月15日。
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