2013-02

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『中国女性史研究』第22号刊行

中国女性史研究会の会誌『中国女性史研究』第22号が刊行されました。

内容は以下のとおりです。

【論文】
 中国の高等教育拡大にみる性差の構造――都市・農村、社会階層及びジェンダーの分析と再編―― (大浜慶子)

【研究ノート】
 微笑する中国女性主義――2000年代の荒林らによるネットワーク活動―― (秋山洋子)
 延安時期丁玲の大衆動員戦略の考察――「新しい信念」をめぐって―― (高媛)

【書評】
 Susan L. Mann, Gender and Sexuality in Modern Chinese History, Cambridge University Press 2011 (リンダ・グローブ/田中アユ子訳)

【活動と交流】
 シンポジウム:大娘たちの戦争と記憶――中国で性暴力パネル展を開催して (秋山洋子)
 女性・平和・民族自省――陝西師範大学婦女文化博物館で日本軍性暴力パネル展を開催して (屈雅君/秋山洋子訳)
 第一回中国前近代史ワークショップ<唐宋変革は中国のジェンダー構造をどう変えたか?―中国ジェンダー史教育の方向を探る>報告 (小浜正子)
 第62回現代中国学会大会<ジェンダーに関する特別分科会>報告 (小浜正子)
 ASS 2012 Annual Conferenceにおけるパネル発表の報告 (小浜正子)
 中国女性史研究会2012年合宿報告:文献紹介 (秋山洋子)

【紹介】
 長谷川暁子著『二つの祖国の狭間に生きる――長谷川テルの遺児暁子の半生』(同時代社、2012年、A5判331ページ、2800円) (小俣光子)

【会議参加記】
 「丁玲研究青年論壇―二十世紀中国革命和丁玲的精神史」参加記 (高媛)
 中国女性文学シンポジウムと中日韓女性問題シンポジウム (秋山洋子)

【追悼】
 追悼 佐藤尚子さん (前山加奈子)

【年表】
 現代中国女性史年表追補8(2011.9~2012.8) (遠山日出也)

例会報告
中国女性史研究会第17回総会
中国女性史研究会規約
会員業績
入退会者・編集後記


1冊1000円です(送料別)。

バックナンバーの目次の一覧はこのページです。ご購入については、こちらのページをご覧ください。

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若い行動派フェミニストたちのネットワークの幾つかの特徴

私のブログはその時々のニュースをお伝えしているわけですが、事件のしばらく後になって雑誌や新聞が、その事件や最近の動向についてまとまった記事を掲載する場合もあります。

昨年来、さまざまなパフォーマンスアートや署名活動、抗議活動などをおこなってきた、若いフェミニストたちを中心にしたネットワーク(「ジェンダー平等活動グループ[性别平等工作组]」、正式名称は「ジェンダー平等唱導・アクションネットワーク[性别平等倡导行动网络]」。本ブログの記事「若い行動派フェミニストたちの『ジェンダー平等唱導・アクションネットワーク』」など参照)の活動に関しても、そうした記事がたくさん出ています。

それらの記事から、このネットワークの特徴のうちの幾つかについてメモしてみました。

1.ネットワークの中でも女子大学生などの若い世代の主体性が強い

私は、彼女たちのネットワークにおける、女子大学生などの若い世代(20代)と彼女たちより上の世代であるNGOのリーダーら(呂頻さんら)との関係がよくわからなかったのですが、以下のような点から見ると、女子大学生などの若い世代の主体性がかなり強いように思えます。

 a.中国本土で「男子トイレ占拠」を実行するアイデアを最初に出したのは李麦子さん

2012年2月、女子大学生たちが、広州を皮切りに各地で「男子トイレ占拠」アクションをおこなったわけですが、私は、昨年、本ブログで、その前年の2011年5月、呂頻さん(女性メディアウォッチネットワーク代表)が「トイレも権力である。誰が変えるのか?」という文を書いた際に、男子トイレ占拠のアイデアを出していること、同年8月には、呂頻さんの文が『南方都市報』に転載されるとともに、李思磐さん(ジャーナリスト)も男子トイレ占拠の提案を語っていることを述べました(「女子大学生の『男子トイレを占拠する』アクション」)。

その際、「私は何も、『呂頻さんや李思磐さんの影響によって今回のアクションがおこなわれた』と言いたいわけではありません(たぶんそうした単純・一方的な関係ではないだろうと思います)」と断り書きをしましたが、実際、『京師学人』(北京師範大学学生記者団主宰)の記事に、以下のように書いてありました。「2011年4月、李麦子は、ある香港のボランティアが、香港の人が男子トイレを占拠することによって女性の権利を勝ち取った経験を語るのを聞いた後、北京で『男子トイレ占拠』の初歩的な計画を書いた。適当な機会がなかったので、案はしだいに中途で頓挫した」(1)。つまり、呂頻さんや李思磐さんが男子トイレ占拠についての文を発表する以前に、李麦子さんが男子トイレ占拠のアイデアを持っていて、そのプランも立てたわけです。

さらに、『中国財富』の記事を読むと、「麦子は、西安の大学で勉強していた時、すでに学校の『紅人[人気者といった意味]』だった。男子トイレ占拠は、彼女は大学3年のときにやったことがある」(2)とあり、この記事にもとづくと、彼女は2011年以前に(学内で?)男子トイレを占拠する活動をしていたことになります。

ですから、男子トイレ占拠に関しては、李麦子さんが最初にアイデアを出した(少なくとも、呂頻さんたちとは独自にアイデアを出した)と言えそうですし、プランの作成や実践においても、先んじていたようです。その後さまざまなプロセスを経て(3)、2012年2月の冬令営(合宿)で、李麦子さんや呂頻さんのイニシアでその参加者の意思統一や役割分担をおこなって、実行したということのようです。

 b.呂頻さん:アクションをおこなっている若い女性たちは「非常に、非常に独立している」、「彼女たちが発起人」。この運動には「中心はなく、綱領も指導者もなく、統一した計画案配はない」

呂頻さん(女性メディアウォッチネットワーク代表)は、彼女たちのネットワークのgoogle groupのフォーラムに入っており、合宿でも、「先生 [老師]」と呼ばれて講義をしていますが、その呂頻さんは、2012年11月、香港のジャーナリストの閭丘露薇さんがおこなったインタビューで、以下のように述べています(きちんと意味が取れなかった箇所もあるので、正確な翻訳ではありません)。

閭丘露薇:いま私たちが見ることができるアクションは、個人が自発的に生み出したものですか? それともあなたがたのような民間団体が苦心して幾つかの点を選択して、そのアクションを生み出すようにリードしているのですか?

呂頻:私はずっと、これらの若い人は非常に自主意識があり、他人がコントロールできるものではなく、とくにNGOでは、私たちがそうすることはなおさら不可能だと思っています。実際、多くの時、彼女たちは非常に、非常に独立していて、これらの活動は、彼女たちが発起人であり、私たちのような者にできる役割は、彼女たちを少しばかりサポートすること(4)なのです。

閭丘露薇:現在、このような草の根式、蜂の巣式の、発起者がおらず、基点がないという状況の下で、あなた方の関心は非常の明白であり、フェミニズム運動やジェンダー平等に関心を持っています。あなたは、このような分散した個人に対して、どのような援助ができると考えていますか? または、成り行きが運動になった事件について、あなたはどのような援助が提供できますか?

呂頻:あなたが知っているように、現在の社会運動とはそういったものであり、中心はなく、綱領も指導者もなく、統一した計画案配はありません。それは不可能です(……)私たちは、自分が中心的役割をすることは絶対に希望しませんし、一枚岩的な連盟を設立することも絶対に希望しません。

私は、すべての人といっしょに、すべての事柄は何であるかを不断に考えなければならないと思っています。私たちのいる組織について言えば、それはまだ形が出来上がっておらず、ちょうど発展の過程にあって、比較的重要なのは情報の集散のルートであり(……)強く管理するのではありません(5)


以上の呂頻さんの発言からは、少なくとも具体的なアクションに関しては、若い女性が主導しておこなっていると言えそうです。もちろんわれわれ外部の者には、内部の意思決定の詳細はわかりませんが、Google Groupのフォーラムでそのプロセスがわかる、2012年6月の南京での李陽に対する抗議行動については、鄭楚然さんが提起し、若い女子大学生たちのような人が中心になって計画し、呂頻さんらは助言を与えているだけであることや(本ブログの記事「クレイジー・イングリッシュの李陽のDVと離婚裁判、フェミニズム運動」の「南京での抗議行動の準備について」参照)、ふだんのネットワークの会議は、主宰者は李麦子さんであること(本ブログの記事「若い行動派フェミニストたちの『ジェンダー平等唱導・アクションネットワーク』」参照)から見ても、呂頻さんの発言は真実であるように思われます。

また、呂頻さんのインタビューからは、若い女性たちの自主性を尊重することは、「中心や指導者がない」という組織のあり方とも結びついていることがわかります。この点も、婦女連合会はもちろん、既成のNGOとも異なっているように思います。

2.フェミニズムに啓発されたが、理論だけでなく行動を主張

 a.フェミニズムとの出会い

ネットワークの主要メンバーについては、その個々人を取材した記事も出ていますが、その中で、彼女たちが自覚的なフェミニストになったきっかけについても尋ねています。

李麦子さんは、『京師学人』誌の「あなたは、いつ、改めて『男女平等』という概念を認識したのですか?」という質問に対して、「大学2年の時です。実際には、大学1年の時、幾つかのことについて、おかしいと思ったのですが、なぜおかしいかはわかりませんでした」と答え、『京師学人』誌が「どのようにして、はっきりわかったのですか?」と問うと、李麦子さんば「私は多くのものを読み、多くの人の観点を聞きました。たとえば『第二の性』は古典ですが、読むとすっきりする書物で、私は読み終わった時、多くのことがはっきりわかりました」と述べています(6)

鄭楚然さんの場合は、彼女が大学2年のとき、副専攻で社会学を学んだ際に、教室で初めて「フェミニズム」「ジェンダー平等」などの言葉を聞いて、ジェンダー平等に注意しはじめたそうです(7)

民間の運動の中でジェンダーの視点に出会った人もいます。肖美腻さんは、一元公社(毎週何回か公開で活動をしている民間の公益活動センター)の講座で、ジェンダーの視点を知りました。肖さんによると、「解せなかった問題や怒っていた問題は、みなフェミニズムの中に解答があった」とのことです(8)

以上からすると、これまでのフェミニズムの蓄積があったからこそ、彼女たちの活動もあったと言えそうです。

 b.理論だけではだめ、行動が必要

同時に、彼女たちは、これまでのように理論研究だけではだめで、行動が必要だということも述べています。李麦子さんは、『京師学人』のインタビューに答えて、以下のように語っています。

『京師学人』:「男子トイレ占拠」という活動は、あなたが、それによって現行の性別秩序を動揺させることができる切り込み点だと見なしてよいですか?

李麦子:そうです。私は大学4年の時、ジェンダー平等はずっと唱えられているのに、ずっと良くなっていないことを発見しました。(……)

現在、セクシュアル・マイノリティの運動は意気盛んにおこなわれていて、多くの青年が立ち上がって、「私はgayだ」と言っているのに、「私は女だ。私には平等が必要だ」と言って立ち上がる人はいません。この点がとても不思議です。

婦女連合会はジェンダー平等を推進する非常に中核的な機構ですが、ここ数年、成果は非常に少ないです。この面での行動は非常に少ないのに、理論研究は非常に多くて、ジェンダーの会議や性文化のシンポジウムはしょっちゅうあるけれども、行動はありません(9)


鄭楚然さんは、以下のように語っています。

社会にはDVや性暴力などの問題の研究はありますが、ジェンダー理論のようなものを読む人は少ないのです。私は『第二の性』を読んだことがありますが、本当に難しくて、大学生でもわからないのに、どうして公園で新聞を読んでいるおじさんに理解できるでしょうか? けれど、パフォーマンスをすることによって、フェミニズムの活動が注目され、メディアも報道したがるし、ニュースも面白くなります。私たちも、メディアの取材を受ける時には、平易な話でフェミニズム理論を紹介します。彼らの注目を集めて、一部のわかりたい人がわかりたいと思えば、それでいいのです(10)


李麦子さんは、上でも触れているように、女性自身が立ち上がること、女性が怒り、大声で叫ぶことを主張します。

権利は自ら勝ち取るものです。やらなければ変わらず、やれば変わります。自分のことを他人に代弁させることは永遠にできません。私たちは男性が参与することを支持しますが、男性が大多数を占めてはなりません。なぜなら、これは私たち自身の運動であり、女が一番女の訴えを分かっているのですから(11)


女性が発言権を得ようと思ったら、大声で叫ばなければならりません。小声で話をしたら、発言権を得られません。社会は女に叫ばせずに、女は慎み深なければならない、おとなしくしなければならない、怒ってはならないと言いますが(……)実際には、怒りは女性の気持ちの一つです。しかし、多くのときは抑圧されています(12)


3.セクシュアルマイノリティの運動との関わり

 a.レズビアンをはじめとしたセクマイの運動に携わっている人が多い

彼女たちのネットワークは、その主要メンバーの中に、レズビアンをはじめとしたセクシュアルマイノリティの運動に携わっている人が多いことも特徴です。

まず、最も著名な活動家である李麦子さんは、「私はレズビアンである」と自らのブログで表明しており(13)、レズビアングループの西安relax同学社の発起人の一人です(14)。また、李さん同様に著名な鄭楚然さんも、Sinner-Bフェミニズムレズビアングループ(Sinner-B女权拉拉小组)の創設者の一人です(15)。他に活躍しているメンバーの中でも、小鉄さんは武漢rainbowの中核メンバーですし(16)、Waitingさんはバイセクシュアルであることを公然化していらっしゃいます(17)

李麦子さんは、異性愛の女性は異性愛の男のために生きることが可能だが、レズビアンは自分の独立した人生を設計せざるをえないと言います(18)。また、「青年ジェンダー読書グループ」の2012年7月の座談会で、最近のフェミニズムの活動の中ではレズビアンが活躍していることが話題になったのですが、その際、レズビアングループ「同語」の望舒さんは、「レズビアンはより多くの抑圧を受けているので、そのぶん差別反対の意識が強い。それに対して、異性愛の女性の生活は主流社会の期待に合致している面があるうえ、多くの重荷を背負っているために、行動力は比較的弱い」と語っています(19)

その一方、李麦子さんは、「レズビアンの権益は、女性の権益である」のに、「現在、『レズビアン運動は女性運動の一部分である』という命題は、まだ女性団体とレズビアン団体の広範な共通認識にはなっていない」という情況も指摘しています(これは2011年の発言なので、現在は少しは変わっているかもしれませんが)(20)

 b.周辺でフェミニズムとレズビアンを結びつけたグループが次々に誕生

また、2012年には、彼女たちのネットワークの周辺で、フェミニズムとレズビアンを結びつけたグループが次々に誕生しました。

まず、先に述べたように、鄭楚然さんらが、2012年3月、広州で「Sinner-Bフェミニズムレズビアングループ」を設立しました。そのブログ(SinnerB女权拉拉小组的博客)には、「本グループは、フェミニズムの視点からジェンダー(多元的ジェンダー)平等の行動を推進し、初めて国内でレズビアンとフェミニストとが連帯して、公衆を唱導することを目標にしている。できるだけ注目を引く方法で、できるだけ簡明でわかりやすい言葉によって、抽象的で学術的なジェンダー平等、ジェンダーの多元性の理念を社会の大衆の中に伝達し、それによって社会の伝統文化に対する公衆の反省を推進し、公衆のジェンダー意識の目覚めを実現する」と書かれています。ここには、レズビアンとフェミニストとの連帯のほか、先にも触れたように、鄭楚然さんが「抽象的で学術的」な理念を「簡明でわかりやすい言葉によって」によって目指すことも述べられています。

また、「Sinner-B」の「Sinner」は、「主流の男権制イデオロギーの守護者から『歴史の罪人』とみなされる」という意味だそうです。「B」は、「bitch」の意味であり、「私たちが自らsinnerとbitchを任じ、悪事の限りを尽くす悪女だとふざけて自称することは、主流の道徳に対する転覆と反逆である」と述べています(以上は、「Sinner-Bとは何か」(21)より)。これは、ウーマンリブ的な感覚でしょうか?

それはともかく、2012年には、詳細はわかりませんが、北京と上海にも、それぞれ、「北京フェミニズムレズビアングループ(北京女权拉拉小组)」と「上海フェミニズムレズビアングループ(上海女权拉拉小组)」が設立されました(22)

さらに、呂頻さんと徐玢さんの呼びかけによって、「辺辺グループ(边边小组)」 というグループも設立されました。このグループは、その主旨として「クィア理論とフェミニズムの視点からセクシュアルマイノリティの中の周縁のグループに関心を持つ」(23)ことをうたっており、「セクシュアルマイノリティ運動が主流化・エリート化するばかりで、さまざまな個人を軽視し、社会全体の不平等の中で二重の弱者であるレズビアン・バイセクシュアル・トランスジェンダーおよび抑圧された既婚の女・男の同志と草の根階級の同志を放棄することに反対する」(24)と主張しています。

 c.ただし、彼女たちのネットワークのアクション自体の中ではレズビアンやセクマイの問題はあまり取り上げられていない

彼女たちのネットワークの多くの人が参加している「女行フォーラム[女行論壇]」などの場では、セクシュアルマイノリティの問題も取り上げられています(25)

しかし、ネットワークのアクションの中でセクマイの問題も取り上げることは、非常に少ないように思います。「男子トイレ占拠」でユニセックストイレが要求事項の一つとして挙げられていますが、少なくとも配布されたビラなどの中ではトランスジェンダーの要求としては書かれていません。雇用や教育、DV・性暴力、ミスコンなどに関する運動にも、セクマイの独自要求は組み込まれていません。

そのために、一般の人々は、彼女たちの運動の中でレズビアンをはじめとするセクシュアルマイノリティの人々が活躍していることにも気づかないかもしれません。

もっとも、2012年11月からの、裸の写真でDV反対の署名を訴える運動の中では、レズビアンやトランスジェンダーとして訴えている人もいますし、そうした点は今後変わっていく可能性もあると思いますが……。

4.他に考えるべき問題

彼女たちのネットワークについては、もちろん他にも考えるべき問題はたくさんあると思います。たとえば、以下のような問題です。

 [1]ウーマンリブとの類似性、広く言えば欧米や日本のフェミニズムの状況との対比

この件はSinner-B(bitch)の件で少し触れましたが、欧米や日本では、リブ→フェミニズム理論という順番だったのが、中国では、フェミニズム理論→リブとなっているのでしょうか? 無茶苦茶乱暴なまとめ方ですけれども……。また、日本ではフェミニズム運動(というか社会運動全般)の高齢化やアカデミズムへの偏りが問題になっていますが、中国の最近の運動が何かの形で参考にならないでしょうか?

 [2]インターネット活用のあり方

以前、陳亜亜さんが、「女権在線(オンラインフェミニズム)」というウェブサイトを創設した一つの理由として、女性研究が学術化している問題を指摘していましたが(本ブログの記事「インターネットのフェミニズム組織の試み」)、そうした状況を打ち破るためのインターネットの活用、とくに微博(ミニブログ、中国版ツイッター)などの活用も注目すべきことのように思いますので、この点ももう少しきちんと見ていきたいと思います。

 [3]パフォーマンスアクティビズムや第3波フェミニズムとの関連

沈睿さん(在米学者)が、2012年9月、『中国婦女報』で発表した「パフォーマンスアクティビズムと第3波フェミニズム」(26)の中で、「若い女性がパフォーマンスによって社会問題についての立場を表明し、新しい世代の女性が社会変革に参与し、現存の社会規範に挑戦する」運動として、「パフォーマンスアクティビズム」を紹介しました。沈睿さんは、その例として、アメリカのGuerrilla GirlsRiot Grrrl、ロシアのプッシー・ライオットを挙げています。

沈睿さんの文に対しては、ネットワークの中からも、「これは、中国の青年のフェミニスト行動派のやり方だ」という声が上がっています。こうした文脈でも、彼女たちの運動を捉える必要があるのかもしれません。

(1)「我们争取的,不仅是厕位――“占领男厕所”背后的声音」『京师学人』2012年第1期[PDF]。
(2)“娘子军”游击战」『中国财富』2012年7月29日。
(3)たとえば、2011年8月の女行フォーラム(女行论坛)で、台湾大学社会系副教授の範雲さんが台湾の女性運動について語った際にも、1996年の女子学生の男子トイレ占拠運動とその成果について話しています(「【女行论坛】静默中耕耘细节的妇运革命(现场纪录)」一元公社的博客2011年8月22日)。こうしたことを通じて、台湾の経験も踏まえられていったのでしょう。
(4)(3)の『中国財富』の記事では、たとえば、武嶸嶸は、記者のために機を逸せずにニュースの筋書きを提供し、女性の視点を持った通信稿を設計するとか、柯倩婷は、活動家の足取りを穏健にし、結果を出せるように、最終的に「流産」させないように。上海地下鉄ミニブログ事件のときも、抗議した女性たちはマスクを付けないつもりだったが、柯倩婷がみんなに「ちょっと武装」することによって、自分を保護するように提案したといったことが述べてあります(「“娘子军”游击战」『中国财富』2012年7月29日)。
(5)闾丘露薇对话吕频:促平等要先戒女权主义恐惧症(全文)」网易女人2012年11月30日。
(6)「“只有女人,才最清楚女人的诉求”――对话“占领男厕”发起人李麦子」「『京师学人』2012年第1期[PDF]2012年第1期p.10
(7)中大女生郑楚然以一系列行为艺术呼吁取消性别歧视 站出来了,就不怕被骂」『南方都市報』2012年5月22日。
(8)「青年女权行动派剪影――“小跟班”美腻」『女声』129期[word](2012.10.16-10.21)。
(9)前掲「“只有女人,才最清楚女人的诉求”――对话“占领男厕”发起人李麦子」p.11。
(10)这就是郑楚然」『逸仙周刊』2012年11月16日。
(11)前掲「“只有女人,才最清楚女人的诉求”――对话“占领男厕”发起人李麦子」p.12。
(12)同上p.11。
(13)四年后,再牵手(女同性恋的真实故事改编,连载)序言」麦子家的博客2009年10月23日。
(14)同性婚姻之我见」麦子家的博客2010年10月18日。
(15)“娘子军”游击战」『中国财富』2012年7月29日。
(16)8月17日发现自我之旅酷儿视频工作坊作品精选暨一元公社彩色放映室第54期」发现自我之旅视频工作坊ブログ2012年8月16日。
(17)「拉拉之星 Waiting:随遇而安地去爱和行动」『Les+』27(2012年6月)。
(18)每一个拉拉都应该是是天生的女权主义者」麦子家的博客2011年10月27日。
(19)「女权主义,行动新生?――7月25日青年社会性别读书小组座谈记」社会性別与発展在中国サイト2012年7月29日。
(20)每一个拉拉都应该是是天生的女权主义者」麦子家的博客2011年10月27日。
(21)Sinner-B何为?」SinnerB女权拉拉小组ブログ2010年10月9日。
(22)この2つのグループに関しては、詳しくはわかりませんが、たとえば、上海フェミニズムレズビアングループは、DV反対を訴える「傷を負った新婦」パフォーマンスアートのボランティアを募集しており(「(进行中)反家暴的全国性行为艺术 招募2名志愿者」社会性別与発展在中国サイト2012年11月21日)、パフォーマンスアート活動にも参加していることがわかります。
(23)关于边边小组」边边小组的博客2012年3月29日。
(24)性向自主! 反对霸权! ――边边小组关于性向问题的立场声明」边边小组的博客2012年4月19日
(25)【女行论坛】:“跨性别女人不是女人吗”论坛记录」一元公社的博客2012年4月13日、「2011.8.26同妻问题到底是什么问题」一元公社的博客2012年10月17日。
(26)沈睿「表演行动主义与第三浪潮女权运动」『中国婦女報』2012年9月11日。
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DV被害者の夫殺しに対する死刑に反対する中国国内の運動

長い間夫からひどい暴力を振るわれていた四川省の資陽市安岳県の李彦さんは、ある日、夫に殴られたり蹴られたりしたとき、夫を銃身で殴って殺してしまい、その結果、死刑の判決を受けました。最近、最高人民法院が李彦に対する死刑を許可したため(中国では、死刑に関しては、最高人民法院の再審査・許可が必要)、いつでも李さんを処刑できるようになりました。

この件について、現在、アムネスティ・インターナショナルが李彦さんの死刑執行を停止するように中国政府に訴える署名を集めています(「中国:死刑の危機にある、DV被害者の女性を救え」アムネスティ日本)。ぜひご協力ください。

今回は、主にこの件に関する中国国内の動きをご紹介します。

[目次]
1.事件の経緯
2.近年、中国でもDV被害者の夫殺しの刑は軽くする傾向はあるが、李彦はDV被害者であることが認定されなかった
3.現地の住民348人が請願書
4.最高人民法院に対するNGOの働きかけ
5.全国の弁護士ら136人(のち数百人)が緊急の呼びかけの手紙
6.フェミニストらが、200余筆の署名を四川省高級人民法院に届ける
7.八都市の裁判所前で若い女性が白い布で縛られてもがくパフォーマンスアート
8.国外のメディアも注目

1.事件の経緯

李彦さんは、1972年生まれの42歳です。2009年に譚勇さんと結婚しましたが(以下、敬称略)、譚勇はしょっちゅう李彦を殴ったり蹴ったりし、李彦が他の人とふつうに交流することも許しませんでした。李彦をベランダに追い出して、眠らせなかったこともあります。ある日、2人が喧嘩をしたときに、譚勇は、斧で李彦の左手の指を叩き切ったため、李彦の1本の指の半分は失われてしまいました。

2010年11月3日、李彦が台所で食器を洗っていた時、譚勇は酒を飲んで、その近くで空気銃で落花生を撃って遊んでいたので、李彦が危ないから止めるように言ったことから喧嘩になり、譚勇は、李彦の尻を空気銃で撃とうともしました。譚勇が李彦を足で蹴ったとき、李彦は、譚勇を空気銃の銃身で殴って、譚勇を死なせてしましました。

李彦が夫を殺してしまう以前、彼女は、病院に行って、「左足・胸部の多くの箇所に傷がある」という診断書をもらったこともありました。李彦は、派出所や婦女連合会(婦連)に助けを求めました。しかし、派出所は「婦連に言いなさい」「もしどうしても一緒に生活できないなら、裁判所に離婚裁判を起こしなさい」と言うだけでした。婦連は、「地域の幹部か親戚友人に調停してもらいなさい」と言うだけでした。

李彦は、譚勇の死体を包丁で解体し、頭部は高圧鍋で煮て、叩き切り、袋に詰めて捨てていきました。けれど、譚勇が死んだ翌日の11月4日には、李彦は電話で友人に、夫を殺したことを告げて、友人が「私が警察に届ける」と言うと、李彦は「行ってくれ」と言っていますから、ずっと夫殺しを隠そうとしたわけではありません。

2011年、資陽市中級人民法院は、李彦に死刑の判決を下しました。2012年、四川省高級人民法院も、李彦の控訴を棄却しました(1)

2.近年、中国でもDV被害者の夫殺しの刑は軽くする傾向はあるが、李彦はDV被害者であることが認定されなかった

中国でも、2000年ごろから、DV被害者による夫殺しについて、刑を軽くする試みが女性弁護士などによって始まりました(2)。それでも、2005年以前は、DV被害者による夫殺しも、「故意殺人罪」「故意傷害致死罪」として一律に裁かれて、刑期もほとんど15年以上でした。しかし、2005年に長沙で起きた事件が、一審では懲役12年だったのが、二審で懲役3年・執行猶予3年になったことをきっかけに、刑を軽くする動きが強まったようです(3)。NGOの「DV反対ネットワーク」が、2009年以後、公に報道されたDV被害者の夫殺し48件について調べたところ、処罰はまだ重すぎるけれども、軽い刑や執行猶予になるケースも増え、死刑になったのは1件だけだったそうです。

しかし、李彦の裁判では、以下のような理由で、李彦がDVの被害を受けていたこと自体が認められませんでした。
・李彦の診断書や写真、訴えの記録は、彼女が傷を負ったことしか証明していない(譚勇がやったという証明がない)。
・派出所・婦連には、李彦に応対した記録はあるが、調停はしておらず、譚勇の側の証明がない。

また、李彦が譚勇の死体を解体した点を、「手段が残忍」だとして、死刑の理由にしました。

しかし、上のような理由は、後でも述べるように、いずれも批判されています。たとえば、派出所や婦連の問題について言えば、李彦の弟の李徳准も、派出所や婦連などが、単に李彦の話を聞くだけで、李彦を助けなかった(=譚勇を呼び出して問い質すこともしなかったので、譚勇の側については記録はないのは当然)という不作為こそが、悲劇を引き起こした原因であると指摘しています(4)

李彦の死刑判決に対しては、中国国内でも減刑を求める運動が幾つもおこなわれています。

3.現地の住民348人が請願書

まず、事件が発生した後、四川テレビ局が李彦に取材した番組を放映したところ、その番組を見た現地の348名の一般住民(彼らは譚勇が李彦に暴力をふるっていたことをよく知っていた)が、李彦の処罰をできるだけ軽くするようお願いする請願書への署名おこない、それを資陽市中級人民法院に提出しています(5)

4.最高人民法院に対するNGOの働きかけ

最高人民法院が死刑の再審査をした段階では、NGOの北京衆沢女性法律相談サービスセンター(もと北京大学法学院女性法律研究とサービスセンター)とDV反対ネットワークとは、最高人民法院に対して、李彦を死刑に処すことに反対する法律的な論証を提出しました。この2つのNGOの働きかけによって、全国婦連権益部や四川省婦連、何人かの全人代の代表や最高人民法院特約監督員も、最高人民法院に働きかけをしたようです。

死刑判決の15%は最高人民法院によって否決されるそうですが(2008年のある報道)、李彦の死刑判決は、許可されてしまいました(6)

5.全国の弁護士ら136人(のち数百人)が緊急の呼びかけの手紙

最高人民法院が李彦に対する死刑を許可すると、まず、2013年1月25日に全国各地の136人の弁護士・学者・NGO活動家などが、緊急の呼びかけの手紙を公表しました(7)。以下に、見出しと一部の内容だけをご紹介します。

四川の女性がDVに反抗したために死刑に直面している 各界の人々が緊急に死刑の執行をストップするように訴える

2013年1月25日、北京衆沢女性法律相談サービスセンター(もと北京大学法学院女性法律研究とサービスセンター)主任の郭建梅弁護士、艾暁明教授、全国人民大会代表・遅夙生弁護士、北京興善研究所・滕彪博士、郝建教授、張賛寧教授など全国各地の数百名の弁護士・学者・NGO活動家・社会各界の人々が、共同で連署した訴えの手紙を公開する:李彦がDVに反抗して人を殺した事件について、最高人民法院に死刑の執行をストップするように訴える。

事件のリプレイ:長期にわたってDVの被害に遭った妻が怒って夫を殺した

(略)

一般庶民が情に訴えた:340名の現地の一般庶民が李彦のために心から人情に訴えた

(上記のように、現地の住民348人が請願書を出したことが述べてあります)

弁護士の見解:死者に誤ちがあるので、李彦は死刑にすべきではない

李彦の死刑の再審理の段階の弁護士で、著名な女性権益保護弁護士で、北京千千弁護士事務所主任の郭建梅弁護士は、死者が長い間李彦に対して暴力を振るってきたので、李彦は長い間屈辱に耐え、負担を負ってきたために、「バタード・ウーマン・シンドローム」になっていたと考えている。李彦は、またも暴力を振るわれたとき、一時の怒りの中で、譚勇を殴って死なせたのであり、譚勇の死亡については、譚勇本人に明らかに過ちがあった。一審・二審の裁判所は、譚勇の李彦に対するDVについて、証拠不十分という理由で完全に否定したので、この事件の判決を不公正なものになった。

ずっと中国の死刑問題に関心を持って研究してきた北京興善研究所所長の滕彪は、以下のように考えている:この事件の一審でも、二審でも、譚勇が李彦に、ひどいDVをおこなってきたことを証明する大量の証拠が提示された。すなわち、婦連への訴えの記録、李彦が暴力を振るわれた後の警察への通報の記録、隣近所の人たちの証言といった、さまざまな証拠であり、これらの証拠は、完全に証拠として繋がっており、譚勇が李彦にひどい暴力をふるっていたと完全に認定できる。(……)李彦の行為について、もし原因や動機を問わず、被告人に有利な証拠と事実を考慮せず、死体を解体したという情状だけで量刑を考えるならば、刑事訴訟法の関連規定と「家庭紛争と被害者に明らかに過ちがあった場合は、一般に死刑にしない」という刑事政策に反しているのみならず、わが国の「死刑は少なく慎重にする」という原則にも反しており、さらに、国際条約の「まだ死刑を廃止していない国では、死刑判決は、最も重大な犯罪行為のみに対する懲罰にしなければならない」という規定にも反している。

各界は呼びかける:厳格に譚勇のDVの歴史を調べて明らかにし、量刑の上で十分考慮しなければならず、司法は生命権を尊重しなければならない

(……)これ[今回の事件]は、社会と法律に、弱者に対するDVについて有効な救済の手段が欠けていることの悲劇であり、司法が、法律の精神と公民の生命権を尊重していないことが引き起こした悲劇である。(……)

私たちは、連名で、最高人民法院は死刑執行をストップして、李彦の死刑判決を許可せずに、差し戻し審をおこなうに裁定し、李彦が長い間暴力を振るわれたことによって、心身と精神が歪められた事実を調べて明らかにするように訴える。この事件の処理が、真相や法律の精神、生命権の尊重を真に体現することを希望する。


この書簡に署名した人の中には、冒頭で名前を挙げた人々のほかに、弁護士としては、呂孝権、黄溢智、NGO活動家としては、陸軍、牛玉亮、郭瑞花、武嶸嶸といった人の名前が見えますし、女性人権活動家の王荔蕻の名前もあります。

6.フェミニストらが、200余筆の署名を四川省高級人民法院に届ける

1月28日には、肖美麗さんと清風さん(ハンドルネーム)が、以下のようなフェミニズム的内容の、200筆余りの署名を、二審の裁判所である四川省高級法院に届けました(8)。なぜなら、文中にあるように、最高人民法院が死刑を許可した後であっても、原審の裁判所は、法律的に死刑をストップできる可能性があるからです。

暴力を振るわれた女性・李彦は死刑にしてはならない 法律の尊厳と公正さを示すようにお願いする――女性の権利に関心を持つ者たちからの訴え

私たちは女性の権利に関心を持つ公民である。李彦は、結婚した後ずっと続き、だんだん激しくなったDVに耐えきれず、あちこちに助けを求めても効果がなかったので、最終的には暴力によって暴力を制して、人を殺して死体を解体して死刑になった。この事件とその判決は、最近国内外の大きな関心を集めている。

「刑事訴訟法」第251条およびその第1款によると、下級人民法院が最高人民法院の死刑執行命令を受け取った後、執行前に判決に誤りがあることを発見したときは、執行を停止し、ただちに最高人民法院に報告して、最高人民法院が裁定を下さなければならない。

ここに私たちは、四川省人民法院が死刑の執行を停止して(……)法律の適用の誤りを正し(……)この事件を私たちの社会の法治建設と女性の権利保障の道の一里塚にするようお願いする。

判決と証拠の研究、および女性の権益団体と専門家の視点にもとづいて、私たちは、以下のように考える。

一、被告人の李彦がDVの恐怖に耐えきれず、夫を死に至らしめて、死体を解体したという情状は悪い。けれども、「被害者に重大な誤りがあったときは、処罰をできるだけ軽くする」という法定の斟酌すべき情状があるので、直ちに執行する死刑という極刑を適用すべきではない

この事件の被告人の李彦には、被害者を殺害しようという故意はなく、何らの準備もなかった。また、被害者は人命を奪う武器を持っており、暴力行為と暴力的脅迫をしているという状況の下で、被告人は恐怖と自己保護のために、被害者を傷つけたのであり、事前の計画はなく、被害者の生命を奪う動機もなかった。もし彼女が被害者を殺害しようとすれば、双方の力の差がかけ離れている状況の下では、最も容易で最も簡単な方法である「直接銃撃して被害者を撃ち殺す」という方法を取るはずである。

(中略)

判決はDVの存在を認定していない。これは、事実認定が誤っている。というのは、DVの認定は民事訴訟の「優勢な証拠」の規則を適用しなければならず、合理的な証拠のつながりが形成されてさえいれば、DVを認定しなければならないからである。しかるに、一審と二審の裁判所は、刑事訴訟の証拠規則を用いて、DVの存在を厳格に判断しており、警察と婦連のDV処理の記録の中に被害者がDVをしたことを認めた記録がなかったという理由で、DVの存在を認めなかった。実際は、この事件では、多くの証人が、被害者が被告人に対して暴力を振るっている過程と暴力を振るわれた後の被告人の状況を直接目撃しており、これらは直接証拠である。また、最高人民法院応用法学研究所が発表した「家庭内暴力に関わる婚姻事件の審理指南」を参照すると、DVの認定は、立証責任の面では、「一定の条件の下で立証責任を転移」させなければならない。これは普通の民事案件の証拠規則より緩いのであって、被害者の証言の効力は加害者のそれよりも高いのである。

二、この事件の被告人は、長い間DVの被害を受けており、心理的に、きわめて恐れおじけており、脆弱な状態であり、犯罪時は「バタード・ウーマン・シンドローム」の特徴に合致している

(中略)

表面的には、被告人が夫を殺した後に、死体を解体し、死体を煮た行為は非常に悪辣で、社会的影響も悪いように見える。けれども、いったん被告人が暴力を振るわれ、助けを求めても無駄だったという悲惨な運命を理解し、バタード・ウーマン・シンドロームという特殊な心理的メカニズムを理解するならば、被告人が死体を解体して煮た行為は、長期にわたって振るわれてきた暴力がもたらした苦痛を晴らしたものだと判断できる。なぜなら、相手が反抗する能力と可能性がなくなった状況の下でだけ、長い間抑圧されてきた苦痛と憤怒は、被告人が死亡した一瞬の間に解き放たれるのであり、これが、その後の理性を失った行為なのである。これは、私たちの主管部門と公衆を教育し、DVを認識させ、DVを重視させ、機を逸せずに関与し、有効な救助をすることによって、この事件のような悪性の犯罪を防ぐということの、格好の反面教材にもなる。

(中略)

三、DVの被害に遭ってきた女性を極刑に処しても、このような犯罪に対して威嚇・教育する効果は僅かであり、かえってマイナスの社会的効果を引き起こしやすい

国連が1988年と1996年におこなった2回の死刑と殺人罪との関係についての調査では、死刑が終身刑よりも大きな威嚇力を持っていることを支持する証拠はないという結論が出ている。また、死刑の犯罪に対する威嚇力が僅かだからこそ、国際的には死刑廃止と軽罪化の趨勢が出現しているのである。

(中略)多くの、どうしようもなくて夫を殺した被害女性は、暴力の中で生きるよりも死んだ方がましだと考えている。暴力をふるう夫と離婚するために、北京の女性がわざとタクシー強盗をして監獄に入ることによって暴力的な婚姻から逃れようとしたという事例さえあった。(中略)

中華女子学院の教師の邢紅枚の研究によると、四川の某女子監獄の故意殺人と故意傷害犯の中で、夫を殺したり傷つけたりした者は計233人だったが、そのうち、DVが原因で夫を殺したり傷つけたりした者は計128人であり、54.9%を占めている。(……)邢紅枚が、虐待を受けて夫を殺した121名の受刑者の女性を調査したところ、もとの判決が死刑執行猶予や無期だった者が71人で、58.7%を占めており、10年以上の有期懲役が28人で、23.1%、5―10年以下が7人で、5.8%、5年以下が1人で、0.8%、14人が不詳であった。すなわち、80%以上が10年以上の刑罰に処せられており、故意殺人罪・故意傷害罪という最も重刑の範囲内であった。

その一方、2005年以来、内蒙古・湖南・北京・雲南などの省で、虐待された女性の夫殺し事件に対して、相次いで、「懲役3年、執行猶予3年」、「懲役3年、執行猶予4年」「懲役3年、執行猶予5年」といった判決が多く下されている。(中略)

この事件の被害者の譚勇は自分の暴力的行為によってすでに生命を失った。私たちは、李彦の生命もが死刑によって終わることのないように、わが国の法律の厳粛さと公正さに期待している。私たちは、法によって、李彦の刑罰をできるだけ軽くすることによって、李彦が公正さを獲得できるだけでなく、DVによって虐待された女性が「暴力によって暴力を制する」事件をわが国が公正に審理する一里塚的な事例になることを信じている。

(中略)暴力を振るわれた女性である李彦の処罰は、死刑ではなく、できるだけ軽くするように情状を考慮して、法律の公正な正義の光を、李彦と多くの女性の生活を照らすようにお願いする。

2013年1月28日


こちらの署名者の中には、フェミニズムのNGOやネットワークで活躍してきた馮媛、呂頻、熊婧、李軍といった人のお名前が見えます(9)

7.八都市の裁判所前で若い女性が白い布で縛られてもがくパフォーマンスアート(10)

2月3日には、8都市(北京・上海・広州・武漢・西安・成都・南寧・杭州など)の人民法院(裁判所)の前で、若い女性がいっせいに、「私は次の李彦になりたくない」というスローガンを一字ずつ書いた紙(「我」「不」「要」「成」「为」「下」「一」「个」「李」「彦」)を並べた傍らで、白い布で何重にも包まれて、蛹のようになって、力一杯もがいているのに逃れられない様子を示すパフォーマンスアートをおこないました。これは、DV被害者を象徴するパフォーマンスアートでした(写真)。

武漢でこのパフォーマンスアートをした鄧小南は、「李彦の長い間DVに遭っていたのに、警察も婦連も取り合わず、彼女の夫を出頭させて教育することさえしなかった。彼女は長い間夫に殴られ罵られており、夫が自分に空気銃を向けたとき、きっとひどくビックリして、夫を殺してしまったのだろう。私は彼女が罪を犯していないとは思わないが、もし彼女が生活で暴力を振るわれていた環境を考慮するならば、死刑は重すぎる。李彦の境遇は、彼女一人の境遇ではなく、暴力を振るわれている多くの女性の境遇でもある」と語りました。広州でこのパフォーマンスアートをした花木(仮名)は、「李彦が死刑判決を受けたのは、すべてのDV被害者の悲劇であり、また、関係する法律がない中国全体の悲劇である」と語りました。

このパフォーマンスアートは、『都市女報』が報道しましたが、その記事の中で、呂頻(女性メディアウォッチネットワーク)は「DVに対する放任とDV被害者の夫殺しに対する厳罰は、社会の二重の暴力だ」と語っています。

8.国外のメディアも注目

以上の署名やパフォーマンスアートなどは、彼女たち自身のメディアには詳しく掲載されていますが、中国国内のマスコミでは、それほど多く報道されていないように思います(11)(従来は、政府当局を批判する行動でもあっても、かなり多く報道されているのに、今回の報道がやや少ないのはなぜかはわかりません)。

この件に関しては、海外のマスコミの注目が高いように思います。1月28日には、イギリスのガーディアンが報道し(Chinese officials urged not to execute domestic violence victim)、1月29日には、同じイギリスのデイリーメールが報道し(Chinese woman faces execution for killing abusive husband who had stubbed out cigarettes on her face and cut off part of her hand)、1月30日には、ニューヨークタイムスが報道しました(Chinese Courts Turn a Blind Eye to Abuse)。ニューヨークタイムスの記事は、中国国内でも紹介されました(「美报:遭家暴妇女杀夫被判死刑引争议」新華網2013年1月31日)。国内の関係者が積極的に国外にも発信をしたのかもしれませんし、アムネスティの運動のせいかもしれませんし、不当さがわかりやすい事件だからかもしれません。

しかし、いずれにせよ、中国国内でも、ちゃんと運動はおこなわれているし、そうした運動は、これまでもDV被害者の夫殺しに対する刑を軽くする上で一定の成果を上げてきているということは、以上で述べたとおりです。

(1)以上は、「李彦杀夫案始末――紧急拯救受暴妇女免死」『女声』132期[word](2013.1.28)。
(2)遠山日出也「中国におけるドメスティック・バイオレンスに対する取り組み」『中国21』第27号(2007年)237頁。
(3)刀下留人 李彦因家暴杀夫罪不至死-网易访谈实录」網易女人2013年2月5日。
(4)以上は、(1)および「不要为暴力付生命的代价――挽救李彦紧急行动播报」『女声』133期[word] (2013.2.4)。
(5)八城市女生行为艺术呼吁 我不要成为下一个李彦」社会性别与发展在中国2013年2月4日(来源:新浪微博[作者:@大兔纸啦啦啦])。
(6)「李彦杀夫案始末――紧急拯救受暴妇女免死」『女声』132期[word](2013.1.28)。
(7)紧急呼吁枪下留人 反对对受暴杀夫妇女执行死刑」社会性别与发展在中国2013年1月26日(来源:女行邮件组)。
(8)枪下留人!志愿者赴四川高法请愿 反对对受暴杀夫妇女执行死刑」社会性别与发展在中国2013年1月30日(来源:新浪微博[作者:@女权之声])。また、北京衆沢女性法律相談サービスセンターは、すでに1月24日に、これと比較的似た書簡を最高人民法院に出しています(「关于建议最高人民法院对李彦以暴制暴杀夫案不予核准死刑的公函」北京众泽妇女法律中心ブログ2013年1月24日)。
(9)紧急征集签名,仅今天一天:反对对受暴反抗妇女执行死刑」Google Groups広州新媒体女性網絡2013年1月28日。
(10)八城市女生行为艺术呼吁 我不要成为下一个李彦」社会性别与发展在中国2013年2月4日(来源:新浪微博[作者:@大兔纸啦啦啦])、「八城市女生法院门前“快闪”上演行为艺术抗议家暴 “李彦因家暴犯罪不应判死”」『都市女報』2013年2月4日。
(11)弁護士らの声明を財新網が掲載したり(「因家暴杀夫被核准死刑 学界联名呼吁“刀下留人”」財新網2013年1月25日)、死刑廃止の立場に立つ弁護士が執筆した判決批判が『東方早報』に掲載されたり(张培鸿「从一起杀夫案检讨死刑」『東方早報』2013年1月29日)、(10)の『都市女報』の記事がパフォーマンスアートを報道したり、それから、「刀下留人 李彦因家暴杀夫罪不至死-网易访谈实录」(網易女人2013年2月5日)がDV問題の専門家(馮媛、呂孝権、呂頻)の話を非常に詳しく伝えている、というあたりが主な報道でしょうか。
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