2011-10

台湾の小中学校でのセクシュアル・マイノリティについての教育が保守派の反対で難航・後退

キリスト教保守派や一部立法委員の性教育・セクマイ教育に対する攻撃

 台湾では、今年8月(に入学した生徒)から、小中学校の「ジェンダー平等教育」の中で、新たにセクシュアル・マイノリティ(中国語では「同志」。以下、「セクマイ」と略す)についての教育を開始することになっていましたが、それに対して、保守派(バックラッシュ派)が激しい攻撃をしてきました。

 その点については、すでに今春の本ブログの記事(「台湾の小中学校でのセクシュアル・マイノリティについての教育開始を前にした議論」)でお伝えしましたが、今回は、その後保守派の攻撃がエスカレートして、政策そのものが後退したことについてご紹介します。

 今春、キリスト教保守派らが作った「真愛連盟」(1)は、教育部が新たにセクマイについても教育すべく改定した「ジェンダー平等課程要綱」に反対する署名をインターネットで集めました。この署名は、「ジェンダー平等課程要綱は、学生を同性愛者になるように導くもので、性の解放を教えている」などと言っています。真愛連盟は、この署名を30万集めたと称しています。

 5月初めには、立法院(日本でいう国会)でも、陳淑慧・鄭金玲・管碧玲・朱鳳芝の各立法委員(国会議員)がジェンダー平等課程要綱や教師用のハンドブックに対する批判をしました。彼女たちは、教師用ハンドブックの中に、コンドームを正しく使うべきことや性具を清潔にすべきことが書かれているのを見つけて、「こんなことを生徒に教えるのか?」と批判しました。また、「小学5年からは早すぎるのではないか? 保護者の同意や社会のコンセンサスを尊重すべきだ」といった意見を述べました。

 また、台北市教師会の張文昌理事長も、小中学校から多元的な性的指向や自分の性的指向について教えることは、今の教師にはできないと言い、台北市国民小学家長会連合会の林曉儀総会長も、多元的な婚姻や情欲について小学生に知らせるのは早すぎると主張しました。

 そうした攻撃や批判に対して、ジェンダー平等教育協会の頼友梅・事務局長は、以下のように反論しました。
 ・教育部のハンドブックは教師用のもので、生徒は見ることができないものである。
 ・真愛連盟の批判は、「断章取義(文章や話の前後の意味を顧みずに、自分に都合の良い部分だけを引用すること)」である。

 同志相談ホットラインの鄭智偉・事務局長も、同ホットラインの調査に依拠して、「1/2の同性愛者は小学生のときに自分の性的指向に目覚めており、中学までには3/4が自分の性的指向に目覚める。けれど、多くの生徒は、そのことを他人には言えないので、多くの人はそのことを知らないだけだ」、だから「検討すべきなのは、セクマイ教育が早すぎるかどうかではなく、なぜ反対派がそのことを知らない(または知ろうとしない)かだ」と指摘しました(2)

 台湾ジェンダー平等教育協会も、「セクマイ教育を排除するのは、ジェンダー平等教育ではない」、「セクマイ教育の精神は、いなかる性的指向・性自認の生徒にも、自らを肯定させることにあるのであり、それによって生徒が同性愛者に変わることなどありえない」、「学校ではジェンダーによるいじめが跡を絶っておらず、教育現場では更なる努力が必要だ。セクマイの生徒が受ける教育の家族イメージや愛情、公民の権利なども、異性愛主流の枠組みで構築されている。セクマイ教育は、こうした生徒に可能性を与えるものだ」という見解を表明しました(3)

 けれど、立法院の「教育及び文化委員会」は、「ジェンダー平等課程要綱と教師用ハンドブックを再検討する」という付帯決議(4)を採択しました。また、教育部は賛成・反対両者の団体の意見を聞くとともに、公聴会を開催することを決定しました。

教育部、ジェンダー平等課程要綱と教師用ハンドブックの修正を表明

 台湾の教育部は、セクマイ教育開始直前の7月25日、「国民小中学九年一貫課程要綱審議委員会」を開催し、予定通り小中学校で教育を開始することを決めました。

 けれど、以下のように「ジェンダー平等課程要綱」を修正すると表明しました。そのポイントとして、以下の2点が報道されています。

1.「自己の性的指向を理解する」ことを削除した
 「自己の性的指向を理解する」を「多元的な性的指向を尊重する」に変更。

2.「性的パートナー」などの「デリケートな字句」を削除した
 「性的指向」の定義を、「性的パートナーを選択するときの指向」から「個人が他人から身体あるいは感情の上で受ける吸引力」に変更。「『男と男』『女と女』が吸引しあっても、不正常ではない」とは説明するようですが。

 こうした変更に対して、台湾同志相談ホットラインの喀飛・常務理事は「『異なったジェンダーを尊重する』ことだけ教えて、『自分の性自認や性的指向を認識すること』を教えなければ、どのようにして差別をなくすのか?」「教育史上の大後退だ」と強く批判しました。

 教育部は、ジェンダー平等教育は「毎週の固定した時間や教材はなく、各領域の教学の中で教える」(この点は以前からそう言っていましたが)、「教師用のハンドブックも修正する」ことも決定しました(5)

公聴会での議論

 ジェンダー平等教育課程の要綱と教材についての公聴会は、7月下旬に台湾の8か所で開催されました。公聴会は、賛成・反対両派の激しいアピールの場になりました。反対派は、「教材では、プライドパレード(ゲイパレード)の写真だけでなく、異性愛を支持するパレードの写真も見せるべきだ」とか、「性的虐待についても教えるというが、子どもが家に帰ってきて父母にそのことを尋ねられても、どう答えていいかわからない」といった発言をしました。

 それに対して、ある賛成派の学生は、「小中学校では同性愛について誰も教えてくれなかった。自分には同性しか愛せないことがわかった時は、うつ病になって、自殺を試みた」と自らの体験を述べました。また、ある保護者は「『自分の子どもが同性愛者でない』とか、『同性愛者とは接触しない』とか誰が保証できるのか?」と述べました(6)

 8月1日、ジェンダー人権協会、同志相談ホットライン協会、婦女新知基金会などの賛成派は、真愛連盟を批判するとともに、立法院がセクマイ教育を延び延びにしていることに抗議する集会を開催しましたが(7)、ある人は、「セクマイ教育をすることは、2004年に立法院を通過した『ジェンダー平等教育法』とその少し後で立法院を通過した『ジェンダー平等教育法施行細則(中国語|英訳)』(※)に基づくもので、この政策は7年も実施が遅れているのに、この期に及んでまた紛争になるとは……」と、いらだちを隠しませんでた(8)
 (※)第13条に「ジェンダー平等教育の関連課程は、感情教育・性教育・同志[セクマイ、LGBT]教育などの課程をカバーして、学生のジェンダー平等意識を向上させなければならない」とあります。

ジェンダー平等課程要綱と教師用ハンドブックの修正版はまだ提出されず

 ジェンダー平等課程要綱の修正作業が終了したら、立法院に提出されることになっていますが、10月末現在、まだ提出されていません。

 教師用ハンドブックについては、教育部は「学者に委託して文字を修正しているところであり、新しい教師用のハンドブックは、来年1月に出来る見込みだ」「現在は教師用ハンドブックのファイルのダウンロードは停止しているが、修正版が出来たら、保護者や教師の団体と討論をして、共通認識を得てから、小中学に配布し、またダウンロードもできるようにする」と述べています。教育部は「ジェンダー平等教育は、[他の科目に]融合するやり方で教育するので、ハンドブックがなくても、教師は授業ができる。各県・市もみな教師の研修をしている」と言っています(9)

 しかし、研修がある程度進められているとしても、独自の授業時間数も確保されていない中、ハンドブックもなければ、実際にはセクマイや多元的な性的指向についての教育はおこなわれないままになる学校が多いのではないでしょうか? 

 教育部は「教師用ハンドブックを発行することは既定の政策であり、撤回することはありえない」とも言っていますが、上記のように「共通認識を得てから~」という条件を付けており、実施までにはまだ困難があるようです。


(1)これはインターネット上のサイトで、正体があまり明らかではないのですが、このサイトで唯一具体的に名前を出している斉明さんは、カトリック輔仁大学(wikipedia日本語版による説明)の神学院生命倫理センター(サイト)の副研究員で、保守派の教会の霊糧堂(サイト)や新店行堂会とともに、反同性愛の活動をしてきた人です。
(2)以上は、「情慾、同志教育列課綱 立委砲轟」『自由時報』2011年5月5日、「政治力入侵 同志教育遭抹」『台湾立報』2011年5月5日、陳淑慧「性別及同志教育應循序漸進!」立法院全球資訊網2011年5月9日。
(3)排除同志教育 就不是性別平等教育(聯合記者會 台灣性別平等教育協會 發言稿)」台湾性別平等教育協会サイト2011年5月5日、「課綱排除同志教育? 民間團體:性平法重大挫敗」中央廣播電臺2011年5月5日。
(4)嚴正抗議立法院第七屆第七會性平法附帶決議!」Bi the Wayブログより。
(5)以上は、「課綱刪敏感字眼 國中小可教同志教育」『自由時報』2011年7月26日、「課綱文字微調 同志教育持續」中央社2011年7月25日、「國中小仍教同志課程 無性伴侶內容」『中国時報』2011年7月26日。
(6)公聴会については、「公聽會真愛鬧場 輿論聲援同志」『台湾立報』2011年7月25日、 「鬧完公聽會 真愛轉攻教部」『台湾立報』2011年7月26日、「國中小性平教材 教部:修改不當內容」中時電子報2011年7月27日、「同性戀教育 公聽會意見分歧」中時電子報2011年7月27日、「同志是天生的? 公聽會激辯」聯合報2011年7月27日。
(7)反對立院延宕性平教育 揭發真愛空殼真相 友善台灣聯盟 記者會 2011.8.1」婦女新知基金会サイト、「基督教右翼綁架政策 成性平教育最大阻礙」苦労網2011年8月1日、「性別平等教育延宕 民團立院抗議」『聯合報』2011年8月2日、「立院成真愛傀儡 綑綁性平教育」『台湾立報』2011年8月2日。この集会では、7月22日に起きたノルウェーの連続テロ事件について、キリスト教原理主義者であるブレイビク容疑者が「多元的文化」のヨーロッパ社会を矯正すると述べていたことを取り上げて、このテロは、単一の宗教的価値を固守して、多元的な平等を拒絶したための暴行であると指摘されました。また、ブレイビク容疑者が、日本や韓国とともに、台湾を「多元的文化を排除し、単一民族価値を守っている」の国の一つとして賛美していた点にも注意が喚起されました。
(8)蘇芊玲「同志教育 蹣跚前行」『中国時報』2011年8月11日。
(9)以上は、「性平教師手冊未出爐 教部:不影響教學」中時電子報2011年10月27日、「同志訴求 性平教育儘速上路」中央社即時新聞2011年10月27日、「性別教育/新版教師手冊 最快明年1月送教部」聯合晩報2011年10月27日、「同志大遊行 籲性平教育課綱上路」公視新聞網2011年10月29日。

 なお、先日、杉山貴士「台湾における『性別平等教育』の進展と課題―同志教育(同性愛教育)の位置をめぐって―」(『大阪千代田短期大学紀要』39号[2010年])という論文を読んでみましたので、私なりに簡単にご紹介します。

 杉山氏は、台湾における同性愛者に対する差別の状況や同性愛者人権確立運動の展開、同性愛者団体が同性愛者にとって「性的自己確認」「性的自己形成」の場になっていること、「両性平等教育法」草案が葉永事件(男の子らしくない男子中学生がいじめにあって自殺した事件)をきっかけに「性別平等教育法」と名称を変更して成立したこと、性別平等教育法の施行細則では、カリキュラム上での同志教育(同性愛教育)が明示されていること、教育法に同性愛教育が位置づけられたのはアジア地域においては初めてのことであることを述べています。

 さらに、杉山氏は、台湾における運動の担い手や政策作りの担い手は海外留学を果たした人々が多く、欧米での知見を運動や政策に組み入れたこと、同性愛に関する人権は欧米化・先進国のしるしとして機能していること、ただし、家族主義が強い台湾社会で、海外に行ったこともない一般市民にそれをどう浸透させるのかが問題であることなども指摘しています。

 杉山氏はゲイで、『自分をさがそ。』(新日本出版社 2008年)などの著作もあり、今回の論文を、台湾に滞在したときのご経験や台湾での同性愛に関する研究や報道をもとにして書かれたようです。今回のものは、それほど本格的な論文ではないと思いますが、台湾の同性愛者の状況について日本語で読めるという意味で貴重かと思います。また、性別平等(同志)教育に関して、政策が前進した一方、一般市民への浸透が困難である背景を記述しておられ、興味深く思いました(この点をめぐっては、ある程度類似の指摘自体はすでにあるようにと思いますが)。もちろん、私が紹介しえた論点は全体の一部にすぎませんので、興味を持たれた方は原文をお読みください。
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台湾で同性カップルらのための「パートナーシップ制度草案」を民間で作成

3週間で232名の弁護士の賛同を獲得

 いまの台湾でも、同性どうしは結婚することができず、同性・異性を問わず、結婚していないカップルには、結婚している者どうしには認められる多くの権利(財産相続、養子を取る、税金の減免、健康保険への家族身分での加入、保険の受取人になる、国民住宅への入居、手術への同意など)がきちんと認められていません(1)

 こうした状況に対して、2009年に成立した「台湾パートナーシップ権推進連盟」(台灣伴侶權益推動聯盟、Taiwan Alliance to Promote Civil Partnership Rights:構成団体は「台灣同志諮詢熱線協會」「台灣女同志拉拉手協會」「台灣同志家庭權益促進會」「同光同志長老教會」というセクマイ団体および「婦女新知基金會」「台北市女性權益促進會」という女性団体)は、9月9日、結婚していないカップルにもパートナーシップ権を法律的に保障することについて、232名の弁護士の賛同署名を得たことを発表しました。台湾弁護士公会の現理事長である尤美女弁護士も署名しています(2)

当日のニュース番組での報道(「公視?間新聞-爭同志.非婚同居權利 社團推伴侶法」)です。


同性愛者らの同居についてアンケート調査

 当日は、昨年8月から半年間かけておこなった、(結婚をしていないカップルの)同居についてのアンケート調査(有効回答5887部:異性愛女性27.7%、バイセクシュアル女性9.6%、同性愛女性33.6%、異性愛男性10.4%、バイセクシュアル男性2.11%、同性愛男性15.6%、トランスジェンダー1.1%)の結果も発表されました。

 その内容は、以下のようなものでした。
 ・同居の経験がある――女性同性愛者:6割近く、男性同性愛者:4割近く、女性異性愛者・男性異性愛者:各34%。
 ・各人の最長の同居期間――平均で約3年、最も長い人は女性同性愛者で23年、男性同性愛者で15年、女性異性愛者と男性異性愛者は11年。
 ・同居をする理由――・異性愛者:相手と安定した親密な関係を築くため(女性48.5%、男性52.1%)、互いに生活の面倒をみるため(女性35.4%、男性34.5%)、一緒に生活したほうが経済的だからor試験的な結婚(女性2.1%、男性4.1%)。・同性愛者:相手と安定した親密な関係を築くため(女性60.5%、男性51.7%)、互いに生活の面倒をみるため(女性18.9%、男性24.4%)、法律的に結婚できないから(女性17.7%、男性20.7%)。
 ・パートナーと同居する時に保障すべきである権利(同性愛者の回答) ――社会福利(健康保険、救済金、葬儀、出産)、労働福利(ケア休暇)、医療代理行為(重要な手術の際)、保険、共同で養子を取る (すべて95%以上)

 以上から、「同性愛者にも世帯を持つニーズと事実があること」、「性別や性的指向にかかわりなく、『相手と安定した親密な関係を築く』『互いに生活の面倒をみる』ことが同居の動機であり、『同性愛者の愛情はまじめでない』とか、『同性愛者は安定した長期的関係を発展させたいと思っていない』とかいうのは、ステロタイプな想像にすぎないこと」、「同性愛者には法律婚ができないためにやむをえず同棲している人々もいること」、「同性愛者は、パートナーシップ権の法的保障を求めていること」などが明らかになったとしています(3)

民法改正草案を発表

 10月21日には、台湾パートナーシップ権推進連盟は、「パートナーシップ制度」創設などの民法改正草案を発表する記者会見を開きました(4)(現行の「民法」[中国語])。

 同連盟が目指す民法改正は下の1~4ですが、今回の記者会見では2~4、とくに2のパートナーシップ制度が強調されました。

 1 婚姻制度の中の性別で異なる用語および規定(「男」「女」「夫妻」など)を改定して、同性婚姻を認め、性別に中立的な方法で婚姻の要件および配偶者についての規定を記述する。
 2 パートナーシップ制度を創設する。民法第4編「親族」に新しく「第2章[婚姻]の1」を増やして、「パートナー」とする。
 3 養子縁組の規定を、同性婚姻の合法化に合わせて修正する。
 4 第6章の家に関する定義と規定を改定して、平等を肯定し、親族関係を、必要で自主的に選択する多人数による家族関係に変える。(5)

「パートナーシップ制度」の趣旨

 当日の発表(6)のうち、「パートナーシップ制度」の趣旨について述べた個所を抜粋してご紹介します。

 これは、台湾史上初めて民間が自主的に起草した「パートナーシップ制度」であり、現行の婚姻制度に満足できない多元的な家族構築のニーズに応えるものである。パートナーシップ制度は、同性パートナーの平等な家族構築権を承認するだけでなく、婚姻制度に入りたくない異性パートナーにも実際的な法律的保障を提供する。パートナーシップ制は、台湾が、「結婚が『少子化』の苦境を解決する唯一の方法である」というイデオロギー的混迷を打ち破り、もう鶏のあばら骨のような[取るに足りない]政策的補助金で異性愛の夫婦に出産させて国に尽くさせるのではなく、非婚の同居/同性パートナーの合法的な出産や養育の願いを尊重して、積極的に法律で公民のニーズに応えるものである。現行の婚姻契約のイデオロギー的フィクションと違って、パートナーシップ権推進連盟の「パートナーシップ制度」草案は、当事者の自主的意思を尊重し、当事者が弾力的に権利・義務の取り決めをすることを認め、結びつきやすく離れやすいパートナーシップ関係を励まして、人民がニーズにもとづいて自由に適合した制度を選択することによって世帯を持つようにできるようにするものである。

 パートナーシップ権推進連盟は、パートナーシップ制度と同性婚姻の立法をする運動を同時に推進する。そのうち、同性婚姻の民法改正草案は2012年に完成する見通しである。このたびは、パートナーシップ権推進連盟は、今年9月末、パートナーシップ制度を新たに創設し、養子縁組の章と「家」の章の規定を改正することを含めた民法改正草案を世に出した。以下、「パートナーシップ制度」の、婚姻とは異なるいくつかの特に創造的な制度的側面について簡単に記述する。

一、性別・性的指向の限定や性的関係をパートナーシップ契約の基礎にしない

 異性の恋人であるか同性の恋人であるかにかかわりなく、性別にもかかわりなく、お互いに助け合いたい友だちは、みなパートナーシップ契約を締結して、パートナーとして登記し、法と約束にもとづく権利を持ち、義務を負うことができる。パートナーシップ制度は、現行の婚姻が「一人の男と一人の女」の組み合わせと「性・生殖・愛情」を中心とする仮設に限定していることを打ち破り、家庭を組織する形式の多元的な可能性を承認する。

二、結びつきやすく離れやすい親密な関係を励ます

 現行の婚姻制度は無過失離婚を許していないために、実務上、別れられないために仲が悪くて、ドロドロの争いを続け、悲劇の中にいる夫婦を多数産み出している。それに比べて、パートナーシップ制は、親密な関係の人たちが結びつきやすく離れやすいようにし、片方がいかなる法定の理由も付すことなくパートナーシップ契約を終了することを認める。こうすることによって、パートナーのいずれの一方も、関係の解消を、感情や物質、子どもの監護権の「合法的強要」の道具として利用することはできなくなる。ただし、未成年の子どもの利益を保護するために、パートナーの双方の未成年の子どもに対する扶養の義務は、パートナー関係の終了によって影響を受けないことを明確に定める。

三、パートナーシップ制は家事労働の価値を正面から肯定し、「家事労働利益返還請求権」を明文で規定する

 パートナーシップ制は、夫婦で財産を別にする「別産制」をその法定財産制とし、前もっての取り決めがなければ、パートナーシップ関係が終了する際に、剰余の財産の分配請求権はない。しかし、婚姻制度が家事労働の価値について曖昧な処理方式であるのと比べて、パートナーシップ制は、正面から明文で家事労働の利益の返還請求権を規定し、実際に家事労働に従事した人が、関係終了時に、もう一方に家事労働の合理的報酬を請求する権利を持たせることによって、家事労働の価値と双方のパートナーシップ関係の公平性を明確にする。

四、財産・相続権などの事項は、パートナー自らが必要に合った条項を取り決めることを認める

 婚姻制度が権利と義務について強制的であり、密度が高い規範であるのと比べて、パートナーシップ契約は自由に協議をすることによって、お互いに最も適した権利義務関係の取り決めをすることを認める。たとえば年を取って第二の春のパートナーを見つけた男性や女性の一部は、生活の中ではパートナーと互いに頼り合い助け合っているけれど、死後の財産を老いたパートナーに残したいとは思っていない。第一にその必要がないし、第二に彼らは各自の子どものことを考慮する。けれど、もし2人が結婚したら、相手が法によって必ず自分の相続人になるので、その願いを達成することができない。また、こういうパートナーもいる。彼らは経済的にそれぞれ独立していて、自分が死んだ後に相手が経済的な支えを失うことを心配する必要がないので、財産を、面倒をみてもらう必要がある家族か友人に残したい、さらには社会団体に寄付したいとさえ思っている。ここでパートナーシップ制度が婚姻制度と異なるのは、パートナー間の相続権を強制的に規定せずに、こうした他の財務の計画があるパートナーに対しては、この草案は、パートナーの自主的意思を尊重することを原則にしており、相続権の有無や相続順位などを双方が自主的に定めることによって、制度をそれぞれの人の生命のニーズに即したものにしている。

 婚姻制度と似ているのは、パートナーシップ制も、同性愛者のパートナーに共同で養子を取る、または他方の子どもを養子にすることを認めている点である。また、養子縁組の章では、養子縁組事件の反差別条項を増設して、裁判所が養子を取る人の性的指向や性自認、ジェンダー気質を理由にして養子縁組を拒絶することを禁止して、同性愛者が平等に所帯を持つ権利を保障している。


民法改正草案(「パートナー」の節を増設)

 以下が、民法改正草案のうち、第2章の1「パートナー」を増設する個所です(法律用語などの翻訳には不正確な点もあると思います)(7)

第2章の1 パートナー

第1058-1条(主体の資格)
 性別にかかわらず、満20歳以上で、後見を受けたり補助宣告を受けていない2人の者は、パートナーシップ契約を締結することができる。ただし、以下の状況の一つがある場合は、無効である。
 1)配偶者またはパートナーがいる者が他の人と締結したパートナーシップ契約
 2)直系親族と締結したパートナーシップ契約

第1058-2条(司法審査権)
 パートナーシップ契約の内容が、その情況が明らかに公平を失している場合は、裁判所はパートナーの一方にこれを調整するよう請求することができる。

第1058-3条(成立要件)
1 パートナーシップ契約の締結は、書面でこれをおこない、戸政機関にパートナーの登記をしなければならない。パートナーシップ契約の内容を変更するときも同じである。
2 戸政機関は、パートナーシップ登記が終了した後は、パートナー証を発給しなければならない。

第1958-4条(互いに負う義務)
1 パートナー間は、互いに扶養の義務を負う。
(2以下は略)

第1058-5条(パートナーシップ財産制)
1 パートナーは、パートナーシップ財産制の契約を締結しない場合は、財産を別々にする制度をパートナーシップ財産制とする。
(2以下は略)

第1058-6条(家事労働利益返還請求権)
1 パートナーが家庭のために提供した家事労働は、パートナーシップ関係が終わったときに、もう一方に対して、そのために受けた利益を償還することを請求することができる。
2 前項の家事労働利益返還請求権は、請求権者がパートナーシップ関係の終了を知った時から2年以内に行使しなければ消滅する。パートナーシップ関係を終了した時から5年を超えた場合も同じである。

第1058-7条(親子関係)
1 パートナーシップ関係の存続中に受胎した子どもは、第1063条の、結婚によって生まれた子どもの推定を準用することはない。
2 パートナーは、パートナーの一方または双方が未成年の子どもの権利・義務の行使または負担を取り決めることができる。

第1058-8条(子どもを養子にすること)
1 パートナーシップ関係の存続中は、パートナーの一方は単独で、または他方と共同で、養子を取ることができる。パートナーの一方が単独で養子を取るときは、他方の同意は必要ない。
2 パートナーの一方は、他方の子どもを養子にすることができる。
3 パートナーが養子を取る、またはパートナーが養子になる際は、本章に別に規定があるときを除いて、民法親族編の第3章の養子の規定が準用される。

第1058-9条(親族関係)
 パートナーの一方と他方の血族とは、第969条の姻族の効力を準用しない。

第1058-10条(相続)
1 パートナーの相続権・相続順位・相続分は、べつに約定がある場合のほかは、第1144条[配偶者の相続権を定めた条項]の規定を準用する。
(2は略)

第1058-11条(パートナーシップ関係の終了)
1 パートナーシップ関係は、パートナーの双方の合意、あるいは一方の単独でこれを終了することができる。
2 前項の終了は、書面によってこれをおこない、戸政機関に終了の登記をしなければならない。もとのパートナーシップ証は、戸政機関が回収する。
3 パートナーシップ関係は、下の状況においては、終了とみなす。
 1)パートナーの一方の死亡
 2)パートナー間の結婚

第1058-12条(単独の終了の書面の通知)
 パートナーの一方が単独でパートナーシップ関係を終了させるときは、登記の時に、他方に書面でこれを通知した証明を提出しなければならない。書面で通知できない場合は、その公告を新聞に掲載しなければならない。

第1058-13条(パートナーシップ関係終了の効力)
1 民法第1055条・第1055条の1、第1055条の2の規定[いずれも離婚後の子どもに対する権利義務を定めた条項]は、パートナーシップ関係の終了時にもこれを準用する。
2 パートナーの双方の未成年の子どもに対する扶養の義務は、パートナーシップ関係の終了によって影響を受けない。ただし、その情況による調整が必要な場合は、パートナーの双方がその取り決めができる。取り決めが成立しない場合は、パートナーの一方が裁判所に決定を請求することができる。
3 パートナー間で結婚する場合は、パートナー間の財産制の効力は、パートナーシップ関係の終了によって影響されない。

蔡英文(総統候補、民進党)も立法化に賛同

 台湾の曾勇夫・法務部長は、先日、同性愛結婚やパートナーシップ法について、先進各国の立法を研究するよう指示しました(8)

 10月24日には、来年の台湾総統選挙に民進党から立候補する蔡英文さんが、台湾婦女団体全国連合会の会合に出席した際、質問に答えて、「民進党は『多元的なジェンダーの公民権』を非常に重視しており、性別や性的指向で区別しないパートナーシップ権を立法によって保障して、親密な関係の民主化を促進し、パートナー間の権利義務関係を明確にする」と発言しました(9)

 ただし、蔡さんは、「できるだけ国際社会が設定した基準に向かって前進するけれども、ときに落差が生じるので、社会に、準備をする十分な時間を与えることが必要だ」とも述べました(10)。民進党の副秘書長の劉建忻さんは、「パートナーシップ法の立法は4年以内にやりとげたい」(11)と述べていますが。

 台湾ではすでに2001年に法務部が、同性愛者たちにも家族を作り、養子を取る権利を認めた「人権保障法基本法」の草案を作成しました。しかし、この法案はいまだに成立しておらず、「十年間熟睡している」(12)と言われているような状況です。2004年には、内政部が「社会福利綱領」で、「多元的家庭を支持する:各公共政策の推進は、さまざまな性的指向(……)によって構成された家族形態を尊重する」と述べたのですが、これもまだ単なる宣言にとどまっているようです。

 とはいえ、メディアや政治のレベルでパートナーシップ制度が取り上げられている台湾の状況は、日本よりは進んでいると思います。もちろんパートナーシップ法にも限界はあると思いますし、子どもに対する社会的ケアの拡充なども必要でしょう。しかし、日本の情況にインパクトを与えるという意味でも、今回の民間での草案作成がきっかけになって、前進が勝ち取れるとよいと思います。

(1)同志要婚姻/伴侶權! 同志伴侶要實質的權益及保障!(上)」「同志要婚姻/伴侶權! 同志伴侶要實質的權益及保障!(下)」台灣伴侶權益推動聯盟ブログ(出典:『全国律師』10巻5期[2005年6月])。
(2)若要月圓人團圓,良緣還須伴侶權! 232位律師連署支持伴侶權益立法 記者會」「懇請律師界支持伴侶權立法連署聲明(PDF)」婦女新知基金会ブログ2011年9月9日、「立法保障伴侶權 律師連署支持」『台湾立報』2011年9月11日、「蘋論:民法不能歧視弱勢」『蘋果日報』2011年 9月10日。
(3)以上は、「『同居人就在你身邊』問卷調查(PDF)」、范雲「同居問卷分析報告(PDF)」、「「同居人就在你身邊」相關統計列表(PDF)」、「第1次同居 平均22.6歲」『蘋果日報』2011年9月10日。
(4)メディアでの報道は、「首部民間伴侶制度草案發表」『自由時報』2011年10月21日、「多元家庭 民團推伴侶法草案」『自由時報』2011年10月22日、「同性婚、同居權 爭立法保障」『聯合報』2011年10月22日、「民團推伴侶法草案 予同志等伴侶法律保障」中央廣播電薹2011年10月21日。
(5)台灣伴侶權益推動聯盟伴侶制度、收養、多人家屬草案(PDF)」台灣伴侶權益推動聯盟ブログ、婦女新知基金会サイトより入手。
(6)自由,平等,成家權! 台灣史上第一部民間自主起草『伴侶制度草案』發表記者會」婦女新知基金会サイト。
(7)上記「台灣伴侶權益推動聯盟伴侶制度、收養、多人家屬草案(PDF)」。新聞報道としては、「伴侶盟民法草案 納多元家庭」『台湾立報』2011年10月2日、「同居伴侶法 婚姻法制問題有解」『台湾立報』2011年10月4日。
(8)研究加、法、徳制度 審酌國情共識/同性戀結婚 法務部研議可行性」『自由時報』2011年10月18日。
(9)蔡英文:立法保障同性、異性『伴侶權』 親密關係民主化」NOWnews 今日新聞網2011年10月24日、「支持『伴侶權』 蔡英文將促法案在立院通過」『自由時報』2011年10月24日、「蔡英文:同志『伴侶權』還不到『同志結婚』!」NOWnews 今日新聞網2011年10月25日、「蔡:保障無分性別伴侶權」『自由時報』2011年10月25日。
(10)蔡英文:立法保障同性、異性『伴侶權』 親密關係民主化」NOWnews 今日新聞網2011年10月24日。
(11)蔡提「伴侶權」籲4年内立法」『蘋果日報』2011年10月26日。
(12)自由,平等,成家權! 台灣史上第一部民間自主起草『伴侶制度草案』發表記者會」婦女新知基金会サイト。
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第3回中国女性の社会的地位調査――男女の収入の格差がさらに拡大

 10月21日、中華全国婦女連合会(全国婦連)副主席で書記処第一書記の宋秀岩さんが、第3回中国女性の社会的地位調査の主なデータを発表しました(1)。「中国女性の社会的地位調査」とは、全国婦連や国家統計局が1990年から10年ごとにおこなっている全国的な中国女性の社会的地位に関する調査です(2)

 今回の宋さんの発表は、全体としては、中国の女性の地位の高さや地位の向上を述べたものでした。しかし、宋さんの発表からは、以下のような深刻な情況も伝わってきます。

男女の収入の格差が拡大

 まず、今回の第3回調査(2010年)での、「在職女性の年間の労働収入が男性の何%であるか」という点についての調査結果を、第1回調査(1990年)、第2回調査(2000年)と比較してみました。

 年度:1990年 2000年 2010年
 都市:77.5%→70.1%→67.3%
 農村:79.0%→59.6%→56.0%


 男女の収入の格差は、職場での差別のみならず、教育や家族内での差別など、さまざまな男女差別を反映しているので、ある社会の男女差別を測定する上で非常に重要な指標だと思います。それが悪化していることの意味は重い。

 農村において特に男女の収入の格差が大きいのは、(農業労働よりもずっと高収入が得られる)非農業労働に従事している比率が男性の方が多い(男性36.8%、女性24.9%)ことなどが影響しているのではないかと思います。

 なお、日本の2010年の「一般労働者」の男女賃金格差は69.3です(平成21年版『働く女性の実情』より)。この「一般労働者」には正社員以外も含まれますが、労働時間が短いパートタイム労働者は含まれません。パートタイム労働者を含めれば、日本の男女賃金格差は63程度になってしまいますから(永瀬伸子「男女賃金格差の解消に向けて:何が性中立的な制度か[PDF]」など参照)、中国の都市の男女賃金格差は、まだ日本よりは少ないようには思いますが……(他に、統計に入っていない専業主婦の問題もあります)。

性別分業意識も強まる

 「男は社会を主にし、女は家庭を主にすべきだ」という考え方に賛成する人も、以下のように増えています(3)

 年度:2000年 2010年
 男性:53.9%→61.6%
 女性:50.4%→54.8%


 中国においてこのように、男女の収入の格差が拡大し、性別分業意識が強まっている背景には、中国では社会的民主主義や女性の主体的運動がまだ非常に弱いために、市場経済化による格差拡大や性別分業の拡大に歯止めがかかっていない――という情況があると思います。

 なお、日本の場合、「男は仕事、女は家庭」という考え方に賛成する人は、2002年時点で、男性29.6%、女性21.4%となっています(「男女共同参画社会に関する世論調査」より)。ただし、これも、「主にする」という言葉が入っているかどうかなど、調査方法の違いもあると思うので、日中の比較に関してははっきりしたことは言えませんが、中国でかなり性別分業意識が強くなっていることは間違いないでしょう。

 ただし、中国でも、「男も主体的には家事労働をするべきである」という考えに賛成する人が88.6%なので、男性の家庭参加自体は望ましいと考えられてるようです。また、具体的な数字は挙げられていませんが、「両性の家事労働時間の差が縮小した」ことも発表されています。

農村の留守女性、家庭内暴力

 また、今回の調査では、たとえば以下のように、前回の調査にはなかった「留守女性」(夫が都市に出稼ぎに行って農村に残された女性)や「家庭内暴力」の問題が取り上げられています。

○農村の留守女性の心配ごと
 ・よその地にいる夫の安全……91.7%
 ・家の中で相談をする人がいない……61.5%
 ・年を取った親が病気になったときに助けてくれる人がいない……60.1%
 ・農繁期に手伝ってくれる人がいない……56.0%

○家庭内暴力
 ・結婚生活の中で配偶者から侮辱・罵る、殴る、人身の自由の制限、経済的支配、性生活の強要などのさまざまな形態の家庭内暴力を受けたことがある女性……24.7%
 ・そのうち、配偶者から殴られたことがあると明確に述べた女性……5.5%(農村7.8%、都市3.1%)。

全国婦連の宋副主席が挙げた課題

 もちろん、全国婦連も今回の調査から、さまざまな問題を認識しています。記者会見で『中国婦女報』の記者が「(家庭内暴力のほかに)わが国の女性が直面しているのは、どのような問題か?」と質問したのに対して、宋秀岩さんは、以下のように答えました。

 1.中国の西部の農村女性の教育の状況と健康の状況がまだ比較的悪い。たとえば、中西部の農村の女性が教育を受けた平均年数は東部の農村より0.8年短い(遠山注:別の個所で、中西部の農村女性で高級中学[日本の高校]以上の教育を受けた人は、「10.0%」であると述べています)。また、最近3年間で婦人科の検査を受けたことがない中西部の農村の女性は東部地区より4.3%多い(遠山注:別の個所で、中西部の農村女性で最近3年間で婦人科の検査を受けたことがない人は、「43.4%」であると述べています)。
 2.男女の労働の収入の格差が比較的大きい。
 3.農村の女性が土地を失う問題が比較的顕著である。たとえば、今回の調査では、農村の女性が土地を失っている比率が10年前と比べて、11.8%増加した。
 4.女性が意思決定と管理に参与することに依然として若干の障害がある。たとえば、女性が各レベルの指導的ポストに就く比率は男性の半分である。
 5.女性の家事労働の負担が比較的重い。かつ性別[役割の]観念が再び現れている。たとえば、「男は社会を主とし……(以下、上述の事項)

 宋さんも、以上のような具体的問題を挙げるとともに、「ジェンダー意識を政策決定の主流に入れる」とも述べたのですが、「ジェンダー主流化」というスローガンも、1996年から婦女連合会が唱えてきたことです。にもかかわらず、男女賃金格差の拡大などに歯止めがかけられていないという状況があるわけですが……。

 今回の調査については、今後、より詳しいデータが報告されると思います。ただし、第1期、第2期については、元のデータが十分公表されないままでしたので、今回は(できれば過去にさかのぼって)広く公表してほしいと思います。

[2012年11月24日追記]
 この調査について、より詳しくは、第三期中国妇女社会地位调查课题组「第三期中国妇女社会地位调查主要数据报告」(『婦女研究論叢(妇女研究论丛)』2011年第6期)を参照してください。

(1)記者会見での一問一答を含めた発表全体の記録は、「国新办就第三期中国妇女社会地位调查等情况举行新闻发布会」(中国網2011年10月21日)。
 以下は事項ごとに分けた記事です。しかし、ネットの新聞記事では、記者会見での質問が書かれていません。質問に対する回答だけを書いている場合(☆)もあり、こうした書き方は公正でないと思います。もちろん日本でもこうした記事の書き方はなされると思いますが、質問の内容と答えが噛み合っていない場合もありますし、相互のやり取りを伝えることも重要だと思うのです。
○まとめ
妇女地位调查报告发布 八成女性满意自己家庭地位」同上。
○女性の地位
全国妇联:85.2%的女性对自己的家庭地位表示满意」同上。
女性多方面受歧视 宋秀岩呼吁性别意识纳入决策」(☆)同上。
中国妇女社会地位调查报告显示妇女地位明显进步」(☆)同上。
○政治参加
调查称中国逾半数女性至少有过一种民主监督行为」同上。
中国高度重视赋权女性问题 高层有八位女领导」同上。
○社会保障など
中国超过三成农业户口女性享有社会养老保障」同上。
近六成农村老年女性首要生活来源为家庭成员资助」同上。
○就業
中国18-64岁女性在业率为71.1% 农村比例超八成」同上。
中国超六成外出流动女性对在工作生活感到满意」同上。
调查称1/3高层人才单位存在"男性晋升比女性快"」同上。
○教育
中国超三分之一女性接受过高中阶段及以上教育」同上。
调查称高校女大学生学业成绩优良率比男生高9.7%」同上。
中国妇女社会地位调查报告发布 29.1%女性上过网」同上。
○医療
中国中西部农村逾四成女性从未做过妇科检查」同上。
○女性の声
调查显示:中国3.8%的女童父母都长期不在身边」同上。
近九成女性同意“男人也应该主动承担家务劳动”」同上。
○家庭内暴力
中国一成女性遭性别歧视 近1/4妇女遇家庭暴力」(☆)同上。
中国反家庭暴力意识强 更多人会寻求法律帮助」同上。
 今回の調査結果については、日本のメディアでも、「女性の社会的地位、10年でさらに進歩―中国政府統計」(サーチナ2011年10月22日)、「『男は外、女は内』へ逆戻り=家事重く、共働きつらい-中国」(時事ドットコム2011年10月22日)、「中国の女性4人に1人がDV被害 女性団体が調査」(47NEWS2011年10月22日)と報じられました。ただ、時事通信(時事ドットコム)の見出しの中の「共働きつらい」という文言は、その記事の本文にも、発表の原文にもないので、共働きに対するバイアスのかかった見出しではないかと思いますが……。
(2)第1回調査(1990年)のデータについては、中国全国婦女連合会(山下威士、山下泰子訳)『中国の女性―社会的地位の調査報告』(尚学社 1995年)、第2回調査(2000年)のデータについては、第二期中国婦女社会地位調査課題組「第二期中国婦女社会地位抽様調査主要数据報告」『婦女研究論叢』(2001年第5期)や蒋永萍主編『社会転型中的中国婦女社会地位』(中国婦女出版社 2006年)など参照のこと。
(3)この点に関しては、中国のメディアでも注目されています(「中国女性就业晋升面临歧视 “女主内”观念回潮」中国新聞網2011年10月21日)。
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中国の農村女性の自殺率が低下? その原因は?

 9月10日は世界自殺予防デーでしたが、中国でも、その前後に自殺率――とくに農村の女性の自殺率が話題になりました(1)

 中国の自殺については、従来、以下のような特徴が指摘されてきました。
 1.中国では農村の自殺率が都市の3倍ある。
 2.ほとんどの国では男性の自殺率の方が女性の自殺率よりも高いのに、中国では女性の自殺率が男性の自殺率より25%程度高い。
 3.とくに農村の若い女性の自殺率は非常に高く、男性より66%高い。

 これは、マイケル・フィリップス(費立鵬)らの研究によるものです。フィリップスらが『ランセット(Lancet)』誌に書いた論文は、ネットでも読むことができます(Michael R Phillips, Xianyun Li, Yanping Zhang“Suicide rates in China, 1995-99”[PDF])。

 ただし、フィリップスらが『ランセット』誌などで使用したデータは、1995―1999年のものであり、その後何人かの研究者から、中国の自殺率は、農村や農村女性の自殺率も含めて、低下しているという指摘が出ています(2)

 先月、女性メディアウォッチネットワーク(妇女传媒监测网络)のネットマガジン『女声』は、中国の農村女性の自殺率の低下について述べたいくつかの論文を紹介する記事を掲載しました(「农村妇女自杀率是怎样降下来的」『女声』第 97 期[PDF][2011.9.19―9.25])。

 私も『女声』が紹介した論文を読んでみましたので、以下、ご紹介します(大まかな内容の紹介であり、正確な翻訳では全然ありません)。

 まず、2010年、景軍・呉学雅・張傑という3名の学者が、1987年から2009年までの23年間の全国の自殺率のデータをもとにして、「農村女性の移動と中国の自殺率の低下」という論文を発表しました(景军 吴学雅 张杰「农村女性的迁移与中国自杀率的下降[PDF]」『中国農業大学学報(社会科学版)』2010年4期)。

 景軍らは、以下の点を主張しています。

 1.たしかにかつては世界的に見ても中国の自殺率は高かったが、ここ20年余りは低下しており、現在、中国の自殺率は、世界の平均よりずっと低い。

 WHOによると、2005年に世界で自殺率(人口10万人当たりの自殺者数)が高いのは、順に、リトアニア(38.6)、白ロシア(35.1)、ロシア(30.1)、スロベニア(26.3)、ハンガリー(26.0)、カザフスタン(25.9)、ラトビア(24.5)、日本(23.7)、ガイアナ(22.9)、ウクライナ(22.6)である(3)。2005年の中国の自殺率は12であり、2009年には7.17にまで低下している。中国の自殺率が低下したのは、農村の自殺率と女性の自殺率が低下したからである。

 2.農村の自殺率は、たしかにかつては都市よりもはるかに高かったが、近年、その差が縮まった(→グラフ1)。

グラフ1(景軍らの論文のグラフを日本語に訳しました)
グラフ1

 3.農村女性の自殺率は、たしかに1987―1997年には男性より明らかに高かった。しかし、その後低下し、2006―2009年には、むしろ男性よりやや低くなっている(→グラフ2 ■や◆で結ばれている線が、論文のグラフに描かれている線です)。

グラフ2
グラフ2

 (ただし、私[遠山]は、このグラフ2の2000年以前の箇所には疑問を持ちました。まず、1987年~1990年代初頭の農村女性の自殺率のカーブは、本文で記述されている数値やグラフ1とずれています。本文では、農村女性の自殺率は、1987年が32.3、1988年が30.3、1989年が31.5、1990年が31.37とあり、グラフと10程度異なります。また、グラフ1では、1990年までは農村の自殺率は27~28ですが、グラフ2では農村の男女の自殺率の平均は、17~18程度でしかなく、やはり10程度異なります。本文の数字やグラフ1のほうが正しいとすれば、1987年~1990年については、農村の男女の自殺カーブはずっと上に描かなければなりません(薄い折れ線で私なりに修正を試みました)。また、1991~2000年に関しては公共衛生科学データセンターの数値(中国农村人群自杀变化趋势 1990-2000)を使ったと記されているのですが、この箇所も、公共衛生科学データセンターの数値より論文のグラフのほうが、女性で5程度、男性で2.5程度低くなっており、やはりグラフの作成に何か誤りがあるように見えます(4)。)

 なお、ここでは紹介しきれませんが、中国では自殺に関するデータがじゅうぶん整備されていないので、景軍らは、データの出所について詳しい議論をしています。景軍らは、自殺統計には誤報や漏れ(家族が自殺が死因であることを認めたがらないなど)があることを認めつつも、王黎君らの研究(王黎君,费立鹏,黄正京など「中国人群自杀死亡报告准确性评估[PDF]」『中華流行病学雑誌』24巻1O期[2003年10月])に依拠して、漏れは9%程度であろうと言い、「たとえ10%の漏れを全部毎年のデータに参入したとしても、中国の自殺率が過去23年間に全体として下降しているという趨勢には変わりがない」と述べています。

 景軍らは、中国の農村の女性が減ったのは、彼女たちが都市に行って働くようになったために、以下のような変化が起きたことが原因ではないかと考えています。
 1.自らの独立した収入を得るようになったために、以前の従属的な地位を変えることができた。
 2.都市に行ったために、以前の人間関係の中での衝突(たとえば、嫁と姑との衝突)から離れることができた。
 3.都市では、現在の中国の農村における自殺の主要な手段の一つである農薬が手に入りにくい。

 農村の家庭紛争と自殺との関連については、従来の研究によって明らかになっており、上の1~3の解釈は、たとえば以下のような研究成果から啓発されたものだということです。
 ・呉飛:家庭紛争は、一般の農民から見た「公正」の問題にかかわっている(『浮生取義―対華北某県自殺現象的文化解読』中国人民大学出版社 2009年[ネット書店「書虫」データベースの中のこの本のデータ]など)。
 ・孔媛媛:農村の男性の自殺者は精神的疾病の問題を抱えており、かつ光棍(独身男性)として軽蔑されており、絶望と挫折感が自殺の原因である。それに対して、女性の自殺者は既婚者が多く、精神病の者は比較的少なく、家庭紛争が原因であることが男性よりはるかに多い(「农村青年自杀死亡行为特征和危险因素的性别比较研究」山東大学の修士論文)。

 景軍らは、たしかに都市に出た女性も、都市の人や雇い主との関係では従属的地位に置かれているけれども、都市では、他の仕事を探したり、他の場所に行ったり、行政機関やメディアや法律に訴えたりする手段もあることや、多くの女性は、都市での困難はよりよい生活を追求するための代償だと信じていると述べています。

 ただし、景軍らも、「わが国の農村の自殺問題を討論するときには、この問題[=農村女性の自殺問題]の重大さは続いていることは認めなければならない」と述べています。なぜなら、「WHOのデータは、全世界の男性の自殺率は1950~2000年の間ずっと女性の自殺率より3~4倍高いことを示している」のに、中国の農村では、女性の自殺率は男性の自殺率よりも「やや少ない」だけだからです(『女声』誌は、この点を強調しています)。

 また、つい先日、鐘琴と桂華という学者が「農民の自殺の波の発生メカニズム――鄂東南の3村の農民の自殺問題の調査(1970―2009)」 (钟琴 桂华「农民自杀潮的发生机制———对鄂东南三村农民自杀问题的调查(1970-2009)」)(『戦略与管理』2011年第7・8期合併号)という論文を発表しました。

 この論文は、華中科技大学の中国農村治理研究センターが、2009年に、湖北省の鄂東南地区の3つの村(豊村、茶村、桃村。人口は合計6740人)でおこなった、1970年代から2009年までの自殺についての調査をもとにしています。

 この3つの村は、大多数が「湾」という姓で、父系の「宗族」が力を持っている伝統的な村だそうです。

 3つの村では、1970年代の自殺率は、3で低いのですが、1980年代は52、1990年代は80と非常に高くなります。しかし、2000年以降は15で、低下しています。

 自殺率の男女差は、1970年代や2000年以降は差がありませんが、1980年代は、女性は85で、男性の4.7倍、1990年代は、女性は115で、男性の2.6倍の率で自殺していました。

 3つの村には自殺率の統計はなく、自殺に関する上記の数値は村民の記憶によるものなので、実際の自殺率はもっと高かった可能性があるとのことです。村の農民に自殺のことを尋ねると、農民は、「以前は多かったが、現在は少なくなった」と答え、「以前とは具体的にはいつのことか?」と尋ねると、彼らはだいたい「分田到戸(1980年頃に土地を各戸に分けたこと)以後の10年余りのことだ」と答えたということです。

 自殺は、その80%以上が、家族の矛盾によって触発されたものでした。未婚の青年(18-54歳)女性は、主に父母との矛盾が原因でした(子どもの恋愛や結婚に対する父母の干渉など)。既婚の青年女性の場合は、6割が夫婦の矛盾、3割が姑(舅)との矛盾が原因でした。既婚の青年男性の場合は、7割が夫婦の矛盾が原因で、近隣との矛盾も一定の比率を占めていました。過半数の老年(55歳以上)の自殺は、世代間の衝突が原因でした。

 鐘琴と桂華は、農民の自殺の波の発生メカニズムを、以下のように捉えています。

1.未婚青年女性の自殺

 9件あった未婚の青年の女性の自殺は、1件が1970年代に発生したのを除いて、他の8件は1980年代と1990年代に発生しており、2000年以後は1件もない。

 子どもの恋愛や結婚に対する父母の干渉によるものが4件であり、そのうち2件は、女児が「同姓不婚」のタブーを犯したためのものだった。国家は「婚姻の自由」を言ったが、1980年代と1990年代の未婚者の父母は建国前後に生まれていて、伝統的な婚姻観念と家庭倫理制度の影響を受けており、依然として「結婚は父母が決める」という態度だった。

 1990年前後には、就職試験をめぐる父母との衝突で自殺した例も3件あるが、これは、当時の国家が就職試験を通じて農業戸籍を非農業戸籍に転換させた政策と関係がある。

 1980年代~1990年代の若い女性は、自由平等思想と男女平等の観念の影響を受けて、父権に反抗したが、伝統的宗族型の村落では、それは失敗し、自殺をした。

2.既婚の青年女性の自殺

 1)嫁と姑との関係によるもの

 嫁と姑との関係は、1980年代初めまでは、姑が主導する、相対的にバランスのとれた状態だった。嫁と姑は生産隊で共に労働点数を稼いだが、分家をしない限り、労働点数は舅の名義で記されており、嫁は舅・姑に経済的に依存していた。嫁と姑の間には、家事の分担や農業生産の分業の上で矛盾があり、衝突も起きたが、全体的には姑の立場が強く、嫁が我慢することによってバランスがとれていた。そのため、嫁と姑との衝突が自殺に結びつくことは少なく、1970年代には既婚女性の自殺は1件もなかった。当時から長い時間が経っているので、村民の追憶には漏れがある可能性もあるが、インタビューでも、村民は「あの時代は自殺がきわめて少なかった」と言っていた。

 1980年代から2000年は、嫁と姑との関係に激烈な変化が起き、姑が主導していたバランスが打ち破られた。父と子の分家が大量におこなわれて、女性の地位も向上したので、嫁は我慢しなくなり(1980~1990年代に嫁になった人は「女は天の半分を支える」といった言葉の中で成長してきた)、嫁と姑・舅との関係が非常に緊張し、衝突が増大した。こうした衝突のため、嫁の自殺が増加しただけでなく、姑の自殺も増加した。そのころ姑になった人は、若くても1940年代生まれであり、伝統的な倫理観念の影響が大きいのに対し、その息子や嫁は、姑の期待するようには言うことを聞かず、姑は憤激した。

 2000年以降は、嫁と姑とが仲良く暮らすことを基盤にした新しいバランスが生まれた。その原因は、1.姑の大多数も建国後に生まれ、伝統思想の影響が小さくなった。2.多くの嫁がよそに出稼ぎに行ったため、一緒に生活する時間が短くなり、摩擦が生まれる機会が減少した。3.計画生育政策のために男女比がアンバランスになり、嫁を娶るのが難しくなって、嫁が大切にされるようになった、ということである。2000年以後は、嫁と姑との矛盾による嫁の自殺は1件も起きていない。

 2)妻と夫の関係によるもの

 1980年代初めまでは、1.夫婦関係は、家族関係全体の中では世代間関係に従属しており、父子が主軸であることが家族構造全体の特徴だった。2.夫婦関係においては、妻は夫に従属していた。国家は女性解放を宣伝していたが、当地の宗族型の村落では、夫権が一貫して主導的地位を占めており、女性の自我意識と主体意識はまだはっきりしていなかった。3.生産隊を基礎にし、生産大隊を単位とした紛争調停メカニズムが存在しており、それが弱い立場にいた女性の利益を保証していた。

 1980年代初めから1990年代末は、1. 父子の分家が大量におこなわれて、夫婦関係が世代間関係から次第に独立し、家族構造は夫婦が主軸になった。2.女性の地位が上昇した。分家後の若い人の小家庭では、妻が家庭の利益に敏感で、小家庭の経営を夫より重視した。そのため、夫を家族と村の公領域から小家庭の私領域に取り戻そうとした。この過程は、女性の地位の向上に随伴していた。
 この時期、夫婦の矛盾による大量の女性の自殺が起きた。この時期の夫婦の矛盾による女性の自殺は28件あるが、夫の婚外の恋愛によるものが5件、夫のばくちや怠惰によるものが18件、夫の病気や家庭生活の困難などによるものが5件である。
 この時期、女性は小家庭内部で発言権と重大事項の決定権を勝ち取ろうとしたが、夫は男性主導の意識のままだったので、少なくない妻が夫と権力の争奪戦をしたが、この時期はまだ女性は弱者だったので、権力の争奪は失敗しやすかった。けれど、夫と離婚することは難しかった。当時はまだ離婚は恥ずかしいことだと思われていたし、離婚後の土地や住宅の確保もできなかったし、再婚も難しかった。

 2000年以降は、家族構造においては夫婦が主軸になり、夫婦関係においては夫婦が同権になった。「大きなことは夫が決め、小さなことは妻が決める」というものではあったけれども、女性は家族の中で発言権と決定権を獲得した。2000年以後は、当地では夫が妻を殴るという現象はほとんど起きていない。
 こうした新しい家族関係が生まれたのには3つの原因があった。1.この時期の婚姻は自由恋愛の基礎の上に成立したため、夫婦関係が親密になった。2.若い夫婦の教育水準が向上して、夫婦が互いに相手を尊重し、コミュニケーションによって矛盾を解決するようになった。3.男子選好の出産観により性別の比率のバランスが崩れ、婚姻市場で女性が有利になって、結婚後の地位も上昇した。2000年以後は、夫婦の矛盾による女性の自殺は2件しか起きていない。

3.男性の自殺

 101件の自殺のうち、男性の自殺は27件であった。1件は精神病によるものだったほかは、青年の男性の自殺が14件、老年の男性の自殺が12件であった。未婚の青年の男性の自殺は1件だけだった。

 男性の自殺も家庭の紛争が主な原因だが、男性の自殺率が女性の自殺率より低いのは、家庭紛争が両者に与える影響の相違を示している。

 12件の既婚の青年男性の自殺は、そのうち8件は夫婦の矛盾が原因で、2件は世代間の矛盾が原因で、2件は「階級闘争」の中での処分が原因だった。この12名の自殺した男性は、村の中の弱者グループと見なすことができる。そのうち5名は正常な農業生産能力がなかった。家庭生活が貧困で、妻はそのためいつも夫と口論したが、夫はどうすることもできなかった。こうした状況の下では、妻が優位になる。伝統的な観念では、夫は家の大黒柱であり、家族を養う責任があった。夫にそうした責任を果たす能力がないと、妻は夫に不平を抱き、夫は、妻と家族に対して恥じ入り、家族の面倒をみる能力がないことに強い挫折感が生まれる。このとき、男性は自らの兄弟に助けを求めようとするが、父子や兄弟で分家すること普通になっており、兄弟を援助することは義務でなくなっていたので、兄弟からも援助を得られないと、さらに無力感と絶望を味わう。それらの重圧に耐えられない男性が自殺の道を歩むのも当然である。

 家族の中で力のない男性は、村の中でも頭が上がらず、体面と尊厳を保つのは難しい。2件の独身男性の自殺も、弱者の絶望だと考えられる。代々血統を継ぐことは、当地の宗族的な村落では男子の安心立命(身を落ち着かせ、天からの与えられた本性を全うすること)の基盤になるのであり、そうしてこそ初めて村の中で社会的価値を獲得できる。独身男性は家族の中で愛情と力を得られないだけでなく、村の中でも軽蔑される。

4.老人の自殺

 もし上述の既婚の青年男性の自殺と独身男性の自殺が弱者の自分に対する絶望だとみなすことができるとすれば、大部分の老人男性の自殺は、息子や息子の嫁に対する憤怒によるものである。

 女性の地位が向上し、家族構造が父子を軸にするものから夫婦を軸にするものに変わると、家族の中での老人の地位は低下した。土地を各戸に分ける「分田到戸」は、集団的な養老を家庭養老に変え、老人は子どもと嫁に養われることになった。建国前は、村の中では、宗族の家の暴力の基礎の上の規範と制度が老人の権威と地位を保証していた。建国後は国家権力が農村に侵入し、生産隊長と生産大隊の幹部が家族内の紛争を調停し、老人を養わないことは政治的な誤りだとされた。

 「分田到戸」以後は、国家権力が次第に農村から退出し、老人の地位を保証していたメカニズムは瓦解した。そのため、老人が病気になるか、労働能力を喪失した後に、息子と息子の嫁の養育や世話を受けられず、村の内部からも救助を得られないと、絶望によって自殺することもある。この時期の老年の男性は、家族の中での地位は比較的高いので、期待がかなえられないと、憤激の気持ちが起きやすいため、これらの老年の男性の自殺は強者の憤激と見なすことができる。

 『女声』誌は、フェミニズム誌らしく、鐘琴と桂華の研究について、「この文章から見ると、農村の家父長制の淪落が、自殺の波の退潮と女性の自殺数の減少の最もカギになる要素である」とまとめています。

 桂華は賈潔という女性とともに、上の3村のうちの1村の女性の自殺について特に考察した、「家庭矛盾中的妇女自杀——基于大冶市X村的调查」(『婦女研究論叢』2010年5期)という論文も執筆しています。

 景軍・呉学雅・張傑によるマクロデータの研究も、鐘琴と桂華による卾東南の3村についての研究も、歴史的変化を扱っていることが特徴です。景軍らの研究は、全国的なデータをまとめた意義があり、鐘琴と桂華の研究は、特定の村における個々の自殺の事例の分析として貴重だと思います。いずれの研究も、1980年代~1990年代は、農村の自殺率、とくに女性の自殺率が非常に高かったが、2000年以降は、それらが減少したことを示しています。自殺率のデータの処理や国際比較に関する議論は複雑で、私はフォローできていませんが、両者の研究から見るかぎり、自殺率は減少傾向にあるように見えます。

 もちろん同じ中国の農村でも、地域差は非常に大きいようです。鐘琴と桂華が調査した卾東南地区の3つの村では、1980年代と1990年代の女性の自殺率は、それぞれ「85」と「115」という、当時の農村女性の自殺率の平均よりはるかに高い数字を記録しています。また、鐘琴と桂華によると、同じ湖北省でも、京山地区は、卾東南地区よりここ20年間、老人の自殺率が高く、また、卾東南地区と異なり、2000年以後も増加しているといいます。また、都市でも、2009年、青島市では自殺率が前年より上昇し、女性では自殺が死亡原因のトップで、その理由として15~35歳の女性のうつ病が男性の2倍であることや、その背景には生活と仕事の圧力が大きいことなども報じられており、状況は複雑のようです(5)

 鐘琴と桂華の研究は、男性の自殺についても、ジェンダーの観点から解明している点も興味深く思います。

 しかし、景軍らの研究も、鐘琴と桂華の研究も、2000年以後に農村女性の自殺が減少した原因に関しては、事態が好転したことを一般的・抽象的に述べている感が強く、それを実証する資料やデータが十分示されていない感が強いです。

 そもそも双方の研究では、農村女性の自殺の減少の原因の捉え方がかなり異なっています(景軍らは女性の都市への移動が原因であると考え、鐘琴と桂華は農村内部の家族関係の変化が原因であると考えている。もちろんこの両者は相反するものではないですが……)。

 景軍らの研究について言えば、農村の女性が都市に移動したことによる家族関係の変化をもっと具体的に研究する(または、そうした研究を参照する)べきではないでしょうか。また、夫が都会に出たために農村に取り残された「留守女性」のような、新たな困難を抱え込んだ女性たちもいるわけですが、そうした困難は、自殺には結びつかない質のものなのでしょうか?

 鐘琴と桂華の研究について言えば、たしかに女性が目覚めて反抗した末に、挫折することが自殺に結びつくという現象は、1950年代初めの婚姻法貫徹運動の際にも見られたことで、一般的にはありうることでしょう。しかし、具体的に1980年代以降の村における家族関係については、鐘琴と桂華は、たしかにさまざまな自殺の具体的事例を挙げてはいるのですが、その歴史的変化については一般的な説明をするだけで、それを実証する資料を十分には提示していないように思えました。「2000年以後は、当地では夫が妻を殴るという現象はほとんど起きていない」という記述は、何らかの調査・聞き取りにもとづいているとは思うのですが、調査不足の可能性もあると思います。暴力がなくなってはいないまでも、妻を自殺に追い込むほどのひどい暴力は減少したということかもしれませんが……。

 いずれにせよ、中国科学所長の王極盛が「自殺統計は現在信頼できる公式データがない」と言っているように(6)、データ自体の整備を含めて、まだまだ未解明な点が多いと思います。

(1)我国自杀率数据存争议 农村女性系自杀高发人群」新浪網(来源:法治週末)2011年9月21日など。また、9月27日にイギリスのサイト「ユーラシアレビュー」が中国の自殺事情について論じた記事は、中国でも翻訳され、日本にも紹介されました(「外媒:中国农村女性自杀率不断升高」『環球時報』2011年9月30日、「世界の現状と正反対、中国農村女性の自殺率が高い理由―英メディア」レコードチャイナ2011年10月4日。ただし、ユーラシアレビューの記事中に、中国疾病予防制御センター(中国疾病预防控制中心)が今年9月9日に「中国では毎年30万人が自殺し、そのうち75%が農村で発生し、女性の自殺が男性より25%多い」と発表したとありますが、少なくとも同センターのサイトには、今年、そのような発表は掲載されていません。センターが過去に発表したデータを記事に引用したのではないでしょうか?
(2)何兆雄「中国自杀率高不高?———我说不高!」『学術論壇』2008年2期など。
(3)Wikipediaにまとめられている最新の「国の自殺率順リスト」では、リトアニア(31.5)、韓国(31.0)、カザフスタン(26.9)、ベラルーシ(25.3)、日本(24.9)、ロシア(23.5)、ガイアナ(22.9)、ウクライナ(22.6)、スリランカ(21.6)、ハンガリー(21.5)の順となっています。Wikipediaでは、中国は1999年の数値がとられており(13.9)、27位となっています。もちろんこうした順位は固定的なものではなく、変動しています(主要国の自殺率長期推移[1901~])。
(4)なお、1987―1989年と1991―2000年と2002―2009年ではデータの出所が異なる点も若干気になります。1987―1989年については、WHOの統計によっていますが、もとのデータは衛生部門の統計に依拠しているといい(そのデータの収集手段とサンプルの量は不明)、1991―2000年は公共衛生科学テータセンターの数値で、2002―2009年は『中国衛生統計年鑑』から計算した、ということです。出所の違いが数値に影響している可能性もあります。もっとも、グラフを見るかぎり、大きな断絶はないので、過剰に気にすることはないかもしれませんが……。
(5)女性伤害死亡自杀排第一 2009年青岛668人自杀」半岛网-城市信报2011年10月10日。
(6)我国自杀率数据存争议 农村女性系自杀高发人群」新浪網(来源:法治週末)2011年9月21日。
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