2011-06

台湾、「女性差別撤廃条約施行法」制定

 5月20日、「女性に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約施行法(消除對婦女一切形式歧視公約施行法)」が台湾の立法院の三読会を通過し(参考:台湾の立法手順の解説)、成立しました。来年(2012年)1月から施行されます(1)

2007年、台湾も女性差別撤廃条約に署名(国連は加入を拒否)

 台湾は国連加盟国ではありませんが、2004年から、台湾婦女団体全国連合会は、女性差別撤廃条約(Convention on the Elimination of All Forms of Discrimination against Women[CEDAW])を台湾の国内法化して、台湾でも効力を持たせるよう運動を始めました。同年の8月には、「民間台湾CEDAW実施推進連盟(民間推動台灣落實CEDAW聯盟)」(台湾婦女団体全国連合会、台湾女性学学会、婦女新知基金会、中華民国YWCAなど(2))も結成されました。

 彼女たちは、政府に女性差別撤廃条約に署名するよう要求しました。それを受けて、2007年1月、台湾の立法院は、女性差別撤廃条約に署名すると決定し、同年2月には、陳水扁総統(当時)が加入書に署名しました。外交部はそれをニューヨークの国連に送りましたが、3月、国連のパン・ギムン(潘基文)事務総長は、中華人民共和国が国連における中国の唯一の合法的代表である(国連第2758号決議文)という理由で、台湾の加入を拒否しました(3)

 2009年、台湾政府は、条約加盟国に義務づけられている、条約の実施状況に関する国家報告も完成させました(聯合國『消除對婦女一切形式歧視公約』中華民國(台灣)初次國家報告)。けれども、条約を実現するための国内法が整備されていなかったので、女性たちが条約を国内で活用することはできませんでした。

「女性差別撤廃条約施行法」の内容

 今回成立した、女性差別撤廃条約施行法は、以下のような内容です(抄訳)(4)

第1条 国連の1979年の女性に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(Convention on the Elimination of All Forms of Discrimination against Women)(以下、条約と略称)を実施して、女性に対するあらゆる形態の差別を撤廃し、女性の発展を促進し、ジェンダー的人権の保障とジェンダー平等の促進を実現するために、この法律を制定する。

第2条 条約が掲げている、ジェンダー的人権を保障し、ジェンダー平等を促進する規定は、国内法として効力を持つ。

第3条 条約の規定を法規と行政措置に適用する際には、条約の趣旨と国連女性差別撤廃委員会の条約に対する解釈を参照しなければならない。
 [→この第3条によって、条約本文のみならず、女性差別撤廃委員会が出す「一般的勧告(general recommendations)」と「最終コメント(concluding comments)」(5)も効力を持つことになる (婦女新知基金会・曾昭媛さん) そうです。]

第6条 政府は、条約の規定により、女性に対するあらゆる形態の差別の撤廃の報告制度を設け、4年ごとに国家報告を提出し、関係する専門家・学者および民間団体の代表を招いて審査させなければならず、政府は審査意見を検討・研究して、その後の政策をおこなわなければならない。

第8条 各級政府機関は、条約に規定された内容にもとづいて、主管している法規と行政措置を検討し、条約の規定に合致しない規定があれば、本法の施行後3年以内に法規の制定・修正・廃止および行政措置の改善を完成させなければならない。

付帯決議2項
 ・政府は条約の規定により、女性に対するあらゆる形態の差別撤廃の監督機構を設立しなければならない。その設置の要点は、行政院・立法院・司法院(wikipediaによる説明)・監察院(wikipediaによる説明)・考試院(日本で言う人事院、wikipediaによる説明)がこれを定める。
 ・(……) 行政院・立法院・司法院・監察院・考試院は(……)条約の規定により、4年ごとに国家報告を提出して、国連あるいは条約締結国の専門家・学者を招いて審議させければならない。政府は審議の後の結論的意見にもとづいてフォローアップ・実行の仕事を完成させなければならない。


女性団体の反応

 民間台湾CEDAW実施推進連盟は、この法律が民間団体が要求してきた以下の点を取り入れたことを歓迎しています。
 ・女性差別撤廃条約と国連の最終コメントに国内法としての効力を持たせた。
 ・政府は4年ごとに国家報告を出す。
 ・適用機関を、行政院以外に、立法・司法・監察・考試の4院とその所属機関にまで全面的に広げた。
 ・5院が女性差別撤廃の監督機構を設置し、その設置要点は、各院によって定める(6)

 尤美女弁護士は、「2007年に総統がCEDAWに署名したとはいえ、国連の事務総長が加入を拒絶したために、民衆や弁護士が裁判所で訴訟をしたり、裁判官が判決を書いたりするとき、直接条約の条項を引用することができなかった。台湾がCEDAW施行法を制定した後、来年の元旦からは、人民が基本的権利を侵害されたときは、条約を引用してその権益を請求することができるようになる」と語りました(7)

 台湾は女性差別撤廃条約には加入していないにもかかわらず、加入国と同じように条約を国内に適用し、実施状況を審議・監督するシステムを作る法律を女性団体が制定させたことには、いささか驚かされます。

 もっとも、台湾は、昨年、「市民的及び政治的権利に関する国際規約」と「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」という2つの国際人権規約に署名するとともに、それらの「施行法」も制定したのですが、その後、この2つの国際人権規約は必ずしも生かされていないようです。陳瑤華さん(台湾女性学学会常務幹事)は、「2つの規約の施行法が発効してから今までに、裁判所が2つの規約を判決の基礎にした判例を見たことがない。国内で起草された法案も、2つの規約を法案の基礎にしていない。まして2つの規約の一般的勧告を引用して、法令に対して緻密な修正をしたことはない」(8)と言っています。

 ひょっとしたら、台湾政府がこうした条約や規約に署名した背景には、国際的地位の向上をめざす意図のようなものがあって、それらの規約の内実化はあまりしていない、という面があるのでしょうか? といっても、女性差別撤廃条約や2つの国際人権規約を批准している日本(国際人権規約に関しては重要な点を留保しているが)も、それらの条約・規約は裁判や法律にあまり生かされていないと思いますから、いずれにしても、今後の闘いが重要だということだと思います。

 たとえば、曾昭媛さん(婦女新知基金会)は、国連の女性差別撤廃委員会が民間からシャドウレポートを出すことを歓迎していると述べ、民間の観点から見て、たとえば女性の労働権については、以下のような問題があるので、こうした点を監督していきたいと言っています。
 (1)妊娠した女性を差別する現象が依然としてかなり普遍的で深刻である。条約の第11条は「妊娠又は母性休暇を理由とする解雇及び婚姻をしているかいないかに基づく差別的解雇を制裁を課して禁止する」としており、台湾も、「ジェンダー工作平等法」で妊娠差別を禁止している。しかし、女性がそれを訴えるメカニズムがはっきりせず、違反した使用者に対する制裁の効果も限られている。それゆえ、関連する行政措置(労政人員の訓練不足、民衆に対する宣伝不足など)を改善するよう検討しなければならない。
 (2)一部の外籍配偶者は、居留権はあるが、労働権はない。条約の第11条に「すべての人間の奪い得ない権利としての労働の権利」が規定されているが、現行の移民法の解釈と施行細則では、移民女性は、配偶者を失ったり離婚したりして、自ら産んだ子がいなければ、労働権を失う。基本的人権の観点から言って、居留権がある者には、労働権があるべきである。
 (3)トランスジェンダーと同性愛者が労働権を保有するのは容易でない。馬偕病院の事件(本ブログの記事「女装して勤務した従業員を解雇した病院に罰金5万元――台湾初のトランスジェンダーの雇用差別に関する裁定」参照)において、事件の当事者は、つらく苦しい訴えを終えても、まだ仕事を失っているという現実に直面している。国連の女性差別撤廃委員会が2010年10月22日の47回会議で出した「一般的勧告(General Recommendation)」28号は、女性に対する差別は、性的指向と性自認にもとづく差別も含むことを肯定した(9)。このたび成立した施行法の第3条により、政府は、国連の解釈にもとづいて関連する措置の修正を検討し、できるだけ早くトランスジェンダーと同性愛者の人々に差別のない友好的な環境を作り上げるべきである(10)


(1)CEDAW上路 保障婦女人權」『台湾立報』2011年5月24日、「禁歧視婦女公約 明年施行」『自由時報』2011年5月21日など。立法院の前に、行政院が可決した際の状況については、台北駐日経済文化代表処のサイトにも出ています(「行政院で『女性差別撤廃条約施行法』の草案が通過」台湾週報2010/5/14台北駐日経済文化代表処サイト)。
(2)現在では、以下の団体が、参与または署名しています。
 ・参与団体:台灣婦女團體全國聯合會、台灣女性學學會、婦女新知基金會、中華民國基督教女青年會協會、勵馨社會福利事業基金會、東吳大學人權學程、台大婦女研究室、東吳大學張佛泉人權研究中心、展翅協會、世界和平婦女會、台灣女性影像學會、台北市婦女新知協會
 ・署名団体:台北市雙胞胎協會、主婦聯盟環境保護基金會、現代婦女基金會、中華心理衛生協會
(3)以上については、「【民間推動台灣落實CEDAW 聯盟】大事記(PDF)」(婦女新知基金会サイト)参照。なお、パン事務総長が「台湾は中華人民共和国の一部である」と発言したため、台湾の国連作業グループは、「国連第2758号決議文は国連における中国の代表権問題を解決したに過ぎない。台湾2300万人の権利の問題は解決しておらず、さらに台湾が中華人民共和国の一部とは言及していない。パン事務総長の拡大解釈は理解できず、受け入れることもできない」と抗議しました(「台湾国連作業グループ、パン国連事務総長の解釈は受け入れられない」台湾週報2007/7/6台北駐日経済文化代表処サイト)。
(4)全国法規資料庫」には、まだ掲載されていないようですが、台灣婦女團體全國聯合會「民間婦女團體說明如何監督政府落實『消除對婦女一切形式歧視公約施行法』」(苦労網2011/05/24)や「女人真的要CEDAW了! 歡迎五院,全面推動「消除對婦女一切形式歧視公約」記者會 [會後新聞稿](word)」の文末に原文があります。
(5)「一般的勧告」と「最終コメント」について、赤松良子・山下泰子監修、日本女性差別撤廃条約NGOネットワーク編『日本女性差別撤廃条約とNGO』(明石書店 2003年)は、次のように解説しています(13頁)。
・「一般的勧告」――女性差別撤廃委員会は、条約締約国から提出されるレポートを検討し、「一般的勧告」を出すことができる。「一般的勧告」によって、各国に共通した取り組み課題を明確にするほか、条約の解釈についての委員会の見解を明らかにするなどの意義がある。
・「最終コメント」――各国から国連に提出された、条約の実施状況についてのレポートを、女性差別撤廃委員会が審議した後、それぞれの国に課題を明確にするために出すコメント。他の人権条約機関の「勧告」「最終所見」「最終見解」「総括所見」と同一の性格を持っている。
(6)女人真的要CEDAW了! 歡迎五院,全面推動『消除對婦女一切形式歧視公約』」婦女新知基金会サイト。
(7)(4)の2つの記事参照。
(8)陳瑤華「人權保障如何與國際接軌呢?(word)」婦女新知基金会サイト
(9)原文には、「交差性(intersectionality)が、第2条[=女性に対するあらゆる形態の差別の禁止]に含まれる締約国の全般的義務の範囲を理解するための基本的概念である。セックスとジェンダーに基づく女性差別は、人種、民族、宗教、信仰、健康、地位、階級、階層、性的指向、性自認などの、女性に影響を与える他のファクターと不可分に結びついている。セックスまたはジェンダーに基づく差別は、そうしたグループに属する女性に対して、男性とは異なった程度または方法で影響を与えるかもしれない。締約国は、そうした交差的な差別の形態および女性に対して何重にも否定的なそれらの影響を法律的に認識し、防止しなければならない。締約国は、そうした現象をなくすための政策と計画を採用し遂行しなければならない」(CEDAW/C/2010/47/GC.2の18。中国語訳は「《消歧公约》委员会拟订包括性倾向与性别身份的一般性建议」)とあります。つまり、単純に「女性差別撤廃条約は、性的指向や性自認の問題も扱う」と言っているわけではなく、女性差別は、性的指向や性自認などに基づく差別とも不可分に絡み合っているのだから、女性差別をなくすには、それらに対してもきちんと対処することが必要だ――と述べているのだと思います。
(10)婦女新知基金會資深研究員 曾昭媛 發言稿(word)」婦女新知基金会サイト
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