2011-05

女装して勤務した従業員を解雇した病院に罰金5万元――台湾初のトランスジェンダーの雇用差別に関する裁定

 5月17日、台北市政府のジェンダー工作平等会(*)は、女装して勤務した従業員を解雇した馬偕病院に対して、「ジェンダー工作平等法」にもとづき、罰金5万元を課す裁定を下しました。トランスジェンダーに対する雇用差別についての台湾初の裁定だということです。

 (*)台湾の「ジェンダー工作平等法」の主管機関は、中央では行政院労工委員会で、地方では各地方政府ですが、それぞれに、ジェンダー平等の事項の審議・諮詢・促進のために「ジェンダー工作平等会」が設置されています。

事件の経過

 周逸人さん(34)は、馬偕病院の情報室にコンピュータ技師として5年間勤務してきましたが、心は女性であり、昨年9月から女装して出勤するようになりました。すると、上司に、「男装にしないと、解雇するぞ」と脅されました。その後も、病院は、周さんに対して、仕事を割り当てないとか、適切なトイレの提供を拒否する、席を立つ(トイレに行くことを含めて)にも許可を求めさせて行動の自由を制限するなど、さまざまな手段で周さんを退職に追い込もうとしました。しかし、周さんは屈しませんでした。

 すると、12月29日、病院は、「やるべき職務をせず、勝手に仕事の場を離れた」という理由で周さんを解雇しました。けれど、周さんは、仕事を与えられなかったから仕事ができなかっただけなのです。また、行動の自由を制限されたのに抵抗していただけだったのです。

 病院側は「周さんが女性トイレを使ったから、女性従業員が困った」とも言うのですが、その点については、トランスジェンダーに配慮した職場環境を整えなかった病院側に責任があります。また、周さんは、1人用のトイレを使ったり、女性トイレに人がいなくなるのを待ってから女性トイレを使ったりすることによって、女性/男性従業員が困らないようにしていたのです(1)

 周さんは台北市労工局のジェンダー工作平等会に解雇が不当であることを訴えました。テレビ各局も周さんの訴えをそれぞれ報じました(リンク先は、youtubeの動画)。
 「男扮女裝 前馬偕員工控解職-民視新聞
 「公視晚間新聞(男穿女裝遭開除 控資方性別歧視)
 「男扮女上班 遭馬偕醫院開除
 「長髮短裙高跟鞋 男扮女裝遭馬偕免職?

 また、今年1月9日、台湾TG蝶園都市苦工参政団台湾性別人権協会国立中央大学性/別研究室が、馬偕病院前で抗議行動をおこないました(2)

台北市ジェンダー工作平等会の裁定

 もちろん今回の5月17日の裁定についても、テレビ各局は報じています(youtubeの動画)。
 「全國首例! 解僱變裝男 馬偕遭罰5萬元
 「開除女裝男 馬偕違性別法遭罰-民視新聞

 台北市ジェンダー工作平等会が今回の裁定の根拠にしたのは、「ジェンダー工作平等法(性別工作平等法Gender Equality in Employment Act)」第11条の「使用者は、被雇用者の退職、(解雇手当を与えての)解雇、離職、解雇について、ジェンダー[性別]あるいは性的指向によって待遇の差別をしてはならない」という規定です。

 また、同法の第7条は、募集・採用や昇進について、第8条は、教育訓練について、第9条は、福利施設について、第10条は、賃金について、それぞれジェンダー[性別]や性的指向による差別を禁止しており、これらの条項に違反した場合は「10万元以上50万元以下の罰金に処す」(第38-1条)と定められています。ただし、台北市労工局の担当者によると、今回は、使用者側にも経験がなく、よるべき判例もないことを考慮して、5万元の罰金にしたということです。

 台北市労工局の張基副局長によると、「ジェンダー工作平等法は行政法なので、法に違反した者を処罰できるだけで、使用者に雇用関係を回復させるように強制することはできない。周さんが雇用関係を回復させようとすれば、民事訴訟の手続きによるしかない」とのことですが、「その期間、台北市労工局に弁護士費用・訴訟費用・生活費の補助を申請することはできる」と言っています。

 周さんは職場復帰を求めていますが、病院側は相変わらず「周さんが勝手に職場を離れたから解雇しただけだ」と言っており、台北市の裁定結果を不服として、月末にも上級官庁に訴えるとのことで、たとえそれが却下されても、行政訴訟をするつもりのようです(3)

3団体の共同声明

 台湾トランスジェンダー権益行動会、都市苦工参政団、台湾性別人権協会の3団体は、ジェンダー工作平等委員会[この声明では、こう表記されています]の今回の裁定について共同声明を出しました(4)。以下、その内容をかいつまんでご紹介します。

 ・これは、台湾初のトランスジェンダーの労働差別の判決であり、また、長い間隠されてきたもう一つのジェンダーの抑圧を暴露した。

 ・この判決は、「ジェンダー平等」観念の重要な突破である。ジェンダー工作平等委員会の審定書は、はっきりと、「時代の進展にともなって、性別の定義は、すでに男女両性から『生理性別(セックス)』・『性別の表現』・『性自認』などのさまざまな面を含む多元的な性別概念に広がっており、それゆえ、ジェンダー[性別]工作平等法第7条の規定に依拠すると、使用者は、求職者または被雇用者の採用・配属・配置に関して、もしその服装または性自認によって差別的待遇をするならば、性差別になる」と指摘している。

 ・また、審定書は、明確に「使用者はジェンダー弱者の従業員を補助・協力・援助する義務があり、かつ他の同僚に観念の宣伝・指導ならびに多元的性別の情報を提供する義務がある」ことを指摘している。

 ・台湾の多くのトランスジェンダーは、外見や服装のために仕事が見つからないか、見つかっても昇進できずに、ずっと低い職位に置かれており、また、同僚や上司の嘲笑・侮辱にあっている。馬偕の事件は、トランスジェンダー差別の氷山の一角にすぎない。

 ・私たちは、ジェンダー工作平等法が使用者を取り締まるだけでなく、ジェンダー平等の観念を、職場の制度の中に現実化し、各種の教育・宣伝を通じて労働者の観念の中に浸透させるように期待する。私たちも、職場で差別されているもっと多くのトランスジェンダーの朋友が周逸人と同じように、自分の権利を勝ち取るために勇敢に立ち上がるよう激励する。労働権が侵害されたトランスジェンダーの朋友は、「トランスジェンダー職場差別ホットライン」に電話してきてほしい。

(1)以上は、「男扮女裝員工遭開除 控馬偕性別歧視」『自由時報』2010年12月30日、「2011-01-09抗議馬偕醫院非法解僱跨性別員工行動」台湾性別人権協会サイト。
(2)2011-01-09抗議馬偕醫院非法解僱跨性別員工行動」台湾性別人権協会サイト、「馬偕解雇跨性別員工 周逸人要求恢復工作權」苦労網2011年1月日、「穿女裝被解聘? 勞工控馬偕醫院」『自由時報』2011年1月10日、「馬偕惡意資遣 歧視跨性別者」『台湾立報』2011年1月9日、「遭馬偕解雇 跨性人爭工作權」聯合新聞網2011年1月10日。【いずれの記事も写真あり】
(3)以上は、「炒掉變裝男 罰馬偕5萬 性別歧視首例 『盼能回去工作』」『蘋果日報』2011年5月18日、“Taiwan hospital fined for sacking transvestiteAsia One News2011.5.18
(4)台灣跨性別權益行動會 都市苦工參政團 台灣性別人權協會 聯合聲明「『跨性別員工遭歧視』首樁案例 馬偕醫院非法解雇跨性別員工 遭台北市政府裁罰 呼籲更多跨性朋友站出來爭權益(2011-05-18)」台湾性別人権協会サイト
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WAN理事会への3通の手紙――WAN争議における謝罪=反省点の表明を求めて

私は、ウィメンズ・アクション・ネットワーク(WAN)の会員として、今年1月以来、理事会に対して、昨年のWAN争議の和解において理事会がユニオンWANに対して謝罪した内容を、自ら会の中で公表するか、かりにそれができないとしても、その内容を「理事会の対応の問題点(反省点)」として表明していただくことなどを求めてきましたが、理事会の同意を得るに至りませんでした。

私は、公然と理事会を追及して理事会に反省点の表明などを迫るよりも、会の内部で理事会に申し入れをすることによって、理事会が自発的に反省を表明していただく形を取った方が今後のWANにとって良いと思いましたので、当初は私が提出した文書(手紙)を公表するつもりはありませんでした。

しかし、私の提案は理事会には受け入れられませんでしたので、以下、私が理事会に提出した3通の文書を本ブログに掲載いたします(私の文書に対する理事会の2通のご返事については、現在、理事会に公表の許可を求めているところです。許可が得られ次第、公表させていただきます〔*しかし、5月15日、理事会から、私のブログへの掲載は許可できないという回答がありました。許可できない理由については書いてありませんでした。私が書いた掲載許可願は、このエントリの末尾に掲載しています――5月16日追記〕)。

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