2011-03

台湾刑法の「性自主妨害罪」の改正草案をめぐって

 台湾では、昨年夏以降、子どもに対する性犯罪の量刑の問題をきっかけに、刑法の「性自主妨害罪」の章の改正や裁判官のあり方が問題になっています。

1.1999年に「強姦罪」から「強制性交罪」へ:男性も対象にするとともに、被害者の「意思に反する」ことを要件に

 まず、「中華民国刑法」の第16章「性自主妨害罪[妨害性自主罪]」について紹介しておきます。この章には、以下のような条文があります(抜粋)。

第221条(強制性交罪)
 男女に対して暴力・脅迫・恐迫・催眠術またはその他のその意思に反する方法によって性交をした者は、3年以上10年以下の有期懲役に処する。
 前項の未遂犯はこれを罰する。

第222条(加重強制性交罪)
 前条の罪を犯し、以下の状況の一つがある者は、7年以上の有期懲役に処する。
 一、2人以上が共同でこれを犯す者
 二、14歳未満の男女に対してこれを犯す者
 (以下略)

第224条(強制わいせつ罪)
 男女に対して暴力・脅迫・恐迫・催眠術またはその他のその意思に反する方法でわいせつ行為をした者は、6ヵ月以上5年以下の有期懲役に処す。

第224-1条(加重強制わいせつ罪)
 前条の罪を犯し、第222条第1項の各款の状況がある者は、3年以上10年以下の有期懲役に処する。 

第227条(14歳未満・16歳未満との性交罪・わいせつ罪)
 14歳未満の男女と性交した者は、3年以上10年以下の有期懲役に処す。
 14歳未満の男女とわいせつ行為をした者は、6ヵ月以上5年以下の有期懲役に処す。
 14歳以上16歳未満の男女と性交した者は、7年以下の有期懲役に処す。
 14歳以上16歳未満の男女とわいせつ行為をした者は、3年以下の有期懲役に処す。

 「性自主妨害罪」という章は、1999年4月に中華民国刑法が改正された際に設けられた章です。それまでは、第16章は「良俗妨害罪[妨害風化罪]」でした。第221条の「強制性交罪」も、以前は「強姦罪」という名称で、その条文も「女性に対して暴力・脅迫・薬剤・催眠術またはその他方法によって、抵抗できなくして姦淫した者は、強姦罪として、5年以上の懲役に処す。14歳未満の女子と姦淫した者は、強姦罪と見なす。前2項の未遂犯はこれを罰する。」というものでした。

 すなわち、1999年の改正によって、以下の点が変わったということです(1)
 ・保護される法益が、「良俗[風化]」から「性の自主性」になった。
 ・性交やわいせつの強制が、「女性」に対する犯罪ではなく、「男女」に対する犯罪になった。
 ・処罰される行為が、「姦淫」から、「性交」に変わり、口による性交、肛門による性交、異物の挿入なども含まれるようになった。
 ・罪の構成要件が、「抵抗できないようにする[至致使不能抗拒]」から「その意思に反する[違反其意願]」に変わった(この点は、第224条の強制わいせつ罪も同じ)。

 この改正の背景には、女性団体の運動があったことは言うまでもありません。

2.子どもに対する性犯罪の量刑に抗議する「白バラ運動」→最高法院、「7歳未満の児童と性交した者は懲役7年以上」という決議

 昨年2月、6歳の女の子に性暴力をふるったある男を検察は第222条の強制性交罪として起訴しました。しかし、8月15日、高雄地方法院(裁判所)は「女の子が抵抗しなかった」として第227条の、14歳未満の男女との性交罪に改め、3年2ヶ月という軽い刑に処しました。

 また、9月1日には、3歳の女の子に対する性犯罪で起訴された男が、一審、二審では女の子が「やめて」と泣き叫んだとして7年2ヶ月の重刑が下されたにも関わらず、最高裁では証拠不十分で無罪となりました。

 この2つの事件が報道されると、ネット上での非難が爆発、facebookで裁判官の解任を求める署名活動がおこなわれ、わずか3週間で28万人の賛同が寄せられました(最終的には30万人以上になった)。また、ネット上で結成された「正義連盟(正義聯盟)」が「白バラ運動(白玫塊運動、白バラは子どもの純潔を示す)」という抗議活動を開始しました(2)

 正義連盟の趣旨は、以下のようなものでした(3)
1.政府当局に、でたらめな判決が被害者とその家族にもたらす二次被害を重視するように呼びかける。
2.裁判官の任用・評価・退場のメカニズムを推進する。
3.司法の案件審理のメカニズムを改め、陪審団方式で審理することを提案する。
(以下略。)

 こうした動きに押されて、9月3日、中華民国司法院(wikipediaによる説明)は、法務部に7歳未満の児童に対する罰則を強化するよう提案したことを表明しました(4)。9月7日には、最高法院(裁判所)が刑事法廷会議を開き、7歳未満の児童と性交した者は、一律に7年以上の懲役の判決を下すという決議をしました(7歳から14歳までは、現行どおり、児童の同意があれば、3年以上10年以下)。この決議は、実質的には下級審にも拘束力を持ちます(5)

 9月25日には、「正義連盟」が呼びかけ、性暴力の問題に取り組んできた勵馨社会福利基金会現代婦女基金会なども賛同して、「9.25白バラ運動集会」が開催されました。この集会は、下のような要求を掲げて、1万5千人余りが総統府前のケタガラン大道でデモと集会をしました。
 1.性侵害の保護の対象を、7歳以下から14歳以下に拡大する。また、心身の障害者も対象に含める。
 2.子どもの性侵害事件についての専門家証人制度を設立する。性的侵害を受けた児童には、捜査および裁判の段階で、児童の心理の専門家が被害者に付き添う(*)。
 3.「裁判官・検察官評価法」を制定し、適任でない者には憲法による終身職の保障を受けさせないようにする。

 (*)勵馨社会福利基金会は、以下の理由で専門家証人制度が必要だと述べています。
 ・性侵害の被害者は、必ずしもはっきりした生理的な傷を負っているとは限らないし、目に見える証拠があるとは限らない。だから、公平に訴訟をおこなうには、被害者が受けた心理的な傷を評価することが必要である。
 ・性侵害の被害者は、必ずしも明らかな暴力的な脅迫を受けたとは限らず、しばしば加害者に権力や地位があるために、抵抗できなかったり、協力させられたりする。そのため、専門家の証人の協力によって、被害者が被害を受けた時の心理状態を明らかにすることが必要である(6)
 現在は、そういう制度がないため、1、2人の裁判官が専門家の証人を求めたことがあるだけで、大多数の裁判官は、不必要だとするそうです(7)

 この集会に参加した大人は「司法の死」を示す黒い服を着、子どもは「純潔」を示す白い上着を着て、手に手に白いバラを持ってアピールしました(8)

 この集会のテレビ報道は、以下のようでした。
・[公視中晝新聞(要求撤換恐龍法官 白玫瑰上凱道) 2010-09-26]

・[中天新聞 925白玫瑰運動]


 同じ9月25日、総統府の公共事務室も声明を発表し、馬英九総統はこの問題を重視しており、性侵害の保護の対象を広げること、「裁判官法」の早期成立をめざすことなどを表明しました(9)

女性団体の訴え――被害者保護や裁判官の研修を重視

 従来から性的侵害の問題に取り組んできた「現代婦女基金会」は、9月25日の集会に参加した際、以下の「6つの訴え」を発表しました。
 1.性侵害の法規を速やかに改定する。
 2.性侵害専門の法廷を設立する。
 3.訴訟での被害者の地位を向上させる。
 4.司法官の研修を強化する。
 5.性犯罪者の診療の専門家を育成する。
 6.性犯罪者の監視とコントロールを実現する(10)

 現代婦女基金会は、以下のように述べています(11)

 「現代婦女基金会は、長年、暴力の被害に遭った女性を助けてきた過程で、司法関係者に性侵害についての専門的知識が欠けているために、あまりにも多くの誤った判決や軽い判決が下されてきたことに気づいた。それゆえ(……)性侵害の犯罪の法律改正作業をしなければならないだけでなく、裁判官の専門的資質も同時に向上させることが求められている。」

 「刑法の『性自主妨害罪』の章はとっくに民国88年[1999年]に改正され、『抵抗できないようにする』という要件は『その意思に反する』に改められたのに、われわれの司法官は、まだ被害者を『抵抗できないようにする』ことを判決の主な根拠にしている。(……)統計資料では、性侵害事件の6割以上はよく知っている者の犯罪であり、子どもに対する性侵害事件はさらにそうである。子どもを主に性的侵害の対象にする多くの加害者は、児童が常に身辺に接触できる対象であり、彼らは、子どもが幼くて抵抗できないか、抵抗することを知らないために、脅すか利益で誘いさえすれば、身体的暴力をあまり必要とせずに、たやすく子どもを傷つけることができる。子どもが拒絶の声を上げないのは、子どもがわかっていないからであり、『いやだ』と言うのは、子どもにとっては拒絶を示す最大の反抗であり、手足で必死に反抗して傷を負うことがないのは、幼くて反抗する力がないからである!」

 「このほか、一般の成人の性的侵害の案件でも、裁判官はジェンダー意識が欠乏しており、女性が性的侵害に直面したときの恐怖を理解していない。司法の関心はまだ、被害者が強力に反抗したかどうかや、身体にひどい傷を負ったか否かにある。被害者は常に『あなたはその時何をしていたのか?』『あなたはなぜすぐに離れなかったのか?』『なぜ大声で叫ばなかったのか?』『なぜ加害者を攻撃しなかったのか?』『なぜすぐに警察に届けなかったのか?』などの一連の質問をされる。ジェンダーの観点から見れば、女性は小さい時から伝統的な性別役割の教育をされ、すぐに攻撃性や能動性を持てるように訓練されていない。性的侵害が女性に与える恐怖や汚名化も、女性が司法に告訴したり声を上げたりしない主な原因である。」

 「10年前すでに、現代婦女基金会は、性侵害事件の司法の二次被害についての調査をおこなったが、多くの性侵害の被害者の弁護士はみな次のように考えている:司法システムには、被害者を保護するソフト・ハードの設備が欠けているだけでなく、司法業務従事者には性侵害というテーマについての専門知識がないために、被害者は法廷で立証の仕事に責任を負わなければならず、性的被害に遭ったという事実を裁判官に説得しなければならない。そのため、被害者は性侵害事件の細かな内容を絶えず繰り返して述べなければならず、心身に二次被害を受ける。そのことが多くの性侵害の被害者に司法の正義の前に歩みを進めることを間接的に妨げている。勇敢に司法に訴えた被害者も、裁判官が性的侵害の専門的認識がなく、訓練されていないので、間違った判決や軽い判決が下される。」

 「私たちは、司法院が『性侵害専門法廷』を設立しなければならないと訴えている。本会は現在『犯罪被害者保護法』の修正草案を完成させることに着手しており、これによって、性侵害の被害者の訴訟での地位を高めることを望んでいる。」(10)

 「白バラ運動」は、裁判官批判が軸で、その名称などから見ると、「子どもの純潔を守る」運動という色彩もあるようですが、女性団体は、「性暴力の被害者の保護」という視点を重視しているようで、具体的には、上のように性被害についての裁判官の研修などを求めています。9月25日の集会で掲げられた、専門家証人制度の要求も、女性団体の要求を反映している面があるのかもしれません。

3.法務部、性自主妨害罪の罰則を強化するとともに、強制性交罪の要件から被害者の「意思に反する」を削除する草案を作成→女性団体は「意思に反する」の削除などに反対

 2011年1月10日、法務部は、以下の(1)(2)の「性自主妨害罪」の改正草案を完成させ、それを審査するために行政院に送ったと報じられました(12)

(1)罰則を強化する
第221条(強制性交罪)
 「3年以上、10年以下」の有期懲役→「5年以上」の有期懲役
第224条(強制わいせつ罪)
 「6カ月以上、5年以下」の有期懲役→「1年以上、7年以下」の有期懲役
第227条(14歳未満・16歳未満との性交罪・わいせつ罪)
 「14歳以上、16歳未満の男女と性交した者は、7年以下の有期懲役に処する」→「12歳以上16歳以下の男女と性交した者は、1年以上、7年以下の有期懲役に処する」

(2)性自主妨害罪から「その[=被害者の]意思に反する」という要件を削除する 
 その意図は、法改正のための会議に参与した人によると、「裁判官が量刑をするとき、被告の犯罪の手段の軽重だけを考慮すればよくして、証明しようがない被害者の意思への違反の有無によって、被告に軽い判決を出す状況を減らす」ということだと報じられました。

 女性団体は、上の(1)の点についても必ずしも評価していません。勵馨社会福利事業基金会の紀惠容執行長は、刑罰を強化すると、裁判官が有罪判決を下しにくくなるので、審理の際により多くの証拠が求められ、被害者が立証することが困難になるのではないかという危惧を述べています(13)。また、現代婦女基金会の頼芳玉弁護士は、被害者の年齢が1ヵ月でも高ければ適用しないのはおかしいし、2人の子どもが無邪気に性行為をした場合はどうなるのかという問題もあると言っています(14)。尤美女弁護士も、「性侵害犯に対する判決が軽いのは、裁判官が比較的軽い条文を採用することに問題があるのであって、『年齢で一律に扱う』ことには反対である」と述べています(15)

 また、婦女新知基金会現代婦女基金会勵馨社会福利事業基金会台北市晩晴婦女協会台灣少年權益與福利促進聯盟台北市女性権益促進会は、共同で記者会見をし、法改正の手続きが民主的原則に違反していることを批判しました。これらの団体によると、法務部は2010年9月に1回、特定の民間団体と専門家を招いて公聴会をしただけであり、その後は、この問題に関心を持つ民間団体や民衆には、意見を述べるパイプが何もなかったそうです。今年1月になって、やっとニュースを通じて法務部の一部の修正意見を知ることができただけで、改正案の本文や改正理由はまだ知ることができていない状況だそうです(16)

 2月には、それらの女性団体が連名でおおむね下のような声明を発表して、署名を募り、同月22日には立法院前で抗議行動をおこないました(17)

法務部が性急に法改正することに反対であり、民主的審議の精神を実行すべきである
 (略…上述)

「意思に反する」という要件の削除に強く反対する
 1999年、刑法に「性自主妨害罪」の章を増訂して、性の自主権を保護する精神を確立したと同時に、刑法221条の強制性交罪の構成要件を、「抵抗できないようにさせる[致使不能抗拒]」ことから「意思に反する[違反意願]」ことに改めた。その目的は、家父長制的な思考を除去し、個々人の自主的な意思を正視することにあった。しかるに、法務部は、民衆の不満を早くなだめるために、軽率に「意思に反する」という要件を削除して、性自主妨害罪の章を、再び被害者の自主的権益を無視するものにし、「性の自主権を擁護する」という重要な精神もすっかり失わせた。
 このほか、私たちがさらに憂慮するのは、そのことによって、全国の性侵害の通報量の7割を占める知り合いによる性暴力が、暴力・脅迫などの強制の要件に符合しないために、性自主妨害罪から、いっそう除外されやすくなることである。たとえば昨年2月、かつてのボーイフレンドがかつてのガールフレンドに性的侵害をした事件について、台中法院は、女性側が強力に拒絶しなかったという理由で、無罪の判決を下したが、これは、被害者の自主的意思がまったく重視されなかった結果である。類似の判例は日増しに増えており、私たちは、このような法改正は、保護を拡大する効果がないだけでなく、むしろ性の自主権の保障の範囲を大きく縮小すると考える。

法務部は民意をもてあそんでおり、法改正は、民衆の不満が向けられた点を根本的には解決できない
 去年の女児の性侵害事件が引き起こした社会の反発は、その原因の一部は、裁判官が具体的なケースについて適切な処罰ができなかったことにある。しかし、現行法の規定によれば、裁判官が裁量する際に、重く処罰することができるのであって、裁判官の量刑の不当さに対しては、刑の重さを引き上げて、裁量の範囲を縮小することだけを解決方法にしてはならない。刑の重さの取り決めは犯罪の情状の軽重と符合しており、軽率に一部の条文の刑の重さを引き上げたり、引き下げたりすることは、刑法の刑罰全体の軽重のバランスを崩し、刑法の体系を混乱させる。

 私たちは、以下の主張を提出する。

 1.立法院は審議をしばらく猶予するべきであり、けっして性自主妨害罪の章の修正草案を軽率に通過させてはならない。
 2.私たちは「家に閉じこもって車を造る」法改正をただちに停止して、社会的な参与を拡大してコンセンサスを形成し、民主的審議の精神を実現することを要求する。
 3.性侵害罪の法改正は、見知らぬ人の性暴力にだけ着目して、性侵害犯罪の多数を占める顔見知りの暴力の被害者を犠牲にしてはならない。


発起団体
婦女新知基金会現代婦女基金会勵馨社会福利事業基金会台北市晩晴婦女協会台灣少年權益與福利促進聯盟白玫瑰社會關懷協會

連署団体
上記6団体のほか、婦女救援社会福利事業基金会台湾女人連線主婦聯盟環境保護基金会台湾性別平等教育協会高雄市婦女新知協会台湾女性学学会台湾大学婦女研究室

 こうした声にもかかわらず、3月10日、修正草案は行政院会(閣議)を通過しました。

 法務部は、「現行の刑法の強制性交罪の成立要件は、行為者が客観的に『被害者に抵抗できないようにする』ことのほか、『被害者の主観的意思に反する』ことを必要としているが、反していない場合や被害者の意思が証明しようがない時は、強制性交罪によって制裁しようがない」などと言って、「意思に反する」という要件の削除を正当化しています(18)

4.その他の要求は、積み残されたまま

 その一方で、、白バラ運動や女性団体が訴えてきた、以下のようなさまざまな問題が残されたままです。

裁判官教育

 正義聯盟が2010年11月~12月の「性自主妨害罪」の判決652件を分析したところ、性侵害事件において刑が軽いことは変わっていませんでした。正義連盟によると、この問題は裁判所全体の現象であり、最低刑期+6ヵ月以下の判決が62%で、判決の35%は法定の刑期よりも低かったということです。また、減刑の理由として、「被告の公務員としての生涯に影響しないようにする」とか、「完全な家庭を保持するため」とかいった不合理なものが見られました。裁判官は、司法院の「控訴率」「維持率」に関する要求に縛られ、自分の業績の上げるために、独立した裁判をしていないとも指摘されています(19)

 現代婦女基金会の頼芳玉弁護士は、「民間団体は、裁判官の専門教育を強化して、性侵害事件に対する正しい認識を持たせることを訴えてきたのに、法務部は民間団体の訴えの重点を理解していない」と述べており(20)、同基金会の姚淑文執行長も、「法改正の前提として、裁判官の専門の研修を強化しなければならない」と言っています(21)

裁判官の審査

 白バラ運動をきっかけに、「裁判官法」の草案も出されたようですが、民間団体の「裁判官検察官評価推進連盟(法官檢察官評鑑法推動聯盟)」によると、その草案の評価は「ブラックボックス」的な評価(公表されないなど)にすぎず、現状よりも後退している面もあるとのことです(22)

専門家証人制度、専門法廷

 以前から女性団体が言ってきた、専門家証人制度や専門法廷の必要性は訴えられていますが(23)、まだ形になっていないようです。

ミーガン法

 白バラ運動は、昨年から、台湾版「ミーガン法」(ウィキペディアの説明)の制定も目指し、署名運動を展開しています。2010年11月20日、「白バラ運動」は、2回目の集会をケタガラン大道でおこないました。この集会には、200人足らずしか集まりませんでしたが、台湾版「ミーガン法」の制定を訴えました(24)

2010-11-20公視晚間新聞(白玫瑰返凱道 催生台版梅根法案)


 内政部も、2011年1月、「性侵害犯罪防止法(性侵害犯罪防治法)」の改正草案を作成して、犯罪者に対する「地域コミュニティの監視・コントロールを強化する」として、性侵害事件を起こし、かつ高い再犯の危険があると評価され、かつ刑の後に強制治療の適用の対象になっていない者*については、姓名や写真、判決の要旨を公告すると表明しました(*2006年7月以降に犯罪を犯した者は、現行刑法91条の1の規定により、刑期が終わった後、強制治療の対象になるので、対象は、2006年6月以前に犯罪を犯した者)(25)

 白バラ運動も、この点に関する要求を強めているようです(26)。現代婦女基金会も「性犯罪者の監視とコントロール」を言っていましたし、勵馨社会福利事業基金会は、台湾版ミーガン法を制定することに積極的です(27)

 しかし、台湾人権促進会台灣人權促進會は、公告制度は人権侵害である上、再犯率を低下させる証明もなく、他にも方法はあるとして、反対意見を提出しています(28)

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 全体としてみると、昨年来、子どもに対する性暴力の問題をめぐって「白バラ」運動が盛り上がったけれども、政府の対応は、重罰化が中心で、女性団体が以前から訴えていた裁判官の研修の強化とか、被害者保護といった点は軽視されたままであり、むしろ被害者の「意思」を軽視する法改正がなされようとしています。台湾人権促進会が憂慮しているミーガン法(29)の件を含めて、「人権」という観点からは好ましくない事態が生じかねない状況のようです。

 台湾は、10年以上前に「強姦罪」から「強制性交罪」への転換を実現したことは日本に比べて先進的だと思うのですが、その転換の意義が政府や裁判官には充分浸透していなかったのでしょうか? 「白バラ」運動も、大きな集会を成功させたことは注目されるのですが、「子どもの純潔」を掲げる運動であることの限界もあるのかもしれません。

(1)刑法『妨害性自主罪』修訂的評估與展望」網氏女性電子報第29期。
(2)以上については、「【アジア発!Breaking News】子どもが『NO』と言わなければ無罪? 子どもへの性犯罪を裁けない法律に、国民の怒り爆発。(台湾)」techinsight2010年9月10日。「99年兒童性侵司法輕判事件」(勵馨社会福利事業基金会サイト9月13日)も参照。
(3)關於正義聯盟」正義聯盟サイト。
(4)司法院建議修法 性侵幼童罪加重」『自由時報』2010年9月4日、「性侵7歲以下幼童 司法院建議修法重刑」今日新聞網2010年9月4日。
(5)最高法院刑庭決議 性侵7歲以下幼童最低判7年」『自由時報』2010年9月7日、youtube「最高院決議 性侵7歲以下幼童 重判7年以上 2010.09.08」、「最高裁『7歳未満の子供への性犯罪は刑罰を加重』と決議」国民党ニュースネットワーク2010年9月8日。
(6)不容許恐龍法官再胡搞--受性侵兒需要你的協助」勵馨社会福利事業基金会サイト2010年9月3日。
(7)紀惠容「【勵馨觀點】我們需要人性的司法審理系統」勵馨2010年9月23日。
(8)以上のこの集会についての記述は、「925白玫瑰運動集會」維基百科、「促司改 白玫瑰凱道怒放」『自由時報』2010年9月26日、「性犯罪の被害児童を守ろうと訴える 白バラ運動デモ集会」国民党ニュースネットワーク2010年9月27日より。
(9)性侵輕判 白玫瑰籲司改總統高度重視」今日新聞網2010年9月25日、「總統府正面回應 曾香蕉回嗆」『自由時報』2010年9月26日。
(10)白玫瑰運動-現代婦女基金會六大訴求」現代婦女基金会サイト
(11)法官漠視被害人與家屬的痛,法官的專業與性別意識在哪裡?」現代婦女基金会サイト
(12)法部草案送出/嚴懲性侵犯 刑期5年起跳」『自由時報』2011年1月10日。
(13)加重性侵刑 婦幼團體看法不一」中央社2011年1月9日。
(14)婦團痛批性侵修法開倒車」『台湾立報』2011年2月22日。
(15)性侵未滿12歲兒童 至少判5年」『自由時報』2010年10月13日。
(16)婦團砲轟 性侵修法閉門造車」『立報』2011年1月12日、「性侵修法霧煞煞,被害權益嘸底看 行政院會暫緩審議,儘速擴大召開公聽會」婦女新知基金会サイト2011年1月28日。
(17)【我要連署】堅決反對立法院通過妨害性自主的恐龍法條」婦女新知基金会サイト2011年2月21日、「【記者會】堅決反對立法院通過妨害性自主的恐龍法條」婦女新知基金会サイト2011年2月22日(写真あり)、「性侵修法 竟擬刪『違反意願』」『台湾立報』2011年2月21日、「婦團痛批性侵修法開倒車」『台湾立報』2011年2月22日(写真あり)。
(18)強制性交需違意願 將刪除」『台湾立報』2011年3月10日。
(19)性侵輕判嚴重 民團怒批司法院是恐龍院」『自由時報』2011年2月14日、「刑法妨害性自主章法院輕判之研究分析報告[word]」(正義聯盟志工分析整理、中華民国100年[2011年]2月14日発表)。
(20)婦團痛批性侵修法開倒車」『台湾立報』2011年2月22日。
(21)性侵未滿12歲兒童 至少判5年」『自由時報』2010年10月13日。
(22)司改團體痛批法官法初審 更保障恐龍法官」『自由時報』2011年1月12日。
(23)婦團痛批性侵修法開倒車」『台湾立報』2011年2月22日。
(24)白玫瑰連署 推『台版梅根法』」『蘋果日報』2010年10月31日、「推台版梅根法案 白玫瑰再上凱道」『自由時報』2010年11月21日。
(25)內政部部務會報通過『性侵害犯罪防治法』部分條文修正草案,強化性罪犯社區監控機制,近日將函報行政院審查」内政部サイト2011年1月28日。
(26)白玫瑰:政府需落實性侵矯治」『台湾立報』2011年3月23日。
(27)白玫瑰運動 11/20 重返凱道,不容許性侵加害人再犯! 」勵馨社会福利事業基金会サイト2010年11月19日。
(28)公布性侵前科個資 無助維護安全」、「針對內政部『性侵害犯罪防治法』部分 修正案説帖」台湾人権促進会サイト。
(29)台湾とは直接関係ありませんが、アメリカ在住のmacskaさんは、多くの資料をもとにしてミーガン法についてのまとめサイトを作成し、同法は「有害無益」であることを主張しておられます(ミーガン法のまとめ @macska dot org)。
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関西中国女性史研究会4月例会

以下の要領で、関西中国女性史研究会4月例会が開催されます。事前のお申し込みなどは必要ありません。

日 時:2011年4月9日(土)14:00~
場 所:関西学院大学 大阪梅田キャンパス(受付は10階、教室番号は当日掲示)
    地図
報告者:西川真子氏(名古屋外国語大学・准教授)
テーマ:「対外漢語教科書の中の『中国女性』」
コメンテーター:呂雷寧氏(名古屋外国語大学・非常勤チューター)

報告のあとは、今後の研究計画について相談する予定です。
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『中国流動女性土地権益状況調査』刊行

 今回の大震災により被災された皆様には心よりお見舞い申し上げます。

 私は、被災された方々への義援金として募金させいただいたのはもちろんですが、その他、原発関係の署名のほか、RC-NET(レイプクライシス・ネットワーク)の緊急アピール「災害時性暴力被害への対策を求めます」にも賛同させていただきました。中国でも2008年5月の四川大地震(汶川地震)の後、同年6月には「24の民間団体が共同で被災地の女性の権利を訴える建議を発表」(本ブログの記事)していますし、ジェンダーの視点は大事だと思います。非常時には、弱い立場の人々にしわ寄せがいきやすにもかかわらず、そうした人々の訴えは無視されがちだと思うからです。

 さて、話は変わりますが、昨年12月、呉治平主編『中国流動女性土地権益状況調査(中国流动妇女土地权益状况调查)』(社会科学文献出版社 2010年)(ネット書店「書虫」のデータべースの中のこの本のデータ)が出版されました。この本は、簡単に言うと、中国の農村から都市に出てきて仕事をしている「流動女性」が農村で所有している土地の権益がどうなっているかを調査した報告です。

 中国では、農村から都市に出稼ぎに行った労働者が、都市において、さまざまな面で差別されていることはよく知られています。とりわけ女性は困難な状況に置かれているわけですが、農村でも、女性は、土地の権利が男性に比べて保障されていません。その中でも、都市に行った女性の土地の権利は、とりわけ侵害されやすい。このように、農村から都市に移住した「流動女性」は何重にも困難な状況にあります。

 本書の第1章「研究の紹介」では、従来、流動女性の問題は、農村女性や流動人口の問題の一部として触れられることはあっても、それを単独で扱った研究は少なかっこと、まして流動女性の土地権益を専門に扱った研究はほとんどなかったことが指摘されています。

 そのため、NGOである北京農家女文化発展センター(北京农家女文化发展中心)は、2009年、北京市の流動女性を対象にして、アンケートとインタビューによる調査をおこないました。本書には、専門家グループのメンバーとして、葉敬忠、劉伯紅、劉篠紅、李昌平、張虹、金文成、郭建梅、謝麗華の各氏が参与しています。

 第2章「主題報告」が調査結果を概括的に述べていますので、以下、その内容を、大づかみにご紹介します(正確な要約ではありません。とくに法律や経済の専門用語については、不正確な箇所もあると思います)。

一 流動女性の基本的情況と主要な特徴

 今回の調査した千名あまりの女性は、全国の30の省から来ていたが、そのうちでは河北・河南・山東・甘粛の出身の人々が比較的多く、農業戸籍の人が95.9%だった。

 大多数の流動女性は、原籍地では農業を営んでいたが、現在は、商業・小売・サービス業に従事していたり、家事労働者や介護労働者であったり、ホテル・観光・娯楽施設のサービス員である人が多かった。

1.流動女性の年齢構造……今回の被調査者は、20~49歳の人が多く、平均年齢は32.6歳だった。

2.流動女性の学歴……初級中学(日本で言う中学)卒が最も多く、47.9%であり、小学卒が19.2%、高級中学(日本で言う高校)卒が16.1%だった。

3.流動女性の婚姻情況……未婚が24.3%、初婚が71.7%だった。

 上の1~3の状況は、関係部門が発表している北京の流動人口の状況の統計と基本的に合致しており、このサンプルは、流動女性全体を比較的よく代表していると言える。

4.流動女性が都市に出てくる以前の職業……もっぱら農業:45.0%、通学:31.5%。35歳以下の人は、通学していた人が多い。

5.流動女性が都市に出て来た主な動機……「土地から得られる収入より、出稼ぎの収入のほうが高い」49.2%、「都市では創業しやすく、チャンスが多い」17.2%、「見聞を広め、技術を学ぶ」11.5%。

二 流動女性の土地権益の現状

1.流動女性の土地権益の全体的状況は憂うべきもの

〇農村には土地を持っていない…流動女性全体の18.8%
 その理由:
 ・結婚したときに土地を失った…49.6%
 ・婚姻関係の変化(離婚など)によって土地を失った…31.8%
 ・土地が徴用された9.1%
 ・他人に暴力で占拠された…3.0%
 →主な理由は、婚姻変動である。

▽未婚の流動女性
 村に土地を持っている…67.3%、持っていない…20.0%、わからない…12.7%
 「土地を持っている」人のうち――
 ・父親の名義[名下]…73.1%
 ・本人の名義…15.4%
 ・母親の名義…6.9%

 宅地に関しても同様で、44.8%の未婚の流動女性が原籍地に宅地を持っているが、父親の名義が80.8%。

▽既婚の流動女性
 婚家の村に土地を持っている…51.2%、持っていない…43.1%、わからない…5.7%
 「土地を持っている」人のうち――
 ・配偶者の名義…43.4%
 ・本人の名義…36.3%

 宅地に関しても、65.8%の女性が婚家に宅地を持っているが、54.8%が配偶者の名義。

2.流動女性のうちの「まだ嫁いでいない女性」の土地権益の問題

 農村の土地分配のポイントは、家が単位であり、戸主はみな男性であることである。大部分の未婚女性は、名義上は土地を持っているけれど、実質上、その土地使用の権限は空洞化している。たとえば、浙江一帯で盛んに行われている「測婚測嫁」という慣習では、若い娘が結婚年齢に近づくと、たとえ結婚していなくても、遅かれ早かれ結婚して村を出て行くと考えて、実家に持っている土地を回収するか、土地を調整するときに土地を与えないか、少ししか与えない。また、青海省湟中県M村では、土地を調整するたびに、満18歳になった女子の土地はみな回収する。さらに、重慶大足県B村二社では、このような村規さえ実施されている:出稼ぎに行っている未婚の女性が土地の譲渡補償金を得ようとすれば、まず病院に行って「貞潔鑑定」を受け、処女でなければ土地を分配しない(1)。これらの規定は、女性が遅く結婚する権利や結婚しない権利を完全に剥奪している。

3.流動女性のうちの「嫁に行った女性」の土地権益の問題

 「嫁に行った女性」が結婚のために土地を失うという現象は比較的重大である。既婚の流動女性が土地を失うのは、嫁に行く/入るの2つの段階にあらわれる。

 (1)流動女性が嫁に行った後、実家の自分の土地は? 
 ・すぐに集団が回収する、または土地を調整するときに集団が回収する…49.6%
 ・親族に譲渡する…23.5%
 ・本人の所有のまま…20.2%
 しかし、たとえ実家が彼女の土地を持っていたり、親族に譲渡したりしていても、本人が収益権を持っているわけではない。

 (2)婚家に入った後は?
 ・婚家の村で土地を持っている…51.2%
 ・土地を持っていない…43.1%(そのうち、実家にも土地を持っていない…26.4%)

既婚の流動女性全体の13.1%は、実家にも婚家にも土地を持っていない。

4.流動女性のうちの「都市に嫁いだ女性」の土地権益の問題

 「都市に嫁いだ女性」、すなわち非農業戸籍の男性に嫁いだ農村戸籍の女性が土地の権益を侵害されることも、比較的普遍的である。

 私たちの調査では――
 ・35%前後の村は、非農業戸籍に嫁いだ女性に請負田を与えていない。
 ・46%の村は、彼女たちに宅地を与えていない。
 ・38.5%の村は、土地の株主配当の面で、非農業戸籍に嫁いだ女性に村民としての待遇を与えていない。
 ・35.4%の村は、土地徴用補償費の面で、非農業戸籍に嫁いだ女性に村民としての待遇を与えていない。

 また、よその農村から都市に出稼ぎに来ている相手と結婚した場合も、村民としての待遇は与えられていない。

5.流動女性のうちの、娘2人の家と娘が多い家の土地権益の問題

 農村では、男が娶り女が嫁ぐ「夫方居住」の婚姻モデルが主なので、娘2人の家と娘が多い家は、男が女の家に行って結婚することによって、土地を失う現象がしばしば発生している。中国の農村では、娘2人の家と娘が多い家は、婿を取るしかないという習俗ないし隠れたルールがある。

 私たちの調査対象者の村では――
 ・娘の婿には、一律に土地を分配しない…15.1%
 ・分配する…15.6%
 ・土地の調整の際、村に土地があれば分配する…32.3%

6.流動女性のうちの、離婚した女性と配偶者を失った女性の土地権益の問題

 今回の調査では、離婚女性の事例は27だが、65.0%は、離婚後も実家に戻らず、47.6%は、離婚後は実家でも婚家でもない土地に住んでいる。しかし、10.0%の離婚女性しか元夫の村で土地を持ち続けられず、実家の村であらためて土地を分配されたのも、20.0%である。
 ↓
 実家の村にも、婚家の村にも土地や住まいがない離婚女性が大多数で、出稼ぎに行って糊口をしのぐしかない。

7.「城辺村」と「城中村」の女性の土地補償金の分配の問題

 都市化によって、「城辺村(都市のそばの村)」と「城中村(都市の中の村)」の土地の価格が上昇して、女性の土地をめぐる紛争も増大した。

三 流動女性の土地権益が損なわれている原因の分析

1.政策・法律が不完全で、女性の土地権益に対する隠れた侵害に対して保護する力が弱い

 わが国の農村は家を単位にして土地が配分されており、また、戸主の大多数は男性である。このような配分制度自体の中に女性に対する隠れた差別がある。また、「人が増えても土地を増やさない、人が減っても土地を減らさない」という、一見性別には中立的に見える政策も、実質的には流動女性の土地権益に対してマイナスの影響をもたらしている。

2.村規民約における性差別的条項が、女性の土地権益を直接に侵害している。

 現下の農村では、若干の村規民約(村のきまり)がまだ性差別的傾向を持っている。また、村規民約に対する監督にも盲点が存在する。村民自治や村規民約が、流動女性の土地権益を侵害する手段になっていることがあり、とくに村民大会や村民代表大会の決議、村民委員会の決定などの形式で、結婚適齢期を過ぎた女性や嫁に行った女性、都市に嫁いだ女性、離婚した女性の土地権益が公然と侵害されており、村規民約と法律法規が抵触している。

3.「夫に従って住む」という婚姻居住モデルの、女性の土地権益に対する超文化的強制

 現在大多数の農村は、まだ『男尊女卑』の伝統的観念を踏襲しており、嫁に行った娘は撒いた水であり、集団経済組織の収益の分配にはあずかれない。

 流動女性の土地権益の問題は、土地分配の過程においてジェンダー意識が深刻に欠如している現状を集中的に反映しており、彼女たちが土地を失う主な原因は、「性別」によるものである。流動女性と土地との関係は、男権の支配・覇権構造の中に嵌め込まれており、これが彼女たちの土地権益が侵害される深いレベルの根源である。

四 流動女性が土地に執着する度合い

1.土地の重要性についての流動女性の認識……土地は「重要」または「非常に重要」が62.3%

2.土地権益についての流動女性の認知の情況……彼女たちは、国家の土地政策や自分の土地の権益、流出地の農村の公共事務については関心が低く、あまり知らない。

3.故郷の公共事務についての流動女性の関心の程度……低い。

4.故郷の土地の処置についての流動女性の態度……32.8%の女性が土地を回転させることを希望しており、そうすれば、収入を増やせるうえに、後顧の憂いをなくして、安心して仕事ができると考えている。

五、流動女性の土地の回転についての意思と希望

 農村の女性の土地権益を保証するという前提の下で、農村の土地の回転を積極的に推進して、人口の都市化を促進して、彼女たちを真に都市に根付かせることには、わが国の都市と農村の二元的構造を打破するうえで積極的な意義がある。

1.流動女性の現下の家の中の土地の回転の基本的情況

 流動女性のうち、土地の請負以来、回転させた経験のある比率…17.9%
 ―その形式…代わりに耕してもらう:49.7%、賃貸し:28.2%、下請け:9.4%
 ―その収益…貨幣:36.5%、農産物などの現物:20.8%、親族・友人に無償で:39.9%
 ―その回数…1回:93.1%

2.流動女性が家の土地を回転させようと願う理由

 主な理由は、「よそで仕事をする」ため。

3.家庭の土地の回転の決定に対する流動女性の参与度

 54.4%の流動女性が、家庭の土地の回転の決定に参加していない。

4.流動女性の権利保護意識と権利保護の効果

 「土地がない」という問題に対して……ほおっておく:87.3%、村民委員会に調停を請求する:6.7%、政府の主管部門に解決を求める:3.7%、法律援助を求める:1.0%

 さらに注意すべきは、自分の土地権益が侵害されているという事実を意識していないということである。77.3%の未婚女性と85.5%の既婚女性は、自分の村の村規民約や土地分配に性差別はないと考えている。

 また、一定の行動をした人のうち、96.5%は「成果がなかった」。

5.将来の方向についての流動女性の見方

 将来の計画……北京で長く生活して仕事をする:33.4%、北京には留まらない:22.3%、まだその点についての計画はない:44.4%。
 ただし、60.0%の女性が、理想の仕事が見つからなければ、故郷に帰って農業で生活したいと答え、56%の女性が、もし、郷里に帰った人に職業選択や創業の優待政策をするなら、それらの政策を利用することを考えるという。

6.自分の土地問題の解決についての流動女性の希望

 ・女性の戸籍の変化に従って、土地を変えてほしい(女性の戸籍がそこに移ったら、そこが土地を分配してほしい)…30.4%
 ・女性の土地相続権を厳格に保護してほしい…20.9%
 ・土地は変えないでいいけれども、女性が婚姻の変動によって土地を失ったら、一定の保障が得られるようにしてほしい…14.9%
 ・政府が女性の土地の権利を明文で規定して、女性の土地問題を市場の取引を通じて解決してほしい…13.2%
 ・婚姻居住の慣習を変えることによって、女性が土地を失う問題を改善してほしい…6%

 流動女性の土地に対する要求は、農村女性全体の土地に対する要求とは異なっている。
 1.土地に対する依頼性は強くない。また、土地に対する要求は、都市にいる期間や年齢、学歴、都市での収入と関係がある。
 2.流動女性の土地に対する認識は多元化している。都市に嫁いだ女性は完全に都市の人になることを望んでいるが、未婚の女性の土地に対する希望はもっと漠然としている。離婚した女性は農村の土地を所有し続けることを希望しており、住宅に対してもより強いニーズを持っている。
 3.流動女性のうち、若い女性は子どもの教育や子どもの将来に関心を持っており、子どもが学校で勉強することによって、本当に都市の人になることを希望している。しかし、中年の女性は、金を稼いで金を溜め、故郷に帰って農業をして親を養うことに関心を持っている。

六 流動女性の土地権益を保障する対策と提案

1.党と国家の農村の土地制度の長期的安定を堅持・擁護し、農村の土地の市場化改革を一歩一歩推進する

 農村の基本的経営制度を堅持するカギは、農民に十分で、保障のある土地請負経営権を付与して、現行の土地請負関係を安定させ、長く変わらないようにすることである。条件が熟した地方では、沿海の発達した地区の農村改革の経験を参考にして、集団所有の土地を株式所有権化し、いまの家族の人数(嫁に行った女性、離婚した女性、配偶者を失った女性、都市に嫁いだ女性、女婿を含む)に応じて、土地の権益を株式所有権に変えて個人に分配し、株式所有権を一定の範囲内で譲渡・相続することを許可する。土地の株式所有権化改革は、流動女性が婚姻の変動などの原因で本来享有すべき土地権益を喪失することがないように保証する一つの重要な方法である。

2.関係する政策・法律を整備し、制度の面からいっそう流動女性を含む農民の土地権益を規範化する

 ・集団経済組織のメンバーの資格や権益(収益の分配や土地徴用の補償金、不動産の使用権など)について法律で明確に規定する。
 ・土地の権利証書に権利人の姓名を明確に記載することによって、女性の土地請負の資格が空洞化することを避ける。
 ・女性が嫁に行ったときや夫婦が離婚したとき、女性が結婚後も戸籍を移さないときにも、女性の土地の権利が保障されるよう明確に規定する。流動女性も、他の村民と同じように土地の集団的収益を分配される資格を持てるようにする。

3.村規民約の制定と実施をいっそう法律によって規範化し、流動女性の利益の実現と表出のメカニズムを構築するよう努力する

 ・農村の基層建設を主管する各クラスの民政部門が、村民委員会に対して村規民約を定時に検査する工作制度を設けて、違法な村規民約に対して監督と是正をおこなう。
 ・流動女性が村規民約の制定に参与するメカニズムを構築し、村民委員会・村民代表大会が村規民約を制定・改定する際には、少なくとも30%の女性が参加しなければならないと明確に規定する。

4.戸籍制度の改革を一歩一歩推進し、都市と農村との統一的な社会保障と公共サービスのシステムを早急に構築する

 ・できるだけ早く都市と農村で分割されている戸籍制度の制限を打破し、都市戸籍の人口の量と比率を増やす。最終的には戸籍制度の壁をなくして、都市と農村が一体化した発展を実現する。
 ・大部分の流動女性が含まれる非正規就業者をできるだけ早く社会保障システムに組み込み、戸籍制度にもとづく都市と農村の福利待遇の差異を一歩一歩縮小し、基本的公共サービスを均等化する。土地を失った女性に対しては、最低生活保障をし、土地のない離婚女性に対しては、特別な政策的優待をする。流動女性に対して、就業能力を高める研修をする。

5.流動女性の土地権益の保護工作を重視し、流動人口の土地権益に対する行政・司法の救済ルートを広げることに力を入れる

 流動女性の土地権益を侵害する違法行為を行政が厳しく取り締まる。同時に、行政や法律の救済のルートを広げる。たとえば、「農村土地請負経営仲裁法」を厳格に執行して、紛争の調停・仲裁システムを構築する。流動女性の土地権益の侵害事件について、裁判所は、いかなる理由があっても受理を拒絶してはならない。県クラス以上の市・区に女性法律援助サービスセンターを設置する。流動女性の権益を保護する民間組織を育成する。

6.土地権益の男女平等を実現し、ジェンダー主流化を積極的に推進するプロセスを加速する。

 政府は、ジェンダーの視点を政策の制定と実施の過程に組み入れて、男女の両性が平等に社会経済の発展に参与し、改革発展の成果を共に享受できるようにする。「広東南海モデル」は、女性の土地権益を保護する政府の主体的役割を十分に発揮した模範例である。南海区は、「南海区農村出嫁女およびその子ども問題解決事務局」を設立し、村規民約と集団経済組織の規約の中の「出嫁女(嫁に行った女性)」を差別する条項をチェックして是正するとともに、農村集団経済組織のメンバーの資格に合致した「出嫁女」とその子どもに対して、「同籍・同権・同齢・同株・同利」の原則で株式所有権を案配した。「南海モデル」の主な経験は、行政の導きと関与を主とし、司法的強制を補助としたものであり、政府がジェンダー主流化を推進し女性の土地権益を保護する重要な役割を体現している。

7.古い風俗習慣を改めて、文明的な新しい気風を築く活動を都市と農村で深く広範に展開する

 流動女性の土地請負経営権を保障するためには、土地制度に手をつけるだけでは、完全には問題を解決することはできない。中国の農村社会における「男権」中心の文化的伝統を改造してはじめて、この問題を根本から解決することができる。第一に、ジェンダー意識と男女平等に関する基本的国策の宣伝教育・提唱活動を全面的に展開すること、第二に、「夫方居住」主導の婚姻モデルを変え、「妻方居住」など多様な婚姻居住形態を提唱すること、第三に、中国の農村における、しばしば息子だけが財産を相続できる「跡取り息子文化」を変え、家族の財産相続の男女平等の権利を提唱すること、第四に、男性中心の農村の古いきまり・しきたりを捨て去って、文化の上から「男権」中心の伝統的ジェンダー関係を変革することが必要である。

 第三章以降は、以下のように、「各論」として、「主題報告」で取り上げた各問題について論じられています。
 第三章「流動女性の土地認識の分析」
 第四章「農村から都市に出て仕事をしている女性と土地」
 第五章「婚姻変動と流動女性の土地権益」
 第六章「農村土地政策の変遷と流動女性の土地権益」
 第七章「流動女性の土地権益の法律的保護」
 第八章「ジェンダーの視角の下の流動女性の土地権益」

 さらに、「付録」として、インタビューなどにもとづくケーススタディが収録されています。

 本書は、中国の複数の有力な新聞でも取り上げられており(2)、注目を集めています。

 昨年3月からおこなわれた、全国人民代表大会常務委員会による婦女権益保障法の法律執行検査でも、「嫁に行った女性」の土地権の問題は、三つの重点領域のうちの一つでした。また、昨年7月には、全国婦連権益部が「土地を失った女性の土地権益および生活状況の報告(失地妇女土地权益及生活状况报告)」を発表しました(『2009~2010年:中国女性生活状況報告(No.4)』[社会科学文献出版社 2010年(ネット書店「書虫」のデータベースの中のこの本のデータ)]に収録)(3)

 中国の農村で、結婚や離婚の際、女性の土地権が保障されにくいことは、1950年代に土地改革がおこなわれた頃から問題でした(4)。この問題に関しては、改革開放後しだいに関心が高まってきましたが(5)、こうした本格的な調査報告が出されるようになったことは、うれしいことです。

 『中国流動女性土地権益状況調査』は「広東南海モデル」に触れていますが、これについては、本ブログでも取り上げたことがあります(仏山市南海区政府が農村の『出嫁女』の土地権益問題を解決)。その他にも、ここ2~3年、ごく一部の地方ではありますが、地方の立法・行政・司法レベルで、また民間団体によって現実を変革する試みも目立つようになりました(6)

 今年3月には、全国婦連が、農村の女性の土地権の問題に関して、だいたい以下のような呼びかけをしました。
 1.農業部・国土資源部は、女性の土地権益をテーマにした調査研究をおこない、農村の家族内の土地・財産関係を規範化する。土地請負経営権証書・宅地使用証書・家屋所有権証書には、夫婦双方の姓名を登記するなど。
 2.中央組織部・民政部・農業部は、基層の党支部や村民委員会に、村規民約の中の性差別的条項を改めさせる。
 3.国家人口と計画出産委員会は、男女平等の村規民約への改訂・執行を、計画出産の宣伝内容に組み入れる。
 4.農業部門と最高人民法院は、行政と司法の救済制度を整備する。農業行政部門は、土地請負仲裁機構を整備し、仲裁の形式で農村女性と村民委員会の土地権益の紛争を解決するようにさせる。最高人民法院は、こうした案件について指導意見を出し、案件受理の問題を解決する。
 5.財政部門・国土資源部は、弱者層の保護基金を設立し、土地徴用の過程における弱者層を救済する。
 6.司法部門は法律的知識を普及させて、広範な農村の人々に男女平等の基本的国策を理解・認識させる(7)

 この呼びかけには、全国婦連の調査はもちろんですが、『中国流動女性土地権益状況調査』の成果も生かされているようです。さまざまな調査研究・提言と各種実践との関係については、まだあまり調べていませんが、それぞれがあいまって農村の女性の土地権益を保障する流れ――まだごく小さな流れですが――を形成しつつあるように見えます。

(1)この規定は、メディアで報道されたこともあり、現在ではすでに廃止されています(「流动妇女失地主因是婚姻变迁」『南方都市報』2011年1月19日)。
(2)(1)のほか、「中国女性农民工失地八成源自结婚或离婚」全国婦聯新聞-人民網2011年1月24日(来源は『工人日報』)、「解决流动妇女土地权问题应和城市化一并考虑——専家学者谈农村流动妇女土地权益保障」『中国婦女報』2011年1月21日。
(3)この報告についての新聞などの報道は、「全国妇联《失地妇女土地权益及生活状况报告》显示:农村妇女土地权益保障水平低于男性」『中国婦女報』2010年8月27日、「失地妇女土地权益及生活状况报告出炉」新浪女性2010年8月25日など。
(4)Kay Ann Johnson,Women,the Family and Peasant Revolution in China, The University of Chicago Press, 1983, Chapter6など(この本については、私の書評が『中国女性史研究』第2号[1990]にあります)。
(5)日本語でも、何燕侠「中国農村女性の土地請負経営権をめぐる諸問題」『中国女性史研究』第10号(のち何燕侠『現代中国の法とジェンダー──女性の特別保護を問う』尚学社、2005年、第5章「農村女性の土地請負経営権とその実態」として収録)があります。
(6)昨年の動きに関しては、「捍卫妇女土地权益亮点频现」『中国婦女報』2011年1月5日。
(7)全国妇联呼吁: 切实维护农村妇女土地相关权益」人民網-全国婦聯新聞2011年3月15日。
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[日本]「館長雇止め・バックラッシュ裁判」についての私の投書が『世界』に掲載

岩波書店の『世界』2011年4月号の「読者談話室」に、「館長雇止め・バックラッシュ裁判」を取り上げた私の投書が掲載されました(18-19頁)。内容は以下のとおりです(タイトルは、編集者が付けたものです)。


女性運動の意義を改めて考える

        遠山日出也

本誌が「ジェンダーフリーって何?」という特集を組んで、男女共同参画に対するバックラッシュ(逆流)を取り上げたのは2005年4月号だったが、その前年の12月に、三井マリ子さんが「館長雇止め・バックラッシュ裁判」を提訴した。

三井さんは、2000年、大阪府豊中市の男女共同参画推進センター「すてっぷ」の初代館長(非常勤)になり、北欧から要人を呼ぶなど数々の独創的企画をおこなって大きな成果をあげた。

しかし、そうした三井さんが目ざわりだった「日本会議」などのバックラッシュ勢力が豊中市やセンターに圧力をかけたため、豊中市は非常勤館長職を廃止して館長を常勤化する「組織変更」を三井さんに知らせずにすすめ、2004年、彼女を雇止めした。

三井さんは雇止めを不当として、豊中市を提訴したが、一審は原告敗訴だった。しかし昨年3月、大阪高裁は三井さん逆転勝訴の判決を下し、慰謝料など150万円の支払いを命じた。そして本年1月20日、最高裁は豊中市の上告を棄却し、三井さんの勝訴が確定した。

大阪高裁判決は、豊中市幹部らが「一部勢力の動きに屈し」て、「中立的であるべき公務員の立場を超え、三井さんに説明のないままに常勤館長職体制への移行に向けて動いた」ことや、後任館長候補には「三井さんには続投の意思はない」とウソをついて就任を受諾させたことについて、「現館長の地位にある三井さんの人格を侮辱した」ものであり、「人格的利益を侵害する不法行為」だと指摘した。

また、判決は、三井さんの「雇用契約が年単位だからといって、常勤館長職制度への移行や次期館長について何らの説明、相談を受けなかったことは、現館長の職にある者としての人格権を侵害する」とも述べた。

三井さんがこの裁判をした理由は、自らの雇止めの背景に、女性の人権を脅かすバックラッシュや女性が多数を占める非正規雇用の問題があることだった。私もこの裁判を傍聴してきたが、傍聴者の9割以上は女性であり、この判決は女性運動によって勝ち取られたといえる。

けれど、今回の判決は、女性にだけ関係があるのではない。豊中市に圧力をかけたのは、日本会議系の議員や活動家だったが、日本会議は憲法改悪を推進しており、活動家の中には「在日特権を許さない市民の会」の関西支部長もいた。今回の判決は、そうした勢力に行政が屈することを断罪したのである。

また、現在、非正規雇用は男性にも大きく広がっているが、そこでは、契約期間が終わったというだけで、説明や相談なしに雇止めがなされている。今回の判決は、こうした状況に歯止めをかける足掛かりにもなる。

すなわち、この裁判は、男性の人権や生活をも脅かしている国家主義や新自由主義に対抗する上でも、女性運動やジェンダーの視点には意義があることを示したと思う。

(草津市・50歳・非正規労働者)
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