2010-04

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WAN理事会の文書は、サイトリニューアルについて事前に遠藤さんと相談しなかったことを正当化しうるか?

 ウィメンズ・アクション・ネットワーク(WAN)で起きたWAN理事会とユニオンWANとの労働争議に関して、今年2月、WAN理事会は、「この間の事情の説明」と題するWANの法人会員向けの文書(以下、「事情説明文書」と略す)を出して、理事会の行動の正当性を主張しました。

 この文書は、遠藤礼子さんに対する個人攻撃的な色彩もあり、書かれている内容には、客観的事実と相違する箇所も多いようです。

 それに加えて、私は、「かりに事情説明文書に書いてある事実関係がすべて正しいと仮定しても、遠藤さんと事前に相談することなく、遠藤さんのウェブマスター解任と直結するサイトリニューアルを決定したことは、正当化できないのではないか?」と思いました。

 以下に述べるのは、あくまで私の個人的な考えですが、よろしければお読みください。

理事会は、新業者によるサイトリニューアルについて遠藤さんと事前に相談すべきであった

 理事会の事情説明文書は、新業者によるサイトリニューアルおよび遠藤さんのウェブマスター解任をおこなった理由として、おおよそ以下の2点を挙げています。

 (1)WANサイトを改善する必要があるが、業者や専門家に話を聞いたところ、サイト改善のためには、システム自体の変更とそれによる大規模なサイトリニューアルが必要であることがわかった。また、リニューアルに伴い、それまで遠藤さんの仕事のうちの大きな部分が不要になることも判明した。
 (2)サイトリニューアルを遠藤さん自身のイニシアティブで進めることは、遠藤さんの労働時間の制限からも、スキルの点からも、不可能とだと判断せざるをえなかった。

 私が上の箇所を読んで、真っ先に思ったのは、「もしこれが本当なら、今ごろになって全会員に事情説明文書を送るのではなく、サイトリニューアル決定前に、遠藤さん自身に(1)や(2)のようなことを説明していれば良かったじゃないか!?」ということです。同じ手間をかけるのなら、トラブルになる前にやっておいたほうが良かったことは、今やきわめて明らかでしょう。

 これは、けっして単なる結果論ではありません。サイトリニューアルについて遠藤さんと事前に相談すべきだったということは、当時でも十分判断できたと思います。

 なぜなら、なにより第一に、新業者によるサイトリニューアルは、遠藤さんの労働条件の不利益変更と直結する問題だったからです。

 理事会は「サイトリニューアルは、組合との協議事項ではありませんので、理事会にて決定しましたが、遠藤さんの業務・労働条件については協議を続けている」と述べています。私も、理事会がまだ遠藤さんの労働条件の不利益変更をおこなっていない点自体は、良いことだと思います。

 しかし、理事会は、サイトリニューアルを決定した時から、遠藤さんの労働条件の不利益変更を提案(のち退職勧奨)し続けています。はじめから理事会は、サイトリニューアルをしたら「遠藤さんの労働条件に影響を与えざるを得ない」(事情説明文書より)と考えていたのですから、サイトリニューアル自体について遠藤さんと相談しないことには、真の意味で「労働条件について協議をした」ことにはならないと思います。

 WAN理事会のやり方は、言ってみれば、遠藤さんを行き場のない袋小路に追い詰めたうえで、細部についてだけ「協議」をするというものです。すなわち、大まかに言えば、第一段階として「まず仕事を干し」、第二段階として「『あなたのやる仕事はないから』という理由で労働条件を引き下げたり、退職に追い込む」という世間一般に「よくある手法」(遠藤さん)でしかないと思います。

 仕事がないのに給料だけ貰うというのは、一見良いようですが、そのこと自体が本人には心理的圧力になります。ましてWAN理事会は、全会員に向けたこの文書の中で「[遠藤さんには]していただく仕事が無いまま、元の賃金(時給××××円[遠山注:原文には、比較的高い時給の金額が具体的に書かれています])を支払い続けています」と宣伝しています。これは、遠藤さんをさらしものにすることによって、退職するよう圧力をかける行為だと思います。

 第二に、遠藤さんはサイトを統括するウェブマスターであったにもかかわらず、理事会が、サイトの根本的リニューアルについて遠藤さんに一言も相談せずに決定をしたこと自体、遠藤さんを人間として尊重していない行為だと私は思います。

 たとえば、先日の三井マリ子さんの館長雇止め事件の大阪高裁判決を見てみましょう。この事件は、豊中市らが、当時、女性センターの館長だった三井さんを、センターの組織変更を三井さんに知らせずに決定して、排除した事件ですが、高裁判決は次のように言っています。三井さんは「専門的知見や経験……を生かして館長職をこなしてきた者として……組織のあり方、次期館長候補者(自己を含む)について情報を得て、協議に積極的に加わり自らの意見を伝えることは、現館長職にある立場にあってみれば当然」なのに、「説明、相談を受けなかったことは、現館長の職にある者としての人格権を侵害するものであった」(*)

 遠藤さんも、ウェブマスターとして専門的知見や経験を生かして働いてきました。サイト立ち上げの際には、相当な無理をされ、その後も必死に修正作業をしてこられました(昨年12月にも、理事から「それはもう、ここまでやってこれたのは遠藤さんのおかげだ」と言われたそうです)。その矢先のウェブマスター解任でした。私は、法律には詳しくありませんが、遠藤さんが、サイトのシステム変更について、何の相談もされずに、仕事を奪われたこと自体、人間として尊重されていないことだと思います。

 第三に、サイトリニューアルについて、より良い判断するためにも、遠藤さんに相談することが必要だったと思うからです。

 遠藤さんはウェブマスターだったのですから、少なくともその面に関しては、理事よりは、業者や専門家の説明について的確に判断できる力を持っていたと考えられます。業者は根本的には自己の利益を追求する団体ですし、外部の専門家も当事者ではない以上、限界は免れませんから、WANとしてより正確な判断をするためには、理事会だけで判断するのではなく、遠藤さんにも相談するべきだったろうと思います(**)

 第四に、理事会は、それまでの経過を根拠にして、「リニューアルを遠藤さん自身のイニシアで進めることは、労働時間の制限からも、スキルの点からも、不可能と判断せざるをえなかった」と述べています。しかし、人間の生活状況やスキルは常に変動するものですから、他人が勝手に判断すべきことではなく、本人に確認するのが当然だと思います。特に本人の雇用とサイトの根本に関わる、こうした問題に関しては、絶対に本人への確認が必要でしょう。

 もし本人に確認してみたら、「しばらくしたら他の仕事が減るから、大丈夫ですよ」などという答えが返ってこない保証はありません(また、プチ・リニューアルの仕事なら、より短時間でできたと思います)。

 もし理事会の見込みどおり、遠藤さんにはご無理だったとしても、「ご無理ですよね?」と予め確認しておけば、遠藤さんは「はい。私には時間的に(orスキルの面で)できません」とおっしゃるでしょうから、その後の話がよりスムーズに進んだと考えられます。

理事会が挙げている「事前に相談しなかった理由」は、正当な理由たりうるか?

 理事会は、業者によるサイトリニューアルについて事前に遠藤さんに相談しなかった理由として、「[遠藤さんの]勤務時間の制限から遠藤さんと相談する時間が取れなかったこと」と「遠藤さんと理事たちのコミュニケーションに問題があったこと」を挙げています。

 こんなことが理由になるのでしょうか? 当時のコミュニケーションに問題があろうがなかろうが、理事の方々は、最初に挙げた(1)や(2)の点を説明したメールを遠藤さんに送りつけて、相談に応じるよう求めればよかったのではないでしょうか??

 サイトリニューアルは、遠藤さん自身の雇用にとっても、WANサイトにとっても一大事である以上、常識的に考えれば、遠藤さんは時間を作って相談に応じただろうと思われます(事情説明文書にも、遠藤さんは、それまでにも「一部の仕事を自発的に自宅でしてくださったこともあった」と書かれています)。私は、むしろ理事会は、遠藤さんに対して、普段やってもらっているシステムの細かな調整の仕事などより優先して、サイトリニューアルの相談に応じるように命じるべきだったのではないか、とさえ思います。

 もし万一遠藤さんが相談に応じることを断るようでしたら、理事会だけの判断でサイトリニューアルを進行させるものやむをえないでしょうし、遠藤さんの側も、あとで問題にはしづらかったであろうと思われます。

理事会は、「使用者としての自覚」が不十分だったのでは?

 2月の事情説明文書の内容の大部分は、理事会の行動を正当化するためのものですが、最後に反省点もいくつか書かれています。その中に、「使用者としての自覚が当初十分ではな(かった)」とあります。私は、遠藤さんやカサイさんへの具体的対応に関しても、「使用者としての自覚」が不十分な点があったように思うのです。理事会の皆様には、この点について、ぜひご検討をお願いします。

 事情説明文書は、他にもいくつかの論点があり、それらについても疑問が多いのですが、それらについても、またの機会に取り上げたいと思います。

(*)もちろん三井さんの事件に関しては、豊中市が「一部勢力[=バックラッシュ勢力]の動きに屈した」と判断されたことなど、今回の問題とは多くの相違点がありますが、「人格権の侵害」(人間として尊重していない)という要素において、共通点があると思いましたので、引用いたしました。なお、判決の原文には「館長職をこなしてきた控訴人」と書かれていますが、読みやすくするために、「館長職をこなしてきた者」と書き変えました。
(**)事情説明文書は、遠藤さんには比較的高い時給を払っていることを、理事会の誠実さを示す事実として強調しているようですが(時給の高さ自体について言えば、私もそう思いますが)、その時給は、サイトを統括するウェブマスターとしての専門性や責任(ストレスもですが)の大きさを反映したものであったのですから、サイトリニューアルに際しても、それにふさわしい扱いが必要だったと思います。
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北京愛知行研究所、政府に性教育とエイズ防止の強化を訴え

 北京愛知行研究所は、エイズ防止と社会のさまざまな弱者(同性愛者、トランスジェンダー、セックスワーカー、薬物中毒者、流動人口、少数民族、エイズ感染者・患者)の人権保護のための活動をおこなっているNGOです。

 昨年末の話で恐縮ですが、北京愛知行研究所は、2009年12月26日、「学校および大衆的な性教育とエイズの性感染予防の強化に関する訴え(关于加强学校和大众性教育,预防艾滋病性传播的呼吁)」を、衛生部・教育部・国家ラジオ映画テレビ総局・国家報道出版総署・工業情報化部・公安部に向けて出しました。

 この「訴え」は、まず、公式発表の中から、以下のような状況を指摘しています。
 ・存命中のエイズ感染者と患者のうち、性交渉による感染が6割に近づき、その中でも男性どうしの性交渉による感染の増大がとくに顕著である。2009年に新しく見つかった感染者のうちでは、異性間の性交渉によるものが42.2%、男性どうしの性交渉によるものが32.5%だった。
 ・最近3年間は、学生の中で見つかったエイズウイルス感染者と患者の数が、年を追って上昇する趨勢にある。

 北京愛知行研究所の「訴え」は、衛生部も、最近は男性同性愛者のグループを通じて、コンドーム使用の推進やエイズ防止教育をおこなうようになったことを評価しつつも、上のような状況から見ると、それだけでは不十分だとして、次の2点を指摘しています。
 ・同性愛者の青少年が成長している学校でも、性教育やエイズ防止教育を推進する必要がある。
 ・男性の同性愛者も大衆の一部なのだから、大衆的なメディアを通じてエイズや性教育の情報を提供する必要がある。その際には、同性愛者を無視したり、まして差別や偏見があってはならない。

 以上のような認識に基づいて、北京愛知行研究所は以下の4点を訴えています。

1:わが国の教育部と衛生部は、できるだけ早く、学校(小学校・初級中学・高級中学・職業学校・高等教育を含む)におけるエイズ教育・性教育・リプロダクティブヘルス教育を始動・強化して、青少年の健康の権利を保障するべきである。そのために、エイズ教育・性教育・リプロダクティブヘルス教育の教学大綱と教材を編纂し、予算を制定し、教学活動の執行・監督・評価計画を制定するべきである。

 この1については、具体的に、以下のようなことも提起しています。

 「若干の現実的でない、絶対禁欲主義のエイズ教育政策、たとえば衛生部と教育部の『青少年エイズ予防基本知識(青少年预防艾滋病基本知识)』(1)を改正して、総合的なエイズと性教育の情報(青少年の禁欲の情報だけでなく、性の安全の知識と医療のサービスも含むもの)を提供すべきである。

 「学生社団にエイズ防止と性教育の活動に参与することを奨励し、学生団体がピア・エデュケーション活動を展開することを支持するべきである。その中には、同性愛者に対する友好的な社団の活動も含む。」(2)

2:わが国の国家報道出版総署・国家ラジオ映画テレビ総局・中央宣伝部は、大衆メディア(ラジオ・テレビ・新聞・雑誌・インターネットメディアを含む)がエイズ防止教育活動に参与するよう積極的に促進・奨励すべきである。エイズ教育は、総合的な性教育と積極的にタイアップすべきである。そのために、国家ラジオ映画テレビ総局は、ラジオ・映画・テレビの性に関する番組に対する制限を取り消すべきである。報道出版部門・宣伝部門は、科学的で現実的な、エイズと性の教育の指導的意見を制定することが必要であり、道徳の説教と禁欲主義に限定してはならない。

 2については、この「訴え」は、たとえば、衛生部と中央宣伝部が1998年に公布した「エイズ予防の宣伝教育原則」(卫生部 中共中央宣传部 国家教育委员会等「关于印发预防艾滋病性病宣传教育原则的通知」1998年1月8日)が、「エイズ防止の宣伝教育は、社会主義精神文明建設の重要な内容であることを強調しなければならない」と述べて、「中華民族の伝統的な美徳(身を清らかにして軽率な行動を慎み、純潔を守り、配偶者に忠実で、共白髪まで添い遂げる)を保持・発揚する」としていることを批判しています。

3:わが国のラジオ映画テレビ総局、報道出版部門と関係部門は、同性愛と同性愛者に対する差別的政策を撤廃し、大衆メディアと学校教育が同性愛者にデリケートで友好的な情報を提供するよう保証するべきである。そのために、国家ラジオ映画テレビ総局は、同性愛のテレビと映画に対する禁令を解除すべきである。報道出版総署は、同性愛の出版物を支持し、雑誌コードを与えるべきである。工業・情報化部と公安部は、同性愛サイト自身は取り締まりの対象ではなく、同性愛サイトの中の違法な情報が取り締まりの対象であることを明確にするべきである。

 上で述べている「同性愛のテレビと映画に対する禁令」というのは、以下の3つです(3)

(1)1997年1月 ラジオ映画テレビ部「映画審査規定(电影审查规定)」
 「第10条:映画フィルムの中のプロット、言語、画面に以下の内容があるものは、削除・修正(……)しなければならない」の「5.淫乱・強姦・売春・買春・同性愛などを具体的に描写したもの。」(下線は遠山による。以下同じ)

(2)2004年5月 国家ラジオ映画テレビ総局「ラジオ・映画・テレビの未成年者の思想道徳建設の強化・改善の実施方案(印发《广播影视加强和改进未成年人思想道建设的实施方案》的通知)」の15
 「性に関わる不健康な内容、たとえば性の自由、性の勝手気まま、性の享楽、同性愛の言語・画面・プロットなどを明らかに示しているものは、断固として削除しなければならない。とくに未成年者の早恋・性行為などに関わる言語・画面・プロットは杜絶させなければならない」

(3)2008年3月 国家ラジオ映画テレビ総局「映画審査基準を重ねて言明することに関する通知」(广电总局关于重申电影审查标准的通知
 「映画フィルムの中の以下の状況は、削除・修正しなければならない」の中の「淫乱・強姦・売春・買春・性行為・性変態・同性愛・自慰などの状況を繰り広げる」など(4)

 また、「同性愛の出版物」のほうについては、この「訴え」は、「わが国の報道出版部は、以前、同性愛に関する題材の出版を禁止したことがあり、現在も制限している。わが国には現在、政府の許可を得た同性愛の刊行物[←雑誌を指していると思われる]はない。2009年7月29日、北京市文化執法大隊は、民間が非公式に出版した同性愛刊行物『点』と『Les+』を没収した」という点を批判しています(5)

 さらに、この「訴え」は、以前このブログでも取り上げた、インターネットの同性愛サイトがしばしば取り締まりの対象になっている問題(本ブログの記事「同性愛サイトに対する攻撃や規制」で触れた)や、昨年衛生部が出した「インターネットの医療保健情報サービス管理規則」(本ブログの記事「インターネット上の性科学の情報を統制する規則」参照)も批判しています。

4:わが国の政府はコンドームの公益公告を奨励し、同時にコンドームの商業公告に対する制限を解除するべきである。

 「訴え」は、この点について、「わが国の政府は現在コンドームの公益公告は許可しているけれども、商業的な公告は制限している。市場の効率を考えると、関連する政策は、コンドーム企業が、コンドームの公益教育に参与する積極性を制約していることになる」と述べています。

 先日触れたように、現在、北京愛知行研究所のようなNGOは、政府の政策によって、海外からの財政援助を困難にされたことによって難しい状況に直面していますが、こうした率直で貴重な訴えがおこなえる団体を窮地に追い込むやり方には憤りを感じざるをえません。

(1)卫生部办公厅 教育部办公厅关于印发《青少年预防艾滋病基本知识》的通知」(2007年5月25日)(卫办疾控发[2007]92号)。この「訴え」は、この「通知」のどこが「絶対禁欲主義」なのかを明記していませんが、おそらく、「恋人の間はお互いに忠誠でなければならず(……)婚前の性行為の発生は、避けなければならない。婚前の性行為の発生は、お互いの心身の健康にとって不利な影響がある」といった箇所だと思われます。
(2)Tom Mountford“The Legal Position and Status of Lesbian, Gay, Bisexual and Transgender People in the People’s Republic of China”(「中国男女同性恋、双性恋和跨性别群体的法律地位和法律状态」)(The International Gay and Lesbian Human Rights Commission [IGLHRC]サイト2010年3月24日、Executive Summary)は、大学の社団をめぐる状況について、以下のような問題を指摘しています(英語版p.17-18、中国語版p.14)。
 ・中国では、LGBTの学生社団は、中山大学の彩虹社しかない[彩虹社については、本ブログの記事「同性愛者などの人権のための初の正式の学生団体」参照]。
 ・中国の大学では通常、中心になる組織が学生社団の登記と管理をおこなうが、LGBTの学生社団の登記申請は、みな拒否されている。たとえば、北京大学は、2004年にあるLGBTの学生社団の登記申請を拒否した。
 ・正式の登記ができないことは、学生社団にとって、重大な損失である。まず、登記をすることによって、教室など、学内の施設が利用できるようになる。次に、登記することによって、公式の案内に掲載され、新入生歓迎などの活動に参加できるようになる。さらに、登記をすることによって、LGBTの学生たちが、健康や社会的支援を得られやすくなる。最後に、LGBTの学生社団の存在は、学生全体に影響を与え、より良い環境を作る助けになる。
 ・LGBTの学生社団が登記できないと規定した法律はないが、中山大学の特例を除けば、他の登記の試みはすべて拒否されており、文章化されていない規定があるとみなすことができる。
 なお、Tom Mountfordさんの上記の報告は、中国のLGBTをめぐる法律の問題点を網羅的にまとめており、この問題に関心のある方には必読であるように思います。
(3)2008年12月には、下の3つの規定を改正するよう44の団体と34人の個人が連名で訴えました(本ブログの記事「民間諸団体、映画やテレビでの同性愛描写を禁止する規定の削除を訴え」)。
(4)北京愛知行研究所は、この通知が出た際にも、「同性愛」に関する規定を削除する提案をしています(「建议国家广电总局删除电影审查标准中“同性恋”的相关规定」2008年3月17日)。
(5)警察が北京LGBT文化活動センターに手入れをおこなって、『Les+』を没収したことについては、Xtra!(カナダのゲイ・レズビアンサイト)やFridae(香港に拠点があるセクマイ関係のニュースサイト)が取り上げ(“Chinese lesbian mag raided while activists in Copenhagen / Activists vow to work around government censors”Xtra!2009年8月6日、“Lesbian magazine in Beijing raided by police”Fridae2009年8月12日)、それらを日本のブログ「みやきち日記」が紹介しておられます(「北京のレズビアン雑誌、警察の強制捜査に遭う」2009年8月15日)。
 ただし、その後もこれらの雑誌は不屈に刊行を継続しています。『Les+』は季刊で、雑誌没収前の2009年7月に2009年の第3期(No.20)を刊行していたのですが、その後、予定より大幅に遅れつつも、2009年4期(No.21)を2010年4月に刊行しました(「4月18日 女同杂志《les+》重生庆祝&新刊发布会」Les+的博客2010-04-15)。また、『点』は、2009年7月に刊行を予定していた号を、2009年10月に延期して刊行しています(ただし、この刊行の遅れについて、『点』のブログは、「組版ソフトの故障」のためや、メンバーがLGBTのスポーツの世界大会であるアウトゲームスに参加したためだとしています「《点 Gayspot》电子杂志第3期精彩上线!」《点》杂志的博客2009-10-08)。
 また、刊行物に対する許可について、北京愛知行研究所の万延海さんは、「出版物には、雑誌コードがなければならず」、「[雑誌コードがない]内部出版物は内部の従業員にしか発行できない、つまり、内部の人しか読めない。内部出版物も、審査のうえ許可を得なければならない。これは、私の見るところでは問題がある」と述べています(「中国独立民间组织出版自由受限制」自由亚洲电台(RFA)2009年8月18日)。出版物に対する制限に関しては、注(2)のTom Mountford“The Legal Position and Status of Lesbian, Gay, Bisexual and Transgender People in the People’s Republic of China”(「中国男女同性恋、双性恋和跨性别群体的法律地位和法律状态」)も取り上げています(英語版p.12-14、中国語版p.10-11)。
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民間諸団体、映画やテレビでの同性愛描写禁止規定の削除を訴え(2008年12月)

 1年以上前の話で恐縮ですが、次回書く記事「北京愛知行研究所、政府に性教育とエイズ防止の強化を訴え」(この記事も同性愛に触れている個所が多いです)と関係がありますので、紹介させていただきます。

 2008年12月10日、中国の同性愛者の人権に関心を持つさまざまな組織や個人が共同で、「同性愛の人々と同性愛の情報は、世論の正しい方向づけが必要である──国家ラジオ映画テレビ総局への意見(同性恋人群和同性恋信息需要正确的舆论导向──给国家广播电影电视总局的意见)」を発表しました(1)

 この意見は、簡単に言えば、中国のテレビや映画では同性愛描写が禁止されていることを改めるように訴えたもので、以下の内容です。



 この手紙は、「国家ラジオ映画テレビ総局(国家广播电影电视总局)」に、ラジオ・映画・テレビに関する規定を改正して、同性愛を差別する条項を削除するように提案・要求するものです。私たちが提出するこの意見は、科学・基本的人権・公共衛生・青少年の発展の原則の基づいています。

 2008年12月10日は、国連が世界人権宣言を発表して60周年です。この歴史的なときに、私たちは、国家ラジオ映画テレビ総局に、男女の同性愛者を含めた、人類のすべてのメンバーの人権を重視するよう訴えます。

問題の提出

 1997年1月、ラジオ映画テレビ部(广播电影电视部)は、「映画審査規定(电影审查规定)」を公布しましたが、その規定の第10条には「映画フィルムの中の個々のプロット、言語、画面に以下の内容があるものは、削除・修正(……)しなければならない」とあり、その第1款の第5項は「淫乱・強姦・売春・買春・同性愛などを具体的に描写したもの」を列挙しています(下線は遠山による。以下同じ)。

 2004年5月、国家ラジオテレビ総局(国家广播电视总局)は、「『ラジオ映画テレビの未成年者の思想道徳建設の強化・改善の実施方案』の印刷配布に関する通知(印发《广播影视加强和改进未成年人思想道建设的实施方案》的通知)」の第15段で、「ポルノ[色情]描写・わいせつな画面・下品な言語を杜絶しなければならない。ラジオ・映画・テレビ番組は、未成年者の鑑賞の習慣・受容能力・成長方向を十分に考慮して、正しい思想と健康的な感情の宣伝教育を強め、ポルノと性を『笑わせどころ』『セールスポイント』などにする、格調が高くないラジオ・映画・テレビ番組を断固として阻止し、正常な倫理道徳にもとる不健康な感情を宣揚することを断固として阻止しなければならない。性に関わる不健康な内容、たとえば性の自由、性の勝手気まま、性の享楽、同性愛の言語・画面・プロットなどを明らかに示しているものは、断固として削除しなければならない。とくに未成年者の早恋・性行為などに関わる言語・画面・プロットは杜絶させなければならない」と指摘しています。

 2008年3月、国家ラジオ映画テレビ総局は、「映画審査基準を重ねて言明することに関する通知(广电总局关于重申电影审查标准的通知)」の中で、「映画フィルムに以下の状況があるものは、削除・修正しなければならない。(……)その中に含まれるのは、わいせつ・ポルノや下品・低級な内容が入っているもの、淫乱・強姦・売春・買春・性行為・性変態・同性愛・自慰などのプロットおよび男女の性器などの秘部がまざまざと示されるもの、汚く低俗なセリフ・歌曲・BGM・音声効果などが入っているもの」と述べています。

 私たちは、以上の国家ラジオ映画テレビ総局の同性愛に関する規定は、科学的な道理に合致していないだけでなく、一定程度、黒白を混同しており、人々の同性愛に対する誤った認識を強化するものであって、世論を正しい方向に育てるのに不利であり、世論を通じて社会の大衆を導くのに不利であり、わが国の同性愛者の基本的人権を侵害するだけでなく、公衆衛生という目的を実現するにも不利だと考えます(2)

同性愛者たちを正しく認識する

 「性的指向(sexual orientation)」とは、各個人が、異性・同性・多様な性別の人に対して内心から起きる感情・愛情・性的吸引、ならびに親密な関係と性的関係を生じさせる能力のことです。

 同性愛については、歴史上、それに対する種々さまざまな偏見と差別がありましたけれども、近年来、科学の進歩と社会大衆の認識水準の向上によって、同性愛の問題はすでにもう隠された問題ではなくなりました。WHOが1992年に改正した後の第10版の「世界疾病分類」では、同性愛は、成人の人格障害・行動障害の一覧から削除され、「性的指向それ自体は、人為的な障害と考えてはならない」と声明されました。中華精神科学会が2001年に発表した「中国の精神障害分類と診断基準」第3版は、もう同性愛自身を病的とは区分しなくなりました。

同性愛者の人々と同性愛の情報は、科学的で正しい世論の方向づけを必要としている

 世界の各地で、人々の性的指向による差別・排斥・汚名・偏見が、彼らの自尊心と社会的集団への帰属感を奪っているために、多くの人が、自分のアイデンティティを隠し、抑えつけて、恐れながら、隠れて生活しています。私たちの国でも、歴史的・社会的原因によって、同性愛者たちは、同様に、種々さまざまな差別と汚名を被っています。

 実は、報道やメディアの正しい報道が、同性愛者や関係する人々のスティグマと差別をなくすうえで極めて重要なのです。まず、メディアの正しい報道は、広範な民衆が同性愛者たちの生存や生活の状態を正しく見つめる助けになり、民衆の科学的でない認識をなくすのを助けます。次に、メディアの正しい報道は、同性愛者たちのセルフ・アイデンティティを確立するのを助け、彼らの恐れと無力感をなくし、彼らに良好な生存と発展の空間を作り出すのを助けます。

同性愛者の人権、とくに「意見と表現の自由の権利」は保護されなければならない

 同性愛とさまざまな性的指向・性自認の人々の人権保護の問題は、すでに世界的には、きわめて大きな発展の趨勢になっています。2006年11月にインドネシアのジョグジャカルタで開催された国際的な法学の専門家の会議において、国際人権法を性的指向と性自認に関連した問題に適用する「ジョグジャカルタ原則」(3)は、すでに2007年3月26日、国連の人権理事会の会議の期間に公布され、会議で紹介されました。

 同時に、それぞれの国家の立法も、これらの人々の人権の問題に絶えず注意するようになりました。立法と政策によって、同性愛者たちやさまざまな性的指向と性自認の人々に対する差別をなくし、これらの人々の社会的地位と生存状況を改善することは、すでに、調和社会を築く新しい一つの使命になっています。

 (中略)

「ジョグジャカルタ原則」の19「意見と表現の自由の権利」[この節は、ジョグジャカルタ原則がそのまま提示してあります]

 すべての人間はみな、性的指向または性自認がどのようであるかにかかわりなく、思想と表現の自由に関する権利を持つ。これには、演説・行為・立ち居振る舞い・服装・身体的特徴・姓名の選択その他の方法による身分または個性の表現、および、国境を問わずいかなる媒体からも各種の情報と意見――人権・性的指向と性自認に関する事柄を含む――を求め、獲得し、伝達する自由が含まれる。

 各国は、以下のことをしなければならない。

 a)人々が性的指向と性自認による差別なく、他の人の権利と自由を尊重しつつ、意見と表現の自由――これには、性的指向と性自認に関する情報と意見を受け取り、伝達する自由、およびそれに関する宣伝の合法的な権利、資料の出版、放送、会議の組織・参加、セイファーセックスに関する情報の普及と獲得に関する自由を含む――を十分に享受することを保証するために必要なあらゆる司法上、行政上その他の措置を取る。

 b)国家が管理するメディアの番組放映と組織は、性的指向と性自認の問題に関して、多元的であり、差別的ではないことを保証する。そのような組織の人員募集と昇進の政策は、性的指向と性自認について差別的ではないことを保証する。

 c)人々が身分と個性を表現する権利――これには、演説・行為・立ち居振る舞い・服装・身体的特徴・名前の選択その他の方法で身分と個性を表現する権利が含まれる――を十分に享受することを保証するために必要な、あらゆる司法上、行政上その他の措置を取る。

 d)公共の秩序、公衆道徳、公衆衛生、公共の安全という概念が、さまざまな性的指向または性自認を主張する意見・表現の自由の行使を差別的な方法で制限するために用いられないように保証する。

 e)意見と表現の自由の行使が、さまざまな性的指向と性自認の者の権利と自由を侵犯しないように保証する。

 f)すべての人が、性的指向または性自認がどのようであるかに関係なく、情報と思想を平等に得て、公の議論に平等に参加できるように保証する。

エイズ防止活動はメディアの非差別の立場を必要とする

 わが国の政府は、先日、わが国のエイズの流行の形勢は、性による伝染が主となるモデルになったこと、男どうしの恋人たちの間におけるエイズの流行と防止活動を今後の活動の重点にすることを宣言しました。

 (中略)

 男と性行為をする男も、女と性行為をするかもしれません。ですから、もし感染していれば、彼らはウイルスを自分の女性パートナーまたは妻に移すかもしれません。

 メディアが同性愛者を支える情報を提供せずに、差別とスティグマ化をするならば、男性同性愛者は自己を受け入れることができず、いっそう多くの人が自分の性的指向を隠して、異性と結婚することになるでしょう。それによって、男性同性愛者の性行為の不安定さと危険な性行為の発生は増大し、エイズの流行は助長されます。

 メディアは、同性愛者に対する差別をなくす働きを積極的にするべきであり、誤ったステロタイプなイメージを強化するべきではありません。

 現在、わが国のラジオ・映画・テレビが同性愛というテーマに触れるのは、主にエイズ防止活動を報道するときであり、同性愛者の生活を全面的に報道できていません。そのため、エイズ防止活動自体が、社会的差別を強化し、エイズを同性愛と同一視しています。

 多くの研究は、男性同性愛者が積極的に自我認同(アイデンティティを確立すること?)し、同性愛という性的指向を受け入れることは、男性同性愛者が安全な性行為をおこなう助けになり、男性同性愛者が自分と他人を保護する行為をする助けになることを明らかにしています。そして、同性愛者の自己受容とアイデンティティの確立には、メディア空間を同性愛者と同性愛に関連する情報とに開放する必要があるのであり、阻止したり、醜く描いたりしてはなりません。

メディアは教育的役割を積極的に発揮しなければならない

 メディアは同時に教育的役割を発揮するべきであり、ひたすら回避することは、問題を誤解されたままにするだけです。広範な青少年には、特に異なった性的指向と性自認の青少年には、学校教育が必要であるほかに、メディアと世論の正しい導きが必要です。

 「ジョクジャカルタ原則」は、同性愛とさまざまな性的指向、性自認の人々の教育問題に対して……(以下、第16原則について述べていますが、省略)

国家ラジオ映画テレビ総局
住所:北京市西城区復興門外大街2号
郵便番号:100866
メールボックス:sarft@chinasarft.gov.cn

署名した組織と個人

中国の組織(44)
北京愛知行研究所
中国律師観察網
広州“同城社区”
跨越中国
河北廊坊兄弟真情工作組
杭州西湖工作組
天津海河之星工作組
広西蕾絲聯合社
広州同心工作小組
武漢馨縁工作組
浙江愛心工作組
天津浩天志願者工作組
瀋陽陽光工作組
洛陽理工学院同志学生群
青島陽光工作組
復旦大学知和社[復旦大学の学生社団]
南京彩虹関愛小組
美国維思大学中国学生会
河南公益先鋒
全国輸血感染者委員会
哈尓濱心相印
北京益仁平中心
牡丹江摯愛
寧波藍天工作組
蕪湖同舟
湖北青鳥
広州牽牛花互助工作組
重慶藍天
貴州関愛苑
河北固年愛知関愛互助小組
河北永清
撫順愛心工作組
福建福桐
江西知己関愛工作組
深愛
TheBoy文化機構
北京金色陽光関愛健康工作組
河北紅燭協会
紅樹林聯誼会
河北志願者協会
山東渮澤血友協会
河南商水県関愛協会
長沙中大陽光工作組

中国の公民(34人。一部の人名は省略)[青色は、現在も生きているリンクです]
阿強、広州、自由業、http://blog.sina.com.cn/aqiang
白咏冰、北京、自由業、http://blog.sina.com.cn/u/1099508322
哈啦苦少、広州、http://user.qzone.qq.com/55808382
葉風、広州民間メディア活動家、http://blog.sina.com.cn/hangzhouyefeng
Paloma Robles、北京
蘭江、昆明、http://hi.baidu.com/cklyn
姜珊、上海、http://ixtab.blog.163.com/
金鑫、河南、http://i.cn.yahoo.com/jinxin2008m/blog/p-23/
豆豆、昆明、http://blog.sina.com.cn/msmteam
朱龍、西安在住、http://metalgear12.blogbus.com/
毛雷、北京、自由業、
西門湯、上海、http://blog.sina.com.cn/tonglinniaoren
姚柏舟、杭州、学生、http://xiaonei.com/profile.do?id=246192716
楊紫光、北京
Leslie、厦門、http://blog.hexun.com/bearhome/p1/default.html
高文広、カルガリー、カナダ、http://cyruse39polarbear.spaces.live.com/
史蒂分口匹克、カルガリー、カナダ
Rainover、http://www.tianbula.com/Blog/BlogIndex.aspx?blogid=157
幸福之后、北京、http://hi.baidu.com/afterthesmile



 名を連ねている団体の中では、北京愛知行研究所(エイズとさまざまな弱者集団に対する差別に取り組んでいる)と北京益仁平センター(B型肝炎の患者に対する差別に取り組んでいる)は比較的有名ですし、他の多くの組織も、各地で地道に活動している団体です。男性同性愛やエイズに関連した団体が多く、レズビアン中心のものは、広西蕾絲聯合社と広州同心工作小組くらいだという片寄りは感じますが……(もちろん、ゲイ・レズビアンが共に活動している団体もあります)

 いずれにしろ、上のように多くの団体と個人が名を連ねた訴えであるわけですが、メディアでは取り上げられなかったと思います。国家ラジオ映画テレビ総局からも反応はありませんでした。

(1)原文は、「同性恋人群和同性恋信息需要正确的舆论导向——给国家广播电影电视总局的意见」『桃红满天下』238期(2008年12月12日)、「同性恋人群和同性恋信息需要正确的舆论导向——给国家广播电影电视总局的意见」(同在広州BLOG2009年12月18日)に掲載されています。
(2)Tom Mountford“The Legal Position and Status of Lesbian, Gay, Bisexual and Transgender People in the People’s Republic of China”(「中国男女同性恋、双性恋和跨性别群体的法律地位和法律状态」)(いずれもPDF)(The International Gay and Lesbian Human Rights Commission [IGLHRC]サイト2010年3月24日、Executive Summary)は、この3つの規定について、以下の問題を指摘しています(p.9)。
 (1)同性愛を不正常で異常なものと考えていること。
 (2)性行為のある同性愛と性行為のない同性愛を区分していないこと。
 (3)同性愛の内容に対する審査制度を青年教育や大衆道徳と結びつけていること。
 Tom Mountfordさんの上記の報告は、中国のLGBTをめぐる法律の問題点を網羅的にまとめており、この問題に関心のある方には必読であるように思います。
(3)「ジョグジャカルタ原則」については、ウィキペディアに詳しい説明があります(ジョグジャカルタ原則)。日本語訳は、谷口洋幸氏によるものが『法とセクシュアリティ』No.2(2007.9)にあるとのことですが、ネット上でも、Ry0TAさんが仮訳をしておられます(ジョグジャカルタ原則・目次)。
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北京大学、女性法律研究・サービスセンターを切り捨て──人権NGOに対する政府の締めつけの一環か?

法定NGOの資格を失うことに

 3月25日、北京大学社会科学部は、北京大学法学院女性法律研究・サービスセンター(北大法学院妇女法律研究与服务中心)など4つの機構について、「上述の機構は、公告の日以後、北京大学に付属[掛靠]しない。廃止[撤消]した機構の一切の行為に対しては、北京大学は管理責任を持たない」という「公告」(北京大学HP)を出しました。

 北京大学法学院女性法律研究・サービスセンター(以下、「センター」と略す)は、1995年12月に設立された、中国最初の、女性に法律的援助をするためのNGOで、以下のようなことをおこなっています。
 1.全国の女性のために無償で、電話・来訪・手紙・メールによる法律相談のサービスをする。
 2.重大な、典型的な、難しい、代表的な女性の権益に関する事件を引き受けて、貧しい、弱い女性の当事者のために無料で法律サービスをする。
 3.公益訴訟事件を取り扱い、中国の公益訴訟事業の発展を推進する。
 4.女性の権益保護に関して注目されている点、困難な点を研究して、研究報告を書き、さらに、国家の立法・司法・行政機関に対して、女性の権益保護に関する法律的意見を提供することによって、女性の法律制度の改革と改善を推進する。
 5.国内的・国際的な女性の権益保護組織・法律的機構・大学・専門家と広く連絡・協力して、女性の権益保護、女性の法律的援助、公益訴訟の理論・実践を協同して探究する。
 センターは、設立後の14年間に、8万件余りの相談を受け、3000余りの事件を無料で請け負ってきました(1)。現在は、11名の専任の弁護士、5名の勤務人員、数十名の兼職の弁護士がいます。

 センターは、2007年1月には「女性権益公益弁護士ネットワーク(2009年に「公益弁護士ネットワーク(公益律师网络)」と改称)」を設立し、現在では、300人を越える弁護士が加入しています(2)。また、2009年9月、公益弁護士のための弁護士事務所「千千弁護士事務所」を開設しました。

 以前も述べたように、中国では、法定のNGOになるには、日常の監督管理をおこなう「業務主管単位」に付属することが必要なので、センターも、北京大学に付属する形をとってきました。ですから、「業務主管単位」である北京大学が関係を断絶すれば、センターは、法定のNGOの資格がなくなってしまいます。

 艾曉明さん(中山大学教授)は、今回の事態について、「中国当局は民間の公益組織に対して資金調達の面で多くの制限を設けているので、北京大学のような、政府当局側で、学術的に最上の地位にある主管単位を拠りどころとして失ったことは、センターの今後の資金調達をさらに困難にするだろう」と述べています(3)

教育部からの直接の通知により廃止

 2009年5月、鄧玉嬌事件(本ブログの記事「鄧玉嬌事件をめぐって」「鄧玉嬌事件の判決をめぐって」参照)が起きると、センターは積極的に介入し、警察や裁判所、政治法律委員会に電報を送って働きかけたり、声明を発表したりしました。また、センターの弁護士は、現地まで出かけて調査したり、鄧さんの弁護士と連絡を取ったりしました。

 2009年6、7月、こうしたことが原因になって、センターは、北京大学から「今後は、センターは研究活動はしてもよいが、具体的な事件の訴訟に参与してはならない」と言われました(4)

 しかし、センターは、その後も具体的な事件の訴訟への参与をやめませんでした。

 センターの主任の郭建梅さんが香港の雑誌『亜洲週刊』に明らかにしたところでは、センターが廃止されたのは、「教育部[日本で言う文科省]が直接北京大学に通知を出したから」であり、その理由は「センターは国外の資金を受け取って、公益弁護士ネットワークを作っており、政治的な危険が比較的高い」というものでした。

 郭さんは、「政府は、第一に、民衆が立ち上がることを恐れており、第二に、国外の機構が介入してカラー革命(21世紀初めに独立国家共同体と中央アジアで起きた、平和的で非暴力的な方法でアメリカ寄りの政権を樹立したとされる一連の革命)をおこなうのを恐れており、第三に、デリケートな事件を取り上げられて、政府のイメージが悪くなるのを恐れている」、「当局が最も心配しているのは、公民社会が立ち上がって、集団を形成するか、力を合わせることだ」と述べています(5)

法律上の権利保護にたずさわるNGOに対する抑圧の強化

 中山大学公民社会研究センター主任の朱建剛さんは、政府は、国内のNGOに対して「開放もすれば、引き締めもする」という傾向があり、「地域コミュニティサービスや貧困救済の分野では開放するが、法律的な権利保護の領域では、引き締める傾向がある」と指摘しています。郭さんも「公益的な法律のNGOは、彼らが最も嫌がるNGOであり、このグループは、実際、地震(四川省大地震)の後から、ずっと縮小しつつある」と述べています。

 昨年7月には、NGOの「公盟法律研究センター」(強制移住の対象者や汚染粉ミルク事件の被害者のための法的支援をしてきた)が、「脱税」という名目で巨額の罰金を科せられるとともに、創設者の許志永さん(北京郵電大学法学部教授)が逮捕されるという事件も起こっています(6)

 中国でNGOを登録するには、「工商登記」をして企業として登録する方法もあります。「公盟法律研究センター」もそうでしたし、エイズ感染者やセクシュアル・マイノリティの人権保護ために活動している北京愛知行研究所も同様です。

 しかし、北京愛知行研究所の所長の万延海さんは、昨年12月、国家外貨管理局が出した通知(「国内の機構の外貨の寄贈の管理に関係する問題に関する通知(国家外汇管理局关于境内机构捐赠外汇管理有关问题的通知)」[汇发【2009】63号])は、中国国内の企業が国外の非営利組織から寄付を受けることを制約するものだと指摘しています。万さんと郭さんは、この通知は明確に、「工商登記」をして企業として登録しているNGOや民間組織に向けられていると言います。なぜなら、それらの組織の活動資金の9割は、国外からの寄付だからです(7)

 元北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターの人々は、現在、センターのすべての活動を、上記の千千弁護士事務所に移しました。郭さんによると、今後は、別の主管単位を見つけるか、企業として「工商登記」をするとのことです(8)。しかし、以上で述べたような状況から見ると、いずれの道にも困難が待ち受けていると考えられます。

「さよなら、北京大学」──元センターの声明

 郭さんは、「古い北京大学人として、私は、かつての北大を誇りに思ってきました。蔡元培先生が北大を創設し、当初の北大は、民主・法治・公平・正義を重んじてました。しかるに、現在は、孫東東(北京大学司法鑑定室主任。「何度も陳情を繰り返す者の99%は精神障害者だ」という発言をして、抗議を受けた(9))のような人にまだ教壇で大いに弁舌をふるわせ、弱者のために努力をするこれらの機構をみな抑圧しました。北京大学の精神はもうとっくに死んでしまいました」と述べました(10)

 4月2日、元北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターは声明を出し、今までのセンターの活動の意義を振り返るとともに、「困難は、私たちの気を落させるのではなく、いっそう信念を固めさせる」と言って、「[北京大学に]廃止されるのは、けっして私たちが直面した最初の困難ではなく、無数の困難の後のもう一つの困難でしかない。センターは設立した当初、危うく夭折しかけた。その後も一連の困難と挑戦が次々にやって来た」と述べ、センターが直面してきた3つの困難(経費、人材、法律体系・法律の執行環境)を振り返りました。声明は、また、「廃止されるのは、私たちが直面した最大の困難でもない。私たちは生命さえ脅かされたことがある」と言って、辺鄙な農村で棍棒を手に持った村民に相対した経験を挙げ、「困難は、臆病者の責任逃れの口実でしかなく、固い信念を持った先駆者にとっては、困難はもう一つの原動力である」と述べました。

 声明は、最後に、「さよなら、北京大学! 公平と正義に対する永遠の追求、中国の法治に対する揺るがぬ信念とはお別れしない」と宣言し、「私たちは、法律援助と公益法律事業は民衆にとって必要であり、調和社会にとって必要であること、そのことは15年のセンターの実践が証明しており、貧しい当事者が送ってきたアワやサツマイモ、数百枚の[表彰の]ペナントが体現しており、センターが獲得した各種の賞が説明している」と、活動に対する信念を述べています(11)

(1)中心简介」北大法学院妇女法律研究与服务中心HP。このブログでも、何度もセンターの活動を取り上げてきました(「女性労働者の権益保護の理論と実践の書」、「本年の動向1―『定年の男女差別は違憲』と訴え」、「北京大学法学院女性法律研究・サービスセンター、家政婦の労働保護条例を提案」、「職場の性差別についての調査報告」、「北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターによる企業内のセクハラ防止制度構築の取り組み」)。
(2)このネットワークについても、本ブログで取り上げたことがあります(「女性権益公益弁護士ネットワークの挑戦」)。
(3)北大撤销附属法学院女权公益组织」美国之音(Voice of America)2010年4月8日。
(4)以上は、「北大撤销妇女法律中心等四研究机构」财新网2010年3月29日。
(5)以上は、張潔平「公益律師郭建梅NGO被打壓」『亞洲週刊』24卷14期 (2010年4月11日号) →転載「公益律師郭建梅NGO被打壓」北京拉拉沙龙2010年4月5日。
(6)同上。公盟法律研究センターと許志永さんの事件については、「中国 : 法学者の許志永を恣意的に拘禁」アムネスティ発表国際ニュース2009年7月30日、「中国警察当局が人権派弁護士を拘束」MSN産経ニュース2009年7月30日、「北京日記09夏4」ブログ「麻生晴一郎のページ」2009年7月31日、「北京日記09夏3」同8月21日参照。許志永や公盟法律研究センターについては、麻生晴一郎『反日、暴動、バブル――新聞・テレビが報じない中国』(光文社 2009年)の164-166頁あたりも言及している。
(7)(5)で簡潔に言及されているが、詳しくは、「境外资金断裂 草根NGO再临“粮荒”」『公益时报』2010年3月16日、万延海「给国家外汇管理局的建议」(愛知行動BLOG2010年3月16日)参照。
(8)北大法学院妇女法律研究与服务中心被撤 曾几次介入邓玉娇案‎ 」新浪网(四川新闻网-成都商报)2010年4月9日。
(9)「『陳情者は精神障害』、専門家の人権無視発言に抗議殺到―中国」レコードチャイナ2009年4月6日。
(10)(5)に同じ。北京大学の大学院生である方可成さんは、自分のブログで、センターの廃止に遺憾の意を表すとともに、北京大学110周年を記念した『北大影響力』という叢書の中に収録された『大愛有行』(中国出版集団世界図書出版公司、2008年5月)という本の中で、方さんがおこなった郭建梅さんのインタビュー記事を掲載しています(「关注郭建梅,关注妇女法律研究与服务中心」方可成的博客2010年3月27日)。
(11) 原北京大学法学院妇女法律研究与服务中心「郭建梅及其团队声明:别了,北大」北大法学院妇女法律研究与服务中心HP2010年4月2日。
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(日本)館長雇止め・バックラッシュ裁判、高裁で逆転勝訴

 三井マリ子さんは、2000年、大阪府豊中市の男女共同参画推進センター「すてっぷ」の初代館長(全国公募による、非常勤)として、独創的な企画を打ち出すなど全力で仕事を進め、その実績は市やセンターにも高く評価されました。しかし、そうした三井さんの仕事が目ざわりだったバックラッシュ勢力(男女平等の推進に反対する勢力)が市やセンターに圧力をかけ、その圧力に屈した豊中市などは、非常勤館長職廃止して館長を常勤化する「組織変更」を三井さんに知らせないままに進めて、三井さんを雇止めし、2004年、新館長への採用も拒否しました。

 三井さんは上のように訴えて、豊中市と「すてっぷ」を運営する「とよなか男女共同参画推進財団」を相手取って、損害賠償を求める裁判を起こしました。一審判決(2007年、大阪地裁)は原告敗訴でしたが、去る3月30日、大阪高裁で三井さん逆転勝訴の判決がありました。

 この裁判ついては、私はしばしばブログで取り上げただけでなく、書面・意見書の要旨や自らの感想を自分でまとめるなどした特集ページも作成していますので(「館長雇止め・バックラッシュ裁判(原告・三井マリ子さん)」)、そのページをご覧いただければ、これまでの詳しい経過がお分かりいただけると思います。

 今回の大阪高裁の判決は、ごく簡単に言えば、豊中市らがバックラッシュ勢力の圧力に屈したことを認め、三井さんの人格権を侵害したとして、損害賠償150万円を命じたものです。

 この判決については、すでに以下のものがネットに上がっています。
 ・判決文(PDF、ファイトパックの会HP)
 ・宮地光子弁護士の解説(1)(伊田広行さんのブログ)

 新聞社・通信社によるネット記事(2)
 「館長職の打ち切り、逆転勝訴 市側に150万円賠償命令」asahi.com(朝日新聞)2010年3月31日。
 「館長雇用拒否訴訟:雇い止め、人格権侵害 三井さん逆転勝利――大阪高裁」毎日jp(毎日新聞)2010年3月31日。
 「女性元館長雇い止めに賠償命令 大阪高裁、人格権の侵害と」共同通信2010年3月30日。
 「三井マリ子・元都議が逆転勝訴 豊中市館長職雇い止め訴訟」産経ニュース2010年3月30日。

 以下では、判決を最初から読む形で、ご紹介したいと思います。

<目次>
1.主文
2.バックラッシュ勢力の攻撃を詳細に事実認定(市や財団の対応の問題点を含めて)
3.雇止め・不採用自体の違法性は認めず
4.雇止めに至る経緯に違法性

 ・豊中市の人権文化部長は、「あってはならないところを一部勢力[=バックラッシュ勢力]の動きに屈しむしろ積極的に動いた」。
 ・豊中市の人権文化部長は「中立的である公務員の立場を超え、控訴人[=三井さん]に説明のないままに常勤館長職体制への移行に向けて動き、控訴人の考え[=続投したい]とは異なる事実を新館長候補者に伝えて候補者になることを承諾させたのであるが、これらの動きは、三井を次期館長職には就かせないとの明確な意図をもってのものであったとしか評価せざるを得ないことにも鑑みると、これらの動きにおける者たちの行為は、現館長の地位にある控訴人の人格を侮辱したものというべきであって、控訴人の人格的利益を侵害するものとして、不法行為を構成するものというべきである」
 ・「[三井さんは]その実績から次年度も継続して雇用されるとの職務上の期待感を有していたものといえるのであり、雇用契約が年単位であるからといって、常勤館長職制度への移行期において、その移行内容及び次期館長の候補者リストについて、何らの説明、相談を受けなかったことについては、現館長の職にあるものとしての人格権を侵害するものであった」
5.宮地光子弁護士のまとめ、判決の意義
6.支援運動の問題点については、今後も解明や克服が必要
7.豊中市が上告、4月24日の東京での集会にご参加を

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同性婚をめぐる最近の動向

「中国初の公然とした同性婚」

 今年1月3日、曾安全さん(46)と潘文傑さん(27)という男性カップルが、成都のゲイバーで結婚式を挙げました(1)(写真→「实拍:成都同志情侣MC酒吧办婚礼(组图)(1)」「(2)」「(3)」淡藍網2010/01/13)。China Dailyは、「『初めて』、ゲイカップルが中国で結婚した」と報じ、『新京報』は、「国内初の同性愛者の公然とした結婚」と報じました。

 来客の大部分は「同じ世界の人[圏内人]」(ゲイということでしょうか)でしたが、200人あまり(China Dailyの数字。『天府早報』は100人と報じる)が集まりました。

家族の反応

 曾さんは、5人きょうだいの長男なのですが、弟や妹の多くが今回の結婚に反対し、三番目の弟だけが支持しました。曾さんの女児(曾さんも潘さんも、以前は女性と結婚していました)は、父親の苦しみを理解して、「お父さん、命は短いのだから、いちばん重要なのは、自分が楽しいこと。お父さんが男と一緒になることを、私は支持はしないが、反対もしない」と言ってくれるようになりました。

 潘さんの父親は、潘さんがカミングアウトしたとき、殴ろうとし、その後もまったく無理解です。ただし、母親は、相手の曾さんと電話で話すうちに、しだいに曾さんと仲良くなりました。母親は結婚式には来なかったのですが、式の数時間前に、潘さんに「幸福を祈る」という電話を寄こしてくれました。

メディアで報じられたことによるプレッシャー、親族との関係の悪化

 以前から2人で手をつないで歩くと、動物を見るような目で見られたり、指さされたりしていたのですが、結婚後のプレッシャーは、2人の想像をはるかに越えていました。

 結婚式のとき、メディアが写真やビデオを撮っていましたが、そのときは2人はあまり気にしませんでした。1月5日には、2人は成都のテレビ局にも出演しました。しかし、その後、振り返って見られたり、知らない人から電話がかかってることが多くなりました。買い物に行ったり、街をぶらついたり、食事をしたりするときにも、記者が付いてきました。また、団地の入り口には、毎日10~20人のやじ馬が集まりました。

 肉親からは、2人を罵る電話がかかってきました。曾さんが経営している家族企業は、弟によって資金を凍結されました。弟は「兄さんに顔をつぶされた」と言うのです。曾さんの娘にも、多くの同級生から父親のことを尋ねる電話がかかって来て、傷つき、父と娘との関係も悪くなりました。

「正式の結婚証がほしい」

 『天府早報』の取材に対して、曾さんは憔悴した様子で、「勇敢に自分の道を歩むのは、言うはやさしいが、行うのは難しい」と述べました。その前の晩、潘さんは、長い間泣いていたということです。

 けれど、2人は、China Dailyの取材に対しては、「私たちはもう隠れる必要はない。今回の結婚式は、私たちの人生の中で一番幸福で、一番貴重な時間だった」、「一緒にいられさえすれば、他の人が私たちをどのように見ようと気にしない」と答えています。

 しかし、2人にとって残念なのは、正式に結婚できないことです。「一番欲しいものは何ですか?」という問いに、潘さんは「結婚証」と答え、「フランスやフィンランド、イギリスでは、ゲイやレズビアンが結婚できるのに、なぜわれわれはできないのか」と述べています。

 2人には、養子を持ちたい希望もあります。

これまでにも行われてきた同性婚

 今回の結婚式が中国初の同性婚だというわけではありません。

2人だけの式だったが、20年続けている同性婚(2)

 まず、公然とした結婚式ではないのですが、1986年3月、四川省成都市で、林さん(仮名)と張さん(仮名)という2人の男性が、洋服を着て、赤いネクタイを締め、乗用車を借りて、郊外の景色が美しい場所に行って、「2人の結婚式」をしました。赤い「結婚証」も自分たちで作って(中国では、結婚の合法性が確認されると、男女双方に赤色の「結婚証」が発給され、これをもって法的な婚姻が成立したとみなされる)、そこに「同舟共済、白頭偕老(互いに助け合って、白髪になるまで添いとげる)」という8文字を書きました。

 初めは家族の抵抗にあいましたが、3年かけて少しずつ双方の家族に2人の愛情を理解させました。家族の希望で、老後のために養子も取り、隣近所とも仲良くやっています。錫婚(10年目)や水晶婚(15年目)の記念日も、多くの友人を招いて祝いました。もうすぐ20周年の際にも、新聞が取材しています。

 2人は、財産の公証もおこなって、一方に万一のことにあった場合、もう一方が財産の相続ができるようにしているとのことです。

公然とした結婚式

 公然とした結婚式も、けっして今回が初めてではありません。

 まず、1991年、福建の男性の同性愛者が公開の民俗婚礼をおこない、大いに宴席を設け、賓客を招いたという記録があります。張北川教授によると、清朝の時代、この地方では、この種の民間の風俗が盛んだったということです(3)(福建では、1989年にも、男性カップルが民俗婚礼をおこなったそうです。そのうち1人は農民で、もう1人はずっと勤務態度の良い公職者でしたが、後者は、そのために公職を解かれました(4))。

 また、メディアで報じられたことが確認できる例も、以下のようなものがあります。

 2000年5月:広東省江門市で、曹さんと李さんという2人の男性が、広東の風習に従った結婚式をした(曹さんは新婦姿、李さんは新郎姿)。40人あまりの親しい友だちが集まった。李さんの父母は怒り、曹さんの父は何も言わなかったが、母は強く反対した。広東省人民弁護士事務所も、新聞の取材に答えて、「結婚は男女の間でだけしかできない。同性間でのこのような行為は、社会の良好な道徳・気風に違反し、社会の気風を悪化させるものだ。わが国の現在の法律も許さないことである」と述べた(5)

 2000年10月:上海市で、明水さんと婉如さんという2人の女性が、2人とも花嫁姿で結婚式を挙げた。結婚式の招待客は家族(婉の母親、姉、義兄)と同性愛者の友人25名だった。この結婚式については、「中国初の女性同性愛者の結婚式である」と報じた記事もあります(6)

 2001年10月:貴州省貴陽市で、女性カップルが結婚式を挙げた。式に出席したのは、主に双方の父母と何人かのよく知っている親しい友だちだった(7)

 2002年1月:江西省南昌市のゲイバーで、男性カップルが結婚式を挙げた(8)

 2002年4月:河南省鄭州市で、女性のカップルがホテルで民俗婚礼をした。双方の父母と家族も出席した(9)

 以上のように、これまでも同性愛者どうしの結婚式はおこなわれてきました。ただ、今回の曾さんと潘さんの結婚式は、出席者が多く、カップルがテレビに出演するなど、「今までで一番公然としたもの」だったたとは言えるかもしれません。それだけに、周囲からの圧力も大きいということだろうと思います。

李銀河さん、全人代などにまた同性婚の提案

 また、社会学者の李銀河さんは、今年も、全国人民代表大会(全人代)と全国政治協商会議(全国政協)に同性婚の提案をしました(10)。李さんは、今までにもたびたび同性婚の提案をしてきたことは有名です。ある記事(11)は、以下のようにまとめています。

 2000年:全人代常務委員会が、婚姻法改正に対する意見を募ったのに対して、李さんは、新しい婚姻法では、同性愛者と異性愛者に同等の権利を与えるように提案した(12)

 2001年:李さんは、全人代と全国政協の開催期間に、初めて同性婚姻の合法化の提案をした。ただし、李さんは、全人代の代表でも、全国政協の委員でもないので、1名の人民代表大会の代表に託さざるをえなかった。しかし、規定によると、30名の代表が署名しなければ、正式の議案として審議されないことになっており、それだけの署名が集められなかった。

 2004年:李さんは、2度目の同性婚の提案をした。この時は、1名の全国政協の委員に託したが、30名の代表を集められず、なしのつぶてだった。

 2009年:李さんは、3回目の提案を全国政協の委員に託した。

 ただし、実際は、2006年にも李さんは提案していることは明らかであり(本ブログの記事)、2007年にも、前年とほぼ同じ内容の提案を「提案する準備をしている」と書いています(13)。上の記事の文中にも、今年の提案について、「7年来の4回目に提出した提案である」と述べられているので、2006年の提案が抜けていることは間違いないと思います。ただし、他の年度の提案を合わせると、今回は、6回目か7回目になりますが……。

 このように李さんは繰り返し提案しているのですが、正式の議案にするのさえ難しい状況のようです。李さんも、「私は採択される可能性がないのはわかっています。」「中国の現在の環境は、そんなに成熟した水準には到達していません。けれど、若干の発展した国々も、長い期間のたたかいによって、はじめて同性婚姻の合法化を実現したのです」と述べています(14)

広東省の人民代表大会で、朱列玉弁護士が「同性家庭登記」を試行する提案

 また、今年は、広東省の人民代表大会で、朱列玉弁護士が「同性家庭関係の登記」を広東省で試行する提案を出しました。

 朱弁護士は、長い間安定して一緒に生活している同性のパートナーは、以下のような問題を抱えていることを指摘しています。
 ・どのように相互の扶養と忠誠の義務を履行するか。双方の共同の財産の問題・債権債務関係は双方でともに担うのか否か。
 ・どのように各自が相手の父母を扶養する義務を担うのか。
 ・どのように遺産の相続をするのか。
 ・一方が病気になったら、もう一方は医療の決定(たとえば手術のサイン)を代わりにできるのか否か。
 朱弁護士は、「これらはみな立法によって明確にしなければならない」と述べています。

 朱弁護士は、同性のパートナーが養子をとる時の法律の規定がないことも指摘しています。

 朱弁護士は、同性のパートナーの関係を安定させることは、性病やエイズの防止にもなると述べています。

 朱弁護士は、「『婚姻法』は婚姻の双方を1人の男と1人の女と定めているので、同性結婚には立法の根拠がないけれども、現行の法律も同性間の同居関係を禁止しているわけではない。」「同性愛は現行の法律に違反しておらず、彼らの中には事実上の長期的なパートナー関係が存在し、家庭を結成する要求がその他の公民の合法的な権益を損なうものでない以上、法律は同性愛の家庭を承認しなければならない」と述べています(15)

 朱弁護士の言う「同性家庭関係の登記」というのが、同性婚なのか、同性パートナー法のようなものなのかは私にはよくわからないのですが、朱弁護士は、具体的な問題を取り上げて同性愛者の権利を主張していると言えます。

 もっとも、李銀河さんによると、2004年の全人代と全国政協の期間にも、専門家が「ドメスティックパートナー制度(合約婚姻)」に関する提案を出したことがあるそうで(16)、こうした提案自体は今回が初めてというわけではないようです。

(1)この結婚式についての主な記事には、以下のようなものがあります。この結婚についての本文の記述は、以下の記事を総合したものです。
 ・“In a 'first', gay couple tie the knot in ChinaChina Daily2010.1.13。この記事の日本語抄訳は、「中国で初の公式同性婚カップル誕生、『もう隠れない』」AFPBB News2010年1月14日、「中国で初めてゲイカップルが公に結婚式を挙げました」Gay Life Japan2010年1月15日(←この記事の訳が一番詳しい)、「中国で初?の男性同士の結婚式 英字紙に写真も」2010年1月19日。中国語訳は、「中国日报:高调结婚的成都同性恋者 面临巨大压力」淡藍網2010年1月14日。
 ・「“我们想要一张真正的结婚证” 国内首例男同性恋者公开结婚,面对争议,呼吁社会公平看待和认可」『新京報』2010年1月26日→(転載)「国内首例男同性恋者公开结婚 每天遭数十人围观」新華網2010年1月26日。(元の記事を転載した記事の方が、全文が読みやすかったり、コピーしやすいので、転載された記事も記しています。)
 ・「同志结婚 百人捧场 浮华背后是沉重的幸福」『天府早報』2010年1月11日→(転載)「成都同志情侣 历经艰辛走进婚姻殿堂」「(2)」「(3)」「(4)」「(5)」「(6)」(淡藍網)。
(2)17年同性“夫妻”感动知名专家」広同(来源:成都雨帆)、「四川両同**者以同***身 共同生活17年」『朋友通信』31期成都同性夫妻欢度20年幸福生活 令“同志”艳」東方網2005年9月29日(来源:成都商報)。
(3)高峰「中国当代同性恋全记录——“同志”20年」人民網2001年3月30日。
(4)大陆4000万同性恋生态调查」『鳳凰週刊』2004-09-27(愛白網より)。
(5)法律不容的“婚礼”」『南方都市報』2000年5月14日(広同HPより)、「广东一対男同性爱者举行民俗婚礼,受到法律界人士严厉批评」『朋友通信』第16期
(6)一対中国女同性恋者的婚礼」網易2000年12月11日、「中国低调的同性恋解放运动」(楚鈞 翻訳)『華盛頓郵報』2000年1月24日(亜洲les聯盟HPより)。
(7)贵阳一对女同性恋者行婚礼」南方網2001年11月2日(来源:人民網)。
(8)南昌“同志”酒吧目击同性恋“婚礼”」東方新聞2002年1月4日(来源:『江南都市報』2002年1月4日)。
(9)「郑州一対女同性爱者举行民俗婚礼」『朋友通信』第27期(河南の『東方早報』2002年4月13日の記事が出典)。
(10)建议取消聚众淫乱罪」李银河的博客2010年3月3日。
(11)李银河:2010两会再提同性婚姻法案」淡藍網2010年3月4日。
(12)このときは、海外に拠点を置く団体ではありますが、北アメリカのChinese Society for Study of Sexual Minorities(北美華人性別与性傾向研究会)も、婚姻法で同性婚を認める提案をしています(「関于《中華人民共和国婚姻法》接納和包容同性恋婚姻或伴侶関係的建議」『桃紅満天下』増刊37期[2001.2.24])。
(13)同性婚姻提案」李银河的博客2007年1月26日。
(14)(11)に同じ。
(15)代表建议广东试行“同性家庭登记”」大洋網2010年2月1日(来源:『広州日報』)、「広東省・同性愛者同士の婚姻を認める建議を提出」エクスプロア上海2010年2月2日。
(16)李银河会面同性恋者:同性婚姻国内可能更易合法化」『南方日報』2005年11月7日。
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