2010-03

香港・紫藤による買春改革の試み

 香港のセックスワーカーの権利保護団体・「紫藤」は、2007年から、売春の男性客に対する働きかけを始めています。

 紫藤は、「セックスワーカーの病気と暴力に対する危険を減らすためには、当局の法律執行の態度と手段を改善することが重要だが、それと同時に、客にいかにしてセックスワーカーを尊重するかを教育することも軽視できない」、「すべての買春者がセックスワーカーに対する加害者なのではなく、彼らの中の多くはセックスワーカーを支持しており、一部の人々のセックスワーカーに対する劣悪な態度は、彼らのセックスワーカーと女性に対する無理解によるものかもしれない」(1)と考えました。

「男人組」と「男人夜」の開始

 そこで、2007年6月、紫藤は、買春している人を中心に、男性を集めて、「男人組(客人組)」というものを設立し、「男人夜」という定期集会を始めました。

 どのような方法でメンバーを集めたのかはわかりませんが、紫藤の報告を読むと、第1回目から非常にうまくいったようです。「討論を通して、私たちは、彼らに健康やジェンダー平等、セックスワーカーの尊重に関する情報を教育することができた。今回の男人組は、20名余りの参加者を集め、下品でない第1回目だった。大部分の参加者は中年で、草の根の階層の人であり、積極的に討論に加わり、また、私たちが彼らに与えた情報に満足した。実際、討論ののち、彼らはみなセックスワーカーに対する考え方を変えた。67歳のおじさんは、今後はセックスワーカーを大切に扱い、尊重すると私たちに述べた。」(2)

 ただし、紫藤の幹事の林依玲さん(3)は、もう少しリアリティのある話もしています。「私たちの最初の集いのときは、来たのは10人だけで、みな男の苦楽を語った。参加した客たちが最も喜んだ原因は、ここは、みんながプレッシャーなしに自分の話を分かち合える場だったからだ。社会の批判と変な目に直面しなくて済むほか、紫藤が定期的に挙行する『男人夜』の集いでは、誰も男性を指して『おまえは買春客だ』あるいは『おまえは悪いやつだ』と言わない」(4)

 紫藤ブログの「男人の夜ワークショップ後記」(5)という第1回目の記録を見ても、男性たちは、紫藤に対するイメージこそ良いのですが(セックスワーカーのために頑張っているなど)、各人の話は、自分の性の経験が主な内容のようです。

 ただし、次の2007年8月の「男人夜」の集まりでは、「恩客の10の条件」といって、良い買春のあり方を挙げるという、当初の紫藤の狙いにずばり沿った活動をがおこなわれています(6)(「恩客(benefactor)」というのは、従来、買春する客は、「嫖客」と呼ばれていたのですが、「嫖客」という言葉はイメージが悪いので、セックスワーカー運動の中で、売春婦を「妓女」や「小姐」から「性工作者」に呼び換えたのと同じように、買春する客のことを「恩客」と呼び変えたものです。「恩客」という言葉は、「セックスワーカーの顧客であることの汚名を取り去る助けになる」とともに、「自己のセックスワーカーに対する尊重と支持を示す」意味もあるそうです(7))。

 その次の9月の集まりでは、今度は客の側から見た、理想のセックスワーカーの条件を挙げました。こうした点は、一方的な押し付けにならないように注意しているのだと思います。

 けれど、このときは、同時に、セックスワーカー2人を招いて、どのような客が良くて、どのような客が嫌かも語ってもらっています(8)

 このように見てみると、「男人夜」は、男性客の主体性を尊重しつつ、客のあり方を変えていく試みであると言えそうです。

客が守るべき「10大準則」

 11月には、紫藤は、『客棧』という、客向けのニュースレターの発行を開始するのですが、その創刊号(9)に、買春の注意事項として、おおむね以下のような内容の10項目を発表しました。これは、上記の「恩客の10の条件」をもとにしつつ、それをいくらか変えたもののようです。

1.先に金を払う:最近、覇王餐を食べる(金を払わずにサービスを受ける)人が多い。もし小姐がサービスしながら、客が金を払わないことを心配してしていたら、どうしてあなたも十分満足できようか?
2.ブザーを押し間違えないように注意する:ブザーを押し間違えて、近所の迷惑になってはいけない。それによって訴えられる心配があれば、小姐もやる気にならない(注:これは、1室に1人のセックスワーカーがいる「一楼一鳳」タイプの売春について言っているのだと思います)。
3.礼儀正しく応対する:礼儀正しくすれば、彼女もおのずと心を尽くしてサービスするだろう。
4.ベッドに上がる前に「きれいに洗う」
5.酒に酔っているときは、また今度にする
6.価格をはっきりと尋ねる:初めにはっきりと値段を尋ねること。たとえば、「どのようにすれば1回と数えるか?」と。
7.安全第一:買春をするのは、楽しむためだが、性病は、体液か血液の接触によって伝染する。あなたと小姐の健康のためには、最も重要なのはコンドームをつけること!
8.リラックスする:緊張し過ぎてはいけない。セックスは、人類の行為のうちで最も普通ことの一つであり、たいしたことではない。緊張し過ぎると小姐が脅えるかもしれず、あなたも心ゆくまで遊べないだろう。
9.期待が外れても、失望する必要はない:あなたには、まだ多くの他の小姐のサービスを試す機会がある。
10.冷静さを保つ:思いがけないこと、たとえば警察が捜索をしたり、小姐がその場で値上げをしたりすることに出会っても、驚き慌てたり怒ったりはせずに、冷静にすれば、おのずと事態は好転する。

「男人夜」の各月のテーマ

 こんなふうに「男人夜」は始まりましたが、今までの毎月のテーマを列挙すると、以下のようになります(10)

2007年
8月:恩客の10大条件
9月:セックスワーカーとの対談
10月:第一次(?)
11月:男の眼の中の女神(性の技巧)
12月:多元的関係

2008年
2月:どのようにセックスワーカーを支援するか
3月:中国医学と性
4月:盗み食い(妻に隠れて買春すること)
5月:性愛の秘訣交流会
6月:客の社会的地位
7月:女は客や男をどのように見るのか?
8月:客の口述の物語『良い客の道(好客之道)』読後会
9月:女の心は海の中の針?(注:探すのが難しいたとえ) 女をどのように理解するか?
10月:非主流の好み、セクシュアル・マイノリティに対する認識
〃 :セックスワークを認識する
11月:人体の探索

2009年
1月:ドキュメンタリー「姉妹たちと紫藤(姊姊妹妹和紫藤)」上映
2月:世界に向けて出発(世界のさまざまな売春について)
3月:買春には道理がなければならない
4月:婚姻・愛情と買春
5月:性の治療
6月:『良い客の道』読後会
7月:香港のセックスワークの現状
8月:性のテクニック、両性のテクニック
9月:宗教から見た性の取引
10月:青楼[妓楼の意]情史:中国の読書士と青楼との不可分の縁
11月:セックスワーカー運動:香港のセックスワーカー運動の重大事件

2010年
1月:買春は単なる消費行為か?
3月:映画《村妓》の鑑賞と討論会

性のあり方を考える場、女性の視点に気づく場

 以上の各回のテーマを見ると、セックスワーク(ワーカー)の問題を中心にしつつも、性のあり方全体に話が及んでいることがわかります。

 最初の会で男性たちが自由に自分の性について語ったことは既に述べましたが、『客棧』も、「男人夜」について、「(性教育講座)」という注釈を付けて、「活動の中で、参加者はあらゆることを談じる。上は天文から、下は地理、男の生活・両性・性生活の中の苦と楽まで。」と紹介しています(11)。このように男性がいろいろ語りつつ、男性に、女性の側の見方も知ってもらうということのように思います。

 たとえば、2009年8月の「男人夜」は、「『性のテクニック、両性のテクニック』──性のテクニックに対する男性の誤解」というテーマでおこなわれましたが、この講座では、「性のテクニック=男らしさの魅力」という考えや「『狂抽猛挿[激しいピストン運動?]』が性の最高のテクニックである」という考えの誤りを明らかにし、加藤鷹さんという日本のAV男優のテクニックを参照したそうです(12)

 紫藤は、「男性にも性教育の課程を受けるニーズがあるのに、長い間無視されてきており、討論できる十分な空間と場所もなかった」と述べています。林依玲さんは、「男性は、以前はみな自分の考えによって、女性の性の過程における感じ方を推量していたけれども、男人組の集いの中で、女性の視点に気づき、セックスワーカーが、『良い客』の基準や経験を言うのを聞くことができた。男性がどのように自分をセックスワーカーたちの心の中の良い客に変えていくのかは、大きなチャレンジだ」と述べています(13)

 香港のある新聞は、「このグループは、セックスワーカーの権利と性教育を推進する場になり、また、男たちが互いに心の苦しみを打ち明ける小天地になっている」と述べています(14)

 ただし、「男人夜」に女性の参加者を招いた時、男性の参加者が「男は性を買ってもいいが、女は絶対いけない」と、ダブルスタンダードをあらわにしたこともありました。そのとき、紫藤の人は、「もし私たちが男の人を教育し続けようとすれば、私たちはもっと多くの努力をしなければいけない」と思ったということであり(15)、単純に「うまくいっている」ということではないです。

「男人組」の目標と任務

 昨年[2009年]11月には、「男人組」の「目標」と「任務」が発表されています(16)

[目標]
 「私たちは、客とセックスワーカーと社会大衆の間に、お互いに尊重し、平等に相対し、双方の利益になる関係のモデルと行為基準を構想・普及する。差別をなくさなければならず、そのためにさまざまな性に対するマイナスの観念の誤謬と無知を正面から指摘することが必要である。この目標を達成するための私たちの戦略の第一は、自分で手本を示すことであり、戦略の第二は、恩客憲章[約章]を普及することである。」

[任務]
 「長期的任務は、性の取引の売買双方の行為と役割をみな平常化し、そうした未来に向けて、社会教育をおこなって、社会の人々に、セックスワーカーに対する差別視のために彼女たちの肯定的な社会的機能を無視していることに気づかせることである。以上に述べたことを身を以て示すため、当面の任務は、買春にはマナーがなければならず、買春には品がなければならないことを広めることである。」

「恩客憲章」とは、以下のようなものです。
1.資産・職業・年齢・信仰・性的指向にかかわらず、あらゆる人を尊重する。
2.セックスワーカーのあるべき尊厳とセックスワーカーごとの独特の個性を尊重する。
3.セックスワーカーに与えるべき報酬を与える。
4.社会的的責任を引き受け、セックスワーカーたちが、彼女たちの職業に対するさまざまな政党のさまざまな立場に関心を寄せることを含めて、社会の発展に参与することを励ます。
5.セックスワークの職業が社会的に平等な協力援助と保護とを得られなければならないことを承認する。
6.セックスワークの売買双方の生活が平常化が促進されるように尽力する。

ニュースレターの『客棧』による宣伝

 先にも触れたように、紫藤は、2007年11月、『客棧』という、客に向けたニュースレターを創刊し、2010年1月までに、計8回発行しています(17)

 『客棧』には、客が守るべき「10大準則」のほか、性病についての知識、診療所の情報、警察に出会ったときの対応のし方などが掲載されています。最近は、毎号、セックスワーカーの声(「値段の駆け引きをしないでほしい」「セックスワーカーを尊重して、友だちだとみなしてほしい」など)が掲載されています(18)

 第3号は、「コンドームを取る=強姦!」という見出しがトップ記事です。この記事では、弁護士が、「女性が同意しないセックス」は違法であり、香港高等法院の判例も、「女性の側がコンドームを使用したセックスに合意していたけれども、男の側が途中でコンドームを拒絶するか、取り去ってセックスしたら、違法であり、『強姦』として訴えられうる」と指摘しています(19)

男人組の対外的な活動

 男人組は「男人夜」の活動が中心で、対外的な活動はあまり多くはないようですが、それでも、紅灯区に出かけて行って、『客棧』を配布し、買春客と対話したことが報じられています(20)

 また、2009年2月には、次のような活動予定が、『客棧』に掲載されています(21)
 1日:国際エイズデー:エイズ予防情報の宣伝
 6日:国際人権デー:ブースを出す、話劇の上演(国際人権デーは12月10日ですが、6日が日曜だったので、6日にしたのだと思います。)
 17日:国際セックスワーカーに対する暴力廃絶デー:デモと請願、街頭上演

 また、男人組の人々は、2009年、セックスワーカーの殺人事件が起きた時、自発的に募金を集めて、安全基金を作りました。また、あるセックスワーカーが病気になったのに、金がなくて治療を受けられなかったときにも、募金を集めました。このセックスワーカーは、「長年男にサービスしてきたけれども、そうした男たちが、自分が必要なときに支えてくれるとは思わなかった」と述べました(22)

中国大陸の葉海燕さんも客の「行為準則」を作成

 こうした紫藤の試みに示唆を受けて、武漢の「中国民間女権工作室」でセックスワーカーの援助にあたっている葉海燕さんも、2009年6月、以下のような、「買春客の最も基本的な行為準則」を作成しました(23)

1.コンドームを正しく使って、安全を保証し、健康的なセックスをする。
2.未成年者と性の取引をしない。
3.取引を強要しない
4.相手のプライバシーを保護し、写真を撮らず、ビデオを撮らず、証拠を残さない。
5.相手の要求どおりに支払う。
6.基本的な礼儀を守る
7.相手が提供する範囲を超えた性のサービスを強要しない。
8.偽札を使わない
9.性病とエイズを小姐にうつさない。
10.小姐の感情を尊重する。

 おおむね香港のものと同じ内容ですが、売買春の形態の違いのせいか、「ブザーを押し間違えない」はなく、かわりに、写真やビデオ、偽札が言及されていますね。

 紫藤のような活動が、どの程度の効果を上げるのかはよくわかりませんが、また何かわかったら、ご報告します。

(1)男人/客人組」『紫藤會訊』第22期(2007年8月)。
(2)同上。
(3)林依玲さんについては、「林依玲為性工作者爭取平等8年 『紫藤終會執笠盼不再歧視姐仔』」(『明報』2008年3月23日)という記事があります。
(4)香港嫖客俱乐部:努力把自己变成“贡献者”」『南都周刊』2009年10月9日。
(5)男人之夜工作坊後記 (2007-06-26)」(2007-06-26)紫藤BLOG
(6)男人之夜工作坊之十優恩客條件」(2007-08-14)紫藤BLOG。このときにまとめられた「10大条件」は以下のとおりです。
1.[セックスワークの場の]地域コミュニティの調和を破壊することを避ける
2.平常心
3.足りる金を持ち、先に金を払う
4.特別なサービスは、先に言明しなければならない
5.安全を重視する
6.チップ
7.良いコミュニケーション
8.小さなことにこだわらない
9.長期の顧客に
10.みだりに情にひかされない
(7)恩客天地」紫藤HP
(8)男人之夜工作坊之理想姐姐仔條件」 (2007-09-18)紫藤BLOG
(9)『客棧』第一期
(10)男人夜(2008 2月-5月)」、「男人夜(2008年 6月-9月)」、「男人夜(2008年10月-12月)」、「男人夜 (2010年1月-3月) 」、「男人夜(2009年5月-7月)」、「男人夜(2009年8月-9月) 」、「男人夜(2009年10月-12月) 」のほか、『客棧』の各号より。
(11)『客棧』2009年9月號[PDF]。
(12)『客棧』2009年11月號[PDF]。
(13)香港嫖客俱乐部:努力把自己变成“贡献者”」『南都周刊』2009年10月9日。
(14)嫖客推動恩客約章 尊重娼妓望洗脫雞蟲污名」『蘋果日報』2008-06-23[紫藤BLOG]
(15)性別平等 男人/客人教育」『紫藤會訊』第26期(2008年9月)。
(16)『客棧』2009年11月號[PDF]。
(17)発行順に並べると、『客棧』第一期『客棧』第二期『客棧』第三期『客棧』2009年9月號[PDF]、『客棧』2009年10月號[PDF]、『客棧』2009年11月號[PDF]、『客棧』2009年12月號[PDF]、『客棧』2010年1月號[PDF]。
(18)『客棧』2009年11月號[PDF]、『客棧』2009年12月號[PDF]、『客棧』2010年1月號[PDF]。
(19)『客棧』第三期
(20)性別平等 男人/客人教育」『紫藤會訊』第26期(2008年9月)。
(21)『客棧』2009年11月號[PDF]。
(22)香港嫖客俱乐部:努力把自己变成“贡献者”」『南都周刊』2009年10月9日。
(23)葉海燕「我们提倡嫖客最基本行为准则」2009年06月15日。

 ※なお、日本では、つとに2000年に渋谷知美さんが、「『売春肯定論』は『売春肯定論』を論じることで自動的に達成されるものではなく、『買春改革論』を伴わなければ単なる反動になる」という見地から、「買春改革論」を説いておられます(「買春改革論――松沢呉一『売買春肯定論』のあとで――」『クィア・ジャパン』2号)。渋谷さんは、最近出版された『平成オトコ塾』(筑摩書房 2009年)でも、「風俗嬢を一人の人間として尊重する」ことを説き、そのための次の4つのポイントを挙げています(205-209頁)。
1.気構え:風俗嬢にたいして「相手の自由を侵害しない意志」を持って行く。
2.風俗嬢にとって言ってほしくないことは言わない、してほしくないことはしない。
3.衛生に気をつける。
4.ストーキングをしない。
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林さんへのお応え(2)──WANの資金不足の解決策について

林葉子さんが、ウィメンズ・アクション・ネットワーク(WAN)その労使紛争をめぐって、ご自分のブログにお書きになった「WANのこと(2) 遠山さんのコメントにお応えして」というエントリーに対する、私のご返事「林さんへのお応え――『自分はWANのために何ができるか』という問いをめぐって――」に対して、林さんから上記のエントリーのコメント欄でご返事をいただきました。

その中で、林さんは「おそらく最も深刻な問題だと思われる資金不足の問題の解決のために、遠山さんがどのような解決策をお持ちなのか(……)よくわかりませんでした」とおっしゃっています。

私としては、その点についても、ある程度は前回のお応えで触れたつもりですし、ボランティアの賃労働者化を目ざすか否かによって若干解決策は異なってくると思いますが、今回、もう少し詳しく考えてみました。ありきたりな考えのような気もしますが、よろしければお読みください。

1.私自身の寄付・入会およびその動機

今回の林さんの問いかけは、「自分はWANのために何ができるのか?」という私が先日お答えした問いと違って、第一義的には「WANという団体としてどうするのか?」という問いだと思います。

ただ、林さんと私の議論は、林さんが提出された「『自分は、WANのために何ができるのか』を答えてほしい」という問いかけから始まりましたので、今回の問題に関しても、私自身の行動を示しつつ、その行動の動機を出発点にして考えてみたいと思います。

私は、先週末、WANに、先々月の2000円に追加して、5500円、合計して7500円をお送りしました。WAN設立1周年が近づいてきましたので、最初の1年分のつもりでお送りしたのですが、その内訳というか、理由は以下の3点です。

(1)「もしWANが有料だったら、どの程度の価格で購読するか?」→年間3000円。
(2)実際にはWANは無料で広く情報を提供していらっしゃるので、その社会的役割(広い意味で性差別解消に寄与するなど)を応援するためのカンパ→年間2500円。私は、WANは、総合サイトとして、個人サイトでは果たせない役割(個人サイトを持っていない人や幅広い人々に訴えをしたい人に場を提供する)をなしうるということが重要だと思います。
(3)林さんの文からは、ボランティアスタッフの労働の無償性に疑問をお持ちの一面も感じられるので→この問題解決のために、とりあえず2000円。

前回述べたように、もしボランティアスタッフの方々が(たとえ林さんお1人でも)有償労働化を要求する活動を始められたら、私もWANの財政力を強化するためにもう少し頑張ろうと思いますが、今のところ、私にはこれでギリギリです。

今回の送金は、非正規の場合の会費の5000円を上回りましたので、WANへの入会も申し込みました。入会すれば、発言権も得られますので、極めて微力ですが、有償・無償を問わずスタッフの方の応援もさせていただけるという意味でも良いと思います。

以上が私の送金の動機ですが、他の人にお金を出してもらうとしても、(1)~(3)のことが訴える材料になるだろうと思います。

お金を出してもらうには、まず、とにかく(1)や(2)のようなWANの価値を高めることが必要だと思います。(3)のように、WANのボランティアスタッフの労働の有償化のためのお金を集める場合も、もし(1)や(2)の評価が低ければ、難しいでしょう。先日の林さんのご論について、Twitterで言及している方がいらっしゃて、その方は、「月々数万円WANに支払えと言われたら普通に無理。月2万としても年額24万。それで爆笑トークとか専門家の個人ブログの足下にもおよばない映画評とか載せるサイトを運営し続ける? 本気でわけがわからない」とつぶやいておられました。こうした発言からわかるように、林さんのようにおっしゃられても、支払いを求められた側がWANの活動自体を高く評価していなければ、現実的には、お金はあまり集まらないという面も見ておかなければならないと思います。もちろん、ボランティアの無償労働について考えたり訴えたりすることは、それ自体として重要だと思いますし、だからこそ、私もほんの少しですが、送金させていただいたのですけれども……。

さて、かりにWANを有料化したら、皆さんいくらお払いになるのでしょうか? また、WANが性差別解消に向けて果たしておられる役割(もちろん間接的な寄与を含めた広い意味です)を、どの程度のカンパに値するものと見なすでしょうか?

もちろん人によるでしょうが、今のサイトの内容から考えて、私は、正直申し上げて、皆さんからは、それほど高い金額は出てこないと思います。現在の会費や寄付金を払っていらっしゃる方々は、将来に期待して払っていらっしゃる部分が大きいのではないでしょうか? 私の1年目の会費と寄付についても、来月、林さんが力をお入れになった企画が掲載されるとのことですので、そうしたものに対する期待を含めての金額です。

2.資金不足の解決の方向性

私自身の場合をもとにして考えると、資金不足の解決の方向性は、次の2つになると思います。

A.WANのサイトやweb会員へのメールで、上の(1)や(2)のようなWANの役割をもっと具体的に訴えて入会や寄付を呼びかける。
 →入会や寄付の呼びかけ自体は現在でもなされていますが、もっと具体的な声(WANが自分が生きる力や考えを深める力になったり、運動の発展のうえで役に立ったりした経験など)を集めて訴えたり、無料で情報提供していることの社会的意義を訴えたりした方がいいのではないでしょうか?

B.サイトやweb会員へのメールで、WANの魅力、不満、要望、増収策などについてのアンケートをして(できれば、それらの内容を書ける掲示板も設けて)、そうした声をもとにしてサイトの改善策を練る。
 →好評な内容を拡大したり、取り入れるべき要望やアイデアを取り入れば、WANの価値は高まるでしょうし、逆に、不評の内容をやめれば、ボランティアの方々の負担が減ります(有償化の際の金銭的負担も減る)。林さんは一案として「サイトの規模を調整する」というお考えを示されましたが、その場合、どの部分を削るかが問題ですから、そのためにも必要なことだと思います。また、もし「WANは、こんなふうに私の力になっている!」という具体的な意見が出てきたら、それらを広く宣伝すれば、資金集めの助けにもなりますね。

私は、前回は、意見の一つの例として、macskaさんのご意見をご紹介しましたが、より多くの方に意見や感想を出してもらえれば、必ず増収策やコストカット策は見つかると思います。

出てきた意見は、みんなの参考になりますから、集まった意見は公表するか、初めから公開の掲示板に書き込んでいただくようにすればいいと思います。現在でも、「WAN裏方日記」のコメント欄に感想を書き込むことはできますが、この日記のコメント欄は、字数制限が非常にきつく、断片的な内容しか書き込めませんので、専用の掲示板などを設けてもいいのではないでしょうか?

3.私自身の意見・感想

私自身の意見・感想については、すでに「WAN裏方日記」に何度か書き込んでいますし、このブログでも、いくらか述べましたが、以下、何点かを付け加させていただきます。

・他の何人かの方から「学者のエッセイがつまらない」という感想が出ていますが、実は、私もそう思います。研究者の文の場合、ご自分の研究やご自分の研究と関係がある時事問題、ご自分の職場(大学など)の問題について論じていらっしゃる文は興味深いのですが、それ以外の「随筆」的な文は、私個人としては、面白いものは少なかったです。

・いまWANに掲載されている研究関係の記事は、すでに単著を出版なさったような方々が、その本について書くのがメインだと思うのですが、私は、もっと若手の研究者の方も、ご自分の研究や時事問題について大いに論じていただきたいと思います。その意味で、林さんが「新春爆笑トーク」をめぐってお書きなった文はよかったと思いますし、今度なさる企画もとても楽しみです。林さんは「WANのボランティア・スタッフは高い専門性を有する優秀なスタッフなのに、その力がサイトの中で生かされていない」という趣旨のことを指摘なさいましたが、私も、ボランティア・スタッフの方々の専門性を生かしていただけば、興味深いサイトになると思います。

・運動についての文は、現在のところ、団体としての投稿(またはそれに近いもの)にかなり限定されているのがネックだと思います。多くの方々が集会やデモに行ったり、日常的な活動をしておられるのですから、個々人が、自分の経験やルポ、感じたことを自由に書けるようにした方がいいと思います。裁判にしても、支援団体があるような裁判ばかりではなく、伊藤真理子さんの京都市女性協会裁判のように、原告お1人でやっていらっしゃって、支援者はいても、支援団体まではない裁判もありますから……(伊藤さんの文は、幸い、きちんとWANに掲載されていますが)。また、林さんのブログのコメント欄で「こちゅかる子」さんが書かれた市民団体でのご経験など、すごく貴重な経験ではないかと思うのでして、まさにこうした経験を出し合うことが、重要ではないかと思うのです。この点は、個人投稿の問題になりますが、先日、「WAN裏方日記」のコメント欄でお尋ねしたところ、投稿規程を現在作成中でいらっしゃるそうですので、うれしく思います。

・私は、WANに期待が寄せられた背景の一つは、インターネット上ではフェミニズムが弱く、むしろ右派が優勢だという現実だと思います。ですから、WANは、アンチフェミニズムやナショナリズムに対抗し、それを乗り越えていくような文をもっと掲載した方がいいのではないかと思います。最近は朝鮮学校の問題にみられるように、民族問題が激しい争点になっていますので、そうした動きに対して、ジェンダーを絡めた視点から意見を述べるような文が待望されていると思います。もっとも、恥ずかしながら、私自身のこのブログも、いま粗雑な「反中」イデオロギーが強い中で、それに対抗するような文をあまり書けていませんので、この点は自分の反省点でもあるのですけれど、他の個人サイトでは、少なくない方が反歴史修正主義や反バックラッシュのために奮闘しておられますので、WANも、この点にもう少し力を入れてはいかがでしょうか?

もちろん、以上の意見は大した意見ではありません。けれど、こんなふうにして、多くの方々が意見を出し合えば、必ず実りあるものになると思います。

追伸:
林さんにご紹介いただいた、岡本仁宏「市民社会、ボランティア、政府」をコピーしてきました。大きな問題意識で書かれた論文ですね。私は、いま、ボランティアと搾取に関する論文も取り寄せているところですし、カサイさんご推薦の『図解 ゼロからわかる労働基準法』(ナツメ社)も注文しました。もちろん文献だけでなく、林さんやこちゅかる子さんがお書きになっているを読ませていただくこと自体が勉強です。私はまだまだ何も知らない人間ですので、今回の議論からいろいろ学んでいこうと思います。
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国際女性デーの胡錦濤総書記の講話と女性たちの声

 今年の3月8日は、国際女性デー100周年でした。国際女性デーは、ご存じのように、1904年3月8日、ニューヨークで女性労働者が女性参政権を要求してデモをし、1910年に、ドイツのクララ・ツェトキンが、その日を「女性の政治的自由と平等」のための日とするよう提唱したことから始まりました(International Women's Day)。中国では、「三八」([国際労働]婦女)節といいます。

国際女性デー100周年記念大会での胡錦濤総書記の講話

 100周年の前日の3月7日、北京の人民大会堂で、「三八」国際労働女性デー記念100周年大会がおこなわれました(1)

 大会では、胡錦濤・中国国家主席・中国共産党総書記が講話をしました(2)

 胡総書記はこの100年間を振り返り、この100年間は、中国の女性運動には以下の4つの点が必要であることを示したと述べました。
 1.「広範な女性の主体的な地位を堅持すること」
 2.「国家・民族と呼吸を同じくし、運命を共にし続けること」
 3.「中国の特色を持つ社会主義の道を歩み続けること」
 4.「中国共産党の指導を堅持すること」

 1で抽象的に女性の主体性に言及したほかは、胡総書記は、女性運動と国家や党との一体性を強調したと言えましょう。

 また、胡総書記は、「広範な女性」に対して、以下の4つのことを求めました。
 1.「心に祖国を思い、志を高遠にし、中国の特色を持った社会主義の理想の信念を固めること」
 2.「重い任務を勇敢に担い、発奮して為すところがあり、まずまずのゆとりがある生活ができる社会[小康社会]を全面的に建設して、社会主義的近代化[現代化]の推進を加速するために『天の半分』の働きを発揮すること」
 3.「文明を伝承し、新しい気風を発揚し、社会の調和を促進するために独特の役割を果たすこと」
 4.「勤勉に学び、骨身を惜しまず知識を求め、自尊・自信・自立・自強の現代的女性になること」

 ごく簡単に言えば、1は、ナショナリズムと社会主義思想、2は、近代化への貢献、3は、女性役割、4は、自己学習・自己努力を求めたものだと言えると思います。

 3と4はやや抽象的な言い方なので、その具体的な内容を見てみると、3では、女性たちに対して、たとえば、「家族は社会の細胞であり、家族の調和は、社会の調和の礎である。男女平等・尊老愛幼・互愛互助・義を見て勇敢であるという社会の気風を積極的に実践し、勤倹を旨として家事を切り盛りし、夫婦仲むつまじく、隣近所と団結する模範になるよう頑張り、家庭教育、とくに未成年者の教育において重要な役割を発揮し(……)なければならない」と言っています。4では、「女性の資質[素質]の状況は、女性自身の発展進歩を決定するだけでなく、国民の資質の向上にも直接影響する。学習してこそ進歩があり、学習してこそ新しい考えが出せ、学習してこそ成果がある」と言っています。

 ただし、胡総書記は、党や政府に対しても、以下の点を求めました。
 「各クラスの党委員会と政府は、広範な女性の役割と新しい形勢の下で女性工作をしっかりやることの重大な意義を十分に認識し、男女平等を貫徹する基本的国策を貫き、女性の事業を発展させ、女性の権益を保護し、女性の苦しみに関心を寄せ、女性が仕事と生活の中でぶつかる特殊な困難の解決を熱意を込めて援助し(……)女性差別の現象を断固として除去し、女性の権益を侵害する行為を法によって取り締まなければ(……)ならない。」

 とはいっても、党や政府に対する要求は、一つの段落で述べられたにとどまっています。

 胡総書記のこの講話は、とくに目新しいことは述べていないと思うのですが、総書記の講話だからでしょうか、全国婦連は、この講話を学ぶように、全国各地の婦連に通知を出しました(3)

ジェンダー平等のための「要」と「不要」を出し合う――ある民間の女性たち

 一方、民間では、ごくささやかな活動ですが、女性メディアウオッチネットワーク(妇女传媒监测网络)が刊行しているメールニュース『女声(女声)』が、「三八」節にあたって、さまざまな女性に、ジェンダー平等のために「しなければならない(要)」ことと「してはならない(不要)」ことを出してもらうという活動をしました(4)。4日間に200余りの事項が集まったので、それらを整理して、127の事項にまとめたそうです。

 まず、私たちが「しなければならない」としては、38の事項が集まりました。たとえば、最初に挙げられているのは、以下のことです。

 1「『三八』という日に、やりたいけれども普段はジェンダーの規範に囚われてできなかったこと、たとえば一人で旅行する、一人で物事を決定する――をしなければならない」

 この「1」はそうでもないですが、「しなければならない」こととして挙げられているのは、わりあい一般的抽象的な事項が多くて面白くないのですが、その中では、男性に家事をさせる、男性に女性の声に耳を傾けさせるなど、男性に働きかける事項が10項目程度あったのが目立っています。

 次に、「してはならない」ことは、61もの事項が挙げられました。このことは、女性が「ノー」を言いたい事項が多いことを示しているのだと思います。たとえば、以下のようなことが挙げられています。

 25「女性がセクハラにあったことを、彼女たち自身の『慎みのなさ』のためだと考えてはならない」

 28「離婚した女性を差別視してはならない、とくに農村では」

 30「各種の理由によって、女性に出産または出産しないことを強制してはならない」

 36「賛美であっても揶揄であっても、『美女』という2文字を、ある女性の職業の前に冠してはならない」

 49「少数民族の女性を、永遠に『歌や踊りがうまい』というイメージだけで主流社会の前に出現させてはならない」

 53「母の愛と『お母さん』という言葉を、当局がインターネットを封殺する道具として利用してはならない」

 56「『中国の女性の地位は高くなった』と言ってはならない。それは事実ではない」

 60「『三八』という1日だけ、女性を『重視』してはならない」

 世界共通の事項も、比較的中国特有の事項もあります。53の点は、当局がインターネットの「低俗な」サイトを取り締まる際、母親の「子どものため」という気持ちを利用し、ときには母親を動員しているという問題です。たとえば、2009年、広東省婦連は「インターネットを浄化し、子どもを守る――1万人の母親のインターネット護衛行動」を組織し(5)、今年、北京インターネットメディア協会は「お母さん審査団」を組織して(6)、インターネットの「低俗」サイトを摘発する運動をすすめています。

 さらに、以下の項目は、胡総書記の講話の中の「女性の資質[素質]の状況は、女性自身の発展進歩を決定するだけでなく、国民の資質の向上にも直接影響する」、「[女性は]家庭教育、とくに未成年者の教育において重要な働きを発揮しなければならない」という発言に対する批判にもなっているように思います。

 15「ジェンダーの不公正を女性の資質[素質]の低さのせいにしてはならない」

 23「青少年の成長における問題を、母親の資質の低さや母親の無責任さのせいだけにしてはならない」

 『女声』は、最後に、「私たちは何をしなければならない&してはならないのか?」という言い方で、28の事項を挙げています。たとえば、以下のようなものです。

 7「公共の場所のトイレの女と男の比率は3:1にしなければならず、女性トイレの前に長蛇の列を作らせてはならない」

 10「男性は、家事労働を自分の価値の体現の一つとだと思わなければならず、女性は、家庭だけが最終的な落ち着き場所だと思ってはならない」

 20「身の回りの人に新しいものごとを試してみるように励まさなければならないが、『処女地』『処女作』のような言葉を使ってはならない」

 22「自分と他人の年齢と外観を積極的に認めなければならず、ややもすれば『年を取った』『太った』『きれいじゃなくなった』『白髪になった』と言ってはならない」

 24「政府は、各階層、とくに低い階層と周縁の女性の生存の状況とニーズに関心を持つべきであり、『三八』節を政界・商業界・文芸界などの、権力と金を持った、有名な『成功した女性』だけの祝日にしてはならない」

 25「『三八』の本来の意味に立ち返らなければならず、この日、女性を、与えられ、思いやられる、主体性のない受取人・弱者にしてはならない」

 28「党と政府の機関と婦連は、まず学習を強め、自らの資質を向上させ、女性の権益を保障して女性の発展を促進するためにどのような承諾をし、どのような努力をし、どのような実質的な進展があったのかを検査しなければならない。自らを当然の真理の占有者と見なして、お高くとまって命令を出して、女性に学習を強めさせ、資質を向上させるだけではいけない。」

 28は、胡総書記が女性に対して、「資質の向上」とともに、「学習してこそ進歩があり、学習してこそ新しい考えが出せ、学習してこそ成果がある」と述べたことに対する強烈な皮肉になっています。

国際女性デーのあり方に対する批判

 上の24や25は、「三八」国際女性デーのあり方に対する批判ですが、『南都週刊』という週刊紙でも、国際女性デーの3日前に、長平さんという方が以下のように述べています(7)

 「『三八』女性デーを始めた女性の抗争の精神は、あるとき突然ストップして、年に一度の記念日になり、お祝いだけが残った。そのお祝いも、もともとの意味――権利のための抗争ではなく、優越した社会的制度の下での女性の成就のお祝いになった。」

 「現実の生活においては、この祝日は、社会に抗議する質を完全に失って、女性に対する男性社会のちょっとした恩恵になり、同時に、中国の他の祝日と同じように、彼女たちに対して、恩恵に感謝することも要求している。」

 「メディアの報道によると、北京市はすでに一連の『三八』女性デー百周年の記念活動を手配したという。その中の一つの主な記念大会のテーマは、『百年如歌、芳耀京華[京華:みやこ]』であり、『首都の各民族・各界の女性が一堂に楽しく集い、ともに、祝日を熱烈に、晴れ晴れと、和やかな雰囲気で祝う』ことを求めている(8)。(……)このような雰囲気の中で、もしある人が、百年前のアメリカの女性と同じように、自らの権益のために通りに出て抗議することは、おそらく難しいだろう。」

 Wikipedia「国際女性デー」にも、旧ソ連諸国の似たような状況が述べられています。秋山洋子『女たちのモスクワ』(勁草書房 1983年)の221-224頁には、かつてのソ連の国際婦人デーの様子が書かれてますが、秋山さんは、「結局この国の国際婦人デーは、女性解放の記念日などと肩ひじ張ったものではなく、日本で言えば三月三日の桃の節句と、母の日をあわせたものらしい」、「花とプレゼントの国際婦人デー、女が料理を作って男が飲む国際婦人デーは、ソ連の社会での女のありようを、的確に反映しているともいえそうだ」と述べておられます。

 もちろん、中国において近年まったくこうした状況に変化がないかといえば、そうではなく、胡総書記が、各クラスの党委員会と政府に「女性差別の除去」や「女性の権益の侵害の取り締まり」を求めたことは、やはり改革開放以降の変化でしょう(女性NGOのサイトには、この発言を強調した見出しを付けているものもあります(9))。また、胡総書記は、女性に対して「社会主義民主・法治・自由平等・公正正義の理念を堅固に打ち立て、民主的な権利を行使し、公民の責任を自覚的に担い、社会の安定団結を維持するために貢献しなければならない」とも述べています。この点は、「社会の安定団結」という言葉が入っているとはいえ、女性に権利の行使を求めていると言えます。

 とはいえ、全体としては、国際女性デーにおいて党や政府が女性たちに求めるものと、自由や平等を求める女性たちの声との間には大きなずれがあることは明らかです。

(1)纪念“三八”国际劳动妇女节100周年大会在北京举行」『中国婦女報』2010年3月8日。
(2)胡锦涛「在纪念“三八”国际劳动妇女节100周年大会上的讲话」『中国婦女報』2010年3月8日。
(3)全国妇联「关于认真学习贯彻胡锦涛总书记在纪念“三八”国际劳动妇女节100周年大会上重要讲话精神的通知[ワード]」婦字〔2010〕14号。
(4)“三八”节,要&不要大声说出来[word]」『女声』24期[word](2010年3月8日)。作成者のうち、比較的名前の知れている人には、栄維毅、蒋永萍、李洪濤、劉巍の各氏がいますが、全体で28名の名前もしくはハンドルネームか職業が挙げてあり、かなり大勢で出し合って作成されたもののようです。
(5)广东省妇联积极参与整治网络低俗之风 净化网络护卫孩子 南粤母亲在行动」『中国婦女報』2009年6月18日、「广东:汇聚母亲力量护卫孩子健康上网」『中国婦女報』2009年12月2日。
(6)保护未成年人身心健康北京有新招 成立“妈妈评审团”举报网络低俗信息」『法制日報』2010年1月21日。ただし、「低俗を判断する基準はどのように、誰が決めるのか?」、「情報を封殺し、サイトを殺すのは、お母さんの仕事ではない」として、批判する声も出ています(凝眸「妈妈陪审团请别把母爱当幌子」『長江日報』2010年1月4日)。
(7)長平「“三八”的大名叫抗争」『南都周刊』2010年3月5日。
(8)訳注:この活動については、「北京市妇联纪念“三八”国际劳动妇女节100周年系列活动」(人民网2010年02月25日)で述べられています。
(9)胡锦涛:坚持男女平等打击侵害妇女权益行为」北京大学法学院婦女法律研究与服務中心HP2010年3月9日。
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『中国女性史研究』第19号刊行

 このたび、中国女性史研究会の『中国女性史研究』第19号が刊行されました(第18号までの目次はここです)。内容は以下のとおりです。

[特別寄稿]
 「民国初期の日常生活――『婦女時報』から読み解く――」(ジョアン・ジャッジ/大橋史恵・訳)
[研究ノート]
 「田村泰次郎が描いた〈貞貞〉――『肉体の悪魔』再読――」(秋山洋子)
[会議参加記]
 「グローバルな視野でのジェンダー研究の新方向――第一回ジェンダー研究国際シンポジウム参加記――」(姚毅)
 「ジェンダー史学会第6回大会」(上村陽子)
[書評]
 「游鑑明著『運動場内外:近代華東地区的女子体育』(1895―1837)」(中央研究院近代史研究所 2009年)(須藤瑞代)
 「譚曉玲『衝突与期許――元代女性社会角色與倫理観念的思考』」(南開大学出版社 2009年)(大島立子)
[新刊紹介]
 「末次玲子著『20世紀中国女性史』」(青木書店 2009年)(小浜正子)
[年表]
 「現代中国女性誌年表追補5(2008年9月~2009年7月)」(遠山日出也)

 「例会報告(2008年9月~2009年7月)」
 「中国女性史研究会第14回総会」
 「中国女性史研究会規約」
 「非会員業績」
 「入退会者・編集後記」


 私の書いている年表の追補は、1ページだけのものですが。

 ご購入方法は、中国女性史研究会のHPの中のこのページをご覧ください。
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林さんへのお応え――「自分はWANのために何ができるか」という問いをめぐって――

日本女性学研究会でご一緒してきた林葉子さんが、「WAN(ウイメンズ・アクション・ネットワーク)のこと」という文をお書きになりました。

その文の中で林さんは、「『WANの今後を、どうすればいいのか』という問題は、やはり他人事としてではなく、『自分は、WANのために何ができるか』という形で、皆さんに答えてほしい」(以下、便宜上、林さんの主張を赤字にしています)と問いかけられました。そのコメント欄に私が書き込んだコメントの中で、私は、「私はユニオンWANの支援者で、WANの会員ではないのですが、WANには発展していただきたいと思っていますので」という前置きをして、まず、以下のように述べました。 

第一に、私は、WANを発展させるには、広く投稿を集めることが効果的だと思いますので、もし私がWANという場で訴えたい問題が出てくれば、自らWANに投稿してみようと思います。

第二に、私は、先々月、わずか2000円ですが、カンパをしました。それ程度のものは既にWANから得ていると思ったからです。また、私は、自発的なボランティアの方にも、少なくとも(「賃金」とまではいかなくても)何らかの手当を払ったほうがいいように思いますので(私は、とりあえずそんなふうに思います)、今後も、ささやかながら財政的に貢献するつもりです。まして、もし自らが投稿したならば、掲載(+審査)作業の「賃金」に相当するお金を払うつもりです。

WANへの記事の投稿と「掲載料」について

この私のコメントに対して、林さんから、「WANのこと(2) 遠山さんのコメントにお応えして」という応答をいただきました。その中には、以下のように書かれていました。

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