2009-10

セクハラを例にした、婦女権益保障法の実効性に対する厳しい批判

 今年9月、女性の立場からメディアをウォッチするするNGO「女性メディアウォッチネットワーク(婦女伝媒監測網絡)」(1996年発足)は、『女声』という電子週報を発刊しました。

 『女声』は、「毎週、女性の発展とジェンダー平等と関係がある情報を広く収集・編集して、サイトと電子メールを使って読者に提供する」もので、まだ「試刊」ですが、一般のマスコミでは目につきにくい情報やなかなか鋭い評論が掲載されています。

 たとえば、『女声』は、毎号、巻頭に「専題」として、特定のテーマについての論説を掲載していますが、第3期の「専題」は「中国の法律はなぜ使いにくいのか──反セクシュアルハラスメントから述べる」(1)でした。

 この論説は、婦女権益保障法の北京市の「施行規則」のセクシュアルハラスメント(以下、セクハラと略す)条項を取り上げて、「中国の女性の権益を保障する法律と女性の実際の権益のニーズとの間の差異を論評」したものです。

 今年9月25日、婦女権益保障法の北京市の「施行規則」の改正案が北京市人民代表大会常務委員会で採択され、あす11月1日から施行されます(北京市実施《中華人民民共和国婦女権益保障法》弁法)。北京市の「施行規則」については、先日の本ブログでも、昨年12月の当初の改正草案には「女性幹部・女性知識人の定年を延ばして男女平等にする」という規定があったのに、その後、削除された問題を取り上げましたが(女性幹部・女性知識人の定年の男女平等化に強い抵抗)、この「施行規則」のセクハラ条項についても何度か話題になりました。

 たとえば、この9月に「施行規則」が審議された際、セクハラの定義として、「女性の意思に反する」という点を加えたことが、あれこれ議論になりました(2)

 この「女性の意思に反する」という条項については、『女声』の論説はひとまず次のように評価します。

 「これはけっして初めてのことではなく、陝西・江西・安徽などの省はすでに早くからすでに類似の定義をしているが、たとえそうでも、なお肯定するに値する。」「セクハラの種々の形式、たとえば電子情報、絵画・写真、言語、文字などを列挙することに、あまり意味はない。なぜなら、形式は多種多様でありうるし、たえず新しくなるので、挙げ尽くすのは難しい。『女性の意思に反する』という基準に依拠してこそ、はじめて具体的な生活実践の中でセクハラを弁別できるのである。」

 しかし、続けて、次の点を指摘します。

 「2005年8月に『中華人民共和国婦女権益保障法』が改正された際に、『女性に対するセクハラを禁止する』と書き込まれたけれども、セクハラの法律上の定義さえ空白だったのであり、各地の地方の施行規則によって穴埋めされるのを待つしかなかった。しかし、今に至るまで、各地の施行規則の中のセクハラの定義は、みな不完全である。台湾の『セクハラ防止法』の中の定義を参照すると、次の点が発見できる。・セクハラは性差別にもとづく暴力であり、それゆえ性と関係がありうるだけでなく、性別とも関係がありうる。・セクハラは敵意や恐れを作り出し、被害者の仕事に影響を与えるのであり、その影響は、セクハラか否かを判定するにも非常に重要である(3)。以上の2つの要点は、現在、大陸の法律のセクハラに関する定義にはまだ出現していない。」

 以上の指摘は、中国の新聞や雑誌にはあまり見当たらないものですが、さらに続けて、この論説の筆者は、「以上のこれらの討論もみな、紙の上で兵を論ずること(机上の空論)かもれない」と言うのです。

 すなわち、「各地のセクハラに関する定義はみな熱い議論を引き起こしたけれども、みな法律が出来た後は、情報がなくなってしまう。少なくとも公共のメディアにおいては、私たちはまだ、それぞれ異なる『セクハラ』の定義が、個々の事件の洗礼を受けたのを見たことがない。」(4)

 「これは何を説明しているのか?」と、この論説の筆者は問いかけます。

 さらに、北京市の「施行規則」に「使用者[用人単位]はセクハラを予防・制止する措置を取らなければならない」という規定が入ったことは「積極的」だと述べつつも、「遺憾なのは、修正の過程で、かなり重要な、従来なかった[突破性]規定が削除されたことだ」として、以下の規定が「最終バージョンではみな消えてしまった」ことを指摘しています。
 ・「使用者はセクハラの賠償のために連帯責任を負わなければならない」
 ・「女性労働者または女性労働者委員会[女職工委員会]は、セクハラの防止を集団労働契約に書き入れることを要求できる」
 ・「女性労働者委員会は、職場の中のセクハラの訴えを処理できる」(5)
 この論説の筆者は、「このような状況の下では、使用者の責任は、実際上は架空のものにされる。もし法律上の責任がなく、懲戒措置がなければ、使用者は、どこから来た必要性と原動力によってセクハラを防止するのか?」と言います(6)

 この論説は、「ここにも、中国の女性の権益を保障する法律のアポリアを見ることができるようだ。すなわち、責任の宣示だけはあるけれども、責任の追及が欠けている。」と述べ、以下のように続けます。

 「このほかにも、セクハラの被害者を困惑させる問題はまだ存在している。たとえば立件の難しさ、立証の難しさ、賠償獲得の難しさである。……地方の法規も全国的な法律も、これらの重要な実践的意義のある問題を今に至るまで解決できていない。長い間存在していて、人々が如何ともしがたくて、深く心を痛めている現象は、女性の権益を保障する法律が法律的実践に用いられた事件・訴訟の実例をほとんど見つけることができないということ、すなわち、これらの法律は真に女性の権利を守る武器にはほとんどなりえていないということである。」

 「中国の法律の不十分さに関する一つのよくある解釈は、これは法制建設の発展段階によって決定されているので、将来のいっそうの発展によって解決されることを期待するしかない、というものである。しかし、このような解釈は、人々を納得させうるものではない。なぜなら、『婦女権益保障法』が1992年に公布されて以降、ずっと『操作性がない[法的には実際には使えない、といった意味だと思います]』という批判に直面してきたが、2005年に改正されても、この面にはほとんど変化がなかった(7)。なおかつ、新しく増えた規定、たとえばセクハラの禁止やDVの禁止も、同じようにまた『操作性不足』という欠陥を繰り返した。」

 「このような[法律の]設計あるいは処置の原動力は、国家が女性の権益を保障するために『代価を支払う』ことを避けることにある。一方で、これらの法律は、文字のうえで女性の権利保護要求をくい止めるとともに、国家の政治的イメージを作りあげる。その一方で、その「可操作性」と問責メカニズムを空っぽにすることによって、女性が真に法律的にエンパワメントされたり、既成のジェンダー制度が衝撃が受けたりする危険を避けている。」

 以上、この「専欄」の一文は、非常に厳しいものですが、現在の中国の女性の権利を守る法律(主に婦女権益保障法を指していると思う)の内容と機能をリアルに見るかぎり、ほぼ正しいと言えると思います。

 もちろん、中国の法律も何の変化もないわけではなく、2005年には婦女権益保障法に入らなかった(草案にはあった)使用者のセクハラ防止義務が、今回の北京市の施行規則では取り入れられたというようなことはあります。ただし、現実にこの法律を武器にできる水準には達しているとは言い難い――ということなのだと思います。

(1)「中国的法律為什麼不好用──从反性騒擾説起」『女声』第3期(試刊)[ワードファイル](2009年9月28日)
 他の号も、以下のとおり、webにアップされています(いずれもワードファイル)。
 『女声』第1期(試刊)(2009年9月14日)
 『女声』第2期(試刊)(2009年9月21日)
 『女声』第4期(試刊)(2009年10月12日)
 『女声』第5期(試刊)(2009年10月19日)
 以上の『女声』は、「社会性別与発展在中国」サイトに収録されています。『女声』のメーリングリストのサイトもあるのですが(女声genderwatch)、メーリングリストのサイトは、まだすべての号を収録していません。
(2)2009年5月に出た修正草案では、セクハラの定義は、「言語・文字・画像・電子情報・身体行為などの形式によって、女性に対してセクシュアルハラスメントをすることを禁止する」(第38条)というものでしたが(北京市人大常委会内務司法弁公室「徴求対《北京市実施〈中華人民民共和国婦女権益保障法〉弁法》(修訂草案)意見的通告」(2009年5月4日、北京市人民代表大会常務委員会HP)、9月に成立したものは、「女性の意思に反して、性的内容または性に関係する言語・文字・画像・電子情報・身体行為などの形式によって、女性に対してセクシュアルハラスメントをすることを禁止する」(第33条)になっています(「北京市実施《中華人民民共和国婦女権益保障法》弁法(2009年9月25日北京市第十三届人民代表大会第十三次会議通過)」北京市人民代表大会常務委員会HP)。
 「女性の意思に反する」という文言が入ったのは、一部の委員から、5月の修正草案の定義だけでは広すぎるので、「女性の意志に反する」という限定を加えるべきだという意見が出たからです(「北京市為性騒擾界定両個要件即違背婦女意志及含有性的内容」『京華時報』2009年9月24日)。
 この修正に対しては、「言語・文字・画像・電子情報・身体行為などの形式」という定義だけでは、そうした情報を受け取っても、女性が自分が傷ついたと思わない場合もあるという理由で賛成する意見が出るとともに(「“違背婦女意志才算性騒擾”彰顕立法理性」『東方今報』2009年9月27日)、「セクハラ」とは女性の意思に反する行為を指しているのだから、「女性の意志に反する」という言葉は余計であるとか(「“違背婦女意願”的“性騒擾”定義並不科学」熊超律師的小空間2009-09-24)、女性がセクハラを歓迎する場合もあるかのような言い方は女性に対する侮辱である(「没有不違背婦女意願的性騒擾」『重慶時報』2009年9月27日)と言って反対する意見も出ました。また、人の意志、とくに男女間の感情は変わりやすいので、おこなわれた時には女性の意に反していなくとも、女性の気が変わって男性を訴えるかもしれないとか、男性を陥れる女性が出てくるかもしれないという理由で「女性の意志」を基準にすることに反対する意見もありました(「反性騒擾漏掉了誰?」『雲南信息報』20099年2月26日→「“違背婦女意願”是否会変成橡皮泥」反対家庭暴力網)。
(3) 台湾のセクシュアルハラスメント防止法の第2条は、以下のとおりです。
 「本法で言うセクシュアルハラスメントとは、性侵害の犯罪以外に、他の人に対して、その意志に反する性または性別に関係する行為をおこなうことで、かつ以下の状況の一つがあることを指す:
 1.他の人がその行為に従う、または拒絶することが、仕事・教育・訓練・サービス・計画・活動に関する権益を獲得・喪失・減少させる条件になる。
 2.文字・図書・音声・映像またはその他の物をを見せるか放送する方式、または差別・侮辱する言行、または他の方法で、他の人の人格の尊厳を損なう、または心に恐怖を生じさせる、敵意を感じさせる、怒らせる情況、またはその仕事・教育・訓練・サービス・計画・活動または正常な生活の進行に不当な影響を与える。」「性騒擾防治法」(民国98年01月23日修正)全國法規資料庫
(4)この論説の、この箇所の指摘は、王琳「遏制性騒擾更在立法実践之外」(『京華時報』2009年9月25日)にもとづいています。
(5)これらの条項は、出された当時、注目されました(「単位性騒擾 単位要担責」(『北京晨報』2008年12月3日)。2008年12月に出た最初の修正草案については、正確には「関于《北京市実施<中華人民共和国婦女権益保障法>弁法(修訂草案送審稿)》的説明」(もとは北京市人民代表大会常務委員会HPのhttp://www.bjfzb.gov.cn/advice/user/content.asp?UNID=291に掲載されていましたが、現在は社会性別与発展在中国HPに収録されています)を参照してください。
 また、昨年12月の草案には、「本市の各クラスの人民代表の候補者のうち、女性代表の比率は代表の候補者の総数の35%より低くてはならない」(第11条)という規定もあり、『中国婦女報』の記事は、この規定にも注目していましたが(「北京実施“婦女法”弁法送審稿亮点頻出」『中国婦女報』2008年12月4日)、この規定も今年5月には削除されました。
 また、私が重要だと思うのは、昨年12月の草案には、第2章として、「組織機構とその職責」という章が設けられており、市と区(県)の女性児童工作委員会に、たとえば以下のような重要な権限を与えていたことです。
 ・女性の権益を保障するうえでの重要な問題を調査研究し、指導的意見を提出する。女性の権益に関する地方性法規・規則と公共政策の制定に参与する。
 ・女性の権益を侵害する行為の訴え・通報を受理し、関係部門に女性の権益を侵害する行為の調査・処置を督促する。
 しかし、今年5月の草案には、「組織機構とその職責」という章はなくなり、以上の規定も削除されました。
 結局、セクハラ問題以外の点に関しても、昨年12月の当初の草案にあった、数値を挙げるような具体的規定や法律の実効性を確保するための具体的措置(女性幹部・女性知識人の定年の男女平等化、人民代表大会の代表の候補者の総数に対する女性代表の比率の数値、女性児童工作委員会の権限強化)の多くは、削除されたということができます。
(6)この点に関しては、『女声』のこの文の筆者は、北京市の「施行規則」を論評した『新京報』の社説である、「反セクシュアルハラスメント:権利の明確化から、権利の実現へ」を参照しています。この社説は、次のように述べています。
 「おおざっぱで粗すぎるのが、中国のあるいささかの法律の通弊である。すなわち、ある領域では、すでに法律ができたけれども、民衆が問責または権利保護の要求をしたときには、相変わらず依拠できる法律がない感がある。ポイントは、立法のときに、問責あるいは権利保護の制度設計を考慮に入れていないことにあり、そのために、法律と現実が食い違って、法律が紙の上だけのものになって、本当に運用できる武器たりえないのである。
 やはりセクハラについて言えば、もし使用者[用人単位]が必要な防止措置をとっていなければ、使用者が負わなければならない法律上の責任は結局何であるのか? 被害者に一定の賠償をしなければならないのか否か? これは、施行規則では明確ではなく、このようである以上は、どうしても、使用者に対して責任を追及しようがないのではないかと心配になる。
 率直に言って、中国の現行の法律がセクハラに対して打撃を与える力は非常に弱く、この類の訴訟で被害者が勝利するのを見ることは基本的にできない。」(「(社論)反性騒擾,从弁明権利到落実権利」『新京報』2009年9月24日)。
(7)この点に関しては、遠山日出也「最近の中国における女性労働問題をめぐるさまざまな女性たちの動き」『女性学年報』26号(2005年)129-131頁も参照してください。
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ラビア・カーディルさん、京都で講演

 10月25日、京都自由大学で、ウイグル人の人権活動家、ラビア・カーディルさんの講演がありました。

 ラビア・カーディルさんは、改革開放後、起業に成功して大富豪になり、全国政治協商会議の委員なども務めました。しかし、ウイグル人の窮状を中国政府にありのままに、率直に訴えたところ、役職を解かれました。1999年には、新聞記事をアメリカに送ろうとしただけで、「国家機密漏洩」の罪で逮捕され、投獄されました。欧米の人権団体などの力で2005年に釈放されてアメリカに行き、今は世界ウイグル会議の議長を務めておられます(詳しくは、kokさんのサイト「ラビヤ・カーディル(レビヤ・カディール) ウイグルの『母』」をご覧ください。彼女のその時々の動向については「真silkroad?」に書かれています)。

 ラビアさんは2007年にも来日していますが(その時の私の記録など)、今回は、ラビア・カーディル著(熊河浩訳、水谷尚子監修)『ウイグルの母 ラビア・カーディル自伝』(ランダムハウス講談社 2009年)出版に合わせての来日となりました。

 以下、ラビアさんのお話の大まかな内容を、私のメモから起こしてみます。ただし、なにぶん通訳を介してのお話である上に、私もすべて正確にメモできたわけではありませんので、抜けている点もありますし、不正確な点、ラビアさんのご意思とはズレた書き方になっている箇所もあると思います。とくに会場からの質問については、質問自体も、通訳を介して受けておられますので、難しさがあったと思います。

 ラビアさんも意を尽くしたお話ができる時間的余裕はなかったでしょうから、以下のお話に関心を持たれた皆様は、ぜひ上のご著書をお読みいただきたいと思います。

 当日は、まず最初にラビアさん自身が概括的なお話をされた後に、会場からの質問を受ける形で講演が進められました。

 最初の概括的なお話は、だいたい以下のような内容でした。

 今、声を出しているのは、ラビア・カーディルひとりではなく、1000万と言われるウイグル人の苦しみを伝えるものだ。

 わがウイグルが中国共産党の支配されたのは1949年で、それから60年が経った。わが国が制圧されたときは「東トルキスタン」という名前だったが、その後は「新疆ウイグル自治区」という名前になった。この60年間、ウイグル人は、「民主」や「自由」を口に出すこともできない苦しみの中で生きてきた。たとえば私の家族は、夫は9年、私は6年、2人の子どもはそれぞれ9年と7年、投獄された。東トルキスタンでは、家族から2~4人投獄されるのは、とても普通である。

 私は刑務所を出た日から、ウイグル人の苦しみを伝えるために、平和的に講演活動をしてきた。

 今日のウイグル人は自由に本を出版できないし、自由に話をすることもできない。自分の好きな詩・歌を出しても、逮捕されることがある。経済的な点では、ウイグル人には石油などの資源があるにもかかわらず、その地域で最も貧しい生活を送っている。2~3%の人は高等教育を受けているが、その他の人はあまり教育を受けていない。宗教については、最も口に出せないことである。

 9.11事件以降、それ以前からウイグルに対して同化政策をとっていた中国政府は、この事件をチャンスと捉えて、中国政府に対してモノを言うウイグル人に「テロリスト」というレッテルを貼るようになった。2008年には、裁判所の人が「1万5千人をテロリストとして逮捕した」と自分の口で言っているが、彼が言ったのは最低の数で、実際はそれより多い。

 2003年以降、母語で教育を受ける権利も奪われた。

 2006年以降は、ウイグル人の若い女性を、「貧しい生活から救う」と称して、14-25歳の未婚の女性を全体で30万人近く移住させた。娘を出したくない家族は、罰金を課されて家を奪われたり、3─6カ月、収監されたりした。

 中国政府は、一方では「ウイグル人は生活が貧しいから援助する」と言いつつ、ウイグルから石油や天然ガスを奪っている。

 中国政府は東トルキスタンに何千万もの漢人の労働者を送り込んできた。その一方で、ウイグル人はなぜ仕事が見つからずに、外に送り出されるのか? こうした点を質問すると逮捕される。

 このようなことに対してウイグル人は反発して、7月5日、平和的なデモをおこなったが、弾圧された。

 私は政府の一員として中国の言うとおりにしていれば、幸福な生活を送れたが、[民族の]苦しみを伝えるために、お話しをしている。

 以下は、質疑応答です。

─逮捕されたのはいつか?

 1999年8月6日、逮捕された。それまで全国政治協商会議の委員として、ウイグル人の状況を会議に報告していたが、無視された。そこで、ウイグルの状況を伝える[中国の地元の]新聞記事を、アメリカにいる夫に送るために集めた。外国に送るために、その新聞記事を持っていたので、逮捕された。

 6年間投獄されて、最初の2年間は真っ暗な部屋に入れられた。アムネスティなど国際社会の努力で、明かりのある部屋に移ることができた。

─獄中での生活は?

 恐ろしいものだった。もう夜になっているので、そういう恐ろしい話は、皆様にしたくない。私の本に詳しく書いてあります。

─かつての政界での地位は?

 地方の人民代表大会の議員、全国の政治協商会議の委員など、多くの政治的役職を持っていた。

─なぜ、富や名誉を手に入れたのに、こうした活動を始めたか?

 私は、当時は、ウイグル人の状況について中国政府が知らないと思っていたので、実情を伝えるために仕事をしていた。けれど、そうしたら、中国政府は私から役職を奪った。

 私のウイグルについての話を中国政府は聞かなかったので、現在は、国際社会や他の政府に訴えている。今は、[この会場で]知識人や学生に訴えている。

─いつ釈放されたか?

 2005年3月17日です。

─東トルキスタンは、侵略に対して武力を使って闘ったことは歴史的になかったのか?

 闘ってきた。1933年、カシュガルに第一次東トルキスタン共和国を作った。1944年には、第二次東トルキスタン共和国を作った。とくに第二次のときは、6万人の軍隊を作って独立した。

─新疆ウイグル自治区での核実験について

 1964年から1995年まで、49回おこなわれた。中国政府は「タクラマカン砂漠の中心でおこなった」と言うが、ウイグル人の地域なので、とても恐ろしい影響があった。詳しくは高田純教授の本を読んでほしい。私は当時は中国にいたが、「70万人死んだ」という話を聞いた。生まれた子どもにも怪しい病気が発生したが、治療も受けられない。その地域では、50歳にならないうちに、亡くなる人が多い。

─ウイグルにいるお子さんはどうしているか?

 2006年、私が国際社会にウイグル人の声を伝えるために「在米ウイグル協会」の会長になったら、5人の子どもが逮捕された。今、2人の子どもが9年と7年の刑になっているが、どのような罪に問われたのかもわからない。

 7.5以降は、子どもに強制的に私に反対する発言をさせた。家を奪われ、追放されたと聞いたが、それが私が聞いた最後の話である。

─「千人の母親運動」(ウイグル女性の起業運動。詳しくは「ラビヤと娘、アクダ RFAインタビュー」参照)について

 私自身が商売に成功した後、ほかのウイグル女性にも、ということで始めた。

 もうけのうち、30%は子どもたちのために使い、10%は民族教育のため、10%は衛生のために使おうと思った。

 しかし、禁止された。ウイグル人が一緒にやる活動だったからだ。

─日本のウイグル人は自由に発言できない。これは日本だけか?

 どこでも同じだ。もし中国政府が「〇〇さんとラビアが会った」と聞いたら、中国に残っている〇〇さんの親戚は逮捕され、刑務所に送られる。世界のどこにいても、ウイグル人に自由はない。私の平和的な活動も、中国政府に「テロリスト」として非難されている。

─もし中国共産党の人と対話の機会があったら、何を訴えるか?

 民族自決権を渡すこと。ウイグル人の文化・歴史を守るためには、民族自決権が必要だ。

─日本のマスメディアに何を求めるか?

 7.5事件で、中国はウイグルに対して厳しい弾圧をおこなった。1万の人が姿を消した。中国政府は、国際社会に「ウイグルがテロをやった」と伝えたが、もともとは平和的なデモだったのを、中国が反乱分子を混ぜ[て暴動を起こさせ]た。

 中国は国際社会の調査などを拒否し、ウイグルのインターネットも閉鎖した。事実を調査するなど、日本のマスコミはしてほしい。それから日本の政府もそうしてほしい。

 一番つらいのは、中国政府が国際的な経済力を使って、そうしたことをさせないことだ。ウイグル人の問題は、中国の国内問題ではない。日本政府も介入すべきだ。外交問題に取り入れてほしい。

 日本は経済的にとても強い力を持っている。民主主義も持っている。アジアの民主主義を発展させるために、力を入れてほしい。

─今後、中国人と共生の道はあるか?

 7月5日のデモに対して、中国人は「ウイグル人のテロリスト」と言い、中国の民族主義派はウイグル人を殺した。家の中にまで入ってきて、3歳の子どもも、数十人の中国人の民族主義派に殺された。軍隊や役人も放置し、中国人は笑って見ていた。

 こうした残虐な行為は、実は、中国政府が作り出した結果だ。

 いろいろ努力はしていて、チャンスを作って、会談などやりたい。

─7月7日の漢族の報復的な行動は非難されるべきだ。しかし、世界ウイグル会議の出した動画にも、関係がない、間違ったものがあったのは、不信感を生んだ。

 それは事実である。多くの情報が入ったので、それをそのまま流したが、関係ないものがあったので、翌日の朝、自ら発表して誤りを正した。ミスもあった。

─釈放まで耐えられたのは?

 ウイグルの苦しみは続いてきた。私は、ウイグルの民衆の涙を見ながら生活してきた。私は国民を信じ、国民は私を信じた。そのように信じることが力なった。

 ラビアさんのお話はだいたい以上のような内容でしたが、これらの話の多くは、今回の著書にもっと詳しく書かれています。

 たとえば、ごく単純な例を挙げると、核実験についても、著書では、単に「聞いた話」ではなく(70万という数字は、べつに調査した数字ではないので、正確なものではないと思う)、以下のような実体験が書かれています。

 「核実験地域を訪れると……出会った住民の五人に四人は、身体に何からの障害を抱えていた。口の周りに真っ赤な腫瘍ができている人もいれば、腕の先が欠けている人もする。目と耳がないまま生まれてきた新生児も見た。多くの人は髪の毛が抜け落ちていた。なぜ自分たちが病気のなのか、彼らにはまったく見当もつかないようだった。
 私は視察から帰ると、会議の席で、核実験の被害者に対する補償を要求した。しかしほかの代表にとって、このような考えはまったく理解しがたいものでしかなかった」(323頁)。

 ただし、このご著書は、単純に「悲惨な話」ばかりが書かれているような本ではけっしてありません。私は、ラビアさんの不屈の生き方に胸を打たれました。ラビアさんの不屈で精力的な活動ぶりは、読んでいても、息をつかせず、一気に読んでしまいました(といっても、商売さえも、あれこれと中国の役人が邪魔をするような状況はいらだたしいのですが……)。

 また、この本は、全体しては民族の問題を軸にして記述されていますが、ラビアさんが、女性の地位が低いウイグル社会の中で、自立的な生き方を求めてきた軌跡についても、リアルに書かれています。

 「千人の母親運動」についても、それを始めたきっかけは、オフィスで出会った3人の女性が夫に逃げられたために「自分の人生はもう終わった」と信じ込んでいたのに対して、「夫がいなくなったら不幸なの? あなたたちの幸せって、そんなふうに夫につながれているものだったの?」と尋ねたことであり、「千人の母親運動」は、母親たちのために会社を設立して、経済的な知識を身につけさせるものだったことが述べらています。この運動の中で、住む家を失った女性のための相談所を作ったり、女性がはっきりしゃべたり、自信を持つための訓練施設も作ったことにも触れられています(374-381頁)。

 ぜひお読みいただきたいと思います。
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湖南省高級人民法院、DV被害女性の保護を強化する指導意見

 今年4月、湖南省高級人民法院「DV被害女性に対する司法の保護の強化に関する指導意見(試行)湖南省高級人民法院関于加強対家庭暴力受害婦女司法保護的指導意見(試行)](以下、「指導意見」と略す)を出し、7月、正式に対外的に公表しました。

 最高人民法院の応用法学研究所研究員・陳敏さんは、この「指導意見」について、「中国で現在最も操作性がある反DVの司法の指導意見である」、「以前の宣伝的な文書と比べて、この文書は操作性があり、反DVの司法の関与において、実質的な一歩を踏み出した」と述べています(1)

 この「指導意見」の具体的に優れている点として、湖南省高級人民法院研究室副主任の志偉さんは、以下の3点を挙げています(2)

1.証拠の採用において、DVの被害女性が「証拠を集めるのが難しい」という問題の解決に力を入れた

第5条 証拠の認定
 人民法院がDVに関わる民事事件を審理する際は、DV事件の隠蔽性、および被害女性が証拠を集めることが難しいという特徴を十分考慮して、立証責任を合理的に分配しなければならない。
 民事訴訟においては、被害女性がを提供した、以下のDVに遭った基本的な事実の証拠に対して、もし相手方に否定するに十分な証拠がなければ、証拠が証明する事実の存在を認定できる。
 1.警察に通報した記録、警察が通報を受けた記録、警察が出動した記録
 2.監察医の鑑定
 3.カルテ
 4.写真・ビデオなどの視聴資料
 5.証人の証言
 6.地域コミュニティ、婦連など社会団体・組織の関係する記録
 刑事訴訟におけるDVの事実の認定は、厳格に「刑事訴訟法」などの関連規定に照らして、証拠を検査して事実であることを証明して、はじめて判決の根拠とすることができる。

第6条 職権による証拠収集
 被害女性が客観的な原因により自ら証拠を収集できない場合は、被害女性の申請、または人民法院がたしかに必要があると認めたときは、人民法院は職権によって関連する証拠を調べ、収集し、保全することができる。

第7条 未成年の子どもの証言の証明力
 未成年の子どもが提供する、DVに関するその年齢・知力・精神状況にふさわしい証言は、DVの証拠として認定できる。

2.人身保護の上で、被害女性が訴訟の過程で再度DVの侵害を受けることを防ぐ措置を採った

第11条 人身安全保護裁定
 DV被害女性とその子どもの人身の安全をいっそう有効に保護し、民事訴訟の正常な進行を確保するために、被害者が申請し、人民法院が審査してDVの危険が存在していると確認し、もし人身安全保護措置を採らなければ、被害者の合法的権益が埋め合わせることが難しい損害をこうむるときは、当地の公安機関と地域コミュニティの協力の下、申請人の人身安全保護請求に対して、法にもとづいて裁定をすることができる。各基層の人民法院は、上級法院の指導の下、現行の法律の規定に依拠して、人身安全保護裁定の試験[試点]工作をおこなうことができる。

3.刑事訴訟における、「暴力によって暴力を制した」女性被告人の減刑・仮釈放

第19条 「暴力によって暴力を制した」刑事事件の被告人の処罰
 DVの被害にあった女性が、長いあいだ暴力をふるわれている情況の下で、加害者から逃れるか、家族を保護するために、加害者を殺すかケガをさせて、犯罪を構成した場合は、審理の際、犯罪を引き起こした動機と原因を十分に考慮し、主観的な悪質さが比較的軽く、社会的な危害が比較的小さく、事件発生後、心から罪を悔やむ、または被害者とその家族の理解を得ている、とくに家族に養育を必要とする未成年の子どもがいるときは、処罰は軽きに従う、軽減する、または免除することができる。

第20条 「暴力によって暴力を制した」受刑者の減刑・仮釈放
 DVの被害にあって「暴力によって暴力を制する」行為をした女性の犯罪者に対しては、もしその執行期間に監獄内の規律を守り、教育・改造を受け、たしかに悔い改める態度があり、かつ養育を必要とする未成年の子どもがいる場合は、その人身の危険性が一般的に大きくないことを考慮して、法にもとづいてその減刑の幅を適当に拡大し、[減刑をする]間隔を相応に縮めることができる。この類の女性の犯罪者に対しては、その犯罪の状況と罪を悔いる態度にもとづいて、たしかに再び社会に危害を加えることがない者は、法に照らしてできるだけ寛大に仮釈放を適用する。

 以上の3点だけでなく、以下の4点も、特色として挙げられています(3)

4.立案において、被害女性に対して、口頭の起訴と訴訟費用の減免という便宜をはかった

第3条 DVの被害女性が口頭で起こした訴訟の受理
 DVにあったために、民事訴訟を起こした、または刑事の自訴をした女性で、起訴状を書くことがたしかに困難なものは、口頭で起訴し、人民法院が調書に記入して、相手方の当事者に告知することができる。

第4条 訴訟費用の支払いの減額、免除、猶予
 経済的収入がない、または経済がたしかに困難なDVの被害女性で、人民法院に婚姻家庭・損害賠償の民事訴訟を起こした者は、訴訟費用の支払いを猶予、減額、免除できる。

5.民事裁判において、離婚事件の中での財産分割、損害賠償、子どもの養育などの事項に重点を置いて、DVの被害女性に有利な規定を作った

 この点は詳しく書きませんが、第13条「離婚事件における財産分割」、第14条「離婚事件における子供の養育」、第15条「離婚事件における損害賠償」で述べられています。

6.執行の面で、仮執行と財産保全措置によって、被害女性の合法的権益を積極的に保護した

 第8条「財産の保全」、第9条「仮執行[先予執行]」で述べられています。

7.専門の合議法廷と裁判官の研修にいっそう力を入れた

 第21条「専門の合議制法廷および業務研修」で述べられています。

★「指導意見」の背景

 この「指導意見」の背景には、以下のような点があったと言われています。

 もともと湖南省は、全国で初めて「DVの予防と制止に関する決議」を挙げるなど、DV問題に比較的取り組んでいる省でした。

 さらに、2007年11月以来、湖南省高級人民法院と湖南省婦連が連合して執行し、国連ジェンダーに関するテーマグループ(UN Theme Group on Gender、聯合国社会性別主題小組)と中国法学会DV反対ネットワーク(中国法学会反対家庭暴力網絡)が共同で支持した「DVの被害女性に対する司法の保護を強化する」プロジェクトがおこなわれてきました。

 このプロジェクトの過程で、湖南省高級人民法院がここ2年間の民事事件の保存文書を取り寄せて読んだところ、90%以上のDVが「家庭内のもめごと」とされて、被害女性はしばしば何の賠償も保護も得られていないことがわかりました。中国では、2001年に婚姻法が改正された際に、DV防止規定が入ったのですが、まだ実態はこのようだったのです(4)

 たとえばこうした調査研究をしたうえで、裁判官や専門家の意見も聞いて、この「指導意見」は4月14日、湖南省高級人民法院裁判[審判]委員会で討論のうえ採択され、7月2日、正式に対外的に公表されました(5)

 また、この「指導意見」の大きな基礎になったのが、最高人民法院中国応用法学研究所が2008年3月に出した「DVに関係する婚姻事件の審理指南渉及家庭暴力婚姻案件審理指南(以下、「審理指南」と略す。以前のこのブログの記事でも言及しました(6))です。この「審理指南」は、裁判官の参考に供するためのもので、「人身安全保護裁定」という、諸外国の保護命令にある程度近いものを出す条項も含んでいました。

 長沙市岳麓区人民法院は、この「審理指南」の試点法院[試点:試験的にやってみること]になり(全国で計9ヵ所の基層の人民法院が試点法院になった)、「人身保護裁定」を3件出すなど、さまざな形で被害者の保護をはかってきました。その後、長沙市は試験地区を拡大して、芙蓉区、天心区、雨花区、長沙県の基層法院でも、試点をおこないました(7)

 2008年11月には岳麓区の人民法院・公安局・検察院・司法局・婦連は共同で「長沙市岳麓区法院のDV被害者の人身安全保護の強化に関する暫定規定」(意見募集稿)を作成しました。この規定も、「審理指南」同様に、「人身安全保護裁定」を定めています(8)

 もっとも、岳麓区人民法院が最初(2008年9月)に出した人身安全保護裁定の内容は「被告の陳某が、原告の羅某を脅迫・殴打することを禁止する」というだけのものでした(9)。これは、すでに現行法で禁止されていることを宣言しただけのものであり、その意味が疑われるような質のものです(10)。しかし、2件目、3件目になると、少しずつではありますが、以下のように裁定の内容を広げています。

 1件目:「被告の陳某が、原告の羅某を脅迫・殴打することを禁止する」
 2件目:「被告の范某が、原告の潘某を殴打・脅迫することを禁止する。被告の范某が、原告の潘某の親類・友人を脅迫・ハラスメントすることを禁止する」
 3件目:「被告の王某は本裁定書送達の日から、原告の李某とその親類・友人をもう脅迫・殴打してはならないと命ずる。被告の王某は原告の李某の父母の居住地の200m以内で活動することを禁止する。」(11)

★「指導意見」の意義

 この「指導意見」の意義については、この文の最初でも陳敏さんの言葉を引用しましたが、以下のようなことも言えると思います。

 ・陳敏さんは、今回の「指導意見」の「多くの規定が審理指南の関連する内容を吸収して」おり、「これは、わが国ではじめて省クラスの人民法院がDV事件について専門に出した指導意見であり、審理指南の元の科学研究の成果を規範的文書にグレードアップさせた」と述べています(12)

 ・また、「指導意見」には、「審理指南」には含まれていない内容も含まれています。それは、上のの、刑事訴訟における「暴力によって暴力を制した」女性被告人の減刑・仮釈放という点や、の、口頭の起訴や訴訟費用の減免という点です。

★「指導意見」の限界?

 ・湖南省高級人民法院の「指導意見」は計21条であり、「審理指南」が81条にも及ぶものであったのと比べれば、簡単なもので、「審理指南」に含まれている多くの内容が、含まれていません。DVの定義についても、「審理指南」は、身体的暴力だけでなく、性的暴力、精神的暴力、経済的支配を含めていたのに対して、「指導意見」は、現行の最高人民法院の司法解釈と同じく、基本的には身体的暴力だけを指しているなど、「審理指南」の方がより被害者の立場に立ったもののように思えます。ただし、この点については、「審理指南」は、研究所が出した「裁判官のために提供する、参考的性格の事件処理の指南[為法官提供的参考性辨案指南]」であるのに対して、「指導意見」は、高級人民法院自身が出した「規範的文書」なので、文書の性格も異なり、より慎重で保守的なのだろうと思います。

 ・人身安全保護裁定も、諸外国の保護命令に比べれば、まだまだ非常に限定的で不十分なものです。岳麓区人民法院副院長の胡忠さんも、「私たちの院が人身保護裁定の試用工作をした中で、若干の具体的困難にあった」として、以下の3点を挙げています。
 1.当事者自身が人身安全保護裁定を申請することに対して心配がある。家庭内の醜いことを言いふらして、笑われるのではないかとか、離婚はしたくないのに、裁定を申請したことによって夫が激怒して、結婚が最終的に破綻するのではないかとか。
 2.人身安全保護裁定の有効期間の規定は、改善の余地がある。有効期間があることは、期間が終わったらDVを続けてもいいかのような誤解を生じさせる。加害者が被害者に近づくことを制限するとか、加害者にしばらく2人の住まいから出て行くことを要求するなどの臨時の措置は、有効期間を設定する必要がある。しかし、「暴力および暴力的脅迫を禁止する」など、加害者が長期にわたって順守すべき禁止令は、有効期限を設けることは適切ではない。
 3.人身保護裁定違反の処罰の措置の規定に、改善の余地がある。現在、法院は、人身安全保護裁定に違反した者に対して、民事訴訟法を参照して処罰をすることしかできない。しかし、同一の裁定に対して何度も違反した場合、何度も処罰できるか否かについては、まだ議論がある。(13)
 今年の全国人民代表大会や全国政治協商会議では、尚紹華さんらが、各法院が人身安全保護裁定を出すための司法解釈を最高人民法院が出すことを求める提案をしましたが(14)、最終的には、「立法によって民事保護命令制度を確立する必要がある」(上海市南匯区人民法院・陸茵)(15)ということなのだろうと思います。

 ・また、この「指導意見」は、「暴力によって暴力を制した」ケースについて、正当防衛と解釈できる場合までは言及していません。この点は、刑法の正当防衛の規定との関係があるのかもしれません。

 ・この「指導意見」は、被害者を女性に限定しており、ゲイカップルのケースや、ごく少ないとはいえ、女性→男性という暴力のケースは想定していません。それらが視野に入っていない原因は、DVを、法律上の家族間の暴力、女性に対する暴力に限定している法律や司法解釈のためであるととりあえず考えることができます。

 ・今後、この「指導意見」が「試点法院」以外の湖南省の裁判所にどの程度受け入れられるのかも問題です。この点は、裁判官の研修などにかかっていると思います。もちろん最終的には、全国レベルの立法が必要でしょう。

(1)湖南:反家暴司法新機制」『人民日報』2009年5月13日。陳敏さんについては、本ブログの記事「陳敏『吶喊:中国女性反家庭暴力報告』」参照。
(2)湖南出台全国首個省級法院家暴案審理指導意見 法院可依職権為受害者取証」『中国婦女報』2009年7月9日。
(3)保護受暴婦女“人身保護令”出招 我国首家省級法院出台反家暴指導意見」(2009-07-02)湖南法院網
(4)2001年の婚姻法改正から2006年頃までのDVに対する政策や民間団体の取組みについては、遠山日出也「中国におけるドメスティック・バイオレンスに対する取り組み」『中国21』27号(2007年3月)を参照してください。
(5)湖南反家暴最具操作性意見出台」『法制日報』2009年7月7日、「湖南高院与婦聯聯合実施“加強対家庭暴力受害婦女的司法保護”項目」(2007-11-14)湖南法院網
(6)「審理指南」の全体の構成は、以下のとおりです。
序文
第1章 DVに関して
 第1条~第14条
第2章 基本的原則と要求
 第15条~第22条
第3章 人身安全保護措置
 第23条~第39条
第4章 証拠
 第40条~第52条
第5章 財産分割
 第53条~第62条
第6章 子どもの養育と面会
 第63条~第69条
第7章 調停
 第70条~第78条
第8章 その他
 第79条~第81条
 詳しくは検討していませんが、多くの条文が被害者の立場に立った、いき届いた指針のように思います。
(7)保護受暴婦女“人身保護令”出招 我国首家省級法院出台反家暴指導意見」(2009-07-02)湖南法院網、「各方協作防治家庭暴力 集思広益加強司法保護」(2008-11-10)岳麓区法院網、「岳麓区法院組織召開審理渉及家庭暴力婚姻案件座談会」(2008-11-10)湖南法院網、「加強司法介入 防治家庭暴力――長沙市岳麓区人民法院積極推進《渉及家庭暴力婚姻案件審理指南》試点工作」(2008-11-24)岳麓区法院網、「岳麓区法院積極推進《渉及家庭暴力婚姻案件審理指南》試行」(2008-11-24)湖南法院網、韓枚「《渉及家庭暴力婚姻案件審理指南》試点工作座談会在天心法院召開」(2009-04-15)湖南法院網
(8)回望2008 婦女維権」(『中国婦女報』2008年12月30日)の「長沙市岳麓区法院頒布“人身保護令”追踪 催生家暴受害人保護新規」の箇所。
 人身安全保護裁定は、以下の内容の一項目または多項目であるとされています。
 1.被申請人は、申請人やその親、友人を殴打したり、脅迫することを禁止する。
 2.被申請人は、申請人にハラスメントをしたり、つきまとったり、申請人やその未成年の子どもに歓迎されない接触をすることを禁止する。
 3.被申請人に、しばらく双方の共同の住まいから引っ越すことを命ずる。
 4.申請人の住まい、学校、職場、その他のいつも出入りする場所から200m以内において、被申請人が活動することを禁止する。
 5.被申請人に、経済的な収入のない申請人に、裁定が有効な期間の生活費を支払うように命ずる。
 6.子どもを直接養育していない被申請人に、未成年の子どもの養育費を支払うように命ずる。
 7.被申請人に、申請人が被申請人の暴力のための傷害によって急に必要となった医療などの費用を支払うように命ずる。
 8.申請人に自費で心理的な治療を受けるように命ずることができる。
 9.申請人およびその特定の親族の人身の安全を保護するためのその他の措置。
 有効期間は、3~6カ月で、必要な場合は12カ月まで延長できるとされています。
 以上、「審理指南」で定められていることとかなり似た内容です。ただし、若干の違いもあり、5~7は、「審理指南」にはありません。その一方、「審理指南」にあった「人身安全保護裁定が有効な期間は、夫婦の一方が勝手に、価値の比較的大きい夫婦の共有財産を処理してはならない」という点はありません。また、「審理指南」にあった、15日以内の緊急保護裁定は、定められていません。
(9)最初の人身保護裁定については、舒秋膂・劉群「湖南“人身保護令”為家庭暴力受害者撑起“保護傘” 長沙市岳麓区人民法院発出湖南省首個“反家庭暴力”人身安全保護裁定」(2008-10-10)反対家庭暴力網絡HP、「“人身保護令”為受害者撑起“保護傘”」『中国婦女報』2008年10月14日、「“再打老婆就拘留你” 湖南首份反家暴“人身保護令”発出」『法制日報』2009年10月22日。
(10)2008年8月に江蘇省無錫市の法院が出した中国初の人身安全保護裁定も「殴打・脅迫することを禁止する。本裁定は今から3カ月間有効で、この裁定の送達後、ただちに執行する」というだけのものでした(この裁定については本ブログの記事「DVに対して初の人身安全保護裁定」参照)。
 この裁定に対して、王琳「誰来保護“反家庭暴力保護令”」(『広州日報』2008年9月10日)は、「ロジックによって推断すると、まさかこの『保護命令』がなければ、劉剛[加害者]は王貴芬[被害者]を殴打・脅迫することは『禁止』されないとでもいうのか? 『保護命令』の時効は3ヵ月しかないが、これは、この期限の後は、劉剛が王貴芬を殴打・脅迫しても、もう保護は受けられないことを意味するのか? 上述の推断は明らかに成立しない。『保護命令』があってもなくても、DVは法律で禁止されている。……もし『保護命令』の殻だけで、『保護命令』の実がなければ、どうして被害者を保護できようか?」「アメリカを例にとれば、類似の『民事保護令』の申請は極めて簡単で、その内容はさまざまである。しかし、『保護令』の内容はけっして現行の法律で既に禁止している行為を含んでいない」と述べて批判しています。
 浙江省温州市の裁定も同様のものでしたので、銭夙偉「空泛的“人身保護令”対付不了家庭暴力」(『海峡都市報』2009年7月7日)は、「漠然とし過ぎており、加害者に対する具体的な制限がなく、暴力を阻止することも難しく、まして有効な『事前の保護』は不可能である」と批判しています。
(11)舒秋膂「拓寛保護範囲 規範操作流程」(2009-05-11)岳麓区法院網
(12)人身安全保護裁定抗争家暴」『法制日報』2009年6月15日。
(13)人身安全保護令強力干預家庭暴力 法官建議将其納入法律規範以填補立法空白」『法制日報』2009年5月2日。劉群・舒秋膂「人身安全保護裁定券指家庭暴力」(『人民法院報』2009年4月14日)も参照。
(14)尚紹華「建議最高法院尽快就“人身保護令”出台司法解釈」『人民政協報』2009年7月6日、「渉“家暴”案例指導制度有望今年出台」『法制日報』2009年5月23日、「反対家庭暴力,法律框架期待成型」『中国婦女報』2009年3月10日。
(15)人身安全保護裁定抗争家暴」『法制日報』2009年6月15日。
関連記事

女性科学技術者の困難と地位向上のための活動

 中国でも、近年、女性科学技術者の地位向上のため活動が徐々に始まってきました。まず、それらを、年表の形式でまとめてみます。

1993年
 7月 中国女性科学技術活動従事者親睦会[中国女科技工作者聯誼会]設立。
2002年
 9月 中国物理学会に女性工作委員会設立。
2007年
 3月 中国科学院など「わが国の女性が科学技術活動に従事している現状の研究(我国女性従事科技工作現状的研究)」発表。
 8月 中国女性科学技術活動従事者親睦会第2回代表大会、「中国女性科学技術活動従事者親睦会」を「中国女性科学技術活動従事者協会[中国女科技工作者協会]」に改称
2008年
 9月 第10回中国科学技術協会年次総会で初の「女性科学者ハイレベルフォーラム(女性科学家高層論壇)」開催
2009年
 4月 中国科学技術協会に「女性科学技術活動従事者専門委員会(女科技工作者専門委員会)」設立されたことが各紙で報じられる。  

1 女性科学技術活動従事者の状況の問題点

 以上のようなさまざまな活動をつうじて、女性科学技術者が置かれた状況の問題点が以下のように明らかになりました。

高い地位に女性がいない
 中国には900万人あまりの女性の科学技術活動従事者(科技工作者。この中には、科学技術に関する情報サービスやコンサルティング活動など、研究教育活動に直接従事しない者も含まれる(1))がおり、全体の1/3を超えている。しかし、高い地位にいる女性は非常に少ない。
 ・中国科学院(日本語:Wikipediaの説明SciencePortal Chinaの説明)の院士705名のうち、女性は5%前後である。中国工程院(日本語:Wikipediaの説明SciencePortal Chinaの説明)の院士701名のうち、女性は39名で、5.5%である。
 ・国家の重点的科学技術計画の中核層では、女性の比率はさらに低い。「913」計画が招聘した首席科学者175名のうち、女性は8人で、4.5%しかいない。「836」計画の専門家グループには女性メンバーはいない。
 ・167の全国的な自然科学専門学会の常務理事の中で、女性は8%を占めるにすぎない(2)
 ・中国青年科学技術賞[中国青年科技奨]の受賞者のうち、女性は8.4%にすぎない(3)

採用の差別
 ・就職の段階で「水準がほぼ同じなら、招聘や任命をする部門は男性を多く選ぶ」という隠れた差別があり、明文で「男性のみ」と定める明示的な差別さえある(4)
 ・中国科学院の数学・システム科学研究院の研究者の話:研究院を卒業しても、研究員になれるのはごく一部で、多くは高等教育機関に行くが、「多くの同級生が言うには、高等教育機関[大学など]は女子学生をわりあい排斥していて、上半期に契約したのはみな男子学生だった。人事部門は、女子学生には『ちょっと待ってくれ。もし男子学生が来なかったら、下半期に女子学生を考慮する』とさえ言う。」(5)

家事・育児負担の差別
 ・『わが国の女性が科学技術工作に従事している現状の研究』によると、「基本的にまたは完全に家事を担っている」人は、女性は78%だが、男性は12%だけである(6)
 ・とくに中・青年の女性は、子どもの教育の問題によって職業発展の黄金期が影響を受ける。40歳以降も、それまでの蓄積の差により、同年齢の男性と比べて業績が劣り、特に職務の獲得が男性より少なく、発言権において弱者である(7)

青年のための賞・基金、プロジェクトの年齢制限と出産・子育て
 ・呉令安(中国物理学会女性工作委員会主任):「現在の青年科学基金の申請の年齢制限は男女一律で、35歳を超えるともう申請できません。これは女性に不公平です。多くの女性はその前に出産・育児などの任務を完成させなければならず、成果は男性ほど多くありません。」(8)
 ・馬瑾(中国科学院院士):「青年科学技術賞は男女とも45歳(?)以下でなければなりませんが、女性はほとんどみな45歳の前に妊娠や出産・育児をしていますから、研究の積み重ねはおのずと男性より少ないのです。」(9)
 ・呉啓迪(全国人民代表大会常務委員、元教育部副部長):女性は25歳から35歳の間は結婚や出産で忙しいために、比較的年をとってから力を出すにもかかわらず、「国家の多くのプロジェクトは年齢制限があり、このために多くの女性科学者の目が摘み取られてしまいます。私はこれは大問題だと思います。」(10)

定年差別
 ・呉啓迪:「いま、女性科学技術活動従事者の最大の問題は定年です。」「現在、男性と女性は定年が異なっており、女性科学者、女性エンジニア[工程師]は55歳で退職しなければならず、若干のところでは50歳で退職しなければなりません。男性はみな60歳であり、これは不公平です」(11)
 ・劉恕(元中国科学技術協会副主席)「多くの女性は45歳以降に第二の春を迎えるのですから、女性科学技術活動従事者の定年を延長し、少なくとも男性と同じにすべきです。科学技術で賞をもらった女性は、大多数が45歳以上だったという過去のデータがあります。」(12)

県地域[県域]の科学技術活動従事者における性差別
 県クラスやそれ以下のクラスの科学技術活動従事者(農業技術者、衛生技術者、工程技術者など)は農村建設に大きな役割を果たしている。2008年4月、中国科学技術協会は、彼らの状況に関して調査報告を発表したが(13)、以下のような男女の差別が明らかになった(14)
 ・収入──学歴の95%は、中等専門学校(20%)、高等専門学校(47%)、大学(28%)の3つだが、その3つの学歴の場合は、同じ学歴どうしで比較しても、男性の科学技術活動従事者の収入は、女性より7~8%高い。
 ・執務の条件──長距離の電話・ファックスが自由に使える人は、女性の50%で、男性より6%低い。
 ・研修の機会──5年以内に所属機関が組織した(または出資した)訓練・研修に参加したことがある女性は53%で、男性より3%低い。
 ・仕事の認められやすさ──男性の72%は、自分の仕事が指導者や同僚に認められていると答えているが、女性は65%である。実地調査によると、職場の指導者や同僚は通常は男性が主で、彼らは女性との接触が相対的に少なく、交流が乏しいので、女性の仕事はしばしば了解や理解がされにくい。
 ・職称──男性は、中級、副高級、正高級の職称を持つ人が、それぞれ48%、13%、2%いるが、女性は、それぞれ46%、8%、1%にとどまる。

 女性の大学院生などは増えているのですが、趙蘭香さん(「わが国の女性が科学技術活動に従事している現状の研究」課題グループの長)によると「科学技術界の高いクラスでは、女性の占める比率は高くなっておらず、むしろ幾らか低くなっている」とのことです。趙さんは、この点は、近年、市場経済化にともなって、男女の性別分化や女性の家庭役割が強調されていることが女性の地位向上に対してマイナスになっていると述べています(15)

2 女性科学技術活動従事者の組織や活動

 以上のような状況に対して、女性科学技術者たちの活動が始まります。

1993年7月 中国女性科学技術活動従事者親睦会設立

 まず、ずいぶん以前のことになりますが、1995年の北京での世界女性会議を前にした1993年7月、中国女科学技術活動従事者親睦会[中国女科技工作者聯誼会]が設立されています。この親睦会は、世界女性会議へ参加、懇親活動、国際交流活動などをおこないました(16)

2002年9月 中国物理学会女性工作委員会設立

 1999年、 国際純粋・応用物理学連合(International Union of Pure and Applied Physics[IUPAP])の第23回代表大会で、女性物理学者ワーキンググループ(Working Group on Women in Physics[WGWIP])が設立されました。2000年6月、呉令安さん(中国科学院物理学研究所研究員)は、その第1回会議に中国の代表として出席しました。さらに、2002年3月にパリで開催された第1回女性物理学者国際会議(International Conference on Women in Physics[IUPAP])にも中国の代表団を率いて出席しました。同会議では、女性物理学者の地位向上などのための決議「物理学における女性」(日本語訳)が議決され、この決議はIUPAPの第23回代表大会でも採択されました(17)

 それを受けて、2002年9月、中国物理学会にも女性工作委員会が設立され(最近、HPもできました[中国物理学会女性工作委員会])、呉令安さんは、その主任になりました。その後、毎年の中国物理学会の年次総会では、女性物理学者の円卓会議が開かれています。

 女性工作委員会は、2005年の国際物理年の前夜、「国家の自然科学基金プロジェクトにおいて、女性の基本的比率を保証することに関する提議」をおこない、プロジェクト申請の責任者や獲得する基金の少なくとも10%を女性にすることや、出産育児活動で研究を離れた女性が研究に戻るのを助けるための専門の基金を作ることを提案しました。

 また、呉令安さんらが働きかけて、中国物理学会は女性研究者のための「謝希徳賞」を設立しました(謝希徳は中国の女性物理学者[1921-2000](18)、「中国物理学会謝希徳女性物理奨章程」)(19)

2007年3月 「わが国の女性が科学技術活動に従事している現状の研究[我国女性従事科技工作現状的研究]」発表

 2005年2月から2006年11月にかけて、中国科学技術協会、中国科学院、中国工程院、中華全国婦女連合会、中国科学院政策と管理科学研究所、中国科学院戦略研究センターは「わが国の女性が科学技術活動に従事している現状の研究」プロジェクトをおこないました。31の省の在職者(研究機構、大学、企業)や北京の大学院生にアンケートを配布(2971部を回収)し、一部の院士にも取材して、その結果を2007年3月に発表しました(20)

 この研究の背景には、「ますます多くの国家が女性の科学技術の人的資源の開発を重視し始めたという大きな背景の下、わが国の関係する政府部門が、国家戦略のニーズと国家の科学技術の競争力を向上させるという面から、科学技術界の女性問題の研究を重視した」ということもありました(21)

 このプロジェクトは、以下の7項目の政策提案もおこないました(要旨)。
 1.科学技術の立法と政策において、女性の発展の特殊な障害を明確にし、ジェンダー平等の理念を組み込む。「科学技術進歩法[中華人民共和国科学技術進歩法]」の中に、女性科学技術活動従事者の平等な発展の権利を保護する内容を入れる。科学技術の政策と制度設計において、ジェンダー問題を重視し、「科学技術における女性の平等戦略」を実施することを考慮するなど。
 2.女性の科学技術活動従事者に対する組織体系の建設を強める。中国科学技術協会に女性委員会を設立して、現有の女性組織、科学技術組織とつなげて、緊密に連係したネットワークシステムを形成する。
 3.女性科学研究基金を設立し、女性科学者が科学研究に参与する程度を向上させる。
 4.女性特別研修基金を設立し、女性科学者に職業の発展の中で必要な学習の機会を提供する。
 5.女性の発展に関する面の国際的な科学技術の交流と協力を重視する。
 6.女性科学技術活動従事者の発展は、最も根本的には、やはり自らの努力が必要である。自尊・自信・自強の精神を追求する。
 7.女性の職業の発展において特に目立つ問題を適切に解決し、女性が科学技術の革新に従事するためにより良い条件を提供する。科学技術活動従事者が比較的密集して住んでいるコミュニティに「中国女性科学技術活動従事者懇親会」などの基層組織を設立して、女性科学技術活動従事者の子どもの教育問題に対して「非営利的な」相談・交流・協力活動をおこなうなど。(22)

2007年8月 「中国女性科学技術活動従事者親睦会」を「中国女性科学技術活動従事者協会」に改称

 先述のように、1993年に中国女科学技術活動従事者親睦会が設立されましたが、親睦会レベルの組織では、女性のための政策の実現には結び付きにくいという限界がありました(23)

 そこで、2007年8月、中国女性科学技術活動従事者親睦会は十数年ぶりに大会を開き(第2回代表大会)、その席で、元中国科学院副院長で工程院院士の胡啓桓さんが、「中国女性科学技術活動従事者親睦会[中国女科技工作者聯誼会]」を「中国女性科学技術活動従事者協会[中国女科技工作者協会]」に改名して、今後、女性たちの意向や訴えを述べ、状況の調査もして、政策的建議などをおこなっていくという提案をし、了承されました(24)

2008年~ 「女性科学者ハイレベルフォーラム」開催

 2008年から、中国科学技術協会年次総会の際に「女性科学者ハイレベルフォーラム(女性科学家高層論壇)」が開催されるようになりました。具体的には、以下のような形でおこなわれています。

2008年9月 第1回
 テーマ:「女性科学技術活動従事者の社会的責任」
 9月16日午前 「広範な女性科学技術活動従事者を動員して、新しい型の国家の建設のために力を尽くそう」というテーマの報告会
 9月18日午後 「科学技術事業と女性の発展」というテーマの座談会(25)

2009年9月 第2回
 テーマ:「女性科学技術活動従事者の創新(新しいものを作り出すこと)と発展」
 9月9日午前 「科学技術女性と創新」というテーマの報告会
  〃 午後 「科学技術の創新と経済の穏やかで比較的速い発展における科学技術女性の役割」というテーマの座談会(26)

 上のテーマからは、女性の国家や社会に対する貢献を論じるような色合いが強いように見えます。といっても、実際には、女性科学技術活動従事者の地位向上の問題も多く論じられています。ただ、詳しくは調べていませんが、その点も、「女性が能力を発揮して国家・社会に貢献する」という文脈に位置づけられているのかもしれません。

2009年4月 中国科学技術協会に「女性科学技術活動従事者専門委員会」が設立されたことが各紙で報じられる

 2008年9月の中国科学技術協会(SciencePortal Chinaによる説明)の第7期第8回常務委員会は、中国科学技術協会に、女性科学技術活動従事者専門委員会[女科技工作者専門委員会]を増設することを決定し、2009年4月1日には、新聞各紙で、女性科学技術活動従事者専門委員会が設置されたことが報じられました(27)

 女性科学技術活動従事者専門委員会の職責は、以下の点です。
 ・女性科学技術活動従事者の成長・発展を促進する工作目標・重点任務の制定を研究・促進し、実施を指導する。
 ・中国科学技術協会がおこなう女性科学技術活動従事者工作のガイドライン・年度工作計画の審議をする。
 ・女性科学技術活動従事者の国内の学術交流活動の展開を積極的に推進する。
 ・科学技術知識の普及を推進し、女性の科学の教養を向上させる。
 ・女性科学技術活動従事者の状況の調査をおこない、関連する政策的提案をし、女性科学技術活動従事者の合法的権益を保護し、女性科学技術活動従事者の声や要求を反映する。
 ・科学技術協会系統の女性科学技術の団体の組織建設を推進し、女性科学技術活動従事者の隊伍の建設を強化する。

 女性科学技術活動従事者専門委員会が、その後、具体的にどのような活動をしているかはまだよくわかりませんが、上で述べたような、中国物理学会女性工作委員会や「わが国の女性が科学技術活動に従事している現状の研究」プロジェクトが提案している点のほか、女性科学技術者たちからは以下のような要望も出ていますので、それらの点に取り組むことが必要なのだろうと思います。
 ・出産・育児期の女性の科学技術活動従事者にサポート(有給の休暇、フレックスタイム、家事サービスを購入するための生活手当など)をおこなう。
 ・中学生(日本で言う中高生)時代に、女性科学者のモデルを紹介するなどして、女性を科学技術活動に導いて、より多くの女性が科学技術領域に入ってくるようにする。(28)

 以上でのべたように、国際的な女性科学者の地位向上の流れ、女性の能力を活用したいという国家の側の思惑、中国の女性科学技術者自身の願いなどがあいまって、中国でも女性科学技術者の地位向上の取り組みが始まっています。まだ目に見えるはっきりした成果は少ないように思いますが(29)、一つ動向になっていることはたしかだと言えましょう。

(1)三上喜貴「中国の科学技術政策」(1998年)の1.3「人材の雇用構造」参照。
(2)以上は、「《我国女性従事科技工作現状的研究》報告摘録」『科学時報』2007年3月8日。
(3)女科技工作者期盼更多発展空間――女科学家高層論壇女科技工作者“高位欠席”現象」『中国婦女報』2009年9月23日。
(4)科技女性職業発展遭遇三重障碍」『人民日報』2007年3月15日。
(5)陳歓歓「“難与不難是相対的”――訪中科院数学院女性科技工作者」科学網2007年3月8日。
(6)給女性科技人員平等発展権――訪“我国女性従事科技工作現状的研究”課題組組長趙蘭香」『科学時報』2007年3月8日。
(7)同上、
(8)中国女科学家的発展困境」科学網2008年3月7日
(9)女科技工作者期盼更多発展空間――女科学家高層論壇女科技工作者“高位欠席”現象」『中国婦女報』2009年9月23日。ただし、「中国青年科技奨条例(2003年6月17日実施)」(ワードファイル)第2条では「40歳以下」になっているのですが。
(10)女科学家:女性退休年齢応延長」『重慶晨報』2009年9月10日。
(11)同上。
(12)同上。
(13)1800万県域科技工作者成新農村建設重要力量」(2008年4月29日)中国科学技術協会HP
(14)県域科技工作者中的性別歧視需要高度関注――全国県域科技工作者状況調査之十一」(2009年2月23日)中国科学技術協会HP
(15)趙蘭香さんは次のように述べています。「現在、科学技術界の高いクラスでは、女性の占める比率は高くなっておらず、むしろいくらか低くなっている。この種の現象は改めて考えるに値する。前の世紀の六、七十年代に強調されたのは、性別の差異をなくすことであり、古い世代の女性科学者は、彼女たちの事業が成長する重要な時期に、客観的にこの時代にめぐりあったため、性別の差異の問題をほとんど考えなかった。しかるに現在は、商業的利益の社会的環境に対する影響が大きすぎて、女性の地位向上に対して若干マイナスの影響を与えていることは、女性自身も時に意識していないかもしれない。商業化の息吹きは、女性を力のかぎり、女性的魅力がある社会的役割に形作り、より多くの家庭役割を担わせる。それに伴って、女は男に及ばないとか、男尊女卑とか、男が主で女が従、とかが再度水面に浮上し、堂々と社会の主流の中に入りさえしている。」(「給女性科技人員平等発展権――訪“我国女性従事科技工作現状的研究”課題組組長趙蘭香」『科学時報』2007年3月8日)。
(16)中国女科技工作者聯誼会」2001年APEC婦女領導人会議のページ
(17)中国女科学家的発展困境」科学網2008年3月7日
(18)China ABC「中国著名な女性科学者」(中国国際放送局)の中で紹介されています。白鳥冨美子「女性物理学者の党中央委員――謝希徳女史」『アジア経済旬報』1237(1982年10月上旬)という一文もあります。
(19)中国女科学家的発展困境」科学網2008年3月7日
(20)給女性科技人員平等発展権――訪“我国女性従事科技工作現状的研究”課題組組長趙蘭香」『科学時報』2007年3月8日。結果の摘要は、「《我国女性従事科技工作現状的研究》報告摘録」『科学時報』2007年3月8日。
(21)張利華・陳鋼「女科技工作者渇望突破成長“天花板”」『科学時報』2007年9月3日。
(22)中科院提出七大政策建議 促女性科技工作者発展」中国新聞網2007年3月7日。
(23)趙蘭香さんは、2007年3月、「以前、女性科学技術活動従事者についての組織の多くは懇親会レベルだったので、政策面には入り込みにくかった。科学技術組織システムの中に女性科学技術活動従事者に焦点を合わせた専門的組織を組み込むことを提案する。中国科学技術協会に女性委員会を設立し、女性科学者に関する宣伝・交流・訓練・政策研究などに関する活動を展開することを提案する。いちばん希望するのは、組織建設が工作の展開の役に立ち、若干の実践の中の問題と政策措置の制定とを結びつけるのに役に立つことである」と述べています(「給女性科技人員平等発展権――訪“我国女性従事科技工作現状的研究”課題組組長趙蘭香」『科学時報』2007年3月8日)。
(24)女科技工作者交流与合作的平台」『中国婦女報』2007年8月16日、「我国女科技工作者逾900万 她們的身心健康需要関注」『科技日報』2007年8月17日。
(25)女科学家高層論壇9月将首次挙辨 主題是“女科技工作者的社会責任”」『科技日報』2008年9月3日、「我国首届女科学家高層論壇与会者呼吁──女科技工作者承担更多的社会責任」『中国婦女報』2008年9月22日、「在首届女科学家高層論壇上,有関専家提出──男性科技工作者希望増加女性工作夥伴,注入多様性」『中国婦女報』2008年9月24日。
(26)女科学家高層論壇」(2009-08-06)、「第十一届中国科協年会女科学家高層論壇在我校勝利召開(組図)」(200909-10)重慶師範大学新聞網、「“女科学家高層論壇”関注高層次女性人才成長 女科技工作者隊伍質量優勢相対比弱」『中国婦女報』2009年9月11日、「女科技工作者期盼更多発展空間――女科学家高層論壇女科技工作者“高位欠席”現象」『中国婦女報』2009年9月23日。
(27)中国科協七届八次常委会会議召開」中国科学技術協会HP、「中国科協増設女科技工作者専門委員会」2009-4-1科学網、「発揮女性優勢 中国科協増設女科技工作者専委会」人民網2009年4月1日、「中国科協増設女科技工作者専門委員会」『中国婦女報』2009年4月1日。それらの記事では、設立された日付は「先日」となっていて、曖昧ですが、一応3月頃のことではないかと思います。なお、地方レベルでは、それより以前に、すでにいくつかの地域で女性科学技術活動従事者協会が設立されています。ネットで少し検索しただけでも、2001年1月に広東省で(「広東省女科技工作者協会昨天在穂成立」『羊城晩報』2001年1月9日)、2006年3月に寧波市で設立され(「寧波市女科技工作者協会」中国・寧波公民站)、その他、撫順市(「撫順市女科技工作者協会章程」撫順婦女HP)、広州市(「広州市女科技工作者協会」)で設立されていることがわかります。
(28)張利華・陳鋼「女科技工作者渇望突破成長“天花板”」『科学時報』2007年9月3日。
(29)例えば、1993年に制定された科学技術進歩法が2007年12月に改正された際、「青年科学技術者、少数民族科学技術者、女性科学者などは、専門的技術職務の競争的任命、科学技術評価への参与、科学技術研究開発プロジェクトの担当、教育を引く受け継続する面で平等な権利を有する」(53条)という文言が加わりましたが、あまり実効性のある文言ではないように思います。
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「早恋」防止を保護者の義務にした黒龍江省の条例をめぐって

黒龍江省未成年者保護条例の改正

 8月末、黒龍江省第11期人民代表大会常務委員会第12回会議で「黒龍江省未成年者保護条例」が改正された際、未成年者(中国では18歳未満)の「早恋(早すぎる恋)」を防止することが保護者の義務として規定されました。

 すなわち、同条例は第13条で「父母あるいはその他の後見者は、未成年者の子どもまたは後見されている未成年者の、以下の不良または違法の行為に対して批判・教育・制止・矯正をしなければならない」とし、その第9項として「早恋、不法同居(後述)、麻薬を吸う、売春、買春」を挙げたのです(罰則などはなし)(1)

 「早恋」という文言は、もとの改正草案にはなかったのですが、常務委員会での2回目の審議のときに「これらの[=上に挙げた]問題の多くは、早恋によって起きる。不法同居したときに再教育をするのではいけない。早恋のときに批判・教育・制止をしなければならい」という意見が出て、盛り込まれました(2)

 「早恋」には明確な定義はありませんが、小学生や中学生(中学生といっても、中国の場合、中学には初級中学3年間と高級中学3年間の両方が含まれるので、日本の中学生と高校生に当たる)の恋愛を、「早すぎる」として学校や保護者が批判する言葉として使われる場合が多いようです。「中国の大多数の教育関係者は、中学で恋愛をするのは、その年齢の特徴に合わない早すぎる行為だと考えている」と書かれている文献もあります(3)

 メディアでは、この黒龍江省の条例に対して、「早恋は勉強の妨げになるから」「子どもには恋愛はわからないから」「万一の事があったら大変だから」といった理由で賛成する意見も掲載されていますが、疑問や批判も目立ちます。

何歳以下が何をしたら「早恋」なのか?

 まず、何を「早恋」と言うのか? という疑問が出ています。

 具体的には、まず、「何歳より前に恋愛したら、早恋になるのか?」という点です。この点についても、やはり個人差があって、高級中学で恋愛するのも早恋だと考える人もいれば、初級中学で恋愛するのも正常だという人もいます。

 第二に、「何をしたら早恋になるのか?」という疑問も出ています。「男女の学生がいつも一緒にいたら早恋なのか? 手をつないだらどうなのか?」と。

乱暴に制止することは逆効果になるのでは? 「早恋」は必ずしも問題ではないのでは?

 非常に多いのは、「硬い規定は反発を招く」とか、「無理に干渉したら、逆効果になる」という声です。実際、早恋を無理やり止めさせようとして、さまざまな悲劇が起きた(学校をやめて駆け落ちしたとか、娘をベッドを鎖でつないで警察ざたになったとか、クラス担任が学生の日記を引き裂いたうえに、早恋の内容を暴露して、プライバシー権侵害で訴えられて、精神的損害賠償をしたとか)ことを指摘する人もいます。法律で決めるようなことではないというわけです。

 もちろん、そもそも「早恋」は一概に問題だと言えるのか? という声もあります。「健康的な交際ならば、生活や勉強に必ずしもマイナスの影響はない」、「子どもの成長の状況にもとづいて具体的に決めるべきだ」、「うちの近所の子どもは、高級中学のときに恋愛したが、2人とも大学に合格した」というような意見です。だから、ケースによって、対処を変えるべきだということです。

 また、こうした法律を執行しようとしても、やりようがないという声も出ています。(4)

 以上のような意見に対して、黒龍江省の人民代表大会の関係者は、
 ・条例には「批判・教育・制止・矯正」と書かれており、すべての状況に対して同じように対処すると言っているのではない。子どもに対する影響があまり重大でない場合は「教育」し、成績が急降下したり、夜も帰ってこないような場合には「制止」するということである。
 ・法律には、懲戒のほかに「導き、教育する」機能がある(5)
 と述べて反論していますが、条例では「早恋」を、「不良あるいは違法の行為」として規定しているのですから、説得力は十分でないように思います。

 実際、この件に関するあるネット投票には、9万9千人あまりが参加しましたが、以下のような結果でした(6)(もちろんネット投票=世論ではないのは、中国も同じですが)。
・「早恋は青少年の正常な情感である」…39.5%
・「どの年齢の子どもが恋愛したら早恋になるのか?」…15.2%
・「どのような行為をしたら早恋になるのか?」…13%
・「法律で早恋を禁止するのは簡単で粗暴である」…10.2%
・「早恋は禁止すべきである」…2.8%

「早恋」概念自体に対する疑問も

 今回の議論の中では、「多くの発達した国家には、『早恋』という言葉はない。もし子どもが高級中学に入ってもまだ恋愛をしたことがなければ、保護者は子どもを医者に見せるだろう」という話も出ました(7)

 こうした、「早恋」概念自体を批判する意見は以前からあります。そうした意見は、「早恋」概念が欧米にはないことのほか、「早恋」という言葉自体の中に貶す意味が含まれていることが生徒の反発を招くことや実態とズレていることなど根拠にして「早恋」概念を批判しています(8)

 ただし、新聞や雑誌の記事を見るかぎり、「早恋」概念自体を批判する意見は、全体としては、まだ少数にとどまっているようです。

一部の学校の「早恋」防止策

 また、「早恋」を防止するために、以下のようなことをしている(した)学校もあります。
 ・南京市のある高級中学では、全校の女子生徒を集めて、男子生徒と接触するときは44cmの「標準距離」を保つよう指導した。
 ・上海・北京・重慶などの一部の高級中学では男女を別のクラスにするやり方を試したことがある。大多数の保護者は学校のやり方に賛同した。(9)
 ・麗江市のある高級中学は、校門に「商業的なネットカフェに入ることと早恋を厳禁する」とか、保護者に連絡して取り決めをしても改めない場合は「除籍する」とか書かれている(10)

教育部や政府と「早恋」

 教育部や政府の方針としては、明確に「早恋」を禁止しているわけではないようです。ですから、黒龍江省の条例を批判する人の中には、以下の点を論拠に挙げた人もいます(11)
 ・教育部が2004年に発布した『中小学生守則』と『中学生日常行為規範』には、早恋を禁止する条文はない。
 ・未成年者保護法を審議したとき、第11条の「未成年者の喫煙・飲酒・流浪・インターネットへの耽溺[沈迷]を予防・制止する」に、「早恋」を付け加える提案をした人がいたが、2007年6月に正式に公布施行されときには、早恋を禁止する規定はなかった(中華人民共和国未成年人保護法)。

 けれど、以下のようなこともありました。教育部は、2007年6月、「同年9月の新学期から全国の小中学校でフォークダンスを導入する」と発表しました。高級中学のダンスには、男女が手を取り合って踊るワルツも含まれていました(12)。しかし、保護者の中に「男女でペアになって踊ることは、早恋に結びつく」と心配する人が出てくると、教育部は「フォークダンスは早恋には結びつかない」と言って弁解し(13)。国家体育総局は「男女がペアにならずに、みんなが踊る」フォークダンスを導入しました(14)

中国の教育のあり方と「早恋」防止

 教師や保護者の中にも子どもの「早恋」を心配する人が多いのは、「勉強の妨げになる」という理由からで、実際、そういうケースも多く述べられていますし、教師や保護者が頭を悩ます場合は多いと思います。しかし、条例などで規定してまで制止しようとするのは、進学競争に見られるような教育のあり方とも関係があると考えられます。実際、中国でも、「この[黒龍江省の]立法は、わが国の教育がまだ『点数だけ見て教養を見ない』レベルにあることを示している」という点を指摘する人もいます(15)

 また、「いま早恋が問題になっているのは、思春期の性教育が欠けていることと関連がある」「(第二次性徴が始まる)小学校4年生から指導を始めるべきだ」(16)、「多くの人が恐れているのは、『模奶門(男子生徒が集団で女子生徒の胸をもんでいる動画が流出した事件(17))』のような事件だが、それは性教育が欠落しているためであって、早恋とは関係がない。早恋を禁止することによって、青少年の性教育の欠落を覆い隠してはならない」(18)という指摘も出ています。

 ただし、中国の性教育は、早恋を単純に否定するようなものがむしろ多いようです。この点について、潘綏銘さんは、主流の社会は「性教育を『消火器』として使って」いるが、性教育の究極の目標は「性の幸福」であること、現在の性教育には「ジェンダーの問題」や「性の権利」「性の人権道徳」(己の欲せざるところを人に施すことなかれ)が欠落していると批判しています(19)

 以上のように、いろいろ事態は複雑です。しかし、今回の黒龍江省の条例に対しては、中国のメディアでも批判する意見が目立ったことは、中学生の「早恋」を頭から禁止するようなやり方はもはや通用しなくなっていることを示しているのではないかと思います。

「不法同居」概念にも批判が

 なお、上述のように、今回の条例審議の際、「早恋は『不法同居[非法同居]』に結びつく」という点が「早恋」防止条項導入の理由になりましたが、この「不法同居」という概念に対しても、以前から疑問の声が出ています。

 中国で「不法同居」という概念が最初に登場したのは、1989年の最高人民法院の司法解釈の中に「配偶でない男女が、結婚登記をせずに夫妻の名義で同居生活をしても、その婚姻関係は無効であり、法律の保護を受けない。訴えを受けた裁判所は、不法同居の関係として処理しなければならない」(20)とあるもののようです。

 しかし、2007年3月、全国人民大会代表で弁護士の韓徳雲さんは、以下のように述べて、「不法同居」という概念を批判しました(21)

 「前世紀の80年代末に始まった『不法同居』という言い方は、人々が、非婚の同居の関係を不道徳と見なして、これを『不法』と言って攻撃するものである。」

 「厳密に言えば、『不法同居』は、法律的意味の概念ではない。わが国の婚姻法は、けっして婚前の同居、非婚の同居を禁止していない。すなわち、結婚していない同居は不法行為ではなく、不法同居という言い方は、道徳上の不許可を法律上の禁止に高めたものであり、わが国の法治の精神と合致しない。」

 陳傑人さんも韓徳雲さんの意見に賛同して、次のように述べました(22)

 「筆者が見るところ、『不法同居』という概念は科学的でなく、間違って道徳の問題を気の向くままに『違法』としているだけでなく、法治の基本原則に背いている。」

 「周知のように、現代の法治の原則が政府と公民の権利の境界を定めるときに、2つの基本的原則がある。政府は、法が授権していることしかやってはならず、公民は、法が禁止していないことはみなやってよいということである。」

 「伝統的な『不法同居』の概念は、前世紀に、わが国の法律と道徳との境界が明確でなかったときに持ち出されたものであり、その中核的意味には、次の3つの面が含まれている。第1に、男女が同居するには必ず結婚の手続きをしなければならない。第2に、もし男女が結婚手続きをせずに同居したら、違法である。第3に、第2の点に符合する不法同居は、処罰か譴責を受けなければならない。」

 「このような思考モデルの下で、過去長年にわたって、私たちは常に、警察が業務の中で、同居している男女を検査し、もし彼らが結婚証を持っていなかったら、『不法同居』という理由で干渉し、軽ければ、批判をして、所属先[単位]に引き渡して処理し、重ければ、罰金、拘留に処すのを見てきた。」

 「しかし、現在の法治の理念から見ると、『不法同居』概念の存在は、法治と矛盾する誤りである。」

 けれど、こうした議論が交わされた後も、法の運用のしかたはわかりませんが、「非法同居」という表現自体を廃止したというの報道は見当たりませんし、今回の黒龍江省の条例でも使われています。

(1)黒龍江省未成年人保護条例」黒龍江省人民政府法制信息網、「黒龍江省未成年人保護条例」(改正前)
(2)“早恋入法”体現立法引導功能 社会莫誤読」『法制日報』2009年8月28日、「詞条解釈:早恋」39健康網。
(3)同上「“早恋入法”体現立法引導功能 社会莫誤読」。
(4)以上のような様々な意見については、「網友熱議黒龍江省出台有関早恋的規定対青少年早恋恐怕還是得分引導」『中国青年報』2009年8月27日、「黒龍江省立法制止早恋行為多此一挙?」人民網2009年8月31日、佟吉清「面対早恋,何必揮舞法律大棒」『中国婦女報』2009年8月24日、「制止早恋 法規能奏效嗎?」『中国婦女報』2009年9月5日、「記者調査:黒龍江“早恋入法”的台前幕后」新華網黒龍江頻道2009年9月8日、「“早すぎる恋愛”はダメ! 高校の規則に『男子と女子は44cm以上離れよ』―中国」レコードチャイナ2009-09-07
(5)“早恋入法”体現立法引導功能 社会莫誤読」『法制日報』2009年8月28日。
(6)記者調査:黒龍江“早恋入法”的台前幕后」新華網黒龍江頻道2009年9月8日。
(7)制止早恋 法規能奏效嗎?」『中国婦女報』2009年9月5日。
(8)たとえば、『中国性科学』に掲載された、閔楽夫「対“早恋”的再認識及教育対策」(『中国性科学』第11巻第1期[2002年3月])は、欧米には「早恋」という概念はないこと、「『早恋』という概念自体、それが悪いもの、間違ったものであることを示している傾きがある」ので、「中学生の恋愛」という「中立的な概念」を使うことを主張しています。
 また、李陽・王菲・劉艶「“早恋”概念的新認識」(『中国性科学』第16巻第1期[2007年1月])も、よく見られる「早恋」概念を分析することによって、早恋は「非科学的概念」であることを述べ、「早恋」に含まれる要素を分析して、他のいくつかの概念に置き換えるべきことを述べています。
 潘綏銘・白維廉・王愛麗・労曼「早恋是怎麼回事」(『中国婦女報』2004年10月14日)は、「私たちは、『全世界のどの民族の言語の中も「早恋」という言葉はない』という常識を知る必要がある。無理に英語に訳さなければならないとしたら、『中学校の時期のデート』と言うしなかい。けれど、もし何も説明を付け加えなければ、アメリカ人はわからず、とくにその『早』という文字にけなす意味が含まれていることがわからない」と述べています。
 中学生の恋愛は成績の下降を招くことを指摘している教師が多いことを述べるなど、「早恋」自体には否定的な記事である「中学生恋愛:一個譲放不下的話題」(『中国教育報』2005年10月27日)も、少なくない教師が、「早恋」という言葉は、けなす言葉なので、このような言い方は生徒を傷つけ、かえって反感を買うという理由で賛成していないことを書いています。
 また、私は未読ですが、陳一筠『早恋還是”早練”―青春期的情与愛』(中国婦女出版社 2005年)(ネット書店「書虫」データベースの中のこの本のデータ)は、中学生の異性の交際は「早恋」とみなしてはならず、「早練」とみなすべきこと、「早恋」は、結末がどうあれ、この時期の恋の気持ちは、当事者にプラスマイナス両面の教訓を与えて、彼らの社会的成熟を促進するだろうと述べているそうです(劉鵑・金全意「中学生早恋現象研究綜述」『無錫職業技術学院学報』第6巻第3期[2007年8月]、24頁)。
(9)制止早恋 法規能奏效嗎?」『中国婦女報』2009年9月5日。
(10)耿銀平「対早恋学生応理性引導」『中国婦女報』2008年12月16日。
(11)佟吉清「面対早恋,何必揮舞法律大棒」『中国婦女報』2009年8月24日。
(12)教育部発布推広《第一套全国中小校園集体舞》」(2007年6月12日)中華人民共和国中央人民政府HP、「視頻:第一套全国中小校園集体舞」人民網2007年6月12日。このときの記者会見でも、「早恋」の問題が出ており、それに対して、教育部学生体育衛生・芸術教育局の楊貴仁局長が「ダンスは固定的なパートナーはなく、みんな随時交替して、一般に4人1組で、絶えず交替するので、この面では、その条件は提供せず、同級生の正常な交流である」と慎重な態度を示していました。
(13)教育部:学生跳集体舞不会導致早恋」『中国婦女報』2007年6月13日。
(14)上海試点校園男女不配対 避男女大量接触」(2007年7月14日)捜狐新聞(原載は東方早報)。国家体育総局の姿勢には批判も出ました(「没必要重新創編“不搞男女不配”的校園舞」光明網2007-7-14、「“不搞男女不配”后面是缺乏自信的教育」『中国青年報』2007年7月17日)。
(15)制止早恋 法規能奏效嗎?」『中国婦女報』2009年9月5日。
(16)同上。
(17)摸奶門(互動百科)、「『AVみたいだ』男子生徒が集団で女子生徒の胸をもむ動画流出――浙江省慈渓市」レコードチャイナ2009-07-03(もとの記事は、「『オッパイ事件』でネット炎上=落ちこぼれ少年少女の今」21世紀中国ニュース2009-07-03)。
(18)網友熱議黒龍江省出台有関早恋的規定対青少年早恋恐怕還是得分引導」『中国青年報』2009年8月27日。
(19)潘綏銘「潘綏銘質疑正規性教育」『北京科技報』2005年11月2日。
(20)最高人民法院印発《関于人民法院審理離婚案件如何認定夫妻感情確已破裂的若干具体意見》《関于人民法院審理未辨婚姻登記而以夫妻名義同居生活案件的若干意見的通知」(1989年12月13日法(民)発〈1989〉38号)
(21)韓徳雲代表建議用“婚姻無効”取代“非法同居”」『中国青年報』2007年3月11日。この記事は人民網にも掲載され(人民代表建議廃除非法同居概念)、その日本語訳もあるが、その題名は「『非法同居』という表現を廃止、『無効婚姻』に変更へ」となっており、全人代の一代表の発言にすぎないものを、確定した今後の動向を示しているかのような題名にしたのは疑問です。
(22)陳傑人「為什麼要廃除“非法同居”概念」『新京報』2007年3月12日。
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民間3団体がセックスワーカーの人権問題に関する報告を発表

 9月、北京愛知行研究所中国民間女権工作組女性権利連盟が共同で『中国セックスワーク・セックスワーカー健康・法律人権報告(2008-2009)[中国性工作与性工作者健康与法律人権報告(2008-2009)(PDF)]』を発表しました。

 中国のセックスワーク(セックスワーカー)については、これまでにもさまざな調査研究がされてきました(そのかなりの部分は、中国人民大学性社会学研究所のサイトに収録されています[性工作与性産業])。しかし、民間団体がセックスワーカーの人権問題にテーマを絞った報告が出したのは初めてではないかと思います。

 かつて1991年9月、全人代常務委員会は「売買春厳禁に関する決定(厳禁売淫嫖娼的決定)」を採択しました。この決定は、売買春を処罰することを規定するとともに、「売春・買春をした者に対して、一律に強制的に性病検査をし、性病を患っている者に対しては強制的に治療をおこなう」と述べています。つまり、「中国の売買春厳禁政策は、性病伝染を抑制する公共衛生措置でもあった」とこの報告書は述べています。

 しかし、政府の売買春取り締まり政策はセックスワーカーを地下に追いやったために、彼女(彼)らは黒社会の支配を受けて人身の権利が侵害されただけでなく、良好な公衆衛生サービスを受けにくくなった、とこの報告書は批判し、政府の政策の見直しを求めています。

 以下、この報告書の興味深い箇所を抜き書きするなどして、かついまんでご紹介します(正確には原文をご覧ください)。

一、セックスワーク・セックスワーカーに関係した法律人権問題──中国で無視されている問題

 (一)人身の安全

1.人として──セックスワーカーの人身の権利は当然保護されなければならない
 「世界人権宣言」第3条は「すべて人は、生命、自由及び身体の安全に対する権利を有する」と指摘している。現在の中国の法律の枠組みの下では、セックスワーカーの行為は依然として違法と定められているけれども、セックスワーカーの人身の権利は、その行為が違法であるからといって失われてはならない。その生存における自由と安全はなお重視され、あるべき保護を受けなければならない。

2.大多数である女性のセックスワーカーについて:女性として享有すべき権利
 私たちは、大多数である女性のセックスワーカーは、女性として、多くの男性の前では依然として弱い立場にあることを重視しなければならない。「女性に対する暴力の撤廃に関する宣言」第4条は「各国はできるだけ早くすべての適当な政策をとって、女性に対する暴力をなくさなければならない」と述べている。

 (二)権利の訴えと保障

 大多数のセックスワーカーは人身や財産の権利が侵害されても、往々にして警察などに届け出るという選択をしない。その原因は、法律を執行する機関が、セックスワーカーの訴えに対応するとき、しばしば差別や偏見があるからである。

 同時に、セックスワーカーは、法律を執行する機関が権力を濫用することによる権利の侵害にもあう。たとえば、2006年に深圳の福田で起きた「街頭で売買春を処罰した」事件などである。

 (三)疾病に対する脆弱性

 国連のエイズ計画署(?)が出版した『セックスワーカーとエイズ』は、セックスワーカーがエイズにかかりやすい要因を指摘している。
 ・恥辱と周縁化がセックスワーカーにはつきまとう。そのために生じる社会的隔離は、人々にセックスワーカーーに対する差別を増長させ、セックスワーカーが法律・衛生・社会サービスの体系に入ることを制約する。そのことがセックスワーカーがエイズに感染する可能性を高めている。
 ・保護的な法律・政策がない。抑圧的な法律と政策の下では、セックスワークはますます秘密化するしかない。そのような状況の下では、エイズや性病の予防・ケアのプロジェクトが成功することはほとんど不可能である。
 ・大量飲酒や薬物の吸引・注射、暴力をふるわれるなどの情況が存在する生活方式は、エイズウイルス感染の危険を増す。

 それゆえ、反差別・法律的救済・環境改善の面の努力を軽視するなら、行為関与は一面的な働きしかしないかもしれない。

 (四)普遍的な被差別

1.国家レベル
 日常の法律執行において、いつも気の向くままに逮捕して、殴ったり罵ったりし、セックスワーカーの個人のプライバシーやその他の権利を顧みない。また、逮捕や法律執行のとき、通常、けなしたり差別したりする言葉を言う。

2.社会的レベル
 人々は往々にしてセックスワーカーを不道徳な人だと考える。それは、一つには、セックスワーカーがその仕事をしている原因を意識しないからである。実際は、セックスワークをすることを強いられている人も多くいるのである。もう一つには、セックスワーカーが社会の気風を損なうと考えるからである。この面は、ジェンダーの不平等(性道徳の二重基準)とかかわっている。

二、セックスワークの違法性の認定と関係する法律とその問題の再考

 (一)違法性の認定と関係する法律の規定

 ・1991年 全国人民代表大会常務委員会「売買春厳禁に関する決定(厳禁売淫嫖娼的決定)」:
 「売春・買春をする者に対しては、公安機関が関係部門と共同で、集中して法律・道徳教育と生産労働を強制して悪習を改めさせる。期限は6カ月から2年とする。具体的な方法は国務院の規定による。」

 ・2001年 公安部「同性間の金銭・財物を媒介とした性行為の定性処理の問題に関する批復[批復:(下級機関からの文書に)意見を書きくわえて返答すること]」:
 不特定の異性間または同性間で、金銭・財物を媒介にして発生した不正当な性関係の行為は、口淫・手淫・鶏姦などの行為を含めて、みな売買春行為であり、行為者に対しては法によって処理しなければならない。

 ・2005年 「中華人民共和国治安管理処罰法(中華人民共和国治安管理処罰法)」:
 第66条 売春や買春をした者は、10日以上15日以下の拘留に処し、あわせて5000元以下の罰金を科すことができる。情状の軽いものは、5日以下の拘留または500元以下の罰金に処す。
 第67条 他人を誘惑・収容・紹介して売春させたものは、10日以上15日以下の拘留に処し、あわせて5000元以下の罰金を科すことができる。情状の軽いものは、5日以下の拘留または500元以下の罰金に処す。

 二)中国のセックスワークは合法化すべきか?

 治安管理処罰法と関連する法律の規定とから見て、わが国のセックスワークについての法律による判断は、罪ではないけれども、違法行為だと認定している。すなわち、セックスワークに従事することは犯罪行為ではないが、国家がそれに対して治安管理処罰をしなければならないということである。

1.世界の他の国家のセックスワークに対する法律の認定

 (1)売春の犯罪化(売春の刑事化):アメリカの若干の州、社会主義の時期のルーマニア・ハンガリー・チェコスロバキア
 (2)売春の合法化:ドイツ・フランス・オーストリア・オランダ、アメリカのネバダ州の大部分の地区
 (3)売春の非犯罪化:イギリス・日本
 (4)売春は違法だが、犯罪を構成せず、行政機関が行政処罰をおこなう。→世界でこのモデルを採っている国家は中国だけのようだ。

2.セックスワークの合法化の可能性(略)

 (三)コンドーム:セックスワーカーを逮捕する証拠か?

1.コンドームを証拠とすることの法律的意味におけるマイナスの意味

 以上のセックスワークと関連する法律の規定にもとづいて分析すると、「売春」行為が発生したか否かを判断するには、(1)不特定の異性または同性の間に、(2)金銭・財物を媒介にして、(3)営利を目的にした、(4)不正当な性的関係があった、という点を満たさなければならない。しかし、実際は、法を執行する機関は、「売春」行為を取り締まるとき、往々にして、簡単な追及・尋問と、コンドームを身につけて(持って)いるかどうかを証拠にして逮捕や懲罰をおこなっている。

 1998年、衛生部が中共中央宣伝部など9つの部門と共同で出した「エイズ・性病を予防する宣伝教育の原則を印刷配布することに関する通知」は、「コンドームを売春の証拠として扱う報道は避けなければならない」と指摘した。しかし、これは拘束力のある法律的文書ではない。また、2008年12月4日、公安部政府情報公開事務局は、北京愛知行研究所所長の万延海の情報公開申請に対する返電において、「公安部はまだコンドームを売買春の証拠にしてはならないという規範的文書を発表したことはない」と述べた。

2.コンドームを証拠とすることと国家の疾病制圧政策の中のコンドームに関する規定との食い違い

 (ここで、エイズのハイリスクグループのコンドーム使用率を向上させることを説く国務院や衛生部の規定・計画や、公共施設や入浴施設にコンドームまたはコンドームの販売設備を設置することを決めた規定などを引用しています)

 もしコンドームを「売春、買春」の証拠にするならば、これらの規定は大きく割り引かれ、疾病予防の任務を実際に果たすことができない。

 (四)引き回して見せしめにすること(游街示衆)は合法か否か?

 深圳警察は、2006年11月29日、売買春をおこなった百名あまり(男子60人、女子40人)の容疑者を公に見せしめにした。彼らはみなマスクを着け、顔面を、目だけを残して、ほとんどすべて蔽っていた。引き回して見せしめにした後、福田公安分局の副局長が処罰の決定を宣言し、各人の姓名、誕生日、本籍をそれぞれ読み上げた。現場では千人に上る人がやじ馬見物をしていた。

 ・中華人民共和国憲法第38条は、「中華人民共和国の公民の人格の尊厳は侵犯されてはならず、いかなる方法による公民に対する侮辱、誹謗、誣告、他人の陥れも禁止する」

 ・治安管理処罰法第5条は、「治安管理処罰を実施する際は、公開・公正で、人権を尊重・保障し、公民の人格の尊厳を保護しなければならない」と明確に規定している。

 ・1988年、最高人民法院、最高人民検察院、公安部は共同で「既決囚、未決囚を引き回して見せしめにすることを堅く制止する通知」を出している。

 ・上海普若弁護士事務所の姚建国弁護士が2006年12月1日に発表した「深圳警察が妓女と嫖客を引き回して見せしめにした事件についての全国人民代表大会への公開状」は、次のように述べている(要旨)。
 治安管理処罰法に違反した人に対して、警察は行政処罰をする権利があるけれども、法律は同時に、処罰された人は行政再議や行政訴訟を経て処罰の決定をくつがえすことができることも規定している。また、公安機関が犯罪だと考えても、警察の捜査や検察の審査の段階では容疑者であって、犯罪者ではない。裁判所の判決によってはじめて犯罪や処罰は確定する。福田警察のやり方は、法律的手続きに背いており、法の外で刑を執行している。

三、幼女を強制・誘惑して売春させることおよび関係する法律の問題

 (一)関連する法律の規定(略)

 (二)法律の規定に存在する問題及びその幼女に対する保護の欠落(略)

 1.異なった法律の間の接続に問題が存在している。

 2.幼女買春罪は、未成年の少女の保護に不利である。

 →本ブログの記事「女児に対する性侵害事件と法律問題」で書いたことと重なる部分がかなりあります。

四、セックスワーカーの人身の権利が傷つけられやすさ

 (一)『中国版ニューズウィーク』の調査報告(略)

 (二)学者の研究による結論(略)

 →(一)(二)については、本ブログの記事「中国の女性セックスワーカーに対する暴力の調査」と重なる部分が多いです。

 (三)民間組織による調査報告──北京愛知行研究所の経験

 2008年、北京愛知行研究所は、北京市の女性セックスワーカーにアンケート調査をした。その主な結論は以下のとおり。
 ・客からの傷害が発生が比較的頻繁で、主に「罵る」「金を払わないか、少なく払う」「たとえ自分はしたくなとくも、応接せざるをえない」「奇怪な動作を強要する」「殴る」である。傷害の程度から言えば、「強姦」「殴る」「誘拐」は発生率は低いが、傷害は最も大きい。
 ・客からいかなる傷害も受けたことがない人は22%、1―2種類の人が35%、3―4種類の人が26%。4種類以上の人が15%。
 ・傷害を受けたとき、セックスワーカーは同じ世界の人に助けを求めることが最も多い。多数は雇い主に助けを求め、一部は自分で処理する。

 (四)弱々しく無力な女性の思いやり──主流の女性組織のセックスワーカーの権益問題に対する無視

 この数年、中国の女性セックスワーカーに対する工作とプロジェクトは多いけれども、それらは、主に中国の衛生部がおこなっいてる行為関与とエイズ・性病制圧工作である。女性セックスワーカー自身に対するヒューマンケア活動は少ない。

 この数年、女性の権益と労働者の権益については多くの関心が寄せられているけれども、セックスワーカーの権益問題についてはほとんど重視されていない。主流の女性権益保護組織も、そうした周縁のセックスワーカーの問題にはほとんど関心を寄せていない。主流の女性機構の大きな部分は、セックスワーカーは社会の罪悪と恥辱であるとさえ考えている。

五、セックスワークとエイズ

 (一)なぜセックスワーカーのエイズ問題における脆弱性に注目しなければならないか

1.セックスワーカーのエイズに関する認知の現状──北京愛知行研究所の研究の経験

 ・72%の人しか、エイズが性病であると正しく判断できなかった。
 ・28%の人は、「外見ではエイズに感染しているかどうか判断できない」ということを肯定できなかった。
 ・12%の人だけが周囲にエイズに感染した人がいると聞いたことがあったが、58%の人が自分がエイズに感染していないか心配している。しかし、13%の人しか、過去1年以内にエイズウイルスの検査を受けたことがなかった。

2.セックスワーカーをエイズに感染しやすくしている要素

 ・恥辱と周縁化
 ・限られた経済的選択、とくに女性
 ・健康・社会・法律の面でのサービスの欠乏
 ・情報と予防方法の欠乏
 ・ジェンダーにもとづく差異と不平等
 ・性的搾取と不法な販売
 ・有害または保護が欠乏した法律と政策
 ・生活方式と関連した危険(暴力、薬物吸引、流動など)

 (二)国際的レベルのセックスワーカーとエイズの問題に関する指導的原則

 2007年4月、国連エイズ計画は、「エイズとセックスワーカーに関する指導的文書」を公布した。それは、以下の三点を柱としている(1)。。
 1.脆弱性を減らし、社会構造の問題を解決する
 2.エイズウイルスに感染する危険を減らす
 3.サポートの環境をつくり、選択の機会を増やす。

 (三)わが国のエイズ防止領域におけるセックスワークに関する関連規定(略)

 (四)中国の、セックスワークのエイズ対応能力を規範化する上で存在する問題

 ・セックスワーカーとその客は「エイズウイルスに感染しやすい危険な行為集団」として、中国のエイズ防止工作に重視されているけれども、その関心は、主に公衆衛生的な考慮にもとづいており、基本的に疾病予防工作に限られていて、セックスワーカーの権利に対する関心やセックスワーカーの生存境遇に対する理解、セックスワーカーに対する全面的援助のメカニズムが欠けている。

 ・中国のエイズ防止工作は、セックスワーカーの主体的参加が欠けており、セックスワーカーはいつもなおざりにされている。エイズ防止工作をする者の中で、セックスワーカーは教育の対象であるか、ピアボランティアであって、エイズ防止プロジェクトの計画や指導に参与することは少ない。数から言ってそう多くないセックスワーカーのエイズ防止工作において、セックスワーカーは受動的地位に置かれている。

 ・中国はかつて売買春を取り締まることを性病・エイズ防止の主な戦略にしていた。現在は、売買春の取り締まりを性病・エイズ制圧の手段にする姿勢は弱めて、衛生工作者とピアボランティアが行為関与工作を展開することを強調しているけれども、衛生工作はけっして優先的地位を与えられておらず、公安部門の取り締まりは、良好な衛生工作がおこなわれているからといって、ストップしない。公安部門の取り締まりの行動は、しばしば、衛生工作者がセックスワーカーの社会集団の中で築いた信頼と社会的関係を破壊している。

 ・中国の最近のエイズ防止政策は、娯楽施設がコンドームを提供し、入浴の場所には必ずコンドームを置くことを要求している。しかし、公安部門はしばしばコンドームを施設で売買春がおこなわれている証拠にしている。そのため、娯楽施設の経営者は、しばしばコンドームを公然と置きたがらず、セックスワーカーをサポートする人が施設の中で活動することを支持しない。

 (五)セックスワーカーの健康組織が世界基金第6次プロジェクトと中国ゲイツプロジェクトに参加している情況

 第6次中国世界基金エイズプロジェクト[第六輪中国全球基金艾滋病項目]と中国ゲイツプロジェクト[中盖項目。中国とビル&メリンダ・ゲイツ財団とのプロジェクト]は、NGOの参与を重視した。

 第6次プロジェクトが始まったとき、中国の民間組織の発展はまだ未成熟で、セックスワーカーにサービスを提供する組織は、多くの都市にはほとんどなかった。このとき、中国に、純粋の草の根組織でもなく、完全に政府が組織した「官営の民間組織」でもない一群の組織が出現した。

 それらの組織は完全に政府の機関から離脱した独立した名称を持っていたけれども、資金あるいは執務の場所は依然として政府当局にあった。下の方で仕事をしているのは民間の人だったかもしれないけれど、当局の責任者が工作を指導した。これらのセックスワーカーに関心を寄せる組織はみな陽光[公然としている?]で、たとえば、女性関愛小組、女性健康センターなどなどであった。彼女たちは、セックスワーカーに無料でコンドームを提供し、希望しだいで相談や検査のサービスもした。けれども、彼女たちはけっして「セックスワーカー」と一体にはなれず、過剰な結びつきを持たなかった。彼女たちは、エイズ防止の宣伝教育活動をしているだけである。

 若干の積極的なプロジェクト機構は第6次プロジェクトの趣旨に従って、民間に行って本当の草の根組織を発見・養成した。この時やっと、少しばかり本当の「セックスワーカー」がプロジェクトに参与してきた。けれども、極彼女たちの比率は第6次プロジェクトでは極めてわずかだった。

 (六)中国政府への提案と意見

 ・中国政府はエイズ工作の優先的な地位を明確にし、衛生部門とエイズ民間組織(セックスワーカーが設立した組織を含む)のエイズ防止における特殊な地位を明確に決め、その工作が公安部門の介入を受けないよう確実に保証すべきである。

 ・中国政府は、セックスワーカーがエイズ防止工作に参与するよう政治的・経済的に奨励しなければならない。エイズ防止工作に参与したセックスワーカーに対しては必要な配慮を与え、気の向くままに法律的な取り締まりをしてはならない。セックスワーカーが自らの組織を設立し、登記できるよう励まし、サポートしなければならない。その組織は、エイズ防止工作に参与するだけでなく、暴力反対や法律的援助を含めた、セックスワーカーの全面的なソーシャルワークに参与する。

 ・セックスワーカーはエイズ防止工作の計画に参与しなければならず、エイズ工作の指導者にならなければならず、受動的な被教育者、または社会的グループのピアエデュケーションの工作に限られてはならない。

 ・中国政府は娯楽施設にコンドームを置くように規定すべきであるだけでなく、娯楽施設のためにコンドームを購入すべきであり、娯楽施設のコンドームに関して具体的な規定を提供し、一定量のコンドームの供給を確保すべきである。

 ・中国政府は、現行の法律と政策における、売買春の取り締まりを性病・エイズ制圧の方策とする規定を改正し、とくに刑法の中の性病の伝染の罪に関する条項を改正する必要がある。

六、メディアとセックスワーク

 (一)中国の「性文化フェスティバル(性文化節)」が初めてセックスワーカーを招待した

 2008年5月に南昌で開催された「性文化フェスティバル」では、中国の前近代の性文化の展覧や、エイズ予防の知識の宣伝パネル、性心理の現場の専門家のカウンセリング、劉達臨教授や胡宏霞博士の講座などがおこなわれたが、セックスワーカーに入場券を贈って招待した。

 (二)メディアの悪質な報道が、上海楽宜[男性セックスワーカーをサポートするNGO(2)のセックスワーカーの中でのエイズ防止活動の困難を増大させた

 『新快報』の男性セックスワーカーに関する報道は、記事が出たとたんに、多くのセックスワーカーは地下に潜ってしまい、彼らの仕事の安全(強盗、ゆすり、性病・エイズ、強姦などの問題)に対して関与できなくなった(3)

 (三)メディアのセックスワーカーに対する尊重の問題

 ・2007年初め鳳凰衛星テレビの《冷暖人生》コーナーで、中国大陸のテレビで初めて、セックスワーカーがカメラのレンズに向かって自分のことを語った(4)

 ・《魯豫有約》でセックスワーカーに取材したとき、番組のホストと取材者との間に、「なにか病気にかかるのは怖くなかったか」、「着てもらった服はすぐに洗った」という会話が交わされた。

 ・《辺縁人生――一個撮影師眼里的世界》《她們》で、作者は大量にセックスワーカーの阿Vと彼女のボーイフレンドの写真を掲載した。作者は同意書をもらっているとはいえ、作品の発行がその女の子を傷つける可能性を考えるべきである。

七、国内外の重要事件のセックスワークに対する影響

 (一)オリンピックと中国は、再三再四セックスワークに「レッドカード」を出した

 2007年以降、北京・瀋陽などオリンピックが主に行われる都市では、娯楽場所から売買春などの違法活動を一掃する活動が行われた。

 (二)建国60周年前夜の「厳打(厳しい取り締まり)」

 2009年は中華人民共和国建国60周年なので、5月1日以降、北京市の警察は「厳打(厳しい取り締まり)」を開始した。通りでは至るところでパトカーが身分証を検査した。女性のセックスワーカーと客がホテルの部屋を取ったら、警察は入力された身分証の情報から女性のセックスワーカーがいるホテルを知って、彼女たちを厳しく取り締まり、課せられた罰金や処罰も比較的重かった。

 しかし、街頭に立っているセックスワーカーが強盗や暴力の問題を警察に通報した時は、警察はなかなかやって来なかった。北京の東単公園で、ある男性セックスワーカーが強盗にあったとき、強盗犯の様子はこの公園のネットワークカメラで見ることができたにもかかわらず、警察はこのセックスワーカーに、今後はそのような仕事をしないように警告しただけで、強盗犯を追及しなかった。

 最近の「低俗取り締まり」運動では、多くの場合、「セックスワーカー」というキーワードで検索するとスクリーニングされる。国家は、また「グリーンダム」によって、色情情報をシャットアウトしようとしている。

 (三)経済危機の、治安とセックスワーカーの人身の安全および接客態度と性行為に対する影響

 2007年と2008年の350名の女性セックスワーカーのコンドーム使用問題の調査によると、最近3カ月の間に客と性的関係を持つ時に毎回コンドームを使っていた人は65%だったが、これは2007年の値(72%)よりも7%低かった。使わない原因を尋ねると、多くのセックスワーカーは、経済危機のために客が少なくなったので、客の意志に従わざるを得なくなったことを挙げた。

(1)ただし、この文書や「3本の柱」に対しては、セックスワーカーから批判も出ているようです。セックスワーク・プロジェクト国際ネットワーク(NSWP)「セックスワーカーたちの、UNAIDS(国連エイズ合同計画)による『HIVとセックスワークについてのガイダンス・ノート』への意見書」すぺーすアライズ
(2)「楽宜」は、2004年11月に設立された中国初の男性セックスワーカーためのNGO。男性のセックスワーカーに、性病・エイズの予防知識を宣伝するとともに、医療相談や無料の性病・エイズ検査をおこない、問題があった人には病院に同行したりしている(これは、彼らにとって重要で、彼らの多くは医者に冷ややかに見られるのを恐れて、正規の大病院に行けなかったり、私営病院に行って、しばしば高価な治療費をだまし取られたりしている)。また、客の強姦、虐待、ゆすりなど――警察には届けない人が多い――に対して法律的援助もしている。20人ほどのボランティアがおり、その半数近くは男性セックスワーカーで、ピア・エデュケーションをしている。
 なお、男性セックスワーカーの多くは困窮した地方の出身で、必ずしも良い生活をしていない。また、異性愛者が大多数で、経済的事情から男性に性的サービスをしているという(「上海『楽宜』服務男性性工作者」『文匯報』(香港)2007年5月20日[愛白網より])。
(3)媒体的悪性報道, 対于上海楽宜在性工作者中的防艾工作増加難度」中国紅絲帯網(2008-08-11)。
(4)“灰姑娘”一個辺縁群体或悲或喜的別類人生」人民網2007年1月26日。
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 また、「中国女性・ジェンダー関係主要HPリスト」(リンク集)も併せてご覧いただければ幸いです。日本の問題の一部は、「ウィメンズ・アクション・ネットワーク(WAN)の労働争議・まとめ」や「館長雇止め・バックラッシュ裁判」でまとめています。
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