2009-09

仏山市南海区政府が農村の「出嫁女」の土地権益問題を解決

 以前、このブログで、農村において、村に住み続けているけれども、他の村の人と結婚したために諸権利を奪われている「出嫁女(嫁に行った娘)」が裁判によって自らの権利を回復した事例を取り上げたことがあります(農村女性の土地請負経営権をめぐる裁判)。

 今回は、行政が「出嫁女」の問題に取り組んだ事例です。

 7月30日の『中国婦女報』は、広東省仏山市の南海区の政府が「出嫁女」の権益の問題を解決したことを大きく取り上げました(1)。その記事には、おおむね以下のようなことが書かれていました([ ]で囲んだ見出しは私が付けたものです)。

[広東省における「出嫁女」の問題]

 広東で言う「出嫁女」とは、よその土地の人と結婚とした農村戸籍の女性のうち、さまざまな原因で戸籍を実家に置いたままにしている人を指す。その子の戸籍も母親に従うので、出嫁女の権益の問題は、子どもの権益の問題も含んでいる。

 1980年代初めは、出嫁女の権益の問題は、他の村民と平等な土地請負権が与えられないという問題だったが、矛盾はまだあまり目立っていなかった。しかし、1990年代半ば、広東省の珠江デルタ地区で都市化が進行し、農村の株式制改革(村民が土地の使用権を「土地株式合作社」に譲り渡し、譲渡した土地に応じて合作社の株式を保有し、配当を受ける改革)がおこなわれると、土地請負権の問題は、株の利益分配、福利・宅地の分配などの問題に変わった。都市化に伴って土地の用途が変わったために土地の価値が大きく上がったので、矛盾は鋭くなった。

 広東省の出嫁女の権益問題の主な特徴は、主に出嫁女が村民としての待遇を受けられないことにあり、その具体的な現れは、出嫁女とその子どもには株を与えず利益の分配をしない、土地収用の補償金や住宅、そのほか村民としての福利待遇を与えないという形で現れている。

 この問題を解決するため、10年余りにわたって多くの出嫁女が駆け回り、長期の上訪(上級機関への直訴(2))、集団での上訪、等級を飛び越しての上訪をしばしばおこなった。宏崗村の党支部書記は「絶え間ない上訪は、村の社会の安定に対して影響と制約をもたらした」と述べ、南海区党委員会の書記は「このこと[出嫁女の問題]がもし解決したら、南海の上訪問題の半分以上、3分の2さえ解決するだろう!」と述べたほどだ。

 婦女権益保障法(原文日本語訳[PDF])は、「女性は、農村の土地請負経営権、集団経済組織の収益分配、土地収用または収容補償費の使用、宅地使用などの面で男子と平等な権利を持つ」と規定している(32条)。しかし、その一方、村民委員会組織法は村民自治を強調しているので、村によっては、「村規民約(村のきまり)」によって、「出嫁女は、村民としての資格がない」と決めて、出嫁女のさまざまな権利を奪っている。

[行政が主体になって系統的・組織的に]

 2008年3月、南海区は「南海区の出嫁女およびその子どもの権益の問題を解決する工作の指導グループ事務局[略称:出嫁女事務局](南海区解決出嫁女及其子女権益問題工作領導小組弁公室[略称:出嫁女弁])」を設置し、まず試験的に2つの村で工作をおこなった。

 次に、南海区の党委員会と区の政府は、この問題に関する全面的・系統的で、周到な文書である「農村の2つの権利の確認[集団的資産の財産権の確認、集団的経済組織のメンバーの身分の確認]をし、農村の『出嫁女』とその子どもの合法的権益を実現することに関する意見(関于推進農村両確権,落実農村“出嫁女”及其子女合法権益的意見)」(3)を発表した。

 しかし、こうした文書だけでは不十分だった。農村には、嫁に行った娘を「よそ者」扱いする旧い意識が強かったからである。

 それゆえ、南海区政府は、村の幹部に法制教育をして、出嫁女の権益を保護する法律の規定を理解させることや、農村の末端幹部と語り合って意思を疎通させ、政策に対する支持を勝ち取ることを重視した。

 そのために、2008年6月には、区の人民代表大会・宣伝部・農村工作部・婦女連合会・裁判所・司法局など十数の部門から30人あまりを引き抜いて「出嫁女事務局」に配置した。その30人あまりは、4つの工作組に分かれて、各鎮(街)に駐在して工作の指導をした。各鎮(街)にも出先の工作グループを置いた。婦女連合会の副主席は毎日各地を駆け回り、基層に入り浸って活動した。

 そうしたかいあって、2008年末には、全区の90%の1万7000名の出嫁女とその子どもが株主になり、利益の分配を受けるようになった。

[裁判所による強制執行も]

 しかし、それでも依然、抵抗があった。とくに村民委員会、村民小組(4)という2つのレベルの幹部を説得するのが困難であり、彼らを説得するために大きな精力を費やした。

 また、「行政の導きを主にし、司法の強制を補助にする」というのが、南海区が出嫁女の権益の問題を解決する原則だった。鎮の政府が行政処理の決定をおこなっても、村民小組が従わない場合、鎮の政府は裁判所に強制執行の申請をして、強制執行がおこなわれた(5)

 こうして、7月10日までに、95.2%の出嫁女とその子どもが株主の権利を持つことができた。

 南海区の各鎮(街)の政府は、既にすべて行政処理決定書を下達しており、残った問題も年内に解決するつもりだ。

[村の経済発展に結びついた]

 ある鎮委員会の書記は「以前は、鎮では毎年一部の出嫁女が関係部門にやってきて得られるべき権益を勝ち取ろうとし、村組の幹部もいつも時間と精力を出嫁女の上訪事件を処理するのに使った」けれども、出嫁女の権益問題が解決した後は、「村の中の雰囲気が調和的になり、村組の幹部も時間と精力を経済発展と社会活動に集中できるようになった」と述べている。

 また、多くの出嫁女は、権益が実現した後、郷里の建設を支えるために喜んで寄付をするようになった。

南海区の経験の意義

 以上が『中国婦女報』の報道の大要ですが、南海区のこの経験の意義として、以下のようなことが指摘されています。

党委員会や政府が主体になって出嫁女の権益を保護した

 李慧英さん(中央党学校の社会学の教授)は次のように述べています。出嫁女の権益問題を解決するこれまでの方法は、「大多数の地区は主に司法救済の方法」(個人が上訪し、婦連が参与し、司法が救済する)だった。しかし、この方法は、問題が生じた後の事後救済であった。また、訴訟には金や時間がかかり、出嫁女個人が多数の村民や村民委員会と対決しければならないので、尻込みして諦める出嫁女が多かったし、闘っても成果が得られない場合が多かった。

 それに対して、南海区では「行政の法律執行が主導的作用を果たし、司法が補助をしている。」「南海区の経験は、党委員会と政府が出嫁女の権益を保護する主体であることを示した」。「がっちりと動揺せずに政府の責任を履行してこそ、法律と民俗の間の背離と衝突を解決することができ、法律の形式的平等を実際の平等に転化することができるのだ。」(6)

「家父長制[父権制]に対する初めての本当の闘い」

 劉澄さん(江蘇省揚州市委員会党学校教授)は、その村の戸籍があれば当然村民の資格があるべきなのに、嫁に行った娘は、その村の戸籍があっても村民の資格を失うのは、父系による継承を中核にした家族制度である「家父長制[父権制](7)」のためであると指摘します。

 だから、劉澄さんは、今回、南海区政府がおこなったのは「『家父長制』に対する初めての本物の反撃」であり、「この初めての反撃が、全国的範囲の家父長制に対する総反撃の開始にもなることを希望する」と述べています(8)

私の感想

 私も、李慧英さんや劉澄さんの評価はその通りだと思います。

 南海区政府の今回の取り組みから、私は、1953年の婚姻法貫徹運動を思い出しました。単に法律を公布しただけでなく、それを推進するための専門機構を設置して、試験的な工作をしたうえで、具体的な指示を出し、行政や司法の側が組織的な努力をして、旧来の家父長制的な慣習の改変を試みた点が共通していると思うからです。

 ただし、1953年の婚姻法貫徹運動では、結婚や離婚の自由は言われましたが、父方居住や父系制のようなことは問題にされませんでした(9)。その後の人口抑制政策の中では父方居住や父系制も若干相対化されたとはいえ、行政がそれらに対してこうした形で組織的に立ち向かったのは、劉澄さんが言うとおり、初めてではないかと思います。

 ただ、今回「政府が主体になった」背景には、南海区では、出嫁女の上訪が「社会の安定」を揺るがすほどだったことがあると思われます。ですから、ただちに他の地域の政府が同じことをすることはないでしょう。

 都市化を背景に他の地域にも同様の動きが起きる可能性はあると思いますが、珠江デルタ地帯や南海区の特殊性は当然考慮に入れる必要がありましょうし、そもそも『中国婦女報』の記事が描くような、「経済発展」や「社会の安定」のためにおこなわれる改革では限界が出てくるのではないか、という疑問もあります。

 もう一つ気になったのは、『中国婦女報』の記述の中に、「農村の出嫁女の権益を持続的に実現するために、南海は、世帯を単位にして株主の権利を固定化して、『世帯にもとづいた利益分配[按戸分紅]』を実行し、新しいメカニズムによって、2009年末には農村の集団経済組織の株主の権利の紛争を解決することを目標にしている」とあることです。株主の権利を「世帯を単位にして固定化する」などの言葉だけ聞くと、女性が離婚した場合などはどうなるのかな? という疑問がわきました(私は農村の土地問題には詳しくないので、的外れな疑問かもしれませんが)。

(1)出嫁女権益保護如何突破重囲――広東南海模式調査」『中国婦女報』2009年7月30日。「南海“出嫁女”分紅有望全落実 以司法強制執行」(『南方日報』2009年9月2日)などの報道もありますし、南海区人民政府のサイトにもさまざまな記述があります。
(2)「上訪」は、辞書には「陳情」と書かれていたりしますが、むしろ「直訴」と訳したほうが適切なようです。「上訪」については、ネット上にも、「直訴阻止はありえない?-なぜ中国人は「上訪」を選択するのか(1/3)」(2006/05/18)、「むなしい法改正-なぜ中国人は「上訪」を選択するのか(2/3)」(2006/07/24)、「正義は皇帝に!?-なぜ中国人は「上訪」を選択するのか(3/3)」(2006/10/15)(いずれも「君在前哨/中国現場情報」ブログ)、「“闇監獄”とはなにか?=性的暴行事件が浮き彫りにした社会矛盾」(2009-08-12)(「21世紀中国ニュース」ブログ)などの記事がありました。
(3)原文は見つけられませんでしたが、「広東仏山南海:“出嫁女”同籍同権同齢同股同利」(『南方日報』2008年6月25日。新華網より)にかなり詳しい記述があります。
(4)村民委員会は村民の自治組織。村民小組については、村民委員会組織法第10条に「村民委員会は、村民の居住状況に照らして、若干の村民小組を分けて設置することができる。小組長は村民小組会議によって推薦される」とあります。
(5)そのほかに、南海区の政府は、出嫁女の権益の政策を実施した村民小組には財政的なサポートをし、実施しなければ、財政補助を抑えるという方法も使ったことも報じられています(「南海“出嫁女”分紅有望全落実 以司法強制執行」『南方日報』2009年9月2日、「南海年内可全部解決出嫁女権益問題」2009-02-23仏山市南海区人民政府HP)。
(6)李慧英「維護出嫁女権益 政府必須成為責任主体」『中国婦女報』2009年7月30日。
(7)劉澄さんは、中国の家父長制[父権制]について、以下のように説明しています。
「中国の家族は今なお父系継承[伝承]であり、子どもはみな基本的に父姓で、父親の血統と財産を伝えるものである。しかし、息子と娘の継承における働きは異なっており、息子は当然の継承者で、生まれつき相続権を持っており、家庭を存続させる跡継ぎだと見られる。家の跡継ぎを保つためには、妻を娶り息子を生ませなければならず、それによって代々血統を継ぐ。しかし、娘は当然の相続人ではなく、逆に嫁に行って、他家のために子を産んで、他人の跡継ぎにしなければならない。私たちは、この父系の継承を中核にした家族制度を『家父長制[父権制]』と呼んでいる。」「家父長制[父権制]の家族制度……[の下では]女児は、いったん嫁に行ったら『嫁に行った娘と撒いた水は、もとには返らない』ということになる。」「父母の家族のメンバーの身分を失った女性は、村の中でも『よそ者』と見なされる」
(8)劉澄「対“父権制”的一次真正反撃」『中国婦女報』2009年7月30日。
(9)Kay Ann Johnson,Women,the Family and Peasant Revolution in China, The University of Chicago Press, 1983, p.128.(この本については、私の書評が『中国女性史研究』第2号[1990]にあります)
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台湾女性研究者によるジェンダー講演会

 関西中国女性史研究会の10月研究会は、下記のように「奈良女子大学アジア・ジェンダー文化学研究センター」との共催、台湾・行政院文化建設委員会の後援という形で開催します。

講師:張小虹氏(台湾大学外文系教授)
 演題:「愛における不可能な任務について―映画『ラスト、コーション』に描かれた性・政治・歴史」
 *講演には通訳がつきませんが、当日、日本語訳レジュメを用意します。質疑応答には通訳(奈良女子大学大学院生王珍妮氏)がつきます。

日時:2009年10月17日(土)15:00~17:00
場所:奈良女子大学生活環境学部A棟大会議室(近鉄奈良駅徒歩5分)
主催:奈良女子大学アジア・ジェンダー文化学研究センター
共催:関西中国女性史研究会
後援:台湾・行政院文化建設委員会
*終了後、張小虹先生を囲む懇親会を設けたいと思います。こちらはあらかじめ連絡をください。

*映画『ラスト、コーション』について
 2007年公開。原題「色・戒」、張愛玲の同名の短編小説を映画化。監督:アン・リー、主演:トニー・レオン、タン・ウェイ。第64回ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞受賞。日本占領下の香港と上海を舞台に、抗日組織を弾圧する特務機関員の責任者の暗殺計画をめぐって、暗殺を目論む女スパイと暗殺対象の男との間に芽生えた愛を描く。女スパイのモデルは、中国人の父、日本人の母の間にうまれた鄭蘋茹(テン・ピンルー)といわれる。映画での激しい性描写が話題となり、各国で成人映画に指定される。Victor Entertainmentより発売のDVDあり。
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レズビアンのための反DVハンドブック刊行

 2007年9月から始まった「女性同性愛(バイセクシュアル)DV状況調査および反DVハンドブック作成」プロジェクト(本ブログの記事「女性の同性愛者やバイセクシュアルに対するDV調査プロジェクトはじまる」参照)によるハンドブックが、今年7月、刊行されました。

 このたび、そのハンドブックがPDFファイルの形で読めるようになりましたので(同語拉拉反家暴項目手冊編輯小組『家庭暴力知多少 給拉拉的対策建議』)、その一部をご紹介します。

調査結果について

 このハンドブックの序文では、まず、今回の調査結果が簡単に報告されています。北京・上海・鞍山・成都・昆明・南寧・珠海・広州のレズビアン(バイセクシュアルを含む)によるアンケート419部から得られたデータです。

〇父母や親族から暴力をふるわれたことがある……48.2%
 (非常に悪辣な暴力[こん棒で殴られる、尖った筆記用具・刃物で攻撃される、頭を壁や机の角にぶつけられる、首を絞められて窒息させられる、熱湯やタバコの吸殻で火傷させられるなど]の経験がある……12.9%)

〇女の恋人から暴力をふるわれたことがことがある……42.2%
 (非常に悪辣な暴力の経験がある……10%)

〇異性のパートナーまたは夫から暴力をふるわれたことがある……26.99%

刊行の趣旨

 このデータを受けて、序文では、次のように述べられています。

 「実のところ、これらのデータは、調査グループのメンバーの最初の予測をはるかに上回るものだった。私たちは、この調査によって、DVはレズビアンたちが直面する可能性がある非常に重大な問題であることがわかった。そこで私たちは、調査の中で得られた情報とDVの被害者への取材、インターネット上の情報、国外のレズビアンの反DVの資料を結びつけて、このハンドブックを編集・執筆した。このハンドブックは、一方で、DVの概念とレズビアンコミュニティ内外の若干の観念と認識を検討し、もう一方で、レズビアンたちにDVを予防し、DVに対処する参考になる戦術と方法を提供するものである。」

全体の構成

 ハンドブックの構成は以下のとおりです。

序文
1.何がDVか
2.DVが起きる原因
3.DVに関する神話と真実
4.父母や親族による暴力にどう対処するか?
5.親密なパートナーによる暴力にどう対処するか?
6.加害者への話
7.関連する法律・事件例
付録1:私の人身安全計画のメモ
付録2:コミュニティのサポート電話相談の情報
付録3:関係する法律・法規および応用

内容の特色

 このハンドブックには、もちろんDVに関する一般的なハンドブックにも書かれているような内容も書かれていますが、以下のような点では、レズビアンの方々が直面する問題に即したものになっています。

 「1.何がDVか」では、DVの事例として、次の3つが取り上げられていることが特色です。
 一、レズビアンカップルにおける暴力
 二、子どもがレズビアンであることによる、父母による暴力
 三、妻がレズビアンであることによる、夫による暴力

 「2.DVが起きる原因」としては、「1」として、「ある種の権力関係において支配権を奪取するために、DVが発生する」ということを挙げています。この点は一般的なDVの説明と同じあり、レズビアンに対するDVもそうした原因で発生するのだと思います。
 次に、「2」として、このハンドブックも、「伝統的ジェンダー観念が作り上げた二元的な家族において暴力が発生するときの加害者の多数は男性で、被害者は往々にして女性である」ことは認めています。ただ、この点については、「異性愛の規範が主導的な規範である現実の社会環境においては、多くの同性愛者の関係にも、異性愛の規範と文化に対する『潜在意識的』あるいは『無意識的』模倣現象が存在するのかもしれない」というコメントが付けてあります。
 最後に原因の「3」として、「心理的障害、性格的欠陥」も挙げてありますが、この点については「原因の一つにすぎない」というコメントが付してあります。

 「3.DVに関する神話と真実」では、一般的なDV神話のほかに、以下のような同性愛者間のDVについての神話を取り上げて、反論しています。

×「同性愛パートナーのDVは、一般に男女の性の気質が比較的はっきりとしたパートナーに起きる。加害者は一般に比較的男性化していて、強壮で体型が大きく、被害者は一般に比較的女性化していて、柔弱で体型が小さい」
 →パートナーによる暴力は、片方がもう一方に対して権力を行使し、相手を支配・コントロールするためのものである。このようなコントロールの欲望と体格・力との間は絶対的な関連性はない。それゆえレズビアンパートナー間の暴力は「性別の役割」の制限を受けない。

×「異性愛におけるDVと同性愛(バイセクシュアル)の社会集団のDVには何らの違いもない」
 →レズビアンパートナーと異性愛パートナーの暴力的状況の原動力は同じだけれども、同性愛(バイセクシュアル)パートナーのDVは、性的指向に対する差別や社会に普遍的な異性愛主義のために、若干の特殊な要素が加わる。同性愛者は、異性愛者と同じようには公民としての権利を享受できておらず、いささかの社会団体は、同性愛者には援助を提供しないか、非常に友好的でない援助しか提供しない。同性愛者は,援助を求めることによって性的指向を公にされることを恐れているし、警察や反DV団体に不公平な対応をされることも恐れているし、子どもの養育権を失うことも恐れているなどなど。このほか、多くの同性愛者(バイセクシュアル)も、同性愛やバイセクシュアル、トランスジェンダーに嫌悪感や恐怖感を抱く社会認識に同調しており、このことも恥辱感を増加させ、自己保護能力を低下させる。

×「DVは異性関係のほうが同性関係よりもずっと普遍的で、異性愛の女性だけが虐待される」
 →中国や外国の研究によると、同性愛コミュニティのDVの状況は、その頻度においても、重大さにおいても、異性愛コミュニティと明確な差異はなく、若干の数字は、同性愛コミュニティのDVのほうが深刻であることさえ示している。

×「異性愛のDV被害者の女性よりも、レズビアンパートナーのDVの被害者は、加害者から離れたり、助けを求めたりしやすい」
 →異性愛のDV被害者の女性よりも、レズビアンパートナーのDVの被害者は、加害者から離れたり、助けを求めたりするのが難しい。
 中国には非異性愛指向の人に対して援助を与えるリソースは何もなく、現存する反DV団体は同性愛(バイセクシュアル)をテーマにした研修をまだしておらず、有効な援助を与えることができない。多くのレズビアンは、差別されたり、道徳的に批判されたり、信じてもらえなかったり、真に受けてもらえなかったりすることを恐れて、現有の救助団体に助けを求めない。助けを求めることは、彼女たちの性的指向を公にしなければならないことを意味するが、「カミングアウト」はレズビアンにとって人生の大きな決定である。なぜなら、それによって家族や友人、仕事を失うかもしれないからだ。
 また、レズビアンの家族の多くは、彼女たちの性的指向やジェンダーアイデンティティを受け入れることができないため、彼女たちは家族の支援を求めることもできない。

 「4.父母や親族による暴力にどう対処するか?」では、「サポートを提供しうるコミュニティ組織」として、以下の3つの同性愛者の父母の電話相談を紹介していることが特色です。
 (1)大連同性愛父母ホットライン(大連同志父母熱線)……全国初の同性愛者とその父母のための電話相談。「同性愛者の父親」と称される孫徳華さんが大連彩虹工作組の支持の下に開設した(1)。同性愛者の父母がどのように家族関係を処理するかという相談が全体の30%を占める。
 (2)同性愛の親と友人の会ホットライン(同性恋親友会熱線)……全国で初めて公に同性愛者の子供をサポートすることを表明した呉幼堅さんが創設した。この会については、本ブログの記事「『同性愛者の家族と友人の会』がサイト開設」参照。
 (3)広西レズビアンの父母ホットライン(広西拉拉父母熱線)……広西蕾絲聯合社(Guangxi Les Coalition)のMis Sが自分の母親に勧めて開設した。

 「5.親密なパートナーによる暴力にどう対処するか?」では、「付録2」に、「コミュニティのサポート電話相談の情報」として、中国各地の女性同性愛者向けの電話相談15本が掲載されています。

 「6.加害者への話」も書かれていますが、以上の4~6については、一般的なDV被害者(加害者)に対する助言とそれほど変わらないように私には思えました。

 「7.関連する法律・事件例」では、「1.何がDVか」同様に、レズビアンカップルにおける暴力、子どもがレズビアンであることによる父母の暴力、妻がレズビアンであることによる夫の暴力、という三つの事例に即して、その違法性と被害者の対処のしかたが具体的に書いてあります。

付 香港の同性パートナーの暴力行為について調査

 なお、今年6月、香港で、香港中文大学心理学系副教授の麥穎思博士と香港女同盟会(レズビアンをはじめとしたセクシュアル・マイノリティの人権団体)が、同性の親密なパートナーの暴力行為についての研究を発表しました(2)

 この調査は、昨年11月から今年2月にかけて、ネット上のアンケート方式で、かつて同性との間に親密なパートナーシップをきずいていた339人の成人に対しておこなわれました。

 この研究は「アジアで初めての同性の親密なパートナーの暴力的行為の学術研究」と称されていますので、その内容はいずれ学術雑誌に発表されると思いますが、とりあえず、以下の点が発表されています。

 調査対象者は、以下のような被害を受けていた。
 ・身体的虐待:38.9%(鋭利なもので脅された:3.5%、ケガをしたことがある:10.0%)
 ・心理的虐待:74.6%
 ・性的虐待 :23.3%

 被害者が同性愛者であることと関係がある暴力としては、以下のものがあった。
 ・パートナーが、彼女/彼が同性愛者の友人と会うのをじゃました:20.1%
 ・パートナーが、雇い主や家族、その他の人に同性愛者であることを公開すると脅した:4.4%

 ソーシャルワーカーや心理学者などに助けを求めたのは1割未満で、社会福利署・警察・NGOに助けを求めたことがあるのはそれぞれ、0.3%、2.2%、1.6%だけであった。その原因は以下のとおり。
 ・社会には同性の暴力を扱う機構が欠乏している:89.0%
 ・助けを求めても、関係機構は自分の問題に関心を持てないのではないかが心配である:87.7%
 ・問題はそれほど深刻でなく、自分で処理する力がある:85.8%
 ・どの機構が自分を助けてくれるのかわからない:79.2%

 この研究は、2003年に香港政府が香港大学に委託しておこなった配偶者間のDV研究の数値との比較もおこない、「同性の親密なパートナーの暴力の問題は、異性の配偶者と比べて重大だ」という認識を示しています。上述の中国の反DVハンドブックの中に「若干の数字は、同性愛コミュニティのDVのほうが深刻であることさえ示している」というのは、この調査などについて述べているのだと思います。

 ただ、冒頭で挙げた以前の本ブログの記事でも述べた、2006年12月から2007年2月にかけて香港女同盟会がおこなった「同性パートナーDV研究アンケート調査」では、同性パートナーからDVを受けた比率は33%であり(この調査も、精神的虐待もDVに含めており、男性カップルも3割程度含まれています)、かなり数値が異なっています。ですから、配偶者間のDV研究との数値の差は、調査方法などによる差である可能性もあるように思います。

 それはともかく、香港女同盟会は、今回の調査結果をもとに、以下のような要望を出しています。
 1.政府は必ずただちに支出を増やして、同性パートナーのDV被害者に対するシェルターおよび電話相談サービスの支援を拡大し、また、同性愛コミュニティにおいてDV認識のための公衆教育をしなければならない。
 2.第一線のソーシャルワーカー、指導員、警官に、同性愛者にフレンドリィな意識を向上させるさービスを提供し、彼らに同性パートナーのDVの状況をいっそう理解させること。
 3.支出を増やして、第一線の同性愛者団体に試験的な「コミュニティ予防」活動をさせ、DVを早めに予防させること。

 香港女同盟会自身も、DV防止団体である「和諧之家」と協力して、第一線のソーシャルワーカーが早く同性のDVの問題をよりきちんと扱えるように研修などをおこなうそうです。

 私は、中国本土でも、同性愛者・LGBTの団体とDV防止団体や行政との連携が必要なことは同じだと思います。今回のプロジェクトなどがきっかけになって、そうした方向への前進が生まれると良いと思います。

[追記]
 日本にも、レズビアンカップルにおけるDVに関しては、「デルタVプロジェクト」の取り組みがネットに掲載されています。

(1)孫徳華さんは、最初、息子が同性愛者だと知った時は、刀で息子を殺そうとまでしました。けれど、さまざまな人に教えられたり、本を読んだりして、理解を深め、大連彩虹工作組のボランティアを熱心にするようになりました。孫さんは、他の同性愛者の父母とも交流をしたり、父母に援助をしたりし、2005年9月1日には、大連同性愛者父母ホットラインを開設しました(「国内首条同志父母熱線在大連開通」淡藍網2005-9-8)。大連彩虹工作組は、1999年に設立された、エイズ防止のための、ハイリスクグループの健康を目的としたグループですが、差別の解消などにも意を払っています(「中国・大連彩虹工作組簡介」、「大連彩虹工作組大事記1999-2007.05」、「同(2)」、「同(3)」いずれも両性文化網)。
(2)中文大學心理學系公布香港同性親密伴侶暴力行為研究 本港近四成同性伴侶曾受身體虐待」(2009年6月16日)香港中文大学HP、「修訂家庭暴力條例 保障同性同居伴侶(「香港女同盟會及香港中文大學心理學系 香港同性親密伴侶暴力行為研究」など)」(2009年6月17日)香港女同盟会HP、「調查:五成同性戀伴侶受暴力」明報通識網2009年6月17日。
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「性転換手術技術管理規範(意見募集稿)」をめぐって

 今年の6月16日、衛生部は「性転換手術技術管理規範(意見募集稿)」を発表しました(1)

内容

 この規範は、まず、性転換手術をおこなう医療機関について様々な条件を課していますが、たとえば以下のような条件を課しています。
 ・3級甲等病院(「3級甲等」は一番高いクラス)または3級甲等整形外科専門病院であること。
 ・病院の中に、医学・法学・倫理学などの専門家によって構成される「性転換手術技術臨床応用と倫理委員会」を設置していること。

 医者については、たとえば次のような条件が必要です。
 ・手術をする者は、整形外科の臨床に10年以上従事しており、性転換手術の臨床の仕事に5年以上参加した経験があり、独力で10例以上の生殖器再生手術をやりとげたことがあること。

 また、手術の前に、以下のような書類を提出しなければなりません。
 ・現地の公安部門(警察)が出した、患者に前科がないことの証明。
 ・現地の公安部門(警察)が手術後に身分証の性別を変更することに同意した証明
 ・精神科医が出した、性同一性障害[易性癖](2)の診断証明。
 ・患者が出す、直系親族には性転換手術をすることを既に知らせたという証明。

 性転換手術を受ける人自身については、以下の6つの条件が必要です。
 ・性転換に対する希望が少なくとも5年以上持続していて、変わっていないこと。
 ・患者が自ら選んだ性別で少なくとも2年間公に生活と仕事をしていること。
 ・手術前に心理的・精神的治療を少なくとも1年間受け、かつその効果がなかったこと。
 ・結婚している状態にないこと。
 ・年齢が20歳以上であり、完全な民事行為能力を持っていること。
 ・外科手術に対するアレルギーがないこと。

背景(3)

 中国の性転換手術の大家である陳煥然さんによると、衛生部がこの管理規範の作成を決めたきっかけは、2002年末から2003年初めに起きた2つの刑事事件だったそうです。一つは、指名手配された人が逃走中に性転換手術を受けたために捜査が困難になった事件で、もう一つは、性転換手術の出来に不満を持った人が医者と看護師に傷害を負わせた事件です(ここから見ると、少なくとも「管理規範」の出発点は、本人の人権よりも、治安維持、「社会の安定」という観点だったことになります)。

 また、近年、多くの医者が営利主義的に性転換手術をするようになったために、トラブルや訴訟が多く起きているので、早急な規範作りが求められていたという事情もありました。

 この「管理規範」の起草には、陳煥然さんも参加しました。

「管理規範」の意義

 この「管理規範」の意義としては、次のようなことが言われています。

粗雑な性転換手術の防止

 「管理規範」の冒頭にも、「医療の質と医療の安全を保証するために、本規範を制定する」と謳われています。現在のところ、多くの民営の病院では、「管理規範」のように厳格な条件の下では性転換手術がおこなわれていないので(4)、それが改まるか否かが問題です。

性転換手術の「合法化」

 この「管理規範」によって、中国の性転換手術が「ついに『合法であるという装い』をまとうことになった」(5)とか、「合法化されたと感じた」(6)という言い方がなされています。従来もべつに法律で禁止されていたわけではないのですが、公認されたと受け止められたのだと思います。

「管理規範」に対する疑問

 その一方、以下のような批判も出てます。

「性転換手術の条件が厳格すぎる」という声

 「『性転換技術規範』は性転換手術の敷居を高め、性転換をしたい人の前に、さらに高騰した手術の費用、何重もの条件の制限、厳格な法律の規定を立ちはだらかせた。このことは、地下の非合法な性転換手術の市場の『繁栄』をいっそう促進するかもしれない」という懸念を持つ人がいます(7)

 この「管理規範」では、手術前にあらかじめ公安部門(警察)が身分証の性別変更を承認している必要がある点に対しても、邱宗仁さん(中国社会科学院、倫理学)は、「身体的・精神的に必要があれば性転換を認めるべきであって、警察は、それに応じて身分証の性別を変更すべきである」と批判しています。

 邱さんは、「患者が自ら選んだ性別で少なくとも2年間公に生活と仕事をしていること」という条件に関しても、それは中国の社会では困難であるとして、批判しています(8)

 万延海さん(北京愛知行研究所)は、「結婚している状態にないこと」という条件について、「結婚している人も、性転換を選択して、パートナーと良好な関係を続けることができる」と反論しています(9)(ただし、万延海さんの主張を現実にするためには、中国でも同性婚が認める必要があると考えられます)。

「規定が不十分である」という声

 その一方、この「管理規範」には不十分な面もあるという懸念も出ています。

 陳煥然さんは、彼の案にあった「手術後の評価基準」(手術後の患者の生理と心理が統合され、性転換後の身分での生活・仕事・学習が成功しているか否かといったこと)が削除されたことを問題にしています。もしこうした基準がなければ、性転換手術をめぐる訴訟も多いままだろうし、裁判所にも判断の基準がないからです。

 また、陳さんは、病院・医者・患者の3者が負う法律上の責任についての規定がないことも問題だと述べています。つまり、今後、「管理規範」を無視して病院ないし医者が勝手に手術をした場合、それらの人がどのような責任を負うかの書かれていないので、地下の非合法な性転換市場が残るのではないかということです(10)

 性転換した芸能人として有名な寒冰冰さんは、性転換手術の費用は高額なので、国が価格を決めるべきことを主張しています。

 また、寒冰冰さんは、「管理規範」では、「医学・法学・倫理学などの専門家」が「性転換手術技術臨床応用と倫理委員会」を構成するとしていることついて、心理学の専門家などが必要であると述べています(11)

性転換後の問題

 寒冰冰さんは、「(この「管理規範」で)性転換手術が『合法化』されたと感じたけれども、この規範が性転換者に実質的な変化をもたらしうるとは思えない」と語っています。陳煥然さんも、「性別の転換が引き起こす多くの法律・社会倫理・道徳の面の問題はまだたくさんあるので……わが国はさらに高次の立法によって、性転換手術をする医師や性転換をする人の権利を保障し、性転換後の一連の社会問題を解決しなければならない」と述べています(12)

 中国には、性転換者が性別を変更できることを決めた法律はまだありません(ただし、一部の地方の警察は、すでに性転換者の実際の状況にもとづいて、身分証や戸籍簿などの性別欄を変えています。さらに河南省と江西省では、公安庁が、性転換手術を受けた人に戸籍の性別を変更する手続きについての規定を出しています(13))。

 また、性転換した人は、就職でも差別されており、陳煥然さんによると「彼らの大部分は、艶舞(色っぽい踊り?)を踊ったり、色情的な職業に従事することによって生活している」とのことです(14)

寒冰冰さんと「性転換者協会」の構想

 寒冰冰さんは、2005年にメディアで性転換者であることを公表して以後、性転換の問題に悩む人々の相談に乗ってきました。性転換者の交流の場としてQQ群(内輪のソーシャル・ネットワーキング・サービス)も作りました(15)

 今年は、「中国で最初の性転換者の映画」だという「雪の上の新婦」(《雪地里的新娘》片花預告)という映画を制作し、みずから主演しました。

 いま、寒冰冰さんは「性転換者協会」を設立しようとしています。《蝶》という名称で、以下のような機能を持つ組織を考えているようです。
 ・倫理学会の専門家、心理学の医者、法学の専門家、整形の資質を持った医者、整形機構、社会労働保障機構、メディア、性転換者、ボランティア。
 ・性転換する人に対して、機を逸せずにカウンセリングや忠告。
 ・整形医が患者に対して、完全な性転換の案の全権的分析(?)
 ・社会に向けて、生理衛生・医学面の「ジェンダー障害の説明」。
 ・性転換後の職業選択の面での第三者の配慮と導き。
 ・専門の弁護士機構による性転換者のために権利保護。
 ・メディアの理性的で正面からの客観的な報道。(16)

[追記]
 2009年11月、衛生部は、「性転換手術技術管理規範(試行)」を制定しました。本ブログの記事「『性転換手術技術管理規範(試行)』制定」を参照してください。

[追記2(2009.12.17)]
 タイトルが誤解を招く恐れがあるので、(意見募集稿)の文言を付加しました。

(1)中華人民共和国衛生部「衛生部医政司関于徴求《変性手術技術管理規範(徴求意見稿)》等第三類医療技術管理規範意見的函」(衛医政療便函[2009]116号)(2009-06-16)、附件1「変性手術技術管理規範(徴求意見稿)[ワードファイル]」衛生部HP。
 7月10日までに意見を寄せるように書かれていますが、その後の修正については、まだ公表されていません。
 なお、フリー百科事典『ウィキペディア』の「性別適合手術」の項目によると、「性転換手術」は俗称であり、現在は「性別適合手術」と言うのが正しいということです(現在の医療技術では性自認の一因としての生殖機能を与えることはできないから)。けれど、中国語の「変性」は「性転換」と訳す方が適切なように思うので、「性転換手術」としました。
 ただし、中国でも、「性転換手術(変性手術)」「性転換者(変性人)」は差別的な用語だとして、「性別再構築外科手術(性別重塑外科手術)」、「性別再構築者(性別重塑者)」と呼ぶべきだということが言われています(「改変性別:法律能給的和没給的 数百億元市場得以規範 成敗標準及侵権責任仍未設定」『法制日報・周末版』2009年7月2日)。
(2)「性同一性障害」という言葉は好ましくないです(フリー百科事典『ウィキペディア』の「性同一性障害」の項目)。ただ、中国語の「易性癖」も、互動百科の「易性癖」の項目を見るかぎり、「障害」だと捉えられているので、一応「性同一性障害」と訳してみました。
(3)変性手術20年合法路」『法律与生活』2009年15期(北京拉拉沙龍HPより)。なお、2003年ごろまでの中国や台湾の性転換手術などの状況については、白水紀子「中国のセクシュアル・マイノリティー」(『東アジア比較文化研究』3[2004.9])の59-61頁に述べられています。
(4)部分医院無視変性手術管理規範」新華網2009年6月18日。
(5)(2)、「改変性別:法律能給的和没給的 数百億元市場得以規範 成敗標準及侵権責任仍未設定」『法制日報・周末版』2009年7月2日。
(6)上記「改変性別:法律能給的和没給的 数百億元市場得以規範 成敗標準及侵権責任仍未設定」の記事の中の寒冰冰さんの言葉。
(7)上記「改変性別:法律能給的和没給的 数百億元市場得以規範 成敗標準及侵権責任仍未設定
(8)Shan Juan,“Sex change surgery guidelines draftedChina Daily,2009-06-17
(9)万延海「給衛生部:関于変性手術管理規範」(2009-08-10)愛知行動BLOG
(10)(2)の「変性手術20年合法路
(11)変性手術技術管理規範」(2009-06-17)寒冰冰的BLOG
(12)上記「改変性別:法律能給的和没給的 数百億元市場得以規範 成敗標準及侵権責任仍未設定
(13)変性人性別如何登記河南有新規 中国社会已寛容」中国新聞網2002年11月19日、「性別変更、更生登記弁事指南」湖南省公安庁人口与出入境管理局電子政務網[2009年9月14日access]、「江西発文明確変性者戸籍変更辨法 公安人士詳解変性人戸口被許可易性的法律意義」法制日報2008年12月4日。
(14)上記「改変性別:法律能給的和没給的 数百億元市場得以規範 成敗標準及侵権責任仍未設定
(15)変性人寒冰冰:手術刀不能解決所有問題」(2009-08-28)手機看新聞(来源:新世紀周刊)
(16)中国成立変性人協会迫在眉睫」(2009-09-04)寒冰冰的BLOG
関連記事

国際金融危機の中国女性に対する影響

 国際金融危機は中国の女性にも深刻な影響を与えています。この問題に関してはいくつか調査もおこなわれていますので、それらを少し紹介してみます。

半数近く女性労働者の収入が減少(上海)(1)

 上海市総工会女工部と上海社会科学院が今年5月に合同で設立した「国際金融危機の下での上海の企業の女性労働者の新しい情況・新しい問題および対策提案」課題グループが、企業訪問、アンケート調査、座談会などの方式で、化学・紡織・電子など十数の職種の108の企業の1173名の女性労働者に対して調査をおこなったところ、44.4%の女性が、金融危機の影響で「収入が減った」と答えました。

 収入が減ったのは、企業がコストを削減するために、減給をする、労働者に休みを取らせる、福利を減らすなどの措置を取ったためです。

 また、94.3%の女性労働者が、金融危機に対して多かれ少なかれ焦慮する感じを持っており、とくに「電子」と「鋼鉄」の2つの領域の女性労働者が最も強くそうした感じを持っていました。このことは仕事の状況と関係があり、金融危機によって、「電子」産業の場合は「仕事の安定性」が最も損なわれ、「鋼鉄」の場合は「収入」が最も損なわれていました。こういう職種による差異は、以下に見るような階層の差異とも関係があると考えられます。

失業の危機にさらされる輸出加工企業の女性労働者と女子大学生(2)

 今年8月、黒龍江省でおこなわれた「国際金融危機と女性権益保護シンポジウムおよび第3回黒龍江女性権益フォーラム」では、「全世界で女性の失業人口が増加しているが、中国では輸出加工企業の女性労働者と女子大学生の被害が大きい」と指摘されました。

 中国の沿海地区の労働集約型の輸出加工企業の生産ラインの労働者の70%は女性です。彼女たちは農村からの出稼ぎ労働者であり、まっさきに失業の被害を被りました。劉伯紅さんによると、他の省に出稼ぎに行っている人が多い某省における調査では、新年の期間に故郷に帰った1360人の女性農民労働者のうち、操業停止・人員整理・減給などが原因で帰郷した人が37.79%にのぼったそうです(3)

 また、黒龍江省の大学生の就職率は、2008年には79.6%でしたが、2009年には63.4%に低下しました。なかでも女子大学生は、2008年には77.9%だったのが、2009年には58.7%にまで低下しました。

女性の弱者層はますます弱者に

 張瑞燕さんらの調査によると、金融危機の女性に対する影響は、職業やポストによる差が非常に大きく、安定した仕事についている公務員や大学教員、医者、弁護士などの収入にはほとんど影響がありませんでした(4)

 しかし、そうした安定した仕事についていない女性は、仕事は少ないのに求職者が多いために、ますます弱い立場に追いやられました。

 浙江省では、少なからぬ企業が閉鎖や人員削減をしたために、多くの女性が家事サービスの仕事につくようになりました。家政婦は、以前は(労働条件が悪いために)不足していたのですが、最近、多くの女性が家政婦になったために、供給過剰になり、待遇がますます低下しました。あるパートタイマーの清掃労働者は、以前は、毎日、2~3軒の仕事をやって、1時間に10元稼いでいたのですが、現在は「清掃のパートタイマーが増えたので、ここ2、3日仕事がなく、賃金も8元に下がった」と語っています(5)

 北京でも、以前は家政婦の供給が不足していたのですが、今年の第一四半期は供給過剰になったために、一月の賃金が平均で100─200元下がったそうです(6)

 女性の場合、もともと男性より安定した仕事についている比率が低く、非正規やパートの仕事についている比率が高いですから、金融危機のしわ寄せを受けがちだと言えます。

家事・育児への影響

 女性は仕事と家庭の二重負担も背負いがちですが、金融危機の影響で家族の収入が減ったために、雇っていた家政婦に辞めてもらう家庭もあり(このことも、家政婦の雇用機会が減った一因です)、そうした家庭では、女性の家事・育児の負担が増えました(7)

 深圳市婦女連合会の調査によると、深圳市では、24.7%の家庭が家政婦を雇う必要があると答えたのですが、そのうち1/3の家庭が、この面の支出を減らしていました(8)

 このように、国際金融危機は中国の女性にもさまざまな形で影響を与えています。

(1)上海一項調査表明 金融危機使女職工受到全面影響」『中国婦女報』2009年8月27日。
(2)面対全球金融危機,中外専家共話婦女体面労動 将婦女的需求“翻訳”為権利」『中国婦女報』2009年8月11日。
(3)劉伯紅「浅析金融危機対中国婦女的影響」婦女観察網2009-4-10(http://www.womenwatch-china.org/article.asp?id=4309[2009年4月20日access]→国務院婦女児童工作委員会HP)
(4)張瑞燕「女性面対金融危機」(2009-03-17)女権在線HP
(5)杭州等地受企業減員影響 昔日“保姆荒”而今“保姆慌”」『中国婦女報』2008年11月24日。
(6)(3)に同じ。
(7)同上
(8)深圳市婦聯「金融危機対深圳家庭的影響」(2009-08-28)広東省婦聯HP。なお、この調査では、工場の集団宿舎に住んでいる外来の労働者は調査対象に含まれていません。
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インターネット上の性科学の情報を統制する規則

 6月23日、中国の衛生部は「インターネット医療保健情報サービス管理規則[互聯網医療保健信息服務管理辨法(衛生部令第66号)]」を公布し、7月1日から施行しました。

 その内容は、簡単に言えば、インターネット上では、「性科学の研究内容を含む医療保健情報サービスは、医療衛生機構しかおこなってはならない」、「医療保健サイトは、性科学の研究内容を専門家以外に公開してはならない」というものです。

国内外での反発

 ウォールストリートジャーナルやロイターは、性情報を統制する措置だとして、すぐさま記事にしました(1)

 中国国内でも、インターネット上で、次のような反発の声が上がりました。

 喬志峰さんは「長い間、性の知識は中国ではひた隠しに隠されてきた。今日に至るまで、一般庶民が性の知識を学ぶルートは非常に限られており、インターネットの出現が多少足りない点を補ったのに、現在なぜこのルートさえ完全に封殺しなければならないのか? とうに21世紀になったというのに、まだ性学(セクソロジー)を洪水や猛獣(危険思想)のように見なして、あらゆる手段を使って性学を普通の民衆と隔離しようとするのは、一種の後退ではないのか?」と述べました(2)

 黄振迪さんは「衛生部はなぜ文化大革命の時期のような禁欲主義の旗印を掲げるのか」と批判しました(3)

 以下では、「管理規則」の条文に即して、『華人性健康報』(世界華人性学家協会など)などに掲載された専門家による批判を見てみます。

性科学は医学だけか?

 第2条:この規則で言う「医療保健情報サービス」とは、医療衛生機構のサイトや予防保健知識のサイト、または総合サイトに予防保健チャンネルを設立することによって、ユーザーに医療保健情報を提供するサービスの活動を指す。

 第5条:インターネットで医療保健情報サービスの提供を申請するには、下記の条件を具備していなければならない。
 (1)主宰単位は、法律にもとづいて設置された医療衛生機構、予防保健業務に従事する企業・事業体の単位、またはその他の社会組織とする。

 (3)(……)性知識の宣伝を提供するには、1名の、副高級以上の衛生専門技術職務に就く資格がある医師がいなければならない。

 第6条:インターネットで性心理・性倫理・性医学・性治療など性科学の研究内容を含む医療保健情報サービスの提供を申請するには、第5条の規定のほかに、下記の条件を備えていなければならない。
 (1)主宰単位は、必ず医療衛生機構でなければならない。


 張敬婕さん(中国メディア大学メディアと女性研究センター)は、上の5条と6条について、第一に、「『管理規則』が規定している資質を有していない機構・個人は、たとえこれまでインターネットで良い医療保健情報を提供してきていても、継続して運営する資格を剥奪される」、第二に、「インターネットで医療保健情報サービスを提供する根本的な趣旨から言うと、その目的は、インターネットのデジタル化やマルチメディア性、リアルタイム性、相互性などの優位性を利用することにある」が、「管理規則」のようなやり方では、「情報の量、種類、階層性などが、みな損なわれるかもしれない」と批判しています(5)

 また、明さん(東西方性学研究所[Institute of Oriental-Western Human Sexuality]所長、世界華人性学家協会副会長)は、こうした条文について、「性学(性科学)を医学の範疇に帰属させる」ものだと批判しています。さんは、「性学研究は、すでに性生理学、性医学、性心理学、性社会学、性人類学、性法学、性教育などの学問分野を形成している。だから、性医学は、性学研究の一部にすぎないのであり、性学は、医学の範疇には属しない」と述べ、「中国の3人の著名な性社会学者である劉達臨・潘綏銘李銀河は、みな医学のバックグラウンドをもっておらず、もちろん医者でもない」と指摘しています(4)

性科学の研究内容は、専門家にしか公開してはならない?

 15条:性科学研究をおこなう医療保健サイトは、関係する臨床および科学研究に従事する専門家にしか公開してはならない。(……)総合サイトの予防保健のたぐいのチャンネルは、性科学の研究内容のサービスを展開してはならない。

 明さんは次のように批判します。「2002年5月、WHOと世界性学会は『セクシュアル・ヘルス促進行動プラン』を採択した。(……)セクシュアル・ヘルスとセクシュアル・ライツが人権であることは世界の共通認識である。もし66号令の要求に従えば、広範な民衆がネット上で性の知識を学び、性保健の常識を増やし、セクシュアル・ヘルスを保護する権利を剥奪してしまうのでははなかろうか。」(6)

 また、李銀河さんは、「関係する臨床および科学研究に従事する専門家は、全国で数千人以上ではない。これは(……)『性科学研究の医療保健サイト』を設立するターゲットグループになる規模では絶対にない」(7)と述べます。

「医療保健サイト」とは?――規定があいまい。実際への影響は?

 この「管理規則」には、定義が曖昧な概念が多いと指摘されています。たとえば「医療保健サイト」とか「性科学研究をおこなう医療保健サイト」という言い方では、あらゆる性学に関するサイトが、その中に入る恐れがあります(8)(もしそうだとすると、一般の人々にとっては、性科学の情報は、インターネット上から姿を消すことにもなりかねません)。

 潘綏銘さん(中国人民大学性社会学研究所所長)は、規定が曖昧であることには、2つの可能勢があると述べています。一つは、「俺様は権力を持っているから、やりたいことは何でもできる」という意味であり、もう一つは、「態度を表明しただけでのことであって、必ずしも真に受ける必要はない」ということだそうです。潘さんは、衛生部は政府の部門としては一番ランクが下なので、後者の可能性のほうが大きいと言います(9)

 7月1日以降、この衛生部の「管理規則」が実際にインターネットにどのような影響を与えたかは、私はよく調べられていませんが、著名なサイトを見るかぎりでは、大きな変化はないように見えます。潘綏銘さんが言うように、必要以上に大げさに考えることはないのかもしれません。

 しかし、前回の記事でも触れたように、今年になってから性情報に対する統制の動きが強まっていることは確かですし、危険な「管理規則」だと思います。

(1)China Tightens Restrictions for Web Sites on Sexual HealthThe Wall Street Journal(2009年6月26日)、「中国ネット規制、性関連の医療情報も閲覧禁止に」(Reuters 2009年6月25日)。
(2)喬志峰「請不要剥奪我上綱学習“性知識”的権利」(2009-06-25)喬志峰的BLOG
(3)黄振迪「衛生部打出“禁欲主義”旗号為哪般」(2009-06-28)天涯社区
(4)明「性学(性科学)不是医学――兼談権威観点」華人性健康報BLOG
(5)張敬婕「片面規範与思維的誤区」(2009-07-04)華人性健康報BLOG
(6)(4)に同じ。
(7)李銀河「衛生部文件錯誤百出」(2009-07-28)李銀河的BLOG
(8)『華人性健康報』記者の指摘(潘綏銘「衛生部也“掃黄”?」(2009-07-03)華人性健康報BLOG)。また、14条には「性知識を宣伝する名目で、性心理・性倫理・性医学・性治療などの性科学の研究の内容を誇張[渲染]してはならない」という条文があるのですが、李銀河さんは、この条文についても、その定義の曖昧さを含めて批判しています。
 「性心理・性倫理・性医学・性治療は、性知識の基本的内容である」と述べ、「何を『誇張』と言い、何を『誇張でない』と言うのか?」と疑問を出し、「性社会学・性心理学・性倫理学・性医学・性治療の科学研究は成果が積み重ねられており、関係する論文は汗牛充棟であるのに、なぜ中国ではそれを広めてはいけないのか? それらの『性科学研究の内容』を広めずに、まさか、科学的でない『内容』を広めたり、非科学的な『内容』に市場を占拠させるのではあるまい」と述べています(李銀河「衛生部文件錯誤百出」(2009-07-28)李銀河的BLOG)。
(9)潘綏銘「衛生部也“掃黄”?」(2009-07-03)華人性健康報BLOG。ただし、潘さんも、『華人性健康報』記者の質問に対して、衛生部の官僚が「普通の人が性学研究のサイトに登録することをなぜ許さないかというと、その原因は、それらの内容は科学者にとっては仕事だが、普通の人にとっては色情だということである」、「ここで『普通の人』と言っているのは、主に未成年者を保護するためである」と答えたとを聞くと、「これは、ネットユーザー全体を性知識を青少年の水準に退化させることを強制している。ここから類推すると、すべての中央の文書は、官僚にとっては仕事だが、普通の人にとっては汚染である」と怒っています。
 なお、未成年者の保護という点に関しても、範囲さん(遼寧省生命科学学会性心理研究所所長)は、「いわゆる低俗の風潮はどの国にもあり、いかにしてコントロールをするかが重要である。(……)わが国には、青少年に性教育をすることに対して、以前から異なった観点があり、一つは、やるべきであり、有益で、早ければ早いほどよいというものであり、もう一つは、副作用が大きいので、話さない方がよいというものである。実際は、各人はみな性の知識を理解する権利があり、遮ろうとしても遮ることができるものではない。教育しなければ、青少年はその他の手段で性を理解することができる」と述べ、衛生部第66号令について、「明らかに遮ることであり、流れを良くすることではないのであって、私はいささか間違っていると思う」と述べています(範囲「不要倒洗澡水時把孩子一同倒掉」『華人性健康報』2009-07-04)。
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同性愛サイトに対する攻撃や規制

 中国でも、セクシュアル・マイノリティの活動や交流にとって、インターネットは大きな役割を果しています。しかし、彼ら(彼女ら)のサイトは必ずしも安泰なものではないようです。昨年から今年にかけての幾つかの出来事は、その点を浮き彫りにしました。

1.ハッカーによる攻撃、それを取り締まらない警察(1)

 昨年8月から10月にかけて、黒龍江・遼寧・北京・河北・天津・山東・江蘇・浙江・重慶などの地で、十数カ所の男性同性愛サイトが相次いでハッカー(クラッカー)によって攻撃されるという事件が起こりました。被害にあったサイトは、サーバーを何度も変えたために多額の支出を余儀なくされたり、膨大なデータを失ったりしました。また、データが盗み取られたために、多くのカミングアウトしていない同性愛者の人々の間には、パニックが起きました。

 今回のハッカーの手口は、データを盗み取って新しいサイトを作り、あわせて「元のサイトは閉鎖された」と告知して(元のサイトについて、当局に「色情で低俗な内容だ」と通報する手口も使う)、ユーザーを新しいサイトに誘導するものでした。それによって、元のサイトが得ていた会費や広告料、エイズ防止のためのプロジェクトの資金をせしめることが目的です。

 多くのサイトが警察に事件を届け出ましたが、一件も受理されませんでした。警察に「なぜ立件しないのか」と尋ねると、「『同性愛』だから」とはっきり言われた例もあります。

 2007年にも、ハッカーがゲイサイト「淡藍網」を攻撃してサーバーをマヒさせ、サイトに対して「金を送ったら、攻撃を停止する」と言ったことがありました。「淡藍網」の責任者も警察に届け出たのですが、警察の返事は、「警察は金も物資も限られているし、ハッカーの攻撃技術は高く、証拠を集めるのは難しいし、法律の適用も難しいので、受理しにくい」というものでした。 

 刑法(286条)や「コンピュータ情報ネットワーク国際インターネット安全保護管理規則(計算機信息網絡国際聯網安全保護管理辨法)などは、ハッカー行為を厳しく罰することを規定しているのですが……。

2.当局の「サイト粛正」による打撃

 中国では、しばしば当局によってインターネットに対する風紀粛正がおこなわれますが、そのたびごとに、同性愛サイトは取り締まられてきました。2002年の「インターネット取り締まり強化」の際には、同性愛サイトは大きな打撃を受け、刑罰を科せられた人さえいました。

 その後、社会の気風が包容的・開放的になって、サイトが閉鎖されることは次第に少なくなりました。しかし、今年初めの「低俗サイト粛正運動」は、全国最大の女性同性愛サイトと称している「拉拉后花園」を閉鎖に追い込みました(2)

 北京弁護士協会情報ネットワーク・電子商務法律事務委員会の事務総長の魏士癝によると、同性愛サイトは「同性愛の恋人たちに交友の場を提供しており、往々にして色情の内容を含んでいるが、わが国の法律の猥褻・色情情報に対する規定は比較的広範なので、それらのサイトの生死は、往々にして現地のインターネット警察の法律執行の尺度の理解によって決められる」とのことです。ある女性同性愛者のサイトの責任者は、プロバイダーから「サイトの内容が低俗な嫌いがあるので、閉鎖しなければならない」と言われたのですが、彼女も、「問題は、誰も、私に、何をすべきで何をすべきでないか、何が合法で何が合法でないのかをはっきり言わないことです」と述べています。

3.フィルタリングソフトによる検閲

 今年6月9日、中国の工業・情報化部(工業和信息化部)[「部」は、日本の「省」に当たる]は、7月1日以後、中国国内で販売するすべてのパソコンに「グリーンダム(緑壩)」[正式名称は、グリーンダム・ユースエスコート(緑壩・花季護航)]というフィルタリングソフトを予めインストールしておくことをメーカーに義務づける通知を出しました(3)。小中学校のパソコンについては、すでに4月1日、教育部などが「グリーンダム」をインストールするよう通知を出していました(4)

 「グリーンダム」は、「成人/色情」「暴力的ゲーム」「不法活動/薬物」に加えて、「同性愛」のサイトもシャットアウトするソフトです。ある人がインストールして試してみると、有名な同性愛サイトである「愛白網」(人権問題を中心にしたお堅いサイトです)も閲覧できず、「この情報は良くないので、フィルタリングしました」という表示が出てきました。「gay」「lesbian」などの言葉もチェックされましたし、図版に肌色が多すぎると、裸と見なされるのかシャットアウトされました(5)

 6月11日、上の工業・情報化部の通知に対して、同性愛者らの人権を守る活動をしている、北京愛知行研究所北京益仁平中心浙江愛心工作組・貴州黔縁工作組天津深藍志願者工作組は共同で抗議声明を出し、「このような、同性愛者たちの名誉を汚し、差別し、攻撃・抑圧する効果を持つ行政の決定に対して、私たちは非常に強い反対を表明する! 同性愛は色情や猥褻と同じではない! 私たちは国家工業・情報化部がただちに同性愛サイトに対する訪問の制限を取り消すように訴える!」と訴えました(6)

 「グリーンダム(緑壩)」が同性愛者差別であるという指摘を報じたメディアはあまりなかったのですが(7)、中国国内では、グリーンダムが強制的な検閲であることから反発が起き、政治的情報の検閲が目的ではないかという批判も高まりました。その他、グリーンダムのさまざまな技術的な問題点も指摘されました。アメリカやEUからも批判が出ました。

 こうした動きに押されたのか、施行日前日の6月30日、突然、国家工業・情報化部は、義務化を無期限で延期すると発表しました。ただし、小中学校やネットカフェなど公共施設のパソコンには、ひきつづきグリーンダムをインストールしていくと表明しました(以上、(8))。

 フィルタリングに関しては、日本でも、2006~7年頃、NTTドコモが、携帯サイトの子ども向けのフィルタリングの際して、「同性愛」カテゴリー(トランスジェンダーなどを含む)のサイトへのアクセスを制限しようとして問題になったことがありました。

 この件については、さまざまな人の努力のかいあって、「同性愛」はフィルタリングの対象から外されることになったようです(9)。ただし、保護者の意識はというと、2008年にIMJモバイルがおこなった、携帯サイトのフィルタリングサービスに関する調査によると、保護者の87.8%は「同性愛に関するサイト」の規制が必要だとしています(「規制が必要である」と「やや必要である」の合計)(10)

 上で触れた中国の今年の「低俗サイト粛正運動」も、「完全に子どものためである」(国務院ニュース事務室ネットワーク局副局長・劉正栄)と称していましたし(11)、「グリーンダム・ユースエスコート」も、文字どおり、「若者の保護」を謳っています。「子どものため」という保護者の(バイアスを含んだ)感情を利用して、同性愛情報のシャットアウトをしようとする動きは常にあると思います。本当は、思春期の子どもにこそ、同性愛などの情報を与えることが重要だと思うのですが……。

(1)以下の1、2については、「遭黒客攻撃救助無門:同性恋網站的灰色生存」『南方周末』2009年2月26日、「数十家同性恋網站被“黒” 法律定位模糊維権困難」法制網2009年3月18日。
(2)「拉拉后花園」はサイトの閉鎖をトップページで告知したのですが(「和諧的 拉拉后花園」拉拉后花園http://www.lessky.com2009年4月6日access)、そのページには、当局によるインターネット粛正活動のニュース(整治互聯網低俗風行動)へのリンクがありました。
 また、上のページに掲載された文には、次のような一節がありました。
 「壁虎天空[ヤモリの大空? ハッカーのペンネームか?]、私はあなたが誰なのか知らない、なぜ私になりすますのか!
 この時期に、このような卑劣な手段で、機に乗じて花園を中傷した」
 上の一節から見ると、「拉拉后花園」に対しても、ハッカーらしき人が「なりすまし」をしたり、「低俗サイト粛正運動」に乗じた中傷をしたようです。
(3)国家工業和信息化部「関于計算機預装緑色上網過濾軟件的通知(2009年5月19日)」(工信部軟[2009]226号)2009年6月9日。
(4)教育部 財政部 工業和信息化部 国務院新聞弁公室「関于做好中小学校園網絡緑色上綱過濾軟件安装使用工作的通知(2009年4月1日)」(教基二函[2009]3号)教育部HP
(5)“緑壩-花季護航”過濾軟件屏蔽同性恋相関網站」『華尓街日報』2009年6月10日、「国内同性恋組織対緑壩限制同志網站表示反対」(2009-06-12)
(6)北京愛知行研究所 北京益仁平中心 浙江愛心工作組 貴州黔縁工作組 天津深藍志願者工作組「呼吁工業和信息化部立即取消通過“緑壩”軟件来限制同性恋網站的做法(2009年6月11日)」中国発展簡報HP
(7)同性恋人群之憂:緑壩軟件威脅同性恋網站」(人民網健康頻道2009年7月30日)、「“緑壩”軟件主動屏蔽同性恋信息被指歧視」馬甲網2009年6月17日(出所は財経網)が取り上げています。また、社会学者の李銀河さんは、自らのブログで、「グリーンダムの三つの罪」として、同性愛者差別という「政治上の誤り」であること、「技術的な不完全さ」(肌色の面積が多ければ、不良な情報として判断するので、毛沢東や小平の大きな肖像もフィルタリングされてしまうようなこと)、「納税者の金を濫費していること」(ソフトの使用権を得るために、納税者の税金を使ったこと)を挙げています(「緑壩的三宗罪」2009-06-29)。
(8)維基百科[wikipedia]の「緑壩-花季護航」の記述、「中国推遅強制安装“緑壩”軟件」『財経網』2009-06-30、「中国、検閲ソフト『グリーン・ダム』の導入を無期限延期」ロイター2009年7月1日、「『グリーンダム』搭載義務化、施行前日に突然の延期」レコードチャイナ(2009-06-30)、「(中国ウェブマーケティング用語)グリーンダム」イーチャイナHP、「ネットの激流に飲まれた官製“検閲ソフト”(前編)」(2009-07-14)「同(後編)」(2009-07-15)日経ビジネスオンライン、渡辺浩平「玉嬌事件、グリーンダム問題から見るネット世論の力」『中国、市場とメディア』10号(2009.7.7)、「『グリーンダム』搭載義務延期を巡って」極東ブログ2009.07.04、「李毅中談"緑壩":問題拡大政治化不符事実」中国新聞網2009年8月13日。
(9)携帯サイトフィルタリング問題解決へ! 『同性愛』がOKに!」Gay Life Japan2008年8月26日。
(10)フィルタリングの必要性、同性愛サイトやプロフなどで親子に意識差」INTERNET Watch 2008/02/18
(11)国新辨網絡局副局長談網絡低俗判定標準」中国網2009年2月25日。
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