2009-07

成都市の条例草案の生理休暇の規定に対してさまざまな意見

 現在起草中の「成都市婦女権益保障条例」に「女性は、月経期間は身体の情況にもとづいて短い休暇を取ることができる」という規定が盛り込まれていることがわかりました。

 この条例の立法の調査研究と起草グループの責任者である、成都大学法学部教授の張居盛さんによると、調査研究の中で、公共交通の女性運転手が「月経期にも車を出して、長時間座っているために体をこわす」という意見を述べたということです。張さんによると、この規定は「画一的に休みを強制する形式ではないので、それぞれの職種の女性が自らの身体の状況にもとづいて、休みを取るか否かを自由に決定できる」ということです(1)

従来の法制

 従来中国では、女性労働者の月経期間の労働に関しては、以下のように定められていました。

 まず、月経期間に従事させてはならない労働に関する規定があります。
 ・女性労働者保護規定[女職工労動保護規定](1988年7月公布、9月施行)第6条……女性労働者の月経期間には、所属する単位は、高空・低温・冷水および国家が規定する第3級の体力労働強度の労働を割り当ててはならない。
 ・女性労働者禁忌労働範囲の規定[女職工禁忌労動範囲的規定](1990年1月)第4条……女性労働者が月経期間に従事することを避ける労働の範囲:1.食品冷凍庫内および冷水などの低温の作業、2.「体力労働の強度の等級分類」基準の中の第Ⅲ級体力労働強度の作業、3.「高所作業の等級分類」基準の中の第Ⅱ級(Ⅱ級を含む)以上の作業

 月経期の休暇についての規定も、これまでなかったわけではありません。
 ・女性労働者保健工作規定[女職工保健工作規定](1993年11月)第7条第4項……重度の月経痛および月経過多を患う女性労働者は、医療あるいは母子保健機構の診断を経て、月経期間に適切に1~2日の休暇を与えることができる。

 「成都市婦女権益保障条例」の草案の規定は、女性労働者保健工作規定と比べると、「医療機構あるいは母子保健機構の診断」という条件がないことが特徴です。

 ただし、今回、女性労働者保健工作規定はなぜかあまり話題になっていません。また、後述の呂頻さんは、「現在中国で実行されているのは、月経期を含めた『五期(月経、妊娠、出産、授乳、更年期)』の保護であるが、『女性労働者保護規定』などは、月経期の労働の禁忌を規定しているだけで、休暇には触れていない」と述べているだけです(2)

 こうした点から見ると、女性労働者保健工作規定は、それほど活用されていなかった可能性もあるように思います。

賛否両論

 さて、今回の成都市の条例草案の規定に対しては、以下のような賛否両論が出ました(3)

[賛成論]
 賛成論は、「女性の人身の権利である」「母親として次の世代の健康や教育のために必要である」「重い仕事や労働環境が悪い仕事では必要だ」といったものでした。

 ・「女性の特殊な生理的な権益は、法律で保護すべきである。こうした保護は、企業の利益と矛盾が生じるかもしれないけれど、女性労働者の人身の権利は、企業の利益よりもはるかに大きい。奥深い点を言えば、実は、それは、女性の労働の権益を保護するだけでなく、女性の人身権を保護する」(四川大学法学院教授・王建平)
 ・「平等には形式的平等と実質的平等があり……実質上の平等には反しない」(中国人民大学商法学研究所所長・劉俊海)
 ・「この条例を制定することは非常に価値があることで、全社会が女性の心身の健康にいっそう関心を寄せることを促進することができる。母親は子どもを教育する重い責任を担っている。母親が健康でこそ、次の世代の健康・教育が十分保障される」(全国政協委員、中国美容時尚報社社長兼編集長・張曉梅
 ・「長時間立つ、歩いて動く、水の中で作業しなければならない部門、部署、職種などでは『月経期の生理休暇』を実行すべきだ」(四川大学法学院教授・王建平)
 「(私たちは高温、寒冷の状況下でも仕事をやらなければならないので)『条例』が、女性が月経期に休むことを認めていることに断固賛成する」「高温手当などの福利はあるけれども、月経期に体力がいる労働をやると、確実に体調がおかしくなる」(清掃作業員)

[反対論]
 反対論は、「企業の負担が増える」「企業の負担が増えるので、女性を雇いたがらなくなる」「女性がウソをついて休暇を取ったらどうする」といったものでした。

 ・「女性労働者が多い企業、特に流れ作業では、互いに協力して生産することが必要なので、企業に対する影響は非常に大きい」(成都レインボー電器[集団]株式有限会社理事長兼社長・劉栄福)
 ・「企業が女性を採用する際に心配を増やすので、女性の就職の困難が増大する」(万博不動産売買有限会社理事長兼社長・米瑞蓉、四川金斯達投資有限会社理事長・王進)、「女子大学生がますます就職難になる」(省人民代表大会代表、四川華僑鳳凰グループ株式有限会社理事長・成甦)
 ・「もし女性労働者がウソをついて生理休暇を取ったら、その企業の発展はどのようにして保護するのか」「もしその規定が本当に必要なら、職業を厳密に限定して、月経期の休暇を取る具体的な手続きを明確にするべきである」(男性の企業経営者)

 以下では、今回の条例の規定についてまとまった文を発表した劉明輝さんと呂頻さんの見解を見てみます。

劉明輝さんの見解(4)

 劉明輝さん(中華女子学院副教授)は、以下のように、個人の違いを重視すべきことを強調しています。
 「まず、部署の違いにより、月経期の休暇に対するニーズが異なる。あらゆる職業の女性労働者が月経期に休まなければならないわけではなく、たとえ交通、室外の肉体労働者であっても、一概には論じられない。」「次に、女性の体質の違いによって、月経期の休暇に対するニーズが異なる。」
 「国内の学者は両性の差異に対する研究に注目していて、個人の差異に対する研究は相対的に弱い。もし立法が個人の差異を軽視したら、自ら望む月経期の労働の権利を剥奪したり、強制的な休暇の後の時間外勤務、昇進への影響、仕事の機会を失うなどのマイナスの影響を引き起こすかもしれない。」「職業安全衛生の領域の新しい趨勢は、労働者の健康の保護を考えるときは、もっと個人の脆弱性に依拠しなければならず、年齢と性別を統一的な基準にはしないことを示している。」

 また、劉さんは、単に「女性を保護する」のではなく、職業の中の危険自体を除去するべきだという観点も出しています。
 「ある措置は、女性全体を危険な職業に従事することを禁止するものであって、職業の中の危険を除去してあらゆる従業員の健康を出発点にしていない」

呂頻さんの見解

 呂頻さんは、最初は、「女性は本当に月経期の休暇が必要なのか」(5)という文を書きました。

 この時点では、呂頻さんは、以下のように、月経期の休暇に否定的でした。
 「月経は、女性が正常な仕事に従事することに対してどれほど影響があるのか? 中国にはまだ全面的な研究はないが、国外には、月経は、女性の平均的な労働能力に対する影響は非常に小さいことを実証した研究がある。」
 「私は、20年前と比べて、今日の女性の身体の資質はすでに大きく向上し、仕事の労働の強度は著しく下降したと信じることができる。」
 「そうである以上は、月経期を病理化し、月経期の休暇を特に規定することは、必要なくなったかもしれない。当然、重い生理痛が休息を必要とする状況はたしかにあるが、それは実際は、病休の範囲に組み入れることができる」
 「国際的に普遍的な状況から見ても、現今の女性の特殊な労働保護の範囲と程度の変化の趨勢は、拡大と強化ではなく、逆である。これは、人々が女性は多くの面で弱者ではなく、平等な社会の競争に参与する十分な能力があり、良い願望にもとずく過度の保護は、かえって女性の自由な選択を制限する可能性があるからである」

 ただし、呂頻さんは、「中国では若干複雑かもしれない。多くのあるべき労働保護が水準に達していないと同時に、若干の不必要な、制限的な保護がなお存在している。女性の権益の立法において伝統的な『五期』の保護という考え方の道筋を踏襲する必要があるのか否か? いかにして必要な保護措置を実現しつつ、女性の労働の権利の損害を防止するのか、これはあるいはさらに論証が必要かもしれない」と言います。

 さらに、翌日、呂頻さんは「どれほどの女性が月経期の休暇を必要なのか、または必要でないのか」(6)という文を書きました。

 まず、呂頻さんは、上の昨日の自分の文には、次の2つの間違いがあったと述べます。
 1.軽率に「女性」という、女性全体を指す言葉を使ったこと。
 2.月経休暇を設けることは、けっして女性の労働の権利に対する制限ではないこと。現在の状況の下では、それは、客観的に女性の就業の競争力を弱めるかもしれないが、そのことと労働の権利の損害とは別問題であること。

 そして、以下のような議論を展開します(おおざっぱな抜き書きなので、正確には原文をご覧ください)。

 「月経と関係する疾病、気分の悪さ、困惑は、女性の普遍的な経験であり、これらの経験が得ている理解と配慮は、多すぎるのではなく、少なすぎる。この角度から言えば、月経休暇を設けることは、単純に悪いことでは絶対にない」

 「伝統的な『五期』の保護の考え方の道筋はたしかに考え直さなければならないけれども、どの程度考え直すべきなのか、どのように改革すべきなのかは、私はよくらかわないし、誰がわかっているかも知らない。原因は、今日の女性の健康の状況と保護のニーズに対しても、保護の基準を設定する根拠に対しても、研究が欠乏していることである。」

 「月経期の休暇の構想は、何も間違っていない。それは、女性に休暇を使う可能性を提供するだけである。確実に若干の女性にはそれが必要なのであり、使うことも、使わないこともできる」

 「けれど、客観的な結果から言えば、これは明らかに使用者に女性を雇わない口実をまたひとつ与える。」「この背後には、普遍的なジレンマがある。『女性の特殊な境遇』を言えば、『余計な負担』と見られるだろうし、『女性が平等な競争力を持っている』と主張すれば、性差や女性内部の差異に対して配慮されなくなるかもしれない」

 「女性に対する搾取は、強要と無視の2つの面が同時に存在している。この2つの面は、本来は一体なのだけれども。保護すべきことが保護されていないのに、保護は女性の弱者性の固定化をもたらすかもしれない。カギは、全体のコンテクストが女性に対して非常に友好的でないことであり、そのために、こちらを立てれば、あちらが立たないということになる」

 「どのようにして包囲を突破するか? 私には簡単な答案はない。現在私にできる自己警戒は、平等の権利に対するこれらの討論は、非常に注意深く情境化[具体的な状況に即して考える、といった意味でしょうか?]しなければならず、かつ、どんなことがあっても、少なくとも私の観点が女性に対していかなる不利も作り出さないようにすることである。」

 私(遠山)はこの問題を深く考えているわけではありませんし、それぞれもっともな意見だと思いますが、とくに王建平さんや、劉明輝さん、呂頻さんの2番目の文に共感を覚えます。また、私がより問題が生じる可能性が高いと思うのは、成都市の条例のような、申請による生理休暇よりも、「女性労働者保護規定」や「女性労働者禁忌労働範囲規定」で、月経期の女性がやることのできない作業が一律に決められていることだと思います(7)。いずれにしても、劉明輝も呂頻さんも指摘しているように、当事者の女性の方々の多様な情況や要求をもっと広く集める作業が必要だと思います。

(1)成都擬立法 婦女経期有望据身体情況請短假」『成都晩報』2009年6月29日。
(2)呂頻「婦女真需要経期假嗎?」鳳凰網2009-6-30
(3)成都擬立法為婦女経期請假 専家力挺適当傾斜」『成都晩報』2009年6月30日、「経期放假,該不該立法保護?」『中国婦女報』2009年7月1日。
(4)劉明輝「特殊保護,以消除職業危険為出発点」『中国婦女報』2009年7月2日。
(5)呂頻「婦女真需要経期假嗎?」鳳凰網2009-6-30
(6)呂頻「多少婦女需要不需要経期假」朝陽路上2009-7-1
(7)劉明輝さんも、『女性労動和社会保障権利研究』(中国労動社会保障出版社 2005年)16-17,26頁などでこの問題を指摘しています。
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ウィングス京都裁判で元嘱託職員の控訴棄却

 京都市男女共同参画センター(ウィングス京都)の元嘱託職員の伊藤真理子さんが、一般職員との2倍もの賃金差別を訴えていた裁判(一審は原告敗訴)の控訴審の判決が、7月16日、大阪高裁でありましたので、傍聴に行ってきました。

 判決は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする」というものでした。この裁判は、正規職員と非正規職員との差別是正を求める裁判であっただけに、無念に思いました。

 今回の控訴棄却について、私は、今日、インターネット新聞JANJANに記事を書きましたので、よろしければ、ご覧ください(「ウィングス京都裁判、高裁で控訴棄却――非正規職員への賃金差別を『特化された業務』として容認」[タイトルはJANJANの編集部が付けたものです])。

 伊藤真理子さんは、最高裁に上告なさいました。伊藤さんのブログには、判決、それに対する伊藤さんご自身の抗議文、裁判での双方の書面などが掲載されていますので、これもぜひご覧ください。
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台湾のジェンダー平等教育法公布5周年目に民間団体が現状を検証

 2004年の6月23日、台湾で「ジェンダー平等教育法(性別平等教育法その英訳立法説明[いずれもワードファイル])」(1)が公布されました。その5周年に当たる今年の6月24日、同法の制定に尽力した台湾性別平等教育協会台湾女性学学会(女学会)台湾同志諮詢熱綫協会婦女新知基金会台北市女性権益促進会の5団体が、共同で記者会見をおこない、同法の施行状況を点検した結果を発表しました。その大まかな内容を紹介します(正確には原文をご覧ください(2))。

 上の5団体も、ジェンダー平等教育法ができたことによって、妊娠した学生の権益保護、セクハラの訴えや調査、大学のジェンダー課程の増加などの面で成果があったことは喜んでいます。けれども、同法の理念と台湾の教育の現状との間にはまだ大きな落差があることを示すために、以下のような統計を示しました。

○校長の女性比率
・小学校 教員68.51%→校長27.20%
・中学校 教員67.76%→校長28.38%
・高校  教員60.01%→校長19.31%
・職業高 教員51.05%→校長10.90%
・大学  教員34.34%→学長 8.64%(大学・学院・専科の3つを含む)
 (日本とは学制が違うので[Wikipedia「台湾の教育」]、一概に比較できませんが、日本よりは、教員・校長ともに、女性比率は高いです……日本:「本務教員総数に占める女性の割合(初等中等教育,高等教育)」『男女共同参画白書(平成20年版)』)

○高級職業学校(職業高校)の学生の男女比
・農業……男:47.4%、女:52.6%
・工業……男:84.7%、女:12.6%
・商業……男:38.1%、女:61.9%
・家事……男:10.0%、女:90.0%

○高校の教科書の文の中では、多元的性別(同性愛者、トランスジェンダー、多元的家庭)は、ごく少ない比率しか占めておらず、教科書によってはまったく言及していない。

 次に、以下の9つのテーマについて報告がなされました。

①制服
 昨年10月、教育部は、女子学生に対する(特に夏季の)スカートの強制は、ジェンダー平等教育法の精神の合致しないと述べて、改めるように指示した(本ブログの記事参照)。しかし、ここ数カ月、すでに夏季になったが、民間団体には、多くの学生から「スカート以外の選択肢がない」という訴えが寄せられている。

②ジェンダーによるいじめ(性別覇凌)
 ジェンダーによるいじめ(女っぽくて繊細な男性、男っぽくて勇ましい女性、トランスジェンダーの学生などに対するいじめ)は、ジェンダー平等教育法によっても変わっていない(例:「学生被譏『娘炮』欲軽生,師冷漠」『蘋果日報』2009年4月29日)。(3)
 生物学的性別によって規定された制服(男が青で、女がピンク)、教師が教育の場で伝達するジェンダーステロタイプ(女子は女らしく、男子は泣いてはいけない)、誰もが異性愛者であるというジェンダーブラインドネスが、多元的な性別の展開を妨げ続けている。その最大の被害者は、男女の二分法を越えた学生である。大多数の学生たちは、ジェンダーの多元性を尊重することを学ぶ機会がないので、彼らに言語的・身体的な暴力をふるっている。

③セクシュアルハラスメント
 ジェンダー平等教育法は、学校はセクハラ防止の準則を制定しなければならないこと(20条)や学校でセクハラ事件があった場合、通報したり、設置したジェンダー平等教育委員会によって調査・処理したりすべきこと(21条)を規定している。
 しかし、学校の中では、インターネットの利用が広がるにつれ、加害者がネット上で、被害者に対して「公用車、いつでも(公車、随便)」「乱れた女(爛女人)」などの悪口を言うといったセクハラも広がっている。けれど、調査や処分をしていない学校がある。
 また、学校は教育が本質であり、ジェンダー平等教育法25条は、学校は、加害者に対して、被害者にお詫びさせる、8時間のジェンダー平等関係の課程を受けさせるなどの処置をすることを規定している。しかし、ある学校は、セクシュアルハラスメントの処罰は必ず「過失として記録する(過記)」という処分でなければならないと誤解しており、教育的な意義を弱めているだけでなく、通報・調査などに消極的になっている。

④性教育
 性教育の専門的訓練を受けていない教師が担当したり、教材や教案などが見当たらないために、女子学生が身体の自主権を保護できない情況を招いている。

⑤同性愛
 性的指向にかかわらず、少なくとも30%の人は小学生のときに初恋をする。しかし、小学校では同性愛情報がまったく封殺されているために、同性愛者の生徒にとってはモデルがなく、社会のあらゆるところで同性愛は汚名を着せられている中で、彼らは成長に困惑する。

⑥大学のジェンダー課程
 全体的には各大学のジェンダー関連の課程は増加しているが、その分布にはかなり不均衡がある。若干の国立大学では15─20にも達してしているが、一般の大学、私立大学、技術系では、ふつう1─2しかない。

⑦高等教育
 ジェンダー研究に関しては、修士クラスはあるが、博士クラスはまだない。過去数年、多くの大学が設置を申請したが、まだ通過していない。ジェンダー研究は新興の領域であり、教育部が具体的な特別措置をとって発展を援助するべきである。

⑧移民女性の多元的文化(この項目は発言稿が詳しいので、長くなりました)
 台湾には、2008年2月の時点で、外国籍の配偶者(大陸の配偶者を含む)が計40万1623人おり,その大多数の女性である。こうした新移民(4)について、大部分の教材は、新移民とその子どもを教育することにだけ焦点を当てていて、国際結婚の家庭は「補導」し「助力」すべき多くの「問題」に満ちているという先入観を持っており、台湾の民衆がいかにしてステロタイプなイメージを打破すべきなのかについては、少ししか言及していない。要するに「新移民には問題があるから、教育が必要だ」ということにとどまってる。けれど、実際は、彼女たちも大多数は母国で教育を受けており、彼女たちに必要なのは、中国語を学んで、現地の生活に適応することだけだということを認識すべきである。

 教材には、新移民の家庭について、「父親は結婚相手を見つけられないから、外国籍の配偶者を求め、母親は経済のために嫁いできた」というふうに書かれている。しかし、国際結婚で生まれた子どもが、このような父母を辱めている教材で学習することは耐えがたいだろう。

 新移民の女性は、社会的な注目を集めて以来、「助力される者」として見られてきた。教材にもそのように書かれている。しかし、教科書の教育対象はすべての未来の台湾公民なのだから、政府が新移民に対して配慮していることや新移民が台湾の風土や民情を学ぶことだけでなく、台湾が、新移民やその母国に対する理解を深めることも強調しなければ、多元的とは言えない。

 まして新移民の女性は、台湾に来て以後、子どもを産み育て、一家の衣食住のケアをしており、しばしば夫家の家業を担うなどして一家の経済も支えてきた。新移民の女性は、台湾の多くの家族の「無償労働者」である。政府の福利制度が貧弱なために、下層の家庭は、やむなく結婚によって嫁を労働力にしている。

 真の社会問題は、政府がケアの仕事を私領域化して、女性に担わせていることである。社会構造におけるこうしたジェンダー抑圧や民族差別こそを正視すべきである。私たちは、「国際結婚」自体は個人と家族の選択として尊重しなければならず、彼らを社会問題の根源であるかのように言ってはいけない。

⑨スポーツ
 学生のスポーツ参加、選手のリソース、試合の機会、スポーツのモデル(教師、コーチなど)の各面で重大な性別の偏りが見られ、その結果、男女の運動能力についてのステロタイプなイメージが強化されるという悪循環が生じている。
 ・小学校から大学に至るまで、学校のチーム(校隊)の男女比は、男性が女性よりも30%以上多い(女性が占める比率は、小学校で39%、中学校で34%、高校で32%、大学で34%)。
 ・そのため、国光賞金(5)も、男子学生が57%を獲得し、女子学生は43%しか獲得していない。とくにコーチに関しては、男性コーチが83%の賞金を獲得している。
 ・専任の体育教師は、小学校を除いて、男性が女性より30~50%多い(女性の体育教師の比率は、小学校53.42%、中学校36.18%、高校33.07%、大学27.74%)。
 ・学校のスポーツのコーチの男女比は、小学校から大学まで、男性が女性よりも50%以上多い(女性コーチの比率は、小学校23.18%、中学校26.85%、高校23.85%、大学23.14%)。

(1)台湾女性史入門編纂委員会編『台湾女性史入門』(人文書院 2008年)のⅡ-7「ジェンダー・イクォリティ教育法」も参照してください。
(2)性別教育戳戳不樂!?──性別平等教育法五週年總體檢」婦女新知基金會部落格(2009年6月25日)←各項目の発言稿も添付されています、「性別教育戳戳不樂!?──性別平等教育法五週年總體檢」台湾性別平等教育協会HPなど。
(3)『台湾女性史入門』の「ジェンダー・イクォリティ教育法」についての説明(邱淑芬著、横山政子訳)にも、同法の制定のときに、「屏東県の高樹国民中学の生徒でもある葉永君が学校のトイレで死亡するという事件が発生した。彼は女性的な一面を持つ男子生徒で、長期間にわたって他の生徒からいじめを受けていた。事件の真相がどこにあったかはさておき、彼の死は性同一障害の生徒を尊重し、その学習環境を保障しなければならないことを研究計画グループに知らしめた。これにより法律の名称も『両性(両性)』を改め『性別(ジェンダー)』へと変更されることになったのである」(52-53頁)と書かれています。
(4)2007年に台湾に帰化した外国人の比率は、ベトナム女性76.4%、インドネシア12%、カンボジア7.7%とのことです。詳しくは、台湾女性史入門編纂委員会編『台湾女性史入門』(人文書院 2008年)のⅠ-8「国際結婚と新移民女性」、Ⅱ-8「新移民女性と教育」の項目など参照。
(5)國光體育獎章及獎助學金頒發辦法」という法規により、各種のスポーツ大会での優勝者や成績優秀者に支給されるもののようです。
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台湾:売買春の「専区」を設置する方針と人権・女性団体

売買春を非処罰にする「専区」を設置する方針

 台湾の社会秩序維持法(社會秩序維護法)の第80条第1項は、売春を罰することを定めています(買春は罰しない)。近年、人権団体から、売春の非処罰化を求める動きが高まり、この条項を廃止するか否かが問題になってきました。

 6月12日、台湾の内政部は、この問題を話し合うために同月下旬に開催される「行政院人権保障推進小組会議」を前にして、「性の取引は禁絶することはできないので、『専区』を設置して、『専区』内では、売春・買春・業者いずれも処罰しない(『専区』の外ではいずれも処罰する)」という方向の報告を提出しました。(1)

 この報告に対する女性団体・人権団体の対応は、2つに分かれました。

「セックスワーク労働権保障連盟」――まず社会秩序維持法を改正せよ

 日日春関懐互助協会[日日春](Collective Of Sex Workers And Supporters[COSWAS])台湾性別人権協会(Gender/Sexuality Rights Association Taiwan)台湾同志諮詢熱綫協会工作傷害受害人協会愛滋感染者権益促進会国立中央大学性/別研究室風信子精神障礙者権益促進協会、基隆市失業労工保護協会、柳春春劇社劇団角落関懐協会台北県慈芳関懐中心人民火大行動聯盟の12団体は、「セックスワーク労働権保障連盟(保障性工作勞動權聯盟)」を結成しました。

 6月12日、上記の内政部の報告が出されると、「セックスワーク労働権保障連盟」は、「セックスワーカーの運動の10年の奮戦によって、ついに今日、内政部は性取引政策について原則的な態度を表明した」と述べて、いちおうは歓迎の意を表明しました。

 ただし、1997年9月に陳水扁台北市長が「廃娼政策」を打ち出して以降、台湾当局が日日春などのセックスワーカーの運動に対してなかなか応えてこなかったという歴史がありますので、「セックスワーク労働権保障連盟」は、だいたい以下のような要求や疑問を出しました。

 一、2年以内に、社会秩序維持法の改正と関連する計画を完成させることを要求する。
 二、「専区内では売買春を罰せず、専区の外では売春・買春ともに罰する」というのは、セックスワーカーにとっては、最も理想的な政策だとは言えない。専区で仕事をする条件がない者は、「非法だ」ということで取り締まるのか?
 三、内政部は「売春を助ける行為」の取り締まりは強化するとしているが、多くの疑問がある。セックスワーカーが働くためには、他の仕事も必要である。もし性取引における搾取を心配しているのであれば、セックスワーカーの自己決定権こそが重要である。(2)

 「セックスワーク労働権保障連盟」は、スローガンとしては「法改正の時間表を示せ」、「まず社会秩序維持法を改正せよ」といったことを掲げました。

「反性搾取連盟」――業者は厳罰に。買春を罰し、売春は罰するな

 一方、勵馨社会福利福利事業基金会台北市婦女救援社会福利事業基金会(婦援会)台湾終止童妓協会(ECPAT Taiwan)台湾女人連線基督教門諾会花蓮善牧中心中華民国基督教女青年会協会台北市晩晴婦女協会台北市女性権益促進会、中華恩加楽国際善工協会、愛慈基金会台湾少年権益与福利促進聯盟基督教台湾信義会基督教愛盟家庭文教基金会の14団体は、「反性搾取連盟(反性剥削聯盟)」を結成しました。

 「反性搾取連盟」は、「紅灯区の設置に反対する」、「搾取者を厳罰にせよ。買春を罰し、売春は罰するな」というスローガンを掲げました。

 彼女たちの考えは以下のようなものです。
 ・セックス産業の従事者の大多数は女性であり、稼いだ金の大部分は、人身売買の商人やポン引き、業者の手中に入るのだから、女性に対する搾取である。全面的な合法化は、搾取をいっそう拡大する。
 ・人身売買は、セックス産業と切り離せない問題である。もしセックスワークの第三者を処罰しないならば、今年6月に施行されたトラフィッキング防止法(人口販運防制法)の立法の精神にも反する。
 ・オランダはセックスワークを合法化したが、セックスワーカーの奴隷的境遇は変わっておらず、人身売買の温床になっている。そのため、オランダもセックス産業の専区を縮小しはじめた。一方、スウェーデンでは、売春を処罰せずに、買春を処罰し、業者を厳罰にする規定を設けたことにより、性取引に従事する人は減り、トラフィッキングの被害者の女性も減った。

 「反性搾取連盟」は、具体的には以下の点を主張しています。
 一、私たちは、性取引が職業であること、ましてセックス「産業」であることには反対である。
 二、私たちは、政府に、性取引関係のあらゆる公然とした客引きの情報と行為を厳禁するように要求する。
 三、私たちは、性取引の中から利を得る第三者は処罰されなけばならず、そうしてこそ、いかなる形態の性搾取行為も途絶できると主張する。
 四、私たちは、性を売る者の多くは経済的窮乏のために性取引に従事していることを理解しているので、性を売る者は処罰しないことを主張する。
 五、私たちは、買春客に補導課程を受けさせて罰金を払わせ、課程の関係費用は買春客に支払わせること、課程を受けることを拒否する者は罰金の金額を増やすべきことを主張する。
 六、政府は、女性のための福祉および就業政策を出して、女性が窮乏状況の下で性取引に従事することを選択しないようにさせなければならない。
 七、政府はジェンダー平等教育と人権教育の現在の成果を再検討し、具体的な改善措置を提出しなければならない。(3)

「売春を罰しない」か否かを焦点に

 以上のとおり、「セックスワーク労働権保障連盟」と「反性搾取連盟」とでは、その主張に大きな違いがあります(4)。けれど、両者の間には、売春を処罰しないという共通点もあります。実際、ここ2年間に内政部が招集した会議でも、民間の女性団体などは「売春を処罰しない」という点では一致してきました。

 ですから、「セックスワーク労働権保障連盟」は、「民間では売春婦を処罰しないという意見は既にコンセンサスになっている」ことを強調し、それにもかかわず、内政部が社会秩序維持法第80条を維持したままに、「専区」という特例を作るやり方をしていることを批判しました。

 具体的には、「セックスワーク労働権保障連盟」は、以下のような要求をしました。
 一、社会秩序維持法第80条を廃止するか否かを明確にせよ。
 ニ、営業地点や場所などの問題に関しては、まず社会秩序維持法で売春を罰しないという立場を明確にした上で、具体的な規則を作ること。

 また、「売春を処罰しない」という1点で、「反性搾取連盟」にも共闘を呼びかけました。(5)

行政院院長の裁定――セックスワークの非犯罪化・非処罰化の方向は示す

 6月24日、行政院の人権保障推進小組は会議を開いて、院長の劉玄兆は次のような裁定を示しました(一部省略)。
 1.原則的に、セックスワークは非犯罪化・非処罰化の方向である。
 2.内政部は6カ月を目標に、できるだけ速やかにセックスワーク関連の管理法令と関係措置を提出し、セックスワーカーの意見を組み入れて、再度社会秩序維持法第80条第1項第1款を研修(?)する。
 3.内政部は、法改正以前に可能なことを推進する(セックスワーカーの職業訓練や転職の配慮、「警察は社会秩序維持法第80条第1項違反事件の取締りは、成績の点数に入れない」という原則を堅持する、性取引の助長行為や人身売買の取り締まりを強化するなど)(6)

 この裁定に対して、セックスワーク労働権保障連盟は、だいたい次のような表明をしました。
 一、劉院長は「セックスワークの非処罰化」の方向を示したが、社会秩序維持法第80条に賛成か否かを明確にしていない。もしも社会秩序維持法第80条を維持したまま、特に許可するという制度にするならば、真に非処罰化はできない。
 ニ、私たちは、セックスワーク非犯罪化の方向の下に、関連する管理法令と関係措置を立案し、セックスワーカーの声を重視することには賛成である。さまざまな規模の都市の、さまざまな形態のセックスワーカーの意見を尊重すべきである。
 三、「警察は社会秩序維持法第80条第1項違反事件の取締りは、成績の点数に入れない」という政策は1月1日からおこなわれているが、一部の地方では守られていない。もしセックスワーカーに対して付近の住民から意見があれば、地方の政府は、セックスワーカーと地域の住民との対話や交流の場を作り、お互いに協調できるようにすべきである。(7)

 「反性搾取連盟」に結集したような女性団体は、やはり「専区」を設けることには反対です。

 また、婦女新知基金会は、6月30日、声明を発表し、売春・買春ともに罰するべきできないこと、セックスワーカーの労働権益こそが問題の核心であって、政府がセックスワーカーの権益を守る措置を取るとともに、セックスワーカー自身に労働合作社を組織させて、自主経営をさせ、利益を分配させることを提案しました(8)

 なお、一般の人々の意識は、『中国時報』の調査では、以下のようでした。
 ・セックスワークの非犯罪化について――賛成42%、反対39%(男性は賛成50%、反対32%。女性は賛成35%、反対46%)。
 ・「専区」の設置について――賛成57%、反対32%(男性は賛成61%、反対28%。女性は賛成52%、反対35%)。
 ・自分の県や市に「専区」を設けることについて――賛成39%、反対52%(男性は賛成48%、反対42%。女性は賛成29%、反対61%)。
 また、県・市長の大多数は、セックスワークの「専区」を設けることに反対です。(9)

 この問題に関しては報道が大変多く、また、これまでの論争の歴史もあるので、以上のまとめでは大変不十分ですが、今回の議論は、だいたいのところはこんな感じです。

(1)メディアの報道は、「政府擬設紅燈區 娼嫖都不罰」(2009/06/12)として、台湾性別人権協会のHPに収録されています。「社會秩序維護法第80條第1項第1款是否廢除 行政院人權保障推動小組第15次會議將討論」(中央社2009/06/13)も参照。
(2)抗議内政部新聞稿」(2009/6/12)日日春關懷互助協会HP
(3)反性剥削聯盟:厳懲剥削者! 罰嫖不罰娼!」(2009/6/15)台湾女人連線HP、「反性剥削聯盟 拒政府設紅燈區」『立報』2009年6月14日、研発部「我們反對性產業」勵馨社会福利福利事業基金会HPなど。
(4)6月15日には、両者が行政院の前でデモンストレーションをおこない、トラブルが起きたりしました(「公娼跪嗆婦團:妳們算什麼 婦團掉頭離去」『蘋果日報』2009年6月16日、「反性剝削聯盟 訴求:反對紅燈區」『台灣醒報』2009年6月16日←写真、ビデオあり)。
(5)不罰娼已是共識! 請官方先表明是否支持『不罰娼』? 再談性交易配套!」(2009/6/15)移民工資料庫、「民間十年有共識,娼妓不罰用人權!」(2009/06/15)移民工資料庫、「各界代表共同抗議内政部用専區説掩蓋『継続罰娼』!」(2009/6/18)移民工資料庫。メディアの報道は、「日日春赴内政部陳情 要求不罰娼」(2009/06/19)として、台湾性別人権協会のHPに収録されています。
(6)行政院研究發展考核委員會新聞稿:台灣人權大歩歩接軌國際」行政院研究發展考核委員會98年[←中華民国暦です]6月24日。
(7)保障性工作勞動權聯盟 第二波新聞稿」(2009.6.24)移民工資料庫。
(8)婦女新知基金會針對『性工作議題』聲明稿 我們主張娼嫖皆不罰 性產業應以勞動權益為核心」(2009年6月30日)[婦女新知基金會 部落格──【婦女新知】後花園]
(9)「五成賛成色情専区 但別在我家」『中国時報』2009-06-24(この記事を含めて同日の報道については、「性工作者擬除罪化 日日春:應具體廢罰則」として、台湾性別人権協会のHPに収録)

*この問題に関する歴史的経緯については、黄齡萱「台湾女性運動の軌跡――売春児童保護運動から『妓権』労働運動へ――」(PDFファイル)『技術マネジメント研究』6号(2007年)9-20頁、黄齡萱「現代台湾における女性運動の動向――『性権派』と『婦権派』の対立を中心に――」『ジェンダー史学』4号(2007年)87-93頁を参照してください。
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中央党校女性研究センターが父親の育休を提案

 6月18日、中共中央党校女性研究センターが理論シンポジウムを開催して、「男性の有給の看護休暇または産休を、公民の権利・義務として、まもなく制定される『社会保険法』の中に入れるべきである」という提案をしました(1)(*ここで「看護休暇(護理假)」「産休(産假)」と呼ばれているものは、日本の制度では、「育休」の範疇に入ると思うので、記事のタイトルは「育休」にしましたが、本文では、原文のまま表記します。また、「護理」は、「看護」と訳すよりも、「世話」とか「ケア」とか訳した方がいい感じもしますが、一応「看護」と訳してみました)。

 これに先立って、中央党校女性研究センターは、北京・西安・鄭州・南京・揚州などの土地で850人の労働者(そのうち男性が59.1%)にアンケート調査をおこないました。

 その結果、「産休を取るのは男性の権利である」という意見について、「非常に同意する」人が60.7%で、「基本的に同意する」人が31.4%であり、92.1%の人が賛成しました。また、89.4%の男性が、男性の看護休暇の制定に賛成でした。賛成する理由は、「生育[日本語で言えば出産と育児]は夫婦双方の共同の責任だから」(81.8%)、「産婦と新生児は特に世話が必要だから」(71.2%)などでした。

 けれど、現在、産婦や新生児の世話は、夫が休暇を取ってやっている場合は18.5%にすぎず、父母の世代が担っている場合が64.1%でした。夫に休暇を取らない理由を尋ねると、「仕事が忙しすぎて、手が放せない」(66.5%)、「競争が激しくて、ポストを失うのが怖い」(43%)、「休むと経済的損失が大きい」(36%)などでした。

 中央党校女性研究センター副主任の李慧英さんは、「現在、国際社会が、両性が共同で生育の仕事を担うことを促進するための一つの重要な措置は、法律の形式で、男性が生育の仕事に参与するように要求・奨励することである」と言って、女性差別撤廃条約やILO156号条約(家族的責任を有する労働者条約)[中国は未批准]を挙げ、現在すでに36カ国が、男性の看護休暇または父親休暇を定めていることを指摘しています(2)

 中国でも、2001年に制定された「中華人民共和国人口と計画生育法」(全文[中国語])には、「公民には生育の権利があり、法に基づいて計画生育を実行する義務もあり、夫婦の双方に計画生育を実行する共同の責任がある」(第17条)と書かれています。また、同法を施行する際に各地で定められた地方性法規・政策のうち、26の省・市・自治区の法規・政策が、有給の男性の看護休暇(大部分の地区では「男方護理假」と称し、少数の地区では「配偶護理假」などの名称)を規定しています。期間は、一般に5~15日で、7日と10日が比較的多く、上海市が3日で最も短く、河南省が1カ月で最も長くなっています(3)

 ただし、休暇を付与する前提条件として、夫婦とも晩産で、一人っ子であることなどを定めています。ですから、こうした規定は、「計画生育の付帯的な政策であり、独立性を有しておらず、両性が平等に家庭責任を負うという理念を体現した立法の選択とはいえない」(李慧英)ものです。

 それゆえ、「社会保険法」において、独立した男性の看護休暇(父親休暇)を規定する必要があるわけです。

 このシンポジウムで、李明舜さん(中華女子学院教授、副院長)は、男性の産休制度に必要な理念として、以下のような点を強調しました。
 ・生育は男女両方のことだから、父親の産休は、権利であるだけでなく、責任でもある。
 ・それゆえ、父親が休暇を取ることを自由意志だけにまかせてはならず、義務にもする必要がある。
 ・父親の産休を国家として確認するにとどまらず、(それが侵害された場合の)救済のメカニズムが必要である(4)

 父親の産休に関しては、すでに昨年、浙江工業大学財貿管理学院院長の程恵芳さんが提案し、今年も上海市婦連が提案していますが(本ブログの記事)、今回、中央党校女性研究センターも提案したことによって、ますます声が広がったと思います。

 なお、中国の場合、現在の地方性法規で与えられる休暇日数は比較的短いですし、提案の際も、父親の「産休」という表現がよく使われていて、期間も、程恵芳さんの提案では7~15日、上海市婦連の提案では10日と比較的短いものでした。今回の中央党校女性研究センターの提案は日数を明記していませんが、こうした点は中国社会のあり方と関係があるのかもしれません。

 それから、今回の中央党校女性研究センターの男性の産休の提案については、インターネット上(人民網、新華網、鳳凰網など)でも、調査・投票がおこなわれました。

 その結果、90%以上の人が支持を表明しました。

 ただし、一部の人は、「いったん法律に書き込まれたら、父親の産休は、おそらく政府の機関や事業単位の職員だけのものになるだろう。私営企業では、女性の産休さえ、量・質とも充分実現していないのだから、男性の産休は論外である。普通の農民労働者は、正月休みや祝・休日さえ保証する手立てがないのに、産休は問題外だ」と述べています(5)

 もちろん、だからといって、男性の産休が必要でないということにはならないでしょうが、格差社会における提案や運動の困難を感じます。

 日本では、今国会で成立した育児・介護休業法改正案に、父親の育休取得を促進する措置が盛り込まれていますが(6)、やはり非正規で働く労働者にはほとんど恩恵がないということが指摘されています(7)

(1)王玉橋「中央党校婦女研究中心召開理論研討会 建議在《社会保障法》中設立男性生育護理假(父親假)」(2009-6-20)社会性別与公共政策HP、「男性休産假立法応早行」『中国婦女報』2009年6月23日、「男性護理假(父親假)的研討会召開」(2009-6-19)中国広播網。
(2)李慧英さんは、「国外生育保険与父母假」(『中国婦女報』2009年6月23日)で、以下のように国外の情況を紹介しています。
 ・「生(出産)」面と「育(育児)」面の両方の制度があり、「生」に関しては、女性の産休と同じ時期の2~3カ月の間の休暇、「育」は、養育のための休暇である。
 ・個人の選択を重視する政策では、「男は外を主とし、女は内を主とする」という性別分業の下では効果が低いので、各国は、父親だけが取れる休暇を設けたり、父親が休暇を取ることを奨励したり、宣伝を強めるなどの試みをしている。
(3)譲男人産假来得更猛烈些吧」(2009-6-22)(社会性別与労動権益HP)に各地の規定が紹介してあります。
(4)李明舜「関于男性帯薪産假立法的幾個問題」(2009-6-21)社会性別与公共政策HP、李明舜「男性帯薪休産假 権利還是責任」『中国婦女報』2009年6月23日。
(5)王玉橋「男性該不該休産假?」(2009-6-20)社会性別与公共政策HP
(6)働くナビ:パパが育児休業を取りやすくするには」『毎日新聞』2009年5月25日。
(7)猪熊弘子「育児・介護休業法改正案で何が変わる? (3)非正規で働く人も救って!」all about妊娠・出産・育児2009年6月15日。
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台湾女性研究7月論壇

 関西中国女性史研究会では、以下の日程で、「台湾女性研究7月論壇(フォーラム)」をおこないます。ご関心のある方はおいでください。

日時:2009年7月26日(日)14:00~17:30(受付13:30~)
会場:関西学院大学梅田キャンパス「アプローズタワー」14階。(阪急梅田茶屋町口から北へすぐ、ホテル阪急インターナショナルや梅田芸術劇場が入っているビル)[地図] TEL 06-6485-5611

報告:「台湾婦女運動歴程」
講師:范情(台湾東海大学非常勤講師)
 解説・コメンテーター:竹内理樺(同志社大学言語文化教育研究センター専任講師)
 14:00-15:30 報告
 15:30-16:00 休息
 16:00-17:30 コメント・討論
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鄧玉嬌事件の判決をめぐって

判決の内容

 6月16日、湖北省巴東県法院は、鄧玉嬌事件(この事件について本ブログの記事)の判決を下しました。その内容は、「鄧玉嬌の行為は過剰防衛であり、故意傷害罪になる。けれど、自首という情状があり、監察医によると、鄧玉嬌の刑事責任能力は一部、限定されているので、処罰を免除する」というものでした。鄧玉嬌さんは自由の身になりました。

インターネットや世論の力

 インターネット(新華網)の投票では、90%以上の人々が判決を支持しました(1)。鄧玉嬌さんが自由の身になったのは、鄧玉嬌さんに声援を送った「ネットの勝利」だという声も上がっています(2)

 新聞記事にも、「社会の世論が司法の公正さを推進した」と主張したものがありました。その記事は、「厳しい監督の下でこそ、司法は権力の介入を遮ることができるのであり、不断に進歩し、日々整備され、公正な方向に向かうのである」と指摘しています(3)

 けれど、今回は運よくインターネットやメディアの注目を集めたけれど、そうでない場合のことを考えると楽観できないとか、事件の中での警察の不審な動き(以前の本ブログの記事で少し触れました)については調査や追及がなされていないといったことを指摘する人もいます。その人は、「鄧玉嬌事件は、現在までのところ、コンマ、せいぜいのセミコロンを打ったとしかいえず、ピリオドを打つにはまだ遠い。社会全体の法治化と公平正義の実現は、たった今、小さな一歩を踏み出したにすぎない」と述べています(4)

 また、当然ながら、ネット世論の危うさ(専門的知識の乏しさなど)を戒める人もいます(5)

判決内容に関する疑問

 また、鄧玉嬌さんが自由の身になったことは喜びつつも、判決の内容については、批判する意見が少なくありません。

 判決は鄧玉嬌さんに対する「不法な侵害」は認めたのですが、華良さんという人は、「『不法な侵害』とは、結局のところ、女性に対する悪ふざけなのか、強姦未遂なのか」と問うています。鄧貴大と黄徳智らは、鄧玉嬌に「異性入浴」を要求して、鄧玉嬌を引っ張り、鄧玉嬌がそれを振り払って、断ると、鄧玉嬌について休憩室にまで入って行き、2人一緒になって口汚く罵り、顔や肩を手で打った。鄧玉嬌が休憩室から出ようとしたら、また引き戻し、もう一度鄧玉嬌が離れようとしたら、ソファーの上に押し倒した。鄧玉嬌が鄧貴大を両足で蹴って立ち上がったら、また力づくでソファーの上に押し倒した。「こうした連続した動作は、単に異性入浴を要求する行為なのか、それとも典型的な強姦行為なのか」と。

 華良さんは、裁判所は「強姦未遂を、あいまいな『不法な侵害』に変え、正当防衛を『過剰防衛』を変えた」のであり、「裁判所は、民意と権勢の間を揺れ動き、民意に配慮しつつも、権勢にも釈明をしたのだ」と述べています(6)
 
 もちろん、正当防衛か否かという件については、判決を擁護する法学者もおり、意見はさまざまです(7)。しかし、「四人組」や人権活動家の弁護にも携わってきて、「人権弁護士」として著名な張思之弁護士も、・女1人に対して男3人であること、・連続して暴力をふるっていること、・ナイフで護身しようとして、揉み合っているうちに不幸にして急所に刺さったことなどから見て、正当防衛だと主張し、判決を擁護する学者を批判しています(8)

 また、方貳さんという人は、「加害者の行為は『押した』とか『押さえた』というものであり、暴力の程度から見るとそれほど重大ではない。しかし、老若男女関係なしに同一の基準を適用してはいけない。鄧玉嬌は体重50kgにも満たない女性であり、刃物を使わなければ逃れる道はなかった」といった主張をしました。この主張は、「正当防衛」概念の中のジェンダー問題を指摘したと言えるかもしれません(9)

 また、鄧玉嬌さんは「処罰を免除された」といっても、前科が残ると今後の仕事などに不利な場合もあるから、控訴するべきだと考える弁護士もいました(10)(鄧玉嬌さん自身は、なにより自由の身になれたからでしょうか、判決を受諾していますが(11))。

官僚と民衆との階層的断裂

 先日の記事でも述べたように、鄧玉嬌さんは英雄視されました。その背景には、中国社会の階層の断裂があると多くの記事が指摘しています。

 たとえば、鄧聿文さんは、現在、政治・性・金銭の権力を持っている「官僚を代表とする権勢階層」と「底辺の民衆を主とする弱者層」との対立が「一触即発の形勢」になっていると述べています。そのため、多くの人が、鄧玉嬌を「暴力に抗した英雄」として捉え、死んだ公務員には同情しなかったのだと指摘しています。

 鄧聿文さんは次のように言います。「官民の対立が今日の状況にまで達したのは、社会の矛盾が不断に蓄積された必然的結果である。30年来、中国が経済建設を推進した過程では、けっして本当には政府とその官僚の権力を制約してこなかったし、本当には民衆に権力を与えてこなかった。そのため、民衆の各種権益は重大な侵害を受けてきた。とくに社会の底辺の弱者集団は、制度と構造の変遷の犠牲になり、改革と発展の成果を享受した集団の外に排除されて、沈黙した希望なき集団になっている。」「それゆえ、社会の断裂を埋め、悪化した官と民との対立関係を修復するには、政治改革をすすめ、公民の政治的権利を人民に返さなければならない」。

 鄧聿文さんは中央党校の『学習時報』の仕事をしている人ですが、「政府の権力を規範化し、制約」しなければ「この社会はもっと多くの衝突が起きるかもしれない」と言います。鄧聿文さんが具体的に求めているのは、すでに発表されている国家人権行動計画(2009-2010)を「本当に実行」することであり、なにかラディカルなことを言っているわけではないのですが……(12)

 また、畢詩成さんは、今後は、以上で述べたような「官と民の間の溝」のほかに、公衆の司法に対する不信感という「公衆と司法の間の溝」なども解消しなければならないことを指摘しています(13)

 また、もちろん判決の後も、具体的なジェンダー問題について注目した記事も出ています。ある記事は、「異性入浴」のようなことを提供する場所は中国に少なくとも1万か所あると推測し、鄧玉嬌のような女性だけでなく、実際にセックスサービスをしている女性の権益はどうなっているかや、そうした仕事を辞めようとした場合、いかほどの選択肢があるかを問うています。そして、台湾ではセックスワーカーが公然と自らの権益をアピールしているのに、我々の地では、大多数の人は彼女たちに無関心で、まして実際の行動はしておらず、「平等で寛容な社会」への道は遠いと指摘しています(14)

 ただし、全国婦連や女性NGOが、なにか判決に対する声明を出す、というようなことはしないようです。

(1)九成網友支持鄧玉嬌案判決」『新民晩報』2009年6月18日。
(2)たとえば、「鄧玉嬌案:網民的勝利!」21CN社区2009-6-16。もっともこの記事は、判決を全面的に肯定しているわけではありませんが、喬志峰「鄧玉嬌案的“勝利”譲人感到幾分沈重」(鳳凰網2009-6-16)の中にも、「インターネット上には、長らくなかった喜び祝う気分があふれている。『中国は不断に進歩している』『法制史上の一里塚だ』『インターネットの力は偉大だ』」という記述があります。
(3)薛世君「鄧玉嬌案:民意助推司法公正」『南方日報』2009年6月18日。
(4)喬志峰「鄧玉嬌案的“勝利”譲人感到幾分沈重」鳳凰網2009-6-16。
(5)王琳「鄧玉嬌案中的網絡輿情反思」鳳凰網2009-6-17。
(6)華良「鄧玉嬌案,只有妥協没有公正」荊楚網2009年6月17日。また、馬天帥「鄧玉嬌免刑責結果正義大于程序正義」(四川新聞網2009-6-18)は、「裁判所の判決の事実認定がはっきりせず、判決の道理の説明が不明である。民意から言っても、公衆が求めたのは、単なる刑事責任の免除ではなく、公正で合理的な判決であった。」「もし民意が鄧玉嬌事件の判決の結果に満足しているとしたら、そのような満足は別の恐るべき結果をもたらしかねない。すなわち『司法の結果の正義は手続きの正義よりも大きい』という」。「手続きの正義が欠けているか、損なわれている前提の下では、結果の正義は意味がない。鄧玉嬌事件を例にすると、一見、鄧玉嬌が勝利したようだが、実際は彼女の勝利ははっきりせず、なお有罪の身である」と指摘しています。
(7)専家評析鄧玉嬌案」(『湖北日報』2009年6月18日)など。
(8)張思之「就鄧玉嬌案一審判決答《南華早報》」『南華早報』2009年6月22日。
(9)方貳「从鄧玉嬌案看婦女保護的悪」鳳凰網2009-6-17。
(10)律師建議鄧玉嬌上訴消除刑事案底」『第一財経日報』2009年6月17日。
(11)鄧玉嬌服刑」新華網2009-6-17。
(12)鄧聿文「中国官民対立中的権利訴求」聯合早報網2009-6-19。「是什麼導致了鄧玉嬌的悲劇」(『新京報』2009年6月18日)も中国社会の階層の断裂の問題に注目しています。
(13)畢詩成「鄧玉嬌案塵埃落定,社会隔膜尚待化解」鳳凰網2009-6-18
(14)你関心提供“異性洗浴服務”的她們嗎?」『南方日報』2009年6月17日。
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ファイトバックの会のHP掲載文書への反論を発表

 6月初め、私もその一員である「ファイトバックの会(館長雇止め・バックラッシュ裁判を支援する会)」のHPに、代表・副代表名で、同会の「(元)謝罪チーム」の人々らに対する不当な非難が掲載されました(「ネット上での当会に対する誹謗中傷について」)。「謝罪チーム」とは、同会のブログによって、事実に基づかない誹謗中傷を受けた桂さん(「すてっぷ」前館長)への謝罪をすすめるために同会が設けていたグループで、私もその一員でした。

 このたび、上の不当な非難に対する反論を、他の方々と共同して作成しましたので、よろしければご覧ください。

 反論の概要(反論のポイント)

 反論の詳細(個別論点に対する反論)

 なお、この問題に対する全体的な説明は、上の反論を掲載した同じサイトのトップページをご覧になってください。
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Author:遠山日出也
 検索から来られた方へ:このブログの記事を分類した一覧である「『中国女性・ジェンダーニュース+』記事総覧」を見ていただくか、下の「カテゴリー」欄を使われると、関連情報がご覧いただきやすいと思います。最近の行動派フェミニストについては、「中国の行動派フェミニスト年表、リンク集」をご覧ください。
 また、「中国女性・ジェンダー関係主要HPリスト」(リンク集)も併せてご覧いただければ幸いです。日本の問題の一部は、「ウィメンズ・アクション・ネットワーク(WAN)の労働争議・まとめ」や「館長雇止め・バックラッシュ裁判」でまとめています。
 恐れ入りますが、スパム対策などのため、コメントは私が拝見した後で表示させていただきます。
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