2009-03

海南島「慰安婦」訴訟高裁判決、台湾と中国の「慰安婦」サイト

 3月26日、海南島「慰安婦」裁判の高裁判決が出ました。残念ながら、またも原告敗訴でした。

 今回の判決については、「中国人戦争被害者の要求を支える会」のHPに弁護団の声明が出ています(判決全文[PDFファイル])。

 詳しくはその声明をご覧下さればいいのですが、今回の判決は、「本件被害女性らは、本件加害行為を受けた当時、14歳から19歳までの女性であったのであり、このような本件被害女性らに対し軍の力により威圧しあるいは脅迫して自己の性欲を満足させるために陵辱の限りを尽くした軍人らの本件加害行為は、極めて卑劣な行為であって、厳しい非難を受けるべきである。このような本件加害行為により本件被害女性らが受けた被害は誠に深刻であって、これが既に癒されたとか、償われたとかいうことができないことは本件の経緯から明らかである」と認定し、被害の質的側面ににおいてもPTSDはもとより「破局的体験後の持続的人格変化」も認定している――ということです。

 ただし、2007年4月の最高裁判決が「個人の賠償請求権は、日中共同声明により『裁判上訴求する権能』が放棄された」と判断したことを踏襲し、控訴を棄却したということのようです。

 この裁判を支援してこられたのはハイナンNETです。この裁判で原告(控訴人)側は、上記の最高裁判決にも負けずに頑張ってこられました。たとえば、控訴審で出された「準備書面」(3)(2007年9月21日、ワードファイル)は、最高裁判決に反論するとともに、「たとえ最高裁判決を前提としても、この事件はその解釈適用の範囲外にある」と主張しています。高裁判決が上のような事実を認定しているのも、原告(控訴人)側が、証人を立てて争ったからです(本ブログの記事「海南島裁判の原告の証言その他」など参照)。

 また、ハイナンNETのメンバー20代の女性5人は判決を前に、海南島の原告らを訪ねる活動もなさったそうです(「中国海南島 原告のアポ(おばあちゃん)訪ねて」『しんぶん赤旗』2009年3月23日)。

 弁護団の声明は、以下の点も指摘しています。

 「本判決は、最高裁判決と同様、個人の賠償請求権につき、その権利は実体的には消滅しないと判示した。これは個人の賠償請求権につき、裁判上訴求する機能のみが失われたとするものであり、個別具体的な請求権について、債務者側において任意の自発的な対応をすることは何ら妨げられないとを認めたものである。 」

 「この点、日本政府も、二国間条約で損害賠償問題は解決済みであるとの主張しながらも、『慰安婦』の問題について解決されていない問題があると認め、1993年、河野洋平官房長官の談話(以下「河野談話」という)において、被害者に対して事実を認め謝罪をし、適切な措置をとることを表明した。」

 「したがって、本判決で損害賠償請求権が裁判上訴求できないからといって問題が解決されたわけではなく、未だ河野談話の見地にたって解決されなければならないことにかわりはない」

 弁護団の声明は、内外の世論についても触れています(最近の日本国内の動きについては、プログ「Gazing at the Celestial Blue」さんの「福岡市議会が『慰安婦』問題に政府が誠実に対応するよう求める意見書を採択」という記事に詳しく書かれています)。

 それと関連して、昨年末から今年初めにかけて、台湾と中国で相次いで日本軍「慰安婦」のためのサイトが出来ていることをご紹介します。

台湾のサイト

 台湾では、今年初め、婦女救援基金会が、「阿嬤のサイト──慰安婦と女性の人権バーチャル博物館サイト(阿嬤的網站──慰安婦與女性人権虚擬博物館網站)」(阿嬤とは老婦人の敬称)を開設しました。

 このサイトには、慰安所の写真・規則、慰安婦の証言、オーラルヒストリー、慰安婦についての調査、報道などが収録されています(婦女救援基金会のサイトの中の「慰安婦」コーナーにも、ある程度のものは掲載されていますし、すでに英語版もあるという点では、そのコーナーの方が便利ではありますが)

 婦女救援基金会は、心身に傷を負った元「慰安婦」のケアための様々なワークショップをしており、カウンセリングのほか、元「慰安婦」の方にさまざまな芸術的な創作をしてもらったりしています。そうして制作された作品なども、このサイトに収録されています。私はそうした試みについては詳しくはわからないのですが、婦女救援基金会が元「慰安婦」一人一人を主体として尊重なさっている様子が伝わってきます。

 1月13日に上のサイトのオープンの式と記者会見がおこなわれたのですが、その場に来ていた台北市の文化局長の李永萍氏は、早ければ民国101年(2012年)にも、「慰安婦」のために、バーチャルでない「女性人権館」を設立することを表明しました(「『阿嬤的網站──慰安婦與女性人権虚擬博物館』網站開幕記者会」)。

 ただ、上のサイトの慰安婦問題の年表「慰安婦議題大事記(1972~2008)」を見ても、生存している元「慰安婦」の方(もちろん確認できている方々だけです)が、2005年には、30人いらっしゃったのが、2006年には、27人、2007年には、23人、2008年には、20人となっており、慰安婦問題の解決は「まったなし」だと感じます。

中国のサイト

 中国では、上海師範大学の中国「慰安婦」問題研究センターの蘇智良教授らが「中国『慰安婦』資料館(中国“慰安婦”資料館)」というサイトを昨年末に開設しました。こちらはまだあまり内容がありませんが、今後、さまざまなページを作成する予定のようです。

 中国の「慰安婦」資料館はすでに実物もあり、上海師範大学の一角に2007年7月に開館しました。私はまだ行ったことはありませんが、200平方メートルのスペースの中に280件の現物や写真が展示してあり、ソウルや東京のものと比べると規模は大きくないかもしれないとのことですが、独自の展示しているそうです(中国首家“慰安婦”資料館開館 免費対外開放」『青年報』2007年7月6日、「国内首家慰安婦資料館在上海対外開放」『東方早報』2007年7月6日←ともに写真入りの記事です)。現在は、毎週火・木・土の9:00~16:00が開館時間です。

 台湾のサイトも、中国のサイトも、今後、英語版や日本語版も作成して国際的にアピールしていくようです。

[3月29日追記]

 海南島事件の高裁判決に関しては、プログ「Gazing at the Celestial Blue」さんの「『海南島戦時性暴力被害賠償請求』高裁判決のメモ」という記事も、ぜひご参照ください。
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中華人民共和国の看護労働史

先日、私は中華人民共和国の看護労働について通史的に考察した論文を書きました。病院における看護師(護士)の労働問題について書いたものです。私の力不足のために、あまりきちんとした論文にはなっておらず恥ずかしいですが、この問題に関心のある方はよろしければご覧ください。

遠山日出也「中華人民共和国の看護労働に関する政策と実態(PDFファイル)」『立命館文学』第608号(2008年12月)
 《構成》
はじめに
一 第一次五カ年計画期の政策・イデオロギーと実態
 1 政策・イデオロギー
 2 看護労働の実態
二 スターリン批判後の改革の試みとその挫折
 1 改革の背景
 2 改革への動き
 3 「看護師工作の改善に関する指示」とその限界
 4 反右派闘争以後における逆行
三 改革開放期の政策と実態
 1 改革開放期の政策の前進面
 2 看護労働の実態
 3 改革開放後の政策の限界
四 「調和社会」めざす改革とその限界
 1 改革による変化
 2 改革の限界
おわりに

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長春市DV防止条例が未婚の同居、同性の関係も対象に

 「長春市家庭内暴力予防・制止条例」が3月1日に施行されましたが、長春市のこの条例は、「将来を展望した立法(前贍性立法)」であり、「伝統的な家族関係における家族の成員間の暴力的侵害を考慮しただけでなく、未来の我が市の家族関係の実際の発展方向を考慮して、未婚の同居、シングルペアレントファミリー[単親家庭]、シングルファミリー[単身家庭]、同性の家族[同性家庭]などの情況の下の被害者も保護の範囲に入れた」と報じられました(1)

 そのため、この条例は、「DVの範囲を拡大して、未婚の同居者を保護した」(2)とか、「同性の家族関係を入れた」(3)と言われています。

 けれど、条例の文言には、「本条例で言う家族成員は、配偶者・父母・子どもおよび、他の共同で生活している家族の成員を指す」(第2条)と書いてあるだけです(4)。実際、このことを報じた「愛白網」のコメント欄には、「共同で生活している家族の成員」とは、祖父母などのことを指ているという趣旨の書き込みもなされています(5)

 この点について調べてみると、長春市政府副秘書長で市政府の女性児童工作委員会副主任の盧福建さんが、条例の条文では「基本的に伝統的な家族観念にもとづく家族成員の範囲をカバーするようにした」けれども、将来を展望した立法であることを考えて、「この条例の調整の範囲については、伝統的な家族関係における家族の成員間の暴力的侵害を考慮しただけでなく、……未婚の同居、シングルペアレントファミリー、シングルファミリー、同性の家族などの情況の下の被害者を保護の範囲に入れた」と述べていることがわかりました(6)。私は「調整の範囲」という概念はよく知らないのですが、要するにそうした広義の家族関係も調整するということでしょうか? 今後に注目したいと思います。

(1)長春:未婚同居遭“家暴”法律也管」『長春日報』2009年3月4日。
(2)長春預防制止家庭暴力範囲拡大,保護未婚同居者」新民網2009-3-3。
(3)長春市預防和制止家庭暴力条例納入同性家庭関係」愛白網2009-03-06。
(4)《長春市預防和制止家庭暴力条例》
(5)(4)に同じ。
(6)長春未婚同居者等納入家庭暴力保護範囲」新華網吉林頻道2009-03-06。
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職場におけるセクハラの調査とセクハラ防止法の提案

 2月26日、「職場のセクシュアルハラスメント立法の調査研究」課題グループが、セクハラについての調査結果を報告する会を開催しました。また、この会では、同グループが起草した「職場のセクハラ防止法」についても、社会の各界からの意見を聞きました。この草案は、修正された後、全国人民代表大会に提案されます(1)

 中国の婦女権益保障法には、「女性に対するセクハラを禁止する」という規定があるのですが、このような簡単な規定だけでは不十分なので、今回のような調査や提案がなされたのです。

 上の課題グループは民間のものであり、王行娟(北京紅楓女性心理相談サービスセンター理事長)、王金玲(浙江社会科学院社会学研究所所長)、魯英(中山大学女性・ジェンダー研究センター元主任)の各氏らによって構成されています。

 民間からの提案なので、全人代に提出してもすぐ立法化されるわけではけっしてありません。しかし、今回ほどまとまった調査やきちんとした立法の提案は、従来なかったと思います(2)

 以下、そのごく一部を紹介してみます。

職場におけるセクハラの調査研究報告

 《工作場所性騒擾調査研究》報告(ワードファイル)

 2007年3月から2008年12月までの間に、北京・杭州・広州の3都市で、1500人に対してアンケート調査をおこないました。対象者の性別は、女性が61%、男性が39%でした。年齢は、35歳以下が67.29%でした。座談会や個別のインタビューもおこないました。その結果、たとえば、以下のような点が明らかになりました。

 ・3年以内にセクハラをされたことがある人が82.88%である(王行娟さんによると、比率が高いのは、調査対象者の中に、セクハラが多い職業[サービス業や娯楽産業]で働いている人が多いからだとのことである)。性別で見ると、女性は80.87%、男性は86.01%に経験があり、セクハラを「男性の女性に対する行為」としてのみ理解するのは間違っている。ただし、加害者は主に男性である。すなわち、女性が被害者の場合は、加害者は男性が88.7%であり、男性が被害者の場合でも、加害者は70%前後が男性である。

 ・セクハラの形式としては、猥褻なジョーク[黄色笑話](72.62%)、猥褻なショートメッセージ[黄色短信](12.30%)が多い。

 ・不快さや健康・仕事・生活への影響は、女性の方が深刻である。たとえば、心理的健康に対して影響があった人は、男性は39.85%だったのに対し、女性は57.62%であり、仕事に対して影響があった人は、男性は44.9%だったのに対し、女性は63.31%であった。

 ・セクハラの被害にあう比率が最も高かったのは、よその農村から来た人(91.32%)で、次いで当地の農村から来た人(87.75%)である。それらの人々に比べると、当地の市街地区の人(79.0%)、当地の町[鎮]の人(81.9%)は少ない。これは、都市と農村の差別の結果である。

 ・セクハラの発生と収入・学歴・婚姻状況とは目立った関連はない。セクハラは、比較的普遍的な現象である。

 ・セクハラに対して、女性の34.07%と男性の38.68%は反抗的な行動をしない。女性が行動しない理由は、「針小棒大に言っていると思われるのが怖い」(52.20%)、「むしろ自分のほうが積極的だったと思われるのが怖い」(8.4%)、「軽蔑されるのが怖い」(7.00%)、「行動しても無駄だ」(6.60%)である。

 ・女性の91%と男性の79%が、反セクハラのために立法が必要だと考えている。

 ・婦女権益保障法の中にセクハラを禁止する条項があることを、女性の39.40%と男性の35.84%が知らなかった。

 男性に対するセクハラが広範にあるという結果は興味深いです。ただ、「電話で下品な話をされた」は、女性38人、男性10人で、「無理やりキスまたは抱擁された」は、女性4人、男性1人であり、「いつも体を触られる」は、女性8人、男性4人であり、こうしたセクハラはやはり女性の方が多いです(対象者の総数が女性は男性の1.5倍なので、その分を割り引かなければなりませんが)。ただし、男性もこうしたセクハラをされる場合があることは見ておかなければなりません。

 また、都市と農村の差別の問題は中国特有でしょう。

職場のセクハラ防止法(建議稿)

 工作場所性騒擾防治法(建議稿)(ワードファイル)
 関于《工作場所性騒擾防治法(建議稿)的説明(ワードファイル)

 第1章「総則」では、セクハラの定義や、「予防に重点を置く」「すぐに制止する」「女性の被害者には特別な保護をするが、男性も保護する」「二次被害を防止する」などの基本原則が示されています。また、職場でのセクハラ防止のための専門機構を「人力資源と社会保障部(日本で言う厚労省)」に設立するという「政府の責任」にも触れています。

 第2章「人を雇う組織[単位]と雇い主の義務」では、セクハラ防止の制度の確立、従業員への研修、即時の処理、証拠の保全、訴えた者に対する差別禁止、被害者のサポートなどの義務を定めています。

 第3章「救助の措置」では、被害者は、警察・職場への訴え、調停の申請、訴訟の提起ができることのほか、被害者が職場の非協力などにより証拠を集められないときは、裁判所自らが証拠を集めるべきことも規定してあります。立証責任を被害者だけに負わせないことや、被害者へのカウンセリングや治療についても定めています。

 第4章「法律上の責任」では、加害者の民事責任と刑事責任のほか、使用者の民事賠償責任や国家の関係機関の職員の不作為責任も規定してあります。

 私はセクハラに関する法律問題は詳しくないのですが、行き届いたもののように思えます。

(1)向全国人大提交《工作場所性騒擾防治法》(建議稿)議案──工作場所性騒擾立法調研成果分享与研討会在京召開」北京紅楓婦女心理諮詢服務中心HP
(2)セクハラについての司法解釈(最高人民法院が出す、法律の解釈)については、すでに昨年、建議稿が、中国法学会DV反対ネットワークと中国社会科学院法学研究所ジェンダー・法律研究センターによって作成され、全人代にも提案されました。この建議稿には、セクハラの定義、賠償責任、人を雇う組織[単位]の責任、審理と執行の手続き、証拠などに関する詳細な規定があり、今回の立法の提案とも重なる部分があります(「性騒擾訴訟“立案難”、“取証難”、“賠償難”  代表委員呼吁出台性騒擾司法解釈」『中国婦女報』2008年3月25日、「《人民法院審理性騒擾案件若干規定》専家建議稿的説明」中国法学会反対家庭暴力網絡HP2009-2-6)。この建議稿に対して、昨年、最高人民法院は、「機が熟したときに、司法解釈を出す」という趣旨の返答をしています(「将性騒擾防治内容納入侵権法中」『中国婦女報』2009年2月27日←この記事の末尾に書いてあります)。
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学校内の性暴力――四川からの2つの訴えより

 昨年11月頃から、「四川の留守少女(父母が出稼ぎに行って農村に残された少女)の涙の訴え(一個四川留守女孩的哭訴)」という手紙が、あちこちのサイトの掲示板に掲載されています。

 その手紙は、父母が深圳に出稼ぎに行っている、四川省の中学2年の女子学生からのものです。彼女は、2006年10月以来、クラス担任にたびたび強姦されており、そのことを誰にも言えませんでした。しかし、そのことを書き付けていたメモ帳を親戚に見つかって、ことが発覚しました。他にも多くの被害者がいることがわかり、犯人の教師は裁判にかけられて、一審で2年、二審で1年半の判決を受けました。しかし、なぜかその刑は執行されていません。それは、犯人の教師やその家族が地方の有力者であることを利用して、罪を逃れようとしているからだとということです。

 その女子学生の一家は、深圳にある「春風ネットワーク(中国性侵害[犯]予防ネットワーク)(春風網(中国性侵害[犯]預防網))」に連絡を取って、助けを求めました。春風ネットのボランティアは彼女に会いに行くとともに、そのサイトの中に「留守女童不能承受的生命之痛」という特集ページを作成しました。

 春風ネットワークについては、以前、このブログでも取り上げたことがあります(深圳で強姦被害者への救援活動性侵害の被害者援助サイト「春風ネット」)。春風ネットは、最近は香港の「関注婦女性暴力協会」とも交流をおこなっていますが(1)、中国国内でもこうした組織が活動しているのは希望です。

 といっても、その女子学生は、今は父母が仕事をしている深圳にいるのですが、2年間、学校に行っていません。ボランティアが面会に行ったときも、何も語らず、心の傷は深い様子だったとのことです。

 この事件の場合は、地方における権力の問題も絡んでいるようですが、一般に留守女児(留守女童)はとくに性被害に遭いやすいことは広く指摘されています。その原因として指摘されているのは、以下の3点です。
 (1)とくに農村では、家庭でも学校でも、性に関する教育が立ち遅れている。そのため、女児が性に関する知識がなくて被害にあいやすいし、被害にあってもどうしていいかわからない。
 (2)保護者である父や母が、子どもを守る役割を果たせない。
 (3)農村、とくに辺鄙な山村は、犯罪者が隠れやすい。また、農村の留守女児は、野外で1人で労働(草刈り、牛・羊の放牧など)をしなければならないことが多い(2)

 上のケースは、もちろん教師による性暴力の問題でもあります。中国では、小中学校の教師による生徒の強姦事件がしばしば起きており、2003年には、『中国婦女報』も、学校での性侵犯に関する特集を組みました。その特集の中では、問題の背景として、以下のような点がが指摘されています
 ・性教育の立ち遅れによる学生の自己保護力の弱さ
 ・中国の「師を尊ぶ」伝統
 ・教師に対する評価が成績の向上だけになっていること
 ・教員採用のルーズさ
 ・学校が臭いものにふたをすること
 ・被害者に偏見の目が向けられてその学校に通いにくくなること
 ・学校にこうした問題を扱う制度がないこと(3)

 同じ2003年には、教育部・公安部・司法部も、教師の学生に対する性犯罪について通達を出しました。この通達は、学生に対する教師の性犯罪は、校長や教育行政部門に指導責任があること、学校の性犯罪の報告制度を設けるべきことなどを述べています。しかし、それ以上のことは具体的には書かれていないようです(4)

 また、最近、「徳盟ネット―中華全国反校内暴力と少女権益保護教育救助全国社団組織(徳盟網―中華全国校園反暴力与少女権益保護教育救助全国社団組織)」というHPが開設されました。そのHPには、2008年12月8日に「中華全国反校内暴力および女子学生権益保護教育救助ボランティア社団」が設立されたと書かれています(「中華全国校園反暴力及女生権益保護教育救助志願者社団宣布成立」)。これは、主に校内暴力(学生による暴力も含む)による女子学生の被害を扱うHPであり、社団のようです。

 この社団の実態はよくわかりませんが、上のHPには、同じ12月8日付けで、やはり四川省の被災地の大学生の「雪山飛狐」という人が書いた「敬愛する胡錦濤総書記、敬愛する温家宝総理、教育部および全国の各メディアへの公開状(「致敬愛的胡錦濤総書記温家宝総理教育部及全国各媒体一封公開信」)が掲載されています。

 その公開状は、最近、全国の学校で暴力事件や女子学生の権益が侵害される事件が増えていることや、そうした事件を婦連や規律監察部門に訴えても、それらの機構の職能などの関係で助けが得られないことを述べています。だから、党や政府に、校内暴力や女子学生の権益侵害を管轄する専門機構を設立してほしいと訴えています。それと同時に、汶川地震(四川省大地震)の時のように、ボランティア組織が社会の基層に入っていくことも重要なので、徳盟網は、それをおこないたいと述べています。

 このHPは、様々なひどい暴力や性暴力、腐敗があることを示しています。

 しかし、おおむね雑多な記事を寄せ集めているだけのようで、この組織の社会的実践を示す文はほとんど掲載されていません。掲げている理念も、「人権」や「性暴力反対」ではなく、「正しい価値観、愛情婚姻観、人生事業観」などであり(5)、今のところ、それほど意味のある動きのようには思えません。このHPには春風ネットからもリンクされているところを見ると、べつに怪しげな団体ではないとは思いますが、今後、様子を見ていきたいと思います。

(1)周湘「我們用愛関注──深港関注性暴力団体交流活動側記」(2008-5-4)春風網
(2)伍慧玲 陸福興「関注農村留守女童的性安全問題」(2007-8-25)湖南社会学HP
(3)2003年5月29日付けの『中国婦女報』が「本期主題:譲校園遠離性侵犯」という特集を組んでいます。特集の中の記事を見ると、編者「給児童一個安全的環境」は、学校の管理者や管理機構自身の責任が問われていないことを問題にしています。于懐清「他們為什麼選択沈黙-訪青少年法律援助与研究中心主任 麗華」という記事の中では、麗華さんは、未成年者に対する二次被害を防ぐ法的規定がないことや、刑事事件に付帯する民事訴訟では、精神的損失に対する民事賠償が認められていないこと、司法実践において児童の証言が重視されていないことを批判しています。また、梁洪波・于懐清「観念滞后 自我保護弱 反映了――教育的缺位」という記事は、性教育の立ち遅れによる学生の自己保護の弱さ、中国の「師を尊ぶ」伝統、教師に対する評価が成績の向上だ担っていること、教員採用の際のルーズさ、学校が臭いものにふたをして密かにけりをつけることを指摘しています。さらに、金正「用制度做保障」は、台湾では、学校にセクハラ・性侵犯処理委員会を設けるように規定していることなどを紹介して、そうした制度的な保障が必要であると主張します。舟子「她們需要平等接納」は、事件が発覚した後、被害者にとって学校生活が重荷になって、家族とともに引っ越さざるを得なくなる状況があることを指摘し、被害者を平等に受け入れるべきことを述べています。
 春風網にも、「校園性侵犯的深層思考」(2006-9-17)、「女生為何頻遭教師性侵犯」(2008-12-15)などの文がありますが、『中国婦女報』の特集をあまり超えていないように思います。
(4)「針対多起教師強奸学生悪性案件,教育部等三部門提出 教師性犯罪校長要負責」『中国婦女報』2003年8月6日。
(5)上の「公開状」や徳盟網の「私たちについて(関于我們)」のページには、「徳盟網は、民族の自強してやまない精神を発揚し、党の改革開放政策を堅持し、社会主義の新しい時代の正しい価値観、愛情婚姻観、人生事業観を宣伝し、啓発・教育と戒め・懲罰の両方の手段に基づいて、校内の学生集団の生気はつらつさと潮流の色合い(?)をきわだたせ、実在の人間と実際にあった出来事を戒めとし、歴史を鑑とし、事の道理によって人を啓発し、インターネットを宣伝教育の場とし、社会に向かって進み、農村と末端に向けて進む」と書かれています。
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「長沙市反DV男性参与行動グループ」設立

 2月22日、湖南省長沙市で「長沙市反DV男性参与行動グループ(長沙市反家暴男性参与行動小組)」が設立されました。

 長沙市は1996年に「DVの予防と制止に関する若干の規定」(中共長沙市委辨公庁 長沙市人民政府「関于預防和制止家庭暴力的若干規定」)を作成した市です。この規定は、地方政府が最初に出した反DVの規範的文書[規範性文件](法律ではないが、各クラスの機関や団体が発布する制約力のある文書)であり、長沙市は早くからDV問題に取り組んできた市だと言えます。

 今年の2月3日、長沙市婦連は、DV反対のための男性のボランティアを募集しました(1)。30名の応募があり、長沙市婦連は、その中から17名を選出するとともに、DV反対活動の経験が豊富な女性3名を特別にグループに招請して、計20名で「長沙市反DV男性参与行動グループ」を設立しました。

 このグループは、今後、DV防止に男性が参与する道筋や方法を探索し、ジェンダー意識を広め、DVに反対する活動をおこなうということです。そのメンバーには、司法・行政機関の幹部、地域コミュニティ組織(社区)の幹部、弁護士、メディア関係者、大学の教員・学生、ソーシャルワーカーが含まれています。長沙市婦連は、彼らの持つ社会的なリソースや職業的特徴に期待しているとも報じられています。

 設立大会では、メンバーは口々に決意を述べました。たとえば、ある定年退職後の男性は、自作の「暴力をいさめる歌」を披露しました。また、ある地域コミュイティ組織(社区)の幹部の男性は、自らの経験から、警察に通報するだけでは限界があることを語り、「加害者の多くは男性だから、男性の方が意思疎通がしやすい」と述べました(以上、(2))。

 設立大会の後、メンバーに対して、中国法学会DV反対ネットワークの馮艶代表が研修をおこないました。馮艶さんがメンバーに「ジェンダーと男性性」「ジェンダーと暴力」「男性の反DVにおける役割と責任」や団体としての活動についてプレーンストーミングをおこない、メンバーは今後のグループの活動について議論しました(3)

 中国でも、これまで男性のDV反対の活動がなかったわけではありません。

 そうした活動は、以下のように、主に「ホワイトリボン運動(“白絲帯”活動、1991年にカナダで始まった国際的な男性の反DV運動)」の名の下におこなわれてきました。

 ・中国におけるホワイトリボン運動の最初の活動だと言われているのは、2001年2月、武漢市で百名近い男性が、武漢大学の社会学研究所の所長・周運清教授と全国婦連権益部長・丁露さんのDVについての講義を聴いたことです(4)。これが「ホワイトリボン運動」だと言うのは少し奇妙な感じですが、丁露さんは、取材に対して、「国外のホワイトリボン運動は男性公民の自発的な活動で、下から上へと展開したが、中国では、各面の条件の制限のために、ホワイトリボンの宣伝普及工作は、上から下への形式を取るしかなかった」と述べています(5)

 ・2002年10月には、河北省婦連がおこなった全省女性法律サービス(援助)機構基幹弁護士養成クラスにおいて、弁護士としてDV事件にかかわって、女性の苦しみを知った24名の男性弁護士が、ホワイトリボン運動を起こしました。彼らは「いかなる時、いかなる情況においても、いかなる家族のメンバーに対しても暴力をふるわない」「DVを予防・制止する行動に積極的に参加しよう」「DVの被害者の女性に対して援助の手を差し伸べよう」という呼びかけをし、自らもそう誓約しました(6)

 ・河北省では、同年11月25日に婦連の幹部と訓練を受けた弁護士が積極的に参与して、ホワイトリボン運動の高まりを起こしたといいます。具体的には、全省の11の市と130の県(市・区)、155の郷鎮、4大学の11万人が同時に大規模な署名活動をし、3.3万人が「DVの予防と制止は私から始める」という横断幕に自分の名前を署名し、そのうち2.8万は男性でした(7)。また、河北省政法幹部学院の大学生2000人余りが、「DV反対、家庭文明の提唱」を誓う儀式をしました(8)

 ・2002年11月には、北京で、30名余りの男性によって「女性に対する暴力に反対し、ジェンダー平等を促進する」男性ボランティアグループが設立されました。このグループも白いリボンを身に着けて、それまでのホワイトリボン運動と同様に、「女性に対する、いかなる形の暴力にも反対する」「女性に対してけっして暴力をふるわず、女性に対する暴力にけっして黙っていない」「暴力、とくにDVを受けている女性に対して援助をすることに最大限の努力する」「女性に対する暴力をなくし、ジェンダー平等を促進するために、自分がやるべきことを積極的にする」という提唱と誓約をしました。このグループのメンバーは、中国法学会DV反対ネットワークや婦連が反DV活動をしていた右安門街道の機関の幹部や住民、医者、大学教師、法律・メディア関係者でした。彼らは、「ジェンダー研修」を受けて、女性に対する暴力反対の宣伝の任務についたといいます(9)。しかし、このグループは、その後はほとんど活動していない(10)と指摘されています。

 以上から見ると、これまでの中国の男性のDV反対活動は、全体としては、婦連のイニシアがかなり強かったと言えます。また、その活動内容も、署名や誓約をすることによる決意表明や呼びかけが主で、グループとしては継続的な活動はしていないようです。

 今回結成された「長沙市反DV男性参与行動グループ」も、もともとは婦連の呼び掛けによるものです。自発的にボランティアを志願した人々ではありますが、社会的影響力が強い職業に就いている人が多い点は、2002年11月に北京で結成された男性ボランティアグループに近いようにも見えます。

 ただし、今回、長沙市婦連は、これまでの男性の反DVのボランティア組織が「持続性と行動力が普遍的に欠けていたという問題」があったことを認識しており、昨年の末から準備をすすめていました(11)。長沙市の今回のグループは、「ホワイトリボン運動」という形をとっておらず、何項目かの「提唱」や「誓約」「署名」をするということ形式もとっていませんので、これで終わりになることはないでしょう。また、活動経験のある女性3名をグループに含めており、研修の内容も今後の活動を含めたものなので、今後も、グループとしての活動がある程度期待できるように思います。

(1)長沙首招男性反家暴志願者 2月5日前報名」『長沙晩報』2009年2月4日。
(2)全国首個反家暴男性参与行動小組長沙成立」『長沙晩報』2009年2月23日、「反家暴“男性別働隊”成立」『瀟湘晨報』2009年2月23日、「男性反家暴志願者隊伍在長亮相」『湖南日報』2009年2月23日、「長沙市婦聯成立反家暴男性参与行動小組」(長沙市婦聯権益部)2009-2-23(中国法学会反対家庭暴力網絡HP)、「我市家暴男性参与行動小組成立会図片新聞」2009-2-23我們婦女網(長沙市婦聯HP)[←写真多数]
(3)長沙市反家暴男性参与行動小組培訓影像」(長沙市婦聯権益部)2009-2-24(中国法学会反対家庭暴力網絡HP)[←写真多数]
(4)「聯合国“白絲帯”活動在武漢首次開課 百名男性聴反家庭暴力課」『中国婦女報』2001年2月17日。
(5)譲“白絲帯”永遠飄起来 全国婦聯与聯合国婦女基金会聯手宣伝反家庭暴力」『北京青年報』2001年3月8日。
(6)河北省婦聯権益部「河北省婦聯組織“白絲帯”活動」『項目通訊』第14期
(7)河北省婦聯権益部「促進地方立法」『項目通訊』第20期
(8)倡揚家庭文明 反対家庭暴力――河北各界群衆・大学生加入“白絲帯”活動」『項目通訊』第15期。
(9)30名好丈夫佩上白絲帯 我国首個反家暴男性志願小組在京成立」『京華時報』2002年11月30日(人民網)、「“反対針対婦女的暴力,促進社会性別平等”男性志願小組倡議書」『項目通訊』第15期。
(10)方剛『男性研究与男性運動』(山東人民出版社 2008年)174頁。
(11)男性参与反家暴的現実和期待」2009-2-14(長沙市婦聯網站)(中国法学会反対家庭暴力網絡HP)
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