2007-09

就労促進法の成立、雇用差別研究の発展

 8月25日、全国人民代表大会(全人代)常務委員会で「就労促進法」草案の第3回目の審議がおこなわれ、同月30日、同草案は採択され成立しました(施行は2008年8月。「中華人民共和国就業促進法」)。
 (中国で法律の制定をするのは全人代ですが、特に重要な法律でないかぎり、その常務委員会で審議・採択するだけで成立する場合が多いです。)

 この就労促進法については、全人代常務委員会が草案を公表して社会各界から意見を求めたこともあって、このブログでも以前、2回取り上げました(「就労促進法(草案)の差別禁止規定の不十分さに批判あいつぐ」「就労促進法、労働契約法その後」)。
 前回までの審議の結果、「公平な就労」という章が新設されるという修正がすでにおこなわれていますが、今回の常務委員会の審議でも幾つかの修正がなされたようです。
 たとえば男女平等に関しては、常務委員会の楊偉程委員から、採用の際の女性差別の禁止にくわえて「『すでに就労している女性に対して、使用者は出産を理由にして解雇や契約解除、労働契約の終了をすることはできない』という規定を入れるべきだ」という意見が出ました。
 この意見と関係があるかどうかわかりませんが、採択された法案には、「使用者は女性を採用する際、労働契約において女性労働者の結婚・出産を制限する内容の規定をしてはならない」(27条)という規定が入りました。

 しかし、今回の審議で出された意見には、取り入れられなかったものも多かったです。
 たとえば、「公平な就労」の章には、性差別や伝染病差別、障害者差別を禁止する規定があるのですが、王祖訓委員や王学萍委員は「身体や戸籍、地域による差別も禁止すべきだ」という意見を出しました。さらに李明豫委員は「職務能力と関係のない付加条件は、みな就労差別と見なすべきだ」と述べました。
 また、この法律の31条は「農村労働者は、都市に行って就労する際、都市の労働者と平等な労働の権利を有しており、農村労働者の都市での就労に対して差別的な制限を設けてはならない」と規定しています。
 しかし、路明委員は、このような規定は「具体的でなく、不十分だ」と批判し、「同一労働同一賃金」という規定を入れるべきだと主張していました(以上は(1))。
 以上のような意見は取り入れられませんでした。

 もちろん、この就労促進法を評価する意見もあります。
 たとえば、上の「農村労働者の都市での就労に対して差別的な制限を設けてはならない」という規定に関しても、これまでにない規定であるとして評価する意見もあります。
 また、今回の審議では、多くの委員から、「『使用者が差別したらどのようにして、どんな法律的な責任を負わなければならないか』ということを明確にしなければならない」という意見が出ました。
 この点については、法案の修正の過程で、「本法の規定に違反して就労差別をした場合、労働者は人民法院に訴訟を提起できる」(62条)という規定が追加されました。この条項について、「今までは女性が雇用差別されても訴訟を起こすことができなかったけれども(筆者注:たしかに女性の雇用差別訴訟は、裁判所が受理しない場合が多いというふうに言われています)、この条項によって訴訟を起こすことができるようになった」という見解もあります(2)
 ただし、すでに婦女権益保障法の52条にも「女性の合法的権益が侵害されたら‥‥人民法院に訴訟を提起できる」という規定はあるので、この規定とどう効力が異なるのか、私にはよくわかりません。

 いずれにしろ、結局のところ、この法律の評価は今後の実際の運用しだい、という面があるでしょう。

 上でも書いたように、今年3月、全人代常務委員会は、就労促進法の草案に対して社会公衆から意見を求めたのですが、寄せられた意見の2/3は、「公平な就労」に対するものだったとのことです(3)。それが、「公平な就労」の章の新設にもつながったのでしょう。マスコミの報道が最も多いのも「公平な就労」という点です。
 就労の公平さの問題に関しては、研究も急速に盛んになり、昨年、李薇薇・Lisa Stearns主編『就労差別の禁止:国際基準と国内の実践(禁止就業歧視:国際標準和国内実践)』(法律出版社 2006年)出版されたことはすでにこのブログでもお伝えしました(「国際基準を踏まえて中国のさまざまな雇用差別を論じた書」)。
 さらにこの8月末には、蔡定剣主編『中国の就労差別の現状と反差別の対策(中国就業歧視現状及反歧視対策)』(中国社会科学出版社 2007年)ネット書店「書虫」データベースの中のこの本のデータ)という本が、この8月に出版されました。
 この本は、このブログの4月15日付記事でお伝えした中国政法大学憲政研究所とオランダのユトレヒト大学による「反就労差別協力プロジェクト」の成果の報告であり、550ページあまりある分厚い本です。
 中国の雇用差別に関する調査研究としては、おそらく最もまとまったものだと思います。

第一部分 反就労差別の総合的研究報告(蔡定剣)
第二部分 女性就労差別の現状調査報告(王新宇)
第三部分 就労における健康差別の研究報告(劉揚)
第四部分 障害者差別の研究報告(馬玉娥)
第五部分 就労における身分差別の研究報告──戸籍と地域の視点に基づいて(姚国建)
第六部分 農民労働者の就労差別の状況報告──一種の身分に基づく差別(林燕玲)
第七部分 就労の年齢差別の研究報告(薜小建)
第八部分 労働者の就労における若干の差別問題の研究(馮同慶)
第九部分 教育領域の反差別の研究(張呂好)
第十部分 政治領域の反差別の研究報告(焦洪昌)
第十一部分 社会公共領域の差別の研究報告(于明瀟)
第十二部分 就労差別に対する行政法規・規則[規章]の整理[清理]報告(劉辛)
第十三部分 就労差別に対する地方的法規の整理報告(武増)

(1)「就業促進法草案拡大反就業歧視範疇」中国性別与法律網2007-8-28
(2)「《就業促進法》:平等就業的法律保障」中国性別与法律網2007-9-24
(3)「消除就業歧視還是要靠法律来解決」中国性別与法律網2007-9-17
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「館長雇止め・バックラッシュ裁判」で不当判決

 9月12日、館長雇止め・バックラッシュ裁判(原告・三井マリ子さん)の判決が大阪地裁でありました。
 「原告の請求をいずれも棄却する」──原告の全面敗訴でした。
 三井さんと弁護団は、それぞれ以下の声明を出しました。
 ・三井マリ子「不当判決」
 ・弁護士一同「きわめて不当な判決」

 私は、判決の前に数日間かけて、6月の結審の際に提出された「原告最終準備書面」をもう一度読み直して、詳しい要約を作ってみていました。
 今回、それを私のHPにupしました(「最終準備書面要旨・詳細版」)。あらすじをつかむには、私が6月にこのブログで書いたより簡単な要約のほうがわかりやすいと思いますけれども、今回の「詳細版」のほうが詳細ですし、1、(1)、ア、(ア)などの数字や符号が原文と合致するように要約しましたので、原文と照らし合わせるには便利です。

 原告最終準備書面は、多くの資料を駆使した大変な力作であり、立証も緻密におこなわれています。もちろん直接的な証拠がないために、間接証拠や情況証拠の積み重ねで立証している箇所もありますから、そうした箇所を裁判官がどう判断するだろうかという不安はありました。
 けれど、「全面敗訴はないだろう」と思っていましたので、いささかショックでした。
 弁護士さんの解説を聞くと(遠山日出也「不当判決:市民感覚との大きなズレ」に詳しく書きました)、やはり、原告側にほぼ不可能に立証責任を課している箇所があるようです。また、最終準備書面の内容を理解せずに書いたり、「結論先にありき」で書いたりしている箇所もあるように感じました。

 けれど、今回、こうした緻密な最終準備書面を作成したことは、けっして無駄ではなかったと思います。
 第一に、それ自体が、今後、今回の事件の最も重要な資料の一つになるだろうと考えられるからです。
 第二に、上の弁護士さんの解説を読んでいただければわかるように、今回の判決も、原告側が主張したさまざまな事実自体については認めた箇所が少なくないからです。ただ、それを「慰謝料を課すほどの違法性はなかった」などといった議論でごまかしているだけです。だから、こうした点は、今後の裁判で使っていけるだろうということを弁護士さんもおっしゃっていました。

 今回、とにかく一審が終わったので、私のHPの中に「館長雇止め・バックラッシュ裁判」専用のページを作って、この裁判の基本資料や私の文のリンクなどを一箇所にまとめました。
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台湾女性研究論壇(フォーラム)のお知らせ

[関西中国女性史研究会・野村鮎子代表より]
 本研究会では、目下、台湾のジェンダー研究者との共同研究による「台湾女性史とジェンダー主流化戦略に関する基礎的研究」(研究代表者:成田靜香、基盤研究B)を進めています。そこで今秋、台湾側のカウンター・パートナーである女性研究者を招聘し、それぞれの専門分野から「台湾女性」を考えるという催しを企画いたしました。「台湾女性の今」を知る絶好の機会です。
 時間の関係で、当日、報告に通訳はつきませんが、報告内容は日本語に翻訳して当日配布いたしますし、解説・コメンテーターの発言も日本語の予定です。研究会では、専門以外の方にもできるだけたくさんご参加いただきたいと考えています。
 なお、10月11月とも終了後には、懇親会を予定しています。

*台湾女性研究10月論壇

日時:2007年10月14日(日)13:30~18:00(受付13:00)
会場:同志社大学室町キャンパス寒梅館6階会議室(京都市営地下鉄今出川下車、北へ3分)地図
報告「サバルタンの女性史研究の問題について――サバルタンの発話する空間をいかにして生み出すか?台湾現代女性ドキュメンタリー『失われた王国―拱楽社』を例に」
*先にドキュメンタリー『失われた王国―拱楽社』(98分)を見て、その後、報告にうつります。
 講師:邱貴芬(清華大学台湾文学研究所教授)
  解説・コメンテーター:田村容子(早稲田大学演劇博物館助手)

*台湾女性研究11月論壇

日時:2007年11月10日(土)13:30~18:00(受付13:00)
会場:関西学院大学梅田キャンパス「アプローズタワー 受付14階」使用教室は10階1003(阪急梅田茶屋町口から北へすぐ、ホテル阪急インターナショナルや梅田芸術劇場が入っているビル)地図
報告Ⅰ「台湾女性と婚姻・家庭」の視点から
 講師:陳昭如(台湾大学法律系助理教授)
  解説・コメンテーター:林香奈(京都府立大学文学部准教授)
報告Ⅱ「台湾女性と労働」の視点から
 講師:張晋芬(中央研究院社会学研究所研究員)
  解説・コメンテーター:大平幸代(関西学院大学法学部准教授)
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市婦連の主席のブログ

 河南省平頂山市の婦女連合会(婦連)の主席は、婦連の活動の中で思ったこと、感じたことをつづるブログを今年の2月から始めました(「主席博客」)。
 婦連の幹部がブログをやるのは異例です。ブログを開始した際のコメント欄にも「政治に携わる女性が公開のブログを設置するのは、勇気が必要だ」というコメントが寄せられました。

 このブログ主は、単に婦連の公式見解を述べるのではなく、婦連の主席として、男女平等のために何ができるかをまじめに考えています。
 たとえば、「婦女節(国際女性デー)」に関して、当日の婦連の活動について、「一つの儀式や、幾枚かの掲示板、一回の活動では問題を解決しきれない」と思っていろいろ悩んだり(「関于“三八”活動」)、商業活動で「婦女節」を「女人節」と言っているのを聞いて、「『婦女節』というのは、『三八国際労働婦女節』の略称のはずなのに、『女人節』と言うと、女っぽいニュアンスだ」と違和感を感じたりしています(「婦女節──女人節?」)。

 とくに興味深いのが、「ジェンダー理論訓練クラス(性別理論培訓班)」に参加したときの「訓練記録」です。こうした訓練クラスの記録は他にもありますが、私が見た中では、このブログの記録がいちばん詳細です。

 この訓練クラスがどういう経緯で開催されたのかはよくわかりませんが、市の婦連の幹部・執行委員、市の党委員会の教師、ジャーナリストなど50人が参加し、2006年11月24日から11月26日までおこなわれました。
 ファシリテイター(協作者)は、王雪萍、陳建華、董琳、喬香萍の各氏で、みな河南省婦女幹部学校の教員ですが、董琳さんは、河南社区教育中心(河南コミュニティ教育センター)というNGOの研修部の責任者でもあるようです。

 この訓練クラスは、講義形式ではなく、参加者が主体的に参与する形でおこなわれました。
 たとえば、24日の午後は、グループどうしで討論をしました(「性別理論培訓班(培訓記録)(二)」)。この日は、「指導者がよく言うセリフである」、「女性の資質[素質]を向上させることが、男女平等を実現するカギだ」ということについて、「同意」「反対」「中立」の3つのグループに分かれて討論しました。
 「同意」するグループは、人数が比較的少なく、かつ男性でした。「反対」するグループの人数が多く、このグループの人々は、「男女不平等を引き起こしている真の原因は社会の主導的地位にいる男性であり、けっして女性ではない」といった意見を出します。
 また、現実の政策についても討論がおこなわれました。たとえば、(改革開放以後)第二回目の農村の土地請負政策で「土地の請け負いは30年間変えない」と規定していることに対して、参加者からは「農民の土地に対する投資を刺激するためなので、広範な農民の利益を考えている」という声が出ます。それに対してファシリテイターは、「こうした政策では、農村の女性は離婚したら土地を失うので、暴力を振るわれても離婚できない」ということを説明しました。

 25日の午前中は、ジェンダーのメカニズムについての議論がなされます。ここでは、たとえば「伝統的なジェンダーの男性に対するマイナスの影響は何か」を話し合う中から、「ジェンダー平等を推進することは、男性を敵とするものではない」という認識を多くの人が獲得します(「性別理論培訓班(培訓記録)(三)」)。

 25日の午後には、婦連の活動や労働組合の女性労働者に対する活動について議論しています(「性別理論培訓班(培訓記録)(四)」)。
 ここでは、舅・姑に尽くし、夫や子ども助ける「良いお嫁さん(好媳婦)」を、婦連や労働組合が表彰していることが議論になりました。
 ファシリテイターは、「その基準は何だろうか?」とか、「女性の家庭役割を表彰しているのではないか?」と問いかけます。
 それに対して参加者は言います。「婦連は女性の創業や就労の援助もおこなっている」。また、「婦連は『力が思うにまかせず』、社会的な大きな環境の政策の影響を受けている。大衆組織は伝統的な男性統治の制約を受けていて、必ず党の中心的活動をめぐって活動しなければならず、いかんともしがたい時がある」、「党委員会や政府に婦連の活動を支持させようとすれば、必ず党委員会と政府の活動と符合した活動をしなければならず、そうして初めて認可される」という事情も語られました。
 それでもファシリテイターは言います。「双学双比(女性が基礎的教養を学び、科学技術を学び、発展を比べ、貢献を比べる活動)と五好家庭(尊老愛幼、男女平等、夫婦和睦、勤倹持家、鄰里団結‥筆者注:尊老愛幼、夫婦和睦、勤倹持家などの点で実際上は女性役割が強調される)の選出――この二つをすることは、一方で女性の社会的参与と社会的責任を重視しつつ、もう一方で女性の伝統的役割を強調することである。私たちがこのようにすることは、女性の人生の負担を重くしていないだろうか?」

 訓練の最後(26日午前)には、各人がジェンダー平等を推進するための行動計画を立てました(「性別理論培訓班(培訓記録)(五)」)。
 たとえば、婦連の主席は、次のような計画を立てました。
 (1)ジェンダー平等の理論および関連の講座を党の学校のカリキュラムに入れる。
 (2)女性の政治参加を推進する活動を強める。
 (3)講師団を組織して、ジェンダー理論を宣伝する。
 (4)女性の人権のための集まりをして、捨てられた女児や土地を失った女性、暴力を振るわれて自殺した女性の問題を通じて、伝統的なジェンダー規範を告発する。
 (5)「五好文明家庭」創建活動を改善し、男性の家事分担を宣伝したり、優れた母親だけでなく優れた父親も表彰したりする。
 (6)「男性解放サロン」の設立を助ける。
 それらに対して、みんなで議論します。たとえば(1)については、「党の学校は容易に受け入れないだろう」とか、「指導部に宣伝することが必要だ」「講師を養成することが必要だ」とか。

 また、個人として、「夫に家事を分担させる」などの計画を立てた人もいました。

 以上からわかるように、この訓練クラスは、抽象的なジェンダー論を勉強するようなものではなく、現実の政策や婦連の活動を検討し、変革することを狙いにしています。もちろん、こうした訓練クラスが可能なのは、さまざまな条件があるごく一部の婦連なのでしょうが‥‥。

 では、上で立てた計画は、その後どの程度実行できたのでしょうか?
 平頂山市の婦連のホームページで見るかぎり、具体的な婦連の活動はあまり変わっていないようです。相変わらず「良いお嫁さん(好媳婦)」のコンクールもやっています(「市“十佳好媳婦”評選活動掲曉」)。もちろん党からの制約もあるでしょうし、「十佳好媳婦」のサイト(専用のサイトまである。「2006鷹城“十佳好媳婦”評選」)を見ると、多くのマスコミも関わっているので、そうした問題もあるのかもしれません。
 けれど、婦連のホームページに「ジェンダー理論」と「男性解放サロン」という2つのコーナーが設置された点は、変化です。これらのコーナーは、内容的には、既成の議論の紹介が主ですが(たとえば方剛さんの本からの抜粋)、こうしたコーナーは、他の婦連のホームページにはほとんど見られないものです。
 また、婦連の主席が今年2月からこうしたブログを始めたのも、もしかすると、この訓練の影響かもしれません。 
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女性労働者の権益保護の理論と実践の書

北京大学法学院女性法律研究・サービスセンター編『中国女性労働権益保護の理論と実践──法律援助と公益訴訟の視角から(北京大学法学院婦女法律研究与服務中心編『中国婦女労動権益保護理論与実践──从法律援助和公益訴訟的視角』)(北京人民公安大学出版社 2006年)(ネット書店「書虫」データベースの中のこの本のデータ

 北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターは1995年に設立されたNGOで、すでに多くの本を出版しています(センターの出版物)。
 この本は、2005年4月から1年間にわたって、ECの小型人権プロジェクトの資金援助を得ておこなわれた「女性労働権益公益援助プロジェクト」の成果の一つです。

 「実践編」と「理論編」に分かれていますが、「実践編」が本全体の2/3近くを占めており、この本の特色になっています。

 「実践編」の最初の「女性労働権益法律援助プロジェクトに関する総括的報告」(李瑩)では、このプロジェクトでは、以下のようなことをしたと述べられています。
 (1)女性労働権益専門工作組の設置。一つのNGOだけではできることに限界がある。そこで学術界や実務部門、メディアなどの30近い組織やその会員から構成された女性労働権益専門工作組を組織した。この工作組は、プロジェクトの宣伝や立法活動をする際、重要な役割を果たした。
 (2)訴訟の援助。職場の性差別やセクハラなど、15件の訴訟に取り組んだ(和解と勝訴が計8件、敗訴3件、残りの4件は審理中)。
 内容は、職場の性差別が7件(夫の転出による労働契約の解除、妊娠による解雇、妊娠による不当配転、定年退職[定年差別])、職場のセクハラが2件、その他に労災、労務輸出、職業病など。
 (3)法律相談。のべ4600人あまりの女性に相談に応じた。相談に来た女性の多くは、国有企業でリストラ・レイオフにあった女性や、農村からの出稼ぎの労働者だった。相談の内容としては、労働契約や賃金、労災の問題が多かった。
 (4)法律の研修。農家女実用技能訓練学校で、農村からの出稼ぎの女性労働者に労働法やセクハラへの対処について教えた。また、北京市の海淀区の婦女連合会(婦連)では、労働組合や婦連の関係者に研修をおこなった。
 (5)シンポジウムやフォーラムの開催。このうち、論じられることが比較的少ないテーマで開催されたものを以下に挙げてみると──
 配偶権と平等な就業権。夫婦が同じ職場で働いている場合、夫が職場の外に出て行くと、妻の労働契約が解除されることが大学や科学研究機構、大企業でしばしば起こっている。この問題について。
 国外派遣女性労働者。改革開放後、海外への労働力の派遣が拡大した。しかし、2005年、モーリシャス(アフリカ最大の中国の労務派遣国)に派遣された女性労働者から、仲介企業にだまされ、多くの費用を払って行ったのに劣悪な労働条件で、低賃金で、休日もないという訴えがセンターに寄せられた。こうした問題について。
 職員と労働者の身分と定年。定年については男女差別があるが、それだけでなく、職員と労働者との間にも差別がある(男性は60歳だが、女性は、職員の場合は55歳、労働者の場合は50歳)。では、職員と労働者の区別はどうやって決めるのか? この問題と男女の定年差別との関係は?
 (6)ホームページの設置。→「婦女労動権益公益法律援助項目網頁」(現在は消失?)
 (7)女性労働権益保護社区(コミュニティ)の設立。北京市の昌平区と海淀区に、農家女実用技能訓練学校と海淀区婦連の協力を得て設立した。こうした社区を設ける目的は末端の管理者の意識を変えることにあり、この2つの社区では、労働行政部門や裁判所、労働組合などの参加も得て、出稼ぎ労働者や企業、管理者の研修もおこなった。
 (8)立法の提案や違憲審査の提出。婦女権益保障法と労働法に関する提案をおこなったり、男女の定年差別の違憲審査請求をおこなったりした(このことは、昨年の8月、このブログでも取り上げました)。

 次の「女性労働権益保護調査情況」(王竹青・蘇黄菊)が載っていて、その次に、センターが扱った上の訴訟15件すべての報告が一件一件、掲載されています。
 さらに、さまざまな階層と職業、地域の女性労働者へのインタビュー10件も掲載されています。

 「理論編」では、以下の論文が掲載されています。
 「出産女性の平等な労働権の保護および出産保障制度の探求」(葉静漪・張楠茜)
 「雇用の性差別の問題に関する立法の思考」(馮建倉)
 「国際人権条約の視野の下の女性の労働権の問題の研究」(馮建倉)
 「わが国の女性の雇用の法律的保障の探究」(李婉平 石雁)
 「社会保険制度の中の女性に対する差別の解消」(劉明輝)
 「中国の家事サービス業の法律問題の研究」(王竹青)
 「職場の性差別と公益訴訟による救済」(李瑩)
 「ジェンダーと女性の労働権益の保障」(張帥)
 「女性の出産権と労働権の衝突とバランス」(石雁 李婉平)

 以上の中からひとつ、王竹青さんの「中国の家事サービス業の法律問題の研究」の内容をを以下で紹介してみます。

 2001年に労働と社会保障部がおこなった上海・天津・重慶・瀋陽・南京・厦門・南昌・武漢の調査では、9つの都市の家事サービス労働者は合計23.96万人で、そのうち男性は14.9%、女性は85.1%だった。都市の者が56.1%(レイオフされた人が63.7%、定年退職した人が36.3%)、農村からの出稼ぎが43.9%である。

 家事サービス業のシステムには、(1)従業員制(員工制)、(2)会員制、(3)仲介制の3種類がある。(1)の従業員制は、家事サービス員が家事サービス会社の社員になるやり方で、従業員や雇い主に対する会社の責任が比較的はっきりしている。(2)の会員制は、会社は、家事サービス員に訓練はするが、賃金は雇い主から家事サービス員に直接支払われる。(3)の仲介制は、紹介料を取るだけで会社は何の責任も負わない。

 家事サービス員は学歴は低く、初級中学以下が多い(北京67.7%、上海72.4%、合肥81.9%)。賃金は低く、たとえば北京では市民の平均収入は年間15637.8元、消費支出は122000.4元だが、家事サービス員の60%は収入が6000~8400元の間である。住み込みの場合は食・住の費用は雇い主が持つとはいえ、低収入である。労働時間も約50%は10時間前後であり、長時間労働である。また、職業訓練も費用が自己負担である場合が少なくない。

 政府の政策にも以下のような問題がある。
 一、家事サービス員には労働法が適用されない。最高人民法院の「労働争議事件を審理する際の法律の適用に関する若干の問題の解釈」では、家庭または個人と家事サービス員との間の紛争は労働法を適用しないとしており、これでは、(2)の会員制や(3)仲介制の家事サービス員には労働法が適用されないことになる。さらに、(1)の従業員制の家事サービス員も、労働時間の面などで労働法の適用は難しく、労働部の「『中華人民共和国労働法』の貫徹執行に関する若干の意見」で、家事サービス員には労働法を適用しないと規定している。
 二、農村戸籍の家事サービス員は都市の社会保障システムに入れない。住み込みの家事サービス員はみな農民戸籍だが、第一に、まだ農民労働者の社会保険に関する全国的な法規はなく、地方的な法規も不十分なものでしかない。第二に、家事サービス員に関しては、そうした地方的な法規の一つである「北京市農民労働者養老保険暫定規則」でも、適用外とされており、他の市でも同じである。

 家政サービス業に対する需要は増大しているのに、家事サービスの人員は減少しつつある。その主な原因は、家事サービス員に対する法律や社会保障が不十分なことにある。だから、上のような問題を立法によって解決べきである。たとえば、労働時間や休憩時間の労働法の規定が家事サービス員に対して労働法の適用が難しいという問題に関しては、労働法には普遍的な意義があるのだから、労働法の中に一章を設けて家事サービス員の労働時間や休憩時間に関して規定するなどした上で、家事サービス員にも労働法を適用すべきである。
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 また、「中国女性・ジェンダー関係リンク集」(リンク集)も併せてご覧いただければ幸いです。
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 私への連絡はtooyama9011あっとまーくyahoo.co.jpまで。

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